【完結】IS―二人目は万能の天才!?―   作:緑竜

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 はい、どうも。

 暑いですねー。昼間PCを起動して書いていると、保冷剤を首筋とかに当てておかないと暑くて動けなくなりそうです。まあ、この暑さの中動けなくなったら間違いなくご臨終ですけど。

 去年夏休みってここまで暇だったっけ、と思いながら書いていたらあっという間に出来上がってました。暇って怖い。

 それでは今回どぞー。


41.日常、そして凶報

 そんなことがあった日から2週目、IS実習の授業がやってきた。その日は、1組と3組の合同だった。

 

「さて、今日から本格的な飛行訓練に入る。これがしっかりできれば、空中戦も容易だろう。三組はこれまでおそらく、飛行しながらの戦闘風景など、行事やイベントでしか見たことがない生徒が多いだろう。そういうわけで、織斑妹、黒川。円軌道のシューターフローを見せてみろ」

 

「それはいいですが、なぜ俺ら二人だけなのでしょうか?」

 

「分かる説明がしやすいだろう。織斑がうまく説明できなくても、黒川ならデータで分析して説明することもできるだろう。お前が手を入れた機体なのだから」

 

 その言葉に周りがざわめいた。少々調整程度ならできるが、データ分析から説明ができるほどに手を入れたりするのは、この学年では万だけだろう。

 

「飛びながらデータ分析しろってことですか?」

 

「そういったつもりだ。朝飯前だろう。通信はつなげたままにしておけよ。こちらで聞こえるようにしておく」

 

(“朝飯前だろう”って、俺でもそこまで楽勝ってわけじゃねえんだが)

 

 内心で軽く反論はするが、それを許さない眼光にその言葉が口から出てくることはなかった。

 

「了解です。んじゃ行くか、庵」

 

「ああ」

 

 その言葉とともに専用機を展開する。展開がコンマ数秒のうちに終わるあたりは、二人とも慣れている。

 

「早・・・」

 

「何を言っている、お前もこのくらいはできるようになれ。・・・じゃあ、飛べ!」

 

 感心する一夏を一喝して、号令。同時に二人が飛んだ。

 

「で、もう始めてもいいんです?」

 

「ああ、始めろ」

 

「了解です。んじゃ、まず円軌道から」

 

 そういって、二人はゆっくりと横に旋回を始めた。

 

「ただ旋回飛行するだけってのは簡単。オートの制御で十分ですから。けど、こうするとデジタル制御だとどうしてもとっさの動きに反応ができない。そうすると」

 

 説明途中で庵が撃ってきた。とっさにかわす。一瞬動きが乱れるが、まったくもって問題ない。

 

「こういうときの回避ができなくなる。少々難しいですけど、マニュアル制御でこれくらいをできるようにしておいても、少なくとも損はないと思います・・・っと」

 

 説明しつつ、撃ってくる庵の攻撃をかわす。

 

「あっぶねー。せめて説明くらいはちゃんとさせてくんねぇ?」

 

 そういいつつ、お返しとばかりに撃ち返す。が、その程度を苦にする庵ではない。

 

「これを捌くくらいは簡単だろう」

 

「いや、説明しながら分析しながら攻撃躱せって結構無茶だからな・・・と」

 

 いつの間にかシューターフローに移行していることに気付いた万は、さらに説明を続けた。

 

「結構自然にやってますけど、これがシューターフローってやつです。今回はお互いに光学系なんで、リコイル・・・銃の反動はそこまで考える必要はないですけど、多少は考える必要があります。実弾系ならリコイルがこれの比じゃないんで、そのあたりまで頭に入れる必要があります。んでもって、お互い立ち位置が固定されていないので、その中で狙いを定めて撃つ必要がある」

 

「そして、相手から撃たれる可能性もある。その時のためのマニュアル操作だ」

 

「そ、つまりは、とっさに回避するのはマニュアルってわけ。だから、こうして撃って躱してをお互いやってるわけなんだけど、その行動は全部マニュアル。最初は疲れるけど、これができなきゃ射撃戦はまず勝てないよ・・・っと」

 

「よし、説明はその辺でいいぞ。私がよしと言うまで続けろ」

 

「了解」

 

 そういって、一気に手の動きを速めた。説明しながらだとどうしてもスピードが落ちる。仕事が一つ減ったのならば言うことはない。

 

「んじゃ、やりますか」

 

 ここからが本当の本気だ。そう思いつつ、銃をもう一丁取り出した。

 

 

 

 そのころ、下では、繰り広げられる光景のハイレベルさに数人の生徒が目を回していた。曰く、「凄過ぎて全然参考にならない」、「前も思ったけど、この二人って本当に候補生じゃないの?」、「努力しても追い付けなさそう」、などなど。だが、それでも目を離す生徒はほとんどいなかった。

 

 やがて、千冬が通信機に向かって指示を出した。

 

「よし、もういいぞ。降下して来い。今日は二人とも5cmを目標としろ」

 

 5cmか。よし、ちょっとふざけるか。

 そう思った万は、庵と同時に降下する。庵は普通に降下したのだが、万はというと。

 

 生徒たちは、藍色の機体が自分たちのほうに向けて落ちてくることに言いようのない恐怖を覚えた。ラウラがとっさに自身の専用機を展開し、AICの発動準備に入る。が、気が付いたらセイリュウは少し離れた地点に着地していた。

 

「2cmちょいか、ま、上等かな」

 

「何が上等だ貴様」

 

 叱責の声とともにIS用の武器が飛んできた。大方近くに置いてある訓練機から出したのだろうが、生身で投げるあたりが千冬である。

 

「生徒たちに突っ込もうとした挙句、それを個別連続瞬時加速(リボルバーイグニッションブースト)で躱せ、などというふざけた指示を出した覚えはないぞ」

 

「本気で突っ込むわけないじゃないですか、()()ですよ。それと、個別連続瞬時加速はちょっとしたパフォーマンスです」

 

「パフォーマンスの度合いを考えろ。さすがにあれは私も気が気ではなかったぞ」

 

「いやー、確かにやっちゃってたら大事故でしたねー」

 

 あははと笑いながら言っていると、後ろから二筋の光条が頭の横を通って行った。ギギギと音を立てるようにそちらを向くと、専用機を部分展開するセシリアと、展開しきったレーゲンのレールカノンをこちらに向けるラウラの姿。

 

「いや、冗談だし、ね?」

 

「冗談でも言っていいことと悪いことというのがございますわ」

 

 にっこりと笑いながら、しかも口調も柔らかいのに、一切柔和な雰囲気がしない。

 

「そうだな、私はかなり当てる気だったぞ」

 

「いやちょっと待て、それやったら割とマジで俺が無事で済まないんだが」

 

「無事で済ませる気もない」

 

 ラウラのほうはいつも通りといっていいのか、相変わらず表情が大きく顔に出ることはないが、かなり怒っているというのが分からないほど鈍くもない。一瞬だが確実に背筋が冷えた。

 

「まあ、とりあえず、二人とも落ち着こうぜ、な?」

 

「ああ、これ以上この授業で無茶をしないことが条件だがな」

 

「分かった、条件は飲むから、機体をしまってくれ」

 

「それはお前が言うことではない!」

 

 一喝ともに出席簿の一閃。その痛みに思わず蹲る。つくづく、あの出席簿には鉄板でも入っているのではないだろうか。

 

「とにかく、専用機持ちのところに分かれろ。ふざけた偏り方になるようならこちらで決める。高校生なんだ、そのあたりは周りを見ろ。以上、別れ!」

 

 

 

 

 その授業では特にトラブルなどもなく、そのまま授業が終わった。その足で整備室に直行する。セイリュウを展開すると、そのままコンソールを一気に操作する。

 

「やっぱりか」

 

 先ほどの授業で、いくら機動力と攻撃力を集中させたパッケージでも、あんなに簡単に大技が成功するとは思いづらい。もう少し難易度が高いはずなのだ。なのに、できた。もう少しマージンがありそうだということくらいは簡単に分かるほどに。

 結論として、得られた情報としては、多くの武装の書き換えなどにより様々な戦闘スタイルを学習した結果、もう間もなく二次移行(セカンドシフト)が発生するということだ。前に一夏の白式をいじったときに出てきた履歴データの一部によく類似した一角が散見される。間違いないだろう。

 開発者兼パイロットとしては、一抹の寂しさと嬉しさがない交ぜになって、妙な心地を生み出していた。以前の庵の時もそうなのだが、まるで子を持った親の気持ちだ。庵の時はそうでもなかったのだが、セイリュウは開発に自分が密にかかわった機体で、その思い入れも大きい。それもあるのだろう。

 万が予想している大規模戦闘が現実のものになったら、まず間違いなく彼の専用機はアイギスとなるだろう。だが、二次移行(セカンドシフト)を完了したとなれば、この機体もただ廃却とはいかない。だが、最悪、この機体には活路がある。それは、もうすでにわかっていた。

 

「やはり、ここにいましたのね」

 

 その声に振り向くと、そこには金髪の生徒の姿。

 

「どうしたんだ、セシリア。機体の調整か?」

 

「いえ、そういうことではございませんの。

 単刀直入に申し上げます。わたくしとお手合わせ願えませんか?」

 

 その目にはふざけていたりからかっていたり様子はない。もとより、セシリアはこんな冗談を言うような性格ではない。

 

「それは、武装チェックの最終確認、ってことか?」

 

「それもありますが・・・。純粋に、力試し、ですわ。あの時から、お互いどのくらい変わっているのか。どれほど上達しているのか。それが知りたいのです」

 

 その言葉を聞きながら、セイリュウはブラインドタッチで端末を操作した。後ろから飛んでくる伊達眼鏡を後ろ手でつかみ、それをかけながら万は聞いた。

 

「だが、アリーナはどうすんだ?」

 

「それについては問題ありませんわ。今日はわたくしの日ですので」

 

「あー、なるほど」

 

 要するにもう場所取りは済んでいるということだろう。その確認をとると、万は歩き出した。その横にセシリアも並ぶ。

 

「時間は放課後か?」

 

「ええ」

 

「分かった。ただし、俺はこいつだ。その辺了解?」

 

 伊達眼鏡のフレームを軽くたたきながら言う。軽い笑みで彼女は返した。

 

「こちらからあれこれ言う筋合いはありませんわ」

 

「OK、ならその線でいこう。で、ちっと急ぐぞ。時間がやべえ」

 

「ですわね」

 

 二人は歩いていたペースを軽いジョギング程度に切り替えた。

 

 

 その日の放課後、二人はアリーナで向かい合っていた。

 

(そういえば、なんだかんだで最近アリーナによく来てるな。ま、仕事がないよりはあるほうがいいけど、忙しすぎるのもどうかと思うな。現に、最近反応が鈍くなってきてるし。ま、とにかく、)

 

 そんなとりとめもないことを考えていると、カウントダウンが一桁まで落ちたことを告げる音が鳴る。すっと頭の中のスイッチを切り替える。

 

(今はこっちだ。さて、やるか)

 

 試合開始。その瞬間に、万は今までとは違い横に飛んだ。いつもなら一気に突っ込んで終わらせるのだが、今回はとりあえず回避をする。しかし、その先にはビットの光。

 

「やべ」

 

 思わず声が出ていた。そんな暇なく、左腕に鏡面装甲を出し切り抜ける。だが、想像以上の弾幕でなかなか躱しきれない。ビット増設させたのは確かに自分なのだが。

 

「さすがに弾幕きちーな」

 

 こうなったら仕方がない。少々のダメージは覚悟を決めて一気に突っ込んだ。その瞬間、周囲を煙幕が包んだ。

その正体にはすぐに気づいた。スモークグレネード。確かにその射出機能は搭載したが、そこまで使えるようになっていたのか。

 

 

「こいつは、やばい・・・な!」

 

 手に持った剣をそのまま横に薙ぎ払う。剣の腹を使ったことによって生まれた風で煙幕が途切れる。ハイパーセンサーを駆使して相手を補足すると、万は切り札を使うことにした。

 

「スラスター追加展開、一気に決める!」

 

 瞬間、横に向けて瞬間加速(イグニッションブースト)。そのまま、もう一度同じ方向に瞬間加速。そのまま手に持った棍を横に一閃、その回転の勢いそのままにもう片手のアサルトライフルをフルオートで乱射。それにより数機のビットを撃ち落とす。安心するのもつかの間、そのまま瞬間加速で後ろ向きに移動しつつ、回転。横に薙ぐと、硬質な手ごたえとともに振り抜く。そのまま数発さらにアサルトライフルを放つ。ドドドン、と大きな音とともに煙がたつ。

煙が晴れる前に、一気に突っ込む。そのまま白兵戦に持ち込む。縦横無尽に攻める万に、セシリアは防戦一方となっていた。

 

(やっぱり、近接だとこっちのほうが上か。このまま押し切る!)

 

 そう思いつつ手を休めず攻める。どころか、高速切替(ラピッドスイッチ)で呼び出した近接武装を駆使して一気に攻めたてる。

 だが、突然万が瞬間加速で横に飛んだ。一瞬遅れてセシリアも横に飛ぶ。その直後、二人が先ほどまでもつれ合っていたところに光が飛ぶ。

 

「あっぶねー、おっかねー」

 

「煙越しに突っ込んでくるあなたが言えた義理でもないと思いますが」

 

 一回仕切りなおして憎まれ口を叩きあう。

 

「まあ、そりゃそうかもしれないけどよ。それより、ここらで分けって気はない?」

 

「勝負は最後までわかりませんわ」

 

 確かに、ブルーティアーズから闘志は消えていない。

 

「そっか。なら、こっからは本気の本気だ」

 

 そういうと、武装を変更。背後の武装の一部も換装する。

 

「さて、仕切り直しだ!」

 

 今度こそ一気に突っ込んでいった。

 

 

 

 戦闘を終えた二人はそろってくたくたになっていた。

 

「いやー、強いな。ここまで苦戦したのは久々だ」

 

「いつまでも昔のままだと思ってもらっては困りますわ」

 

「ま、そういうことだな。とりあえず、反省とかは後回しにするか」

 

 そういうと、臆面もなくその場にごろりと寝転がった。

 

「はしたないですわよ」

 

「いーじゃねーか。俺とセシリア以外に誰もいないんだし」

 

 その言葉に、思わず一瞬言葉が無くなった。頬が紅潮するのが自分でもわかる。もっとも、本人はそういうつもりで言ったわけではないのだろうが。それも含め、さらに二の句を継ごうとしたが、その眼鏡に数列の波が並んでいるのを見て口を閉ざした。

 

「何をしていらっしゃるんですの?」

 

「あー、これ?データの解析。念のため、な。プログラムにバグとかあったりすると、この数列群にも問題が出るからさ。目に見えないバグがあったら大変だし」

 

「ですが、反省は後ほどと今さっきおっしゃっていたではありませんか」

 

「それはそれ、これはこれ。反省をしたところで、今の状態じゃ体が動かないからな。この程度のデータ解析なら、何とかなる。幸い、頭のほうはまだ動くからな」

 

 そんなことをあっさり言う万は、やはり規格外なのだろう。

 

「反省するだけなら今でも可能なのでは?」

 

「分かってねーなー。俺にとって反省は改善のためなの。だから、反省した直後にそれを改善するために動くんだよ。だけど、こんだけ体が疲れてるとなぁ・・・」

 

 そういいつつ、目線はほとんど動かさない。よほど集中しているのだろう。

 

「さて、終わった。このまま寝よっかな」

 

「それですと後々が面倒ですわよ」

 

「それはそうなんだがなぁ・・・」

 

 納得をしてはいるようだが、起き上がる気配は一切ない。どころか、その瞼はどんどん落ちて、やがて完全に閉じられた。すうすうと規則正しい息の音から、完全に寝てしまったということも分かった。

 軽くため息をついて、どうしようかとセシリアは思った。そこでようやく初めて気付いた。万はここまでほとんど休んでいないのではないのか。というより、働いた時間と休息の時間が明らかに釣り合っていないのではないのか。

 考えてみれば当然の話で、セシリアも含めた5人の機体の武装を作って、それに応じた根幹プログラムの改良方針も決め、自分の機体の武装も決め、おそらく試験飛行もし、個々の調整に関する要求まで引き受け・・・と、これだけやっているのに、不信感を与えないように休息は人並み。そんな生活を長く続けていた万は、自分とは比べ物にならないほど疲労困憊だったのではないだろうか。

 そう思うと、自然に体が動いていた。先ほど万が言ったように、ここには万とセシリア以外誰もいない。つまりは、ある程度恥ずかしいような真似をしても、本人たちが悶えるだけで大した問題はない。―――と、言い訳気味に考えながら、するすると寝ている万の近くに寄ると、その頭の下に自分の太ももを挿した。俗にいう膝枕である。

 

「お疲れ様ですわ」

 

 そういいつつゆっくりと額をなでる。すっかり熟睡しているのか、万は身じろぎひとつせず、静かに眠っていた。

 

 

 暫くして、ゆっくりと万は目を覚ました。目を開ける前に、頭の下の柔らかで暖かな感触と、規則正しい寝息が聞こえた。まさかと思いつつ目を開けると、足を延ばして自分を膝枕しつつ、座ったまま眠るセシリアがいた。起こさないように静かに左手首の時計を見る。時間はもうすでに7時を示していた。

 

(やべ、時間。でも、セシリア起こすのも忍びないしなぁ)

 

 少し考えた結果思いついた結論をすぐに実行に移すと、万とセシリアはそこから離れた。

 

 

 

 体を静かに揺さぶられる感覚で、セシリアはゆっくりと目を覚ました。

 

「起こしちまったか」

 

 近くから聞こえた男子の声。すぐに万だとわかったが、理解が追い付かない。自分は今足を動かしていない。なのに、体は確かな前方向の速度を感じている。それに、いつもより少し視線が高い。―――視線が高い?と、そこまで考えたところで今の状況がようやく理解できた。

 

「よ、万さん、あの、わたくしも自分で歩けますので、その、降ろしていただけますか?」

 

 今、万に顔を見られる体勢でなくてよかったと割と本気で思った。そう、万がセシリアを負ぶって運んでいたのである。恰好もお互い制服になっていた。

 

「おう、そいつは悪かったな」

 

 ゆっくりと地面に降ろされる。恰好を簡単に直すと、後に続いて歩く。万は、ふっと背中越しそに声をかけた。

 

「その、サンキュな、その、・・・さっきの」

 

 軽く頬を掻きながら言う。微かに見える耳が赤い。この青年がここまで照れることは珍しい。それにつられるかのようにセシリアの頬にも、いったん冷えた熱が戻ってきた。

 

「あ、いえ、そんな、それほどでも、ありませんわ」

 

 そんな会話をしていると、パタパタと走ってくる足音。

 

「いたいた、やっと見つけた。こんなところにいた」

 

 そちらに顔を向けてみると、庵と凰がこちらに走ってきていた。

 

「お、珍しい取り合わせだな」

 

 今までの照れはいったいどこへやら、あっさりと表情をいつも通りに変えた万は、二人に向かって言った。

 

「まったく、今までどこにいたのよ?みんな探してたのよ?」

 

「そうなのか。アリーナで練習してたらくたくたになって、二人そろってピットで居眠りしちゃってな。で、なんか用件があるのか?」

 

「なんかも何もないわよ」

 

「スコールが来た。万に会いに来た、と。何かアポとか聞いているか?」

 

「いや、聞いてない。が、用件に心当たりならある。今、客人はどこに?」

 

「とりあえず学生寮の応接室に通したって、真耶ちゃんが言ってた。今は千冬さんと楯無さんが相手をしてるらしい」

 

 片や国家代表IS操縦者にして学園最強。片やモンドグロッソ二連覇、そして三連覇の最有力候補であり、山肌を走って下るという人間チートをあしらえるくらいの人間だ。不足はないだろう。が、相性としてはよくない。

 

「分かった。すぐに行く。専用機持ちをどっか一部屋に集めといてもらえるか?俺は先に行く」

 

 了承も聞かずに走り出す直前、セシリアが待ったをかけた。

 

「わたくしも行きますわ」

 

「私も行くぞ。スコールがわざわざ出張るということは、それなり以上に重要案件だろうからな」

 

「分かった、行くぞ。ついてこい」

 

 短いやり取りののち、3人はそれなりの速度で走って行った。

 

 

 部屋に入ると、そこは戦場かと思うような雰囲気に包まれていた。千冬はスコールのことをにらみつけ、スコールのほうは千冬を涼しい顔で見つめる。その涼しい顔というのがさらに千冬の目線を鋭くしているのだが、スコールのほうが一向に動じる気配がない。楯無はいつでも仲介に入ることができるようにと身構えてはいるが、緊張はしていなかった。

 

「失礼します。黒川です」

 

 入室を促したのも千冬ではなく楯無だった。しかも、ドアを開ける形でだ。万のほうも部屋の前に立った時点でかなり緊張感ある雰囲気だということはわかっていた。それを裏付けるような行動だった。

 

「待ってたわよ」

 

「お待たせして申し訳ありません。慣れてるって言っても、この環境下でずっといるというのは精神衛生上あまりよくないですね」

 

「そうよー。今度何か埋め合わせね」

 

「はいはい、分かりました」

 

 小声でやり取りすると、すぐに視線を前へ移した。それに気づいたスコールがまず声を発した。

 

「ごめんなさいね、突然押しかけて」

 

「俺としては突然でも大して構わないんだがな。で、用件てのは、襲撃か?」

 

「ええ。先ほど、デメテルが学園都市外へ何人か人員が、おそらく秘密裏に出たということをつかんだわ」

 

 その言葉に、万は目を細めた。セシリアは驚きにか目を微かに見開き、楯無は笑みをわずかに深くし、織斑姉妹は表情を一切変えなかった。

 

「ま、手段は聞かないでおいてやる。で、それだけか?」

 

「いいえ。共同戦線を張らないか、って話。私たちとしては、ISを破壊されるわけにはいかない。私たちの目的は―――」

 

「確か、ISの研究、ひいてはISによる女尊男卑の撤廃、だっけか」

 

 さえぎって正解を当てた万に、スコールは驚きを示した。

 

「・・・なぜそれを?」

 

「庵の洗脳を解くときに、な。記憶の一部も引っ張り出すことができたから、その時に一緒に覚えてたってだけだ」

 

「そう。なら早いわね。あなたの目的は、いったい何なの?でも、そちら側に立つということは、少なくとも彼らと同じではないのでしょう?」

 

「敵の敵は味方、ということですの?」

 

「ええ。あなたたちにとっても悪い話ではないと思うのだけど」

 

「確かに悪い話じゃなさそうだ。が、断らさせてもらう」

 

 その言葉に、スコールは少なくない驚きを見せていた。

 

「そう。それはどうして?」

 

「一つ目、俺があんたを信用できない。二つ目、俺に目的なんて御大層なものはない。以上」

 

 指を立ててカウントしながら言い放った万の言葉に、スコールは納得した。

 

「確かに、ちょっと前まで戦おうって言ってた身だし、信用に足らないというのは十二分に理解できるわ。倒した後に味方相手から背中を刺されるなんて言うのは冗談じゃすまないからね。ただ、あなたには目的がないってどういうことなの?」

 

「俺は、最初はなりゆきでここに来たにすぎなかった。けど、ここには、今まで経験できなかったものができた。正直言って、こんな気持ちになったのは初めてなんだが、俺はここを守りたいんだ。依頼がどうだとか、そういったこと抜きで、な。こんなのは目的なんて御大層なもんじゃない、ただの俺の願望だ。ま、俺自身も最近になって自覚したんだがな」

 

 最後の一言は自嘲的だった。が、その言葉を聞いて、スコールは笑みを深めた。

 

「なるほどね。でも、それは十分に目的といえるのではないのかしら?」

 

「目的じゃねえよ。少なくとも、俺にとってはな。・・・で、話を戻すが、俺は協力を断った。が、代わりに、おたくらがどういう行動をとろうが、干渉をしない。それでどうだ?」

 

「もう少し詳しく聞かせてもらえるかしら」

 

 笑んでいた顔を引き締め、軽く身を乗り出す。内心でかかったと思いながら、万は続けた。

 

「簡単に言っちまえば、そっちが何をしようがこっちには関係ない。結果的に共闘するかもしれない、だけど闇討ちをするかもしれない。それに、戦った後はお互いどうなるかわからない。ま、戦った後にどうなってるかもわからないから、こっちは当然っちゃー当然なんだがな」

 

 スコールは暫く沈黙を貫いていたが、やがて軽く肩を揺らしだした。

 

「ふふ、面白いわね、君。分かったわ、その線で行きましょう。ただ、襲撃まで日がないということは覚えておいてね」

 

「ああ。忠告感謝する」

 

 そういって去っていく。完全に姿が見えなくなったところで、万はゆっくりと息を吐き出した。

 

「お疲れ様です」

 

 声をかけてきたセシリアに答える声も力がこもっているとは言いがたかった。

 

「ああ。さすがに気が張る。まさかこんな形になるなんてのは計算外だったからな」

 

「こういうところにはオータムが出てくることも少なくないのだが・・・」

 

「おそらく、戦力的に不安だったんだろうな。だから自ら出てきた」

 

「そんだけ買われてるってことか。とりあえずはそう受け取っておくか」

 

 そういうと、軽く膝を叩いて立ち上がる。

 

「さて、凰のところに行きますかね。専用機持ち集めろって言ったのは俺なんだし」

 

 応接室を後にする。その背中に、庵が一言問いかけた。

 

「終わったら、万はどうするつもりなのだ?」

 

 それに対する返答は少し間があった。

 

「さてね、どうなることやら。ただ一つ確実に言えるのは―――俺はここから去るだろう、ということかな」

 

 そんな言葉を残して先に部屋を出た。

 

 

 集まっている専用機持ち、より正確には一年の専用機持ちと楯無に対して、開口一番で万は言い放った。

 

「まず先に言っておく。―――近々、この学校は攻められるぞ」

 

 その言葉に、驚きはなかった。

 

「それにあたって、軽く作戦会議っつーか、役割分担を決める。各々たぶん追加武装の慣熟は済んでるだろうから、それを前提として進める。そこを頭に入れておいてくれ」

 

 そして、空間に現れるのは地図。その中で、万は実戦形式の作戦を組み立てていた。




 はい、というわけで。

 切るとこ見失った結果がこの長さ。文字数は再び約10000字。というかこのペースで投下していったら自分の中の当初の目標に間に合ってしまいそうで結構怖い。

 物語のほうは一気に佳境へと向かうことになりました。次回からもう最終局面です。
 作者の力不足から空気にしてしまった子も活躍の場を設けさせる予定です。

 たぶんあと5話くらいで最終回になるかと思いますが、生暖かい目で応援よろしくお願いいたします。

 ではまた次回。
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