エクストリーム魔王狩り転生バトルロワイヤル   作:丸米

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私を主から離してはいけません。私を人質にとってもいけません。OK?

「ほう。協力か。それがおぬしの提案という訳か」

「そう。そういうことだ」

「して──おぬしは何をやってくれるわけだ?」

「あの谷を飛んでいる翼竜共を追っ払う」

「どうやって?」

「平原に展開している砲兵と対竜魔法使いの半数を山岳側に移動させる。で、そこから谷の翼竜へ爆撃(バク)る」

 

 グラハムのその言葉を聞いた瞬間。

 

 は? と魔王がまずもって疑問の声を上げた。

 

「え? あそこの軍隊動かせるの?」

「おう」

「マジ?」

「マジだ」

 

 魔王は、グラハムの目を見て。そしてヤナギの方へ目をやった。

 

「成程の。提案を聞いた故、名乗ってもらおうか」

「グラハム・アルベルト。クルデア領、城塞都市アルベルトの領主をやっていました~」

「.....」

「.....」

「よ、よろしく...」

 

 こいつ、クルデアの貴族かよ──魔王は明らかに嫌そうな視線をグラハムに浴びせ。ヤナギは興味深そうにグラハムを見ていた。

 

「やっていた──という事は。もう今は領主ではないのだな」

「そういう事になるな。というかもう俺、多分死んだ事になっていると思う」

「ふむん?」

「いやぁ。おいら元々軍人でさぁ。貴族の血はあるにはあるけど吹けば飛ぶようなカス貴族でさぁ。そんで浄化魔法も肌が合わずに修得できてねぇから教会の連中にも嫌われてねぇ」

「ほほう」

「ただ隣国との戦争で結構活躍したのよ。そしたらさぁ──その戦争した国と国境線にあるクソ立地の所領を押し付けられてさぁ。毎日胃が痛い思いしながら真面目に貴族様やっていたのによぉ。竜が攻め込んで来やがって」

「ありゃりゃ」

「竜に対応する為に兵を割いているってのに、魔王探しの為に兵を派遣しろと教会から言われ」

「ありゃりゃりゃ」

「そんな余裕ない。無い袖は振れないと言ったら。無い袖振れねぇとお前所領没収の上裁判にかけるからな~と教会の連中に脅されて」

「ありゃりゃりゃりゃ」

「わざわざ屋敷に来てまで煽り散らかした偉そうな教会のアホ共にブチ切れてカッとなってぶん殴ってねぇ。そこから当然のように殺し合いになって無事生還しまして! あ~このままだと間違いなく俺処刑じゃんってなったので。まあ過ぎてしまった事は仕方がないのでそのまま屋敷燃やして自分も死んだ事にしてさあ亡命だ.....と。ここまで来てしまった訳ですぅ」

 

「....」

 

 ──ヤバい。クルデアの貴族と聞いて警戒していたが。こいつかなり愉快なタイプの人間かもしれない。

 

「という訳で。あの砲兵は俺の兵です。俺の言う事聞いてくれます」

「ふむふむ」

「俺は浄化魔法も使えねぇし、教会の手先をぶっ殺した貴族のなり損ないですのでさぁ。そりゃあ魔王様にとっちゃあクルデアの貴族なんざ不倶戴天の害虫そのものでしょうけど。一応私も教会にとっちゃ害虫となりましたので。ちゃんと節操を以てお役に立たせて頂きますので、手を組みませんかと」

 

 一連のグラハムの話を聞き。

 ベギムは成程、と呟いた。

 

「魔王の捜索に兵が割かれていく中あれだけの兵力を平原に集められている現状が不思議だったが....話を聞いて納得できた」

「してくれましたかい」

「話の筋は通っているように思えますが──どうします? 魔王様」

「ん? いいんじゃないの。密告するならわざわざこっちと交渉せずにさっさとやりゃあ済む話だろうしな」

「話が早くて助かるわ~」

 

 ──いや。マジで話が早くていい。魔王も案外合理的なんだな。

 

「谷の翼竜共をどかせたら、浮遊魔法かなんかで”王”と戦える奴を谷底に送り込めばいい。そうすりゃこの馬鹿でかい谷を竜と戦闘しながら迂回することなく、短時間でこの群れを壊滅できる」

「あの数の翼竜を砲撃でどかせるもんなのか?」

「おう。まあまあその辺りはちゃんと考えてある。──それじゃあ、ちょっくら平原まで行ってくるわ」

 

 そう言ってビスクを引き連れ平原へ降りようとするグラハムに。

 

「お待ちください」

 

 カガルが制する。

 

「一応の為です。──グラハム様の監視兼護衛としてワタシが同行し。お連れ様はこちらで預かる形にしておきましょう」

 

 にこやかな笑みと共に、カガルがそう言った。

 

「.....成程な。用心深い」

「万が一という事もあり得ますからね」

 

 万が一。そう、万が一の為の保険。

 グラハムに監視をつけ、そして──連れのビスクを人質に取る。

 この場においては筋のある道理を語ろうとも、後々気が変わる事だってあるだろう。魔王という巨大な厄ネタを持っている限り、リスク管理は徹底して行う必要がある。

 

「文句はありませんね」

「...」

 

 グラハムは、──ここで珍しく表情を変えた。

 その表情の変化というのは。不快故のものではなく、明らかな焦燥ゆえのもの。

 

 その視線は、ビスクをしっかりと捉えている。

 

「成程。──私は人質という訳ですね」

 

 では、と。そうビスクが呟くと。

 己の懐より、刃物を取り出す。

 

「──おい馬鹿やめろ! ビスク!」

 

 そして、グラハムがかける声に一瞥だけを送り、

 

「従者の私が人質となり足を引っ張る訳にはいきません。これからのご健勝をお祈りいたします、グラハム様」

 

 己の動脈に向け、一切の躊躇いを持たず突き出した。

 

「──おや」

 

 その動作に即座に反応したのは、魔王であった。

 ビスクの刃物に向け即座に魔力の放出を行い、吹き飛ばした。

 

「....」

「.....おいおい。どうなっている?」

 

 何の躊躇いもなく自決を選ぼうとした女は、それでも何も変わらない。死を免れた事実を前に安堵の表情一つ浮かべず、ただそこに佇んでいた。その様を──気味悪そうに、魔王は見ていた。

 ただ、己が死ななかったという事実を把握し。その事実から、次に放つべき言葉を淀みなく、はっきりとした口調で伝える。

 

「──私を人質にしたいというのならばご自由にどうぞ。如何なる方法をもってしてでも自決しましょう。手足を縛られれば舌を噛み切り。猿轡をされたとあらば己が魔力をもって心臓を突き刺して。私の役割はグラハム様の身辺の世話と警護です。この役割が果たせぬとあらば私に価値はない。死ぬ事に躊躇いを覚える事はありません。──つまり、私を人質に取る事は出来ません。決して」

 なので

「私はいかなる状況であろうともグラハム様から離れる事はありません」

 

 ビスクは。涼し気な表情と声で、実に恐ろしい事を言い放っていた。

 この女は──平気な顔で自分の命を交渉材料に使用している。

 

 人質になる前に自決する。故に人質にするのは無駄だ。だから──自分を人質に取るな、と。

 生半可な脅しではなく。必ずや実行できる覚悟を当然のように持ち合わせているが故に成立する交渉。

「......成程」

 

 

 カガルもまた、その様子を見てビスクを人質に取る事は不可能と判断したのだろう。

 

「ならば仕方がありませんね。──ヤナギ様」

「うむ」

「ワタシとご同行願います。そこの従者の方は、どうやら主から離れる気はないらしい。ならばこちらも監視する役をもう一人分増やす他ありません」

「よかろう。──しかし見上げた覚悟よ、そこな従者よ」

「覚悟とはまた違います。私にとって自分の死というものに対して大層な矜持も、恐怖もないというだけです」

 

 その一連のやり取りを見て。

 グラハムは──先程までの飄々とした態度を完全に崩し、安堵の表情と共に溜息をついていた。

 

 

 

 

「.....」

 

 アルベルド領邦軍はじわり、じわりと士気が削られていっていた。

 なにせ──この状況がもう四十日以上もの間続いていたからだ。

 

 竜という最悪の脅威を前にただ”待つ”事が強いられる状況。

 それは戦闘状況に入る事よりもずっと精神が削られる事となる。

 いざ戦闘状況に入れば恐怖を感じるよりも前に、戦う事に集中する事が出来る。

 しかし──いつ戦闘が始まるかどうか解らない状況が続く時。更にその相手が、自身よりも強大な力を持つ相手である時。

 際限なく、恐怖というのは膨れ上がっていく。

 

 これは、竜の群れが組織的に非常によく使う手法である。

 

 

 翼竜という飛行生物の特性を活かし地形上の有利を得て、待ち構える。

 彼等は自分たちの生物的な強さを何処までも理解している。

 自身の有利なフィールドで待ち構えるという手法を、彼等は扱える。

 

 戦っている者同士が待ちの戦術を取った際。

 疲弊が大きいのは弱い方だ。

 

 竜との戦いという最大限の恐怖だけを味わわされ続け。ただ精神的な疲弊だけが積み重ねられていく。

 当然。士気は日に日に落ちていく事となる。

 

 

 そして──彼等に、領主グラハムの訃報がまた届き、削りに削られた士気は──更にどん底に陥る事となる。

 

 

「それで」

 

「うん?」

 

 山岳の麓。平原の様子を見ながら。

 

「死んだはずの貴方が、どうやってあの軍を動かすんですか?」

「ここからが俺の魔法よ」

 

 グラハムはジッと、軍隊を眺めていた。

 

「俺はカスの貴族の子でな。借金苦に酒カスに暴力癖というゴミカス三重苦の親父から逃げる為に年齢と身分誤魔化して軍隊に入ったのよ」

「....」

「貴族でも軍人の家系でもねぇ。浄化魔法も使えねぇから教会の心象も悪い。──それでも爵位を押し付けられるくらいには戦果を挙げたのは、俺が開発した魔法がそれだけ有用だったからだ」

 

 

 グラハムは平原に展開する軍勢を見据え。

 ス、と左手を掲げた。

 

 

 

「.....ん」

 

 

 それを最初に気づいたのは、前線の兵であった。

 黒い線が、己の影より伸びていく。

 

 線が伸びると共に。

 己のシルエットが影絵の如く浮かび上がり──その線に沿って、シルエットが動き出す。

 

 

「これは....」

 

 

 最初、何が行われているのか理解が追い付いていなかった彼等の目に──徐々に光が宿っていく。

 

「グラハム様だ....グラハム様の投影魔法だ!」

 

 

 

 シルエットは、平原の兵全員分が形成され。

 半分の兵が山岳の前まで進軍を行い。残り半分が平原より山岳の中へ向けて動き出していく。

 

 

「──ようやく。山岳に攻め込める算段が立ったのか....!」

 

 

 前線指揮官は一つ安どの息を吐く。

 

「何故己の死を偽装する羽目となったのかは解りませんが。貴方の魔法を、我々は信じます」

 

 

 どん底にあった兵士の士気は、その瞬間より一気に最高潮にまで跳ね上がった。

 

 

「全軍、動くぞ....!」

 

 男共の叫びが平原に木霊すると共に。

 軍は影の動きに沿い、動き出していた。

 

 

 投影魔法。

 それは、グラハム・アルベルトが軍人時代に開発した魔法である。

 

 自身が脳内で思考しているものの動きを、現実世界に投影する。ただそれだけの魔法。

 

 要は実体のない影を生み出し動かすだけの魔法であるが。グラハムはこれを用いて、現場指揮官として類稀なる功績を積み重ねてきた。

 自身が率いる軍勢に投影を行い、その影の動きをなぞらせる。もしくは敵の動きを事前予想し投影する事で危険予知を行う。

 

 経験の浅い新兵を押し付けられ南部の激戦区に放り込まれてなお。グラハムはこの魔法を駆使し、死亡者を出さず前線を維持し続けていた。

 その後。グラハムは当時開発されたばかりであった砲台の有用性をいち早く気付き。弾道を投影予測する手法を用いて、異種族との大戦にて勝利を収める。

 

 その後。平民出身の英雄となったグラハムは、箔を付けるべく半ば押し付けられるように爵位を与えられ領主となり、軍属から離れる事となった。

 

「──さあてここからだ」

 

 今まで待つ以外に対応策が見つからなかった竜との戦い。

 予想外の勢力が山岳に入り込んだことによって出来た好機を、ここで活かす。

 

 

「こいつがクルデアの人間としての最後の戦いだ。しっかりぶっ殺させてもらうぜクソ共」

 

 平原から、己が生み出した影をなぞり進軍してくる兵たちを見て。

 グラハムは──何処か優しく笑みを浮かべていた。

 

 

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