エクストリーム魔王狩り転生バトルロワイヤル   作:丸米

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メイドちゃんは冥途ちゃん

「成程の」

 

 グラハムが投影した影を見た瞬間。

 兵士たちは──何の躊躇いもなく、その影を追い、行動を始めていた。

 

「それがおぬしの魔法か」

「そうそう」

 

 兵士たちは一斉に動き出し。隊列の乱れもなく、一定の速度を以て山岳へと向かっていく。

 

「どれだけ時間がかかりますか?」

「山頂につくまでなら半日でいけるだろうがな。そこから砲台の設置にさらに半日はかかる。まあ丸一日はかかるものと思ってくれ」

「想像以上に早いですね。──あら。平原に設置されてある砲台がいつの間にか消えていますね」

「そりゃ消したからな」

 

 平原に列となって設置されていた大砲は、その存在を既に消していた。

 

「大砲は転送魔法とセットでの運用だ」

「ああ成程」

「基本的に隣国から攻められることを想定しなければいけなかったから。山岳に陣を取られたら砲台で攻め崩して、山岳を挟んだ睨み合いをしなければいけないならこっちが砲台を魔法で設置して先制攻撃する。我ながら完璧な戦略だと思ったんだがなぁ。攻め込んできたのが竜だったから畜生。対応できずに山岳の兵たちはやられてしまった」

 

 消えた半分の砲台は、山岳の麓に。

 残る半分は消えたまま。

 恐らくは転送魔法にて別の座標に送り。山岳に移動したと同時にまた呼び戻すのだろう。

 重く動かしにくい。それ故に拠点防衛用に使用される事が多かった大砲を、転送魔法との組み合わせで攻撃用に運用するようになったのだという。

 

 

「よく魔法使いを調達できましたね」

 カガルがそう感心と共に呟くと、グラハムは

「そこはまあ頑張った。──中央から離れている上に攻め込まれたらいの一番に戦わなきゃならんこの場所じゃあ、転送魔法は間違いなく命綱よ。大砲だけじゃなくて補給においてもな。なんで跪いて靴を舐めてでも転送魔法の使い手を集めていた。それでも足りねぇから魔法の素養のある兵士共にとにかく覚えさせた。俺の努力の賜物よ」

「ほう。跪いて靴まで舐めたのか。流石だの。──しかし、わらわ等に協力を仰ぐ時はそこまでの誠意をみせておらなんだが」

「いいのか? 舐めるぞ」

「貴様の汚い唾液などいらんわい」

「だろう? 俺だって舐められたい人間を判別するだけの目は持っている。舐めんな」

「今まで一人でもおったか? 舐められたい人間とやらは」

「おらんな。人の靴なんざ舐めるもんじゃねーや」

 

 さて、と呟く。

 

「道中の安全はマジで頼むぞ。そこに関しては俺は無策だからな」

 グラハムは心配そうにそうカガルに呟く。

 転送魔法によって砲台を設置する関係上。どうしても移動中は無力になるのが砲兵である。

 移動中に襲撃でもされようものなら、全滅間違いなしだろう。

「ええ。安心してください。そちらに関しては我々に策があります」

 

 カガルはにこやかにそう言うと。

 

「では──よろしくお願いしますね。魔王様」

 

 

「任されたぜェ」

 

 魔王は。

 にこやかに笑みを浮かべながら──二体の翼竜の首根っこを掴んでいた。

 

 先程、ベギムの天地魔法とヤナギの攻撃により翼が折られ、地面に叩き落された彼等は。魔王の手により回収がされていた。

 

「.....何をするつもりだ?」

 

 ベギムが、そう思わず呟いた。

 眼前には恐怖でぎぃぎぃと泣き叫んでいる翼竜が二体。されど魔王の膂力の前に抵抗すら出来ず、ただそう喚く事しか出来ていない。

 

「いやなに。──ちょっとした実験だ」

「何の?」

「魔王の魔力ってのは、他の生物に宿せば”魔物”になるんだろ?」

「....」

 

 まさか、とベギムは呟く。

 

「ウルド」

「何だ?」

「お前、浄化魔法は使えるよな」

「これの事か」

 

 ウルドは地面に手をかざし、軽く念ずる。

 その瞬間──眩いばかりの光が、発生する。

 

 

「よし。流石は元聖女だ。──この竜共を魔物化させて。用済みになればウルドに証拠隠滅させてもらう。という訳で。魔王のラブ注入~」

 

 

 握った指先を軽く首にめり込ませ。そこを起点に魔王の魔力を流し込む。

 死なぬ程度の魔力量。されど”毒”の性質を持つ魔力が流れ込むごと、竜は喉が潰れるが如き痛みに咽び泣いている。

 

 一度魔王の魔力を注入された経験のあるベギムは思い切り顔をしかめる。ついでにエルドは叫び声にひぃひぃと怯えている。ウルドだけが、無関心そうにその様を見ている。

 

 翼竜は──断末魔の果てに。折れた翼は禍々しくその形状と色彩を変え。その眼は殺意に満ち満ちていく。

 

 刃のような鋭さを併せ持った翼に、血涙を流す真っ赤な瞳を持った──魔物化した”竜”がそこにいた。

 

 その二体が魔王の前に傅くと、

 その背中に、魔王はそれぞれに足をかける。

 

「ベギム。ウルドの世話を頼む。竜人に見つかったら無理をするな。ウルドを連れて俺の方向に逃げてこい」

「.....心得た」

「わ、私は....? 私は.....?」

 マルマル・エルド。

 その眼は、”私も護ってくれ”と訴えていた。

 

 が

 

「お前は知らん。勝手に逃げてくれ」

「びえぇぇぇぇぇ」

 

 爽やかな笑顔と共にサムズアップした魔王にそう切って捨てられ。泣き出していた。

 

「それじゃあ──連中に地獄を見せに行くぜ」

 

 

 二頭の翼竜を足蹴に。

 魔王は──大空へ飛び出していった。

 

 

 魔王は翼竜に乗り空を飛ぶと、山岳の頂上へと向かう。

 

「ここが。グラハムの砲兵が設置される場所だな」

 

 砲兵が平原から山岳へ向かうよりも先回りし、魔王はこの場所へと来た。

 

「──幻覚魔法」

 

 そうして使うは。

 A→A´のコピペ幻覚魔法。

 

 同じ位置に、同じ魔力を、同じように籠める。

 

 同じ場所を、同じ光景に塗り替える。

 

「これで──砲兵の移動に関して、奴等は外側からは認識できない」

 

 同じ光景をコピペしたところで同じ風景が広がるだけであるが。

 そこに”砲兵が今まさに移動している”光景の変化を幻覚の中に覆い隠す事が出来る。

 

 

 

「よし。俺の仕事は終わり。──このままズラかるぜ」

 

 さあて~

 このまま~もう一度~この魔物化した翼竜で大空を飛んで~

 

「帰るぞ~」

 

 サッサと帰ってウルドに浄化魔法を浴びせてもらわねばならない。

 浄化魔法、敵が使っているのはあまりにも恐怖の対象だったが。味方が使う分にはあまりにも便利すぎる。

 

 

「へ?」

 

 

 足に、

 風が吹き抜けていく。

 

 

 

「ヴぁ?」

 

 

 すぅ~

 

 

 

 足場が──消えた。

 

 

 足場君一号二号。共に──谷底より放たれた高密度の光線に貫かれ、絶命。

 絶命した彼等の亡骸は魔王の足下より地面へ向けて急落下。そのまま硬い岩盤に叩きつけられ谷底へ消えていく。

 

「.....」

 

 魔王。

 このまま紐無しバンジー真っ逆さまかな~なんて思っていたら。

 

「ぐげぇ!」

 

 追撃の光線がその身に叩き込まれ更に宙を浮く事となりました──

 

 

「魔王様が幻覚魔法を仕掛けました。これで、砲兵の道中の安全は保障されたも同然です」

「なあ」

「何ですか?」

「俺は結構目がいい方でさぁ──魔王が今空から谷底に落ちているように見えるんだけどよぉ。気のせいか?」

「気のせいです」

「すんげぇ光線にぶち当たっていたけど.....?」

「気のせいです。──さあ行きましょう」

「安心するがよい。あの程度で死ぬ魔王ではない」

「....」

 

 

 魔王は。

 谷底に落ちるまでの間。幾体もの翼竜に纏わりつかれ、そして谷底からの光線を浴びせられながらも──奇声を上げながら、翼竜を殴り殺していた。

 本当に──浄化魔法なしだと、アレは最強の生物なのだろう。

 

 

 現在。グラハムは影を動かし兵を誘導しつつ。

 己もまた魔法の効果範囲から逃れぬように、魔法を行使しつつ同じ方向へ移動している。

 

「俺は無防備だからよ。頼むぜ、三人」

「うむ。我等は大丈夫であるが──この娘は、何が出来るのだ?」

 

 ヤナギはそう言うと──グラハムの背後に佇むビスクに目をやる。

 

「──私の戦術的価値についてですか?」

「そうだ。そもそも我等二人相手からこ奴を護衛すべく、おぬしはここに来たのであろう」

 

 はい、とビスクは言う。

 

「私はこのような見た目をしていますが。元々はラミア──所謂吸血鬼と呼ばれる一族の者です」

「.....吸血鬼? そのようには見えぬな」

「そうでしょうね。私は一度教会に囚われ、吸血鬼の人体的特徴である鋭く尖った八重歯と耳を削られました。そして──聖骨を埋め込まれ、日光に対する脆弱性の問題を克服しております」

 

 教会に囚われ。

 身体的特徴を削られた。

 

 そのワードを聞いた瞬間より──カガルの表情が変わる。

 

「貴女も──『聖女』の素体候補だったのですね」

「はい。ですが吸血鬼よりも、エルフの方が素体としては優秀だったみたいですね。折角埋め込んだ聖骨の力が、弱点である日光への対処につかわれてしまうものですから。──私は廃棄処分される予定でしたが。故あってグラハム様に拾われる事となりました」

「....」

 

 質問に答えます、とビスクは言った、

 

「何ができるかはこれよりお見せいたします。──グラハム様。私に影をお貸しください」

「....了解」

 

 移動の最中。

 ビスクの目には──木々の間に隠れ、奇襲をかけんとする竜人の姿が目に映る。

 

 

 グラハムがビスクの周囲に影を集めると──その中に、彼女は沈んでいく。

 沈むと共に。

 黒は──血のような紅色に染まっていく。

 

 

 そして。

 

 

 竜人の背後にある影もまた──赤く、染まっていく。

 

 

 紅の影の下。

 竜人の足首を、ビスクは掴む。

 

 ゲ、と一つ声を上げると共に。

 竜人は──血染めの影に、沈められていく。

 

 

 沼底からの声のようにくぐもった音が響くと共に。

 ビスクは──竜人の亡骸を手に、影より戻る。

 

 

 

 その亡骸は。

 全身の血液が抜き取られ、骨と皮膚のみが残されていた。

 

 

「私は吸血魔法と、隠匿魔法の二つを習得しております。相手の血液を奪い取る事と、暗闇に己の肉体を沈め、影から影へと己を動かす魔法。私の魔法により吸い取られた血液は、私の影にストックされます。それ故に、私が沈んだ暗闇の色は、赤色になる」

 

 ビスクの背後。

 仲間を仕留められた別個体の竜人が、また襲い掛かっていく。

 

 しかし──その爪先がビスクの首を狩り取るよりも早く。その顎先と頭頂部に彼女の両腕が挟まれる。

 

 ごきべきごりぐぎ。

 竜の強固な頸椎を無理矢理にねじ折り、彼女は己の影にその死骸を投げ捨てる。

 

「そして──血液をストックするごと、私自身の膂力も跳ね上がっていき。その血液を用いた魔法も諸々使えるようになります」

 

 紅く染まった影は泥のような液体となり竜の全身からその内側に入り込むと──その内側にある血液を一滴残らず吸収していく。

 

 

「聖骨によって、私は生存の為の吸血行為は必要ではなくなりましたので──こうして自分の力に回す事が出来ています。以上が、私の戦術的価値となります」

 

 本来は食事行為と一体であった、吸血鬼による吸血魔法。

 教会に拉致され、聖骨を埋め込まれた事で──彼女のそれは、ただ己の力を増やす事のみに注力できるようになったのだという。

 

 そして。

 その主は──影を自由に生み出せる男と来ている。

 

 

 

「いや。失礼した。──おぬし等の事を少々侮っていた」

 

 

 ただのクルデアの貴族と側近かと思えば。

 何とも面白いではないか──そうヤナギは内心呟いていた。

 

 

「....」

 

 そして。

 カガルは無言のまま──何かを思い出さんと。ジッとビスクを見つめていた。

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