なんかもうタイトルが思い浮かばなくなってきました。
そろそろ一気にかけそうなところに差し掛かっているので、ま、こっちはさっさと終わらせれるように努力します。
では、今回どぞー。
しばらく万はしゃがんでいたが、やがてよろよろと立ち上がるとカーテンを全開にした。
「・・・どうだったの?」
かなり顔色も悪いのだろう、シャルロットが心配そうに聞いてきた。それに対して、万は何とか立ちながら答えた。
「とりあえず、意味記憶として―――思い出ではなく意味として、織斑先生の記憶を叩き込んだ。読み取るより脳には負担がかかるはずだから、少し目が覚めるまで時間がかかると思う。それと、意味記憶とはいえど他人の記憶を埋め込んだことに変わりはないわけだから、目が覚めたときに記憶の混乱が見られるかもしれない。ま、その辺は眠っている間に脳が処理すると思うけど」
そういいながらまだ少し残る体晶の効果で自身の脈拍、発汗、体温などを整えた。これで少しはもつだろう。
「・・・なんで、なんで千冬姉は俺に庵のことを教えなかったんだよ!?もっと早く教えてくれてもよかっただろ!?」
「じゃあ聞くが、お前、もし聞いてたら・・・技量の問題とかを抜きにして、庵を本気で落とせたと思うか?」
一夏の激したような反駁は、冷静な万の言葉で掻き消えた。言い返された一夏は口ごもった。
「・・・それは・・・」
「無理だろうな、お前は優しすぎるから。もし殺したら、なんてことを考えるんだろ?だから教えなかった。・・・違いますか?」
「・・・その通りだ。悪かった、一夏」
そういって頭を下げる千冬に、一夏は今度こそ言葉を失った。それを見て、万はそのまま続けた。
「だけどな、一夏。そのやさしさは、お前の長所でもある。使いどころを見誤るなよ。
・・・さて、んじゃま、俺の知っていることを話そうか。ま、といっても、聞きたいことはひとつだろうけど」
「ああ。あの機体、アイギスとは一体どのような機体だ?」
「アイギス?」
ラウラの問いかけに対し、箒と一夏の頭の上にクエスチョンマークが出た。
「あの機体の名前だよ。読み違えるやつも出てくるだろうなーとは思ったけど、ここまでわからないとは思ってなかった」
「どういうことだ?」
それに答えたのはセシリアだった。
「イージスはAegisの英語読み。ラテン語読みだと、これはアイギスと読むのです」
「そうだ。そして、アイギスとはオリュンポス12神の中でも、ゼウスとその娘であるアテナが使ったとされているもので、楯とも肩当てとも、はたまた楯に張った皮だとも伝わるものだ。そして、そのアテナ神は・・・」
そこでいったん言葉を切ったラウラは、万の灰色の目を真正面から見ていった。
「フクロウを従え、灰色の目を持ち、戦いにはその楯と槍を用いた女神であったとされている・・・。夜行性のふくろうのような夜型の生活に、灰色の目。即座に、私はあなたが思い浮かびましたよ」
「・・・まったく、お見事、としか言いようがないな。だが、セシリアはどうして気づいたんだ?」
「攻撃の動きがあなたに似ていた、というのが一つ。そして、決定打となったのはこれですわ」
そういって取り出したのは小型のボイスチェンジャー付のボイスレコーダーだった。
『IS学園の子ね?』
そこから流れたのは、テンペスタの襲撃の時の声。だが。
「これは、あの時の・・・。だが、これは女性の声ではないのか?」
「ええ、このままではそうですわ。しかし、これを100Hzほど下げると・・・」
そういってボイスレコーダーを操作し、もう一度再生をかける。すると、
『IS学園の子ね?』
それはそのまま万の声だった。
「これを初めて知った瞬間は驚きましたわ。その瞬間に悟ったのです。あの機体に乗っていたのは万さんである、と。そういえば、セイリュウには光学迷彩も含まれるステルスがございましわよね?」
「・・・まったく、お見事としか言いようがないな」
言外に降参といった様子で万はもろ手を挙げた。
「俺はアイギスの機体設計者であり、そのパイロットだ。あの機体のショルダーアーマーは福音のアイデアをもとにした。つまり、あれが最強の防具であり、最強の矛でもある。その威力は・・・まあ、過去の戦いのデータを見れば一目瞭然、ってやつだな」
「防具ってのはわかる。だけど、最強の矛ってどういう意味だ?」
不思議そうに聞く一夏に、万は軽く後ろの頭を掻きつつ答える。
「矛じゃなくてもよかったんだが・・・。ま、つまるところ、福音の背中についてる翼は補助スラスターと広範囲攻撃に用いられるものとなっていただろ?あれと同じようなからくりを搭載したわけだ。あと、あれにはもう一つ、俺がつけた、他のISとは一線を画す機能が存在する。っていっても、紅椿には負けるかもしれんがな」
「紅椿には、とは?」
「わからないか?篠ノ之」
いきなり名指しを受けた箒は、最初こそ戸惑っていたが、少ししてからまさかといった風情で答えた。
「・・・エネルギーの回復、か?」
「ご名答。っていっても、さらにもう一つ機能が存在してな。俺の機体には防具たるところに砲門がある以上、そこにいかにロスなくエネルギーを通すか、っていうのがネックだった。そこで、俺は飛行機の機能に目をつけた」
「飛行機?って、なんでそこで飛行機が?」
デュノア社社長令嬢ということでかなりISについて勉強していたのだろうからか、何とか話題についていけているシャルロットがクエスチョンマークを浮かべた。
「飛行機、というより、旅客機だな。旅客機、特に国際線のそれなんかは大量の燃料を積むために、燃料タンクを複数搭載している。要するに、どでかいタンク一個じゃなくてある程度小さくてもタンクを複数積むことで少しでも多くの燃料を積むことを目的としたってわけだ。ISにも同じような機能をつければいい。つまるところ、エネルギー保存箇所を複数作っちまえばいいじゃねえか、と」
その時点で一夏の頭の上に煙を幻視していたが、万は構わず続けた。
「結果は成功。で、問題はこのタンクをいかにして有効活用するか、ってところに目が行った。なにせ、この予備タンクだけで数時間の連続機動もできる計算になったからな。満タンにして戦おうにも、チャージに時間がかかる。
そこで、俺が考えたのは、このタンクにも別口でチャージ機能をつければいいんじゃねえのか、って考え。そこで、砲門が無数に開いていることに目が行ったわけだ。つまり、穴ぼこ状態なら、そこからエネルギーを回収することも可能なんじゃないのか、ってな。
ただ、ここで一つ問題が発生する。エネルギーとは何か、って話だ。セシリア、この世界に、エネルギーってつくものを思い浮かぶだけ言ってみ?」
またもや突然の名指しだったが、セシリアは動揺せずに答える。
「電気エネルギー、熱エネルギー、運動エネルギー、位置エネルギー、光学エネルギー、といったところでしょうか」
「・・・ま、パッと思いつくのはそのくらいだわな。で、位置エネルギーはともかくとし、それ以外のエネルギーはそのエネルギーの二次利用と思える用途がかなり多い。たとえば、電気エネルギーなんかは文字通り電気とか化学反応に使われるし、化学反応で言えば熱もそうだな。熱はうまく使ってやれば電気にもなる。これは光学エネルギーにも共通する。
・・・つまり何が言いたいか、っていうと、エネルギーだとあいまい過ぎるんだよ。で、それらのうち、ISが起動中に発生するエネルギーの一部を、できるだけためれるようにした。ってわけだ。この結果、あの楯は打撃による膨大ないし継続的な物量や衝撃による破壊が発生しない限り、どんな遠距離攻撃も効かない」
その言葉に、全員が絶句した。
だが、そんなのはどこ吹く風と言わんばかりに万は続けた。
「で、あの剣については、実は前セシリアと一夏に言った内容がそのまま答えなんだ。一応ほかのやつにも言っておくと、剣の一部が鞘となっている。で、俺の演算とともに鞘が抜けるようにしたうえで鞘をはずすと、その瞬間にあれ自体がフラッシュグレネード代わりになるっていう優れものだ。ま、大剣から長剣ってのも考えたんだけど、こっちのほうが万が一、機体が奪われたとしても安全だしね。あと、あの銃は引き金をボタンに変えてできるだけシンプルかつスマートにできるか、っていう末の試作品。うまくいって何より、ってとこだけどね」
そういってふっと笑う。その顔は、年頃の青年の顔ではなかった。そこから、さらに気を引き締めていった。
「俺が言える最後のこと。それは、なんでセイリュウが無人で動いていたのか、ってところだ」
「そりゃ、あれが無人運用をもとにした設計をなされていたからでしょ?」
「ま、それもあるんだが・・・。そもそもが、ISを無人で動かせる、ってところに疑問を覚えないか?」
「そりゃ、遠隔で操縦するとか・・・」
「でもそれじゃ、あの時セイリュウが動いていたことの説明がつかない。違うか?」
そういわれた瞬間に、全員の口が閉じた。
「事の発端は、なんでISが女性にしか動かせないか、ってところに発する。そこでだ、女性の人格を与えられたAIなら動くのでは、と考えた。結果は成功で、その過程で作られたのがあいつら―――三つ子で、その気になればAIに制御を預けることもできた」
「ちょっと待って、今までAIでISを動かしたなどという実例は・・・!」
「そう、ない。今考えれば、なぜなのか、というのがわかる」
驚愕の声で問いただす千冬を遮って万は静かに告げた。
「ただし、この仮説を証明するにはある仮定がいる。そのための確認がいる。―――一夏、篠ノ之」
万はおもむろに煙を出している一夏と、何とかといった体の箒を見据えた。
「ISを開発した篠ノ之束氏は、対人恐怖症ないし重度の人嫌い、もしくはそれらに準ずるものがあり、結果として他者に関わらなかった。が、それにも例外があり、その例外の中に織斑先生、一夏がいる。・・・違うか?」
「・・・そう、だ。でも、どうして・・・?」
その言葉を聞いて、
「仮定が成立したところで続けようか。その前に、一つ説明しなくてはならないことがある。それは、AIというのは、大きく二種類に分けられる、ということだ。便宜上、M型とH型としようか。
M型AIとは、膨大な数の条件分岐が重なったものだ。プログラム的に説明するなら、If a then b Elseif c then d Elseif e then f Elseif・・・といった感じに、な。つまるところ、“Aと聞かれればBと答え、Cと聞かれればDと答え、Eと聞かれればFと答え・・・”ってな具合に、な。これはただの言語ルーチンと行動ルーチンの集合であり、その数があまりに膨大なために知性のように思えるだけだ。本質は、ただの機械にすぎん。今の、いわゆるAIはすべてこっちだと思っていい。・・・ここまでOK?」
それに対して何とか全員が理解していることを確認してから、万は続けた。
「対して、もう一つ。H型AIとは、真の知性と言える。早い話が、人間のように考え、心を持ち・・・ってなもんだ。アプローチとしては、機械で人間の脳を再現する、ってことだ。そこに知性を宿すことができれば、そこに宿る知性は、真に“知性”と呼べるものとなりえる。けど、公には成功しなかった。
・・・さて、本格的な説明に入ろうか。
皆さ、親に好みが似るとか、仕草が似るとか、そういったことに覚えがあるだろ?」
それに対して全員が頷いた。
「よし。
でだ、それがAIにも起こりえるなら。それこそ、さっきの説明で言う、H型にそれが起こったら?っていうのが発端だ」
その後、万はほんの少しためたうえで言った。
「俺は、ISコアはH型AIなんじゃないか、と考えている。であるがゆえに、女性しかISが動かせないなんて言う奇妙な現象が起こっているのだろう、とも」
その言葉に、全員が発すべき言葉を失った。ある程度時間を置いたうえで万は説明を再開した。
「続けるぞ。・・・この場合、H型AIのすべての親は篠ノ之束だ。彼女しか知らないのであれば、ISのAI―――便宜上、コアAIと呼称するが―――これは、その影響をかなり色濃く受けることとなるのではないのか?と。ならば、コアAIが極度の人嫌いになることとなることになる。だが、彼女と過ごすうちに、彼女と同じ女性なら、信頼してもいいと考えるようになったらどうだろう、と。おそらく、女性しか動かせない原因はここだ。
コアがブラックボックスになるのなんて当たり前だ。なにせ、人間の脳の構造をどうにかして機械で再現したのだろうから、それを解析しようとしても、人の脳がどのようになっているかなど誰も知りえない。心がどこにあるのか、とかな。だからわからない。
一夏が動かせる原因は簡単だ、人嫌いの例外の中にいたから。だからこそ、一夏を認識したISは動くこととなった」
「ちょっと待って、それがなぜAIでISが動かせるという結論に至るの?」
「まあ、そう急くな。
ならば、H型の、しかも女性の人工知能なら動く可能性は十分にあると踏んだ俺は、さっそく実行に移すとした。っていっても、やり方はこの上なく胸糞がわるいものだけどな。
・・・早い話が、能力で人体のスキャニングをかけたんだよ、俺は。より正確には、人間の脳に、な。そこから得られたデータを解析し、それに共通項を見出した俺は、その部分をもとにH型AIの開発に成功した。そこからしばらくして、女性型、男性型の開発にも成功。
当時のセイリュウたちのプロジェクトには、補助AIに状況分析、そして判断をさせ、その指示にパイロットが従うというものだ。俺たちは、仮想無人状態って表現していた。その補助AIのプログラミングが終わったぐらいにようやくH型AIが完成できたくらいだから・・・かなりかかったことになるのかな。
さらに俺は、俺の暗部時代の戦闘能力をAIに学習させた。なにせ、AIっていってもその正体はまさに真の知性、そこに宿るは人と同じもの。学習は早かったよ。ISコアを用いた仮想の世界で、そのAIたちは俺と同等以上の戦闘力を見せた。たぶん、並のIS使いなら撃墜されるくらいのものをな。
そして、そいつらを実際にISに乗せてみた。結果だけ言えば、今でも最初期の起動のみに人を必要とするが、それだけで動くことがセイリュウによって実証された。もっとも、セイリュウにのみしか実証されなかった、というべきなのかもしれんがな。
でも、最初はセイリュウでさえ動かなかった。だけど、少しずつ反応が良くなった。最終的に、仮想世界並に反応は良くなっていたよ。そこで、この仮説が立つこととなった」
「そういえば、楯無先輩も言っていた。私のIS適性が一気に上がっていた、と。関係があるのか?」
「ああ、大ありだ。
・・・俺は、ISの適正値ってのはIS側からの信頼度が現れた形だと思っている。つまり、ISからいかに信頼されているか。それが適正値となって表れる。
俺が動かせたのは、セイリュウやブラックバード、ガンチャリオットたちが、俺のことを信頼してくれたからだ。そこまでくれば、あとはISのコアネットワークで拡散して、その結果として、アイギスのコアも答えたんだろう。
で、篠ノ之の適正値が大幅に上昇したのは、どんなに時がたっていてもお前が篠ノ之箒だからだ」
「どういう、ことだ?」
「臨海学校の様子を見るに、篠ノ之束という人間はずいぶんとシスコンらしいな。ということは、ISコアも少なからずあんたに興味を持っていたはず。だけど、たぶんあの紅椿のコアは意固地な奴だったんだろうな。しばらくはあんたを信用できなかった。だけど、しばらく一緒に過ごすうちにあんたに心を開いて、それが適正値となって表れた。
・・・これが、俺の仮説のすべてだ」
その仮説を聞き終えた瞬間に、全員がそれぞれの表情を浮かべた。
千冬ははるか友を思いやる柔らかな表情を。
真耶は突拍子もない仮説に対する驚愕の表情を。
一夏は幼馴染の姉の自分に対する思いへの感謝を。
箒は自身の姉からの自分への思いを理解した涙を。
ラウラは人の思いというものがつむぐ超常的なことに対する疑問を。
シャルロットは箒や一夏の向けられる思いに対する羨望を。
凰は離れていても家族に愛される者の幸福への羨望を。
簪は束の箒への感情に対する深い理解を含んだ笑顔を。
そこに音はなく、また誰も必要としていなかった。そこにあるのは、それぞれの純粋な思いが生み出した静寂だけだった。
というわけで。
今回で一応説明は区切りになるはずです。
次からはそれなりにバトル入れつつになると思います。書きたいことそこそこ書けるし。
では、また次回。