なんというか、だいぶ間が空きましたね。
言い訳させてもらいますと、バイトが忙しくてですね、書く体力すら残らなかったのですよ。
半額セールとか死ねばいいのに。
まあそんなことは置いといて。今回分です。
しばらくして格納庫から出て部屋まで戻る途中、万は麦野に行き会った。
「よお。珍しいな」
「私だってずっと部屋にいちゃ窮屈なんだよ。・・・ところで、そっちは誰と組むんだ?」
「そうだな、候補としてはセシリア、あんた、凰・・・かな」
「含まれてない奴の理由は?」
「ラウラはまだチームプレーがぎこちない。シャルロットは腕はいいが、機体のせいか火力不足感が否めない。篠ノ之と一夏は単純に実力不足。背中を預けるに足りない。会長殿はそもそもが食えないから、信用ができない。で、更識簪は・・・言うまでもないな」
「なるほど、な。お前の機体はオールレンジ型だっけか」
「まあ、な。より正確にいうなればマルチタイプだが」
「そういえば、セシリアは凰と組んだ、って噂がちらほらと・・・」
「まじかぁ・・・。じゃあ、必然的にあんただな。よろしく頼めるか?」
「それはこっちのセリフだ」
そういいつつ握手を交わす二人の目にかすかに挑発するような不思議な光が宿っていたのは、決して気のせいではないだろう。
それからの時間は飛ぶように去った。
簪の専用機は万がサポートに入った影響で一気に開発が進み、順風満帆と言ってもいい状態となっていたのだ。今となっては、開発当初と比べて全体のバランスといったことのみならず、エネルギー消費の軽減、レスポンスの向上、その他もろもろの面でかなりの変化を遂げていた。また、マルチロックオンシステム“山嵐”は誘爆を防ぐため連射式となっている。一度に何発撃つかは調整可能となっている。
といっても、これらすべてにおいて万はソフト面のみにしかサポートに入っておらず、簪はソフト面の重要性を強く考えさせられ。
そして、打鉄弐式のテストフライトの日。万はピットで待機して打鉄弐式の状態をモニタリングしていた。彼女の機体に少なからず携わった身としてこの時に何もせずにいるほど無責任ではなかった。
そのままふわりと舞い上がる打鉄弐式をみて、かなり順調そうだ、という感想を抱いた。だが、どこか一抹の不穏さのようなものも感じていた。その直感に従い、速攻で別ウィンドウを表示させ打鉄弐式のプログラムに一瞬で目を通す。ほかならぬ自分が組んだプログラムに間違いがないことを確認していた時、轟音がとどろいた。
ウィンドウを消すこともなく一瞬でピットから外を見る。そこには右足から黒煙を上げながら錐もみ落下する打鉄弐式があった。それを見て一瞬でウィンドウを操作し非常用コマンドを発動させようとする。それでも気休め程度にしかならないとは思うが、何もしないよりはましというものだ。
どうにかPICで墜落のショックを和らげることに成功し、ほっと一息ついてから外の様子を見ると、そこには打鉄弐式が白式に受け止められる形でその腕の中に納まっていた。
「・・・いったい何人にフラグ立てれば気が済むのかねぇ、あいつは」
誰にともなくぼそりとつぶやいた声に返答する相手はいなかった。
そんな一件があってから少しして、正式に織斑一夏・更識簪ペアが編成された、という話を聞いた。周りからしたらいったいどういう心境の変化だろうといったところだろうが、あの舞台裏を知っている身としては義理堅いのかちょろいのかどっちなのだろう、と割と本気で思うのであった。
だが、そんなことを細かく考えている暇はなくなっていた。もうトーナメントまで日がない。幸いなことに、一夏がある程度人を連れてきてくれたおかげで作業効率は格段に向上した。どうあがいても一人でできることには限度というものがあったからだ。その過程で、先のテストフライトで発生したスラスターの事故―――原因はプログラムの出力設定値が高過ぎたことだったのだが―――も解決した。
何とかトーナメントに間に合う形で行われた第二回テストフライトは目立ったトラブルもなく無事のうちに終えることができ、ほっと胸をなでおろした。
そして、いよいよトーナメントが始まるといった段階でそれは起こった。
どおん!という大きな音と振動。そして連続で表示される“非常事態警報”の文字。
たまたま早い段階での試合だったため、ピットにて待機していた万は、すぐさま飛び出した。
そこには、敵の機体がいた。目視できる限りで5機。ということは、少なくともそれだけはいるということだ。
今から準備していた専用機持ちが一組一機で当たったところで、足りなくなる可能性があるのは目に見える。
「くっそ、麦野!」
「わかってるっての!」
装甲で覆われた顔の中からパートナーの名を叫ぶ。もっとも、彼女のほうも状況を察して出てきていたようだが。
そして、その手には長刀“ナガミツ”が握られていた。
「悪い、一機頼めるか?」
「了解!」
最低限の会話で二人は飛び出す。万が予想した通り、戦闘はあちこちで始まっていた。
一機と剣を交えた直後、万は自身の判断ミスを悟った。
目の前のこいつは、前襲ってきた無人機より数段強い。それを悟ったころには、万は何とか拮抗しつつ時間を稼ぎにかかった。いくら万でも、この相手に勝つのは難しいと判断できてしまったからだ。それゆえに、万はうまく攪乱しつつ戦う。幸いなことに、麦野の機体が比較的遠距離射撃型だったため、万も近距離で戦いやすいパッケージに変更をしていた。それゆえ、ある程度の攻撃は捌くことができた。
戦いながら周囲を見るようにしていた麦野もまた苦戦していた。ナガミツは彼女の
また、ナガミツがなくとも彼女は原子崩しを放つことができる。だからこそ、周りを見つつ能力で追い込み、必殺を叩き込む必要があった。
だからこそなのだろう、彼女は藍色の閃光が空に飛んでいくのを見た。おそらくは万だろう。彼と交戦していた無人機も彼を追って飛んでいく。
その奇怪な行動に、他の無人機も一瞬だがそちらに意識を向けた・・・ように思えた。その隙を見逃さず、麦野は手元のナガミツを一閃する。が、敵はそれを軽やかにかわした。その行動はまるで人が乗っていないとできないような行動で、それを見て麦野は目の前の敵を無人機と断じた。
軽やかに攻撃をかわした無人機だったが、その直後の反撃に移る前に麦野が一瞬で展開した原子崩しによってスラスターと砲門を焼かれ地に落ちた。
その直後、アリーナに轟音が轟いた。敵味方関係なくそちらに注意をやると、そこにできたクレーターには無人機が文字通り真っ二つとなって地に落ちていた。再起不能なのは誰の目にも明らかだった。
そして、その直後にバリアの穴から降りてきた機体に、無人機も含めるすべての機体が釘付けとなった。
日の光を浴びて鈍色に輝く全身を覆う装甲と、手に持った長い細身の西洋剣はまるで中世の騎士を思わせる。そして、その背中にある、同じく鈍色の羽根のような六枚の細長く大型の金属板。これはおそらくショルダーアーマーだろう。
天使降臨。そう形容してもおかしくないような、どこか神々しさすら感じさせる、気高い機体だった。
だが、その硬直も一瞬。空から降ってきた一筋の光条がその機体を襲った。その機体はわずかな動作でそれを回避し、その光は地面に落ちてクレーターをうがった。
そのクレーターを作った発射点に目を凝らすと、そこには無人機とはまた違った二つの機体があった。片方は鈍色に近い銃を彷彿とさせるガンメタ、そしてもう片方はカラスを思わせる漆黒だった。
正体はわからないが、無線をつなごうと一瞬意識をそらした瞬間に、どこからか湧いたのか、無人機がその思考を中断させた。やむなく意識をそちらに向けつつ、仮想ディスプレイに表示された三つの機体の名前を見る。そこには、”JPマルチテストα型“、”JPマルチテストβ型”、そして”
そんなことを考えていると、β型のほうが撃ってきた。しかも一発二発ではなく、一瞬で弾幕を張ったのだ。管制からもこの攻撃に耐えるのは至難の業だと思われた。だが、イージスが背の装甲で受け止めると、その弾幕はことごとく消えた。
そしてちょうど体勢を立て直した瞬間に黒い機体が手刀で襲い掛かる。それをイージスは剣で受け止める。ぎゃりぎゃりと不快な音を立てて両者の力が一瞬膠着した直後、位置を変えていたβ型が再度弾幕を張る。それを今度は槍を器用につかい、回避し同士討ちを狙うが、α型は腕の装甲に鏡面を展開、レーザーをすべて跳ね返す。それに対しイージスはショルダーアーマーのうち一枚を前に持ってきて必要最低限のレーザーを受け止める。
何度か同じように、α型とβ型による絶妙な連携をイージスがしのぐ、ということを繰り返していた時にそれは起こった。
なんと、おもむろにイージスが剣の鍔に近い部分を握ったのだ。体勢からどう考えても防御のそれではないし、目の前にはもうすでにα型が迫っており回避は不可能だ。そして、その手がすばやく刀身を滑った瞬間、眩い光がアリーナを包んだ。あまりに劇的な光量の変化にその場にいた機体がすべて停止する。
ようやく全員の視界が戻った瞬間に雷のような轟音が響いた。その大きさはISの聴覚保護の機能を作動させたほどだ。何事かとそちらを見ると、α型とβ型がもつれ合う形でアリーナのシールドバリアに大穴を開けて墜落していた。どこからどう見てもボロボロとしか形容のできない状態で、もう再起不能なのは火を見るよりも明らかだった。
それを見届けてからか、イージスはいまだに残る小さな穴に向けてその翼を開いた。瞬間、無数の弾丸がバリアを叩き、さらに穴を開いた。その大きく開いた穴から離脱する謎の機体を、無人機を撃破した面々は、ただただ見送るしかできなかった。
かくして、騒乱は過ぎ去り、また穴ぼこもといボロボロになったアリーナの修理のため専用機持ちのトーナメントは中止となった。
出現した無人機は9機、内二機はクラッキングにより暴走した機体。戦闘中に現れた謎の機体についても、情報不十分とのことで一旦保留とする。なお、本件は部外秘とする。
そのような内容が書かれた報告書に軽く目を通し、万は何度目かわからないため息をついた。
「そんなにため息をついて・・・。本当にどうなさいましたの?」
見舞いに来ていたセシリアも万のいつもと違う―――というより違いすぎる様子に、
セイリュウは麦野や件の鈍色の機体とは違いアリーナ外で戦っていた影響もあり、二連戦を繰り広げることとなった。一戦目は辛くも撃墜することに成功したが、二機目はほぼ相打ちとなってしまい、機体の損傷レベルも相当なものになっていた。そんな状態になって操縦者たる彼が無事というわけもなく、万自身も念のため一日は安静、というわけである。
だが、彼の思考を占めているのは、暴走した機体についてだ。
「いや、な・・・。あいつらまで暴走させられて・・・。止めてくれた誰かさんには感謝だけど、三つ子全部がボロボロとはな・・・」
そういってもう一度ため息をつく万に同席していた一夏が問いかけた。
「・・・三つ子・・・ってどういうことだよ」
「今回襲ってきた機体のうちの二機―――”JPマルチテストα型”、”JPマルチテストβ型”の名称が、セイリュウの正式名称―――”JPマルチプロトγ型”とよく似ているのは偶然じゃない。全部、うちのラボで作られた兄弟機なんだ。AIを搭載したうえで、無人での制御、および連携を理想形としたコンセプトで開発が進められたはずだ。もっとも、過去形になってる可能性も、否めないがな」
「・・・それであんなに連携精度が高かったのですわね・・・」
「そりゃそうだ。俺たちが手塩にかけて育て上げた中でも最高の連携率を誇るAIを搭載しているあいつらなんだ」
「そういえば、名前は何というのです?」
「αがブラックバード、βがガンチャリオットだ。ブラックバードが近接に、ガンチャリオットが遠距離に有利な装備をしている。ちなみにセイリュウは両方ある程度こなせるような遊撃タイプだ。つっても、セイリュウはだいぶ俺の手で改造を施されてるから、どっちかっていうと近接に偏った機体になってるがな」
「てことは、ちょうどお互いの欠点を補えるような組み合わせになってる、ってことか?」
「ああ。セイリュウは、ブラックバードと組む時は遠距離に、ガンチャリオットと組むときは近距離に重きを置いて戦う。一番マルチタイプに近いのはセイリュウだと俺は思ってる。が、みんなはセイリュウのことをどっちつかずの中途半端な機体って思ってたみたいだけどな」
その声ににじむ惜しさ、そして隠し切れない静かな怒りに二人は黙らざるを得なかった。
重たくなった空気を何とか打開しようとしてか、一夏が口を開いた。
「そういえば、あの機体はなんだったんだ?」
一夏は具体的にどの機体かは言わなかったが、一体どの機体を指して言っているのかは二人とも理解できた。
「そういえば、何だったのでしょう。特に、あの強い光は・・・」
「あれはおそらく、剣がトリガーだな」
半ば以上に疑問に思ったセシリアの言葉に万が反応した。二人の視線が集まったところで万は言った。
「映像を見た限り、鍔にほど近い部分に手を当てて、その手を刀身に滑らせた瞬間に強く発光してる。ということは、それをトリガーとして剣に内蔵された発光機関が作動したんだろう」
「そんなこと可能なのか?」
「かなり高感度の光センサーを剣に内蔵させて、光量の変化を感じ取らせて、っていうからくりが実現できればな。あくまで仮説でしかないが。ところでセシリア」
ふと突然名前を呼ばれてリンゴを剥こうとしていたセシリアがとっさに反応する。
「なんですの、万さん?」
「お宅の機体、そろそろ細かいバランス調整が必要なんじゃねえか?微妙だけど音が変だったぞ」
「・・・確かに、少し違和感は覚えていたましたが・・・それほどとは思えませんわ」
「だまされたと思ってやってみ。音に変化が現れるってことは多少なりとも歪みが発生してるってことなんだからな」
「・・・てか、音の違いなんて分かるのかよ」
そんな会話をする二人に対し、軽く半目になりながら一夏はつぶやいた
「まあな。俺、絶対音感持ってんだ。そのおかげで結構いろいろ助けられた」
「絶対音感、ってあれか?聞くだけで音程がわかるってやつ」
「そそ。楽器吹いたりするときにすごく便利ってのもあるけど、こうやって不具合をチェックするときなんかにも便利でな。おかげでいろいろ助かったもんだ」
「へえ、万って楽器吹けたんだな」
「まあ、ちょっとだけだけどな。ま、そんなのはどうでもいいとしてだ。セシリア、お前って料理できないだろ」
あくまで万にとっては何の気なしに放った一言だったが、言われた当人はそうでもなかったようで、ぎくりと身をすくませた。その拍子に軽く指を切ったようで、軽く顔をしかめる。
「あー、悪い」
そういうと万は彼女の手からナイフとリンゴを受け取って一夏に渡すと、そのまま切った指を口に含んだ。とたんにセシリアがリンゴに負けず劣らず真っ赤になる。
かなりの時間に思える一瞬の後に万は傷口を見て血が止まっていることを確認すると、絆創膏を取り出した。ほっそりとした白い指にそれを巻きつつ万は言う。
「普通、料理ができるやつっていうのはあんなにリンゴ鷲掴みにしねえ。具体的に言えばいらない力をかけすぎてるように見えたもんでな。今度教えてやるよ、料理を、よ」
「あ、ありがとうございます・・・」
万の側としてはとっさの判断だったため特に何も思うところはなかったのだが、セシリアのほうはまだ恥ずかしかったらしく、お礼の言葉も尻すぼみになってしまった。
というわけで、今回はここまでです。
ここから先は幕間を挟んでアニオリ相当エピから収束に向かう予定です。
ではまた