これ以上龍気活性してしまうと、あたしはバルファルクになってしまう 作:ハリー・ルイス博士
龍氣じゃなくて龍気なことに……。
これははずかしい。
今なら恥樫照夫の個性を最大出力で出せそうです。
感想でやんわりと教えてくれていた皆様、ありがとうございました。
「八百万さんの個性、すごかったね! 何でも出せるの?」
「推薦入学者って本当?!」
「み、皆さん……」
個性把握テスト後。女子更衣室では、実技試験1位の爆豪勝己やもう1人の推薦入学者の轟焦凍を抑えて1位となった八百万百が、A組の女子たちに囲まれていた。
八百万は当惑しているようだが、顔は満更でもない様子である。
「ええ、構造を知っている物でしたら、何でも出せますわ。コスチュームには辞典をつけるよう要望も出していますの」
「何でも?!! ……お、お餅とかも?」
最初に"何でも"に食いついたのは、貧乏苦学生、麗日お茶子だった。
思いつくのがお餅なあたり、大変庶民的である。
「お餅、はわかりませんが、食材などは大抵構造が複雑すぎて作ることができませんの」
期待に添えず、とションボリする八百万に、更に1人"何でも"に食いついた子が話しかける。
「そんな便利な個性だと家族からも色々頼られたりしない?」
「? 大体のものは家に置いてありますので、わざわざ私が出すことはありませんわ。それに脂質を消費してしまいますし……」
「脂質を、消費?!」
脂質と聞いて、反応してしまうのはヒーロー科女子であっても同じである。約一名は別のある特定の部位に注目したようだったが。
「ええ。ですから推薦入試を受けるにあたって、食べる量を増やす訓練をしましたわ……」
「脂質を使う個性も、大変なんだね……」
訓練は割と本当に辛い記憶だったようで、八百万の顔に隠しきれない影が差したので、脂質を消費することを羨む者は居なくなった。
そもそもここはヒーロー科。アウトドア派の集まりなので、痩せないことに真剣に困っている女子はいなかったのだ。
そしてここでついに、ピンクの肌と黄色い角、それから白目の部分が黒いという白目なんだか黒目なんだかよくわからない特徴を持つ少女、芦戸三奈が核心的な質問を投げかける。
「薄々、思ってたけど、八百万さんってもしかして結構なお嬢様?」
「お嬢様と言うほどでは……お父様が小さな会社を営んでいるだけですわ」
「いやいや、それがお嬢様だから……」
「え?? そうでしたの? 中学には同じような方が多くいらっしゃいましたが……」
「お、お嬢様学校……。ホンモノや、ホンモノのお嬢様や」
お嬢様学校にビビるお茶子。
八百万のお嬢様話もそこそこに、芦戸三奈はある提案をした。
「ヤオモモの個性だけ聞くのも不平等だし、みんなで個性紹介し合わない?」
「そのヤオモモというのは……?」
「八百万さんのあだ名だよ! 嫌だったら、変えるけど……」
「いえいえ! あだ名! 素敵ですわ!!」
嫌がっていないというか、あだ名を付けられたこともなかったヤオモモは歓喜といった顔だった。
「自己紹介なら、私からいいかしら。私は蛙吹梅雨。梅雨ちゃんって呼んで。個性は【蛙】で、カエルっぽいことは何でもできるわ。舌を伸ばしたりあとは少し痺れるだけだけど毒の粘液を分泌したり……」
「長座体前屈のあの舌は衝撃的だったよ……」
「前屈とは」
話を個性に戻して、自己紹介をしたのはどことなくカエルっぽい顔立ちの少女、蛙吹梅雨。絶妙なカエルっぽさと絶妙な可愛さを持ち合わせている。
「ハイハイ! 次、私ね! 名前は葉隠透。個性は【透明化】だよ! 一応、光曲げてる系だから、歪めることもできたり」
葉隠の手の部分(?)が輪郭を取るように歪み、辛うじて見えるようになる。ただ、今のところ歪んだ光景を写しても意味がないので、基本透明なのだという。
ちなみに抜けた髪の毛も透明らしく、葉隠は1本引っこ抜いて見せてくれた。全員、どこにあるのかも見えなかった。
「へぇ〜。髪の毛も透明なんだ」
「いや流石に剃ってるわけないでしょ」
「瞳孔も見えないですけど、どうやって見てるんでしょう……」
【創造】や【
「言ってもいい? ウチは耳郎響香。漢字は目鼻口耳の耳に太郎の郎で耳郎。響く香りで響香だよ。んで、個性は【イヤホンジャック】。このジャックを刺したところの音を聞いたり、心臓の音を爆音にして流したりできる。あと、ジャックは伸びるし自分で動かせるよ」
フヨフヨと響香の耳から生えたプラグが、コードを伸ばしながら支えもなく宙を漂う姿は不思議だが、特定の部位を浮かべて使う個性は珍しいと言うほどではなく、みんな見慣れている。
「すごいっ! ふにふに!」
「ちょっ、触んな! ヘンな感じがするんだから」
見えないが、葉隠が宙に漂っていたプラグのどこかを掴んだらしい。見えないが。
「オホン。私、麗日お茶子。個性は【
腕をクパクパさせて肉球を見せるお茶子。
キャパオーバーで吐くことは言わなかった。
でもどうせいつかゲロ吐くぞ。今言っておいた方がいいぞ。
「あとは、私と……赤井さん?」
「……なに?」
更衣室で1人淡々と着替えていた天彗が振り返る。
ギロリと向けられた縦に裂けた瞳孔を持つ群青色の瞳に、さしものコミュ力の化身たる芦戸三奈でも、一瞬怯む。
「……え、A組女子のみんなで個性の教え合いっこしてたんだけど、赤井さんの個性も教えてくれないかなーって」
「……【可変翼】。槍みたいに伸びる」
シャリンという金属じみた摩擦音とともに瞬く間に伸びた翼腕の切先が、芦戸の胸元三寸まで迫っていた。
しかし、伸ばして見せるだけだったようで、1秒も経たない内に引き戻される。
一瞬の逡巡は、個性を明かすデメリットを考えていたからだった。
授業で対抗戦などをするかもしれないが、個性把握テストで見せた以上に隠す要素はない。
「へ、へぇ。クールだね……」
「(や、ヤバいよ、めっちゃ怒っとるよ!)」
「(こ、これが不良というものですのね)」
「(モモちゃん! 聞こえてたらまずいって!)」
ヤオモモの言葉に反応してか、天彗はジロリとした目線で彼女を見た。
「(やっぱり、聞こえてるよ!)」
「(これってもしかして、一触即発?)」
そんな囁き声で喧しく会話するA組女子メンツに、蛙吹が呟こうとした「赤井ちゃんは睨んだわけじゃないと思うの……」という言葉は、芦戸の勇気ある自己紹介に掻き消された。
「私は芦戸三奈! 植物の芦に戸棚の戸、三つの三と奈良の奈で芦戸三奈だよ。個性は【酸】で手から色々溶かせる酸のような何かが出ます。よろしくね!」
「……。遅れたらまた除籍とか言われるかもしれないし、早くした方がいいんじゃない?」
天彗はそう言い放ってパタンとロッカーを閉じ、更衣室を出て行ってしまった。
そんな天彗の言葉に一呼吸遅れて、彼女たちは掛け時計を見た。
「「たしかに、マズイかも……」」
そんな心配をよそに、個性把握テスト後の相澤先生は、今日はもう何か特別なことをする気はなかったらしく。とは言っても、今日は登校初日なので、かなり駆け足のガイダンスがあったのは特別だが、そのあとすぐに解散となった。
ちなみにまともな自己紹介もしていなかったりする。
それだけ聞くと今後のクラスメイトの人間関係が心配だが。相澤先生が共通の敵役となることで、意外とまとまりを得たのかもしれない。
そこまで考えてのあのヒール役だと言うのなら、相澤先生のあな恐ろしやその合理性である。
───◇◆◇───
翌日から通常授業が開始された。
内容はというと、意外と普通である。
雄英だから難しいというわけでも、さらに言えば先生をヒーローが務めているというのに何か特色があるというわけではなかった。
一部の先生が時折、自分のヒロイック持ちネタを披露するだけである(主にマイク)。
「(エクトプラズム、っ先生! やっぱりあの喋り方はキャラ作りじゃなくて素だったんだ。ネットでは個性が関係してるとか事件の後遺症とか言われてるけど、実際のところどうなんだろう。直接聞いてみるのは流石に失礼だよね)ブツブツ」
「(……うるせぇ)」
などと、存分にヒーローオタ知識を呟いている者もいたが。
食べ盛りの高校生だけあって、昼が近づくほどにクラスのほぼ全員がソワソワとし始めていた。
そうして待ちに待った昼休み。
「赤井さんは、今日はお弁当?」
入学初日の昨日。
A組は個性把握テストのおかげで昼休みがずれ込んでしまい、他の学科学年の生徒たちとは別の時間帯での昼ごはんとなった。
初日ということもあってお試しといった部分もあったのか、あるいはランチラッシュという大食堂のクックヒーローの知名度ゆえか、A組の全員が食堂での昼食をとっていた。
しかし、全員が全員、食堂で食べるかというとそうではない。
経済的な理由や単に自炊が好きだからといった理由、個性の都合上(これは言えば大抵解決してくれるらしい)など、様々な理由があって、弁当などの形で持ち込む生徒は多い。
天彗はそのような1人だった。
それにしても、先日はほぼ無視されたも同然だというのに、天彗に話しかけられるA組女子のコミュ力である。
「……今日は他のクラスの友達と一緒に食べるんで」
対する天彗の答えは、話しかけてきた理由まで予想しての返答であった。
端的に会話を終わらせた天彗は、スッと立ち上がって"他のクラスの友達"とやらに会いに消えてしまった。
他のクラスの友達、それは当然桜木媧恋である。
「なんか担任が、突然『これを着て、グラウンドに出ろ』とか言い出してさぁ」
「それで入学式、A組いなかったん!? チョーウケる! こっちではミッドナイト先生、むっちゃブチギレてたわぁ」
入学式はA組抜きでつつがなく執り行われたらしい。もちろんA組と同じヒーロー科のB組も出席していたそうだ。
「その後も相澤セン、個性把握テストとか言ってテスト最下位の者は除籍するって言い始めてさぁ、マジビビったわ」
「初日で除籍?! ゲロヤバじゃん! 流石にネタっしょ」
「いや、顔がこんなでマジなんよ」
「え、じゃあ。A組、誰かクビ?」
「いやそれが、今度は『合理的虚偽』とか言って、前言撤回すんの!」
「草。やっぱ、ネタだったんじゃない?」
余談だが、合理的虚偽は長らくこの2人の間のネタとなることとなった。
「そーゆう、あんたはどうだったんよ。経営科」
「いや、それがねぇ。脅威のメガネ率! 100%メガネくんだわ」
「いや、あんたメガネじゃないじゃん……」
「たしかに! なら95%メガネくんっすわぁ」
「あとねぇ、マジガリ勉しかいないの! 隣の席のやつなんて、休み時間も勉強してんのよ。こういう奴ら放課後何やってんだろ」
ちなみに、そうこう言われる彼らにとっては、放課後のギャルたちの活動の方が謎であったりする。
「天ちゃんさぁ、クラスで浮いてるっしょ」
唐突に告げてきた媧恋に、天彗はタコさんウインナーを取り落とした。
「……何で?」
「いやソレ! まさにそんなカンジで返答したっしょ! 怖がられて当然じゃん」
媧恋の言うことに、心当たりはあった。
あのエイリアン系女子、芦戸三奈が折角振ってくれた話題に、そんな返答をした覚えがある。
「別に、友達いらないし」
「ここ雄英ゾ? そんなピリピリしなくていいっしょ!」
そんなに中学ではピリピリしてただろうか。
わりと朗らかに会話していたと思う。
そんな風な言い訳をする天彗。
「天邪鬼なところあるしなぁ、天ちゃん」
潜在的な敵対関係ではむしろ積極的に。逆に仲良くなりたいと思う相手には無愛想に。
そう、早い話──
「早い話、ツンデレなんよ」
「はぁ?! なんで、あたしがツンデレなワケェ?!」
これはまさに自覚のある人ほど声高に反論するというやつだろうか。
そんなわかりやすい天彗に、媧恋は「認められないんなら別にいいけど」と前置きして、告げた。
「ちゃんと答えるくらいは、したほうがいいんくね?」
ツンデレ云々はともかく、媧恋のそのアドバイスは反論のしようもない正論だった。
「……」
天彗がその渋い顔をしたまま、昼休みは終わるのだった。
ミスって、この8と10話だけ一瞬投稿したんですよね。
焦って削除したらデータ消えて、絶望しかけました。バックアップにあってよかったです。ハーメルンは神、ハッキリわかんだね。
それからこれから小説投稿したい人は気をつけてください。ハーメルンは神なので、小説投稿の欄からバックアップ見ればなんとかなります。
・お餅
麗日さんの好物はお餅。
主成分は分子構造が単純なデンプン。なのでギリいける、のか?
・小さな会社
こう言う時は大抵、大きな会社。
・葉隠
光学迷彩の欠点について、目の部分は必ず穴になってしまうというのは有名な話。目の部分だけ光を2倍増幅して半分だけ吸収、半分だけ後ろに回すみたいなことをしているんですかね。
また、葉隠の必殺技である集光屈折ハイチーズから、葉隠の個性は光学的に体表の光を屈折させていると思われます。内臓も見えないので、手に握り込めば物も隠せるはず。
髪も透明なので、将来的にはミリオと同じように体毛を編んだヒーローコスチュームを身につけるようになるのかもしれない(希望的観測)
抜けた髪も透明なのはSSオリジナル設定。原作では透明化能力がなくなるのかも。
というか、そもそも、彼女のコスチュームは規定違反にならないのだろうか? 実は既に毛で編んだ極薄タイツを履いているのかもしれない。
・ツンデレ
ツンデレ。
プロフィール公開について
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ヒロアカ公式風
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作中で出てきた描写をまとめるだけ
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裏設定や没案を含めて公開できる範囲で
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ネタバレも含めて全て ※かなりネタバレ
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いらない