これ以上龍気活性してしまうと、あたしはバルファルクになってしまう   作:ハリー・ルイス博士

9 / 21
#9 ヒーローの基礎はくじに学ぶ

 

 さて、先程、ご飯のために生徒たちはソワソワしていると言ったが、ヒーロー科においては何も昼食だけがその騒めきの原因ではなかった。

 その原因。それはヒーロー科のみの特別な授業の一つ。

 ヒーロー基礎学とその教師にあった。

 

 

「私が、ドアから普通に入って来た!!!」

 

 そう言ってドアから普通()に入って来たのは、画風が違う男。

 ご存知No.1ヒーロー、オールマイトである。

 

「オールマイトだ! すげぇや、本当に教師やってんだな!!」

「シルバーエイジのコスチュームだ!!」

「画風が違い過ぎて鳥肌が……」

 

 憧れのオールマイト。実際会ってみて、天彗はその強さを実感する。

 今の自分では、とつけるのは見栄に近いが、とてもではないが勝てない。

 肉弾戦を主とする自分を含むあらゆるヒーローたちは、ある意味では完全に彼の下位互換なのだ。

 

 

 オールマイトの強さに慄く一方で、天彗にあったのは違和感だった。

 幼き日、天彗は一度だけオールマイトと会ったことがあった。そのときはもっと圧倒的で、一体誰が勝てるのかと疑問に思うほどに勝ち筋がなかった。

 ヴィランに対する義憤に満ち、教師など最も縁遠い存在だったようにも思える。

 あれは、幼少期特有の美化された記憶だったのだろうか。

 

「早速だが、今日はコレ!! 戦闘訓練!!!」

 

 そんな天彗に過った記憶は他所に。

 オールマイトは意気揚々と『BATTLE』と書かれたカードを掲示する。そのカードはオールマイトの手がデカすぎるだけで、本来は手のひらに小さく収まるサイズではない。

 

 オールマイトの戦闘訓練という言葉に、A組の生徒たちは声を上げて浮き足立った。

 当然だが、戦闘と聞いて怯えるような生徒は1人もいない。

 ついでに言うと、目はまさに「面白そう」といった感情が隠しきれていなかったが、それを口に出す者もいなかった。

 

「そして、それに伴って……こちら! 入学前に送ってもらった『個性届け』と『要望』に沿ってあつらえた戦闘用コスチューム!!」

 

 どこにリモートコントローラーがあったのかは不明だが、オールマイトの声に合わせて教室の壁から戸棚が迫り出す。

 その戸棚には1〜21の番号が振られたケースが納められていた。

 もしかしなくても、出席番号だろう。

 

「着替えたら、順次グラウンドβに集まるんだ!!」

 

 

 

───◇◆◇───

 

 

 

 入学から3度目の女子更衣室。

 一部の脱ぐだけの者や、腐食性の個性のためにあまりサポートアイテムを持ち込めない者はすぐに着替えを済ませたが、要望を多く出した生徒たちには取付に手間取る者もいた。

 

 

 天彗は、というと一番遅い部類である。

 

 天彗のコスチュームの要望は兎にも角にも防刃性。

 個性差別につながるとして公表はされていないが、ヴィランには刃物や血液を扱う個性が多い。かく言う天彗も刃物を持つ個性な訳であるが、それを天彗は経験則的によく知っていた。

 

 

 デザインの方はというと完全にメーカーに丸投げ。というのも画力が足らなかったのだ。

 結果として返ってきたのは、SF風アーマースーツだった。

 

 黒がメインカラーで銀色を差し色にしたモノトーン調。胴体部分は身体を象ったような外骨格的な構造だが、手足には覆うように大型のプロテクターが装備されている。

 頭部には猛禽類のそれに似たシルエットのフルフェイス型の兜が用意されているが、天彗の自前の視力を生かすため、視野に僅かな歪みも発生しないように工夫されていた。

 

 全体として一切の露出がなく、今時珍しいほどに堅物なコスチュームであった。

 というのも、女子生徒である天彗が要望に防刃性能を挙げたために、コスチューム会社は傷が残ることを嫌がっていると勘違いしていたのだ。そのために、プロテクターは大きめに、露出は頭部含めてなしとなっていた。

 なお、堅物である飯田天哉は同じような全身を覆うコスチュームを要望している。

 

 

 翼を出すスペースの確保と強度確保の都合なのか、上下一体型のボディスーツには見たことのない位置に繋ぎ目が入っており装着に手惑わせる。その上、腕と脚両方にガードを装着して、さらにヘルメット。

 これで時間がかからないほうが珍しい。

 

 この難解なスーツを天彗がようやっと身につけた時には、女子更衣室には誰も残っていなかった。

 

 

「赤井ちゃんのコスチューム、意外と露出ないっていうか、もしかしなくてもA組女子で一番露出少ない?」

 

 フェイスガードのあるお茶子を除けば、葉隠、蛙吹、芦戸、八百万、耳郎と、他のA組女子メンツは全員顔出しである。全身スーツ+フルフェイスヘルメットの天彗は、翼が出ているという点を除けば、露出ゼロ。女子では露出が最も少ないということになる。

 葉隠や八百万の露出具合を考えると、教室での服装と真逆に近い順序のコスチュームとなっていた。

 

「防刃性能の要望出したらなんかこうなったわ」

「「……!」」

 

 そっけない返事しか聞けていなかった天彗が、まともに答えたことに何人かの女子が驚く。

 

「なら、私もそんな感じの要望出せばよかったんかな?」

 

 パツパツスーツに遺恨が残るお茶子は、すかさずというほど意識したわけではないが、天彗に同意する。

 

「そのヘルメットカッコいいよね! デザイン送ったの?」

「いや、デザインは丸投げ。絵が下手だから……」

「絵、下手なんだ……なんか勝手に何でもできそうって思ってたよ」

 

「てか赤井さん、顔出さないタイプにしたんだ。ウチら女子ヒーローってやっぱ顔で売るところあるし、珍しいよね」

「それはなんか、仕様書によると……ここぉこうして……」

 

 カシャンと変形機能が働き、フードを外すように後ろにスライドした頭部装備の中から天彗の頭が現れた。ヘルメットで言えばシステムタイプのものに近い開閉機構である。

 

「こんな感じで、顔出しできるようにしてるっぽい」

「か、かっけえ……!」

 

 響香は「やってみていい?」と声をかけ、カシャンカシャンと天彗のコスチュームの変形機構を弄る。

 初めてのコスチュームなのに自分のは気にならないのかと天彗が聞くと。響香はコスチュームが要望通りだったから、と答えた。

 

 

 ヤオモモにお茶子と、望外の「ヒーロー科最高!」なコスチュームに興奮していたブドウが、最も期待していた天彗の裏切りに嘆いていたのは別の話である。

 

 

 

 

「始めようか、有精卵共!!! 戦闘訓練のお時間だ!!!」

 という、ちょっとセンシティブな掛け声と。

 

「良いじゃないか、皆。カッコイイぜ!!」

 という、褒めて伸ばすタイプの一言からオールマイトの授業は始まった。

 

 

 オールマイトは、今回の屋内対人戦闘訓練について説明を始める。

 

「君らには、これから「敵組」と「ヒーロー組」に分かれて、2対2の屋内戦を行ってもらう!」

 

 基礎訓練もなしに?という蛙吹の質問を機に、A組のみんなからは質問が殺到して、オールマイトは「んんん〜〜、聖徳太子ィィ!!」という謎の呻き声を挙げた。

 

 

 オールマイトのカンペによると。

 核兵器を所持してビルに立て篭もった敵側をヒーロー側が処理するという設定。

 ルールとしては、制限時間付きでヒーローが敵を捕まえるか核兵器に触れるかで勝利。敵側は制限時間まで核を守るか、ヒーローを捕まえることで勝利となる。

 とのこと。

 

 

「しかし、先生!! このクラスは21人。1人余ってしまいます!!」

「余った1人は、あまり活躍できなかった……あー、平たく言って成績が危うい子達で再戦してもらう!!」

 

 すかさずツッコんだ飯田に、この疑問には回答が用意してあったらしく、オールマイトはカンペ(2枚目)をみながら答えた。

 流石にNo.1ヒーローには、飯田天哉も恥ずべき痴態とは言わないらしい。

 

 

「コンビ、及び対戦相手はくじだ!」

 

 とLots(くじ)と書かれた箱を取り出すオールマイトに、飯田は再び突っ込んだ。

 

「適当なのですか!?」

「プロは他事務所のヒーローと急造チームアップする事が多いし、そういうことじゃないかな……」

 

 と、緑のツノの生えた生徒がすぐさまフォロー。

 

「いいよ!! 早くやろ!!」

 

 オールマイトも、これ以上ツッコまれたくないらしく、速巻きに生徒を急かした。

 

 

組分け

A: 緑谷 & 麗日

B: 轟 & 障子

C: 八百万 & 峰田

D: 爆豪 & 飯田

E: 芦戸 & 青山

F: 佐藤 & 口田

G: 耳郎 & 上鳴

H: 蛙吹 & 常闇

I: 葉隠 & 尾白

J: 切島 & 瀬呂

アマリ: 赤井

 

 

「余り、あたしかぁ」

「悲嘆することはないぜ、赤井少女!! 事前の打ち合わせができないという点では、最もヒーローの現地急造チームの状態に近い!!」

「あ、はい。あざっす」

 

「続いて、最初の対戦相手は……こいつらだ!!」

 

そうして取り出されたのはAとDのボール。

緑谷出久、麗日お茶子と爆豪勝己、飯田天哉の組み合わせだった。

 

 

 

 

 




・21人
青山(口田、砂藤)不在と21人がヒロアカオリ主2次で一般的です。
この対人訓練は21人系の最初の鬼門。3人グループを作るなど様々な工夫が考えられています。
このSSでは再度訓練を行うという設定。
実は、この訓練でのペアは、その後でもペアで描かれるキャラが多いです。(緑谷麗日、尾白葉隠、上鳴耳郎、八百万峰田、蛙吹常闇など)
体育祭の騎馬組、中間試験ペア、B組戦などが今後問題となります(そこまででエタらないとは言っていない)。
 
・赤井コスチューム
イメージはアクセルワールドのブラック・ロータス。
今後、コスチュームは大きく変わる予定。主に露出面積で。
 
・鎧が少ない理由
ヒーローは現場にいち早く駆けつけることが重要なので、重量の問題で装甲はあまりつけないのだと思います。
 
・刃物、血液関連の個性
トガちゃん、ステイン、ムーンフィッシュ、切島のカッコイイシーンのヴィラン、林間合宿の脳無、刃物と言えるか微妙な多部空満など、血や刃物に関連した個性持ちは結構ヴィランサイドに多いです
ちなみにヒーローサイドではそれぞれ、B組の鎌切くんとB組担任ブラド、怪しいのが切島くんや塩崎さんくらいです。鎌切くんはこれを意識してか、ヴィランっぽいコスチューム。
そもそもヒロアカ作中描写では、ヒーローの方がキャラクター数が多いにもかかわらずこの結果なので、統計的にはヴィランに多いと思われます。

そういえば、何も考えずに0:00予約投稿にしていましたが、希望の時間はありますか?

  • 18:00より前
  • 18:00
  • 19:00
  • 20:00
  • 21:00
  • 22:00
  • 23:00
  • 0:00
  • 0:00以降

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。