そしてさすがに箒さんいままでチョイ役過ぎたのでこんな描写あってもいいよなー、というわけで今回は万と絡ませてみました。
それでは今回分どぞ
クラスリーグマッチの次の日、いつものように早起きした万は外の空気を吸っていた。
研究所勤めの時の癖で万は早起きしてしまうのだ。もっとも、早起きして嫌なことといえば暇なことくらいなのだが。
一応、日課とはいかなくてもたまにする程度のランニングをしていた。とはいえど、一回のランニング量は特に決めず、少し体力的にきつくなるくらいまでそれなりのハイペースで走った後、少し休憩を挟んでそれまでに走った量から鑑みた量をさらに走る、いわばインターバル走だ。かつて、裏の―――暗部の仕事をしていた時はほぼ日課のようにやっていたので、少なくとも同年代の平均以上には体力があった。暗部で何から何まで能力頼りではあの殺し殺されが当たり前の血なまぐさい世界で生き残ることなど不可能だったからだ。
暗部時代はほぼ日課のようにしていたとはいえど、研究所勤めの時はほとんど走っていなかったし、出勤までを自転車にして、距離から時速を計算、そしてタイムを決め、それをノルマとして走る、といったようなことをする程度になっていた。学園に来てからは走ったことはない。
見たところ、この学園の外周なら数周でちょうどいいだろう、と見当をつけた万はいつか以来のランニングを開始した。
「隣、いいか?」
ランニングを終え、スポーツドリンク片手に座って休憩に入っていた万に後ろから声がかかった。それに万は振り返らずに答える。
「・・・どうぞ。そっちも朝早いんだな」
「私としては剣道の朝稽古をしていただけだからな」
「そうか。それはそれとして、何の用だ?篠ノ之」
長々と話が脱線するのを嫌う万が単刀直入に聞くと、箒は少し間をあけ、重そうに口を開いた。
「なあ、お前にとって力とはなんだ?」
「・・・参考までに、なんでその質問に至ったのかの経緯を聞こうか?」
「それは答えに関係するか?」
「返答による。けど、どういう返答でも影響することは確かだ」
「そうか・・・」
そういってまた黙り込む。横目で何やら考えている様子の篠ノ之を見て、一口スポーツドリンクを飲んだ。
「・・・私は、一夏の隣にいたいんだ。だけど、今の私では一夏の足を引っ張るばかりだ。前のクラスリーグマッチであのISが乱入してきたとき、私はとても不安になったのだ。万が一、お前たちが止められず、あれが一夏のもとに向かっていったら。もし、あれが群をなしてきて、一夏が前線に立つことになったら、と。そういう時に、私は一夏の隣にいたい。ただ弱者として、守られるだけじゃいやなんだ・・・!だから力がほしい。一夏を守れる力を・・・!だから、一夏を負かしたお前に聞きたい。お前にとって、力とはいったいどういうものなんだ・・・?」
自分の気持ちを吐露する箒を見て、嘘をついていないと思った。最悪、生体電流をよみ、嘘をついているか否かを読み取ってもいい。だが、箒の目に迷いはない。こいつは、本気で、
(一夏を守りたいと思っているのか・・・)
その思いが一つの言葉を紡がせた。
「一夏も果報者だな・・・」
「は?」
あまりにも自分が予想していたものとは違う答えに箒は妙な声を上げた。それに対し、ただの独り言だから気にすんな、というと、万は考える。
しばらくの間ののち、万は答える。
「まず先に言っておく。これはあくまで俺個人の意見だ。同じ質問を凰やオルコットにしても、それぞれ違う返答になると思う。少なくとも、俺とは違う返答になることは言っておく。それでもいいか?」
「当たり前だ。そんなのは承知の上で聞いている」
「ならいい。結論から先に言うと、俺にとって力がどんなものなのかというのはわからない。俺にとって力とは、自身の身を守るためのものだったから、たぶん誰かを守るための力というのは、それとは少なからず異なるものなんだろう。クラス代表を決定するときのこと、覚えてるか?」
「ああ。おそらく、忘れることなどできん」
「だろうな。俺にとっては、銃火器を使った戦いなんか結構日常茶飯事って時期があったんだ。だからこそ自分も銃を携帯してる。今も癖で、な。だけど、さすがにそう簡単に死ぬわけにもいかんからな、そのために力をつけた。そのための力が・・・」
そこでいったん切ってスポーツドリンクのボトルを空中に浮かせる。それからさらにキャップを取り、ドリンクを操ってらせん状に出す。それを一滴も漏らさずに元のボトルに戻してから続けた。
「・・・この力であり、体術であり、敵が持っているかもしれない物の知識だ。つまることろ、護身の延長線上ってわけだ。だから、ベクトルの違う力っていうのはわからない」
「そうか・・・」
理論立ててわからないといった万の言葉に失望した様子の篠ノ之。そんな様子の彼女に、だがな、と万はつなげる。
「お前にも強さがある。自分は弱いといえる強さだ。そして強くなりたいという向上心もだ。それを失わなければ、いつかあのバカ念仁の隣に立てるようになるだろうよ」
「そうか・・・。って、バカ念仁?」
一回穏やかに笑んだ箒だが、万の言葉に疑問を呈する。
「ああ、一夏のこと。バカで朴念仁だからバカ念仁。あんた、あいつに惚れてんだろ?」
「なっ・・・!」
その言葉に箒の顔が赤く染まる。その反応に万は人の悪い笑みを浮かべるのをこらえるのに苦労した。
「反応みてればわかるっての。まあ、気づかねえあいつもあいつだけどさ。もすこし素直に開き直ったほうがいいんじゃねえか?あのバカには」
「そ、それはそうなのだが・・・。どうも本人を目の前にすると・・・」
「ま、それはどうでもいいとして」
「どうでもよくない!」
その反応に万は面白いものを見つけたと思いながら話題を切り替える。
「そっち、剣道の朝稽古をしてたって言ってたよな?」
「あ、ああ」
「なら、俺と打ち合ってみてくれないか?どうにも剣筋に癖があるみたいでな、ちょっと見てほしいんだよ。今度時間がある時でいい」
「いいぞ。さっきの礼もあるしな。だが、防具の予備はないぞ?」
「なくていい。その代り、得物は竹刀じゃなくて木刀で頼む」
「わかった」
その返事を聞くと、万はそのまま自分の部屋へ戻って行った。
そしてその日のSHRで山田先生が切り出した。
「今日は、皆さんに転校生二人を紹介します」
その言葉に教室全体がざわめく。そんななか、声をかけられて入ってきたのは“男子の”制服を着た金髪の少年と、片目に眼帯をした銀髪の少女だった。
「ではまずデュノアくんから、自己紹介を」
それに金髪のほうが反応する。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。よろしくお願いします」
中性的な少年のその言葉に先ほどまでのざわめきすら影をひそめ、教室は静かになった。
過去に似たような体験をしている身として一部はとっさに耳をふさいだ。直後、黄色い歓声が爆発した。
万が聞き取れた限りで、守ってあげたくなる系、かわいい、抱きしめたいなどなどその他もろもろの勝手な声があった。この熱烈な反応にデュノアですら動揺している。
それには千冬の「静かにせんかバカ者ども!」という一喝で一気に教室は静かになった。
「お前も挨拶をしろ、ラウラ」
「はい、教官」
千冬の言葉に今度は銀髪の少女が反応する。織斑先生だ、という千冬の言葉をどこか遠いところで聞きながら万は思考する。
(ラウラ・・・まさかな)
そしてその少女は口を開く。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
それだけ言って後は何も言う気配がない。
「え、っと・・・以上ですか?」
「以上だ」
きっぱりといった口調で言い切った少女に周りはざわめく。その中で万はというと、
(マジだったーーーー!?)
動揺を隠すのに必死だった。
そんな万の様子などつゆ知らず、ラウラはつかつかと一夏のもとに歩いていくと、その頬をひっぱたいた。
「私は認めん。お前があの人の弟であるなど・・・!」
その声はけして大きくなかったが全員に聞こえた。
何とも言えない雰囲気になってしまった空気を千冬の言葉が破った。
「今日は2組と合同でIS実習を行う。各人は速やかに着替えてグラウンドに集合しろ。それと、織斑に黒川、デュノアの面倒を見てやれ。以上、解散!」
その言葉とともに万は一夏の席に向かう。一夏は最前列だからデュノアもそう来ると推測した結果だった。結論から言うと、その通りだった。デュノアとほぼ同タイミングで一夏のもとにつく。
「君が織斑君?初めまして、僕は・・・」
「ああ、挨拶とかはあと。とにかく今は移動するぞ」
「そうだな、面倒なことになる。こっちだ」
デュノアが何か言いかけたが一夏が遮り、万も口添えをする。
そして三人は走る。
「女子は教室で着替えるけど、俺らはアリーナの更衣室で着替えるんだ。さっさとしないと囲まれるから早く移動しないと面倒だぞ」
「囲まれるってどういう・・・?」
「そのまんまの意味だ。次の授業担当は厳しいから早くいかないとやばいぞ」
そういいつつ三人は走る。が、その行く手をふさぐように女子が教室から出てくる。デュノアに気づきなにやらわーきゃーと騒ぐがどうにか三人は切り抜ける。
何とか包囲網を抜け更衣室についたときには二人とも息が軽く上がっていた。もっとも、道をふさがれそうになると万の「どかなかったら吹っ飛ばす」という事実込の脅しが効いたこともあるのだが。
「・・・結構大変だね・・・」
「だろ?だからさっさと移動しないと面倒なんだよ」
息を整えながらしゃべるデュノアに万は着替えを出しながら答える。こちらは息が全く上がっていない。
「というか、お前はなんで息が上がってないんだよ・・・」
「俺にとっては軽いランニング代わりだからな、この程度じゃ問題ねえよ」
「マジかよ・・・。ま、それはともかく。俺は織斑一夏。一夏でいいぜ」
「黒川万だ。よろしく頼む」
「シャルル・デュノアです。よろしく、一夏、万。僕のこともシャルルでいいよ」
お互いに自己紹介が済んだところで万は近くの時計に指を向けつついう、
「まあ、そんなとこにしとけ。時間やばいぞ」
「うわ、ほんとだやべえ。うちの担任、時間に厳しいから遅れると怖いぞ」
そういいつつ二人は制服のボタンに手をかける。それを見てデュノアは顔をそむけた。それを疑問に思った万は声をかける。
「ん?どうしたデュノア」
「え?ああ、なんでもない。それより、僕が着替える間、あっち向いててくれない?」
「まあ、人の着換えをじろじろ見る趣味はないし・・・」
「そーだな。俺たちホモじゃねえし」
そういって二人ともいわれた通りにする。
「なんでもいいけど、早く着替えろよ?」
「え?何か言った?それと、もういいよ」
その言葉に驚きつつふたりが振り返るとそこにはISスーツを着たデュノアがいた。それに対し一夏が声を発する。
「・・・着替えるのめちゃはええな。コツとかあるのか?」
「え?しいて言えば慣れかな・・・?」
「そういうものなのか・・・」
「そういうもんだ。それと、お前は口と手を同時に動かせるようにしたほうがいいぞ」
その言葉に驚き横を見ると、そこには同じくISスーツを着て片手を腰に手を当てた万がいた。それを見てやべ、と一言漏らし一夏は急いで着替え始める。それを横目に、万はデュノアのISスーツを見て、一言漏らした。
「そのスーツ、着やすそうだな」
「まあ、デュノア社製のオリジナルだからね」
「・・・ああ、なるほどそういうことか」
「えっと、どういうこと?」
会話の過程でどういうことなのか察した万に着替え終えた一夏が問いかける。
「デュノア社はフランス内ではそこそこ大きなIS企業だ。で、おそらくこいつはデュノア社の社長子息なんだろ。・・・違うか?」
「ううん、違わない」
それに一夏も納得のいった表情をする。
「ああ、なるほど。・・・道理でな」
「え、何が?」
「なんていうか、気品みたいなものが感じられたから、いいとこの育ちって感じがしてな。納得した」
そう言われた瞬間にどこかデュノアの表情が曇ったのを万は見逃さなかった。
そして、グラウンド。
「本日から実習を開始する。まず、戦闘を実演してもらう。凰とオルコットは前に出ろ。専用機持ちならすぐに始められるだろう」
その言葉に気の進まない様子で二人は前にでる。そんな二人に千冬は耳打ちした。
「まあそういうな。あいつらにいいところを見せれるチャンスだぞ?」
その言葉に二人とも急にやる気を出した。
それを見てデュノアは一夏と万に小さく話しかける。
「先生、二人になんて言ったんだろう・・・?」
「・・・俺が知るかよ・・・」
「背中向けてたからわからんな」
「ん?それってどういうこと?」
「読唇術できるんだよ、俺」
「なるほど」
そんな会話をしていると、
「どいてくださーい!」
空から何か降ってきた。周りの生徒は即座に避難するが、一夏と万は回避しなかった。回避できない様子の一夏とは対照的に、万は片手を前にだした。その瞬間、まるで急ブレーキがかかったかのようにその何か―――ISが止まった。そのまま息をゆっくり吐き、手を下ろす。すると、ゆっくりとISが地に足をつけた。その様子を見て、ため息交じりに万はつぶやく。
「全く、教員がなんで飛行の態勢をあそこまで派手に崩すんですか・・・」
「ははは・・・言い返せません」
そう、そのISに乗っていたのは副担任の山田先生だった。
「お前たちには山田先生と相手してもらう。山田先生は元代表候補だ、全力でかかれ」
その言葉に二人は乗り気ではないが、そんな様子を見て薄く笑いながら千冬は言い放った。
「安心しろ、今のお前たちならすぐ負ける。・・・それでは、はじめ!」
その言葉とともに三人は飛翔する。
「デュノア、山田先生が乗っている機体の解説をしろ」
その言葉に答え、デュノアが解説をしている間に二人がもつれ合う形で墜落していた。それを確認して千冬が言う。
「これが教員の実力だ。以降、教員には敬意をもって接するように。次にグループになって実習を行う。では分かれろ」
そういってそれぞれ分かれる。が、人数は一夏とデュノア、そして万に集中した。やはり男子ということで注目されるのだろう。
それぞれ、ISの実習を行っていく。しばしばISをしゃがまず降りてそれをコックピットまで運ぶということがあったが、大きなハプニングもなく、ISの実習は終わった。
そして、昼。万は食堂の前で壁に背中を預けて待っていた。
(さて、あいつのことだし、そろそろ来るかな・・・)
そう思っていた矢先、目的の人物が現れた。
「待たせてすみません、黒川殿」
「待ってねえから安心しろ。こっちが呼んだんだしな」
そういって微笑むと、万はラウラとともに食堂へ入って行った。
「しかし、なぜ貴公がこのようなところに?」
自分の食事を食べながらラウラが切り出した。それに万も昼食を取りながら答える。
「見ての通り、生徒だよ。表向きは一応ただの生徒。ま、かつて何をしていたのかを知っているのはあんたくらいだとおもうぜ?察してるやつはいるかもしれんが」
「そういうことを言いたいのではなく!」
「なんでこんなことろで腐っているのか、とでも言いたいのか?」
冷静に返されたその言葉にラウラは黙り込む。その様子を見て「図星か」といった。
「俺としては腐ってるつもりなどない。俺はな、ラウラ。学園都市で得た力を使わなくなってよかったと、割と本気で思ってるんだよ。俺の力は殺しの力だ。使わないに越したことはないんだよ」
「しかし、ある力は使うべきだ。使わないなら教えるべきです」
「誰に教えるっていうんだ?人を殺すための技術を、また誰かに教えろと?」
さらに言いつのろうとしたラウラは、相手の腕がかすかに震えていることに気づき、発する言葉を変えた。
「・・・すみません、出過ぎた真似をしました。貴公の判断は貴公だけのものであるというのに・・・」
「気にすんな。お前はあの時からそうだからな。根っからの軍人だし、それしか知らない。むしろ変わってなくて安心した」
そういうと空になった容器の前で合掌する。
「あ、それと。その昔の言葉遣いはいい加減やめろ。ここでは俺もお前もただの生徒だ、最低限周りに人がいるときはわざわざ敬語を使ってくれるな。周りからも不審がられるし、なにより俺がむず痒い」
「・・・わかり、じゃなくて、わかった。えっと・・・」
「万でいい」
「では・・・万、さん」
少し言いづらそうに言うラウラによし、と言って微笑むと万は切り出す。
「そういえば、お前らの件の部隊はどうなったんだ?」
その言葉にラウラは軍人の顔になって言った。
「結論から言えば、件の部隊は実現しませんでした。絶対数が少ない以上、全員が専用機を持つというわけにはいかず、結果的に特殊部隊の中の数人に専用機を配備することで落ち着いています。今私が所属する部隊では、私を含め三人が専用機を所有しています」
「へえ、てことは部隊の中では結構階級は上なのか?」
「今の階級は少佐で、部隊の隊長を務めています」
その言葉にはさすがの万も驚いた。
「わーお、そいつはすげえ、大出世じゃん。お前の年で少佐なんて」
「恐縮です」
「そうか、あの時の小娘が・・・そうかそうか・・・」
そういってまた微笑んだ。それは、まるでわが子の成長を喜ぶ親のようだった。
「ま、それはそれで苦労もあるだろうが・・・まだ人生は長い。せいぜい悩めよ。俺も悩みなんざ尽きねえんだからよ」
万はかつての教え子にそういうと空になった食器を返しに行った。
はい、今回はここまで。
なんというか、プロローグみればだいたいこの二人の関係は察せれるのでは、というか書いてるし。と我ながらにしておもいますが・・・そんなの気にしない。
こうやって考えると平均文字数20000とか言ってる人って半端ないなと思います。ちなみに今回は約7000字。・・・ただ切るところの問題か・・・?まあいいや。
実を言うと別所で違う二次創作を書いていて、そちらも書かなくてはいけなかったり、バイトが始まったりで、たぶん投下ペースが落ちます。あしからず。
ではまた次回まで。