【完結】IS―二人目は万能の天才!?―   作:緑竜

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はい、どうも。

なんか、もうそろそろ区切りなのにきつい・・・orz

つってもそこまでこの作品を投げるつもりはありませんから。
かなり駄文なのは認めますが。

では今回どうぞ


21.嵐の後

騒動がひと段落して、二人は保健室にいた。もっとも、正確には“二人と一人”だが。

 

「んで、こいつに何やったのか、いい加減説明してくんねえか?」

 

人払いが済んだところで、麦野がやや喧嘩腰に万に言った。

 

「どうやらこいつの体には監視用のナノマシンが埋め込まれてるらしくてな、降参させるのが難しかったわけだ。でだ、ならそいつを取っちまえばいい。だけど、そのままおとなしくとれる代物とも思えねえ。だから、一回コールドスリープ―――簡単に言っちまえば冬眠状態にしてからナノマシンを摘出、そっちの援護に向かって今に至る、ってわけだ」

 

「止血はどうしたんだよ?」

 

「そもそも、コールドスリープにした時点で血の流れとかも止まるからな。あふれた分は俺の能力で回収済み。それに、傷口は何とか縫えたみたいだしな。あとはほかっときゃ体の自己治癒力で治るだろ」

 

「・・・つくづく、お前の謎さに拍車がかかってきてるな」

 

「そうか?・・・さて、と。頃合いだし、そろそろ目を覚ましてもらうか」

 

そういって万は寝ている少女に手をかざした。その瞬間、寝ていた少女―――セレネは目を覚ました。

 

「やあ、ご機嫌いかがかな、レディ?」

 

そんな気取った彼の声には反応せず、ただただぼんやりしたような声で相手の少女はつぶやいた。

 

「・・・ここ、は?」

 

「IS学園の保健室。っていっても、周りに人はいないから安心して」

 

珍しく丁寧な口調で説明した麦野の顔を見てセレネはまた軽く目を閉じた。

 

「・・・あの子・・・デメテルは、何か言ってた?」

 

「なんも言ってなかったぜ。ただ、向こうはあんたが殺されたと思ってるみたいだ」

 

「・・・そう・・・」

 

ぽつりとそういうと、そのまま上を向いて口を閉ざした。その眼は、まるで迷子になって途方に暮れた幼子のようだった。

 

「・・・ねえ、あんたは私の過去・・・見たんでしょ?」

 

「・・・断片的に、だがな。口外するつもりはねえよ」

 

「なら、わかるでしょ? 私にもう、帰る場所なんてないってことくらい」

 

「・・・だいたい、な」

 

「ちょっと待った、全く話が読めないんだが」

 

当人たちだけに成り立つ会話をする二人に麦野は何とか待ったをかけた。その言葉に、セレネが雨だれのように語りだす。

 

「・・・私ね、置き去り(チャイルドエラー)なの」

 

置き去り(チャイルドエラー)

文字から連想できるかもしれないが、これは家族や保護者と連絡の取れない学園都市の子供のことを指す。早い話が、“学園都市の中の捨て子”である。

そして、その特性故に、拾われるところによっては非人道的な実験を行われたりする。無論、いわゆる“児童養護施設”のようなところもあるわけなのだが。

 

「それで、私は研究所に拾われて、そこから命からがら外に逃げてきて・・・そんな時に、スコールに拾われたの」

 

彼女の場合は前者のような施設に拾われることとなったのだろう。

二人とも、ここまでは想像通りだったので特に驚くこともなかった。

 

「その研究所ってのはどうなったんだ?」

 

「実験で暴走した私によって壊滅的な被害を受けたそうよ。私が覚えているのは、血が飛び散った赤い光景を細切れに覚えてるだけ。それからは本当に無我夢中だったわ」

 

彼女の見た光景は万も垣間見ていた。そして、その光景と彼女の言葉から、二人は研究所の受けた“被害”をおおよそ察した。

おそらく、研究所の中にいる研究員はほとんどないしすべてがその命を落としたのだ。目の前にいる少女の暴走によって。そして、そんなリミッターが取れた彼女のその能力をもってすれば、学園都市外に出ることは容易だったのだろう。

スコールという人間がどういう手段をもってそんな彼女をなだめたのかは今はとりあえずおいておくとして、そのスコールというのはいったい何者なのかを突き止めることにした。

 

「スコールってのは、亡国企業のボスか?」

 

「そうね、そう考えてもらっても構わないわ。・・・だから、亡国企業に死亡認定されている私に、もう行く当てなんてないってわけ」

 

どこか自嘲気味に言うセレネに、二人はかける言葉を失った。

 

「・・・なら、ここに残ればいいんじゃねえか?」

 

ぼそりと、万はつぶやいた。その言葉が聞こえたのだろう、セレネが上体を浮かせようとする。が、すぐ軽く呻いて体勢を元に戻した。

 

「おいおい、まだ傷は完全にふさがってねえんだから、無理すんなよ?」

 

「・・・あんたが変なこと言うからじゃない・・・」

 

どうやらかなり痛かったようだ。

 

「あんたにIS適性があるかどうか、ってのがネックになってくるけど、ここ一応在学中無国籍扱いだし、ねじ込めばどうにかなんだろ」

 

「・・・お前、かなりむちゃくちゃ言ってること気づいてるか?」

 

「無茶と思ってないから大丈夫。それに、一時期とはいえ女なのに男ですって言って入学できたザル度合だぞ? ちょっと身元引受人とか決めればたやすいっての」

 

「その身元引受人っていうのは?」

 

「大丈夫だ、当てはある。っつっても、俺のほうもたまたま知ったってだけなんだがな」

 

麦野の疑念をあっさりと退けた万に、セレネは不安そうな表情を浮かべて尋ねた。

 

「で、どうすればいいの?私は」

 

「なあに、簡単だ。俺について、その身元引受人のとこまで行ってくれればいい。つっても、今すぐにってのは無理な話だがな」

 

「なんでだよ。そんなの教師陣に話通せば許可なんざ簡単に降りるだろうに」

 

「教師の許可が下りても尋ねる場所のほうの許可が下りねえんだよ。なにせ、学園都市だからな」

 

学園都市。その名前が出た瞬間にセレネがびくりと身を震わせた。

 

「大丈夫だ、相手の身柄とか性格は俺が保証する。ってか、まあ、あれの前で妙なマネを見せたら即刻ホールドアップされるな、うん」

 

「なんだそれ。教師か何かってことか?」

 

「何か、じゃなくて警備員(アンチスキル)だ。前、仕事終わりにちょっと行き会って、特定の住むところなんてないって言ったら半ば無理やり泊めらされたことがあってね。んで、その相手の知り合いがそういうやつを居候させるって人らしいからな。その知り合いも教師らしいし、大丈夫だろ」

 

「IDはどうするんだよ。それがなけりゃ、身元引受人になってもらうこともできねえだろうが」

 

「偽装する。最悪、能力使えばどうにでもごまかしは効く」

 

一応説明すると、IDとはいわゆる身分証のことである。学園都市のほとんどのシステムで必要不可欠なものとなっているため、ないと何かと面倒なことになりかねない。

 

それから、あらかた思いつく疑問をぶつけ、その意思に迷いがないことを確認した二人は軽くため息をついた。

 

「・・・全く、いきなりすぎるわよ」

 

「それには同意だな」

 

「そりゃま、今思いついたことだからな。それとは別口であんたには相談があるんだが・・・ま、その辺はまた今度ってことで」

 

麦野のため息による返答を受け、万はセレネに向き合っていった。

 

「つーわけでだ、近いうちに学園都市に行くぞ。もしIS適性がなかったとしても、あっちで居場所を見つければいい」

 

「・・・そう簡単にいくものなのかしら?」

 

「意外と簡単にいくかもしれねえぞ」

 

どこかあきらめを感じているかのようなセレネの口調に、万は楽観的とも思える口調で返した。

 

「俺だって、こうして表で暮らすのはたまたまだったけどさ。たまたまでも、こうして表の世界で暮らせるようになったんだ。自分からこうして行動しようとしているやつに、そういう機会が訪れないとは考えにくいがなぁ」

 

「・・・まあいいわ。そういうことにしておいてあげる」

 

「そうしてくれ」

 

そういった直後、彼は顔を変えた。といっても、変装したわけではない。ただ、その表情と雰囲気の変化から、まるで別人のようになった、というだけだ。

 

「ところで、あのデメテルってやつのことを聞いてもいいか?」

 

「構わないわ。もう私は亡国企業に肩入れする必要もなくなってるわけだし」

 

「じゃあ、遠慮なく。・・・あいつ、本当に能力者か?」

 

その言葉に、麦野は訳が分からないといった顔をし、セレネは驚いた顔をした。

 

「どうしてそう思ったのか、参考までに教えてくれる?」

 

「あの時、俺はかき消すのではなく、最初は止めようと思ったんだ。あの土でできた牙や礫を、な。だけど、それはできなかった。この時点で考えられる原因は二つだ。まず一つ目は、俺の能力による、現実の事象を改変する力―――便宜上、事象干渉力と称するが―――、こいつが相手に比べ足りなかった場合だ。つまるところ、能力の出力の大きさで力負けを食らった、ってとこだな。だけど、これは俺の能力を発動したときの感触から違うと思った。あまりにも手ごたえがなさ過ぎたからな。だとすると、答えはもう一つのほうしかない。―――言っちまっていいか?」

 

一度説明をやめ、確認を取った万にセレネはどこかあきらめの混じったような声で答える。

 

「なんだ、もうほとんど答え分かってるんじゃない。―――別にいいわよ、間違ってなさそうだし」

 

「んじゃま、遠慮なく。―――で、その“もう一つ”ってのが重要でな。麦野、グループの情報って覚えてるか?」

 

「グループ・・・。確か、土御門っていうリーダー格と、一方通行(アクセラレータ)を要する、暗部有数の組織、だっけか」

 

「そのほかの幹部メンバーについては?」

 

「確か、座標移動(ムーブポイント)と、あとは胡散臭いイケメンとしか知らねえな」

 

「その胡散臭いイケメンのほうの能力、知ってるか?」

 

「・・・詳しくは知らねえな。ただ、なんかものがきれいに解体されてた、とかいう情報なら入ってる。そんくらいなら、そっちの耳にも入ってるだろ?」

 

「ああ。ただ、それははたして、科学側の技術によって起きる事象なのか、ってところが問題だ。結論から言っちまえば、俺はそうじゃねえと思ってる。とある情報筋から入った情報によると、別の人間も似たようなことをしていたらしくてな、しかもこれが発動モーションからそれによって発生する事象までほとんど同一でな、ちょっと調べてみたら、どうやら金星の位置に関係しているらしくてな。で、面白いことにその反射角等が同一と来た。科学側の能力では、そんな特殊な能力が全く同じモーションで発動するなど、まずありえない。ここまではOKだな?」

 

万の確認に二人がうなずく。

この説明の最後の部分を少し捕捉すると、能力において、発動で重要なのは自分だけの現実(パーソナルリアリティ)である。要は、イメージできれば別段モーションにこだわる必要はない。それゆえに、もし同じように右手を上げて能力を発動させる能力者がいたとしても、その人の微妙な癖や個性が出て、厳密に全く同一にはならないはずなのだ。

だが、万に入ってきた報告は、そのモーションの動機が全く同一だった、という話だった。学園都市の計測機器を使った上での分析結果だ、まず間違いはないだろう。

 

「だとしたら、考えられるのはひとつだけ。ありえないとは自分でも思うが、おそらくオカルトだろう。ファンタジーにおいて、一つの呪文では一つの改変しかできないように、そのモーションではおそらくそれしか―――物質をきれいに解体するしかできないんだろう。そして、似たようなことをあの時デメテルはやっていた。だからこそ、能力である俺の干渉は、彼女のほうの改変に対して意味をなさなかった。力のベクトルの種類が違う以上、事象干渉力云々以前に相互干渉が不可能だからな。―――違うか?」

 

その仮説を最後まで聞くと、セレネは()()とため息をついた。

 

「なんというか、情報がそろっていたっていっても、ここまで当てる?」

 

「その様子を見るに、あらかたあたり、ってとこか?」

 

「あらかたどころじゃない、ほぼ全部あたりよ。なんであんたの能力がデメテルの魔術に通じなかったかは私にすらわからないけど、それ以外は全部あたり」

 

「そうか、ならよかった」

 

そういってほっとしたような表情を見せる万に麦野が横から突っ込んだ。

 

「ちょっと待てよ、事象干渉でどうにもならないっていうんならどうするつもりだ?」

 

「簡単だ、事象に干渉できないんなら、事象を事象で打ち消しちまえばいい。つまるところ、地面を操るっていうところまではわかってる。そのうえでそれよりかたい壁で防ぐとか、礫とかなら空気の弾丸で粉砕するとか、いくらでも手はある。さて、俺はそろそろ行くわ。準備とかもあるしな」

 

それお前にしかできないだろ、という麦野のツッコミを華麗にスルーして、万はすたすたと病室からいなくなった。

 

そして、病室から自分の部屋に戻る道中で万は思考する。

 

(魔術、か。これまた面倒なこったな。あいつの話じゃ、魔術と超能力は互いに不干渉を貫いているらしいし・・・)

 

そういって思い浮かべるのは一度だけ仕事を共にした胡散臭いアロハシャツの男の顔。

 

(ま、なるようになる、か)

 

その時点では深く考えず、万は部屋に戻った。

 

 

 

 

それから少し時間が過ぎ、万とセレネは学園都市外周周辺に来ていた。

 

「・・・で、なんでこんなところなのかしら? IDを持っているなら、ゲートからというのがしかるべき筋なんじゃない?」

 

「まあ、そうなんだが・・・。手続きとかが面倒くさいからな、こっから入らさせてもらうことにしたんだよ」

 

そういうと、彼は壁に手をかざした。その瞬間、突然入り口が現れ、その中にはリフトがあった。

 

「・・・こんなとこあったのね」

 

「かなり高性能なホログラムだって聞いてたけど、ここまでとは思ってなかった。おかげで見破るのに手間取った。いやー驚いた」

 

「・・・なんであんたは見破れたわけ?」

 

軽口としか思えないような声音でいう万に中に入ってからセレネが疑問をぶつけた。

 

「あー、あんたもあれか、普段は演算切ってるクチか?」

 

「まあ、ね。いつもあんな演算してたらさすがに疲れるし」

 

「それならしゃーねえか。でだ、見分けれた理由なんだが、まずここらへんに隠し通路があるってことを知ってたのが一つ。それと、ここのホログラム、色彩パターンのずれが妙に論理的すぎるような気がしてな。ここまで密度の濃いホログラムだったら並大抵の通信は通んねえだろ。種がわかればあとは電気信号をちょろっといじってケリだ」

 

まるで当たり前のように

 

「・・・相変わらず規格外ね、あんた」

 

「それは俺にとってはほめ言葉だな。・・・んじゃ、行くぞ」

 

そういって彼はリフトの操作スイッチに意識を傾けた。

 

 

「ところで、なんでこんなところがあるわけ?」

 

リフトに揺られながら、横に立つセレネが聞く。

 

「なんでも、風俗とか行くのに大人どもが使うんだと。どうしても未成年が多い土地柄、そんなもの中にはないからな。頻繁に学園都市外に出る許可もらってると怪しまれるからって理由でこの隠し通路ができたらしい。研究所のほうや首脳陣は大人が多いから黙認されてて、結果、公然の秘密みたくなってるってわけだ」

 

万の口から出たいわゆる“大人の事情”に軽くセレネは笑った。

 

「なるほどねぇ・・・。納得できる理由だわ」

 

「軽くアホらしく思えるのも事実だがな。・・・と、そろそろみたいだ」

 

 

やがて止まったリフトから降りると、万はそのまま先導して歩き出した。しばらく歩いてからセレネが万に聞いた。

 

「そういえば、今どこに向かってるの?」

 

「俺が学園都市滞在中に使ってる部屋だ。あそこなら、俺が出てきてもそこまで不審に思われん」

 

そういってそのままつかつかと歩くと、やがて立ち止まって横にある一つのコンソールに手と目をかざす。すると、音もなくするりと壁に偽装された扉が開いた。というのも、二人ともそれぞれ能力のレーダー(セレネの場合はどちらかというと“ソナー”だが)があったからこそ気づいたわけだが。

 

「・・・これ、一部の人間じゃないと気づかないわよね?」

 

「まあ、な。電気系の能力者には悪いが、不正なハッキングで解除しようとしたらトラップでお陀仏ってからくりになってるから、不法侵入とかの心配はないしな」

 

「・・・結構慎重なのね」

 

「寝てる間くらいはゆっくりしたいからな」

 

「まあ、それには納得だけどさ」

 

扉の中の簡易エレベータを登りきると、そこにはちょっとしたビジネスホテルのような部屋があった。意外と整った部屋に軽く驚いているセレネをよそに、万は部屋の点検を始めた。

 

「へえ、結構設備整ってるのね」

 

「そりゃま、ここがメイン拠点だからな。前帰ってきたときなんかはISの整備もここでやったし」

 

その言葉を聞いてセレネは納得をした。いくら拠点の一つとはいえど、ここまで警備を頑丈にする必要があるのか、とずっと疑問に思っていたものだ。だが、メイン拠点なら多少警備が頑丈すぎるほうが確実だ。

 

「で、この後どうするの?」

 

「例の警備員(アンチスキル)のやつに会いに行く」

 

「今から?」

 

「さすがに今すぐにはいかねえぞ。一服したらちょうどいい時間になるはずだしな」

 

そういって万はコップを差し出した。中には透明に近い液体が入っている。

 

「・・・ハーブティーとは、いい趣味してるわね」

 

「一時期はまっててね、葉がまだ使えたから作ってみた」

 

「へえ・・・」

 

その後、万に言われて二人は腰を掛け、セレネは一口口をつけた。ゆっくりと飲み下すと、心なしかほっと落ち着いたような感覚を覚えた。

 

「・・・ところで、あんたはここをどう思うの?」

 

「正直なところ、何とも言えないな。多面的すぎてコメントのしようがねえよ」

 

「そうね。私はネガティブなイメージしか持ってないから、コメントはなんともできないんだけど。そういう一面も見てみたいものね」

 

そこで一回言葉を切ると、コップをおいてセレネは切り出した。

 

「ねえ。もし、もしもよ? 私がここに残りたいって思うようなことがあったら、そっちのほうの手ほどきもお願いできる?」

 

その言葉に、万は意外そうな顔をした。

 

「・・・俺にできることはする。それでいいか?」

 

「十分よ。・・・ただ、衣類とかは新たに買うことになっちゃうけど」

 

「大丈夫だ。ここはその手のバイトには事欠かない。時給もそれなりだしな」

 

「ならいいけど・・・」

 

そこからさらに一口自分の飲み物に口をつけると、

 

「さて、そろそろ行くぞ」

 

「まだ時間には余裕があるんじゃないの?」

 

「ちょっと寄って行くところがあるんでな。ああ、支度に時間がかかるから、もう少しゆっくりするくらいの余裕はあるぞ」

 

そういって出かける支度をする―――といっても例のボックスに銃器をしまうだけだが―――万を横目に、セレネはゆっくりとコップを空にした。

 

 

 

彼の支度が完了し、万はある部屋に入ると突然振り返り、セレネに向かって何かを投げた。驚きつつも反射で受け取ると、それはフルフェイスのヘルメットだった。

 

「面倒かもしれねえけど、使ってもらわないと俺が面倒なことになるんでな」

 

「どういうことよ?」

 

「タンデムで移動するんだよ。歩くよりよっぽど早いし楽だろ」

 

その言葉に一応の納得をし―――かけて、ふと疑問が思い浮かんだ。

 

「ちょっと待って、免許は?」

 

「もうとってある。いくらほぼ独立国家とはいっても、あくまでここは日本の一部だからな。免許も外のものが使えることはもうすでにリサーチ済み。それに、学園都市内の免許証ならもうすでに偽装してあるから問題なし」

 

そんなことを当たり前のように言う万にあきれつつ、セレネはヘルメットをかぶった。

 

 

 

『ねえ、もっとおとなしく運転できないわけ?』

 

『そりゃ無理な相談だ。だったら恥ずかしがらずにもっとしっかり捕まっとけ』

 

走り出してからしばらくして、ヘルメットの中に備えられた無線でセレネが万に向かって言う。

 

一応補足しておくと、セレネはいくら血みどろの中を歩いてきたとはいえど、精神的にはまだまだ初心な“女の子”である。世の中の暗い部分しか見てなく―――この場合だと“見えてなく”というべきかもしれないが―――世間に対してはどこかあきらめにも似た達観の情があったが、それはそれ、これはこれである。

つまり何が言いたいかといえば、タンデムという否応にして密着する体勢は彼女にとってこの上なく恥ずかしいのである。

実際、胴に腕を回すというだけでもフルフェイスの中の顔を真っ赤にしていた。もっとも、このフルフェイスは目線で照準が読まれることを防ぐためにバイザー部分にスモーク加工をしてあるので、その表情が読まれることはなかったわけなのだが。

 

と、思っていたのはセレネだけで―――ちなみにセレネはその能力の特性上、スモーク加工がしてあることは見破っている―――万はその口調などでどんな表情なのかを読むことができた。

 

閑話休題。

 

 

そんなこんなで、彼らの“寄るところ”とは。

 

「さて、目的地到着だ」

 

「ここがその目的地なの?見たところただのマンションじゃん」

 

「その住んでる人物が問題なんだよ」

 

そんな会話をしつつ、そのマンションの一室の前でいったん止まってドアホンを鳴らした。

 

『はい、超どちらさまでしょうか?』

 

「あー、えっと、黒川だが。麦野さんから連絡受けてないか?」

 

『あ、超ちょっと待ってくださいね。今開けます』

 

そういって出てきたのは小柄な少女だった。

 

「お待たせしました、どうぞ」

 

その言葉を受けて二人は中に入った。案内されるまま部屋にいくと、そこには高校生くらいの男女が一人ずつ、そして小学校くらいの少女が一人いた。

案内してきた小柄な少女に促され座ると、少女も同じように座った。その横に、他の三人も並んで座った。

 

「さて、自己紹介は必要ですか?」

 

「俺には要らねえけど、こいつには必要なんでな。一応頼むわ」

 

万が横に座ったセレネに親指を立てつついうと、その少女はゆっくり口を開いた。

 

「さすがは仕事人(タスカー)。そのくらいの情報収集なんてお手の物ってわけですか」

 

「ま、俺の場合特に情報を持っている必要があったからな。つっても、そこの嬢ちゃんは知らないが」

 

「知らなくて当然でしょう、フレメアがここに来たのは最近ですから。―――さて」

 

そこでいったん言葉を区切ると、少女はセレネに向き合った。

 

「初めまして、ですね。私は絹旗最愛(きぬはたさいあい)です。よろしくお願いします。えっと・・・」

 

「こちらこそよろしく。呼び方は・・・そうね、セレネでいいわ。本当の名前は覚えてないしね」

 

「じゃあ改めてよろしく、セレネ。で、用件ですけど・・・」

 

「無茶を言ってすまなかった。で、どうなんだ、進捗状況は?」

 

「あれくらい、浜面の手にかかれば無茶でも何でもないですよ」

 

「そーいうことだ。ほれ」

 

そういって男のほうが一枚のカードを差し出す。そこには、セレネの顔写真と何やら日付が書かれたものがあった。

 

 

前、麦野に連絡を取ってほしいと頼んだのは、ほかならぬアイテム相手だった。

仕事の都合上、いろんな組織の情報を知っておく必要があった万は、アイテムの一員の手先が器用で、ピッキングはおろか、IDなどの偽装もできると聞いて、本人の計測した種々のデータとともにアイテム側に送り、IDの偽装を頼んだのだ。

 

閑話休題。

 

 

それをセレネがとったことを確認すると、男はまた口を開いた。

 

「それがIDだ。名前はその名前を使ってくれ」

 

机の上に置かれたカードを手に取ると、セレネは目をキラキラという擬音がつくレベルで輝かせそれを見つめた。が、少しするとはっとそれをおさめてそれを差し出した本人に顔を向けた。

 

「・・・失礼しました。ありがとうございました、えっと・・・」

 

浜面仕上(はまづらしあげ)だ。それと、礼はいらないぜ。俺は依頼をこなしただけだからな」

 

「それでもこちらから礼を言う必要があるのには変わりない。それで、報酬なんだが」

 

そういうと彼は量子変換ボックスを三つ出し、机に置いた。

 

「すまない、三つしか用意できなかった」

 

「十分十分。五つってのは理想だって言ってあったろ?」

 

「いや、これくらいのことだ、できれば目標をマストにしたかったんだが・・・」

 

「問題ねえって。それに、これでもここにいる人数分は確保されてるし、問題ねえ」

 

人数分すら確保できてない、というツッコミが入りそうになったが、相手側も納得しているようだ、ということを察して何とかその口を閉じた。

 

「・・・ならいいが」

 

「うん、そういうことにしてくれ。―――ところでだ。麦野は元気にしてるのか?」

 

そこから、仕事の―――あくまでビジネス的な意味で、だが―――顔から、仲間を慮る顔になって言った

 

「ああ、特に気落ちしてるとかいう様子はなさそうだぜ。ほかの生徒からの人気もあるみたいだしな」

 

その言葉に浜面はほっとしたような顔つきになった。

 

「それとは別に、話がある」

 

そこからさらに顔を引き締め、浜面はしっかりと万の顔を見据えて切りこんだ。

 




はい、というわけで今回は以上です。

短いなー、と思っていろいろつけたしていったらとんでもない文字数に。
ちなみに今回、9918文字だそうです。ワオ。

というわけで、そろそろ収束に向かいたいなー、と思っています。
どんなに長くとも後20話ほどでおさめたい、というのが現時点での目標です。

活動報告のほうもお願いします

ではまた次回に。
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