……本当に何で上手くいかないんだろうな。
「俺だって壊すつもりはなかったんだ。でも、ルクシオンが壊さないと危ないって言うし。目の前でグレッグが死ぬって聞いたら、誰だってトリガーを引いてたよ」
ベッドの上で体育座りをし、シーツを頭から被ってグズグズ泣いているのは、青春の鎧の破壊のトリガーを引いたリオンだ。
あの後、リオンは理由を知らない大多数からあれはないと責められた。後始末したオレは金で解決した最低野郎とも。
オレだってリオンと同じ状況だったら、人命を優先した。胸部装甲ひっぺがして、グレッグを青春の鎧から引き剥がしただろう。
ちなみに部屋にはオレだけではなく、リビアとアンジェ嬢、クラリス先輩にディアドリー先輩、オレとリオンの家族も来ている。
その理由は……今日行われる式典に参加するからである。その式典内容にオレは頭を抱えたが、リオンは放心状態で頭に入っていなかったようだが。
「ほらほらエド君。落ち込んでいないで元気出してちょうだい」
クラリス先輩がオレを元気づけようとするが、今回の式典も本当に不本意なんです。善意からだと理解してるけど。
「全く情けないですわね!どちらも公国との戦いで見せた雄姿が霞んでしまいますわ」
霞んでいいですディアドリー先輩。この結果は全然嬉しくないので。
「エド。今日くらいはしっかりしろ」
「そうよ。今日の主役の一人なんだから、いつまでもウジウジしないの」
親父とお袋がオレに活を入れてくるも、できるならばっくれたい。
そう。今日の式典は他の皆と違い、オレとリオン、クリスの三人は本物の勲章が授与される。
クリスは黒騎士達の討伐という譲られた功績から。
リオンはヘルトルーデを捕らえ、アンジェ嬢を助け出した事が。オレは抑止の為の交渉が功績となった。
オレとリオンの共通の功績は、公国製の船と鎧、浮遊石の王国への献上。学生と船員を助けたこともプラスされている。
しかもそれだけではなく、アトリー家にローズブレイド家、アークライト家に加え、フィールド家とセバーグ家も昇進の推薦をしたのだ。
その結果、オレとリオンはめでたく出世。今日からリオンは四位下の【子爵】。オレは五位上だが、卒業したら【子爵】になるというオマケ付きの昇進だ。
「将来エドは子爵か……父さんは本当に嬉しいぞ」
「エドがファーレンガルド家本家となっても、俺は全然悔しくないぞ。なんせ、面倒な事を全部押し付けられるからな」
ゴメン。オレは全然嬉しくない。出世したらそれに伴う責任も増えるし、気が休まらなくなる。
本当は、実家でのんびり工場ライフを楽しみたかったのに!
「本当にエドさんとリオンさんは凄いですね。王都では噂が拡がって“英雄”扱いですから!」
リビアが自分のことのように喜んでいるが、本当に嬉しくない。
英雄の肩書きなんて、あっても邪魔なだけじゃん。変な期待と色眼鏡で見られるだけだから、良いことなんて一つもない。
「……子爵……何よ。結婚してあげるって言ったのに、私も親友も拒否して“ちょっとないです”なんて……」
部屋の隅でジェナさんがぶつぶつと暗い顔で恨み節を呟いている。
リオンがジェナさんの尻拭いで捕らえた空賊を奴隷として格安でその子爵に売り払った際、どうやらお相手はジェナさんでもその親友でもなかった事が判明した。
つまり、どっちも寝取ろうとした立場だったのである。その子爵は本当にご苦労様だったとしか言えない。
実際、ウチの妹も上から目線のジェナさんに対して露骨に距離を取ってるし。
「そうか……これは夢だ。目が覚めたら学園生活が始まる入学式で同じ境遇の友人と婚活は大変だと愚痴りあうんだ。師匠に茶の道を指導してもらって、ティーセットを買う為にダンジョンに挑んで……」
ああ。リオンの奴、ついに現実逃避に走ったか。リオンも出世することを嫌がっていたからな。実際、短期間で出世すると敵を多く作る羽目になるから、これ以上出世しないように色々手を回した筈なのに……何で望んだ結果にならないんだろうな。
「そして地味だけど優しくおっぱいの大きい女子を助けて恋に落ちるんだ。三年間無事に過ごして、そのおっぱいと結婚して地元に帰るんだ。温泉に浸かって、和食に舌鼓をうって幸せに暮らすんだ。シシャク?ダレデスカ?人違いです」
温泉かぁ……いいよな、温泉。ウチの領地には無縁なものだけど。
「ウチも工場以外の収入源を作らないと……」
「それならエアバイクのレース場を作ったらどうかしら?平たい場所も多いし、エアバイクの開発も共同で行っているから、名案だと思うんだけど」
エアバイクのレース場か……確かに選択肢としてはアリかもしれない。アルグレアスもエンジンの強化改修を行っているし。
エアバイクの需要も人気も高いし……クラリス先輩の案、真剣に検討してみようかな。
「あの、それはどういう……?」
「あら、気になるの?リビアちゃん」
余裕のあるお姉さんみたいな態度だな、クラリス先輩。
「
「ほう……“浮島だけ”か?ディアドリー。リオンは公爵家と付き合いがあるんだぞ?」
「貴女のその顔……ゾクゾクするわ!」
……やっぱりディアドリー先輩はMの変態だな。息も荒げてるし。
「エドさん。式典が始まりますから早く行きましょう!」
リビア?何で少し怒ってるの?怒る要素はない筈なんだけど。
「リオンもだ。今日の主役はお前とエドなんだから急ぐぞ」
……式典、休めないかな?マジで。
――――――
冬休みの初日。
学園では盛大な式典が行われた。
公国との戦闘で活躍した男爵をはじめ、若い生徒達の活躍を讃えて勲章を授与したのである。
男子生徒の多くは騎士として認められ、女子の多くは僅かながら年金が支給される事が決まった。
リオン・フォウ・バルトファルトは子爵に陛爵。階位を四位下とした。
エドワード・フォウ・ファーレンガルドも階位を五位上とし、卒業後は子爵への陛爵が約束され、両名とも大出世を遂げた。
短期間でこれだけの出世をしたのは、王国の歴史の中でもリオンとエドワードだけである。
この日、二人は王国の歴史に名を刻んだ。
――――――
式典が終わった後、オレとリオンは中庭で建物に背中を預けて黄昏ていた。
「俺は何を間違えた?」
「右に同じく。何で裏目に出るんだよ?」
どうしてバランス取りの工作がここまで失敗に終わるの?てか、あの三人の実家は何で昇進の推薦状を書いたの?普通、書かないよね?
『もはやお約束だな。こうも出世続きだと、本当は狙っているのではないかと疑うぞ』
『ここまで工作が裏目に出るのは、私にも予想外です。やはりマスターとエドワードは、私の予想の斜め上を常に行きますね』
ハーツとルクシオンでさえ、この結果に呆れているようだ。
決闘の時もオフリーの時も、何で望んだ結果にならないのかな?前世じゃ、そこそこ上手くいってたのに。
「一体俺に何を期待してるんだよ。俺には何もできないよ……」
「過大評価が過ぎる……全部、相手の墓穴を利用しただけなのに……」
本当に周りはオレ達を出世させて何がしたいの?まさか、新手の嫌がらせじゃないよな?
「エドさん。リオンさん」
「お前達、此処にいたのか」
自分たちの行動が裏目に出ていることにゲンナリしていると、オレ達を探していたらしいリビアとアンジェ嬢がオレ達の顔を覗き込んでいた。
「わざわざ探してたの?」
「当たり前だ。ほら、早く行くぞ」
「え、ちょっ」
リオンはそのままアンジェ嬢に手を引っ張られ、引き摺られるようにその場を後にしていく。ルクシオンもそれに追従していく。
残ったのは……オレとリビアの二人だけだ。
……き、気まずい。公国の一件以来、リビアとは二人になるのを避けてたから、余計に気まずい。
「エドさん。私と二人になるの、避けてましたよね?」
「そ、それは……」
だって、あの告白が脳裏を過るからどうしても避けてしまうんだよ。あんな経験、今まで一度もなかったんだから。
「エドさんには迷惑だったかもしれないですけど、あの時の言葉は嘘じゃありません」
迷惑って……そうじゃないんだ。迷惑だから避けていたんじゃなく……
「……迷惑だなんて思っていない。ただ、どうすればいいのか分からないんだ。それで色々と整理できなくて……」
『本当にヘタレなキャプテンだな』
「ヘタレで悪かったな!」
恋愛経験皆無なんだから、仕方ないだろ!
ハーツの辛辣とも言える言葉に文句を言っていると、リビアがオレの手を握りしめる。
……思わずドキッとしてしまった。
「エドさん。いつか答えを聞かせてください。私は待ってますから」
そう口にしたリビアの表情は、素敵なものだと感じてしまった。
「リビア……」
「さぁ、行きましょう。リオンさんにアンジェ……皆さんも待ってますよ」
そうしてオレもリビアに手を引かれ、共に歩いていく。
……本当にどうすればいいのか分からないけど、あの笑顔だけは守りたいなとオレは思うのであった。
――――――
冬休み。
オレは諸々の事情から、実家に顔を出していた。
「家、建て替えたんだな」
「ああ。採掘場も開発が進んで人の往来が増えたからな。少し頑張って立派な屋敷にしたんだ。お前の援助もあったしな」
ま、お金は結構あるからね。実家の方も頑張ってもらいたいから援助したんだけど……屋敷を建て替えるとは思わなかった。
「工場の方は?」
「もちろん増築、改築してある。こっちにも公国の船と鎧を回してくれたから、職人達は大喜びだ」
そうかー……卒業したら本格的に領地経営しないといけないから、実家へ帰る事も減るけど嬉しいものだよ。
オレが経営する領地にあった屋敷も、立派な装いに建て替えたし。
「そういえば兄貴の結婚相手はどうなんだ?そろそろ婚約を決めないと厳しいんじゃないのか?」
「俺はエドと違ってそこまで苦労してないよ。同じ準男爵家の娘さんと婚約が決まってるし」
兄貴のどや顔が無性にムカつく。こっちはハードルがどんどん上がっているのに。
まあ、それより今は採掘場関連だ。
「親父。アダマンティアスはまだ余ってるか?」
「おう、まだまだ余ってるぞ。何せ、厚さが二十メートル以上もあったからな。幅も予想を越えて広かったし……むしろデカすぎてうんざりする程だ」
……ん?幅も予想を越えて広かった?
「親父。それはどういう……」
「まさか百メートル近い大きさだったとは本当に予想外だった。道具や安全面の観点から十メートルの迂回が限界だったが……仮にリスクを無視して迂回の坑道を掘っても、厳しかっただろうな」
ひゃ、百メートルって……ちょいと異常じゃないですかね?何でそんなに巨大なアダマンティアスが埋まってたんだよ。もはや強固で頑丈な岩盤じゃないか。
「それで?そのアダマンティアスがどうしたんだ?」
「……また新しく作るから融通して欲しいんだよ。そんなに大量なら、大丈夫そうだが」
「それなら幾らでも持っていっていいぞ。お前には、本当に助けられているからな」
親父も了承したので、木箱三つ分のアダマンティアスを自分が管理している領地へと持って帰る。
移動はジェットエンジンモドキを取り付けた例の飛行船なので、以前と比べて移動時間が短くなったからな。
それに公国の新型船も手に入ったしな。もう調査も解析も終えているので、それを元に新しい船を建造中だ。
何でも開閉式の艦首砲を取り付けると騒いでいたが……その辺りは任せて大丈夫だろう。ウチの職人達は、クセは強いが技術力は高いからな。
さて、明日はウチの職人を数名連れてリオンのところに行かないとな。やることが多いんだし。
―――翌日。
「おい、リオン。オレの聞き間違いか?もう一度言ってくれ」
「聞き間違いじゃない。マリエのヤツが腕輪を回収して、そのまま自分が聖女になりやがったんだ」
オレが職人達を連れてリオンと会ったのだが、リオンは真剣な表情で急いで伝えなければいけないことがあると言ってきたのだ。
リオンの表情は明らかに焦りが見えていた。なので、最低限の手続きだけを済ませてから話を聞いたのだが、その内容は最悪のものであった。
その内容は、マリエが例の腕輪を引っ提げて王都の神殿に赴いたというのだ。しかも杖まで反応した上、リオンが回収していた首飾りも神殿の者達に回収されてマリエの手元に行ったとも。
「その聖女はリビアじゃないと絶対にダメなのか?」
「ああ。ゲーム知識を持ってるなら、絶対にやってはいけない事なんだ。最後に必要なのは、聖女の力じゃなく“リビア自身の力”なんだから」
なら、何故マリエは自分が聖女になったんだ?何か、見落としているんじゃないのか?
オレはそのゲームの知識を持っていないから、リオンに聞かないと判断ができ……
「…………」
「エド?」
……ゲーム知識を持っている?
マリエの行動は、ゲーム知識を持っているなら絶対にあり得ないこと。
なら、
「……なあ、リオン。その知識は本当に大丈夫なのか?」
「?急にどうしたんだ?何故―――」
「早く答えてくれ。これは、一番重要な事なんだ」
オレの有無を言わさないその言葉に、リオンは困惑の表情を浮かべる。オレの意図を理解できていないにも関わらず、リオンは少し思案してから口を開いた。
「……少なくとも、俺の持つ知識は大丈夫の筈だ。あのゲームを隅々までプレイして、バッドエンドも含めてフルコンプしたんだからな」
直接プレイしてフルコンプしたなら、確かにリオンの持つ知識は信憑性が高いだろう。それが、逆にオレの仮説を立証してしまったが。
「つまり、内容はゲームをちゃんとプレイしないと把握できないってことだよな?」
「確かにそうだが……何が言いたいんだ?」
リオンはまだ答えに行き着いていないのか、首を傾げている。そんなリオンに、オレはその答えを告げた。
「おそらくマリエが持つ知識には穴がある……そのゲーム知識を中途半端にしか持っていないから、自身が聖女になるという行動に出たんだ」
「!?」
オレのその言葉に、リオンは表情を驚愕の色に染める。
「そう考えれば辻褄が合うんだ。アロガンツも課金アイテムなら、その存在をマリエが知らない筈がないんだ。知っていれば、五人の敗北は決定的だとすぐに察していた筈だからな」
実際、あの時のマリエは余裕の表情だった。あのゲームが課金前提のクソゲーなら、それをプレイしたマリエがアロガンツの存在を知らないのは不自然なのだ。
特にフルコンプするのなら、課金アイテムの存在は必要不可欠の筈なのだから。
「つまり、マリエの奴はラスボスのこともリビア自身の力も知らない……いや、聖女の力で全部解決できると思ってるから、自分が聖女になったのかよ!?」
「その可能性は十分にある。なんせ、オレというゲーム知識をまったく持ってない存在がいるんだ。中途半端にしか持っていないとしても、何ら不思議じゃない」
むしろ、もっと早く気付くべきだった。リオンはまだしも、ゲームの世界という先入観がないオレが真っ先に気付かなければならなかった。
「……クリアした後で見たイベントムービーも、肝心な情報は載っていなかった。ちゃんとプレイしていないと、確かに聖女の力だと勘違いしてしまう」
「加えて、恋愛系のゲームはネット動画じゃ早々に削除される……残るとしたらイベントムービーくらいだ」
マリエがどういった方法でゲーム知識を得たかは不明だが、少なくとも真っ当にプレイして得たものでないのは確実だ。
「そうなると……本当にマズイ状況だ。聖女の事もそうだが、公国への警戒も下がってしまう」
何せ、神殿にとって聖女は最高戦力なのだ。いくら公国にまだ切り札が残っている可能性があるとはいえ、聖女がいれば何とかなると考えてしまう。
加えて、侯爵は公国と裏で繋がっている。ルクシオンの調べでは不穏な動きをしているから、絶対に何か仕掛けてくる。
そんな状況で公国と戦争になれば……確実に瓦解してしまう。少なくとも、ちゃんとした知識を持っていないマリエでは対処しきれない。絶対に取り乱して足を引っ張る。特に公国がまだ隠し持っているであろう“切り札”が出てくれば確実に。
「本当にどうする?もし、エドの推測が正しければ……最悪の一歩手前だぞ」
「……現時点ではマリエに釘を差すしかできない。もう聖女と認定された以上、オレやリオンが偽物と言っても誰も信じないし、逆に自分の首を絞めるだけだ」
そうなったら対処が出来なくなる。軛もちゃんと機能するか怪しいし、状況次第では公国から再度戦争を仕掛ける可能性もある。
完全な後手。それも致命的なまでの後手だ。
「本当にマリエは何て事をしてくれたんだ……お前は俺の前世の妹なのかと言いたい。乙女ゲームをプレイしたのだって、妹に脅迫紛いに押し付けられたからだし」
「どんな妹だ」
てか、リオン。今世も前世も姉妹に恵まれてないんだな。あっちの妹さんも完全に学園女子の思考だったし。
「それはともかく、どうやってマリエに接触する?この状況じゃ、話し合いすら困難だぞ」
「アイツは俺達のことを目の敵にしてたし……普通に話しかけても絶対に取り合わないだろうな」
最低限すら困難である事実に、オレとリオンは揃って頭を抱えてしまう。
『見事な八方塞がりですね。ここまで状況が悪化したのは、マスター達の責任です』
『マリエへの警戒を緩めた結果、見事に失敗したな。これはキャプテン達のミスだな』
ルクシオンとハーツの言葉が痛い。もっと早く気付いていれば、まだ対処できていた可能性があったから仕方ないけど。
「とにかく今は取り掛かっている事を進めていくしかない。焦って動いて解決するレベルじゃないからな」
「今はそれしかできないか……全部解決したら、マリエは絶対にボコってやる」
リオンのマリエに対する怒りはマジだな。オレも同じだけど。
本当に、何で良くない方にばかり進むんだよ。マジで。
『危険人物の監視すらできないとは、本当に役立たずの人工知能だな』
『そういうお前は監視すらできないでしょう。欠陥コア』
『黙れ見栄えが著しく悪い金属ボール。今すぐ空の彼方へと消し去るぞ』
『なら私は粉微塵としましょう。安物の店で売っていそうな外見の腕輪』
『『……ッ!(バチバチッ!!)』』