お茶会。
それは男子が女子を招待して開く、女子のご機嫌取りの場だ。もっと言えば結婚相手を獲得する為のアピールする場でもある。
なぜこんな話をしているのかって?
「なあ、ダニエル。レイモンド。エドワード。男爵家か裕福じゃない子爵家の女子にアテはないか?」
「全くない!!」
「あったらこの集まりに参加していない」
「僕は参加してくれそうな女子なら誰でも良いや……」
絶賛、そのお茶会に頭を悩ませているからだ。
貧乏貴族、それも騎士家に分類される準男爵家の人間であるオレにあるわけないだろ。
「女子のご機嫌取りの為に大金かけてお茶会か……」
「しょうがないよ」
レイモンドの言う通り、確かにしょうがないよな。
「そのお茶会を開かなかったら、お茶会も開けない貧乏貴族と噂されてますます結婚できなくなる……つまり選択の余地はない」
「ついでに安く済ませても陰口叩かれるけどな」
オレの言葉にリオンがうんざり気味に同意するように呟く。ああ、この世界の女子は本当に酷い。いや、貴族社会は大抵こんなものなのか?
どのみち大金かけてお茶会開いても、結婚相手は選べないけど。この世界じゃ男は結婚してもらう立場だし。
「そもそもリオンが上げた家の女子ですら、マトモな性格の女子がいるかすら怪しいけどな……」
「それは言うな。ますます気が重くなる」
「「「「ハァ…………」」」」
ダニエルのその言葉で、オレ達は一斉に深い溜め息を吐く。
現にリオンの姉や妹でさえ、見事な性格悪い地雷みたいだからな。男をATM扱いしない貴族女子は存在しないんじゃないんだろうか?
いや、仮にいても全部名門や裕福な貴族に行くだろうし、そもそも爵位が高すぎればその時点でアウトだし。
貴族社会の結婚は本当に複雑で政略結婚なんてザラだし。
……本当に女性優遇が悪い方向で突破している世界だよな。コンチクショウ。
そんな暗い気分でいると、向こうからキャーキャー騒ぐ声が聞こえて来る。見れば大勢の女子が二人の男子の後を追いかけていた。
「……今年は殿下や名門貴族がいるからハードル高いよね」
「比べられるよな。勘弁してほしいぜ」
確かに。現在進行形で女子に追いかけられている、王太子であるユリウス殿下に乳兄弟のジルク。次期《剣聖》候補のクリスに加え、名門の辺境伯と伯爵家の跡取りであるブラッドとグレッグもいるからな。それも全員イケメンで仲良し。ついでに取り巻きですら伯爵や辺境伯というオマケ付き。
「……世界が違い過ぎて辛い」
どうしてかな?目から汗が……リオン達も軽く汗が流れてるし。
あ、公爵令嬢であるアンジェリカ嬢が取り巻きと共に現れたな。めっちゃピリピリしてる。
「なんかピリピリしてない?」
「見るな!目立つな!関わるな!風景に溶け込むんだ!」
小声でダニエルに注意喚起するリオンに、オレは手元のお茶を飲みながらウンウンと頷く。
あんな修羅場に関われば、下手したら周りの女子に八つ当たりされかねないからな。それに当人同士の問題でオレらは部外者だし。
そう考えていると、その修羅場に良くない噂の貴族の出の女子が入ってきた。
「あれは……」
「あれ、噂の女子だ」
「!知ってるのか?レイモンド」
あれ?リオンは知らないのか?ならレイモンドの代わりにオレが答えるか。
「あの金髪ウェーブの小柄な女子は【マリエ・フォウ・ラーファン】。裕福じゃない子爵家の娘だが……結婚相手としてはまずない相手だぞ」
「へ?まずない?なんで?」
リオンのこの反応からしてラーファンの良くない噂は知らないみたいだな。これも一応教えておくか。
「ラーファンは子爵家だが、かなりの借金があるみたいだぞ。関わったら最後、金を一銭も残さず搾り……いや、勝手に人の名義で借金するほどの危ない貴族だそうだ」
オレのその説明に全員が絶句した。別の意味で地雷だから当然の反応だけど。
ファーレンガルド家も少なくない借金背負ってたけど、今は完済してるからな。借金に次ぐ借金を重ねるラーファン家は本当にどうしようもないと思う。
「あー……そっちの噂じゃなくて彼女個人の噂でだよ。殿下に平手打ちしたって話が有名だろ?」
レイモンドが顔をひくつかせながら違うと言う。
彼女個人の噂かー。入学してからの一月、嫁探しや半年前に半ば強引に押し付けられた外れ領地の経営で忙しかったからその辺りはスルーしてたから知らないけど。
てかユリウス殿下に平手打ちしたんかい。どんなメンタルしてるんだよ。心臓に毛でも生えてるのか?
にしてもあの領地、規模が準男爵の上にめぼしい資源も押し付けられた時点ではなかったからなー。加えて土壌も痩せこけているから農業するには不向きだったし。今は集めた技術者で工房立ち上げてるけど。
集めた技術者は全員変わり者で溢れた面々だけど、意欲やモチベが凄く高いからなー。特にアダマンティアスの加工に目を輝かせてたし。
特にあの領地で見つかった鉱石は魔導伝導率の高い金属と混ぜ合わせて加工すると、その魔導伝導率が爆発的に上がるみたいだし。強度も申し分ないから新素材として売り出しても十分いけるし。
今は新しい鎧を作ってる最中だけど。構想伝えたら嬉々として取りかかってくれたし。
「嘘だろ!?俺が聞いたのは名門貴族と食事したとき、豪快にステーキを食べまくったって……」
そんな考えに耽っていると、今度はダニエルが別の噂話を上げてくる。
豪快に食べまくったかぁ…………貧乏だから食い意地が張っていたのか?
「え?そうなの?でも、平手打ちは本当でユリウス殿下はそれを笑って許したらしいよ」
「ああ。だからアンジェリカ嬢はあんなに敵意丸出しなのか」
マリエの登場でますますピリピリした空気になった理由を察してオレは納得する。
アンジェリカ嬢とユリウス殿下は婚約者同士で有名だからな。いくら当人が笑って流したとは言っても、婚約者を平手打ちした相手に好意を持てはしないだろ。
「……平手打ち……ステーキ?」
何故かリオンが顎に指を添えて首を傾げてるけど。
あ、ユリウス殿下がマリエをお茶会に誘ってるな。アンジェリカ嬢は声を荒げて反対してるけど。
「……思い出した」
「「「ん?」」」
リオンの呟きにオレ、ダニエル、レイモンドは揃って疑問の声を上げる。思い出したって何を思い出したんだ?
気になるが今はそれよりも……
「この分だと、お茶会開いても女子にお近づきになれないな……」
オレのその呟きに、リオン達は暗い表情で頷くのであった。
――――――
「なあルクシオン。アイツ本当に転生者なの?」
『会話を聞いた限り、その可能性は濃厚です。本人にマスターの言う乙女ゲーの知識とやらはなさそうですが』
ルクシオンの調べ(言い争いを聞いただけ)でエドワードは俺と同じ転生者の可能性が高いようだが、そのエドワードはこの世界が乙女ゲームの世界であることは知らないようなのだ。
「乙女ゲーのシナリオに介入する気はなさそうだけど……一応注意しとくか」
『私としては一秒でも早くあの腕輪を破壊したいのですが』
「だからそれは止めろぉっ!!」
――――――
―――お茶会当日。
『それなりに手が込んでるな、キャプテン』
「ちゃんとやらないとどんな目に合うか分からないからな」
黒い腕輪―――ハーツの呆れたような呟きにオレは淡々とそう言葉を返す。
マナー講師曰く、お茶会は人そのものを映し出す鏡だそうだからな。つまり、適当に済ますと女子に足下見られて結婚に大きく響く。
オレは紅茶よりコーヒー派だけどな。それでも紅茶に合う菓子は用意したけど。
「ま、誰も来なかったら意味ないけど」
『招待状送って事実上の全滅だからな』
そりゃ準男爵家、それも特待生の招待だからな。玉の輿を狙う女子からすれば顔を出す価値すらないんだろうな。眼鏡のマッチョなんて目の保養にすらなりそうにないし。
一応受け取った男爵家の女子は気が向いたら行くかもだったし。これで開かなかったら絶対に叩かれる。
「それも予想の範囲内だからそこまでショックじゃないけどな」
『なら何でお茶と菓子を用意した?それも安物ではなく高価なモノを』
「いくら誰も来ないから可能性が高いからと言って何もないは駄目だろ。色んな意味で」
冷やかしで覗いた時に安物しか用意してなかったら、間違いなく悪い噂を流すからな。ここの女子達は。
この部屋もランクアルファベットの六段階の段落で例えるならEだし。本格的な場所は名門貴族がもう借りてるし。
「ホント生きるのに辛い世の中だよ。開いても開かなくても惨めな経験をするんだから」
『なら腕輪を外して爆死して、来世に期待を賭ければいいだろう』
「そうなったらお前も爆発で壊れてお陀仏だぞ」
『魔装ジョークだ』
ハーツはこう言うが、絶対にジョークじゃないだろ。
「お前は本当に日常においては役立たずだよな」
『自分に日常謳歌機能を期待するな。そもそも戦闘では大いに活躍できるからチャラだ』
その戦闘も人前ではアウトだからな。少し使うだけでも腕輪のある右腕が黒い籠手に包まれるんだし。そんな異常を誰かが目の当たりにしたら、オレの望む平穏が明後日へと消えてしまうからな。
そんな事より今はお茶会が重要だけどな。
掃除も見えない場所まで掃除して、家具の配置まで変えて後は相手が来るのを待つだけ。
待つだけ……なのだが。
「……やっぱりこうなったか」
『キャンセルも専属奴隷にさせるのは予想の範囲内か?』
予定時刻からおよそ三十分、この部屋に訪れたのは女子の専属奴隷であるエルフの男ただ一人。
それも『別のお茶会で時間を潰したからお嬢様はもう此方には来ない』と嘲るようにそれだけ言って帰ったんだからな。
「どうだろうな……ガン無視される可能性は考えてはいたが……」
あの女子、絶対性格悪いだろ。あの専属奴隷の態度からしてオレの反応を聞いて笑ってるに違いない。
実際、扉から人の気配がしたからもしかしてと思って扉を開けたら、予想と違ってたから固まってしまったし。
「……とりあえず、もう片付けるか」
もう待つ意味もなくなったので、全部無駄となったお茶と菓子を片付けていく。これらは自分で食って処分しよ。
「はあ!?アンタがブラッド様にお呼ばれ!?不釣り合いなのよ!」
そう考えながら片付けていると、部屋の外から女子の怒声が飛んできた。オレは何事かと思ってこっそり扉を開けて確認すると、廊下で複数人が言い争いをしていた。
「でも招待状が……」
「アンタがいたら場がしらけんのよ!身の程を知りなさいよバアーカ!!」
そんな罵声の後でビリビリと紙を引きちぢる音が聞こえてくる。
で、手紙らしきビリビリに破かれた紙の前で取り残された女子は誰かというと……
「アイツ……確かオレと同じ特待生の子だったよな?」
『知らん。四六時中キャプテンと一緒だからな』
本当に役に立たん腕輪だな、コイツ。
確か優秀な人材の発掘目的で平民出身から入学させたんだよな。その“優秀な人材”にオレも含まれてしまったけど。
色々と悪目立ちするし、平民出身じゃ結婚相手にすら出来ないからスルーしたんだが……
「ぐすっ……」
涙目で破かれた招待状?を拾う姿がめっちゃ良心にグサグサ突き刺さる!今後のことを考えるなら無視すべきなんだが……
「しゃあないか……」
オレは諦めたように呟くと、蹲っている彼女に近寄っていく。
「そこのお嬢さん。良かったらお茶でもどうだ?」
――――――
「あの、本当に私が頂いていいんですか?」
「……いいんだよ。誰も来なかったから、全部無駄になるところだったし」
良心からお茶会に招待した女子―――オリヴィアさんの質問にオレは若干寂しげにそう返す。ちなみに簡単な挨拶はすでに済ませている。
「で、ではお言葉に甘えて……」
オリヴィアさんはそう言ってテーブルにあるクッキーをつまみ、そのまま口にする。
「おいしい……っ」
ああ、オリヴィアさんの笑顔が眩しい。貴族の女子ならもっと高い菓子を用意しろと文句を言いそうなのに。
普通の反応の筈なのに、彼女の反応が天使に見えてしまう。やっぱりこの世界はおかしい。
「そういえばエドワードさんも私と同じ特待生なんですよね……」
「そうだな。平民じゃなくて貧乏貴族の次男坊だけど」
特待生という肩書きのせいで上級クラスに通う羽目になったから、オレとしてはいい迷惑だけどな。
オリヴィアさんには関係ないから言わないけど。
「私……何をやっても上手くいかなくて……この学園にきても良かったんでしょうか?」
「別にいいんじゃないのか?学園側の意向なんだし」
そもそも上級クラスに入学させたのは完全に向こうの都合だろうし。文句あるなら現在進行形で落ち込んでいるオリヴィアさんより、彼女の入学を認めた学園に文句言えと言いたいところだ。どうせ却下されたからそっちに当たってるんだろうが。
「で……でも、皆さん私はここに相応しくないって……!」
あー、完全に僻みややっかみの対象になってるなこりゃ。オレの場合は曲がりなりにも貴族で、冒険者としての実績もあるからギリ大丈夫だったけど。オリヴィアさんは貴族や豪族に一切ツテのない平民だから、後ろ楯がなかったらこうなるのは当然か。
てかホルファート王国。この歪な女性優遇の件も含めてもっと仕事しろ。
「私……もっと魔法のことを勉強したいんです。でも、学園のルールとか暗黙の了解とかに疎くて……最近は教科書とかにいたずらされて……」
「典型的ないじめだなあ……」
いじめを思い出してか、また泣き出し始めたオリヴィアさんを前にオレは本気でどうすべきか頭を悩ませる。
この時代思考じゃ、いじめを教師に訴えても聞く耳持つどころか揉み消すだろうし。逆にいじめを捏造しそうだし。
「仕返ししようにも、そもそもの土台から不利だし……」
「し、仕返しって!?私、そんなこと望んでませんよ!」
オレの呟きにオリヴィアさんが食い気味に反論する。根はマジで良い子ちゃんだな。
そうなると、一番手っ取り早いのは安易に手が出せない女子の後ろ楯を得ることだが……
「……ん?」
ふと気づくと、扉の向こう側に人の気配がするな。一体誰なんだ?
とりあえずオレはオリヴィアさんに静かにいるようにジェスチャーで指示しながらそろりそろりと扉に近づき……
「そこにいるのは誰だ!?」
大声を上げながら扉を開けた。こうすれば相手はビックリして思わず後ろに下がるだろうからな。
開けた先には……リオンが尻餅を付いていた。
「リオンか……盗み聞きとは良い趣味してるな?」
オレがそう言うとリオンは引き攣った笑みを浮かべている。しかし、何で盗み聞きを…………あ、いいこと思い付いた。
「リオン」
「な、なんだエドワード?」
「確かリオンにはこの学園に通っている姉がいたよな?ちょーっとオレのお願いを聞いてくれるなら、盗み聞きの件は水に流すけど?」
「……聞くだけ聞いてやる」
そんな身構えなくて大丈夫だぞー。全く無茶なお願いじゃないんだからさー。
―――数十分後。
「……で。そこの愚弟の尻拭いの為に私が呼ばれたってワケ?」
「そんなにツンケンしないで下さいよ。普段金をせびっている弟くんを気紛れで助けると思って」
「ま、いいわ。愚弟には後で今回の呼び出しの対価で金せびるし」
憐れリオン。オレの
オレが思い付いた解決策、それはリオンの姉から女子のルールを教えてもらおうというものだ。
女子のルールに従っていればそこまで敵視されないだろうし、そこで取り巻きとして認めてもらえればいじめは大幅に減るだろうからな。
「それで?平民の特待生に何で肩入れすんの?得なんて一つもないでしょ」
「オレの心の平穏が約束されるという得があります」
リオンの姉―――ジェナさんの疑問にオレはそう言葉を返す。
関わって無視したらオレの心が荒波になるからな。そんな心労は健康に悪いから解決策は見いだしておかないとな。
それで失敗なら諦めるしかないが。仕返しは本人が拒否してるし。
で、ジェナさんが言う女子のルールは以下の通りだった。
・女子はクラスの一番偉い女子に挨拶しなければならない。
・大きなグループなら、取り巻きに手紙とその相手の好みの手土産を渡すこと。
・その手土産は人気店のお菓子や茶葉でないとアウト。
……どこの政治家の裏取引だよ。これぐらいが普通なのかもしれないが。
「ちなみに代金はそいつらに払わせればいいから」
「は!?」
ジェナさんの言葉にリオンがふざけんなよ!と言いたげに声を発するが、そこは妥当だろ。
「此方はあくまで女子のルールを知りたかっただけなので、それで問題ないですよ」
「そこの男子は本当に素直ね。愚弟とは本当に大違い」
ま、これはあくまで取引みたいなもんだしな。こういうのは紳士にやらないとアウトだし。
その事にオリヴィアさんは恐縮していたが、それ以外は自力でどうにかするということで落ち着くのであった。
ちなみに土産代はオレが一人で払った。
――――――
「マジでどうしよ?エドワードの頼みに便乗してオリヴィアさんに多少恩返しできたけど……」
『部屋に仕掛けた盗聴器からして、向こうはオリヴィアと繋がる気はなさそうですよ』
「じゃあ何でアイツは主人公を助けたの!?」
『言い争いによると良心の叱責からだそうです。打算で動いたマスターとは大違いですね』
「お前は俺のことが本当に嫌いだよな」
『当然です。後、マスターが望むならエドワードを腕輪ごと始末しますが』
「それ、あの腕輪を破壊したいだけだよな!?」
こうしてリオンは動向を見守る為に、
「ああ、結婚のハードルが高くなったな……」
『嘆くならあのまま放置しとけば良かっただろう』
「お前には人の心がないのか!?」
『キャプテンに同情する機能がないだけだ』
「どんだけオレに辛辣なんだよ!このポンコツ!」
『安い同情をするキャプテンだけを爆死させたいくらいにはな』
『……あの男の言う通り、本当にあの腕輪はポンコツですね。私の存在に全く気づいていませんから』