エクストリーム魔王狩り転生バトルロワイヤル   作:丸米

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転生もの一度挑戦してみたかったので頑張りました。


エクストリーム!!バトルロワイヤル編
よぉ~皆ァ!魔王ぶっ殺しに行こうぜェ!


 千年前。魔王と呼ばれる存在が現れました。

 それはそれは恐ろしい存在で。かつては口にするも憚れる程に恐れられていた存在でございました。

 

 魔王は無尽蔵の魔力と、恐ろしい魔法を幾つも持ち合わせていました。

 更に人間を滅ぼすという強固な目的と、手段を一切選ぶことのない残忍な合理性を併せ持った畜生でもありました。

 

 既存の生物種に己の魔力を流し込み、人類種に敵対行動を起こすように調整された魔物が世界中にばらまかれ。

 疫病発生地の死骸を鳥類種の魔物に食わせた上で各国に送り込み、そこから病を蔓延させ。

 その力をもって幾つもの国を支配下に置き人間同士を殺し合わせ。

 

 それはもう好き放題に暴れ回ったという事です。

 その暴れっぷりたるや。魔王が生誕し死亡するまでの七十年間で人類の数はおおよそ4割減っていたであろうと言われるほどです。このまま暴れ続ければ本当に人類は滅んでいたのかもしれません。凄いですね。

 

 

 さあて。されどあまりにも派手に大暴れしすぎた代償を魔王は後々払う事になります。

 魔物を作り出しばら撒いた結果、その魔力を徹底して人間側が研究したのです。

 

 その結果──魔王の魔力を完全に打ち消す「浄化魔法」が発明され、人類側が魔王勢力に対して反撃を行う事となりました。

 

 

 浄化魔法を浴びせる事で魔物の中に存在する魔王の魔力は消滅し、魔物は次第にその数を減らしていき。

 魔王そのものの魔法に対して無力だった人類も、明確な防御手段を手にする事となりました。

 

 

 そして。

 魔王誕生から70年──浄化魔法を習得した若き3人組が、長きに渡る旅の果てに魔王を打ち滅ぼす事に成功しました。

 

 世界は、魔王の暴虐から解放され、平和な世の中が訪れる事となりました。

 めでたしめでたし──。

 

 

 

 

 さあて。

 ここからもまだまだ話は続きます。

 

 このげに恐ろしき魔王でございますが。彼と同様の魔力を持つ者が、この世におおよそ百年周期で生まれてくることが判明しました。

 

 彼等には親がおりません。まるで召喚魔法で呼び出されるかのように、突如としてこの世界に現れるのです。世界そのものが、恐らく魔王を作り出しているのやもしれませんね。不思議な事です。

 とはいえ。もう人類側は徹底した魔王対策が出来上がっております。

 浄化魔法の普及により、現在どの都市も魔物対策の武具も礼装も持ち合わせております。魔法学院でも浄化魔法の習得は必須項目となり、その使い手の数も年々増加傾向にあります。

 たとえ魔王が再び現れようとも。人類が再度負ける事はあり得ないでしょう。

 

 そこでです。

 魔王が現れる百年の周期。

 ここで一つの祭典を開く事となりました。

 

 それは──魔王狩りの祭典。

 この世に現れた魔王を、先に狩る。

 浄化魔法を身に纏った戦士たちが、魔王を追い立てその首を獲る。

 

 魔王の首を先に取った人間が──「勇者」の栄誉を得る。

 

 

 今年もまた、百年目を迎えました。

 今度は──誰が魔王を仕留めるのでしょうか。とても楽しみですね。

 

 

 魔王という存在がいる。

 どういう存在か教えてやるよ──

 

「人間のおもちゃで世界の笑いものだ」

 

 眼前に居座る誰かは、そんな事をほざいていた。

 

 

「おもちゃか」

 思わず、そんなクソみたいな返答をしていました。

 魔王。魔ときて、王。

 そんな大層な言葉を冠している存在の癖に──人間のおもちゃらしい。

 なに。人間って知らず知らずのうちに村人すらレベルカンストしちゃってるの? 

 

 こんにちは。

 もう名前も思い出せないんですけど、どうやら俺は別の世界で目覚めちゃったらしいですわ。多分死んじゃったショックで記憶飛んじゃってる。死んでなお生き残って記憶飛んでいる程度だったらかすり傷みたいなもんでしょ。何となく若気の至りの果てに死ぬより苦しい目に遭ってそのまま死んじゃったような気がする。記憶じゃなくて肉体が恐怖を刻み込まれている感じ。何やったんだろう俺。

 

 さてさて。

 周囲を見渡せば、なんかよく解らない空間があるんですよ。

 空がね。死後一週間くらい放置された死骸みたいな腐ったどす黒くも赤い色でしてね。地面はなんか火砕流でもあったんかって位黒くてですね。なんかぼこぼこ沸き立つマグマのような湖があってですね。そんな光景がずっと。ず──―っと。地平線の彼方向こうまで永劫ずっと。続いているんですよね。いやもう、これってさぁ。どう見たってアレだよねぇ。ねぇ? 

 

 え? 

 俺はアレですか。なんか生きているうちに悪い事もしたんですかね。自分の命をそこはかとなく粗末にした記憶はありますけど別段悪い事はしていない感覚があるのに.....。ここあきらかさあ。天国なんかじゃなくてさぁ。アレだよね。

 

 なので。取り敢えず目の前でいきなり「魔王は人間のおもちゃ」と宣っている正体不明の誰かに声をかけることにする。

 

「ここ地獄?」

 周囲を見渡してそう尋ねる。

 ここどう見ても地獄だよね。ねぇ。地獄じゃなければなんだよ。

 

 されど、目の前の誰かは首を横に振る。

 

「この世には天国も地獄もない。神も仏もいない。されど魔王はいるぞ。残念ながらな」

 偉そう。

 もうなんか喋り方から台詞から全身からにじみ出るナルシズムから。何か全てが偉そう。ぶん殴りたい。というか──

「そもそもお前誰だよ」

 一番聞かなきゃならない事聞いてなかったわ。

 誰やねんこいつ。

「魔王だが?」

「やっぱり地獄じゃねーか!」

 

 返答を聞いた瞬間、ノータイムで突っ込んでしまっていた。

 お父さん。お母さん。アンタ等の姿別に覚えていないけど、なんかごめんなさい。貴方の息子は地獄に落とされてしまったようです。特に何か悪い事をした覚えもないのですがそうなってしまったようです。ぶち殺すぞ俺が何やったってんだこのクソカスが。記憶はなくとも身体は覚えている。俺は何もしてねぇよこの畜生が。

 

 そんな俺の姿を嘲笑う、というより。腹を抱えてひゅーひゅー臭そうな息を吐き散らし笑う──地獄のような世界に居座る、地獄のような誰かがいる。

 そいつは黒い外套に黒いマントを身に纏っているくせに、前部分を開けっぱにして胸板と腹筋を見せた立派な巻き角を生やした自称魔王の男であった。角の大きさが尋常でなくて、多分頭部の面積の二倍くらいある。くっそ重そう。ダッセ。でもまさに地獄に相応しい地獄のような痛々しい風体だ。本当、心底ダセェ。なに腹筋どころか乳首見せてんだこのナルシスト野郎。重ね重ねダッセェ。

 

「ねぇ。どんな生き方してどんな死に様晒せばこんなクソみたいな世界に召喚されるのさ? しかもお前みたいな奴の前に? ねぇねぇなんで? 答えろや」

「お前がどういう無様な生き方をしてどれだけ無様な死に様を晒したかなんぞ俺にとって心底どうでもいいから知らんわ。──いいか。落ち着いて聞けよ。次の魔王はお前だ」

「は?」

「次の人間どものおもちゃはお前という訳だ。魔王に転生だ。嬉しかろ? けけけけ」

「は?」

 

 男は実に意地悪そうな笑みと共に、そんな事を言った。

 何を言っているんだこいつ。

 

「何度でも言うぞ。──魔王とは今じゃあ人間のおもちゃだ」

「何度も言わなくていいわそんな嫌な事」

「初代魔王から数えて十代目の魔王まで。年々滅ぼされるスピードが速まっている。まあ大体初代──つまりは俺のせいなのだがな!」

「お前初代かよ。じゃあ他の連中は何をしているんだよ」

「聞きたいか。全員引き籠ってるよ」

「元魔王の癖に情けねぇなぁおい」

「全くだ。魔王の風上にもおけぬ。──まあ雁首揃えて無様を晒した連中だ。可哀想だからそっとしておいてやろう」

「無様?」

「そう。二代目から十代目まで──最長一月で最短半日しか生き残れていない。死んで、転生して、また程なくして死んだ連中だ。引き籠りたくもなろう」

「.....」

 

 半日で死ぬような存在が、魔王なんて定義されてもいいのだろうか。何だこれは魔王撲滅の最短ルートでも構築されているのか。魔でも王でもないだろ絶対。

 

「まあ。魔王というのは、いわば有害ウイルスに近い」

「嫌な例えだな!」

「ウイルスというのは致死性が高ければ高い程、人間は必死こいてその対策をとっていくものだろう。ほれ、大体ヤバそうな疫病だったりウイルスだったりって大体根絶されるものじゃん。──俺という初代魔王がちょっと暴れまくってしまったせいでなぁ。魔王という存在に対して()()世界が過剰に対策しまくってしまったんだよ」

「あの世界ってどの世界だよ。お前の妄想か?」

「魔法という技術が確立されているせいでいつまで経っても科学文明が発達しない知恵遅れの世界だよ。まあそれも俺が結構な数の人間殺したせいでもあるんだがな。けけけけ」

「ええ....」

 

 一体何をしたんだこいつは──。

 

 

「これからお前が魔王として転生する世界はな」

「もう転生する事は決定事項すか? 俺天国の爺ちゃん婆ちゃんに会いたいんだけど」

 まあ爺ちゃんも婆ちゃんも覚えてないけど。もう死んでんのかな。

「魔法という技術があって、そしてその魔法を扱う為のエネルギーが一人一人に内蔵されている世界でな。そのエネルギーは魔力と称されている」

「へぇ。いかにも、って感じのファンタジー世界じゃないか」

「そして──魔王として生まれれば、その魔力がほぼ無尽蔵に使えるようになる」

「おお!」

 

 凄い! とても魔王っぽい! そうだよなぁ、魔王ってのはそうでなければいけないよなぁ! 

 

「更に覚える魔法も強力なものばかり!」

「よっしゃ!」

「魔力で身体も強くできる! 怪力だ!」

「無敵じゃん!」

 

 なんだなんだ。

 ちゃんと魔王のスペック高そうだぞ! 何が人間のおもちゃだこの大馬鹿野郎──

 

「だが全部無効化されるぞ!」

「は?」

 

 は? 

 

「魔王として流れる、この無尽蔵に近い魔力。この魔力を打ち滅ぼす為の恐ろしい魔法が生まれたのだ。──浄化魔法、と人間どもは呼んでおるな」

「何でお前浄化されてないの?」

「別に人格部分を浄化する魔法じゃないからな?」

「そうなのか」

「うむ」

 

 うむじゃないが。

 

「俺はこの無尽蔵に近い魔力を使ってだな。様々な生物種を拾っては魔力を与え繁殖させた。俺の魔力を与えられた生物──いわゆる魔物は、生物としての能力と人間への攻撃性が増加した。そのおかげで人間に恒常的な被害を与える事に成功したわけだな。人間はこの魔物から身を守る為城壁の中で住まわざるをえなくなり、国同士の交易にかかるコストも増えに増えた」

「うわぁ」

「そうして人間が城壁に引き籠るようになったところで鳥獣系の魔物を作り出して襲い掛かるように仕向けた。これがなかなか効果的でな。城壁を乗り越えて襲い掛かる魔物相手に暫しの間人間側は無力だった。対空系や結界系の魔法の構築が出来上がるまでこの方法で五つくらいは国を滅ぼせたと思う。人間どもが城壁内でばたばた死ぬようになった後、疫病菌を持たせた鳥どもを更にバラまいた。これで更に五つくらい滅ぼせたかな?」

「うわぁ....」

 

 カスだ。カスが目の前にいる。

 

「だがこれが長期的に見れば悪手だった。人間は血眼になって魔王の魔力について研究した。なにせ研究対象は腐るほどある。俺の魔力を宿した魔物が殺されては解剖されフラスコにぶち込まれ、生け捕りにされては皮から肉から骨から内臓まで削られて生体実験が繰り返された。哀れだなァ」

「何でこいつ他人事なの.....。怖い.....」

「その結果──この魔力は、特定の魔法とぶつかり合う事で消滅する性質があることが判明した。──それは、解毒魔法だった」

「解毒?」

「うむ。──要はな。魔王の魔力というのは、毒の性質を持っていたんだよ」

「毒....」

「うむ。故に解毒すれば消える。解毒魔法を扱えば即座に消滅する。故に人間はこの解毒魔法を、より密度を高め、かつ広範囲に放射できるように。また武具に付与できるように。──”浄化魔法”として改良し頒布し魔王に対抗していったのだ」

「で?」

「結局魔物も浄化魔法をかけられると魔王の魔力は消えてしまい俺の支配下から逃れてしまう。解毒魔法の研究が進んだことで疫病の対策も立てられた。そして魔王という存在そのものも──この浄化魔法の前では無力であったという訳だ。どれだけ強力な魔法を使おうとも浄化魔法一つで消滅する。武具に付与されるせいで、そこらの雑魚兵士でも魔物を簡単に殺されるようになった。そして──この俺も浄化魔法を浴びせられ、魔力を枯渇させられたうえで殺されたわけだ」

「そしてお前は人間にぶっ殺されて終わったんだな。はぁ~。めでたしめでたし~。とてもいい話だなァ~~」

 

 よかったよかった。

 この眼前の鬼畜生の権化は人間の英知を前に惨めに滅びて息絶えていったわけだ。はぇ~。胸が熱くなるなァ。俺もさっさとこいつを殺してやりたいなァ。こう、出来るだけ惨めな痛みに悶えるような方法で。具体的に言えば人中打ちからの金的辺りでどうだろう。一回試しにやってみようかなァ。でもこいつ魔王なんだよなァ。暴力は好きなんだけど暴力にもならない暴力は嫌いなんだよなぁ。本当何かの拍子で骨折でもしないかなぁ。なぁ? 

 

「で。──そんな世界にお前は今度魔王として転生してもらう、と」

「ふざけんなよこのクソカスがァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」

 

 叫んだ。

 心の底から湧き上がった感情と共に、腹の奥底から喉に突き抜けるような絶叫を。

 え。つまりさ。

 こいつが大暴れしたせいでもう人類が完全に魔王の殺し方を弁えている世界で......転生しろって事? 

 は? 

 

「お前のせいでクソみたいな状況になったのに、何で俺がお前みたいなクソカスに転生しなきゃならねぇんだよ! 冗談も休み休み言え!」

 話聞いている限り完全にこいつだけ勝ち組じゃねーかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 

 自分のせいで地獄見る羽目になる後代の魔王どもをここから見物できるのならそりゃあいい身分だわな! その性格の悪さも納得だわ! 

「冗談じゃないんだよなァ。これがなァ」

「何でテメェ他人事なんだよ! 死ね!」

「もう死んでるんだなァ! これがなァ!」

「じゃあもういっぺん死ね!」

 

 けけけけけ。

 魔王(初代)は喉奥から手前あたりで止めたような低音かつ不快な声音で笑い声をあげる。

 

「まあでもこれは別に俺の意思ではない。そういう風に世界が出来ているんだ。仕方ないんだ」

「どういう世界だよ!」

「百年ごとに魔王が生まれる。そういうシステムが出来上がっている異世界がそこにあって。そしてその魔王は異世界への転生という形で生まれてしまう。どうしようもないシステムなんだ....」

「なにその適応性のないゴミみたいなシステム....」

 

 生物は進化していくって嘘なの.....? 代替わりしては即殺され続けても何の進化もない魔王って、実は一番生命体として終わってんじゃねぇかな.....? もういい加減滅びろよ.....。

 

「もうあちらの世界もそのシステムについては重々承知しているのだよ。”百年ごとに魔王は生まれる”。これはあの世界の中で繰り返された歴史であり、百年ごとに人類と魔王が争いを繰り返す世界なんだと。──だからの」

「何だよ」

「あちらの世界じゃあ、もう百年ごとに魔王を殺す事が、祭りとなっておる」

「祭り....」

 

 え? 

 魔王殺しってもう祭りになっちゃってるの? なにそのお祭り中に罪人のギロチンかけするみたいなの。残酷にも程がありません?

 

 

「うむ。浄化魔法を修めた剣士。格闘士。魔導士。傭兵。その他諸々──こぞって百年ごとに生まれる魔王の首を狙い、誰が先に魔王をぶち殺せるか選手権を開くわけだな。当然、全員浄化魔法を持っている」

「何の為にそんな祭りにみんな参加するの.....? こわ....」

「そうして魔王の首を狩った一人が、”勇者”としての栄誉と、おぞましい程の大金を手に入れる事が出来るからだ。簡単な話だろう?」

「成程! 簡単な話だな! そして単純故に理解できる! クソだ! 人の命を何だと思っているんだ!」

「だろう! 千年前にちょっと人類滅ぼしかけたくらいで残酷な奴等だよなぁ! なぁ!? お前もそう思ってくれるよなぁ!?」

「もうやだ! 帰る!!」

「何処にだ! お前は死人だぞ!?」

「そうだな! 何処にも帰るとこねぇや! クソが!」

 

 もう死んでる! 俺も! こいつも! 

 

「諦めろ! そして無様に殺され他の連中みたいにトラウマ刻まれて引き籠れ! けけけけけ!」

「やっぱりお前もういっぺん死ぬべきじゃねぇかなァ! なぁ!?」

 

 俺の肉体が崩れ去っていく。

 輪郭が崩れ、崩れた先が粒子になって、さらさらと風に舞う粉のように。もしくは水に溶ける片栗粉のように......

 俺は自らの肉体がすぅーっと消えていくのを感じていた。

 

 最後に見た初代魔王の顔は──実に爽やかな笑みを浮かべていた。

 

 クソが。

 絶対に生き残って──あの野郎ぶち殺してやるからなクソカスがァ──

 

 

 . . .

 

 

 

 

 転生

 転じて生まれる。

 母の股座からおぎゃあと泣いて生まれる、無知を纏っての生命の神秘としての誕生ではなく。

 この世もあの世も酸いも甘いも俗世の糞尿も浴びに浴びた人格形成そのまま、別存在へ生まれ変わるという行為をもって、別世界へ生まれ変わる。

 

 そんな行為を、今俺は行使した。

 いや行使しただと自発的な意味になる。違う。行使させられた。

 あの魔王(初代)が言う事を信じるならば──世界の構造の一環として。

 また死にに向かわされたのだ。

 

 

 出来上がった身体を見る。

 先程視界に収めていたあの男と全く同じ格好をしてた。黒い外套に黒いマント。そして腹筋見せつけてる。前部分を閉めようとしたけどこれボタンも紐もねぇわ。なにこのナルシストスタイル強制ですか? 死んでほしい。

 

 頭重い。

 恐らくあのクソダセェ角もそのままそっくり上に乗っかているのか。うわぁ。手を伸ばしてみたらマジであるわあるわ。ごついし硬い感触が手から伝わってくるわ。死にたい。死んでたわ。鳥の糞だって頭にくっ付けば不愉快だが、洗い流せる希望がある分だけこの角よりも幾分上等だろうと思える。勘弁してほしい。

 

 

 とりあえずマントを外してびりびりに引き裂いた上で上半身に纏う。俺はこの先どんな生物に生まれ変わったとしても、黒いコートを着込みながら乳首を晒して生きる恥晒しになりたくない。己で己の尊厳を凌辱する趣味は持ち合わせていないんだよ。見たとこ別段綺麗でもないし。というか汚いし。乳首黒ずんでら。ビジュアル面もうちょっと気を遣って召喚してくれよ────! 頼むからよぉ────! 

 

 

 一通り脳内で不満を列挙し、不満をぶちまけ、自己解消すると。

 すっと、冷静な思考に戻る。

 

 さて。

 ──状況の整理をしよう。多分ここで考えることを放棄したら即座に死ぬことになる。ただでさえあのクソボケ初代魔王の言葉を信じるなら、状況は本当に最悪だ。

 

 周囲を見る。

 黒い砂利が乱雑に散らばった狭い地面があり、狭い地面の端っこから見える景色は、なだらかな傾斜と共に一面の緑の面々と、複数に枝分かれした河川が出来上がっている。

 どうやら──森林地帯内にある山岳の頂上で復活したようだ。

 

 

 今──自身の中に大きな力を感じる。

 身体を駆け巡る、激流のような力。この力をひとたび放出すれば──山岳ごと切り崩す事も可能であろう。その確信がある。その確信故の万能感もある。

 

 されど。

 それだけはやってはダメだと。そう本能の部分で訴えかけてくる。

 

 

 何故かと言えば──

 

 

 

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 

 

 

 声が。

 声が聞こえてくる。

 

 

 

 ──魔王がたった今生まれた! 予言は正しかった! 魔王はこの場所に生まれた! 皆の者! 殺すぞ! 徹頭徹尾殺すぞ! 我等が神に仇なす畜生を殺すぞ! 我等が栄誉の為に殺すぞ! かつての厄災を! かつての悲劇を! 繰り返さぬために! 殺すぞ! 黒い外套引きちぎりその角を抜き千切り内臓を抉りだし肉体という肉体を浄化し尽くし殺すぞ! 殺せ殺せ殺せ殺せ! 

 

 

 ちょっと。

 何でこの山岳まで届くようなアホみたいにでかい声で犯行声明してんだよ

 

 

 ──魔王の首を狩った者が、勇者だ! さあ、魔王狩りを始めようではないか──!! 

 

 

 その宣言と共に。

 地鳴りのような叫び声と、地を踏みしめる巨人がごと足音が響き渡る。

 

 

 

「成程なァ」

 

 

 事前に魔王(初代)から聞かされた事。

 それが──今この全身をもって感じている。

 

 耳奥に響き渡る殺せ殺せの大合唱。

 眼下の木々が叫び声に揺れる様。

 全身にびりびりと伝わる──ここに集まる人間たちの悪意が。

 

 

 

「.....上等じゃねぇか」

 

 

 

 いいじゃないか。

 喧嘩だ。

 

 

「──テメェ等全員地獄見せたるわクソボケがァァァァァァァァァァ!」

 

 ここで俺は死ぬのだろう。

 知った事か。

 死ぬことが決定事項だというのならば、少しでも連中に地獄を刻み付けてやる。爪痕を残してやる。何も出来ずに他の魔王連中のように傷心でめそめそ泣いて引き籠るような惨めな終わりだけは絶対に認めねぇ。足掻け。足掻け。足掻き回れ。足掻き回って少しでも生き残れ。往生際の悪さを見せつけろ。派手に喧嘩してやろうじゃねぇかおう。

 

 

 

 

 百年に一度の、魔王狩りの祭典。

 

 

 この祭典は、世界各国がたった一人──代表を立て、送り込んでいる。

 かつて魔王により被害を受けた国々。滅ぶ寸前まで追い込まれた国。滅びた後に不断の努力により再建した国々。魔王という存在により歴史が突き動かされ、災厄が降りかかりし国々が──百年に一度、己が国の最強を送り込む。

 そして誰もが――その果てにある「勇者」の称号を得る為に。

 世界を救いし者。魔の王を打ち滅ぼせし最強の武勇の称号。――その称号を得るべく血みどろの決意を胸に抱いて。

 全てが、敵。

 ここに集まりし者共は――勇者という馳走を求め牙をむき出す獣どもであった。

 

 

「この身が最盛であるうちに、百年の周期が訪れた奇跡に感謝いたしますわ。必ずや魔王を打ち滅ぼし、その素っ首を天にまします神々に捧げましょう」

 純白のローブに身を包んだその周囲には、光を放つ十六の小型生命体──妖精が飛び回る。

 黄金色の髪は緩やかなウェーブと共に腰まで流れ、更に光を放つ。

 ベールに包まれたその顔面には張り付けたように変わらない柔らかな笑みが浮かんでいる。ふわりとしたローブの上からも主張する肉体の起伏を揺らしながら──その両手には、巨大な鉄槌を手にしている。

 その全身に。身に纏う妖精に。そして両手に握る鉄槌に。その全てに浄化の光を宿した女が──静かに歩きだす。

 

 ──クルデア王国 【聖女】 ミラドリム・パルミ・クルデア

 

 

 

「武勇をもって打ち滅ぼし。武勇をもって栄誉を掴み取る。──ああ。かつて、千年前の暴虐の世界がここにある。素晴らしい。百年に一度のこの機会。存分に味わわせてもらおうじゃないか.....!」

 その女は黒き武道着を身に纏っていた。

 素足のまま砂利道を踏みしめ歩くと、砂利の方が砕け散る。マグマを塗り込んだかのごとき灼熱色の髪を後ろ手に縛りあげた女の表情は──ただひたすらに笑っていた。

 小柄ながらも、一歩一歩踏みしめるごと巨竜の爪牙が地を抉るかの如き異音が響き渡る。

 得物はない。ただ己が四肢に付与した浄化魔法が淡く光っている。

 

 ──東方連合共和国 【武王】 ヤナギ・ソネサキ

 

 

 

「ふん。──魔王如き。私が誰より早く殺してやるわ」

 身の丈ほどの剣を担ぎ、銀の甲冑を頭から爪先まで装着した騎士が、そこにいた。

 その剣。その甲冑。ありとあらゆる場所に浄化魔法が付与されたその騎士は──天に剣を掲げ、山岳を目指して走っていく。

 

 ──ゼンゴウ帝国 【原初の勇者の末裔】 ベギム・クスフント

 

 

 

「.....ひひ。ひひっ。魔王様....。ようやく、ようやくお目見えすることが出来るのですね。ああ、どうしましょうか。浄化魔法で魔力を枯渇させた後に.....全身を保持魔法で封印して......どうにか死んだように見せかける事は可能でしょうか.....。まあ、まあまあまあまあまあまあまあまあまあまあまあまあまあまあまあまあまあまあまあまあまあ。そういう後先のこ、事は......他の邪魔な連中を排除して、魔王様を確保した後に考える事です.....わね。ひひ、ひひひ」

 少女の顔色は悪かった。

 恐らく日の光もロクに浴びていなかったのであろうか。雪のような透き通る白、というよりは血色の悪さゆえの青白い感じの肌色をしている。真っ黒な背景に白色の幾何学文様が列と成して刻み込まれているドレスを着込み──己が作成した、浄化魔法を付与した人型ゴーレム(通称リビングデッド君)の肩に乗りながら、独り言をいつまでもぶつぶつ呟いていた。

 

 ──アルドミア魔法学園都市国家 【主席】 マルマル・エルド

 

 

 魔王狩りが始まる。

 ここに集いし一人一人が、常人非ざる武勇を誇る者共。

 勇者の称号を得る為。魔王の首をトロフィー代わりに己が祖国に凱旋すべく来訪した傑物と怪物。

 

 祭りが、始まろうとしていた――。




キャラクター紹介★

主人公君/現魔王君

魔王対策ばっちり済んでて魔王殺しが一大エンターテイメントとなっている世界に魔王として転生した哀れな男。前世では挑まれたチキンレースをアカギ方式で乗り越えようとしたが自分がカナヅチである事実をすっかり忘れていたことが原因となり死亡している。溺死のショックで記憶が飛んでいる。馬鹿。

初代魔王君
ゲロみたいな性格の悪さと狡猾さで1000年前に人類滅ぼそうとしたが、あまりにも人間側を追い詰めたせいで死ぬ気で対策かけられて殺された哀れでもない男。主人公君が地獄見る元凶。
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