エクストリーム魔王狩り転生バトルロワイヤル   作:丸米

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エクストリーム‼エルフ集落来訪編
頭に生えた雑草はさっさとぶち抜いてあげましょうね~☆


 さて。

 渓谷から攻め込みし竜を叩きのめした魔王一行は、クルデアの領内より逃れ。サレイム領へと至った。

 国境を越え別の国に足を踏み入れはしたが、特段景観に違いはなし。山の麓に幾つかの村があるだけ。

 その村も、竜の侵攻が行われた事により村人全員避難しているようで。もぬけの殻の様相であった。

 山岳を超えた辺りで、ベギムとマルマルの疲労が限界を迎えかけていた為。麓の村にある家々の軒先を借り、村人が戻ってくるまで暫く休養する事となった。

 

「ここより東の街道を進みまして。都市グラムベルまで行きまして。その一区画にエルフの加護地区があります」

「グラムベルまではどのくらいかかるんだ?」

「徒歩で向かって七日程ですが、事前に転送魔法を仕掛けている場所がありますので、移動そのものは二日で済みます。――とはいえ。一つ問題が」

「問題?」

「クルデアから逃れたとはいえ、魔王様は魔王様ですので。その正体が露見するわけにはいきませんが....やはりというか。その見目があまりにも目立ってしまうのです。都市に入る前に、最低限怪しまれない程度の見目にしておきたい」

「そうだねぇ....」

 

 馬鹿でかい角。麻黒い肌。でかい体躯。目立つ要素のオンパレードって感じ。こんなもん歩いていたら目立って仕方が無かろう。

 

 

「肌の色はともかくとして.....その角はどうにかしたいですね」

「どうにかできる?邪魔でダサくて仕方ないからどうにか出来るならどうにかしたいんだけど」

「どうにかしたいのですね⁉」

 

 唐突に。カガルは恐らく「言質取ったり!」と心中叫んでいるであろう声音で、嬉しそうにそう言った。

 凄まじく嫌な予感がする。

 

「失敬するぞ、魔王よ」

 

 すぐさま。にこにこと笑みを浮かべたヤナギが魔王へ近づく。

 コンコン、と指先で角を軽く叩く。

 

「どうですか、ヤナギ様?」

「音の反響から見て、頭蓋骨と一体化している感じだの。脳と連結している訳ではないのが救いか」

 

 にこにこ。

 にこにこ。

 

 魔王の左右を挟むカガルとヤナギは笑みを浮かべている。

 

「あ....」

 

 その様子に――恐らくベギムは察したのだろう。ほんと、察しちゃった....って感じの「あっ」て声を出している。

 

「魔王よ。少し屈むがよい」

「ん?こうか?」

 

 そうして少しばかり膝を折りヤナギの頭部近くまで身を屈めると。

 ガ、とヤナギの両手が魔王の両角を握り込むと同時。大地魔法がかけられる。

 逃げる事が、出来ない。

 

「あ....」

 

 その時魔王は、ベギムとまっっったく同じ声音でそう呟いてしまった。何故己に降りかかる危機に対して他者よりも察しが悪いのか。己が状況察知能力の悪さがこんな所で如実に自覚できてしまうのは何故というかなんというか――。

 

「溌――!」

 

 角を握りながらヤナギは軽く腰丈を下げ、足先に力を籠める。

 その後、再び腰丈を上げる動作をもって――足先から籠めた力を己が肉体へと通し。大地魔法を解除。

 以前、魔王及び聖女と戦った際に見せた技法の応用。

 足先に籠めた力を、大地魔法の解除と同時に肉体へ通す。以前はそれを投げ技の威力を高める為に使っていたが――今回は、角を押す力に転嫁している。

 水が流れるような力の流れがヤナギの両手を通し魔王の角へ届き。その流れは角から魔王の頭蓋へ到達する。

 

 力の流れが頭蓋から角との連結部を断ち切る。その感触がヤナギの両手から伝わると同時、くるりヤナギの腰先が捻られる。

 捻りは螺旋状の力と化し、頭蓋から外れた角がぐるり回る。

 用は雑草を引き抜く要領である。土に埋もれたそれを引き抜くべく、捻るのだ。

 

「あぎゃぎやぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼‼」

 

 ぎちぎちと肉と骨が軋む音と共に。頭蓋骨から器用に断ち切られた魔王の角は――血飛沫と共に千切り取られたのでした。まる。

 

「いてぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええ!お、お前、なんてことをしやがる!ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」

「喚くな魔王。男の子だろう?」

「そういうお前は女の子とでもいうのかァ⁉ああん⁉」

「女の子じゃぞ。ちょっと闘争が好きで武術が特異な女の子じゃ。人間へ流転を果たした頃からするとまあザっと七百歳くらいだが。まあこの星の歴史は途方もない程に長い。それに比べればわらわも子どものようなものよ」

「このクソババア!鬼畜!暴力でしか自己表現できない哀しい生物!お前なんかどっか骨折しちまえ!」

「してるんじゃよなぁ.....」

「してたな!このバケモノ!」

 

 頭蓋骨がぴぃぴぃ泣いている。肉が抉り取られた痛みが頭部から全身に広がり、ぎったんばったん悶えに悶える。

 ねえねえ。普通さぁ。頭蓋骨から伸びている骨を無理矢理肉ごと引き抜いたら死なない?死なないの?

 

「痛みに悶えている所失礼致しますが、頭部の再生を行う際には慎重にお願いいたします。また角を生やしたら引き抜いてもらいますよ。解りましたか魔王様」

「最大級の脅しと失礼ありがとよ!くたばれ!」

 

「なあ。アレ魔王なん?」

「.....ま、魔王様に....あんな....」

 その光景を。グラハムとマルマルは信じられぬ面持ちで見つめていた。

 魔王。かつて人類を滅亡寸前までに追い詰めた種族。恐怖と厄災の権化――そういう存在と聞かされ続けてきた人間にとっては、この光景は実に信じられぬのだろう。

「まあ....。ヤナギ殿はともかく、カガル殿はもう魔王を信頼しているのだろう」

 

 この旅の中。実にぞんざいな扱いを受けつつ全力で文句を垂れ流しながらも、それだけで済ませている魔王の姿を見てきた。

 ぞんざいな扱いを受けるだけの理由は魔王側にも十分ある為別段同情はしないが。――これまでの魔王というもののイメージとはやはりまるっきり異なるようには思う。

 

「.....」

 

 ベギムは、何処か遠くを見つめるように、近場で行われているその魔王の姿を見ていた。

 

 

 夜となった。

 ここ最近の食料は山岳で大量に発生した竜人の死骸からとった肉を、カガルの風魔法で水分を抜き干し肉にしたものであった。

 恐ろしく硬く、そして淡白な味であった。筋繊維たっぷりなそれを長時間煮込み、何とか食えるだけの柔らかさに仕立てる。

 

 魔王とヤナギはさっさと腹を満たしたいのだろうか。適当に火で炙り、そのまま骨ごと噛み砕いて食っていた。.....その骨、鋼鉄よりも硬いと評判のはずであるが。

 食事が終わると。グラハムはビスクとついてきた砲兵部隊をどうするか話し合いを続け。カガルはウルドの世話を焼き。マルマルは拾ってきた翼竜の骨を原型にゴーレムを作ろうと試行錯誤していた。

 

 魔王とヤナギは村の外れまで向かい。何やら組み手を始めていた。てっきりヤナギが魔王を指導するのかと思いきや。魔王がヤナギに身振り手振りで何かを伝えている。

 

「....そうそう。俺が転生する前の世界にはよ、蹴り技使わずに拳だけで相手と殴り合う競技があってな。ボクシングってんだが」

「ほうほう。拳のみで戦う....。基本となる技くらいは解るか?」

「ジャブとストレート、あとフックくらいか.....。まあ別にやっていた訳じゃない。記憶があるってだけだ」

「そういう知識は覚えていて、自分の前の出生は覚えておらぬのだな。不思議なものじゃ」

「本当にな」

「まあだが、その分わらわにとっては助かるからよいのだがな」

 

 そう言うと魔王は幾つかの拳撃をヤナギの前にて披露する。

 知ってはいるが、素人そのものの魔王の動きを見物すると。「成程」と呟き――魔王よりも遥かに精度の高い動きで、ヤナギはその動きを再現する。

 

「攻撃が腕でしか出来ぬ分、足を捌きに集中して使えるのか.....。うむ。これは中々に面白いかもしれぬ」

 

 良くも悪くも魔王はざっくばらんとした性格をしている。その性格のよいところというのは、遺恨を残さない所であろう。

 カガルやグラハムを除けば。ここにいる全員は一度は魔王と全力で殺し合った相手である。特にヤナギに関しては――魔王はヤナギに全身の骨が砕けるほどの技を受け、ヤナギは魔王にいいように利用された。そういう関係であるにも関わらず、二人は非常に気が合っているようだ。

 

 ――ベギムは、村にほど近い場所にある河の土手に座り、ジッと水面を見ていた。

 

 ベギム・クスフントは良くも悪くも真面目な性格をしている。

 真面目故に、盲目になりがちでもある。

 盲目故に突き進んだ道。破滅の一歩手前で何とかこうして生き永らえているのは――己が何も考えず殺そうとした魔王が救ってくれたからだ。

 

 今や剣も鎧も失い。戦う術もなくただついて回っている。

 かつてゼンゴウで見いだされ、原初の勇者の末裔として騎士となった女が。今や、このザマである。

 

 どうしようもなく、後ろめたい。

 その感情が。仲間たちがいる場所から少し離れ、こうして川の近くに座り込ませていた。

 

 

「――なーに陰気な顔してんだ」

 

 

 暫くそうしていると。

 ヤナギと話し終わったらしい魔王が、そう言ってベギムの隣に座った。

 

「....魔王か」

「おう。魔王だ」

「何か用か?」

「いーやー?むしろ構ってほしいのはお前の方じゃねぇの?」

「....何?」

「だってよ。こんな離れでうじうじしていたら、傍から見りゃまあ落ち込んでいるだろなァってのは解るじゃねぇか。多分、気を張っていたらそういう事はしねぇだろ?で、今となってそういう素振りを見せるくらいにはお前も精神的にキてんだろうなァ.....ああ可哀想に....と思った次第だよ」

「.....」

 

 一々癪に障る言い方をしてくるが、魔王の言っている事は正しかった。

 無意識の内に。この集団を仲間として受け入れてしまったからこそ、罪悪感を覚えてしまう。こうして落ち込んでいる素振りを見せてしまう。

 恐らくだが。この癪に障る言葉選びも、こちらに変に気を遣わせない為の配慮が半分ほどは混じっている。残り半分はこの魔王の素であろうが。

 

「ま、お前が悩んでいる理由はなんとな~くは理解している」

「....そうなのか」

「お前にしてみりゃ、不倶戴天の敵に情けをかけられて殺されずに済んだ状態だろうからな。気まずいだろ」

「.....そう、だな」

 

 あの時。魔王に助けられた後に、心底情けなく。死にたいとすら思った。

 殺してくれと懇願し勝手に死ねと突き放され。更なる恥を味わわされた。

 そして。

 何より――そんな事があっても尚、未だ醜く生にしがみ付いている己そのものが、あまりにも情けない。

 

「....私は、騎士だった」

「知っているよ」

「騎士たる者、困っている誰かを助けねばならない。騎士たる者、邪悪に立ち向かわねばならない。騎士たる者.....魔王を、討ち滅ぼさねばならない」

「.....」

「そう思っていた。それが義務だと。その義務を履行する事に、確かな喜びも感じていた。....だが。何もかも失った今....」

 

 かつて騎士として過ごしてきた日々が。

 確かな充実を得ていた記憶が。

 

 ――背負っているのではない。おぬしは背負わされておる。生まれながらな。哀れなものだ。おぬしはおぬしで何かを選択しているわけではない。おぬしが背負っている義務を基準に選択しているだけだ

 

 ヤナギに掛けられた言葉が反芻する。

 あの時、心中には凄まじいまでの憤りが巻き上がった。

 それは侮辱されたが故ではない。

 ――ただ図星を突かれた悔しさを、怒りで誤魔化して。見て見ぬふりをしていただけだ。

 所詮、自分は。

 

「私は....何一つ、自分で何かを背負った事など無かったのだと.....。そう、突きつけられた.....」

 

 魔王狩りの祭典の最中。突きつけられた全てが。

 己が心を、暗澹に落とし込む。

 

「....今更だがな。魔王、本当にすまなかった。お前の言う通りだったよ。私は....どうしようもない、臆病者だった」

 

 生まれたばかりの生命を、名誉の為だけに殺そうとした。

 それも自分から発したものではなく。ただ他者から背負わされたもののためだけに。

 戦いが楽しい、という己が欲求の為だけに戦うヤナギを、あの時自分は見下していた。だが――真に見下されるべきは、己の方であった。

 

「なあ、ベギム」

 

 不思議な程、静かに魔王はベギムの言葉を聞いていた。

 そして――不思議な程、静かな口調で。

 

「前を向こうぜ」

 

 そう言った。

 

「正直、お前の悩みを今すぐここで消せたり解決できたりする方法はねーよ。真面目な奴を不真面目に矯正できる方法なんざ知らん。真面目過ぎるくらい真面目なのも、お前の美徳だろうしな」

「......」

「他人に背負わされたものの為だけに戦ったことが恥で。何も背負っていない現状が恥だって思うんならよ。――今度はちゃんと自分で背負うべきもんを選別するんだよ」

「.....背負うものを、選別する...か」

「そうそう。真面目な奴ほど恥かいた記憶ってのは鮮烈で忘れられねぇの。今回の件で掻いた恥をちゃんと教訓に出来るだけの真面目さはお前にゃある。だったら、教訓を胸に前を向け」

「....難しいな」

 

 難しい。

 本当に難しい。なにせ、自分がどうするべきか――なんて事、一度だって自分は考えた事がないのだから。

 

「そうか。――なら今度は俺が背負わせるぞ」

「なに?」

「なーんも考えず俺の事を殺そうとした頭わるわるクソ馬鹿脳筋女騎士様には。今度はこの世界の敵である俺を護ってもらう」

 

 それで、と魔王は続ける。

 

「まあまた他人の俺がお前に背負わせたわけだが。今俺が渡した荷物を背負い続けるかどうかはお前が決めりゃいい。これで、一先ずぐちぐち悩まず前を向けるだろ。はい、終わり!閉廷!じゃあな、はよ寝ろ!」

 

 よいしょ、と魔王は腰を上げると。ひらひら手を振りながらさっさとベギムの下から去っていく。

 まるで逃げるようであった。

 

「.....」

 

 最後の台詞を言い終わった後。自分が並べ立てた言葉の数々に恐らく照れ臭くなったのだろうか。去り際、ばつがわるそうに。だけど笑みを一瞬だけ浮かべていた。

 確かに。あんなガラではないだろう。照れ臭くもなる。

 それでも。自分のガラを捨ててまで、言うべき事を言ってくれた、という事実がここにある。

 

「ふふ」

 

 一人残されたベギムもまた、その顔を思い浮かべて。同じように笑った。

 久しぶりに笑ったな、と。そんな事を思った。

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