【完結】IS―二人目は万能の天才!?―   作:緑竜

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 はい、どうも。

 この次はエピなので、実質最終回ですね。
 この辺からタイプミスとかあるかもしれませんが、その辺はご愛嬌ということで。

 では今回分どぞー。


50.最終局面―終幕―

「万、さん・・・?」

 今まで見たことがない、あまりにも狂暴な、野生の動物のような目つきに、セシリアは思わず戦慄した。瞬間、一瞬体制が変化したかと思えば、アイギスはこちらにとびかかってきた。

 驚く間もなく応戦する。考えるよりも先に反応するようになった体が咄嗟に近接武装をコール、今まで使っていた銃の代わりに現れた短剣で何とか防御すると同時に後ろに飛び、衝撃を緩和する。間髪入れずに放ってきた銃弾を回転するように回避すると、回転飛行の最中に取り出した銃を放つ。煩わし気にそれを県では軸と、再び肉薄してくる。今度はあえて飛ばされずに、短剣と銃の代わりに呼び出した長剣を交差させて受け止める。

 息のかかる様な近さ。その近くまで来てから、万の目を覗き込む。その狂ったような光をしばし見つめて、セシリアは覚悟を決めた。

 普段は冷静なこの青年が、どうしてこのような状態になってしまったのかはわからない。だが、一つ言えるのは、今この青年が狂っているということだけだ。

 今の自分では万には敵わない。それはもうわかりきっていることだ。外部から絶対防御を解除することは、絶望的なまでに不可能だといってもいい。だからといって、手をこまねいているわけにもいかない。当の昔に鍔迫り合いは終わって、遠距離と近距離を織り交ぜた攻防になっていた。そうして、再び鍔迫り合いになった時に、直接声が届いた。

 

「おい嬢ちゃん、すぐに離れろ!巻き込まれても知らねえぞ!」

 

 随分と物騒な警告と共に緑色の閃光が飛んでくる。セシリアは躱せたが、アイギスには何発か当たったようで、今度は閃光を纏う麦野へと目標を移した=ようだ。近接格闘能力が拮抗しているあたり、さすがは麦野といったところか。万と拮抗している。ように思えたが、ある程度打ち合うと、すぐに麦野を蹴飛ばして再びセシリアのほうに向かってきた。

 今度は、それに対して白い機体が割り込んだ。

 

「しっかりしろよ、万!」

 

 目の前で吠える青年の声にも耳を貸さずに、万はいったん距離をとると、その両手に出現させた銃火器をばらまく。ドドドドという銃弾の嵐が白式を射抜かんと襲い掛かる。その前に橙色の機体が受け止めにかかった。そのまま右手を前に出し突っ込んでいく。

 

「いったいどうしちゃったのさ!?」

 

 その機体に触れる。瞬間、アイギスが飛びのいた。ほぼ同時が一瞬遅れて、火薬がさく裂する轟音がなる。下がった後ろにも待ち構えていた銀色の翼から無数の光弾が射出される。

 

「少しは頭を冷やしなさい!」

 

 それを背面のショルダーアーマーで受け止め、負けじとばかりにシルベルレプリカを発射する。だがその程度はお構いなしに突っ込んでくる。ねじ込まれるように来た拳を両手で包むように受け止めたはいいものの、そこに加えられたひねりでさらに吹き飛ぶ。体勢が崩れたところに連続で数発、大砲の弾丸が撃ち込まれた。

 

「あんたがそんなんでどうするのよ!」

 

「そうです!正気を取り戻してください!」

 

 その二人の言葉も聞こえないようで、そのままショルダーアーマーを六角柱にして、そのまま放つ。先ほどのシルベルレプリカの光が凝縮されたようなその光に、二機とも機体の一部が壊れたようで、そのまま黒煙を上げて一瞬堕ちた。だがすぐに持ち直す。そのあたりは、さすがは代表候補生といったところか。

 

「貴様ぁぁぁぁ!!」

 

 激情を込めた怒号を上げながら、赤い閃光が突っ込んでいく。それを柳に風と受け流し、反撃を一発入れる、が、流石にやすやすとは当たらずにそのまま高速機動で回避する。今までで一番いい戦いを繰り広げているように見えて、動きを読んだうえで受け流しているのでダメージは一番入っていなかった。

 そこまで来て、セシリアはようやく、覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

「一番相手にしやすいのは戦うことしか考えていないようなバーサーカーだ。行動が読みやすい。冷静になってきっちり動きを読んでやれば、簡単に倒せる。けど、そういう相手は今回少ないだろう。来るとしたら、俺だ」

 

「根拠がありますの?」

 

「仕事人なんて言われてたからな。恨みもそれ相応に買ってる。仇討ちだなんだと言ってくる馬鹿どもも多いだろう。人間ってのは感情で動く生き物でもあるからな。

 で、ここからが本題だ。それはこっちにも言えること。怒りで我を見失ったら、いとも簡単にやられるぞ。だから、その時の対策として、諸刃の剣を仕込んである」

 

「なんだよ、それ。もったいぶるなって」

 

「そうだな。ド直球いうと、絶対防御及びシールドバリアの解除機能だ」

 

 その言葉に、全員が言葉を失った。

 

「は!?一体なんてもの搭載してんのよ、あんたは!」

 

「落ち着け、凰。

 そういうときに一番聞くのは物理的な痛みだからな。適当にどっかを針でも使ってちくっとやればいいって話だ。だから、無理矢理拘束してそれを外部から起動させ、物理的にショックを与えてやればいい」

 

「言いたいことはわかるが、暴論が過ぎないか?」

 

 即座にかみついてきた凰をさっさといさめたが、直後にラウラが意見する。それに対しても、万は冷静だった。

 

「暴論でも、これがおそらく最善だ」

 

 

 

 

 

(あの人は、なんでも自分でできる。できてしまう。だから、人に頼るということをしなくなった。だけど、本来あの人は、とても優しいお人。優しすぎるから、どれだけつらくても、それを口に出したりすることは一切ない。そう、あの時にわたくしの傍で寝てしまったのは、彼にとってかなり不覚とも取れる出来事だったのでしょうね。そして、他の人が人殺しでPTSDを負うようなことがないようにするための、このバイザーなのでしょうね・・・)

 

 頭の中で考える。ちらりと、仮想ディスプレイの隅に一つの通知が浮かび上がる。

 

―――絶対防御及びシールドバリア解除―――

 

 それを確認してから、セシリアは万の下へと向かった。

 目の前に青い機体が現れても、眉ひとつ動かなかった。手にした長剣を真っ直ぐと前に出す。それに見せた反応も、ただ一つ獰猛に笑うだけだった。

 何か妙だということを聞きつけた簪、深名、楯無と彼女に抱えられたデメテルと、その場にいた専用機持ち達は、そこでありえない光景を目にした。

 

「・・・案外、痛い、ですわね」

 

 セシリアのわき腹を深く切り裂くように、万の近接武装が走っていた。もう指一本動かすのもつらいだろうに、その腕はゆっくりと動いて、アイギスを背中から抱きかかえた。装甲越しにそのぬくもりが伝わったのか、万の狂った雰囲気は見る見るうちに息をひそめた。

 

「セシリア・・・?俺は、いったい何を・・・」

 

 状況が理解できないように、万の言葉はまるでうわごとのようだった。

 

「よかっ、た・・・。戻って、きて、下さったの、ですね・・・」

 

「セシリア・・・?」

 

 先ほどよりほんの少し力のこもった、万の声。

 

「心配、ご無用、ですわ・・・」

 

「馬鹿喋んな」

 

 慌てたような小声。だが、セシリアはそのままの体勢で万の肩に頭を置いた。

 

「私のことは、大丈夫、ですわ・・・」

 

「どうみても大丈夫じゃねえだろ。応急処置するからじっとしてろ。最低でも血止めくらいは―――」

 

「万さん」

 

 まだ声に力が入らないが、そのまま、耳元で囁く。

 

「もう、無理、を、なさら、ない、で、くだ、さいね・・・」

 

「分かった。だから喋んな」

 

 もうとうの昔に、得物は腹から引き抜かれている。それでも、失血死することもないのは、他ならぬ目の前の青年のおかげであることくらいは簡単に分かる。思い返してみれば、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の時も、彼が能力で失血を防いでいた。

 

「無理して喋んな。意識飛ばしてもいいから」

 

「だか、ら、わたくし、の、こと、は、しん、ぱい、ご無用、です、わ」

 

 ゆっくりと地面へと向かいつつ、止血の処置もする。前も思ったが、戦闘後にここまで集中するのは並大抵の苦労ではないだろうに、さらりとやってのける。装甲越しでも伝わる温もりに身を任せ、そのままゆっくりと目を閉じた。

 

「信じて、いますわ。万、さん」

 

 耳元で囁き、意識を手放した。

 

 

 

 

 陸に着くと、すぐに応急処置を施した。こういう時に、自身の能力が直接手で触れるようなものではなくてよかったと、どこか他人事のように思った。

 やがて皆が集まってきた。その全員が、腹に大穴を開けているセシリアを見て驚いた顔をした。

 

「黒川、いったい何があった」

 

 何とか応急処置が終わったところで駆けつけた千冬に、万は顔を上げることができなかった。直後に、自分がまるで人ではない化け物のようで、底知れぬ恐ろしさを感じた。

 

「・・・ごめんなさい。また、あとでいいですか」

 

「分かった」

 

 何とか絞り出した一言に、千冬は頷いた。

 

「管制室にいる。黒川は落ち着いたら来い。ほかの専用機持ちに関しては寮に戻れ。幸いにして、寮はほぼ無事だからな」

 

 それだけ言い残すと、千冬のものと思われる足音は遠ざかっていった。だが、遠ざかっていく足音は一つだけ。それ以外はその場にとどまっているようだった。

 

「なあ、万。もう、大丈夫なんだよな?」

 

「外部からの脅威ということに関しては。案外近くに殺すべき相手はいるかもしれないぜ?」

 

 その言葉すらどこか他人事のようだった。そうでなければ、理性的に物を喋ることもできなかった。

 

「私がここにいる。みんなは戻っていてくれ」

 

「だけど・・・!」

 

 なおも言いつのろうとした一夏の肩に、後ろから手が置かれた。

 

「そこまでよ、坊や」

 

 それに、一夏は一瞬驚いてから、唇をかみしめ去っていった。それにつられ、他の専用機持ちも去っていく。

 

「私たちもそろそろお暇するわね」

 

「そうか。何はともあれ助かった。

 ところで、そこのお嬢さんはあいさつの一つもしなくていいのか」

 

 ようやく顔を上げた万の表情は、心なしかいつもより皮肉気だった。

 具体的に名前こそ挙げなかったが、誰のことを指しているかは本人が分かったようで、一歩だけ前へ出た。

 

「何のこと」

 

「丁度俺らしかいないんだ。あいさつの一つくらいあってもいいんじゃねえの。―――詩織さんよ」

 

 おそらく、ここに専用機持ちが一人でもいようものなら驚愕の顔をしていたに違いない。実際、言われた本人であるデメテル―――詩織も、珍しく濃い驚きと動揺を示していた。

 

「髪色くらいはうまく染めてやればどうにかなる。でもな、基本的な骨格とかは整形でもかなり手を入れてやんなきゃ変わらない。見た感じそこまで手を入れてる様子もないからな。幼少期の記憶を読み取った身としては、その骨格が成長すればどうなるかっていうのを予測することくらいはできる。んでもって、あんたはそのまますぎたんだよ。

 で、何か言ったらどうだ」

 

 その一連の話の途中で、もうすでに詩織は普通の顔になっていた。

 

「ない。もうその子はその子の人生を歩んでる。今更縛る理由もない」

 

「・・・あっそ。そういう結論なら俺は文句言わない。後悔するなよ」

 

「後悔なんて、あるわけない。自分で決めたことだから」

 

 そう言って、詩織―――デメテルは背を向けた。

 

「じゃあね、坊や。力が欲しいなら呼びなさい」

 

「ああ。もうないかもしれないけどな」

 

「あら、つれなこと」

 

 それだけ言うと、スコールはその手にデメテルを抱えて飛び去った。それを見届けてから、万は管制室に向かって歩き出した。

 

 

 

 管制室には、もうすでに皆が集まっていた。それを確認しつつ、万は口火を切った。

 

「さて、早速ですが報告から。

 本日日没後に敵襲があり、戦闘の後にこれを撃退しました。確認している現状でのこちらの戦死者はいません。セシリアに関しては応急処置を施しましたが、あくまで応急にすぎません。医療機関もしくはそれに準ずる施設などにおいて、適切な処置を受けるべきと判断します」

 

「その件についてだ、黒川。いったいオルコットに何があった」

 

「薬物により錯乱した自分が攻撃しました。戦闘記録を見ると、彼女だけでなく、織斑たちも攻撃したようです」

 

「ということは、ISを解除させた、もしくはしたところを狙った、ということか?」

 

「いえ。おそらく、錯乱した自分を止めるために絶対防御を解除し、あえて近接攻撃を受けたものと推測します」

 

 その言葉に、千冬の目が細くなった。同時に。言いようのない威圧感がその場を包んだ。

 

「絶対防御の意図的な解除など、できないはずだがな。どういうことだ?」

 

「万が一の時のためと、解除機能を自分が付けました。まさかこのような形で使われるとは思っても―――」

 

 最後まで言い切る前に、千冬がその胸倉をつかんだ。その行動の素早さより、間近で見る千冬の、おそらく本気で怒っているであろう顔を見て、万も口をつぐむ。

 

「分かっているのか貴様。こんなことをしたと公表してみろ。ただでは済まないぞ」

 

「ええ、分かっています。だったら簡単でしょう?―――俺を殺せばいい」

 

 あまりにもあっさりと出てきた言葉に、周囲は言葉を失った。

 

「おま、お前、自分の言ってること、わかってんのかよ」

 

 何とかといった様子で出てきた一夏の言葉。それでも、万は冷静だった。

 

「様々な意味でキーマンとなるべき人物が消えれば、話は簡単ですよね。理由は、そうだな、錯乱した時に殺した、とでもすればいいんじゃないですか?」

 

「本当にそれでいいのか、お前は」

 

「よくなければこんなこと言ってません。もとより、俺が俺である限り、学園都市からの追ってはなくならないと思いますし」

 

「え、どういうことですか?黒川君は、もう学園都市とはほとんど手を切った状態なんですよね?」

 

 万の言葉を受けて、千冬も手を放す。軽く服装を整えたうえで、万は続けた。

 

「俺も、学園都市側に取られてる人質とか、そういうのいなかったんで、もう大丈夫だと思ってたんですよ。だけど、思いのほかあそこの闇ってやつは厄介だったみたいです。

 暗部からは逃れられない。死にたくなければ大人しく道具に徹しろ。それが、あそこの闇のルールでした。解体された、って言っても、完全に消えたわけじゃない。おそらく、今回学園都市から敵側に支援があったのは、学園都市の目的に俺が含まれていたからでしょう。実際、俺を可能ならば生け捕り、殺害やむなしっていう指示も出てたみたいですし。当の俺が消えれば、しがらみも消えるでしょう」

 

「それで本当にいいの!?」

 

「言いもなにも、これが最善だよ」

 

 そういう万からは何も感じられなかった。悪びれる様子も、謝罪も、同等になかった。

 

「殺せないのなら、自殺しますが?」

 

 そう言いつつ、こめかみにリボルバーを押し当てる。

 

「おやめください!」

 

 その瞬間に、後ろから声が聞こえた。半ば信じられないながらも、そのまま万が振り向いた。そこには、脂汗を流し、入り口に寄りかかりながらも入り口に立つ、セシリアがいた。

 

「馬鹿、傷口もきっちりふさがったわけじゃねえのに」

 

「私のことなど今はいいでしょう。今のは何ですの?」

 

「セシリアには後で伝えてもらう予定だったんだがなぁ・・・。

 事後処理の一環として、俺が死ぬってことだよ」

 

 それを聞いた瞬間に、セシリアは万の手にある銃を無理矢理に奪い取ると、手早く銃弾をすべて排出した。音を立てて銃弾がすべて落ちたことを確認すると、セシリアは銃を床に捨てた。

 

「まかり間違っても、そんなことをおっしゃらないでくださいな。死ぬしかないなどと、どうして言えるのです」

 

「その辺も含めて伝えてもらう予定だった。多くの代表候補生を人殺しにし、この状況を生んだ元凶が、学園での処罰で終わりなんて、そんな虫のいい話、関係諸国が黙っているはずもないだろう。それが必要なことだったとしてもだ」

 

「それしか本当に手がないのですか!?」

 

「ほかに方法があればとっている!」

 

 どんどんヒートアップしていくかに思われた議論は、セシリアの平手で終わった。

 

「なぜ頼ってくれないのですか!いつもいつもいつも!確かに、わたくしではどうしようもならないこともあったでしょう!ですが相談くらいしてくれても良かったではありませんか!」

 

「じゃあどうしろっていうんだ!こんな局面、俺が死なずに事態を収拾するなど不可能だろう!表面上でできたとしても、後々で面倒なことになりかねないだろうが!そんなこともわからないようなあんたじゃないだろう!」

 

 感情の堰が切れたようなセシリアに、売り言葉に買い言葉とばかりに万も言い返した。だが、そんな二人の傍に忍び寄る影。

 

「そこまでにしておけ馬鹿ども」

 

 二人の頭に同時にげんこつが落ちる。揃って頭を抱えて蹲る二人に、その上から千冬が言った。

 

「それで?オルコットには何か案があるのか?」

 

「ええ。これでもわたくしも、本国ではそれなり以上に名の売れた家の人間ですので。戸籍の一つや二つ、捻出することは可能でしょう」

 

「・・・あー、なるほど。その手があったか。まったくもって発想がなかったわ」

 

 一夏以外は万が発想した直後にどういうことかすぐに分かったのか、顔をしかめたり、俯いたりしている。だが、一夏だけはどういうことか理解できていないように、首を傾げていた。

 

「要するに、死んだことにするってことだよ。裏で、俺という存在は生き続ける。名前も変えて、そのイギリスの国籍で、な」

 

「つまりは、万は死なないってことか?」

 

「ま、そういうことになる。日本社会的には死ぬけどな」

 

 そこまで言うと、千冬は一瞬目を閉じた。

 

「悔いはないのか、黒川」

 

「もとよりなくなる覚悟もしていた命です。拾ってくれたのなら、そこで全力で生きるだけですよ」

 

 心なしか晴れやかな表情で言ったところで、おずおずと深名が手を挙げた。

 

「あのー、できればもう一つ、どこでもいいから国籍作ってほしいなー、なんて。多分、私も死んだことになってるから」

 

「お安い御用ですわよ、深名さん。一つも二つも、大きな違いはありませんわ」

 

「ありがとう、オルコットさん。その代りといっては何だけど、護衛はしっかりさせてもらうね。ほら、私、幽霊って言われてたし」

 

「幽霊?」

 

 いまいち納得がいかなかったのだろう、箒が首を傾げた。

 

「そ。この子のステルスと、私の能力を併用したら、どうやら敵さんには本格的に消えたってことになったみたいでねー。幽霊がいるから逃げろーってなってた。あれは傑作だったよー」

 

「確かに。こっちに近付こうとしても撃破しちゃうから、本当に怯えてた」

 

 そんな話に、万も柄にもなく笑ってしまった。

 

「そっか。それなら安心だな。セシリアは正攻法で行けばいいし。ほんと、サンキュな」

 

「いえいえ。この程度、造作もありませんわ」

 

 にこりと微笑むセシリアに、万は何やら頬が紅潮する感覚を覚えた。それが恥ずかしくて、口のあたりを手で覆って隠した。

 

「IS学園としても、これからのあり方を問う事件となった。確実に、ここから変化していくだろう。降りるなら今だぞ」

 

 毅然とした千冬の声。だが、それには誰も異を唱えなかった。

 

「いいのだな?」

 

 最後の確認。それに対して、一夏は一歩前へ出た。

 

「もう、俺はISを使って人を殺しちまったんだ。もう後戻りはできない」

 

「ここで降りたら、今日私がやってきたことを否定することになります」

 

「ISが何かを勘違いさせないためにも、今日のことは伝えていく必要がある」

 

「それは、僕たちがやらなければいけないことです」

 

「人を殺す重み、それは、軍人として教えていく必要があると思います」

 

「正直に言って、このメンツだと突っ走りすぎないか不安だから、残ります」

 

 ほかのメンバーも、一歩前へ踏み出しながら、言った。その決意を受け取って、千冬は強く微笑んだ。すぐに表情を引き締め、奥にいる二人を見た。

 

「オルコットは、どうするのだ?」

 

 それに、セシリアはすぐに応えなかった。目を閉じ、ゆっくりと考える。

 

「わたくしは、いったん国に帰ります。わたくしが戦うべきところは、教育現場(ここ)ではないと思うので」

 

「・・・そうか。忌憚のない判断を尊重しよう。イギリス行のチケットの手配も、こちらに任せろ」

 

「ありがとうございます」

 

 そう言うと、万に向き合った。

 

「そういうわけで、これからもよろしくお願いしますわね」

 

「そりゃこっちの台詞だろうが、馬鹿」

 

 台詞とは裏腹に優しく微笑みながら、万は自分より低い頭に優しく手を置いた。

 

 

 

 

 

 

 学園の理事会は、ことが済んだ翌日の昼頃に情報をまとめて会見を開いた。

 そこで、夜半に謎のISに似た、所謂駆動鎧と呼ばれるものや戦闘機群が学園に襲撃をかけたこと。在学中の代表候補生数名およびロシア国家代表、更識楯無が出撃、思わぬ助力もあり、これを撃退したこと。しかし、この戦いにおいて、二人目の男子IS操縦者、黒川万が錯乱、イギリス代表候補生に大けがを負わせたこと。やむを得ず、彼の一命をもってこれを終局したこと。事前の黒川君による技術的援護と、その時の状況を勘案し、黒川君と、彼の命を絶ってしまうこととなった代表候補生は、学園的にはお咎めなしということで落ち着いたことなどを発表した。

 やむを得ない形ではあったと言えど、結果的に“ISの兵器としての利用を禁ずる”という、アラスカ条約の条文を無視せざるを得なかったこの事件に、世間の耳目は集まった。のちに開かれた国際公聴会において、証言者たる代表候補生及び織斑一夏の発言から、もしそれが行われなかった場合、間違いなく多くの人命と施設の大きな損害を被っていたということが判明したことで、国際社会もこのIS使用に対して容認した。

 また、錯乱したとはいえ、後方から技術的に支援し、しかも自分も前線に出て戦った、二人目の男子操縦者に対して、全世界から追悼の念が寄せられた。

 

 のちに、“IS学園大規模襲撃事件”という名前が与えられたこの事件は、こうして終局を迎えた。

 




 はい、というわけでね。

 冒頭の部分は前回に引っ付けようか迷ったんですが、結果的にこっちにくっつけました。結果的になんか妙な区切りになってしまう結果となりましたがまあ仕方ない。

 これにて本編閉幕です。次はエピです。

 それではまたあとで。
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