……まっ!見る人なんていないか!
「…動けねぇ。」
目を覚ましたのはいいが、全くもって手足が動かない。
ここが紅魔館の何処かってことしか分からない。馬鹿広いベットにポツンっと真ん中に俺が寝転んでる絵はとんでもなくシュールだぞ…。
「…しかし、あの状況から生き返るのか…。ゴキブリ並みの生存力だな…。」
改めて自分のしぶとさを理解する。最後の記憶なんて受け止めていた俺の両腕が血飛沫でダメになって、紅黒い閃光に焼き尽くされた部分だからな。
「…あの、流石に尺持たないんで、誰か来てくれてもいいんじゃないでしょうか?」
俺のトーク力はゴキブリ並みの生命力ほどないのよ?それこそミジンコが地を這うのとタメ張れるぐらいなんだから!
ガチャッ
「キタァァァァァァァァァァァ!!!!」
霊夢「……。…何よ、意外と元気そうじゃない。」
今日も今日とて塩対応の霊夢が、まるでそこら辺の小石を見るような目付きで俺の事を見下ろしてくる。
「単刀直入に聞くけど俺って」
霊夢「まる3日ね。その分わっざわざこの山奥まで霊力使って飛んできてたんだから相応の金額を後で請求しとくから。」
「おっふまじかよ。俺の初任給全部お前かよ。てかっ…えっ?まる3日…ですか?」
最初の初任給がもれなく霊夢に吸い上げられる事が確定した。いまぁそもそも最初の給料は霊夢にあげる気だったから別に構わんのだが。まる3日…?3日?
「そんなに寝てた?」
霊夢「寝てた…って言うよりかは、文字通り死んでたわね。なんで生き返って来ちゃったのよ。」
「おうそんなに残念がるのか。」
頭に手を置いてあーあと残念がる霊夢をみていつも通りで安心した。そう言えやこいつ、なんやかんや面倒みは良いが如何せん毒舌だった。
霊夢「それで?アイツにはあった?」
「アイツ…?小町って奴には会ったが。」
霊夢「あら、四季は現れなかったんだ。」
「小町の上官件親友って言うやつか。会ってはねぇーな。小町とお話してたら、時間が来たって感じで、こっちに戻ってきたぞ。」
俺にとってはほんの数十分の出来事だったが、こっちではまる3日経ってる…。もしかしたら先に魂が目覚めたのがあっちだったってだけで、俺は文字通り生死をさまよってたわけだしな。
霊夢「そう…。小町がね。意外ね。」
「意外…?」
そう言うと、霊夢がどこか懐かしむように微笑むと、小町について本人よりも詳しく教えてくれた。
端的に言えば、俺はあの世界で目覚めた時点で死んでいたらしい。本来の小町の役割は死人を冥府に迎える番人的立ち位置。…しかし、小町はそんな俺を生き返らせたらしい。
彼女自身は『生死が曖昧な時にもこっちに来ることがあるんだ』と言っていたが、実は嘘らしい。
霊夢「小町がどんなホラを吹いたのかは知らないけど、先にあっちで目を覚ましたなら、その瞬間拓斗は間違いなく死んでた。現世で意識ある状態で、三途の川を覚えてる事なんて稀だもの。」
「稀ってことは、ゼロではないんだろ?」
霊夢「そうね。…でも、拓斗のように鮮明には覚えてないわ。情景、臭い、感触。人柄…その全てをこと細かく覚えてられないのよ?」
「つまり、小町が俺を生き返らせたと?」
霊夢「そうね。じゃなきゃ悠長にお話なんてしてこないでしょうし、彼女の仕事上すぐにでも冥府に送るもの。…それをしなかった。…つくづく、色物に好かれるわね。」
「おいおい、照れるじゃねぇーか」
霊夢「褒めてないわよ。」
「ですよねぇ~」
そうして、しばらくの経過報告を霊夢から聞き終わると、彼女は近くの窓に手をのっける。
「もう行くのか?」
霊夢「ここに何時間も居たら気が狂いそうだもの。それに、あんたが目を覚ました以上、私がやる事なんてもう無いもの。」
「そっか。ありがとうな。」
霊夢「っ。…別に、お礼を言われるようなことは何一つしてないわよ。それじゃ。」
そう言うと、トンっと窓から飛び降りるとそのまま飛んでいった。
「空飛べるの…便利だなぁ。」
そこからしばらくして、昼食なんかが乗っけられたワゴンを押して現れた咲夜さん。
咲夜「大変な目にあったわね。」
「まっ、ほとんど自分の自業自得っすね。さっき霊夢にも言われました。調子に乗った結果でしょってね」ニコ
咲夜「……。そう、なのかしら。」コトッ
咲夜さんが、近くのテーブルに美味そうな飯を起き終わる。
咲夜「…拓斗様、先日は申し訳ありませんでした。」
「へっ?」
咲夜「私の監督不足でした…。まさか、フランお嬢様がアソコまで自分を殺していたとは思ってはおらず…。」
「ん~…?…確かに生死をさまよったけど、俺的には楽しかったからなぁ」
咲夜「はっ…えっ……?」
あ、やっぱり楽しいと思うのは頭おかしい考えなのか。
そりゃそうだよな。文字通り腕が吹き飛ぶ大怪我をしてるんだから。身体のあちこち包帯だらけだしな
「確かに霊夢に言われたとおり、俺は調子に乗ってた。咲夜さんの時飛ばしをドヤ顔で完封して、門番さんの合気道のような立ち振る舞いを完封した。天狗になるには十分すぎた。
こっちで生きると決めた時、霊夢にも散々俺は口を酸っぱくするほど言われた言葉をあの一瞬で忘れていた。『上には、上がいる』という至極シンプルな怖い言葉を。」
咲夜「…。」
「…正しく、フラン様にはそんな鼻っ柱を綺麗に折られた。追いつけそうで追いつけない圧倒的な力の差。半妖になって名ばかりな雑魚には、あまりにも強大な力の差。自分の能力すら未だに把握していない今、あまりにも無謀な戦いだった。」
…それでも、あの戦いの中で得るものは確かにあった。
相手の弾幕を複数個コピーする能力そして…一瞬だけ、数秒先の未来を予知できる能力。この2つの能力を知れただけで、十分か。
まぁそれは、小町という死神の気まぐれのお陰で生き残れただけってだけで、これから先こんな戦いばっかしてたら、すぐにでも小町という爆乳少女に叱られてしまうだろう。
でも…それでもやっぱり…
「楽しかったなぁ~♪」
この言葉に尽きる。咲夜さんは相変わらず、俺をマジかみたいな目で見ていたが、戦いは楽しい。
チョロっと霊夢が言っていた『鬼の血の影響』みたいな事を聞いたし、そのうちモノホンの鬼にも会ってみたいなぁ…。何か新しいきっかけにもなりうるだろうし。
咲夜「……。」
『いやぁ、楽しかったなぁ♪』
咲夜「…お嬢様からは、最近半妖になったとお伺いしていましたが…私の能力を無効化し、フランお嬢様との戦いで楽しさを見出し、今も尚成長する人の子…。…そんな彼を、霊夢はいつまでも放置してる…。これは一体…。」
コツン、コツンっと、廊下に響き渡る足音。考え込むように顎に手を乗せ、思考をめぐらす。
その答えは、あっけらかんと主に教えられる。
レミリア「そんなもの、霊夢が拓斗くんを気に入ってるからに決まってるでしょ?」
咲夜「はっ…えっ?そ、それだけ…ですか?」
レミリア「霊夢は昔からそう言う人柄よ。彼女の態度を見れば、拓斗くんをどれだけ気に入ってるかなんて目に見えてわかるもの。一件毒舌に見えるけど、それなら私が伝える前にこの館にあんな膨大な霊力を放って来るかしら?」
咲夜「ス-ッ…それはァ……」
レミリア「覚えているでしょう?拓斗くんがあの子にやられた後のことを。」
フランと思わしき霊力が紅魔館全体に響き渡る。赤白い光の柱が白昼に轟く。
パチュリー「ちょちょちょ?!!何事よ?!」
1番近くにいた紅魔館の図書室を管理してるパチュリー・ノーレッジが慌てたように現場に駆けつける。
そこには、紅い液体に染まったフランドール・スカーレット。その足元に転がる両腕が吹き飛ばされた黒髪の青年。
パチュリー「なっ?!フラン様?!それはっ…」
フラン「……。…壊れ…ちゃった。またっ…壊し…ちゃった…」
パチュリーは目を丸くした。フランがこうすることは結構日常茶飯事。そこに何も疑問はなかった。
ならなぜ、そんな彼女が目を見開いて驚いてるのか。
フランは、青年の亡骸を抱えてヒクッヒクと肩を震わせて泣いていたのだ。紅く光る瞳から、確かに透明な液体を流し自分の服が汚れるのも気にもとめないように泣いていた。
そんな光景は今までに見なかった。だからこそ目を丸くして驚くことしか出来なかった。
パチュリー「…ふ、フラン…様…?」
フラン「…ねぇ、パチュリー?…彼を…拓斗をっ、生き返らせる魔法はないのっ…?」
パチュリー「フラン様…それは……。」
パチュリーは恐らく殺めたのはフラン様自身だと分かっていた。だからこそ、彼女がそう涙ぐんだ瞳で彼を生き返らせたいと懇願した事に固唾を飲み込むことしか出来なかった。
『それは出来ない』…なんて発言をした暁には、フラン様が我を忘れて暴れるなんて目に見えていたからだ。
悶々と思考をめぐらせてるなか…紅魔館の正面玄関から凄まじい轟音がなった。
霊夢「……。」
魔理沙「ちょっ…ちょちょちょっ?!お、落ち着くんだぜな?!なっ?!」
静かに、冷徹な表情で歩を進める霊夢を必死に静止する魔理沙。
霊夢の表情は酷く冷静だが、その彼女から溢れ出る霊力の乱れ具合で彼女の冷静な姿は仮初だと裏付けるには十分すぎた。
酷い憎悪に駆られ、ただただ歩を進める。魔理沙の静止も、彼女の耳には雑音にしか捉えられなかった。
美鈴「霊夢…」スッ
霊夢「どいて。今の私は、前の戦いのように捕縛するような戦い方は出来ない。」
美鈴「っ…」
門番としての役割を果たしたい美鈴。だが、そう震えた声の霊夢に何も言えなくなる。何故なら、非があるのはこっちだと美鈴は分かっているからだ。
咲夜「まったく?!今度は何事ですか?!っっ?!」
慌てたように玄関をあけ飛び出てくる咲夜。その瞬間、咲夜本人は息をつまらす。
吐き気がするほどの霊力を辺りに撒き散らした霊夢が、自分を睨みつけていたからだ。
そんな彼女から、たった一言こう聞かれた。
霊夢「拓斗は…今どこ?」
咲夜「っっっ」
瞬間的に咲夜に死の感覚が迫る。
発言を、選択をミスったら死ぬと。
咲夜「…きて、ください。」
美鈴「っ?!咲夜さん!?」
咲夜「美鈴は引き続き門番として辺りを警戒してなさい…。…着いてきて。」
霊夢「お邪魔するわ。」スッ
魔理沙「お、おいっ…。っっ…あーもうっ!」
咲夜「…ここです。」
図書室の1番開けた場所。そのド真ん中の、馬鹿でかい照明に照らされるように横たわる赤い液体で染まる青年と、その亡骸を今も尚抱えて泣き崩れるフランドール。
近くにはパチュリーが座っており、この紅魔館の主であるレミリアがただただ黙って立ち尽くしていた。
魔理沙「な、なんの冗談だぜ…?これは…」
霊夢「」スッ
魔理沙「あっ…おっ、おい霊夢っ。……。」
無意識に伸ばした手を魔理沙は引っ込める。
フラン「ヒグッ…」
霊夢「…あんたがヤったの?」
フラン「」ビクッッ
ドスの効いた声でフランドールに問いかける。その瞬間、震えが一瞬で消える。
レミリア「霊夢…これは…」
霊夢「どうもこうもないでしょ?フランが拓斗を殺めた。それ以外になんの理由があるの?」
フツフツの煮えたぎっていく霊夢の言葉にレミリアは一言言う。
レミリア「彼はまだ死んでないわ。」
霊夢「何ですって?それは面白い冗談かしら?」
レミリア「彼のパスを繋いでるあんたならわかるでしょ?彼はまだ生きてはいる。…生き返るかは、不明だけどね。」
そう言われ、霊夢は少しの間目を瞑る。拓斗の体から微かに霊力のパスを受信する。
その瞬間、今まで漏れ出ていた霊力がふっと無くなる。周りのもの達はそれで一安心のように忘れていた呼吸を思い出したかのように息をする。
レミリア「…で、ここからが本題よ。おそらく彼は、今小町にあってると思うわ。」
霊夢「…でしょうね。」
レミリア「彼女の事だから、多分彼の命を取らなきゃならない。そうよね?」
霊夢「したら、私は」
レミリア「霊夢、冷静に考えてちょうだい?彼女にとってこれは仕事よ。…でも、小町にあってると仮定して、彼のパスはまだ続いてる。…おかしいと思わない?」
霊夢「………。」
レミリア「おそらく小町は、彼を助けるわ。なんでか知らないけど、小町が自分の仕事を反してまで彼を助ける。理由は…本当に分からないけどね。」
霊夢「…。仮に、拓斗を殺したら?」
レミリア「それは無いでしょうね。現状の判断しか出来ないからなんともだけど、彼との霊力パスを感じ取れる間は、少なくとも生き返る保証はある。しかも、五体満足でね。」
霊夢「……。」
レミリア「だから、パスが繋がってるあんたが付き添いなさい。霊夢が拓斗にしてあげれる事なんて、それぐらいよ。できる仕事をしなさい。」
霊夢「……。………。分かったわ。そうする事にするわ。」
レミリア「…ほっ。…そうしてちょうだい…。」
そうした出来事を得て、今がある。
咲夜「本当に…生きた心地がしなかったです…。」
レミリア「それほど霊夢が彼を気に入ってるのよ。…私も、不思議と彼には期待してるの。」
咲夜「えっ?」
レミリア「この、何も無い酷く平凡な幻想郷という箱庭に、彼は多くの問題を持ち込むわ。そうして持ち込んだ問題は、周りを巻き込み彼自身を強くすると同時に、彼に関わった全ての人間が自分は何たるかを再認識する…そんな気がするの。」
咲夜「それって……。」
レミリア「…ふふっ♪分からないけどね♪…でも、私も彼とパスを繋げようと思ってる。」
咲夜「なっ!?」
レミリア「あ、もちろん霊夢には許可済みよ♪『好きにすれば?』ってさ。本当に素直じゃないんだから♪」
咲夜「…つまりお嬢様は…」
レミリア「……。えぇ。霊夢と共に、彼を守るわ。今回の件で色々彼には迷惑をかけた。それに…悪くないでしょ?♪霊夢と仲良くするのも…♪」
咲夜「は、はぁ。」
レミリア「そもそも、今までがよそよそしすぎたのよ。これからはよりいっそう…交流を増やすわ♪拓斗くんと一緒なら、少なからず退屈になる事はないでしょうしね♪」
紅茶の入ったティーカップを手に持ち、1口飲み込んでから嬉しそうに窓辺を見つめる。
そこから映るあらゆる景色。色とりどりの景色の中、そこに一際キラキラしている景色。それを見つめながら…
フラン「拓斗ぉぉぉ!!♪」
拓斗「おい!おいコラ待てゴラァ!こっちは羽もなんもねぇーんだぞ?!!飛ぶのは卑怯だろ!!」
フラン「アハっ♪あははっ!♪あははは♪♪」
レミリア「……♪ふふっ♪」