「聞いたか?金持ち連中、二人は婚約確定だってさ」
リオンが開いたお茶の席で落ち込んだ表情でそう呟くのはダニエル。向かいの席に座っているレイモンドも同様だ。
「確か相手はミリーとジェシカだったな。お前達が狙っていたみたいだけど」
オレのその言葉にダニエルとレイモンドの纏う雰囲気がさらに暗くなる。
あの二人は性格良かったからなー。金持ち組の貴族に見事に取られたけど。
え?オレは狙わなかったのかって?既に二人がロックしてたし泥沼の取り合いに参加するのはマジで面倒だから諦めた。
「そうなんだよな。あの二人は俺達にも優しかったのに……」
「僕はミリーが幸せなら、それでいいよ……」
ダニエルは未練たらたらだけど、レイモンドは折り合いをつけれてるな。
にしてもリオンの入れる紅茶は旨いな。ジェントルマンという言葉がピッタリと当てはまるマナー講師に心酔してるから当然なんだけど。
「残りは酷い女子ばっかじゃないか!」
「終わりだ……僕達は終わったんだよ……」
本当に哀愁が漂ってるなこの二人。
こうなったら騎士家の女子に声掛けてみるか?オレの爵位は準男爵だからごり押しできるかもしれん。
最終手段として頭の片隅に置いとこ。
「そういえばリオンとエドワードはどうなんだよ?最近特待生とばっかいるじゃないか」
ダニエルの言う通り、オレとリオンはあの一件以来オリヴィアさんといることが多くなった。
どちらかと言うとオリヴィアさんから話し掛けてくるので、話の聞き手になる等して普通に接してるだけだけどね。
にしてもオリヴィアさん、マジで頭良いよな。一年で学ぶ内容のほとんどを理解しちゃったし。
「お前達は結婚、諦めたのか?」
「諦めてないよ。招待状出しても無視されてるけど」
「オレも同じく。時間潰しにさえ一回も採用されてないけど」
押し付けられた領地の経営もあったから両手で数えられる程度だけど。
作物育てる為には土壌の改善から着手しないといけないから、藁や肥料、排泄物を土に混ぜ混んで寝かせるところからだし。
ちなみに時間短縮の為に小型の耕運機の形状を職人達に伝えたら、たった半月で試作品を作り上げた時はマジで驚いたけど。
ついでにレンタル費用一日五十ディアで貸し出したら結構繁盛した。特にオレと同じ貧乏な田舎貴族に。
この世界の農業は人力だからなー。耕すのにも時間を要してるからそれを短縮できる耕運機は次第に人気を上げている。販売ではなくレンタルなのも人気が出始めている理由の一つだ。管理や維持費の心配がないから。
「将来独立とか本当に良いことないよ。国に納める税や、その税を稼ぐ為に金を稼がないといけないし。それも一度見込みがなくて放棄された浮島だし」
一度開拓して放棄された浮島だったから、残っていた港や建物を改修して再利用することで下地作りは短縮できたけど。なんでそんな外れをオレに押し付けたのかね?
今は新素材の開発の成功と耕運機のレンタルで軌道に乗れそうだけど。週一の報告でも大きな問題は起きてないようだし。
責任者のシオンさん、マジ有能。
「ホントそれな。俺が見つけた浮島もどんなに発展しても準男爵規模にしかならないのに……」
リオンもリオンで領地経営に頭を悩ませているようだ。
「……これは先輩達から聞いたんだが、婚約するために亜人以外の愛人を認めさせられた人もいたそうだ。跡取りを生んでやるから愛人達の面倒を見ろって……」
話題を戻したダニエルがもたらしたその事実にオレとリオンはもちろん、レイモンドとダニエル本人でさえも俯いた。
本当に女子は好き勝手してるよな。どうしてオレはこんな世界に転生してしまったんだよ。いや、憑依かもしれないけどさ。
ちなみに亜人と言うのはエルフや獣人といったゲームに登場するような種族の人間の総称だ。大抵の裕福な貴族女子はその亜人を愛人として囲っている。立場上は奴隷なのに貴族男子より裕福だから、本当に泣ける。
「そういえば最近、殿下の周りが騒がしいらしいよ」
「アレだろ?マリエって子が随分苛められてるって話」
「あー、それ聞いたぞ。なんかユリウス殿下の婚約者がいじめの中心人物だったとか」
オレがそう言った瞬間、紅茶を飲んでいたリオンが盛大に吹き出した。
「リ、リオン!?」
「いきなり吹き出してどうしたんだ!?」
「い、いや……変なところに紅茶が……」
心配するダニエルとレイモンドにリオンはそう言って取り繕うも、何か考えるような仕草をする。
オレ個人としてはアンジェリカ嬢がいじめの中心にいたとは思えないんだよな。良くも悪くも頭に血が上りやすそうな性格だし。そういう相手は堂々と真正面から何度も文句を言うだろうし。
どうせ取り巻き連中が勝手に動いて、我が身可愛さからアンジェリカ嬢の名を出したんだろうな。
「噂じゃ《剣豪》にも手を出してるみたいだし、そのマリエって女は間違いなく悪女だな」
絶対殿下達の前では猫被ってるだろうな。上手くいけば実家から逃げれて玉の輿に乗れるからな。
「どっちにしろ今は関わらずに静観すべきだけどな。下手に関わったら、結婚の道が遠退くだろうし」
オレのその言葉に、三人は真顔で頷く。
しかし、このまま距離を置いているだけじゃ何かあった時に対処できない可能性もある。
……一応、情報だけは集めておくか。
――――――
時間が経つのは本当に早い。
リオン達とダンジョン行ったりお茶会したり、報告に来た工房の責任者から新しい鎧と試作ブレードが出来上がったと報告を受けたり、魔力の燃費を良くする素材が出来上がったり……
「本当にあっという間に一学期も終わりだな」
『婚活の成果もゼロのままでな。今日行われるパーティーでの婚活も失敗に終わるだろうよ』
「お前も本当に相変わらずだな」
貧乏貴族は本当にツラい。前世では仕事が忙しくて無縁だった婚活にここまで力を入れないといけないとか。
金持ち貴族は女子の方から勝手に近づいてくるし、本当に嫌な世界だよ。
『旧人類は嫌いだからな。その因子の欠片を持っているキャプテンも嫌いだ』
「そのオレとある意味運命共同体だがな。このポンコツ」
『減らず口も相変わらずなキャプテンだ』
本当に相変わらず口が悪い腕輪だよ。
今日行われるパーティーでも婚約者を見つけるチャンスであることは先輩から聞いている。性格の良し悪しは別にして。
取り敢えず、このパーティーでマトモな女子とお近づきになれれば結婚成功の道が近づく。
―――そう思っていた時期がありました。
「……見事に失敗したな」
「……そうだな」
亜人によってパーティー会場から追い出され、婚活に失敗したオレの呟きに同じく失敗したリオンが同意する。
てかもっとマシな男に生まれ変われって何だよ。そっちは性格悪いから残ってるだろうが。
もちろんそんな事は口に出して言えないけど。言えば婚活デッドエンド一直線だし。
「……なんかもう嫌になってきた」
「俺も……女が気持ち悪く感じるようになってきた」
同じく婚活に失敗したレイモンドとダニエル、女子の生まれ変われ発言に相当なダメージを負ってるな。オレは一回転生してるから妙な達観で流せたけど。
「女が嫌になって男に走る男子がいるって噂……入学前は笑ってたけど今は笑えないよね」
レイモンド、その噂は今は止めろ。マジで洒落にならんから。
「本当になんで婚活にここまで悩まなきゃいけないんだ……生涯独身で生きていける世の中だったら間違いなく独身を選んだのに……」
「そうだよな……独身が認められる世の中なら、こんなに惨めな思いをせずに済んだかもな……」
「結婚しなかったら、周りから相当叩かれるのが今だけどな……」
「男……可愛い男なら……」
「しっかりしろダニエル!」
「その道は一度踏み込んだら二度と引き返せないぞ!」
「早く正気に戻れ!!」
本当に危ない道に踏み込みそうなダニエルを三人がかりで呼び戻そうと……
「あっ!エドワードさん!リオンさん!」
した矢先にオリヴィアさんが現れたことで中断し、オレとリオンはそちらへと顔を向ける。
「オリヴィアさん?」
「そんなに慌ててどうしたんだ?」
明らかに何かに慌てた様子のオリヴィアさんの様子にオレとリオンは揃って首を傾げていると、オリヴィアさんはその理由を口にする。
「今会場で大変なことが起きてるんです!マリエさんとアンジェリカさんが……!」
マリエとアンジェリカ嬢が?
明らかに只事ではない雰囲気にオレとリオンはもちろん、レイモンドと正気に戻ったダニエルも共にオリヴィアさんの案内でパーティー会場へと戻っていく。
そこでは、アンジェリカ嬢とユリウス殿下が口論しているところだった。
「どうして分かっていただけないのですか!?私は殿下の為に申し上げているのです!なのに何故……!?」
「お前の話は聞くに堪えない。それだけのことだ」
「その者の性根を知ってなぜ……!どうして受け入れられるのですか!?」
オリヴィアさん曰く、事の発端はマリエがユリウス殿下以外の男と手を繋いでいたことだ。アンジェリカ嬢は激怒してそれをユリウス殿下に訴えたのだが、その殿下は軽く流したのでこうなったのだそうだ。
「お前達は知っているのか!?その女はお前達全員に手を出したんだぞ!」
噂通りあの女、婚約者がいるイケメン五人衆全員に手を出したのかよ。完全に喧嘩売ってるだろ。
てか狙いは一人じゃないんかい。全員落とすとかどんだけがめついんだよ。
「その位知っている」
「な!?」
その訴えも《剣豪》の称号を持つクリスにバッサリ返されたけど。
そのままイケメン五人衆は熱に浮かされたように自分がマリエを一番愛しているという始末。しかも一時の付き合いではないと来た。
確信した。あのイケメン五人衆はどうしようもないレベルで頭の中がお花畑のおバカファイブであることが。
だって婚約者を完全にないがしろにしてるんだぞ。仮に相手を代えるにしても相応の手順等を踏まないと駄目なんだぞ。家の面子をオモクソ潰しにかかってるから、最悪家から絶縁されるぞ。
「恋は盲目と言うが……盲目にも程があるだろ。客観的に見て、アイツが悪女じゃん」
「だよな。後、見てて痛々しいし」
オレの呟きに隣のリオンも同意してるな。ああ、ハーレムって端から見るとこんなに痛々しいんだな。
あ、アンジェリカ嬢が白い手袋をマリエに向かって投げ飛ばした。
「拾え。殿下をタブらかした悪女め」
左手の手袋……完全に決闘を仕掛けるつもりだな。
確か女性は代理人を立てて行うんだが……
「マリエ、大丈夫だ。お前の代理人は俺が勤める」
「私も立候補します」
「面白そうだから俺も参加するぜ」
「僕も参加だ。マリエが悪女だなんて聞き逃せないからね」
「私もマリエの剣として戦おう」
やっぱりおバカファイブが代理人に立候補したよ。
「やっぱり……これ【逆ハーレムルート】だ」
「はあ?またリオンが妙なことを……」
リオンがまた気になることを口走っているが、それよりも今はこの状況だ。
相手は殿下を含めた成績上位者。加えて《剣豪》もいる。そんな面子と戦いたい男子はいないだろう。
実際、取り巻き達はアンジェリカ嬢から顔を背けてるし。
「おいおい。取り巻きにも見捨てられたのか?ここまで人徳がないと同情したくなるぜ」
グレッグは憐れみと侮蔑を含んだ声でそう告げるが、これは人徳以前の問題だろ。
この決闘は殿下に喧嘩を売りに行くようなものだ。最悪自害を強要されかれない状況で名乗り出る相手はいないだろ。
周りの反応も気に食わないしアンジェリカ嬢にも同情するけど、助ける理由もないし自分から喧嘩を売る理由もない。
さて、この状況をどうしたものか……って、リオン?なんで向こうへ行こうとしてんの?
まさか……
「お、おいリオン!?お前まさか……!」
「関わったら駄目だよ!この決闘は勝っても負けても代理人もただじゃすまないんだよ!?下手すれば極刑―――」
ダニエルとレイモンドもリオンが何をするのかに気づいて止めに掛かるも……
「……俺さあ、あいつら嫌いなんだよね」
リオンはゲスイ表情でそう言い切ると、アンジェリカ嬢達の下へと再び歩き始めていく。
「はいはーい皆さん!俺が代理人に立候補しま~す!」
ああ、完全に後戻り出来なくなったなリオン。
さて、オレはどうするか。このまま静観すべきなのか、リオンと同様に動くべきなのか……
「仲裁は……無理だな。軟着陸させる言葉が全然思い浮かばんし」
「エドワードさん……?」
オレが思案している間にもリオンとおバカファイブの話は進んでいく。
決闘は鎧を使った一対一。日付は終業式の翌日。人数はマリエ側が五人でアンジェリカ嬢側は期限までに人数を揃えられるなら五人まで。
……本当に気に食わないな。ジルクは五人揃えられないのを理解してて言ってるだろ。公平を期すならさらに代表決めて一対一の一回勝負にしろよ。いくらリオン本人が良いと言ってもさ。
それでパーティーはお開きになったんだけど……
「おい辺境貴族。バルトファルトの部屋を荒らしてこい。これは命令だ」
終わってすぐ、殿下達の取り巻き数人にリオンの部屋を荒らすように命令された。
これ、絶対にご機嫌とりだよな……
「……わざわざ部屋を荒らす必要はないんじゃないです?後、オレは押し付けられた領地の経営に忙しいですし」
オレはやんわりと断ろうとするも、取り巻き達は不機嫌な表情でオレに詰め寄っていく。
「ああ?準男爵風情が俺達に逆らうのか?」
「そういえばお前はあの成り上がりと同類だったな」
「俺達に逆らった事、後悔させてやるぜ」
取り巻き達はそう吐き捨てると、そのまま帰っていった。
『……キャプテンは本当に阿呆だな。素直に従っていれば、自身の身は安全だったと言うのに』
「嘘は言ってないぞ。後、そんな面倒くさい事に時間割きたくないし」
こうなった以上、取り巻き連中はオレの部屋も荒らすだろうな。
「完全に巻き込まれた以上は仕方ない。オレもリオンに加勢しておバカファイブをボコるか。そうと決まれば早速準備しないと」
絶対、今回の決闘で賭け事もするだろうし。大多数は殿下側に賭けるだろうから、賭けが成立するようにお金も用意しないとな。
『……本当に面倒くさいキャプテンだ』
ハーツが呆れたように呟いているが、無視だ無視。早いとこ工房にも連絡しないとな。
――――――
翌日。
「という訳で、オレも決闘に参加することにしたわ。だからよろしく」
「お前、本当にバカだろ!?」
「全くだ!バルトファルトも馬鹿だが、お前はそれ以上のバカだ!!」
お茶会に使う部屋で決闘参加の有無を伝えた途端にリオンとアンジェリカ嬢から馬鹿扱いされた。解せぬ。
案の定自室は見事に荒らされていたし、ダニエルとレイモンドは暗い顔で謝ってたし。その対価は命令した取り巻きに払ってもらうからな。荒らされた部屋は写真に収めたし。
だからアンジェリカ嬢の決闘辞退しろは却下。取り巻き連中には地獄を見てもらいたいし。
「しかし掛け金をブックメーカーに渡した時は驚いたな。白金貨五十枚がショボく感じられたから」
リオンは白金貨五百枚を全部自分に賭けたんだからな。もちろんオレも賭けるのはリオン側だけど。
案の定、ほとんどの生徒が殿下側に賭けてたからオレとリオンが金を出さないと賭けそのものが不成立になりそうだったし。
「オレは売られた喧嘩は買い叩く主義なんで。殿下達の取り巻き連中にはオレに喧嘩売ったことを心底後悔させてやろうかと。後、婚活に疲れましたし」
「あ、それ俺もだわ。辺境貴族と馬鹿にされたり、身の結ばない婚活に勤しんだりで疲れたし」
そうだよな。あんな性格悪い女から結婚相手選べとか、罰ゲーム以外の何者でもないし。
「お前達の実家はどうするんだ!?」
「そこは大丈夫でしょ。曲がりなりにも独立扱いなので」
「それに俺、強いんで大丈夫です。エドワードの方は知らないけど」
「オレは鎧での戦闘は初めてですけど……何とかなるでしょ。鎧も決闘までにはちゃんと届くし」
ハーツの力を使えば鎧での動きも段違いだし。それは旧式の鎧で確認済みだし。
「何とかなるか!ダンジョン攻略者は頭のネジが抜けているというが、お前達もその類いか!!」
ひっでーな。ちゃんと勝算あるのに信じてくれないとか。でなきゃ関わらないし賭けもしない。
賭け事なんて本来は胴元が儲かるように出来てるんだからな。やるなら金をドブに捨てる気持ちでやらないとな。
「失敬な!俺一人でも勝てる可能性があるから名乗り出たんだ!大体決闘を挑んだのはお前だからな!?」
「お……お前!?い、いや、だからそれを今謝ってるんだろうが!!」
おーおー、端から見たら痴話喧嘩だなー。案外気が合うのか?
しかし、リオンは一人で勝つ算段が付いていたのか。なら此方の勝利は確実だな!
「エドワード!お前はなに他人事みたいな顔をしてるんだよ!?」
「全くだ!お前の命も掛かってるんだぞ!?」
やっぱり気が合うだろ、この二人。
―――決闘当日。
「そんじゃ……【ゼクトール】のお披露目と行くか」
『キャプテンには似合わん名前だがな』
「うっさい」
そのままグレーとダークグリーンの機体が闘技場へと足を踏み入れる―――!
「エドワードが参加しても圧倒的不人気だな」
『人数が追加されてもエドワードはマスターと同じ田舎貴族ですからね。成績も彼らに劣るので当然のことかと』
「あれ見たらエドワードの方がめっちゃ強いけどな」
『直接戦えば間違いなく蹂躙するでしょう。なのでマスター、後の禍根を断つ為にも今すぐあの腕輪を持ち主ごと抹消しましょう』
「だから味方を殺そうとすんな!」