エクストリーム魔王狩り転生バトルロワイヤル   作:丸米

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小便漏らして神に祈りを捧げてガタガタ震えて命乞いすれば生き残れるってマジ?

「さあ見えてきました。──あれがグレイム渓谷です」

 

 山を歩き続け、四日ほど。

 幾度となく山を上り下りし続けついたその先には、谷底に落ちていく巨大な滝が流れゆく光景であった。

 

 まるで山岳の間が抉り取られたようなその谷には、ただ滝の音だけが響いている。

 そして、その谷の最中

 

「あれが竜か~」

 

 褐色の鱗を纏った翼竜が空を飛んでいる。蜥蜴に羽根と鱗を生やし、足先に鋭い爪を生やしたようなフォルムのそれらは、羽虫のように谷の間を飛び交っている。

 その様を眺め。

 魔王は間抜け面で──またもや現れたファンタジックな生物にアホ面をかまし、そんな事を呟いていた。

 

「竜の群れは基本的には翼竜・竜人・王の三種に分かれています」

「ほうほう」

「翼竜が空を飛び交いながら索敵を行い、翼竜からの報告を受け竜人が追い込みをかける。これが基本のコンビネーション。単純ですが、翼竜はとにかく遠方の敵を見つけ出す能力に長けていまして。単純な視力だけでなく、ある程度地面に近付けば音や臭いも拾える。それに──」

「それに?」

「一番厄介なのが、その情報を他の竜と共有できることです。これが本当にまずい」

 

 これが、”王”の役割です、と。そうカガルは言う。

 

「王は群れのボスであり、そして心臓部です。竜族は、個々の肉体に魔力を宿しているのではありません。王が蓄えた魔力を群れの翼竜や竜人に再配分する。そういう生態になっています」

「へぇ。面倒な生態をしているんだな」

「ですが群れを作る上では滅茶苦茶合理的な生態なんですよ」

「どして?」

「簡単な話ですよ。群れの一部が死んでも、魔力を回収できるじゃないですか」

「あー...」

 

 

 成程。確かに合理的だ。──ボスがちゃんと群れのリーダーの役割を全うできなければ、悲しいくらい瓦解するであろう部分に目を瞑れば。

 

「ですが──その生態が、弱点になる事があります」

 

 カガルは弓を手に上を向く。

 そうして──何も無い空に向け、弓を放つ。

 

「何やってんの?」

「単純ですよ。──ほら」

 

 放たれた弓矢が空をかけていくと共に。

 

 ──谷を飛んでいた翼竜の何体かが、その弓に向かい向かっていく。

 

「こうして魔力が籠ったものを飛ばせば、連中はこっちに寄って来てくれるわけです。では、ヤナギ様。ベギム様。頼みます」

「心得た」

「.....承知」

 

 瞬間。

 ベギムがヤナギの肉体に触れると共に。

 ヤナギは蹴りを繰り出す。

 

 蹴りは──ヤナギの視界に映りし、翼竜の姿と重なる。

 

 翼竜は悲鳴を上げながら、地面に向け旋回して落ちていく。

 

 

 

「──お前の魔法、そんな使い方も出来たんだな」

「ああ。しかしすまないな。新しい武器が手に入るまではこの程度の手伝いしか出来ない」

「よいよい。ここからはわらわの仕事よ」

 

 さあて、とカガルが言うと。

 

「魔王様」

「あん?」

「竜は浄化魔法を扱えません。──どれだけ竜が強力であろうとも、魔王様を殺しきる事は出来ません」

「いやあ素晴らしい」

 

 ──あの忌々しい魔法が使われないというだけで、もう恐怖が消えていく。なんて素晴らしい。本当によくあの場所から生き残れたものだよ。

 

「ですが。魔王様は、あの放出系の魔法を使ってはいけません。使うとしても軽い幻覚魔法に留めておいてください。──教会の手の者に察知される可能性があります」

「了解」

「あとは──ヤナギ様と共に、好きに暴れて下さい」

 

 

 翼が折られた竜が、そのそっ首をカガルに掴まれ、引きずり出されていく。

 

「後は──これを餌にするだけです」

 

 カガルは矢を一本掴むと、翼竜の動脈に押し込む。

 悲鳴と共に血が噴き出ると共に──カガルは一つ詠唱を唱え、その飛沫に手をやる。

 

 

「何やってんの」

「風の魔法で、この血液に混じる竜の魔力を分離させているのです。そしてこの魔力に、私の魔力を混ぜ込む。そうすると──”王”の位置が判明する」

 

 竜族は、絶命すると、その魔力は王へと還っていく。

 その性質を利用し──カガルは竜の個体の一つを捕え、その魔力を風の魔法で抜き出すと同時。そこに自身の魔力を混ぜ込んだ上で──王の下へと走らせる。

 

「竜族は王を中心とした群体です。その性質故の厄介さを持っていますが──同時にその生態を利用する事も出来る」

「成程なァ」

「位置は....まあ予想通りでしたね。渓谷の谷底にいます」

「谷底かぁ」

「はい谷底です。──という訳で。我々の勝利条件は谷底まで下ってこの竜の王様を仕留める事です」

「解りやすくてよいの。──まあ」

 

 

 そうして。

 

 

 翼竜が仕留められた事で──周辺に殺気と共に気配が増えていくのを感じる。

 

 

 鰐の頭に、蜥蜴の胴体。そこに二足歩行のフォルムと鋼鉄のような鱗を携えた、異形の生命体。

 

 竜人が、鋭い爪牙を剥き出しに──群を成しこちらに唸りを上げている。

 

 

 

 

「まずはこ奴等の掃除じゃな。──さあ闘争を始めようか」

 

 

 唸りに応えるように。

 ヤナギもまた犬歯を剥き出しに、両の拳を握り込み。

 

「おう。ぶっ殺してやるよ」

 魔王もまたにこやかにそう呟いていた。

 

 ──最早。たかだか竜の威圧如きにたじろぐ事はない。

 見てきた地獄はたかが一晩。だが乗り越えるに辺り、あまりにも奇跡の一晩であったのだから──。

 

 

 

 

「.....おい」

「はい何でしょうか」

「夢でも見てんのか?」

「現実ですよ」

「俺の脳味噌がとち狂っていないってんならさ。目の前に竜人共を千切っては投げひき肉にしている化物がいるんだけど....」

「ええ。私も見えますね」

 

 

 様々な経緯があり、己の故郷からトンズラをこいている最中にあるグラハムとビスクは。

 幾日も人目を避け逃げた後。遠望魔法を駆使ししながら注意深くその様子を眺めていたが──。

 

 

 

 そこに見えたのは。

 

 武道着を着込み竜人を正面から叩き潰す女と。

 恐らくは膨大な魔力を身体に巡らす事により怪力を得ている、角の男。

 

 竜人が纏う鱗は、鋼鉄よりも硬い。

 彼等の膂力は、大人の男を赤子扱いできるとまで言われている。

 

 それを──力でもって叩き潰している。

 

 

「あの女性....怪我していますよね」

「してるな。血が噴き出とるわ」

 

 全身に包帯を包んだその女性は──特に右足の腿部分が重症なのだろう。踏み込み、拳を振るうたびに包帯から血が漏れ出している。

 激痛に違いない。

 なのに止まらない。踏み込みの深さが変わらない。

 

 

「なあ」

「はい」

「あれってさァ──ヤナギ・ソネサキだったりしない?」

「有名な方なんですか?」

「軍関係者と武術齧った事ある奴と地属性の魔法使いなら間違いなく聞いた事ある超がつく有名人。つーか多分人じゃないだろうけど」

「はあ」

「でさぁ。──魔王狩りの祭典に参加してたはずなんだよなぁ。俺の記憶が間違っていなければさぁ」

「それは強いはずでしょうね。──いや本当に。あんなの人間に許されていい強さなんですか」

 

 女が投げる都度。恐ろしい強度を持つ竜の骨が枯れ木のように砕けていく。

 

「じゃあアレって──魔王?」

「...」

 

 

 よし、と一つグラハムは呟き。

 

「まあ奴等の正体は見なかった事として」

「はい」

「奴等が竜共の気を引いてくれているならチャンスだ。このまま連中とは逆方向に大きく谷を迂回していくかね」

 

 グラハムはうむ、と一つ呟き──そのまま歩き出そうとして。

 

 

 

 

「....」

「どうしました」

 

 グラハムは──竜人が薙ぎ倒されている地点から、視点を空に移す。

 翼竜は渓谷より平原に向かい移動を始めていた。

 

「.....まだちょい様子を見たい」

 と。

 そう言って──足を止めた

 

 

「.....」

 

 グラハム・アルベルドが行方不明となったと、報告を受けた後。

 砲兵部隊の最終決定権は、グラハムより部隊長に移された。

 

 部隊長はグラハムの意向を受け継ぎ、地上に部隊を展開しつつ竜が平原に向かってくるまで待機し続ける方針を受け継いでいた。

 

 ──これが、グラハムの一つの狙いであった。

 

 指揮権を貴族であるグラハムから現場の隊長に、自身が”死亡”扱いする事で自然と移譲させる。

 

 魔王を取り逃がした、という事実は貴族以上の階級の人間にのみ伝えられている事であり。それ以外の人間には決して伝えられていない。

 それ故に、魔王捜索のための兵の徴収は各貴族に命令が伝えられ、命令を受けた貴族が指示を出し兵を派遣する──という形で行われる。

 

 しかし。

 グラハムは屋敷の火事にて”死亡”し、命令を与えた教会の人間も屋敷の中でグラハムに抹殺された。

 

 グラハムの死亡が中央に知らされ、そして代理の貴族が立てられるまでの間。

 魔王捜索のために兵が派遣されるのを止める事が出来る。

 その上、教会の手の者も始末したことにより更に時間的猶予が与えられた。

 

 こうして──せめてもの時間稼ぎが出来ればと考えていたが。

 

 

「……」

「余計な事を考えていませんか、グラハム様」

「余計かねー」

「私と貴方が安全にクルデアから逃げる、という目的においては」

「まあ、そうだなー」

 

 

 はぁ、と一つグラハムは溜息を吐いた。

 

「まあだが仕方がねぇ。生まれ持った好き嫌いってのはそうそう変えられねぇ」

「そうですか」

「トンズラこくのも嫌いじゃねぇが──気に食わねぇ連中をぶっ潰す方が好きなんだよ。あのクソ竜共ぶっ潰せるチャンスが目の前に転がっているなら拾ってやるのみよ」

 

 

「どうしたもんかね」

 

 襲撃にやってきた竜人を撃退した後。

 魔王一行はうーむ、と唸っていた。

 

「竜の王様はあの谷底にいるんだろ。どう近付く?」

「まあ谷を迂回して底に向かうしかないんでしょうけど。──そうなると少し時間がかかりすぎますね」

 

 竜のボスが渓谷の最下層に身を潜めている。

 こちらは山岳の上側にいるので、谷を降っていくという選択肢以外取りようがない。

 

 当然敵は山岳から谷にかけて兵力を集めているだろうから──竜の群れ全てを殲滅しながらの戦いという事になる。

 

 ヤナギと魔王であれば、それも可能であろう。

 だが

 

「ひぃ。や、やめてください~。死んじゃう~。ゴーレム君なしで竜がいる谷を下っていくなんて絶対に無理です~!」

「.....情けない話だが。私も武器を失っている。とてもじゃないが竜の軍勢とは渡り合えない」

 

 流石に殲滅戦となると、他の仲間の犠牲なしにというのは中々に難しいだろうと。そう判断をしていた。

 

「何とかあの群れを散らして、王の所に魔王様かヤナギ様を送り込める方法があればいいのですが──」

 

 全員が思索をしている中。

 ヤナギが別方向へ視線を向ける。

 

「隠れずともよいぞ。そこな二人」

 

 岩陰に向かって、そう語り掛けていた。

 

 

「ありゃ。バレていましたか」

 岩陰から、人影が伸びる。

 その先に、一人の男と、女がいた。

 男は筋肉質な偉丈夫であるが、胡乱気な目と怪しげな笑みを張り付けていた。筋肉をつけた詐欺師が、これからまさに弁舌を行わんとする意思が宿った風情と風体。見た瞬間、ヤナギの口元が綻んだ。──こ奴、我等に姦計を仕掛けんとしているやもしれぬと。

 女は能面を張り付けているかと言わんばかりに、表情筋が無用の長物となっていた。整った顔立ちが整ったまま、口先だけが呼吸の為だけに動いている。人の形を象った無機物と言われても信じられる有様である。

 

 二人は共に旅装の上に、山越えの装備を着込んでいた。

 

「敵意がない故見過ごしていたが、何か用か?」

「あー。さっきからアンタ等の戦いを見物してたのもバレバレかぁ。──まあ。自己紹介の前に、まず俺の提案を聞いてくれ。まずはそこからだ」

「ほう。名乗る前に提案か」

「そう! 名乗る前ってのが重要なんだよ。何故かというと、アンタ達は俺の名前と出自を聞いた瞬間に即座にぶっ殺しにかかる危険性があるからだ。それ位、俺の正体ってのは危険なんだ。主に俺の命が」

 

 そう少し媚びいるように話すと。益々──ヤナギの笑みが深くなっていく。

 

「と、言っているが。どうする、()()

「さてなァ~。どうするヤナギィ~」

 

 それに呼応するかのように、魔王とヤナギはわざとらしく互いの名前を呼び合っていた。

 

 ──やっぱり魔王とヤナギか。つまり、ここで説得できず敵認定されれば俺は惨たらしく殺される羽目になる訳だ。ひぇぇ~

 

 大陸でも指折りの英傑であり戦闘狂、ヤナギ・ソネサキ。魔王狩りに参加していたはずの彼女が、いつの間にやら魔王と行動を共にしている。──これは一体どういう事だァ? 

 

 気になるが。

 今はもっと気にするべき事がある。──自らの命だ。

 グラハム・アルベルド。はいクルデアの領主の名前です。ただ名乗ってしまえば間違いなく殺されるだろう。──というか何か仲がいいなあの野郎共。

 

 

「....」

「貴女の言葉をワタシが代弁しましょうか、ベギム様」

「してみてくれ」

「引くほど性格悪いですねあの二人....」

「.....正解だ」

 

 

 

 まるで蟻の足を摘まみ上げて、観察しているかのような意地の悪さが笑みが滲み出ている。

 

 

「まあ目的ってのは簡単な話でさぁ」

「何だ?」

「あの谷をうようよしている翼竜。俺達二人としても邪魔で邪魔で仕方がなくてな。──どかす算段があるから、協力しねぇかと」

 

 

 

 ああ。

 ──何で俺はこんな事に命を懸けてんだろう。馬鹿みてぇだ。

 

 

 泣きそうになりながらも。腹を括る。

 さあ。ここから言葉一つ間違えれば死の道間違いなしの戦いだ。クソッタレめ。やってやろうじゃねぇか──。

 

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