これ以上龍気活性してしまうと、あたしはバルファルクになってしまう   作:ハリー・ルイス博士

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入学試験編
#3 国立雄英高等学校入学試験当日


 

 そういえば、なぜ結局、士傑高校ではなく雄英を受験することになったかについて、すっかりと触れていなかった。

 一言で言えば、媧恋の勉強が思いの外うまくいったからである。

 

 

 襲撃事件後、媧恋と天彗は模試を受けていた。

 模試と言えどヒーロー科の実技の内容はなく筆記のみのものだ。

 実技試験の練習は設備等に多額の金銭が掛かるため、専用コースの塾生となる他、模試で受けるには追加の料金が必要となる。

 

 ヒーロー科を志望していない媧恋はともかく、天彗の実家は母子家庭のために貧困で、模試にそこまで金を掛けるほどの余力はなかった。

 というより、天彗の実力なら予備校でもわからない例のブラックボックスのことを抜きにすれば、模試を受ける必要もないレベルである。

 

 

 そうして、受けた模試の結果というと。

 媧恋が自慢げに掲げて見せてきた成績表には、Cの文字が飾られていた。

 Bですらないのかと思うかもしれないが、前回の模試ではD判定すら出なかったことを考えれば多大な進歩だ。一応は合格の可能性がある範囲に入っているのである。

 

「天ちゃんはーっと、やっぱりA?」

「まぁね」

 

 天彗の結果はと言うと、当然の如くA判定。

 それどころか、模試の受験生中でも冊子に名前が載るほどの高水準だった。

 

 上位を知力強化系個性の持ち主が占める中でのこの成績は、個性なしであればほぼトップに位置している。

 上に知力強化系しかいないのであれば、攻撃に優れた個性を持つ天彗は実技で上回れるのが道理だ。

 

 

 ちなみに、登録名を『轟炎司』にして、たまに成績優秀者に名前が載るエンデヴァーの親族と思しき轟焦凍くんを煽っておいたのは秘密である。

 他にもヒーロー『インゲニウム』の親族らしき飯田天哉くんもいたので、天彗はこちらも以前、登録名を『飯田天晴』にして煽っておいた。

 本当はオールマイトの本名にしたかったが、調べても見つからなかったそうだ。

 

 

───◇◆◇───

 

 

 雄英高校受験生の中で、多須宮中学の制服が目立つかと言うと、実はそうでもない。

 理由は単純で、雄英に受験するような学生達は不良の溜まり場たる多須宮には縁もゆかりもないからである。

 

 では、天彗たちが目立たなかったかと言うとそれも違う。

 考えても見て欲しい。

 バキバキの受験生の中に、耳にはピアス、手にはブレスレットや指輪をジャラジャラと付け、バッチリ化粧を載せたギャルが混じっている姿を。

 

 雄英高校の受験生の人だかりにおいて、2人はそれはそれは人目を引いていた。

 

 

「(あの人たちと一緒の試験室になったりしたら、めんどくさそう……)」

「(騒いだりして、私たちの邪魔しないでよね……)」

「(これだから記念受験勢は……。志願書に記念受験ですって書いて別室に入れとけよ)」

 

 ちなみにこの2人、周囲からは完全に記念受験だと思われていた。

 

「ここにいるの、ガリ勉くんばっかだと思うとウケるわー」

「この1年、あんたもそのガリ勉くんだったワケだけど?」

「うぃ」

 

 どっちもどっちな物言いなので、お互い様と言ったところだろう。

 

「今のあんたなら、実力出せばイケるから。大丈夫」

「……え。今の何、スッゴイ受験生っぽい!」

「あんたは……はぁ。その様子なら緊張とかしてなさそうね。筆記は試験室別だし、昼ごはんはここら辺で集まろ」

「わーた。あとでねー!」

 

 

 雄英高校は普通科であっても偏差値の高い進学校だ。

 より正確に受験生の実力を見極めるため、その試験時間は長めに設けられている。にも関わらず、試験日程はまさかの1日のみ。試験までPlus Ultraしてるのはさすが雄英である。

 その最後にヒーロー科の実技試験は設定されていた。

 

 

 

 午後。講堂で行われたヒーロー科入試の実技試験説明会。

 天彗は自分の隣に座った人間に驚いていた。

 

 

 それはなんと桜木媧恋。

 

 『アイエエエ?!』なんてニンジャリアリティショックじみた声を出しそうになったが、(すんで)のところで堪えた。いろんな尊厳は保たれたのである。

 

 それはさておき、なぜ媧恋がヒーロー科入試に来ていたのか。

 答えは完全な記念受験である。

 

 天彗と受けた試験の経験を共有してファストフード店で駄弁りたいという、どこかの個性【抹消】の教師には退学を言い渡されそうな不純な動機であった。

 

 

 

 

『今日は俺のライヴにようこそー!!!』

 

 講堂に響き渡ったのは、ただでさえ大きいそれをスピーカーでさらに増幅したプレゼント・マイクのヴォイスだった。

 

 プレゼント・マイクのラジオ番組か何かのリスナーなら、生プレゼントマイクに興奮したことだろう。

 しかしながら、その生マイクのラジオ的なノリは、この厳粛な入学試験の場に致命的に合っていなかった。

 

『エヴィバディセイヘイ!!!』

 

 

 当然そのアオリにノる人間は1人もいない。

 どこぞの緑髪超絶ヒーローオタクすら反応しないのだからよっぽどである。

 

『こいつぁ、シヴィ──!!! 受験生リスナー! 実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!! アーユーレディ!?』

 

『YEAHH!!!』

 

 ついに合いの手を自分で入れだしたが、当然誰も追従するものはいなかった。

 

 それでも、マイクはめげずにそのノリのまま説明を続ける。

 

「(試験会場別じゃん……)」

「(協力できないようにってことっしょ? まあ、色々やりようありそうだけど)」

 

 例えば、今回の試験会場はA〜Gの7つ。8人で受ければ誰かしら被ると言うことになる。試験会場の数は、事前に工事が入るので確認可能だ。

 

 

──質問よろしいでしょうか!?」

 

 そう言って突然ぶっ込んできたのは、メガネをかけた生真面目そうな青年だった。

 

 どうやら4種の敵がプリントにあるのに、触れなかったことについて問いただしているらしい。

 ついでに近くの少年を恫喝していた。どんな手段を用いてでもライバルを減らそうとするのは多須宮に向いてるかもしれない。

 

 ただ、恥ずべき痴態は言い過ぎじゃね?

 日頃から煽り合ってる多須宮生をして2人は訝しんだ。

 

 

 真面目くんの質問に、ゲームの例を出して4種類のロボを説明したプレゼント・マイク。何気に受験番号瞬時に判別できるのすごい。

 

 

『俺からは以上だ!! 最後にリスナーへ、我が校"校訓"をプレゼントしよう』

 

『かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った! 「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」と!!』

 

『"Plus(更に) Ultra(向こうへ)"!!』

 

 

「(人生の不幸を乗り越える……ねぇ)」

 

 天彗の脳裏を、忌々しい男の影が走った。

 乗り越えていないから英雄ではないのか。いつか乗り越えることがあれば英雄となれるのか。

 

「(知ったこっちゃねェっしょ)」

 

 だが、今は試験前。目の前にはまさに覆すべき不幸が迫っていた。

 

 

『それでは皆、良い受難を!!』

 




補足
・模試結果
たぶんヒロアカ世界にも模試はある。きっと。
雄英の誰かは「なんで私が雄英に?」みたいなキャッチコピーで駅の広告になっているかもしれない。
知力強化系個性は別枠とかありそう。
 
・成績向上
SS作者の経験的に1年ちょいあれば、それまでノー勉でも難関国立は合格できる。
C判定はかなり合格可能圏内
 
・八木俊則
オールマイトの本名は公表されていない。
雄英体育祭でヒーロー科1年の生徒の名前は実質的に公表されてしまうので、多分、オールマイトは雄英普通科→ヒーロー科の転向組だと思ってます。
 
・轟焦凍
エンデヴァーの結婚時には個性婚がスキャンダルになってそう。
ヒロアカ世界の人は名前から個性の判断が可能かはわからないけれど、焦げる凍るからエンデヴァーの個性婚に結びつく人は少なくないと思う。

主人公のイメージイラストは必要ですか? シャーペン描きのラフ段階ならあります。

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