エクストリーム魔王狩り転生バトルロワイヤル   作:丸米

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知ったような口を利きやがってよぉこのクソガキが、という感情を努めて表に出さないようにしてるけど結局隠しきれない真面目系騎士ちゃんだよ可哀想に

 初代の魔王から数えて、千年の時が流れ。

 予言により、百年ごとの転生を行う魔王を討ち果たす祭典は──。

 

 かつてない程に、大荒れの様相と化していた。

 

「何故だ──! 何故これ程の火災が.....!」

 

 場所は、大陸南東部に位置するクルデア王国領にある森林地帯。

 元はエルフとオーク族が共存する地帯であったが──王国との戦争の果てに、その地を奪われた。

 

 戦争は表向きは信教の差異による対立から発生したものであると王国は主張しているが、実質的には王国が浄化魔法関連産業の原料となる古代樹木を欲した故であると。誰もが理解していた。

 クルデアも頭を抱えた事であろう。

 祭典は教会主催であり、魔王の転生場所の予言も教会が取り仕切っている。

 この魔王狩りという祭典も、教会にしてみれば魔王を狩るにあたって必須となる浄化魔法のプロモーションの一環。自国の領土内──しかも教会の主要産業の原産地であったとしても、取り止める訳にはいかない。

 多少森が荒らされる程度はきっと覚悟していたであろう。

 されど──この状況はさすがに予想だにしていないであろう。

 古代樹木が。水の魔力を以て燃焼に対し強い抵抗力を持つ森林が。これほどまでの大火に見舞われようなどと──

 

 ゼンゴウ帝国が剣士、ベギムは──甲冑の下でその表情を驚愕と困惑に染め、佇んでいた。

 

「落ち着けい。ゼンゴウの剣士」

 

 その背後から。

 ゆったりとした声が聞こえてくる。

 

「貴女は──東方の」

「ヤナギ・ソネサキだ。──何を困惑している。これ程までに楽しいことは無いというのに」

 

 小柄な体躯に武道着を纏い。マグマ色の髪を一つに纏めた女──ヤナギは、ベギムに声をかけていた。

 

「.....落ち着け、という忠告はありがたく頂戴致します。されどこの状況を楽しめとは──」

「文字通りだ。想定外がいつの間にやら飛んできおった。これぞ戦いの醍醐味だろう。楽しまな損だぞ」

「.....私にとって戦いは、悦楽の為のものではない」

「おぬし、義務で戦っておるクチか。つまらんなぁ。──そんな風だから目の前の事象を理解する事も出来なんだ」

「何だと.....!」

 

 よいか、とヤナギは告げる。

 

「確かに今この森林地帯は火事が起きておる。それはわらわもしっかり見ていた。五つの地点から発生した火元が風に乗り燃えていっておる。──しかし。魔法を用いて火を運んでいるにせよ。あまりにも火の手が早い」

 ヤナギは──周囲を取り囲む火の手の中に歩を進め、踏み入れる。

 特に防火系の魔法を身に纏うことも無く。

 

「.....何をしている! 早く戻れ!」

 

 ベギムは慌ててそう声をかけるが──意に返す事無く、ヤナギは進んで行く。

 されど。

 

 ヤナギの身に、一切火が燃え移ることは無い。

 

「.....え?」

 ベギムがそう呟くと。

 ヤナギは得意げに笑み、告げる。

 

「まやかしだ。──ここにある火の手は、火災の幻覚。実体はない」

 

 火の手の中心地までヤナギが突き進むと。

 浄化魔法を宿したその足で、地面を踏みつける。

 地割れが起きるほどの、強力なそれは──地中に潜む、魔王の魔力を浄化の光で消し去る。

 

 すると。周囲に蔓延していた火の手の光景は──消える。

 

「そんな....本当に、これは幻覚.....!?」

「そういう事だ」

 

 つまりだ、とヤナギは言う。

 

「恐らくはまだ幻覚魔法そのものの精度は高くないのだろう。炎が燃え移る感じや、実際の温度感などは特に感じなかった。感覚まで幻覚を見せるまでは出来ていない。──だが。魔力そのものは無尽蔵にあるが故に、幻覚の光景そのものを再現するだけでも、これだけ広大な火事に見せることが出来る。それに、実際に火災そのものは起きている。それを鏡写しのように幻覚で光景を拡張させるだけ。術を行使する上でのイメージもしやすいだろうな」

「.....ここには、実際に起きている火災と、幻覚で見せられているだけの火災があるという事か...」

「そういう事だ。まあ。とはいえ実際に火に追われる幻覚など悪夢でしかないからな。──ほれ、見てみぃ」

 

 ヤナギが指差す先。

 そこには──血相を変えたハンター達が、森林を流れる河川に続々と飛び込んでいく姿が見える。

 

「アレが勇者を目指すと吹いた連中の姿だ。哀れで仕方ないのぉ。半端な覚悟で戦地に足を踏み入れた代償を払わされておるわ。──恐らく、魔王側も敢えて逃げ道を用意しておったんだろうなぁ」

「逃げ道...」

「そう。幾ら火の手が強かろうと水を燃やす事は出来ない。五つの火の手から逃げる最終地点にあの河がある。逃げ一色に染まった頭じゃあ、あの中に飛び込むのが普通だろうな。だが」

 

 

 そして。

 火の手から逃れんと川に飛び込むハンターたちは。

 下流に向けて必死に泳いでいく。

 

「当然。ここまで手の込んだ策を仕込んでいる()()だ。──最後の仕掛けも、あの河に用意されているのだろう」

「仕掛け...」

「この森は王国の管轄にある。更に大規模な人数を以て林業まで行っておる。当然、氾濫の危険性のある河なんぞあったら。堤防だって作るだろう。貯水池だってあるやもしれぬ。この状況。──多くのハンター共を無力化できる方法が考えつかぬか?」

「....」

 

 河川の上流。

 爆音が鳴り響く。

 それは──膨大な魔力が放出される気配と共に、ガラガラとがけ崩れの音も伴って。

 

「ほれ」

 

 堰を切ったような──大量の水が、轟々と上流から嵩となって濁流と化す。

 

 

 

 ──があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼

 

 

 

 濁流に流されていく人波が、煌々と照らされた炎の中浮かんでいく。

 声は、残響のように遠くなっていく。

 

 これにて。

 魔王は大部分のハンターをこの戦場から排除する事に成功したのであった。

 

 

「.....ヤナギ氏」

「うん?」

「先程貴女は、()()といいましたね。──魔王に協力者がいる。そう貴女は思っている訳ですね?」

「当たり前よ。──これ程の大掛かりな仕掛け。生まれたばかりの魔王が早々に出来るものか。協力者がいるに決まっておろう」

「馬鹿な.....! 魔王に協力するなど! ──あの千年前の悲劇を忘れたのか!」

「忘れちゃおらんよ。きっとな。むしろ──悲劇よ起きろ、と思っておるかも知らんぞ」

 

 ヤナギは、くく、と笑う。

 

「いい事を教えてやろうゼンゴウの剣士。虐げられている者にとって、悲劇によって不幸になる人間の事など心底どうでもよいのだ」

「.....何を言っている?」

「既に不幸をもたらされている者共が思うことなど、たった一つよ。──我々以外も不幸になっちまえ、だ」

「.....」

「自分一人苦しみの中死ぬか。その他諸々滅びて死ぬか。どちらか選べと言われれば、虐げられし者は間違いなく後者を選ぶ。災害で死ぬか。搾取されて死ぬか。どちらが許せぬかと問われればきっと後者よ。──己の怒りを発散する為ならば魔王に協力する程度、良心の呵責すら起きぬよ。きっと。クルデアの教会が異種族や異教の者共にやってきた事はもう千年分の積み重ねがあるからなぁ。──楽しくなってきた」

 そう軽やかに口が回るヤナギの表情は、楽し気な笑みだ。未知を前にして、目を爛々と輝かす。童の笑み。

 その笑みを――信じがたい思いで、騎士は見ていた。

「.....何故だ。何故、貴女は笑ってられるのだ.....?」

 それは純粋な疑問であった。

 何故――お前はこの状況を笑っていられるのだ。魔王に協力する不届き者が、ここにいるかもしれないというのに――。

「笑む理由などただ一つだろう。そこに喜びがあるからだ。──魔王という禁忌に手を出してでもこの祭典を滅茶苦茶にしてやろうとしている者がおるのだ。手段を選ばぬ人間ほどこういう場では強い。楽しくて仕方がなかろう。──姦計も策謀も仕掛ける分には死ぬほど嫌いだが、仕掛けられる分には大好物よ。如何なる手段をもってしてもわらわに破滅をもたらさんとする強固な意思を持つ敵が、わらわは大好きだ。愛していると言ってもいい。わらわは、愛故に笑うのだ」

「....」

「理解できぬか? だがわらわには理解できるぞ。おぬしが笑えぬ理由がな。おぬしは義務でここにおるからだ。戦士ではなく軍人。一人の個ではなく勇者の末裔。ただ勝手に義務を背負って戦っておる。だから笑えぬ。義務感故に己の感情を元手に戦う事が許されぬ。故に窮屈」

「.....背負うものがあって何が悪い!」

「背負っているのではない。おぬしは背負わされておる。生まれながらな。哀れなものだ。おぬしはおぬしで何かを選択しているわけではない。おぬしが背負っている義務を基準に選択しているだけだ」

「.....」

 

 甲冑の奥。

 ベギムは──確かな苛々をその目に宿し、立ち上がる。

 もうこの女と同じ空気を吸いたくない。

 

「何処に行く?」

「.....上流へ。魔王はそこにいるのでしょう?」

「そうか」

 

 ベギムは──先程魔力が放出された方向へと、歩いていく。

 それを──変わらぬ笑みを浮かべたまま、ヤナギは見送っていた。

 

 

 ──流石にかなりの大技を使ってしまいましたので、魔力の余裕はそこまでございません。ここからは隠れながら逐次援護をしていきます。

 

 という事で。

 ここからは──自分で頑張らなければいけない。

 

 

「よぉ~~し。お前等ァ。これが見えるかァ~」

 

「は.....はひ。み、見えます...」

「何に見えるか答えてみろ~」

 

 眼前に。

 四人がいる。

 

 一人目は、鼻が千切れたオーク。

 二人目は、日焼けした鼻が高い男。

 三人目は、大斧を背負う大男。

 最後は、非常に小柄な禿頭の男。

 

 

「.....え、エルフが....エルフがおります...」

 

 四人は手足を縛られ、幻覚の炎に包まれながら横一列に並んでいた。その横には、折られた杖も同じように並んでいた。

 この連中は──炎から逃げる中で”幻覚魔法”にかかり魔王のもとに走ってきた哀れな虜囚であり。

 重ねて哀れな、実験体であった。

 

 四人は──人程度の大きさの木材を、全員が

 

「髪の長さは?」

「肩までの長さ位...」

「....え。え。いや、俺は長髪だ」

「俺ショートの女の子だ。嘘じゃねぇ! 信じてくれ!」

「長髪だ。膝丈くらいある長い髪....。本当なんだ...」

 問いかけに対して、四人はそれぞれ異なるエルフ像を答える。

 

「色は?」

「金髪...」

 ここは全員のイメージが一致した。

「お~け~」

 

 

 よしよし。

 大方の魔法の性能は解った。

 

 

「よし。知りたい事は大体解った。──ほいじゃあ」

 

 

 手足の縄をほどき、四人の襟首を引き摺る。

 

 

「せめてもの情けじゃあ。──ばいなら~」

 

 

 眼前には、崖があり。

 そして、水嵩が増した河川の急流が存在する。

 

 笑顔で、さようなら。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼‼‼‼‼‼」

 

 

 水の中、蹴り飛ばす。

 生きてればいいな。頑張れ~。

 

 

 さて。

 おおよその自分の魔法の性質が理解できた。

 

 

 幻覚の見え方感じ方。その他諸々。

 

 

 ──新たに覚えた幻覚魔法。効果は二つ。

 

 AとA´

 A→B

 

 この二つだ。

 

 AとA´は、Aと同じものを別の空間に存在しているように見せる効果。いわばコピペ幻覚。

 A→Bは、AをBと誤認させる。勘違い幻覚。

 

 前者の効果が発現する魔法を用いる事によって、実際に火の手が来ていない場所でも、あたかもそこも燃えているかのような幻覚を作り出し。

 

 後者であれば、そこらの物体も人間に見せかけることが出来る。

 

 

 魔法発動の手続きとしては、前者は簡単だ。Aが位置する空間。A´の幻覚を作り出す空間。双方に同じ魔力を込め、魔力同士を結び付けることで発現させる。

 手続きは簡単だが、魔力同士を結び付けなければならない為、必然的にAとA´は近い空間でなければ発現できない。今回はかなり広く燃え広がっている火災を、更に広く見せる為に使ったため、それほど使い方に難しいところはなかった。

 

 

 後者は、Aに対し魔力を注ぎ、Bの虚像を作り出せば発現は出来る。──しかしこれには幾つかの条件がある。

 A→Bの勘違い幻覚魔法は、その幻覚の見え方が幻覚をかけられている側の記憶依存である事が解った。

 

 先程の実験でエルフの虚像を見せた時。

 皆は今まで出会った事があるか、もしくは自身がイメージするエルフの実像を答えていた。こちらが”エルフ”の虚像を見せようとしたら、四人は四人それぞれ別々の”エルフ”を思い浮かべていたのだ。

 

 Bの見え方が、完全なる記憶依存なのだ。なので、自身が思い描く虚像と相手が見えている虚像で差異が出る。更に言えば、知らなかったり見たことも無いものに対してはそもそも幻覚が作用しない可能性もある。

 なので。確実に、思い通りに幻覚を見せる為には──幻覚を仕掛ける対象に、はっきりと実像の記憶を刻まなければならない。

 ここが非常に扱いづらい点だ。

 

 

 しかし。幻覚ゆえに、幻覚の虚像を用いて籠められた魔力そのものも隠すことが出来る。魔力を放出する事で探知がされる状況の中。この利点は本当に素晴らしい。

 

 

 ──十分とは言えねぇが。今はこれで凌いでいくしかない。気張っていくぜぇ~

 

 

 瞬間。

 視線は──本能のまま、背後へと向いていた。

 

 

 

 そこには。

 虚像ではない。森を焼き焦がす本物の炎の中。

 

 フルプレートの甲冑を着込み、大剣を携えた何者か。

 

 

 

「──魔王とお見受けする」

 

 

 そして。

 携えたその剣を、両の手で握る。

 その姿。その殺気。

 今まで出会ってきた連中とは、あからさまに違う。鋭く、真っすぐに、何一つの雑念も籠めず。魔王を見据えていた。

 

「我が名はベギム・クスフント。ゼンゴウ王国が騎士。──貴公の首を頂戴すべくここに参上。我が家門の名誉と大陸の平世の為、死んでもらう」

 

 剣を正眼に構え。──カ、と甲冑の下の目が見開く。

 

「さあ――構えェ!!」

 

 

 名乗り上げと共に──騎士は魔王に向け剣を振り上げていた。

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