今回は過去回です。
っていっても、書きながら思った。
つくづくこれ、タイトル詐欺じゃね?
ま、そんなのはおいといて。今回分どぞー。
ここからさきは、あくまで私が知っている話だ。
私が知っているのは、同世代の人工授精で生まれた子供が男だった、ということだ。
後から聞いた話では、最初、女が生まれてくれればうまく育てて体を利用するのもありだったのに、という声が聞こえたらしい。なにせ男性の権力が今より強い時代だ、そんな下衆な考えをする人間の一人や二人いてもおかしくない。
だが、その噂はどんどん聞こえてきた。曰く、言語習得が人より早い、およそ年齢にそぐわない計算でもやり方を一度教えただけで簡単に解いてしまう・・・。
早い話が、絵にかいたような天才児の話題ばかりだった。
だが、そんな話はある時を境にぷっつりと途切れてしまった。今思い返してみると、たぶんこの時期に学園都市に行っていたのだろうな。
そこで何があったのかは私にはわからない。だが、その後、件の“神童”のうわさは半ば伝説としてたまに語られる程度のものになっていた。
そんなときだったな、私があの人と会ったのは。
その頃、私はこの目の関連でいろいろと焦っていた時期だった。が、あの日はしっかりと覚えている。その日は、新たな教官が来るとこちらでもかなり話題になったものだからな。
あの人の最初の一言は、今でもはっきりと思い出せるぞ。
「・・・なにか印象深いことを言ったの?」
「私としては、な」
シャルロットの疑問に一言答えると、ラウラは続けた。
黒川殿は、最初に私たちを見渡すと、こういったのだ。
「今日から諸君らの教官となる、黒川万という。年も近ければ、尊敬などできるわけがないだろう。だから、教官などという堅苦しい呼称も、敬語も使わなくていい。ただし、これは俺限定だ」
これには皆驚いていたよ。軍隊の自己紹介など、教官のようなものばかりなのだからな。あんな自己紹介など聞いたことがなかった。
だからか、私たちは黒川殿のことを、部隊の一員に近いような、そんな感覚で接していたのだ。
彼の訓練は、野戦などの技術ではなく、ゲリラ戦や暗殺に近いものだった。身ごなしの音を殺す術、相手にわかりにくい罠の仕掛け方、格闘術といった、な。おかげさまでそういった手のことはかなり上達できたと思っている。
彼の指導が始まってから少しして、黒川殿から訓練後に呼び出しがかかった。私の身を名指しで、だ。いったいどんな言葉をかけられるのだろう、と考えていると、黒川殿はおもむろに切り出したのだ。
「なあ、ラウラ。お前、なぜそんなに焦っているんだ?」
その言葉に、私は驚いたよ。訓練では、焦りもしていたが、その焦りをできるだけ隠そうとしていたからな。
「・・・別に焦ってなどいない。私は当り前を当たり前にできないことにいらだっているだけだ」
「そうか、なら聞き方を変えよう。なんでそんなにイライラしているんだ?」
うまくごまかそうと思っても、どうやらこの男はきっちりと読んでいたらしい。観念した私は、正直に話すことにしたのだ。
「今までできていたことができない、となれば、いらだつのも当然だろう?それに、周りからできて当然と思われていることくらいできなければいけない物でもある。違うか?」
その言葉に、当時の彼はしばらく黙り込んでしまった。もっとも、当の私としてはしてやったりといったところだったが。なにせ、そんなことを根掘り葉掘り聞こうとする男など、邪魔以外の何物でもなかったからな。だが、彼は違った。
「ラウラがどういう生い立ちで、今どういう状況なのかは聞かない。聞いても意味はないからな。だから、ここからは俺の価値観をもとに話させてもらう」
だが、少し長めの沈黙の後に彼はそう切り出した。
「確かに周りは期待するだろうよ。今までできていたことなんだったら、今回もきっと、ってな。で、こんどそれが完璧にできるようになったら、そいつらってのは絶対今度はそれ以上のことを要求する。それに答え続けるのは、この上なくきついことだぞ」
かなり実感のこもった、重みのある言葉に、私は言葉を失ったよ。
「なぜ、そのようなことが言えるのですか・・・?」
「俺がかつてそうだったからだ。それに、お前はこんな環境しか知らない。俺としては、かわいそうに思えるときもあった。この年頃なら、もっとたくさん、いろんなことを楽しめる年頃のはずなのに、ってな」
そんなことを言ってから、彼は「何言ってんだ俺・・・」なんて言いながら少し照れつつ頬を掻いていたな。その表情が年相応というか、とても幼く思えて、よく覚えている。
「とにかく、だ。この世界にはお前の知らないことがたくさんある。それを知って行くのは、これからでもいいんじゃないか?それが、たとえ周りを裏切ることでも、本当に自分がそうしたいのなら、そうすればいい。俺は、そう思ってる」
そう締めくくると、彼は時計を見てから言った。
「さて、そろそろ休憩終了だ。行くぞ」
そういいつつ軽く伸びをしてからこちらを向いた。その口元はかすかにだが、確かに、笑っていた。それにつられる形で、私も笑ったのだろう。その顔を見てから彼は言ったのだ。
「やっぱり、お前さん、笑うとかわいいな。しかめっ面だけじゃなくて、できるだけ笑うようにしろよ」
そんなことを言ってから走って行った。
それから少しして、彼と入れ替わる形で私は織斑教官と出会った。そこで、私はかつての実力を取り戻すことができた。まだ私はその時の黒川殿の言葉について悩んでいた・・・いや、今もだから悩んでいる、か。とにかく、私はこの人のもとについて行こうと思ったのだ。ただ、それだけだ。
教官を追うようにしてここに来た時にはとにかく驚いたよ。まさか、彼もいようとは思ってもみなかったからな。しかも、彼は休み時間は本を読んでいるか、何やら忙しそうに図面を書いていたり仮想ディスプレイに数値を打ち込んでいるか、だったからな。
そんな折、彼を一度尾行してみたことがあった。その時、彼は整備室に入ろうとし、入る前にこちらに向かって手招きをしたのだ。あの時にはすでに気づいていたのだろうな。
一緒に部屋に入ると、彼は専用機を展開して何やら作業をしだした。その間は特にしゃべることもなく、何のためにここに入れたのか、意図が読めなかったよ。
「・・・意外だったか?」
「あなたがこういうことをしていることが、ですか」
「そうだ。それと、ここにいることも、な」
「・・・正直に言って、意外でした。それに、なぜ本来の能力を生かしていないのか、とも」
「能力っていうと?」
「私たちに教えた技術を使う機会はなくとも、その経験をもとに動くことならできるはずです」
そんな風に言うと、あの人は「ああ、そういうことか」といった。それからしばらく考えたのちに彼はゆっくりと言った。
「なんて言ったらいいかな・・・。俺は、あの経験を生かすことは難しいし、何より俺があんまりしたくない。でもま、俺の思ってるものが武器になったものって結構あるしなぁ・・・。ま、ジレンマってやつだ」
「・・・そういうものなのですか?」
「そういうもんだ。それにな、もういい加減、周りに“お前ならこれくらいできて当然”って言われて振り回されたくないんだよ。ま、そういうことを当然としてやるから向こうも期待するんだろうけど」
「・・・あなたは、一体どういう身の上だったのです?」
純粋に疑問に思った私はストレートに聞いてみた。学園都市にいて、それからドイツの軍に技術を教え、そしてISの技術者。全く接点が見えなかったからな。
「ドイツの神童、って言葉に聞き覚えは?」
その言葉で私は大筋を理解したよ。おそらくは、周りに振り回されるように色々なところを転々としていたのだろう、とな。
「・・・なるほど、あなたがそうでしたか」
「ああ。下らん話ではあると思うけどな。・・・ところで、だ。そっちはもう見つかったのか?」
突然話題を変えられ驚いたが、私は一応の返答をした。
「まだ、わかりません」
「そっか・・・。ま、気長に考えな。そんな簡単に見つかるもんでもないし」
「そういうあなたはどうなのですか?」
「俺もわからねえよ。ぼんやりしたものは、あるけどな」
そういってふと笑った。その時の微笑みは、あの去り際の微笑みとよく似ていて、変わった面影の中にあの人はまだいるのだな、と思ったものだ。
「へえ、そんなこと思ってたんだな」
そんな折に後ろから声が聞こえて、全員がぎょっとしたようにそちらを向いた。
そこには、万が手近な席に座っておそらく夕食であろうパンをかじっていた。
「よ、よう。いたんなら声くらいかけてもよかったのに」
「なに、お取込み中っぽかったからな。それに、面白そうな話をしてたみたいだし」
「・・・いったい、どこから?」
簪の省略された問に対し、万は一瞬茶化してやろうか、とも考えたが、その眼を見た瞬間にやめた。
「教官の時の会話あたりからだ。だから、結構聞いてたと思うぞ」
その言葉に全員が声をなくした。この時間帯、夕食時ということもあり食堂は混雑している。だが、短くない間話を聞かれて気づかないほど全員が鈍であるわけでもない。前から気配を消す技術を習得しているとは聞いていたが、予想以上だったものがほとんどだった。もっとも、その技術を目の当たりにしたことのある箒と一夏は例外的に感心から言葉をなくしていただけだが。
「・・・じゃあ、ハーフってのは・・・」
「ああ、嘘だ。・・・と言いたいところだが・・・わからん、というのが正直なところだ。遺伝子がそういう形なら、一応ハーフってことになるだろ?」
「そんなの・・・」
「ないと言い切れるか?ま、こういう風に生まれてきたのは幸運だったとも、不運だったとも言えるけどな」
「じゃあ、なんでお前は学園都市くんだりなんかに来たんだよ。しかも、あろうことか暗部なんかに」
心底不思議そうに麦野が言った。長いこと学園都市の暗部にいた人間として、まず考えにくいことだったからだ。
だが、それに対する万の答えは、つくづく淡泊だった。
「学園都市には最初、研究者として招かれた。今にして思えば、人件費の安い、それでいて使える人材ってことだったんだろうな。で、研究を進めているときに、俺は能力開発を受けた、いや、した、というべきか」
「どういうことだよ」
「俺は、ある一つの仮想理論を打ち出した」
そういって万は小さなケースを取り出した。中には、小さな物体が入っている。
「こいつはその時、もうすでに発見されていた能力体結晶、通称を体晶って言って、能力を暴走させる働きを持ったものだ。で、こいつを調整すれば、被検体によっては元から持っている能力以上の力を発揮できるのではないのか、って理論だ。で、それを証明しろ、と言われたが、なにせその時は下っ端だったからな。だからこそ、俺は古人に習うことにした」
「古人とは誰のことですの?」
「ペッテンコーファーって知ってるか?」
「えっと、確か、コレラの発症方法を証明した人だよね?」
「そうだ。じゃあ、その証明方法は何だったか、知ってるか?」
「そんなの有名よ。話には・・・コレラ菌の・・・」
そのまま勢いよく言おうとした凰だったが、どんどんとその声は尻すぼみになり消えた。そして、まさかといった目で万を見た。
「もう読めたようだな?」
「・・・どういうことだよ」
いまいち状況を把握できていない一夏が万に聞いた。
「・・・つまりは、俺は俺自身を実験台にした、ってことだ」
その言葉に、今度こそ全員が息を呑んだ。
「初めて体晶を使った時の感覚は、いまだに鮮明に思い出せる。まるで周りがとてつもなくきれいに見えているような、周りの状況を異常なほど把握できているような感覚だ。精度はそのままに、出力だけが段違いに跳ね上がっていた。実験は成功だった。
・・・今にして思えば、そこから選択を間違っていたんだろうな。能力開発を受けたことで、幼かったこともあって俺は暗部の実働部隊に落とされた。そのあとは、何とかしてISの情報を得ようとする上の連中にいいようにつかわれて今に至る・・・。
ま、かいつまんで言えばこんなとこだ」
淡々とした独白に、他の面々は言葉を失った。
「・・・その理論、っていうのは、どうなったの?」
恐る恐るといった様子でシャルロットが聞いた。それに答えたのは麦野だった。
「ほかのやつがほぼ完成させて、それをさらに発展させようとしたやつがいたけど、それをレールガン・・・っていってわからねえな。要するにそっちはつぶされたらしい」
「潰されたって、どういう・・・?」
「そのままの意味だ。拠点に乗り込んで、首謀者が確保されたらしい」
「で、俺は大本の理論の成功例第一号、ってわけだ」
あくまでこともなげに言う万に麦野とラウラ以外の面々は絶句していた。
「・・・ってことは、お前は、望んでその力を得たわけではないのか?」
「いや、ある種望んだ、と言えると思うぞ。必要に迫られて、っていうのでも、十分望んではいるからな。っていっても、そっちにとってみれば強制と大差ないんだろうけど」
「お前はそれでよかったのかよ?」
「少なくとも、後悔はしてないぜ?いろいろと便利だし、この能力に救われたことも多い。俺としては、疎ましく思ったこともあるけど、それでもなくなればいいと思ったことは一度としてない」
すっぱりと言い切った万にその場にいた全員が複雑な表情をした。
「さて、そろそろ部屋に戻んねえと。お前らも早めに戻んねえと、織斑先生にどやされるぞ」
そういって万は席を立った。その何も読み取れない背中を、他の面々は不思議そうに見つめていた。
はい、というわけで。
万の過去が明らかになりました。
後ですね、この場を借りまして。
前活動報告でもちらっと触れた、例の新作ですが、ちょっとづつ書き溜めをしていこうと思います。
と言っても、ただ単に設定を練って、できるだけ隙を潰してから上げたいと思いますが。
ちゃんとこちらは完結させます。
こんな駄文かつ半分以上タイトル詐欺みたいなものですが、あと数話おつきあいをお願いいたします。