今回は新武装お披露目回ですね。といってもテスト光景ですけど。
それでは今回どぞー。
それから暫くはまた整備室に通い込む日が続いた。さすがに休みの日のような暮らしはできなかったが、それでも整備室かアリーナにいることが多かった。そして、庵は万のいるところであればほぼ常にそばにいた。その様子は、ある教員に“実の兄妹である一夏君よりも兄妹のよう”といわれるほどだった。もっとも、言われた当人たちは複雑だったが。
「なあ、無理して俺に付き合うことないんだぞ?」
ある日、万はアリーナで庵に言った。ビットの調整を行ったり、山嵐改良型“
「無理などしていない」
「宿題とかはどうしてるんだ?」
「学校でその日のうちに終わるくらいの量だからな」
つまりは授業の片手間で済ませているらしい。ベクトルは違えど、織斑の血というものはいったいどうなっているのかと少々以上に興味がわくほどだ。
「俺が言えたことじゃねえけどよ、授業は真面目に受けろよ」
「大丈夫だ。ちゃんと答えられるくらいには予習をしている」
どうやら実技重視の天才で感覚肌の姉と兄とは対照的に、こいつは相当以上に頭が切れるらしい。
「そうか、ならいいけど。―――ほい、凩の調整完了。とりあえず出たらすぐに大量の的を連続で出しまくるから、凩で片っ端から撃ち抜いてみてくれ」
「了解」
その言葉とともに庵はカタパルトから飛び出していった。開発者たる自分が言うのもなんだが、凩というのは相当以上にピーキーで使い手を選ぶ兵装だと思っている。それを使いこなしてしまうということは、相当な腕前とセンスの持ち主だということだ。敵にいれば怖いが、味方なら相当に心強い。
そんなことを考えながら絶え間なく機器を操作する。万の腕前をもってしても、休むことなど許さないスピードで状況はめまぐるしく変化していく。もともと背部に備え付けられていたスラスターを改造する形で取り付けられた凩は、最大連射弾数が軽く100を超している。自爆を防ぐために連射間隔を調整する機能もある。だが、最速で100連射を3秒足らずで吐き出すという連射能力は、そのすべてが実弾ミサイルであることを考えると驚異以外の何物でもない。
しかも、光学兵器も発射可能で、その場合
片方の目でパイロットのバイタル、脳波、姿勢をモニターし、もう片方の目で的の破壊状況などを確認する。その速度で確認し続けるのは彼をもってしても相当な難易度だった。これだけあれば十二分というほどのデータが取れたところで、的の出現を停止させ、無線を繋いだ。
「OK、ご苦労さん。戻ってきてくれ」
頭の中でデータを整理する。もともとパイロット側に対する余裕―――遊びともいえる部分がかなり削減された、かなりピーキーな機体だと思っていた。それに合わせて調整した追加武装があることで、相当以上のじゃじゃ馬、もとい化け物に仕上がっている。ISの競技規格を細かく覚えているわけではないが、これでは明らかにそれに違反するか、違反すれすれといったところだろう。もっとも、これほどまでの化け物は彼女以外には扱えまい。
「どうだ?」
「うん、これくらいのほうが私にとっては丁度いい」
技術者としては、これではいくらなんでも兵器側の反応が早すぎて、とてもではないが使えたものではないと思っていた。だが、それを丁度いいとは。
「・・・マジかぁ・・・」
ここからは完全な未体験ゾーンだ。何が出るかわからない。それこそ、鬼が出るか蛇が出るかだ。しかしもうすでに賽は投げられている。一発賭けてみるしかないだろう。
「分かった。技術者としてはこの状態ですらあんまり推奨したくはないんだが・・・。そちらがいいというのなら、続行だ」
「何が悪いのかよくわからないんだが・・・」
「端的に言うと、今のレイクナイトの状態は、機体側の反応が早すぎるんだ。人間っていうのは思考してから体が動くまでに若干のラグがある。考えてから機体が動くまではそれよりさらにラグがあるわけだ。だけど、レイクナイトは殆ど考えてすぐ動く状態だ。並のパイロットなら、まずその動きの速さに順応ができない」
「自分が想定しているより機体が早く動きすぎることで、かえって危ない、ということか」
「ま、そういうこと。だけど、あんたがそれに対応できるってことは、ま、それだけ頭の回転が速いってことか。もしくはそれ相応のトレーニングで培ったか」
「特殊なことなのか?」
「特殊っちゃー特殊。だけどその気になればできると思う。
つーのも、人間はまず神経系が先に発達する。発達度合いとしては、大体ハイティーン・・・っていってあんたにはわからんか。つまりは10代後半までに9割以上が完成するといわれている。んでもって、そのちょっと手前の頃のガキの頃っていうのは物覚えっていうのが滅茶苦茶いい。だから、そういったときに体を積極的に動かしたり、楽器をやったりっていうことをすると、結構先までできるってことがままある。一般的に、この物覚えのいい時期っていうのをゴールデンエイジっていうんだが、その時期っていうと丁度ISの特訓をしていたりする最中だったんじゃないか?」
「ああ、そうだ」
「だろうな。で、その結果、人並み外れた操縦技術と反射及び判断能力が身に着いた。ま、こんなとこかなー。どちらにせよ、
「レイクナイト並、ということか?」
「さすがにここまでエグくはないだろうな。正直言って、これの根幹プログラムを見たときの俺のびっくり度合いは筆舌に尽くしがたいよ。でもま、これより、そうだな、0.1秒無いくらいの差だろうな。そうじゃなけりゃこんなに早く順応することなんざ不可能だ」
会話をしながら、データを一気にまとめていく。的の命中率、命中位置、出現してからの速度、それらを一気にまとめ、分析する。結果は―――
「うん、流石。概ね問題なし。若干ながら、射撃したのと反対方向にある的の破壊が甘いのが気になるけど、まあ、許容範囲。背面への射出口も使いこなしてるみたいだし」
「当然だ。使いこなしてこその武器だろう」
「ま、そりゃそうなんだけど。ロックオンしてぶち抜くっていう感覚さえつかめれば、実弾でも簡単のはず。エネルギーの残量はどう?」
「今回復して・・・大体8割といったところだ」
「いける?」
「私は大丈夫だ」
「OK、じゃエネルギーが回復し次第ゴー。今度は凩の実弾のみでぶち抜いてくれ。これの特性上、弾切れっていうのは発生しないはず」
「分かった」
そこでいったん言葉を切ると、おもむろに量子変換をして後ろを向いた。その手にはいつぞや使ったリボルバー。だが、そのセーフティが解除されることはなく、すぐに銃口を上にあげて再び量子変換で消えた。
「なんだ、セシリアか」
その銃口を向けられた相手は少々怒りのこもった微笑を向けながらこっちに歩いてきた。
「ご挨拶がいささか以上に過激ですわね。思わず背中に汗をかきました」
「悪いな。ちっとばかしテスト中だったからさ。先の件もあってかなり神経質になってた。それに、てっきりおたくらは別のアリーナにいると思ってた」
「今はほかの人たちの順番ですの。わたくし達だけで占領するのはよくないですから。ところで、わたくしは信頼に足るということで?」
「たりめーだ。誰がわざわざ信用できないやつと組みたがる」
その言葉に、セシリアは呆れたように一つ息をついた。
「まあ、いいでしょう。それより、すごい兵器ですわね、先ほどの」
「ああ、あれな。凩っていうんだ。もう一発テストして、本人のフィーリングチェックと調整をするつもり。早い話が慣らしだな」
「慣らしで、あれですか」
「慣らしって言っても結構全快でぶっ放してた節あるけどな。しかも、BT適正はびっくり、計測不能ときた。推定Sオーバー。こういっちゃ悪いが、俺らとは物っつーか、格が違う」
「そうですわね・・・。Sオーバー、ということはもはや申し子ですわね」
「そだな」
そういうセシリアの顔に悲壮感はなかった。そこにあるのは、あくなき向上心だった。
「ところで、レイクナイトというのは?」
ふと思い出したようにセシリアが言った。よく考えてみれば、この改造は一切学校側に伝えてはいない。必要もないのだが。
「黒騎士のままじゃ目立ちすぎるからな。あれ、と思うやつも出てくる可能性がある。そのための処置だ」
「なるほど。確かに、色彩だけでも変えてしまえば、印象は大きく変わりますものね。もっとも、わたくしもわからなかったクチですが。
それにしても、手を加えすぎではありませんこと?」
「ま、それはあるかもな。どちらにせよあの化け物は庵にしか扱えんよ」
「化け物?レイクナイトが、ですの?」
「十分に化け物だ。思考してから動くまでの遊びがほとんどない。パイロットの技量次第で化け物にもポンコツにもなる」
「もはや、じゃじゃ馬ですわね」
「正直言って、俺にも何が起こるかわからん。こんなペースで使って、パーツの耐久とか、その辺が、な。通常のそれより格段に早いだろうってことだけだ」
そんな会話をしていると、唐突に光が発せられた。
「エネルギー充填が終わった。出るぞ」
「OK。・・・悪い、セシリア。ちと静かにしててくれな」
「わかりました・・・?」
この男がこんなことを言うのは珍しい。不審に思いながらも、こいつのことだから何か考えがあるんだろうと思い、従うことにした。
「よし、始めるぞ。カウントダウン。5、4、3、2、1、開始!」
その声とともに無数の的が出現する。少し遅れて轟音。その音は途切れることがなく、連続で続く。まるで花火が絶え間なく咲いているような、そんな轟音だった。ものの見事に出現する端から的を撃ち抜いていく庵とレイクナイトを映すアリーナの映像から少し目を離し、万を見る。すると、そこには二つの画面を見ながら完全なブラインドタッチでコンソールを操作し続ける技師がいた。この的の制御にとどまらず、計測までおそらく彼が行っているのだろう。到底常人には真似ができない技術だった。
(すごい・・・)
思わず、その作業に見とれた。今までになく真剣なその横顔と流れるような手つきに。どんな絵画でもこんな気持ちになったことなどなかった。まるで無駄を一切そぎ落としたような、機能美の究極系。それが美しい。
「・・・OK、戻ってきてくれ」
一言万が告げると、その轟音はやんだ。同時に目頭を押さえて軽く頭を振る。あれほどまでの情報量なのだ、いくら天才、神童と評された彼でも疲弊するだろう。
「お疲れ様でした」
そういいつつ、右手に水筒を量子変換。自分のものなのだが、ここまで疲れている相手に何もしないというのは、己の矜持が許さなかった。
「ああ、・・・ありがとう」
ゆっくりを目を開け、水筒を受け取る。中身はスポーツドリンクだ。多少でも糖分が入っている以上、お茶よりましだろう。
「にしても、すごいですわね。今のは、なんという武装ですの?」
「あれも凩だ」
飲み物を飲んで一息ついた万が答えた。それに、セシリアは疑問を覚える。
「あら、凩というのは先ほどの光学兵器の名前では?」
「凩は実弾、光学両方ともいける。設定を切り替えることでな。正直言って、これはどういう風に調節してもじゃじゃ馬。エネルギー食いまくるし」
「ものすごい兵器ですわね」
「まったくだ」
そんな会話をしていると、庵が戻ってきた。
「どうだ?」
「光学兵器と多少感覚が違うが、問題ない」
「すごいですわね、この兵器」
「そうだな。長時間使うと、流石に疲れる」
そんな会話をする女子二人の横で、時計を見た万が言った。
「そろそろ時間だ。ちょうどいいし、今日は三人で飯と行くか」
「そうだな。私も、オルコットのことを知りたい」
「セシリア、で構いませんわよ。庵さん、とお呼びしてよろしいかしら?」
「問題ない」
「んじゃま、行くか。つっても、庵は一回着替える必要があるけど」
「それに関しても問題ない」
そういうと、庵は虚空から制服を取り出して羽織った。さすがにもう少し羞恥とかそういったことはないのかと思ったが、指摘するだけ無駄だということは学習していた。
「食堂でいいか?」
「構いませんわ」
「私も希望などはない」
「了解。んじゃ行くか」
その万の言葉で、三人は歩き出した。
はい、というわけで。
勘のいい人は前回の内容と今回のサブタイトルで武装の名前にあたりを付けた人がいたのではないのでしょうか。
ちなみにサブタイトルと
百人一首?嵐?どゆこと?って人のために一応解説しておきますと、百人一首の中に以下のような一句があるんですよ
吹くからに 秋の草木の し
で、山”嵐”でこの一句が思い浮かんだので、草木を枯らす風から、凩と命名するに至りました。
それはともかくとし、万君はやはりエンジニアとしての腕前は抜群のようです。それとさらりとフォローのできるセシリア。この手のフォローするには彼女が一番適任だと思いまして。なんだかんだで原作組の中では彼女が一番万君との仲がいいです。
ではまた次回。