「冤罪で捕まるとか、あんた達呪われているんじゃないの?」
「そんな呪いがあって堪るか」
「それに呪われているとしたらお前の主人だ。それより、何があった?」
呆れた表情で嫌味をぶつけるカイルにオレはそう返し、リオンは経緯の説明を求める。
リオンの質問に対し、カイルは疲れた顔で答えた。
「ご主人様が、自分は聖女じゃないと宣言したんですよ。それで、取り巻きしていた人達が罵声を浴びせ、神殿の神官や騎士が怒鳴り込んで、捕らえられて地下牢に放り込まれましたよ」
「おいおい」
単に敗けただけじゃなく、偽物であることまで暴露したのかよ。
そんな極悪人となったマリエを、本当によく引っ張り出せたな。
「それからずっとあの調子ですよ。ご主人様、このまま処刑されちゃうんですか?」
「このまま何もしなかったらな」
脅しの材料はあるが、マリエの処刑を止めるには足りない。本気で止めるには、マリエ自身の功績が必要になる。
「それに王宮が一時的に処刑を延期にしただけだしな。今のままじゃ、勝っても負けても命はないと思うね」
リオンの言葉に殿下が怒気を強めて睨んでくる。そして、未だに下を向いているマリエに優しく声をかけた。
「マリエ、大丈夫だ。俺たちがついている。だから―――」
「五月蝿い」
「え?」
殿下の言葉を遮ったマリエは―――本性を露にした。
「五月蝿いって言ったのよ!何が大丈夫なのよ!あの化け物を見ていないのに、どうにかなると……勝てるとか本気で思ってるの!?だとしたら、本当におめでたい連中ね!」
「マ、マリエ?」
「出ていけ!みんな出ていって!私は―――あんた達なんか、みんな大嫌いよ!!」
ほとんど自棄となったマリエに、カーラが駆け寄る。
「そんな……マリエ様は、私と友達だって」
「嘘に決まってるでしょう。そんな考えなしだから、孤立して苛められるのよ。あんたは利用しただけで―――友達じゃないわ」
その暴露にカーラが泣き崩れる。
「それが本性かよ。ずいぶんと猫を被ってたようだな」
「止せ、バルトファルト!マリエは疲れているだけだ!」
顔を顰めたリオンの言葉にクリスが静止と共に擁護するも、マリエはその矛先をクリス達に向けた。
「はぁ?止めてほしいのはこっちよ。剣しか能がない癖に偉そうにするな」
「なっ!?」
「脳筋は口だけの役立たず。何が実戦云々よ。紫はナルシストが過ぎて気持ち悪いし、緑は何を考えているのか分からないから気味が悪い。元王太子は王子様って肩書きしか役に立たない屑よ!!地位も名誉も財産も捨てて、女が喜ぶと本気で思ったのかよ!」
言いたい放題だな。オレは別に響かないが、殿下達は本当に唖然とした表情をしてるよ。
「そこの小うるさいガキだって、私が調子に乗ってるのを許してあげなかったら、また奴隷商館に戻されていたのよ。少しは感謝しなさいよ!!」
マリエの暴露に、リオンは最早呆れている。オレも同様だ。
そんなオレとリオンに、マリエが矛先を向けた。
「返せ、返せよ!お前達がいるからこうなったんだ!責任とって、私の幸せを返しなさいよ!!」
……めちゃくちゃだな。全部、自身の行動が跳ね返った結果なのに。それを人のせいにするとか……
もう、ぶっ叩いて黙らせるか?いや、それで悪化したら面倒だし今は我慢するか。
そんなマリエの勝手な言い分に苛ついていると、リビアとアンジェ嬢が部屋に入ってきた。
「リオン!エド!無事だったか!―――ど、どうした?どういう状況だ?」
「マリエさん、どうして泣いているんですか?」
せっかく会えて申し訳ないが、オレとリオンはマリエと話し合わないといけないからな。
「少しこいつと俺とエドの三人だけにしてくれ。話があるからな」
そう話している間に、マリエは徐々に静かになっていきそのまま倒れてしまう。
オレとリオンと違い、精神的にだいぶ疲弊していたようでそのまま眠ってしまった。こっちは事前に決めてたのに対し、マリエはガチだからな。ダメージは相当大きかっただろう。
一先ず、オレとリオン、マリエ意外のメンバーには席を外してもらい、マリエが起きるまでは待つことにする。
『このまま寝かせるのですか?』
「まだ時間はあるからな」
「仮に無理に起こしても、頭が冷えていない可能性もある。自然に起きれば、多少は冷えてるだろうよ」
『最終的には叩き起こして、否応なしに従わせるくせに』
……事実とはいえ、こうもはっきり言われるとイラッと来るな。
少しして、マリエが上半身を起こして目を覚ましたので、弾を抜いたこけおどしの拳銃片手に話し合いを開始する。
「起きたな。さぁ、話し合いの時間だ」
「拒否権はないから観念しろ」
「……嫌よ。お兄ちゃんが来るまで何もしない」
いきなり拒絶かよ。
「そのお兄ちゃんはラーファンにいるお兄ちゃんか?」
「そんな訳ないでしょ。お兄ちゃんはお兄ちゃんよ」
一見したら意味不明なマリエの言葉。だが、“転生者”という肩書きがあるマリエなら、その意味も理解できる。
つまり……
「お前、ふざけるなよ。前世の兄がいないと何もしないとか、本当にふざけるなよ」
「まったくだ。こんな屑女を妹と重ねて見た俺が馬鹿だった」
そもそもその“兄”が何処にいるのか、オレ達のように転生しているのかすら怪しいんだ。あまりにも話し合う気がないマリエに、本気で殺意が沸いたよ。
「そもそも何で戦いに参加したんだよ。このまま挑んでも勝てないことは、分かっていただろ」
「嘘だと思ったんだもん!反逆者として捕まったから、てっきり私を騙す為の嘘と思ったのよ!」
う、嘘って……まさか、騙そうとしたと判断したのかよ!?
いや。良く考えれば、オレ達とマリエの間に信用も信頼もない。その状況で表面上は反逆者として捕まれば……そう考えるのはあり得ないことじゃなかった。
「第一、何で男のあんたがあのゲームの知識を持ってるのよ!正直、キモいんだけど!!」
「誰が好き好んで乙女ゲームをやるか!妹に無理やり押し付けられたんだよ!それも、実家の俺の部屋に勝手に保管していたBL本とグッズの濡れ衣の件を盾にされてな!!」
リオンがそう反論した瞬間、マリエが目を丸くしてリオンを見た。
「……私、お兄ちゃんにゲーム押し付けて海外旅行に行ってたんだけど。しかも、お兄ちゃんはその後に死んだんだけど。それも海外旅行の事をお母さんに暴露されて」
……ん?何か、雲行きが怪しくね?リオンもマリエの顔を食い入るように見てるし。
そして―――
「お、お兄ちゃん!?おに~ちゃ―――痛いっ!」
「お前かよぉおおおおおお!!」
マリエは満面の笑みで飛び付こうとして、リオンは拳銃のグリップをマリエの頭部に叩きつけて落とした。
……え?え!?
「酷いお兄ちゃん!久しぶりに出会った妹に対して!」
「もしもお前に再会したら、復讐すると俺は心に決めていた!」
「兄貴のせいで話がややこしくなったのに!あの後、私がどれだけ苦労したのか分かっているの!?」
「元を正せば、全部お前のせいだろうが!!」
……そうかそうかー。リオンとマリエは前世の兄妹だったのかー。
…………。
「もっと早く気づけよ、馬鹿やろぉおおおおおおおおおお!!」
何でこの土壇場で判明すんの!?面影があるなら、本当に早く気付いていて欲しかった。もっと早く気付いていれば、ここまで事態は悪化しなかったと言うのに!
とんでもない事実が判明しつつも、話し合いは再開。とは言っても、前世の云々だけどな。
「―――つまり、お前は自分の子供をお袋と親父に押しつけたのか?」
「う、うん。だって、あんたには育てられないから、って。酷くない?」
「いや、まったく酷くない。むしろ、その方が子供―――姪っ子にもよかったな。逆に安心した。親父とお袋が正しいよ」
本当に、何で他人の家庭事情を聞かなきゃならんのだ。色々と衝撃だったから止めに入る気力もないし。
「それで?お前の記憶はどこで途切れているの?」
「え、えっと―――彼氏に暴力を振るわれて、これはさすがにまずいかな、ってとこで気付いたらこの世界にいました」
そして、テヘッ!みたいな顔でマリエは話を締め括る。その態度にイラッとしたので、リオン共々拳銃の銃口をマリエに向けた。
二つの銃口にビビったマリエは両手を上げ、涙目で弁明する。
「私だって色々頑張ったんだもん!」
「うるせぇっ!中身婆のくせに『もん!』なんて使うな!鳥肌が立つわ!」
「言ったわね!糞兄貴こそ、そこのメガネと同じ中身オッサンのくせに!……ん?」
マリエは何故か急にオレ……というかハーツをまじまじと見ていた。
そして、何かに気付いたように叫んだ。
「あ、あんた!それ、爆弾アイテムじゃない!何で持ってるのよ!?」
爆弾アイテム?一体どういうことだ?
オレが首を傾げていると、リオンが質問していく。
「おい、マリエ。それはどういう意味だ?」
「それはゲームを普通にプレイしてとあるクソイベントで手に入る、高性能アイテムよ。色々と補正が効くチートアイテムなんだけど……高確率で装備した瞬間に爆発してゲームオーバーになるクソアイテムなのよ」
「そんなアイテム、あのゲームにはなかった筈だぞ」
「当然よ。だってそれ―――三作目に登場したアイテムなんだから」
……ちょっと待て。今、三作目って言ったか?
「おい。本当にマジでどういう意味だ?」
「言葉通りの意味よ。あのゲーム、シリーズ化したんだから」
……はぁああああああああああああああっ!?
『爆発するクソアイテムですか……お前にはぴったりですね』
『黙れ、千円』
『煩いぞ、爆弾』
ハーツとルクシオンが火花を散らすように牽制し合っているが、さすがにそれに構う余裕はない。
本当に、衝撃的な情報がどんどん出てきているんだからな。
「なあ、まさかとは思うが……今攻めてきている超巨大モンスターは……」
「三作目のラスボスよ。だから、空のラスボスが出てきたのは本当に予想外だったのよ」
リオンの疑惑にマリエが答えた瞬間、オレは本気で頭を抱えたくなった。
「何で予想外なんだよ!むしろ、お前が予想してなきゃおかしいだろ!!」
こっちはヘルトルーデを抑えているんだ。初作のラスボスの出現を封じたら、そっちが繰り上がりで出てくる可能性を考慮しとけよ!!
いや、あれがラスボスなら……!
「そのラスボス達も、初作のラスボスと同じ方法が通用するのか?」
「つ、通用すると思うわ。そのラスボスは空か海―――どっちかを選んだら、もう一方は第一作の主人公達が対処するから」
取り敢えず、王家の船が通用する保証が得られたな。そこだけは感謝しておこう。
「なら、お前はリビアに協力しろ」
「あ、あのさ、兄貴?このままだと私は死ぬんだけど?」
「そうだな。でも、最後くらいは真面目に人生と向き合ったらどうだ?」
リオンが少し嫌味を混ぜてマリエの言葉に頷いた瞬間、マリエは泣き始めた。
「そんなの嫌よ!助けてよ、お兄ちゃん!」
「やならきゃ処刑されて終わりだぞ。冗談でも脅しでもなく、マジで」
マリエの懇願に、オレがそう返す。
そして、オレはマリエに丁寧に状況を説明していく。
「今のお前の状況は端的に言えば責任の押し付けだ。侯爵と神殿……公国を軽んじて失敗した責任を自分たち以外に取らせたいんだ。その標的が、お前になったんだ。特に主体となった神殿側は面子が丸潰れとなったからな。自分たちの身を守る為に、お前を処刑しようと必死だ。それを回避するには、お前自身が戦争に参加して頑張ったアピールしないといけないんだ」
侯爵側はもう排除できる段取りは整っている。神殿側はあくまで便乗しただけだから、脅しだけでは処刑を回避するには役不足なのだ。
だから、マリエが戦争に参加して功績を上げる。その功績をネタに処刑の取り下げを要求し、渋れば侯爵との繋がりの件で脅して黙らせる。この三段構えで、マリエの処刑は回避できるのだ。
……元はこちらに協力させる為の交渉材料だったけど。
「そ……それでも嫌よ。あんな化け物と、目玉いっぱいの気味悪い鎧となんか戦いたくない」
「お前が肚を括って頑張れば、お前の処刑を回避できる段取りは出来上がるんだ。それに、リビアと王家の船はその化け物を倒す切り札だ。一番守らないといけないから、安全という面では一番高いぞ」
「それに、戦うのはオレとリオンだ。聖女パワーのアピールだけすれば、功績はお前に押し付ける。だから、覚悟を決めて頑張れ」
ここまでお膳立てしても、マリエは首を縦に振らない。
そのタイミングで、バーナードさんが部屋に入ってきた。
「二人とも、準備が整った。謁見の間に来てくれ」
人手不足ゆえに動き回っているせいか、バーナードさんの表情には少し疲れが見えている。
……迷惑はかけられないな。マリエの説得は一時中断だな。
「分かりました」
「すぐに向かいます」
オレ達はマリエを部屋に残し、謁見の間へと向かっていく。
「リオン!」
「エドさん!」
どうやら部屋のすぐ側にいたらしい、リビアとアンジェ嬢はオレとリオンに駆け寄ってくる。
「リオン、マリエとの話し合いはどうなった?」
「あー……ちょっと難航してる。協力するメリットは伝えたけど、頷くまでには至らなかったよ」
リオンのその返答に、アンジェ嬢は眉間にシワを寄せる。気持ちは分かるが、我慢してくれ。
「あの……私がマリエさんを説得しましょうか?」
「いや。下手したら話がややこしくなるかもしれん。マリエはお前のことが気に食わないみたいだから、逆効果になるかもしれないしな」
それに、説得するとしたらマリエに親い人物じゃないとな。実際、カイルとカーラの二人が入れ違うようにマリエがいる部屋に入ったし、表情からしても本気で心配していたしな。
「だから、オレ達はこのまま謁見の間に向かう。かなり荒れるだろうから、覚悟しておいてくれ」
「わ、分かりました」
そんな会話をしつつ。
必要なものを持って到着した謁見の間には、ローランド陛下にミレーヌ様、この危機的状況でも残った貴族と騎士達が待機していた。五馬鹿はマリエの件がショックからか、意気消沈気味だ。
「随分と人が少なくなったものだな」
ローランド陛下は整列した貴族と騎士達を一瞥しつつ、機嫌良く振る舞う。
「だが―――この場に残った者たちこそ、真の勇者たちである!公国は卑劣にもモンスターを従え、王国領に侵攻してきた。諸君―――今こそ命をかける時!」
モンスターを従えるのは卑劣だとオレは思わないよ。戦略としては普通にありだし。デメリットを抜きにすればだけど。
「公国に立ち向かうため、我々は一丸となって戦う必要がある!バルトファルト子爵、ファーレンガルド男爵、前へ!」
ローランド陛下に呼ばれたので、オレとリオンは謁見の間に敷かれた赤い絨毯を歩き、ローランド陛下の前で共に膝をついて頭を下げる。
「この危機的状況に際し、私はバルトファルト子爵を総司令官に、ファーレンガルド男爵をその補佐に任命する。どちらも若いと侮る者もいるだろう。経験不足と信用しない者もいるだろう。だが、この状況を打開できる可能性を持つのは子爵と男爵だけだ。バルトファルト子爵、ファーレンガルド男爵、この戦い―――勝てるか?」
芝居がかかった台詞だが、予定調和の台詞だ。
もちろん、答えは決まっている。
「「陛下がそう望まれるなら」」
オレとリオンがお決まりの台詞で返すと、ローランド陛下は少し怒ったような雰囲気を放つ。
まあ、半分脅す形で通したからな。若造二人の掌の上な気がして気に食わないんだろうな。
後、ミレーヌ様がリオンに視線を向けて少し顔を赤めてるよ。それに気付いたローランド陛下が怒気を強めてきたよ。
「―――そうか。バルトファルト子爵を総司令官とし、ファーレンガルド男爵をその補佐とする!そして、その上でこれより公国に決戦を挑む!!」
ローランド陛下が力強く―――どこか苛立ちを発散するように宣言してすぐ、そのやり取りに異議を唱える者が現れる。
その人物は―――フランプトン侯爵だ。
「お待ちください、陛下!このような成り上がり共を信用してはなりません。こやつらは反逆罪に問われています!なのに、このような者どもの下で戦えと言うのですか?陛下は、我らを愚弄するおつもりか?」
フランプトン侯爵のその異議に、自身の派閥に属する貴族達が賛同するように異議を口にしていく。
「そうです。ここは公国と交渉をするべきです」
「私にお任せください。必ず公国との交渉を成功させてみせます!」
「そのような者たちに頼るなど間違っています!」
リオンと共に立ち上がってローランド陛下とミレーヌ様の顔を見る。ローランド陛下は目を閉じているが、ミレーヌ様は冷たい眼差しの無表情で侯爵たちを見ていた。
「見苦しい真似はお止めなさい。子爵と男爵は反逆者ではありません。罪を捏造したのは貴方達でしょう。それに、陛下の決定に逆らうというのですか?」
ミレーヌ様のその言葉に、フランプトン侯爵は顔を赤くして抗議を続けていく。
「何と!そのような物言いは、いくら王妃様とはいえ許せません!このような状況では、我々は一丸となって戦えませんぞ!!」
本当に必死だな。まあ、このままだと自分達が終わってしまうからなんだけど。
それも、無駄な努力だけどな。だから、おもいっきり利用させてもらうぞ。
オレはリオンにアイコンタクトを送ると、リオンはふてぶてしい態度で口を開いた。
「そうだね。このままじゃみんな一丸となって戦えないよね。だから―――反逆者どもにはご退場願おうか」
リオンはそう告げると、懐から拳銃を取り出して天井に向けて発砲する。
謁見の間に、発砲音と薬莢が床に落ちる音が響く。
それを合図としたように、衛兵と公爵家の騎士が謁見の間に入り込むのであった。
「このメガネは本当にゲーム知識を持ってないの?」
「だから本当に持ってないって」
「こいつが死んだのは、あの乙女ゲームが発売される前だからな。そのゲームを作った会社の人間だが」
「あんたのせいかぁあああああああああっ!!」
「リオンと同じ反応するな!開発初期で死んだんだから、オレのせいにされても困るわ!!」