これ以上龍気活性してしまうと、あたしはバルファルクになってしまう   作:ハリー・ルイス博士

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ストック尽きたので、不定期更新です。


#20 ミッドナイト・ミステイク

 

 救助訓練から1週間と少し。

 体育祭の前とは言え、通常授業は続く。

 

 それでもヒーロー科の生徒たちは、隙間時間を縫って鍛錬に勤しんだ。

 少しでも、体育祭で良い成績を残すために。

 少しでも、ヒーローの夢に近づくために。

 

 準備期間は瞬く間に過ぎ去り……──

 

 

 

──雄英体育祭、本番当日。

 

 生徒たちはそれぞれの教室の控え室で、出番を待っていた。

 

「コスチューム、着たかったなー」

「公平を期すため、着用不可なんだよ」

「あたしは着用禁止でラッキーだったけど。まだ、コスチューム届いてないし」

「えっ?! あれからまだ修理中なん?」

 

 コスチューム会社の過失、というポリティカルな単語がお茶子の頭に浮かんだ。

 

「修理じゃなくて、新調。USJでデザインとかも組み直しだからねー」

「あ、そっか。天彗ちゃん、色々変わっとるしね」

 

 真相は、天彗の個性の覚醒に伴う、大幅な仕様変更によるものだ。

 向こうからの連絡によると、インターンの時期には間に合うらしいが。コンセプトから何からほぼ作り直しだというのにその早さは、むしろ超特急ということもできそうである。

 

「ウチもUSJでの反省生かしてマイナーチェンジしたよ。てか思い出したけど上鳴、アンタまだ要望出してないとか言わないよね?」

「いや! なんつうか。一応連絡取ったり取らなかったり……」

 

 いつも通りの会話をしているような生徒たち。しかし、その多くは実は緊張を和らげるために会話を交わしているのだった。

 

 

「みんな──っ!! 準備は出来てるか!? もうじき入場だ!!」

 

 雑談が捗るA組控え室にやたら気合の入った速歩きで来た、委員長の飯田が留意を促す。

 

 

 そんな飯田も無視して、普段物静かな轟が、関わりも薄い緑谷に口を開いた。

 

「客観的に見ても、実力は俺の方が上だと思う」

 

「(唐突な上宣言とか草)」

 

 A組ヒーロー科の生徒たちはかすかに轟に非難の眼差しを向けた。

 しかし、そんな眼を気にすることはなく、轟は続ける。

 

「けどおまえ、オールマイトに目ぇかけられてるよな。別にそこ詮索するつもりはねぇが……。おまえには勝つぞ」

 

 緑谷は多くの場面でオールマイトに目をかけられている。

 そのことはA組の生徒たちの誰もが大なり小なり感じている事実だ。

 ただこれまで、そのことをあげつらって喧嘩を売る者は誰もいなかった。特に意味もなく喧嘩を売り続ける者(爆豪)は居たが。

 

 そんな中、それもA組でも全員が全員認める実力者、轟焦凍による宣告に、クラスが湧く。

 

「おお!? クラス最強が宣戦布告!!?」

「急にケンカ腰でどうした!? 直前にやめろって……」

 

 囃し立てる声や、仲裁をしようとする声。

 しかし、それを振り切るように、轟は強い言葉を続ける。

 

「仲良しごっこじゃねぇんだ。何だって良いだろ」

 

 そんな轟に緑谷は俯いてしまった。

 

 しかし、考え込むような素振りを見せた後、口を開く。

 

「轟くんが何を思って僕に勝つって言ってんのかは、わかんないけど……。そりゃ、君の方が上だよ。実力なんて大半の人に敵わないと思う。客観的に見ても」

 

 普段からウジウジとしがちな緑谷を見かねて、仲裁に入った切島が制止しようとした。

 

「緑谷もそーゆー、ネガティブな事言わねえ方が──」

「でもっ!」

 

 そんな切島のお節介を振り切って、緑谷は続ける。

 

「皆、他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ……。僕だって遅れをとるわけには、いかないんだ」

 

 

 緑谷は俯いていた顔を挙げ、しっかりと轟の目を見て言った。

 

「……僕も、本気で獲りに行く!」

 

 

 いつもは腰が引けがちながも、その鋭い洞察力で密かに一目を置かれている緑谷が放った、強い言葉。

 それは図らずともA組のモチベーションに大きな影響を与えていた。

 

 

 

───◇◆◇───

 

 

 

『群がれマスメディア! 今年もおまえらが大好きな高校生たちの青春暴れ馬……雄英体育祭が始まディエビバディ……アーユーレディ!??』

 

 体育祭の開催を盛り上げるプレゼントマイクの、意味がわかるようなわからないような囃し立てが、体育祭スタジアムに響き渡る。

 

 

 そして、入場開始──。

 

『雄英体育祭!! ヒーローの卵たちが、我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!』

 

 最初に紹介されたクラス、それは。

 

『どうせてめーらアレだろ?! こいつらだろ!!? ヴィランの襲撃を受けたにもかかわらず、鋼の精神で乗り越えた。奇跡の新星!!!』

 

『ヒーロー科!! 1年A組だろぉぉ!!?』

 

 

「人の数、すっご。上の階までビッチリじゃん」

「収容人数、12万らしいわ」

「12マン!!? うま○棒1万本分か……」

「それはお金の計算よ、天彗ちゃん」

 

 

『話題性じゃ劣るが、こちらも実力派揃い!! ヒーロー科、1年B組!!! 続いて、普通科C, D, E組! サポート科F, G, H組も来たぞー! 最後は経営科I, J, K組の入場だー!!』

 

 遠くに、媧恋も入場しているのが見える。

 ガチガチに緊張していた。

 

 人が集まると、雑談が始まる。

 ヒーロー科、とくにA組に僻みを持つ生徒らの憎まれ口を制するように。

 1年の主審、全身肌色の極薄タイツにタイトなボンテージというギリギリの格好の女性ヒーロー、ミッドナイトがその手に持つ鞭を振るった。

 

「選手宣誓!!」

 

「ミッドナイト先生、なんちう格好してるんだ!!」

「18禁なのに、高校にいても良いものか?」

「いいっ!!」

 

 その後も続く雑談に、ミッドナイトは再び鞭を振るう。

 

「静かになさい!! 選手代表、1-A爆豪勝己!!」

 

 選手代表は爆豪。ヒーロー科の入試でトップの成績だったからだ。

 朝礼台に爆豪が上がる。

 相変わらずの腰パンと、ポケットに手を突っ込んだスタイルで上がりにくそうだ。

 

 

『せんせー……、俺が1位になる』

 

 

「「「絶対やると思った!!」」」

「調子乗んなよA組オラァ!!」

「なぜ品位を貶めるようなことを──」

 

 非難轟々。

 

「せめて跳ねの良い踏み台になってくれ」

 

 しかし、全く動じることはなく、爆豪は相変わらずの不良スタイルで朝礼台を降りた。

 

 

 爆豪がA組の場所に戻って、聞く準備ができた頃。

 ミッドナイトが予選の内容の発表に移る。

 

「さーて、それじゃあ早速第一種目、いきましょう」

 

 空中に映し出されたホログラムで、ドラムスクロールが始まる。

 

「いわゆる予選よ! 毎年、ここで多くのものがティアドリンク!! 運命の第一種目、今年は……コレ!!」

 

 

 表示された競技は、"障害物競走"。

 

『計11クラスでの総当たりレースよ! コースはこのスタジアムの外周約4km!』

 

「それで、シートがかかってたわけね……」

 控え室に入る前に天彗はスタジアムの外周がシートで覆われているのを見ていた。

 

『我が校は自由さが売り文句。コースさえ守れば何をしたって構わないわ!』

 

 なんとも言えないパズルのような独特な形状のゲートが開き、生徒たちは誘導される。

 

『さぁさぁ、位置につきまくりなさい……』

 

 位置に就くや否や、カウントダウンが始まる。

 相変わらず雄英はなんでも早速だ。

 

 

『さーて、実況してくぜ! 解説アーユーレディ? ミイラマン!!』

『無理矢理呼んだんだろうが……』

 

 プレゼントマイクの独特な表現でわかりにくいが、相澤先生も解説に加わっているらしい。

 

『早速だが、ミイラマン! 序盤の見どころは?!』

『……今だよ』

 

 数百人の生徒たちが一度にスタートするには、あまりに狭いスタートゲート。

 そこでは既に、争いが起こっていた。

 

 

「ってぇーー!! 何だ凍った!!……動けん!」

「とれねぇー!」

「寒みー!!」

 

 さらにそこに拍車をかける、轟の氷結。

 

 その地を這う氷結をA組の生徒らは、各々の方法で攻略した。

 

 

 

『さぁ、いきなり障害物だ……第一関門、ロボ・インフェルノ!!』

 

「へぇー、先頭は元気にやってんじゃん」

「そうねぇ、ってえ??」

 

 しかし、天彗。未だスタジアム目の前。

 

「天ちゃん?? あーしら経営科はともかく、ヒーロー科じゃなかった!!?」

 

 それもそのはず。ここまで天彗は一度も走っていない。

 それどころか、ゲートで位置についた時点で既に後方で、位置取り争いからは離れていた。

 

『1-A、轟!! 攻略と妨害を一度に!! こいつぁシヴィー!!!』

 

「良いんだよ。コレで」

「へ?」

 

『すげぇな!! 一抜けだ!! アレだな、もうなんか……ズリィな!!』

『そんなことないだろ……。それに、そろそろもっとズリィ奴が来る』

 

「相澤センも、ご期待みたいだしねー。そろそろ、やりますか」

 

 

 パキパキと軽く、翼腕の肩を鳴らす。

 先程までの歩きで、十分に龍気は蓄積済み。

 

『って、1-A赤井天彗!! まさかの最下位!? 何やってんだぁオイ?』

『人が捌けるのを待ってたんだろ』

 

 

 八百万が0Pヴィランを数多く打ち倒してくれているのが見える。

 道は拓けた。

 

 天彗はついに翼を点火。

 間髪入れずに急加速。

 

 

『オイオイオイ!! まっじかよ!! 出遅れてた赤井、まさかのテイク・オフ!! 先頭集団を猛追!!!』

『障害物競走。こりゃあ、後で香山先輩に文句言わないといけないかもな』

 

『ロボが減ってたとは言え、第一関門。即、クリア!!』

 

 

「チッ、やっぱくるよな。赤井」

 先頭を走る轟は会場に響く実況の声で、天彗が飛び始めたことを知る。

 そんな轟は第二関門に到達しようとしていた。

 

『第一関門チョロイってよ、んじゃ第二はどうさ?! 落ちればアウト、それが嫌なら這いずりな!! ザ・フォール!!』

 

「意味ねぇじゃねぇか」

 

 第二関門は全面が切り立った崖となっている島が浮く、独特な地形での綱渡りだった。

 飛べる個性には意味のない障害物。

 

 それに轟は悪態をついた。

 

 とはいえ、天彗が来るまでは自分の競技に集中と、自分に問いかけ最適なコースを選択。

 

 

 

『1-A赤井、この第二関門に到着……ってもう過ぎ去った??!! この間、手元の時計でわずか0.8秒!! 速えぇ!! 速過ぎるぜ!!!』

『手元の時計じゃ0.8秒は計れんだろ』

 

 

 天彗は数メートルの高さで超速飛行中だった。

 上空を通る航空音に、多くの生徒が下方から天彗を見上げているのは悪くない気分だ。

 

 

「もう来たか。最終関門くれぇには辿り着きたかったんだが、しょうがねぇ」

 

 一方、先頭の轟は追ってきた天彗の妨害策を練っていた。

 

 大氷壁。

 天彗の目の前を、一瞬で生成された巨大な氷の壁が覆っていた。

 

『轟、チョー巨大な氷の塊で後方を妨害!!! ここで予期せぬ第2.5関門をセルフで作成したぁ!! こいつぁシヴィー!!!」

 

 

 しかし、天彗はその氷壁に対し、空中で翼を変形。

 

 巨大な剣の形となったそれで、ぶった斬る。

 

『しかし、その轟のクラスメイトの赤井。そんな2.5関門もやっぱ、即クリア!! ヤベェぜこいつ!!』

 

 

 大氷壁のために冷気が蓄積し、霜が降り始めた轟の体。

 左を使えば何度でも妨害できるが、それでもどうせジリ貧だ。

 

「左を? 負けそうになったからって……、こっちは使わねぇって決めただろ」

 

 結局、左の熱は使わずに、轟は上を飛び去る天彗をただ見上げることとなった。

 

 

『そのまま、赤井は最終関門に突入!! つーか独走しすぎだろ!! そしてぇ──もう突破!!ネタバレになるからリスナー諸君には最終関門は伏せとくぜ!』

 

 もはや、天彗を妨害するものはなく。上空を飛ぶ赤井には最終関門の地雷原、怒りのアフガンも無意味。

 

 そのまま、天彗はコースアウトに気をつけながら、飛行。

 

『ゲート前で降り立って、悠々と今一番にスタジアムに還ってきたのはこの女──、赤井天彗!!!』

 

 

 第一種目、障害物競走。

 天彗の記録は独走での圧倒的1位。

 

 超高速での飛行という天彗の特徴は、多くのプロヒーローやその事務所の目に留まることとなる。

 

 




・上鳴コスチューム
メタ的には発目明の活躍のためか。体育祭後に指向性に関する相談をしているらしい。USJで指摘されたことなのに、この後の中間試験でもまだ、指向性獲得のためのディスクランチャーは付けていない。

・天彗コスチューム
改装中。

・障害物競走1位
残当。
最初期のプロットでは、轟と爆豪の3人で先頭でガチバトルして原作通り緑谷に抜かれるというものも考えていました。
少し考えればわかることですが、他の生徒らに天彗はこの種目で負けるわけがありません。

・出遅れ
相澤先生の言う通り、人が捌けるのを待っていました。
離陸時は周りが危険な上、仮に妨害されると明後日の方向に飛んで行きかねないので。
初期プロットでは第一関門でも少し手間取るという設定でした。まだ天彗は空中での精密機動ができませんから、ロボの間をすり抜けるといったことは現状でも実は無理です。

・関門の防空設備について
ゆる過ぎる。爆豪はずっと飛び続けてるので、おそらく上空には何も障害はないです。
追加してもよかったですが、スッキリした天彗の勝利の方がいいかなと。
あったとしても、天彗の最大の障害はコースアウトです。一番の難関は実は最後の直角な折れ曲がり。

・ミッドナイト ミステイク
メタ的に言うと、SS作者が変更しなかっただけですが。
ミッドナイト先生は天彗の個性を把握しているのに、この競技は酷い。

・怒りのアフガン
さすがにアニメだと、色々引っかかるらしく。ただの一面地雷原

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