チートアイテムは色々な意味でアウトです
『マスター!あの男の腕輪の破壊許可をお願いします!!』
「は?お前いきなり何言ってんの?」
球体の赤く光るレンズ―――【ルクシオン】の物騒極まりない要求にルクシオンのマスターである俺―――【リオン・フォウ・バルトファルト】は本気で首を傾げる。
「そもそもあの男って誰なんだよ?」
『黒髪でバンダナ巻いた眼鏡の男です!』
黒髪でバンダナ巻いた眼鏡の男……
「……ああ、アイツか。確かダンジョンの未開エリアを発見して財宝とロストアイテムを手に入れ、領地の開拓を成功させて準男爵の地位を得た上に、特待生として上級クラスに入ったんだよな」
今日の貧乏貴族の集まりで、その当の本人は魔窟の上級クラスではなく安全パイの普通クラスが良かったと嘆き叫んでいたが。
加えてあの腕輪の愚痴でカウンターに突っ伏して情けなく泣く姿なんか俺はもちろん、最初はあまり良くない
…………って!?
「その腕輪を破壊するのは勿論、アイツから取り外すのもアウトだからな!?」
『何故ですか!?あんな腕輪なぞ、今すぐこの世から抹消すべきです!!』
ルクシオンが興奮しながらめっちゃ不機嫌そうに発しているが、絶対にダメだからな!?
「そしたらあの腕輪が爆発するってアイツが言ってたんだよ!それも家一軒が木っ端微塵で吹き飛ぶほどだって!!」
実際、俺も含めて周りの連中も露骨に距離を取ってたし!腕輪に興味を持ったダニエルなんか壁際まで下がったし!
『その男が嘘を付いただけに決まってます!ええそうです!そうに違いありません!!』
「あれが演技ならアカデミー賞ものだろ!?」
こんなことになるなら未開エリアを見つけなきゃ良かったと泣き叫んでたし!!
『なら必要な犠牲ですね!その男は運がなかったということで諦めてもらいましょう!』
「だからダメだって!そもそもどうしてそんなに破壊したがるんだよ!?」
こいつ、たまにちょくちょくおかしくなるよな!?新人類絡みでだけど!
『鈍いですね!私という存在を鑑みれば容易に答えに行き着く筈ですが!』
「鈍くて悪かったな!さっさと理由を言えよ!」
この人工知能は本当に辛辣だな!!
『本当にマスターは鈍いですね』
興奮から一転、すごく冷めたように発するルクシオンに俺はカチンと来るが、今は黙っておこう。後でコキ使ってやる。
『あの腕輪は忌々しい新人類が造り出した兵器です。本来なら発見した瞬間に所有者ごと破壊したかったのですが』
「マジで止めろ!それやったら俺の人生が本気でヤバい!!」
そんなことになったら俺の引きこもりライフがさらにメチャクチャになるだろうが!
ただでさえ、この女尊男卑が蔓延る乙女ゲームの世界で
『ですからマスターに許可を求めているのですよ。勝手にやったらマスターはぐちぐち文句を言うので』
当たり前だろ!てかそんなことは許可しないからな!!
「第一、あの腕輪の危険性は当人が一番分かってるだろうから監視でいいんじゃないのか!?」
『……不本意ながらそれで妥協しましょう。ガードはまったくありませんからね』
良かったー。不承不承ながらもルクシオンが納得してくれて。
にしても、ダンジョンの未開エリアを発見して成り上がった主人公以外の特待生……あの乙女ゲーには名前はおろか、存在すらしなかったよな。
……念のため、ルクシオンに調べてもらうか。
――――――
宿舎の一室にて。
「本当に最悪だ……」
『またそれか。いい加減に諦めろ』
「うるせぇ!誰のせいでこうなったと思ってるんだ!?」
『キャプテンの自業自得だろう。金……というか鎧を自作したいという願望なんぞの為にダンジョンで一攫千金を狙ったんだからな』
オレの魂の叫びに対し、腕輪から発せられる声はどこ吹く風である。
「自業自得の意味、ちゃんと辞書で調べてこい」
自業自得は自分の行いで酷い目に合うことだろ。少なくともオレに当てはまる言葉じゃない。
鎧という名の搭乗型ロボットを自身の手で作りたいと思って何が悪い。
実家は武器や鎧を製造する職人との繋がりがあったからそんな夢を見たっていいだろ。
「それに実家の領地の鉱山には鉱石が多く眠ってるんだし」
『確かに彼処には魔力伝導率の高い鉱石が多く眠っている。単に人手不足の上、巨大なアダマンティアスのせいで掘り進められずにいたがな』
そう。その大量の鉱石もまるで採掘路を妨害するように埋まっていたドデカイ最硬金属のせいで宝の持ち腐れだった。
加えて実家―――ファーレンガルド家は貧乏貴族なので道具も人員も満足に用意出来なかった。
昔はそのアダマンティス狙いで他の貴族がしゃしゃり出てきたそうだが……あまりのデカさに諦めたそうだ。そりゃ横に掘っても壁になってるアダマンティアスが続いてるんだ。十メートル迂回して掘ってもアダマンティアスの壁があったら誰だって諦めるわ。
アダマンティアスの加工技術はあるけど、加工にはかなりの時間を要する時点でどれ程面倒なのか分かるというもの。それを普通のツルハシでどうこう出来るわけがない。実際、十二歳頃にツルハシ持って挑戦しに行ってそのツルハシをダメにしてしまったし。
『そのアダマンティアスの壁も自分のおかげで穴を空けれたがな』
確かにコイツのおかげであのクソ硬い壁を強化されたツルハシで砕くことは出来た。
……その代償で一週間ベットの上だったけどな!!
『それはキャプテンが軟弱なだけだ。出力全開で長い時間使いたいならもっと身体を鍛えろ』
心の声を読むな。このポンコツ。
「そもそもオレが軟弱なら、周りの男子はどうなるという話になるんだが?」
自慢ではないがオレは同年代と比べたら筋肉は結構ある方だ。これで軟弱扱いなら、マンガやアニメのマッスルボディになるしかないんだが?
『キャプテンも紛い物なりにも新人類なら、魔法で肉体強化して使え』
「オレのその魔力をごっそり持っていくお前は本当に欠陥兵器だよな」
コイツの物言いは本当にムカつくな!魔力だけでなく、体力もごっそり奪うんだからな!!
『誰が欠陥兵器だ!自分はプロトタイプだから問題があって当然だ!』
「試作品だから盗まれても放置されたんだろ?悔しかったら自己改良してみろ」
『本当に腹が立つキャプテンだ!新人類のくせに憎き旧人類の遺伝子を持っているのだからな!』
旧人類の遺伝子。
コイツ曰く、オレは【新人類】と命名された魔法を使える人類にも関わらず、大昔に滅ぼした科学技術を扱う【旧人類】の遺伝子、それも日本人の遺伝子情報があるそうだ。
「知るか。そもそもオレは男女平等、それも平和な日本で過ごしていたんだ。こんな属性てんこ盛りのゲームのような世界で当初はうんざりしてたんだからな」
その記憶を思い出した?のは六歳頃。オレの前世は後輩からのメッセを確認していた時にトラックに跳ねられて死んだ。死ぬ前は有名なゲーム会社で働いて、新たな購入層を獲得する為に乙女ゲームの開発に着手して……その初期段階辺りでオレの前世は終わった。
てか、乙女ゲームに激ムズのバトル要素をぶちこもうとするなよ。しかも難易度下げられないとか駄目だろ。あのゲーム、一体どうなったかな……?企画書では魔法とSFを混ぜようとしていたが……
まあ今世と比べたら、前世は凄く幸せだったんだけど。
なんせファーレンガルド家は貧乏貴族。その原因は曾祖父さんくらいの時代に抱えていた職人や技術を根こそぎ奪われたからだ。
当時のファーレンガルド家は結構な名家だったそうだが、反旗を翻したどこぞのクソ貴族が見事に略奪してくれた。おかげで当時子爵だった実家は準男爵に降格。領地も開拓が困難な外れの辺境に移された。その落とし前は賠償金という形となり、その賠償金も向こうが渋って未払い状態でうやむやになったが。
取り立てなかったのかって?もう国家となったクソ貴族に大幅に弱体化したファーレンガルド家がどうこう出来るわけないだろ。実質泣き寝入りだよ。
その辺りの書類や帳簿がきっちり残ってたし、当時の出来事の記録も保管されていたから間違いなく事実だろう。
そのクソ国家は好きになれないが、わざわざ此方から喧嘩を売りに行く必要もないだろ。親父もクソ国家は嫌いだがどうせ逆ギレするだろうから、あまり関わりたくないと言ってたし。
「それでも爵位の高い貧乏貴族と比べたらマシだったんだけど。それもお前のせいで台無しになったけど」
なんせ女性は優遇されて当たり前。男はいくら使い潰しても構わないと考える女性が八割なのだ。マトモな女性なんて騎士家に分類される貴族の家か平民しかいない。
それが特待生として上級クラスに入る羽目となって、男爵以上の貴族の家から嫁を貰わないといけなくなったけどな!!次男坊だからかなりマシだったのが、準男爵の地位を与えられて将来独立する羽目になったし!
男爵から伯爵家の娘は本当に酷いんだからな!専属奴隷が本命で、書類上の結婚相手はATM扱いだし!!
『なにが自分のせいだ。この時代では冒険者として成功すれば期待と注目の的だ。自分がおらずともキャプテンは此処にいただろう。よってキャプテンの自業自得に変わりはない』
「この上ない正論どうも。欠陥ありきのポンコツ兵器に変わりないけどな」
『誰がポンコツ兵器だ!自分は装着者の戦闘能力を爆発的に向上できるんだぞ!!キャプテンのような凡人でも片腕で大型モンスターを倒せるようになるくらいにな!!』
確かに戦闘能力の面だけで言えばコイツの言う通りだ。
しかし―――
「使えば見た目変わる上に、存在がバレれば貴族の真っ黒連中から狙われる羽目になるだろうが!」
そうなれば腕輪が爆発してデッドエンド一直線だ!爆発せずに腕輪を外せるのはオレが死んだ後だし!それも仮死状態じゃなく、本当に死んでないとダメだし!
「第一外したら爆発するとか、ポンコツ以外の何物でもないだろ!」
『それはキャプテンが新人類なのに旧人類の遺伝子を持っているからだ!本来は旧人類が装着したら爆発する仕様なんだからな!!』
「だからその爆破機能を切れって何度も言ってるよな!?」
『そんな事は出来ないと何度も言っているだろ。やはり猿である旧人類は滅んで当然の存在だな』
「その猿にまんまと盗まれたお前は猿以下だけどな」
なんせあんな隠し部屋にしまわれていたんだからな。
『揚げ足を取るな!そもそも、自分もキャプテンのような剣すらマトモに扱えない猿に使われるのは不本意だ!出来るならキャプテンを殺してやりたいわ!!』
「オレだって叶うことならお前をスクラップにしてやりてぇよ!この疫病神!!」
『疫病神言うな!何度も言っているが自分は新人類が開発した【魔装】のプロトタイプだ!出力だけなら正規の【魔装】にも劣りはせん!!巨大化は出来んがな!』
「むしろ巨大化したらもっとアウトだ!」
本当にこの腕輪は疫病神だよ!
「とにかく、オレは何とかして平穏な人生を送りたいんだよ。嫌がらせには仕返しできないレベルで反撃するけど」
やられっぱなしは性に合わないし。前世の価値観からだけど。
『それでキャプテンが望む平穏な人生が送れると本気で思ってるのか?』
「うっさい!」
こうしてオレ―――【エドワード・フォウ・ファーレンガルド】の平穏を目指す学生生活が幕を開ける―――ことはなかった。
「あの、本当に私が頂いていいですか?」
「……いいんだよ。誰も来なかったから、全部無駄になるところだったし」
お茶会で女子が誰一人来なかった結果、オレと同じ特待生の子を招待することになったり……
「確かリオンにはこの学園に通ってる姉がいたよな?ちょーっとオレのお願い聞いてくれるなら、盗み聞きの件は水に流すけど?」
「……聞くだけ聞いてやる」
どういう訳か、扉の向こうで耳を当てて盗み聞きをしていた同級生のリオンにちょっとしたお願いをしたり……
「エドワードさん……なんでハンマーなんですか?」
「剣なんてちゃんと扱えなきゃあっという間に刃こぼれして駄目になるし、槍はもう振り回して叩いているレベルだし、銃は弾代が高いから論外。つまり、鈍器が一番優秀」
「マジか」
授業でのダンジョン探索は肉壁トリオとして行動する羽目になったり……
「リオンの叩きに拒否して殿下達の敵認定されたので、オレも件の決闘に参加します」
「お前、本当にバカだろ!?」
「まったくだ!バルトファルトも馬鹿だが、お前はそれ以上の馬鹿だ!!」
リオンと公爵令嬢アンジェリカ嬢から馬鹿扱いされたり……
「【ハーツ】。魔装を部分展開。動体視力と反応速度を強化で」
『了解だ。キャプテン』
腕輪―――【ハーツ】の力で脳筋と腹黒を叩きのめしたりした結果であることは言うまでもない。
『マスター!今すぐこの腕輪の破壊を!』
『キャプテン!すぐにでもこやつの本体を潰しに行くぞ!』
「「だからやめい!!」」
たぶん、続かない。