これ以上龍気活性してしまうと、あたしはバルファルクになってしまう   作:ハリー・ルイス博士

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#5 試験結果はPlus Ultraと共に

 

 試験から一週間。

 雄英高等学校ヒーロー科の受験生は1万人以上なので、一日あたり1000人以上の採点をすることとなるが、どうやってこの過密スケジュールをPlus Ultraしているのかは謎である。

 そんなことはともかく、天彗の下には雄英からの手紙が届いた。

 

 今時珍しいにも程がある封蝋が施された封筒だ。

 

 天彗が手に取ったそれは見た目よりも重く分厚い。

 内心、「これは合格来たんじゃね」などと思ってはいるが、開けてみないとわからない。

 

 

 天彗には珍しく意を決してといった面持ちで、封筒を開けた。

 

 中に入っていたのは、三つ折りにされた書類と投影機。

 どういうわけだか、投影機には取り出した途端に再生される機能がついているらしく、音声が流れ始めた。

 

 オールマイトの深くしみわたるような声が再生されるが、姿は一向に見えない。

 

 

「あっ……うん。逆だったわ」

 

 投影機をひっくり返すと、オールマイトがようやくディスプレイに表示された。

 

 

『──が雄英に来た!!! 』

 

 話の途中だったようだ。オールマイトの持ちネタには申し訳ないことをした。

 

『そう、私は他でもない雄英高校の教師として勤めることになってね』

 

 「オールマイトが雄英の教師に?!」天彗の脳内に、速報を伝えるニュースのテロップのようなシーンが流れる。

 オールマイトが教師をする。イメージがわかない。どんな授業をするのだろうか。というか教育免許とかどうなってるんだ?

 

『さて、早速だが入試の結果に移ろう』

 

 そんな疑問を放置して、画面のオールマイトは本題に移る。

 

『実技試験61ポイント。文句なしの合格さ!!!』

 

 合格。その一言に、天彗の力みが一気に抜けた。

 

『それだけ、ならね』

 

 ?!

 

『この試験。見ていたのは(ヴィラン)Pのみにあらず!!』

救助活動(レスキュー)ポイント! これは審査制!! 我々雄英が見ていたもう一つの基礎能力!!!』

 

 レスキュー? そんなことはしていない。

 まさかとは思うが、敵Pは足りてるのに落ちたから、普通科で頑張って的な?

 

 そんな心配をよそにオールマイトの話は続き。

 

『君のポイントは15Pだ。残念ながら高いとは言えない』

『……ただし戦闘技術は十分。合格だってさ!! ヒーローとしての心構えはこれから学んでいこう。来いよ赤井少女!!』

 

雄英(ここ)が君のヒーローアカデミアだ!!!』

 

 

 

 ……

 今の数分で、何十分も過ごしたように感じられた。

 流石はオールマイトというべきだろうか。

 この緊張感をオールマイトの授業のたびに味わわなければならないのはそれはそれでしんどそうではある。

 

 

 天彗の雄英高校の入試結果は、トータル76ポイントという、爆豪に次ぐ成績での合格となった。

 

 しかし、その裏側にひと悶着あったことを知るのは、雄英高校教師陣だけである。

 

 

 

───◇◆◇───

 

 

 

 一週間前。

 

「実技総合、成績出ました」

「救助ポイント0で1位とはなぁ──」

 

 入学試験を救助ポイント0でありながら1位で合格した爆豪勝己や、逆に救助ポイントのみで合格した緑谷出久を評価、称賛する声。

 彼らは、雄英高校の教師たち。この場ではヒーロー科の最終的な合格者の決定と組み分けを行っていた。

 

 

 やがて、一人の少女が投影される。

 銀髪碧眼といった特徴はあるものの、なんといっても最も目立つのはその背から生える翼のような可変器官。

 その翼腕を変形させて振り回し、数多くの仮想ヴィランを屠っていた。

 

「この子が問題の子だね」

「はい。赤井天彗、多須宮中学出身。調べた限りでは、組織的ヴィランとの交流はなし」

 

 先ほど集計された成績では問題なく合格。

 しかし、教師らの声は堅かった。

 

「しかしながら、非行歴が3回。内、暴行が2件。未成年喫煙が1件」

「典型的な非行少女という訳だね?」

「それだけではありません」

 

 

「不起訴処分ではありますが。赤井天彗は彼女の実の父親、赤井天祐の殺害事件において第一容疑者となっています」

 

 殺人という最も重い罪の一つを犯した過去を持つ可能性がある学生。

 その存在は議論の紛糾を呼んでいた。

 

 

「ヴィランを雄英に通わせるわけには行かない」

「起訴されていない以上は……」

「非行歴があるでしょう。それで不合格にするには十分なはず」

 

「だいたい、なぜ受験させてしまったんだ。書類審査で弾くべきだった。来年以降は書類審査を見直す必要がある」

「来年云々は今は関係ないだろう。今年の試験を合格したんだから入学を認めるのが道理だ」

「他の生徒の親御さんに説明できないぞ」

「学生に悪影響があるかもしれません」

 

「ヴィランになる可能性の高い生徒を育て、その貴重な枠の分ヒーローを減らすというのはいかがなものだろうか」

「このヒーロー飽和時代に頭数をそろえる必要性は感じられん」

 ……

 

 

「様々な意見があるようだね」

 

 ネズミのシルエットを持つ人物(?)の発言により、声が静まった。

 

「ボク個人の意見としては、彼女は合格にすべきだと思っているよ」

「すり抜けたと感じている人もいるかもしれないけれど、ボクたちが用意した関門をすべて通ったことは事実」

 

「だからどうだろう。彼女は特別枠として合格扱いにして、非行を繰り返すようであれば、相応の対処をするというのは」

「それはヒーロー科を41人にするということですか? 今年はオールマイトの件もあります。マスコミ連中が何と言うか」

「オールマイトの件があるからこそ、今更と言うこともできるよ。それに今年は折よく実技で同点の生徒がいたからね、公式には同点のためと公表しよう」

 

 彼が述べたのはつまり、定員を一人増やして合格にする代わりに、天彗が何か問題を起こしたら即除籍にするというものだった。

 

「なら、私が担当しましょう。経歴上、本当に除籍にしたとしてもおかしくない」

「本当かい? 頼むよ、相澤くん」

 

 

 

───◇◆◇──

 

 

 

「天ちゃぁーん!!」

 

 間延びした口調の呼び声が聞こえる。

 桜木媧恋の声は溌剌(はつらつ)としたものだった。

 

 

「どどど、どうだったん?! ヒーロー科」

「せっかち過ぎぃー! でも言っちゃう」

 

 ドゥルルルーというセルフドラムロール。

 

「合格だってさ!!」

 

 そして、天彗は渾身のオールマイトの時事ネタを披露した。

 

「?? 誰のモノマネしてるん?」

 

 しかし通じなかった。

 あのオールマイト出演のホログラム結果発表はヒーロー科合格生だけだったらしい。

 

 

「ヒーロー科はそういうのまでマジ特別じゃん! てかオールマイトセンセーはヤバくない?!」

「そういうあんたはどうなのよ」

 

 その一言に、待ってましたと言わんばかりに「フフーン」とドヤ顔を披露して、媧恋は2()()()通知書を取り出した。

 

『雄英高等学校普通科に合格した旨を──』

 

 という天彗もヒーロー科のそれを持っている合格通知書に加え、もう一枚取り出したのは。

 

 

『雄英高等学校()()()合格』

 

 

「け、経営科?!」

「なんか受かっちったわぁ」

 

 腹が立つほどのドヤ顔だが、媧恋の経営科合格には天彗をして驚きを隠せなかった。

 

 経営科は普通科よりも偏差値が高いことが知られている。

 ヒーロー科に入る未練を残している生徒も少なくない普通科に対して、経営科の生徒は自分はヒーローにはなれないとだいぶ割り切っている。没個性や体躯の問題など個々の理由は様々だが、その分の努力を勉強に注いだ秀才たち。

 それが雄英高校経営科の生徒たちのイメージ像だ。

 

 まかり間違っても、媧恋のイメージとは合わない。

 というより、クラスで浮くこと間違いなしである。

 

 

「え? ホントに経営科行くの?」

「天ちゃんの事務所は、あーしがマネジメントしてあげるっしょ!!」

 

 ドンと任せてとばかりに胸を張っているところ申し訳ないが、マネジメントなるビジネス用語は、ピンクのメッシュの入った金髪の白ギャルには致命的に似合っていない。

 

「ま、まあ。おめでとぉ、媧恋!」

「天ちゃんもおめー!」

 

 こいつらが春から日本の最高峰の高校生なのかと思うと、将来が不安になる。もっとも、将来は不安定の極みといった状態なのだが(ネタバレ)

 

「あ、でもヒーロー科は落ちたけどねー。あーしの個性であの試験はマジムリゲー」

「いやそれでも、十分Plus Ultraしてるわ……」

 

 

 

 そんな、桜木:ライジングはともかく、天彗たちは多須宮中学に凱旋していた。

 

 喧嘩をふっかけて天彗らの合格をなしにしようという不遜な輩もちらほら居たが。ボディガードの如く校門付近からついて回る教師を前にして、手を出す勇気はないらしくやがて散って行った。

 多須宮からの雄英生輩出。それは教師陣にとって歴史的な快挙だった。

 しかも、1人はなんともはやヒーロー科である。

 

 先生らはその後、不祥事は許さんとばかりに、天彗らに片時も離れることはなかった。

 なにしろ家まで送ると言い始めるほどである。

 流石に天彗は断ったが、媧恋は個性のこともあって送ってもらうことにしたらしい。

 

 卒業を迎える数週間の間、天彗と媧恋は放課後を過ごすことはできなかった。

 

 

 

 




・プロジェクター
合格通知にプロジェクター使ったら、重さで判別できてしまいそう。
20×11クラスの220人全員にメッセージを用意するのは掛かる時間がやばい。
なのでこのSSでは、ヒーロー科のみという設定。
 
・オールマイト出演
切島くんと麗日さんの回想シーンでは校長が写っていることが描写されている。なのでオールマイト登場は緑谷特別仕様なのかもしれない。
このSSでは、オールマイトは結果発表と教師として顔見せで、あの後実は続きがあって詳しい説明を校長が行っている、ということにしてます。

・赤井の点数
総合順位は2位
最後治療したことで救助P15点の加算。
それ以外は、怪我してる人をおもいっきり無視しているので救助0点。
爆速ターボが当初から使える爆豪と違い、移動手段がまだ特にないのでこの成績。
 
・それだけ、ならね!!
プラスの意味でもマイナスの意味でもオールマイトは言ってそう。
 
・経営科
普通科と難易度に違いがあるのかは不明だが、イメージ的に経営科の方が高いことにしている。
ヒーロー科と普通科は併願可能だが、経営科はこれも不明。
このSSでは例によって併願可能ということにしてます。
 
・入試結果:(オールマイト)
私が投影された!!!
君たちにはこんな疑問を持った者がいるだろう。
どうして、雄英高校の入試通知にオールマイトが現れたんだ?って
なぜって?
私が雄英に来た!!!
そう、私は他でもない雄英高校の教師として勤めることになってね。
さて、早速だが入試の結果に移ろう。
実技試験61ポイント。文句なしの合格さ!!!
それだけ、ならね。
この試験。見ていたのは敵ヴィランPのみにあらず!!
救助活動レスキューポイント! これは審査制!! 我々雄英が見ていたもう一つの基礎能力!!!
君のポイントは15Pだ。残念ながら高いとは言えない
……ただし戦闘技術は十分。合格だってさ!! ヒーローとしての心構えはこれから学んでいこう。来いよ赤井少女!!
 
雄英(ここ)が君のヒーローアカデミアだ!!!
 

主人公のイメージイラストは必要ですか? シャーペン描きのラフ段階ならあります。

  • いらない。そんなことより続き書け
  • ラフでいいから欲しい
  • ちゃんと仕上げろ
  • 俺(私)が描く

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