エクストリーム魔王狩り転生バトルロワイヤル   作:丸米

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見~つけた~❤️

 ベギム・クスフントはゼンゴウ帝国が騎士である。

 

 彼女は、──千年前に魔王を狩った剣士の血を引く者であると主張されている。

 彼女の家族とか親戚とか流派の一門とかに。

 

 

 実のところゼンゴウ帝国には千年前の勇者の末裔を名乗る家系は何百とあり、そしてそのどれもが特段の証拠がない。千年も経っているのだ。血縁を証明する手段など、かつて勇者が保有していたといわれている物品があるかどうか。勇者は故郷に戻りて剣術の流派を作ったが、その流派は河川の支流のように幾つも枝分かれした。その枝分かれしたどれもが自らが本流であると主張し侃々諤々の言い争いを千年間続けた挙句流派同士で決闘するは殺し合いするはの血みどろの歴史が積み重ねられ、中々の地獄の様相であったという。

 

 ベギムにとって、別に自身が勇者の末裔であるかどうかなどどうでもよかった。

 どうでもよかったが、どうでもよくない両親と、どうでもよくない親戚と、どうでもよくない他の流派の一族とに囲まれて生きてきたベギムは──どうでもいい理由で強くあることを要請され、どうでもいい理由で命を狙われるは故に更に強くなる事を必要となり、それら全てかなぐり捨てるべく騎士になった。

 

 無心で剣を振るい、魔法を学んだ。

 騎士として市井で必死に生きる者たちの剣となり盾となり過ごす日々は──過去のどうでもいい理由の為に強くあらざるをえなかった自分に、理由をくれた。

 

 嬉しかった。

 自分が振るう剣に何か理由が付くことに。確かに必要とされていることに。遥か過去の血縁に拘り、その為に殺し合いを続けている愚かな日々を思えば思う程──騎士として生きる自らの日々は、自身が生きる上で最高の理由を与えてくれるものだった。

 

 老婆から金をひったくった盗人をとっ捕まえた。

 老婆は涙を浮かべてありがとうと、言ってくれた。

 

 人質に取られた子どもを助け出した事もあった。

 その子と、その子の両親も。同じことを言っていた。

 

 

 確かな、いい日々がそこに在った。

 この感情を胸に抱きながら、行くのだろう。そう疑わず生きてきた。

 

 

「──魔王討伐.....?」

 

 百年ごとに転生する魔王の首を獲る。

 その祭典に──自分が参加する事になったと。

 

 

「私は希望していませんが....」

「騎士総長たっての希望だ」

 

 ──後々に解った事だが。

 ──この騎士総長もまた、ベギムと同じ流派を汲んでいた人物であったのだそうだ。

 

「.....君が魔王の首を手に凱旋すれば、君が勇者の末裔であると誰も疑う事は無くなる」

「....」

 

 どうでもいい。

 本当に。

 それなのに。

 

 それが何の証拠になる。自分の強さをそこで証明したとして、それがどうして自分が勇者の末裔であるという証拠となるのだ。

 勇者の血がなくとも強い人間は幾らでもいる。

 そんな事で他に主張する者を封殺することなど出来る訳がない。

 

 ──この魔王狩りの祭典。魔王そのものの討伐もそうであるが、何よりも苛烈なのが魔王の首を獲った後だ。

 そこからは、その首を奪おうとする者共との戦いになる。

 名誉を欲する癖に、誇りはない。

 金と名誉欲しさに大挙してやってくる連中が潰し合いをする。

 ベギムにとって何よりも嫌悪する場所だ。

 そんな場所に。騎士として自分は派遣される。

 

 親は血走った眼で必ず成功させろと言う。

 親戚も同じ目で頑張れと言ってきた。

 流派の弟子たちも。

 

 ──そして市井の者達も。

 

 以前の老婆も、子どもも。

 爛々とした目でこちらを見ていた。魔王を倒してくださいと、手を振りながら言っていた。

 

 全員が、全員。

 自分以外の全てが。

 .....あんな名誉を持って来いと、そう要請しているのだ。

 

 

 そうか。

 こんなものか。

 

 自分が護ってきた者。自分が誇りとしてきた者。

 

 全て全て。

 こんなものだったのだ。

 

 

「....」

 

 ベギムは、周囲を見渡す。

 

 ──頭に血が昇っていた。

 

 あの魔王は冷静だ。

 そうベギムは、判断していた。

 

 こちらを挑発し森の中に引き込んだ。

 炎そのものは、自らが纏う鎧の効果によりダメージにならない。しかし──木々に囲まれている上に、炎にまで包まれているともなれば。光景の変化が見分けづらい。

 魔王は恐らく、魔力同士を繋げて、同じ空間を張り付ける事で、空間を複製している。

 

 幻覚はこちらが幻覚であると見分ける作業が必須となるが。同じ光景が続く上に視界すら炎と煙で見えにくいとなれば。その作業が非常にしづらい。

 

「....」

 

 ──自らが纏う鎧。これは浄化魔法の効果に加え、防火・防刃効果まで持つ代物で、かつて初代魔王を討ち取った勇者が身に付けていた代物──と主張されている。

 効果の発現の大小に、装備者の魔力が減らされる故にあまり長時間炎に晒されるわけにはいかないが。しかし数時間程度ならば特段の問題はない。

 だが。炎そのものは特に問題はないとはいえ。炎と煙により視界が大きく制限されるのは、自身の天地魔法の使用において非常に不利。

 

 この環境は、間違いなく魔王にとって利が多い。

 その事に気づかなかった。

 それだけ頭に血が昇っていた。

 

 ──目を曇らせるな。感情を乱すな。

 

 これは戦いだ。

 例え──自分にとって心底どうでもいい戦いであったとしても。

 

 

 .....どうでもいい。

 

 .....いや。そもそも。今の自分にどうでもよくないものなんてものが、あるのだろうか。

 

 このまま国に戻って。

 もう自分に残っているものは、何が在るというのか。

 

 勇者になって、どうでもいい人間たちが喜ぶか。

 勇者に成れず、どうでもいい人間たちが失望するか。

 

 そのどちらかしかないというのに──

 

「.....やめよう」

 

 雑念が入り込む。

 こんなのだから、魔王にいいようにやられてしまうのだ。

 

「....!」

 

 瞬間。

 自身の視界の、斜め側。

 そちらの光景が一瞬にして切り替わったのを感じた。

 

「....魔王!」

 

 幻覚魔法。

 これを仕掛けたという事は──まだ、魔王は近くにいるという事だ。

 

 

 この幻覚魔法は、長引けば長引くだけこちらが不利になる。

 時間を与えれば与えるだけ、他の空間まで空間の複製が行われ、追跡が一気にしづらくなる。

 

 即座に複製空間の中心まで向かい、魔王の魔力を打ち消す。

 

 幻覚空間が打ち消され、元の空間に戻ると同時。

 ベギムの死角側。そこから──左腕を前に突き出し、魔力を溜めている魔王の姿がある。

 

 

「背後から撃てば気付かれないとでも思ったか!」

 

 

 背後を振り返り、剣で放出される魔力を防ぐ。

 

「ひっひ。追いかけてみろよォ~」

 

 その様子を見つつ。

 魔王は引きながら、左腕での魔力放出を続ける。

 

「──逃げなかったのは褒めてやる。だがやっている事がいつまでも変わらない!」

 

 天地魔法が付与された大剣を振り上げ、魔王に斬りかかる。

 

 奥行きの無い斬撃が魔王に襲い掛かる。

 

 

「その魔法、便利だろうけどよぉ。タネが解ればそこまで恐ろしいものでもないんだわ」

 

 

 魔王は、軽くステップを踏みながらそれを避けていく。

 

「結局、奥行きがなかろうが。遠くにいればいるほど俺の像は小さくなる。それだけ当てるのは難しいだろォ~」

 

 結局の所。奥行きが無くなろうとも。

 遠くにあればあるほど事物は小さくなる。それだけ、剣の軌道上に対象を乗せる行為は難しくなる。

 それが並の相手ならば、それでも正確に当てられる技術がベギムにはある。が、相手は魔王。人を超える身体性能を持つ存在が、こちらの攻撃に意識を回して回避行動を重ねていっているのだ。

 そして、視界を塞いでくる炎と煙が、更に剣の目測を誤らせる。

 

 

「そしてよォ」

 

 

 幾度かの斬撃が行使される前。

 ベギムの本能が──危険を察知する。

 

 魔王を追うその背中。

 ”風”を感じた。

 

「.....ッ!」

 

 

 本能のまま上体を曲げ回避動作をすると。

 頭上に、──矢が飛んでくる。

 

 風の魔法が乗った、高速の矢。

 

「俺には味方がいるんだわ」

 

 

 ──魔王には協力者がいる。

 

 東方の武闘家、ヤナギが確定事項として伝えていた事。

 それは、事実であったのだ。

 

 

 矢が飛んできた瞬間。

 魔王はまた幻覚魔法を行使し、己の姿を隠す。

 

 

 その時。

 ベギムは、立ち止まってしまった。

 なぜなら、背後には弓使いの協力者がいる、という事が確定してしまい。

 その情報を晒した後に、魔王が姿を隠した。

 

 幻覚魔法に、遠くから攻撃できる手段。

 組み合わせからして、かなり最悪だ。

 今魔王の幻覚作用が発生している区画に足を踏み入れた瞬間──あの弓が飛んでくる可能性もあるのだ。

 

 今まで。

 魔王は逃げながら、適度にこちらを足止めし、そして幻覚を見せるという方法を繰り返してきた。

 この繰り返しによって──幻覚魔法への警戒を緩めさせようとしているのではないか、という疑問もベギムは持っていた。

 

 

 だから。

 まずは弓使いの場所を正確に辿らんと、足を止めてしまった。

 

 

 その瞬間。

 

「あ.....ぐ、ぐぉ...」

 

 

 身体に、不調。

 全身に巡る、吐き気。倦怠感。

 手足の筋肉が緩み、眩暈が襲い来る。

 

 

「──はい。作戦成功~」

 

 

 そして。

 眼前に魔王が現れ──突如として起こったベギムの変調を見越したのか。魔王が現れる。

 

 立ち上がりたいが──身体に力が入らない。

 魔王は左手で持った棒切れでベギムのメットを外すと──左手で額に触れる。

 

「ゲームセット。──もし浄化魔法を身体にかけるなら、その瞬間に魔力の放出を行う」

「ま....まさか、ど、く...」

「そう。俺は幻覚魔法と並行して、毒の魔法も覚えた。──正味、浄化魔法で打ち消されるならそんなに役立たねえかなとは思っていたが。この状況下だと結構使えるな」

 

 魔王は。

 炎の中で逃げる、という行為の中。

 

 ベギムに対して意識付けを行っていた。

 

 魔王は基本的に、逃げながら何かを仕掛けてくる

 →逆に言えば何かを仕掛けてこない限りは攻撃を仕掛けてこない。

 

 魔王は逃げながら、目くらましに幻覚魔法と幾つかの手を絡ませ、そこでベギムの足を止めながら攻撃を仕掛けていた。

 それ故に。

 何かを仕掛けなければ、魔王は攻撃してこない。

 逆に何かを仕掛けてきたから、魔王は攻撃してくる。

 

 そういう意識付けが行われていた。

 

 だから。

 協力者が矢を放ち、

 そしてその隙に幻覚魔法の中に己の姿を隠す、という工程を挟むことによって。

 

 あの幻覚地帯に足を踏み入れれば、攻撃される

 

 という意識を作り。

 そこに足を止めさせる事に成功した。

 そして。

 その地点には──魔王によって、毒の魔法が仕掛けられている場所でもあったのだ。

 

 毒の魔法は、煙状の魔力を一定量吸わせる事で効果を生み出す。

 浄化魔法が籠められた鎧を着込んでいるが故に、魔王の魔力は基本的に通らない。しかし──呼吸と共に身体の内部に入り込んだ毒までは、どうにもならない。

 

「丁度周りは煙だらけだからよ。煙を吸わせる事はかな~りやりやすかったぜ。俺を追うのに必死になって、魔力の探知も満足に出来なかったみたいだしなぁ~」

「こ.....こ、の」

「安心しろ。別に死ぬような毒じゃねぇ。このまま毒で意識失ったんなら、装備引き剥がした上でどっかに捨ててやるよ。どうだい、魔王の慈悲だぞぉ~」

 

 ──慈悲? 

 

 情けを、今自分はかけられようとしているのか。

 

 

 この誇りも何もない戦場で。

 何の意義もなく進んできた戦場で。

 挙句の果てに──敵に情けをかけられて。

 

 

「ふ....ざける、な....!」

 

 拒絶する。

 こんなもの──死んだほうがよっぽどマシだ。

 

「わ...たしは、──ベギム....クスフント。ゼンゴウ帝国が、騎士だ...!」

 

 誇りも何もかも打ち棄てて、慈悲によって生き永らえるなど。

 

 そんな生など要らない....! 

 

 

 毒により満足に動かない身体。

 だがベギムは──浄化魔法も使わぬままに、両足に力を籠め、魔王の手を払った。

 

 

 それは。

 魔王すらも、想定していなかった挙動。

 毒に侵された肉体を、精神力で振り払ったのだ。

 

 

 そして。

 その身体のまま──それでも握り続けてきた剣を振るう。

 吐血。

 眩暈がさらにひどくなる。

 

 知った事ではない。

 

 振るわれた剣は魔王の頭上に振り落とされ、魔王は即座に回避動作。

 その回避動作を確認し、己に浄化魔法をかける。

 

「マジかよ...」

「私は....負けない。絶対に.....!」

 

 この戦いに意味など無くとも。

 それでも、己の負けだけは許容できない。死んでも。

 

「さあ──構えェ!」

 

 

 己を鼓舞するべく、そう叫びベギムが剣を構えた瞬間。

 

 

 

 

「──」

 

 

 凄まじい異音が響いた。

 金属が砕け散るベギィ、という音と。硬いものがぶつかり合うゴ、という音。双方が混じり合った不協和音が森に重く鳴る。

 

 

 

 

「おお。ルブス。それは死に相応しくない。魔は、生きてはおりませぬ。それ故に死ぬ事もありません。神々が息吹きと共に宿った命をもって我等はここに存在しております。神の愛と共に生まれ、そして神の御許へ赴くべく死ぬのです。その魂は浄の光と化し、天へと向かう。されど魔は存在すれども生きてはいないのです。神々の愛と共に芽吹いた我等の命を弄ぶ不浄なる者共。彼等の存在の在り方は生ではない。生ではない故に死でもない。ただ祓われ、無為に消滅していく。故に彼等の消滅に涙を流してはなりませぬ。それは生ではなく、その結末も死ではない。神々の命ではなく、それ故に罪も生まれない」

 

 

 

 

 

 

 

 何かを。

 炎の音により聞こえない程に、静粛な声で呟いている。

 

 

 

 

「消滅しなさい.....。無為なまま.....。己が作りせし煉獄の炎の中.....。この神の、神の依代が。鉄槌を下すこの時を.....。刻み付けた世界の傷と共に、この、この、ここここここの私が」

 

 

 その細い手に不釣り合いな鉄槌を握られている。

 その鉄槌を以て吹き飛ばした──甲冑が破砕され、血まみれとなり倒れ伏したベギムを一瞥し、小石程も興味を持つことなく、視線を彷徨わせる。

 そして、

 

 周囲に妖精を纏わせた女が──魔王を見据える。

 

 

 吸い込まれるほどに、美しい。

 その美しさのまま──口元が大きく開かれる。

 

「おお。神よ......。神よ......。いひゃ。いひっひいいいひひひひひいひひひひひ」

 

 

 舌がもつれるほどの昂奮。

 それを口元の歪みで表現し。されど目には、ただただ昏い殺意のみを浮かび上がらせ。

 

 

見~つけた~(神よ感謝します)

 

 

 そう、呟いた。

 

 ーー【聖女】来襲ーー

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