なんというか、リアルが結構忙しくてですね。遅くなりました。
しかも話がほとんど進んでないっていう。
とりあえず今回どぞー。
そのまま解散となった後も、彼はその場に残っていた。そこには、いまだ静かに眠る庵がいた。
彼があの時やったのは、彼女が封印された記憶を読取り、それを千冬の記憶を参考にしつつうまく調整させただけである。早い話が、頭の中に入っていた思い出したくない記憶をうまく解き放ったのである。
だが、頭の中に残る、後遺症とも取れるようなものを悟られたくなかったというものがあった。というのも、その膨大な量の情報量を処理したからか、頭の中にまだぐわんぐわんというような感触が残っていたのだ。そして、ある一つの仮説も。
「・・・大丈夫なのか?」
「何言ってるんですか、余裕ですよ」
その場に残った織斑姉弟の姉である千冬から声をかけられた。それに対して、万の答えは一瞬遅れる。
「嘘だな」
その返答は即答で来た。その声はいつものように凛としていたが、どこか淡々としていた。
「そんな顔色で何を言うか。一回鏡を見てきてみろ。それとも、立てないとかいうのではないのだろうな?」
「俺、そんなに顔色悪いですか?」
「お前、気づいてないのか?顔真っ青だぞ」
その声をかけたのは一夏だった。この朴念仁まで見破られるということは相当なのだろう。
「・・・さすがに、疲れているだけです。人二人分の記憶を読み取るってのは、思いのほか疲れました」
「そのうえ、洗脳を無理やり解いたのだろう。ずいぶんと無茶をする」
「ええ、おっしゃる通り。でもま、ここまで体にくるっていうのは、予想外でした。ま、予想外ついでに、思いもよらぬ収穫があったんで、良しとしますけど」
「収穫?」
「
「白式を奪おうとしたり、世界中のISを奪おうとしているのにか?」
「目的が手段を正当化することはないけど、でも目的はいいと思うぜ。
・・・
「・・・なるほど、ISを研究して、ISに含まれた謎を解き明かし、それをもとにしてISによる差別をなくそう、というわけか」
「ええ。ですが、ISは世界に少なすぎるし、何より女性の彼女らが言っても説得力などなかった。だからこそ、彼女らは奪うしかなかった。でも、今読み取った限りでは、彼女らにとってもコアはいまだ未知のものらしいですけど」
「なら、あんたのデータを渡せば・・・」
そう声を上げる一夏に対し、淡々と万は告げた。
「あくまで俺のは仮説だ。正しいと実証できたわけじゃない。もし違う可能性があって、それにたまたまピースがあっただけなら、この仮説は間違ってることになるからな。それに、忘れちゃいかんがコアから男性という生物に対する信頼を得なきゃいけないし、材料とか分からないことだらけだ。俺がデータを渡しても根本的な解決にはならねえ。それに、だ」
そこまで言った瞬間に、千冬が端末を取り出した。その顔が見る間に険しくなった。
「悪いがその説明は今度にしろ、黒川」
「敵襲、高温の熱源が1。違いますか?」
「・・・なぜわかった」
「なんとなく、ですよ。そろそろ来てもいいかなー、って。・・・さて、じゃ、俺は行きます」
「どこにだ」
「勿論・・・」
手近な窓に足をかけたまま千冬の質問に答える万は、どこか無感情な笑顔を浮かべた。
「ケリをつけに、ですよ」
それだけ言うと、そのまま身を踊りだした。左手をまっすぐ前にだし、アイギスを展開する。そして、そのまま上空へ飛び立った。
上空にいたISは万の予想に違わぬ金色のISだった。それに対して対峙するは鈍色のIS。
『・・・念のため、Mをどうしたのか、聞いてもいいかしら?』
上品で丁寧な口調だったが、その中には品定めするような、油断のならない声音が含まれていた。
「生かしたよ。今までの記憶の封印を解いて、な。今はまだ寝ているはずだ。何分、脳に負担をかける作業を行ったものでな」
『・・・そう。ということは、あの子から返事は聞けていないわけね?』
「・・・ああ、そうだ。で、あんたはどうするんだ。ここに来たってことは、まあ、やることはひとつだろうが」
静かに長剣を構える。剣を持った右手を前に正眼の位置で構え、左足は後ろに引き半身に近い体勢で構えた。
『そうね。話が早くて助かるわ』
それに対して相手が行ったのは熱線と思われる細いワイヤーを激しく振動させることのみ。
戦いは無声のまま始まった。蛇腹剣のようなものと長剣が火花を散らすたびに、あたりに轟音が響く。時折距離を取ったかと思えば、互いに砲撃を撃ち合う。その戦いに音はあれど、声はなかった。そのまき散らされる感情が、声以上に物を言っていた。
「なぜ・・・」
十何度目、いや、もっと回数を積んだかもしれない。それだけの回数の鍔迫り合いの時に、ぽつりとスコールが言った。
「なぜ、セレネも、Mも。あなたは助けるの?」
「ただ単に、気紛れだ。それに、情報も欲しかったしな」
腕に込める力は緩めず、そのままの体勢で万は答える。
「なるほど、ね。で、その気紛れであの子たちに危害が及んだら?不幸になったら?あなたはどうするつもり?」
「俺は最初から選択肢を絞ってはいない。あくまで、あいつの希望だったから逃がしたんだ。それだけだ」
「・・・そう」
その言葉で、やり取りは途切れた。鍔迫り合いが終わる。もう一度双方構えなおし、再び間合いを詰めようした、その時に―――
「双方剣を引け!」
間に、黒い蝶のようなISが割り込んだ。バイザーに顔の半分が隠れ、顔を判別するには至らない。だが、その声で、その機体で。双方が、パイロットが誰か当てることができた。
「・・・織斑、庵・・・」
そこにいたのは、黒騎士―――織斑庵だった。
万が飛び出してから少しして、ゆっくりと庵は目を覚ました。頭を襲う鈍痛から、自分は死んでなどいない、と思った。体が楽であることに気付いて不思議がっていると、声がした。
「・・・千冬姉!」
その声は、記憶にあるものより低かった。が、その口調は変わらず。
「わかっている」
そちらの声は記憶にあるものと変わらず。
「・・・目が覚めたようだな・・・庵」
それらの顔立ちは、眼差しは。間違いなく、記憶にあるものの延長にあるものだった。
姉と兄を見たときに、何か得体のしれない物が一気に胸に押し寄せ、とっさに顔を隠してしまった。
「・・・どうしたんだ?」
こちらを慮るような兄の声。
その声に含まれる優しさも、覚えているものと変わらない。
なのに、どうして。
―――嬉しい、筈。なのに、なぜ。なんで、私は、この人たちを、憎いと思っているのだろうか?―――
なんで。どうして。なんでどうしてなんでどうしてナンデドウシテナンデドウシテ。
そればかりが頭の中でループする。
「・・・落ち着け、庵。悪い夢は終わったんだ」
いつもの凛とした声に含まれる優しさ。それすらも、心のどこかで強く拒絶する。
「・・・一夏」
「え、ちょ、千冬姉!?」
驚いたような兄の声と、遠ざかる二つの足音。やがて、少し遠くから声が聞こえた。
「私は少し出ている。大丈夫だと思ったら、枕元のスイッチで呼べ」
その後に、ドアが開閉する音。
そして、静寂。
その後、いろいろ考えた。
自分は何者か?―――織斑庵だ。
マドカではないのか?―――それは昔の名だ。今は庵だ。
庵こそ昔の名前だ。マドカだろう?―――マドカは作られた名前。本来の私の名前は庵 だ。
なら、お前が庵だとして、お前は何者だ?―――お姉ちゃんとお兄ちゃんの妹だ。
妹なら、なぜ憎む?織斑千冬が、織斑一夏が、お前に何をした?―――分からない。
分からないことはないだろう。お前のことだから。―――それでも分からない。
なら、お前は本当に庵なのか?―――そうだ。それは間違いない。
それならば、なぜ―――――――
自分のことに関することが、ひたすらに頭の中でぐるぐるとまわっていく。終わりのない思考だと分かっていても、止まらない。そんな時、心のどこかで、声が聞こえた。
―――泣きたくなったら、空を見上げな。そうすれば、あったかい気持ちになるから―――
無理やりにでも止めようと、ふらふらと窓に寄って行った。たまたまその窓が開いていたのは、はたして幸運だったのか。
目を上げた、そこで火花を散らしていたのは、金色と鈍色。
顔までは見えない。だが、金色のほうは見覚えがあった。数回しか見てないが、あの金色は間違いなくスコールのISのそれ。
ならば、あの鈍色は。その時に蘇る、あの身ごなし。思えば、あの鈍色のISは似ている。一挙手一投足が、それに外見が。とすれば、搭乗者は。
そう思った瞬間に、無意識のうちに庵は窓から身を踊りだしていた。その動作は、まさに先刻同じことをした青年と同じ動きだった。そのまま自身のISを展開して飛翔し、両者の間に割って入る。
「双方剣を引け!!」
その声は、本当に自分でも驚くほど自然に出た。
『M!?』
驚いたような声を、スコールが上げる。常人では流れ弾を食らうのがオチの戦闘に割って入り、その戦闘を中止させたのだから。しかも、それをしたのは自分の部下。驚くなというほうが無理だろう。
「・・・驚いたな、まさかもう目覚めるとは」
「私自身も、少々まだ混乱しているからな。目が覚めたとは言い難いよ」
「それでも、だよ。俺としては、意識が戻るのすらもう少し先だと思っていたからな」
「そうか。だが、今はそのようなことはどうでもいい。今重要なのは、二人が何を知っているのか、だ。まだ私には、知るべきことがある。・・・違うか?」
「違うな」
その問いかけに、万はバイザーを取って即答した。
「今、お前に必要なのは、知識じゃない。知識に関しては、与えれるだけ与えたからな。だから、あと必要なのはお前の決断だ。
これからどうしたいのか。どちらにつきたいのか。
お前が選べ。それは、俺らにはできないことだ」
それに対し、庵はゆっくりとうつむいた。
「・・・私は、もう、道具ではいたくない。それ以外のことは、まだわからない・・・」
「わからないなら、探していけばいい。今は、どちらの手を取るか、だ」
そういって万は右手を差し伸べた。少し遅れて、スコールもその手を前に出す。
「あなたは、私に、私たちにとって、かけがえのない仲間よ。戻ってきてくれないかしら?」
今までに庵が聞いたこともないような優しい言葉。スコールの声をした別人なのではと一瞬思ったほどだ。しかし、違う。目の前にいるのは、まぎれもなく
微かに、本当に微かに、庵の心の天秤が傾いた。その天秤に従って、庵は手を伸ばした。
はい、というわけで。
はたして庵ちゃんはどのような選択をしたのか。それは次回のお楽しみってことで。
では。