「……ぷっ!」
「ぎゃはははははははっ!何だよあの鎧は!」
「ホンっと、信じられな~い!」
入場して早々、観戦している連中は馬鹿にするように大笑いし始めたな。
まあ、ゼクトールの今の見た目は重装甲の防御型だからな。ついでに装備も腰の試作武器一つだけだし。
『本当にこの
「いいんだよ。操縦に慣れるためにもこっちのアーマーの方が都合がいいし」
特にこのアーマーの内部にはアダマンティアスも使ってるからな。ゼクトール本体の胸部パーツにも採用してるけど。
コクピット周りの守りは最大に。これ重要。
「あれが噂のファーレンガルドが開発した鎧ですか……評価する価値もないですね」
ジルクは完全に舐めくさってるな。見れば他の面子も似た反応だし。
てかグレッグ。お前の鎧は旧型の量産品だろ。何で一緒になって馬鹿にしてんだよ。
一先ず、リオンを待つ意味でもコクピットから降りて外に出ると、顔を険しくしたアンジェリカ嬢に詰め寄られた。
「おいファーレンガルド!この鎧はなんだ!?明らかに流行遅れの片落ちではないか!!」
「大丈夫ですよ。中身は型落ちじゃないんで」
アンジェリカ嬢の怒りを何てことない表情で流していると、オリヴィアさんも近づいてきたな。
「えっと……何でそんなに怒ってるんです?」
……あー、そこからなんだ。
「今は攻撃力とスピードを重視した高機動型の鎧が主流だからな。ゼクトールの今の姿は防御とパワー重視だから弱く見えるってことだ」
「そうなんです?でも、ちょっとずんぐりしてて可愛いと思いますよ」
ゼクトールが可愛い……か。普通はカッコいいと思う筈なんだけどな。鬼のようなアンテナとツインアイだし。
ベースは大人気だったプラモからだけど。頭部にも装甲追加してるのはロマン。
あ、リオンも来たな。鎧はないけど。
「やっと来たかバルトファルト!」
「ファーレンガルドと共にまーけーろッ!!」
うわぁ、めっちゃアウェイだなー。単に賭けで儲けたいだけなんだろうけど。
「「リオン。エドワード」」
あ、最前列にダニエルとレイモンドが赤い紙持ってオレ達を見てるな。二人はオレ達側に賭けたのか。たぶんせめてもの謝罪のつもりなんだろうけど。
ちなみに決闘のルールは若干変更されている。こっちは二人だから交代制を採用させてもらった。充当に行けばリオンは三回、オレは二回だ。
「これがエドワードの鎧か。本当にこれで大丈夫なのか?」
リオンお前もか。
「大丈夫だからこれで来てんの。ていうかリオンの方こそ大丈夫なのか?まだ到着が遅れてるのか?」
「いや、今来たとこだ」
リオンがそう言った瞬間、上空から巨大な黒い匣が落ちて来た。それも地面にぶつかる前に勢い殺して軟着陸したけど。
そんで中から現れたのは……ゼクトールよりもずんぐりとしたデカイ黒い鎧だった。バックパックらしきコンテナもデカイ。たぶん彼処に武器を収納してるんだろうな。
「あっはっはっはっはっは!バルトファルト、お前もかよ!」
「二人してあんな鎧で挑むなんて、貧乏貴族って本当に酷いわね~」
「もう殿下達の勝ちは決まっただろ!!」
ずんぐり二連発で大多数の観客達は殿下達の勝ちを確信して舞い上がっている。逆にオレらに賭けた方は項垂れている。
まあ、それよりも。
「おいこらリオン!人の鎧を心配しときながら自分はこれか!?完全に文句言える立場じゃねぇだろうが!」
「うっせぇ!アロガンツの性能は折り紙付きだ!お前の鎧よりかは余程頼りになるわ!見た目はめっちゃ良いけど!」
ゼクトールを貶しながら褒めんな!やるなら褒めるだけにしろ!
まあ、これで此方の準備も終わったな。
「予定通りリオンは奇数、オレ偶数でいいよな?」
「ああ。元々俺一人でやる予定だったし」
リオンはそう言ってアロガンツのコクピットへと搭乗する。オレもそれに続くようにゼクトールに搭乗して備えておく。
『あの鎧……旧人類の遺物だな!キャプテン!今すぐあの鎧を破壊するぞ!!』
「味方を殺そうとすんな。このポンコツ」
興奮しているハーツに、オレは冷めた目を向けながらハーツをコクピットへとガンガン打ち付ける。
こうやっても爆発する心配はないからな。本当に無駄に頑丈だから。
『自分をぞんざいに扱うな、キャプテン!』
「お前がふざけたこと言うからだろ……旧人類の遺物ってことは、あの鎧は科学の結晶か?」
『ああ。人工知能を搭載した巨大兵器に対抗するため、制御を離れたモンスターの排除目的で開発していた兵器をそちらにシフトさせた兵器が【魔装】だからな』
うーん、こう聞くと本当に説得力あるよな。実際、あの状態だとモンスターを簡単に倒せてるし。
「それなら魔力切れによるガス欠の心配はないな。オレの方はお前を使えばガス欠知らずになるし。起動時にごっそり魔力取られるけど」
『贅沢を言うなキャプテン。そもそも起動時に使う魔力量で出力が変わるのだから文句も言うな』
本当にコイツは口が減らないな。
「ちなみに性能的にどうなんだ?」
『……不本意だが、現行の鎧でアレに勝てるものはないだろう。勝てるとしたら同じ鎧か自分の力でブーストした鎧だけだ』
「最後の方は単なる負けず嫌いなだけだろ」
まあ、単体で勝てると言わない辺り、ちゃんと能力差は把握してるだろうけど。
「じゃあ、リオンの負けはまずないと見ていいな。例えるなら大人と子供だからな」
『だろうな。旧人類の兵器は本当に面倒極まりなかったからな』
それ、盗まれた時の評価だけだろ。
『しょ……勝者……バルトファルトォォ!!』
あ、ハーツと話している内に試合が終わった。
地面に転がっている相手の機体はブラッドが駆るやつで、リオンの武器は……スコップ?
「何でスコップなんだ?」
『知らん。大方、試運転で使っていたのをそのままにしていたんだろうよ』
まあ、スコップでもいいか。あれなら事故死も早々に起きそうにないし。たぶん。
メイスやハンマー等の鈍器はブレードやライフルと比べて加減が効かないから、この決闘では使えないけど。オレ自身の技量の問題もあるし。
『エドワード・フォウ・ファーレンガルド。グレッグ・フォウ・セバーグ。両者、前へ』
あ、審判に呼ばれたな。リオンも下がったし行くか。
「そんじゃオレも頑張って続くとするか」
『お前が負けても、俺が全部勝つから気楽に行ってこい』
嬉しいねえ。ま、負けるつもりはないけど。
相対するグレッグの鎧は……表面に結構傷があるな。結構使い込んでるのか?
『ファーレンガルド……だったな。お前を速攻で叩きのめして、そのままバルトファルトも潰してやる』
おーおー。オレなんか眼中にもないってか?
「意気込むのは勝手だけど……さすがに失礼じゃないか?」
『減らず口はバルトファルトと同様に一丁前だな。すぐに実力差を思い知らせてやるぜ!』
あー、そうですかー。
「ハーツ。魔装を部分展開。動体視力と反応速度強化で」
『了解だ。キャプテン』
その鼻っ面をへし折るとするか。
『両者、始め!』
――――――
『おらぁ!どうした!?減らず口を叩いた割にその程度か!?』
グレッグは果敢に槍を振って攻めてるのに対し、エドワードは腰の武器も抜かずに防戦一方。
……いや、敢えて防御に徹しているな。
「ルクシオン。あれ、どう思う?」
『鎧での動きに慣れる為に敢えて防御と回避に徹してますね。向こうは鎧での戦闘経験が豊富ですが、エドワードの方は皆無と言っていいですからね』
だよねー。グレッグの攻勢が盛んだからパッと見分かんないけど、エドワードはグレッグの攻撃を全部受け流してるし。
『加えてあの暗緑色の着脱式の装甲内部には、この世界のファンタジー金属―――アダマンティアスが仕込まれています。アロガンツに使われている金属以上の硬度なので、仮にマトモに攻撃を受けても鎧本体へのダメージはほぼないでしょう』
「……エグいな」
アロガンツより硬い金属を使った装甲とかズルくね?あの鎧、ある意味アロガンツよりチートなんじゃね?
『ま、機動力、攻撃力はアロガンツより劣るので負けはしませんが』
「何しれっと対抗しようとしてんだよ、お前は」
『当然です。マスター、そろそろエドワードが動きますよ』
――――――
だいぶゼクトールを動かすのに慣れてきたな。ハーツのおかげでグレッグの攻撃も簡単に見切れるし。
それにしても……何で向こうにとっても大事な決闘で旧型の鎧を持ち出したんだろ?一応聞いてみるか。
「何で旧型の量産品の鎧で決闘に挑んできたんです?差し障りがなかったら理由を聞かせてもらっても構いませんか?」
どうせ流されるだろうと思ってたら、グレッグは意外にも律儀に答えを返してくれた。
『装備に頼るのは三流で騎士じゃない!!一流の騎士なら装備に頼らずとも勝てる!!』
酷い持論からずっこけそうになったが。
装備に頼るのが三流だから旧型の鎧で戦うとか……戦いを舐めてるとしか言い様がない。
『典型的な脳筋タイプだな。戦争では真っ先に沈むタイプだ』
ハーツにまで酷評されてるよ。その言葉には同意するけど。
「……取り敢えず、そろそろ終わらせるか」
オレはそう呟いて、ゼクトールの腰にマウントしていた武器を引き抜く。
その武器は……チェーンソーモドキだ。原理としては魔力で歯車を動かして回転させるだけだけどね。
剣を満足に振れないなら、勝手に斬れるようにすれば良いよね!という考えから実行したんだけど、シオンさんを筆頭とした職人達には本当に頭が上がらない。
ちなみに素材は普通に流通している金属しか使ってない。まだ実験段階だし。
『何だそれは?それだとバルトファルトのスコップの方が、よっぽど強そうに見えるぜ!』
完全に舐めてるなー。ま、チェーンソーなんてこの世界にはないから当然の反応なんだけど。
『そらぁ!』
グレッグの気合と共に突き出された槍をオレは体捌きで簡単に避け、そのまま突き出された右腕を左腕でホールド。
そのまま回転を始めたチェーンソーモドキで切断し始めていく。
『なっ!?』
けたたましい金属音と飛び散る火花を見たグレッグは驚愕の声を上げ、何とか抜け出そうと暴れ始める。
そんな事をしたら当然、切断中の箇所にダメージがさらに入ってボキリと折れたけど。
ついでに槍も半分になったからグレッグは一気に形勢不利。最初はグレッグの奮闘で賑わっていた観客も言葉を失ってしまっている。
『くそっ!』
グレッグはそう吐き捨て左手で殴り掛かってくるが、ハーツによってグレッグの動きは簡単に視えているので左手で難なくキャッチ。そのまま流れるような動作でチェーンソーモドキを振るって左腕も切断。
グレッグの鎧は両腕を喪ったので、普通に考えればここで負け……
『まだだ!まだ脚が残っている!』
グレッグは諦め悪くそう叫ぶと、右足を円を描くように振るってきた。
それを装甲で覆われた左腕で受け止めると……
『……なっ』
所々にヒビがあった右脚はヒビが広がってそのままボッキリ。そのままバランスを崩して地面へと転がってしまう。
なんせアダマンティアスも使った追加装甲だからな。旧型の、それも修繕が繰り返されている鎧が敵う相手じゃない。
『てめえ!俺をいたぶる為にわざと手を抜いていたのか!?』
グレッグがキレ気味に叫んできたな。一応、訂正しとくか。
「そんな訳ないでしょ。オレは鎧での戦いは今回が初めてだったので、動作に慣れるまでは防御に徹していただけです」
『つまりその鎧のおかげで有利に戦っていただけか!どっちにしろてめえは騎士の風上にも置けない奴だな!』
ええー?さすがにそれはないだろ。
「その言い訳は酷くないですか?」
『……何だと?』
グレッグの声には苛立ちが籠ってるが、オレは構うことなく言葉を続けていく。
「最初に入った時、貴方もゼクトールを馬鹿にするような目で見てたでしょ。それで自分が不利になると鎧のせいにして批判するとか……筋が全然通ってないでしょ」
そもそも最初から防御に徹している時点で何かあると警戒くらいはする筈だ。それをしなかったということは、相手を完全に侮っていたとしか考えられない。
「相手を侮った結果がこれですから……今回の件を反省して潔く負けを認めてください」
『ふざけるな!』
もう勝負は着いたので降伏勧告したら、グレッグ逆上。何を思ってか鎧から降りて半分となった槍を担いできた。
「俺は負けない!!こうなったら……生身で死ぬまで戦ってやる!!」
「審判。ぼうっとしてないで早く仕事してください。これはどう見ても向こうの負けでしょ」
グレッグの阿呆極まりない宣言を無視して、オレは仕事しない審判に抗議の声を上げる。
「無視するなファーレンガルド!俺はまだ負けていない!」
「いや素直に負けを認めてくださいよ。これ以上は貴方達と同じ弱いものいじめとなってしまうので」
あ、思わず本音が出てしまった。
「……弱いものいじめだと?俺達がいつそんなことをした!」
自覚なしかい!と即座にツッコミたかったがグッと堪えた。
取り敢えず、ちゃんと説明してやるか。
「だってそうでしょ?ユリウス殿下が決闘に出る時点で相手は何も出来なくなるんですよ?相対した時点で勝敗関係なく人生が詰むのに、そこにぞろぞろと有力貴族様達が殿下側に参加するんです。これが弱いものいじめじゃないなら何て言うんですか?」
自分で言って改めて過剰戦力だと改めて実感する。分かってて突撃したんだけどね。
「せっかく何で言っときますが、オレはこの決闘に参加したのは貴方達の取り巻き達への復讐の為です。決闘当日まで露骨に嫌がらせを続けていましたからね。それも自分達の手を汚さずに辺境貴族に命令して。それも貴方達の指示なんでしょうけど」
そう言って、オレは見せしめとばかりに荒らされた部屋の写真を紙吹雪のようにばら蒔く。オレの部屋だけでなく、リオンとアンジェリカ嬢の荒らされた部屋の写真もだ。もちろん二人から許可は取っている。
「ざけんな!俺達はそんな指示なんざしていねえ!」
でしょうね。取り巻き達が勝手にやったことだからな。
けど、そこは重要じゃないんだよ。
「でもそちらはアンジェリカ嬢が指示していないと言っても、全く信じなかったそうですよね?貴方達でさえその言い分を信じなかったのに、実害があった本人に指示してないと言って信じてもらえると本気で思ってるんですか?」
オレのその返しにグレッグだけでなく、殿下達でさえ苦虫を噛み潰した表情になっている。見事なまでのブーメランだからな。言い返したくても言い返せなくて当然だ。
「なら真偽を確かめる、何て言うのもナシですよ。どうせ取り巻き達は実行役も脅して口裏合わせるでしょうから」
前世ならボイスレコーダーや隠しカメラ等で証拠をガチガチに固められるんだが、この世界にはないからな。だからこうやって公開処刑して針の莚にする。
「ヴッ……グ……ッ……クソッ……クソォオオオオオオッ!!」
ひとしきり言い終えたら、グレッグが逆上して持ってた槍でゼクトールの足を叩き始めた。
八つ当たりとかマジないわー。
『しょ、勝者ファーレンガルド!グレッグ・フォウ・セバーグは下がりなさい!両者の健闘に拍手を!』
やっと審判が仕事したか。もっと早く仕事しろよ。
一応勝負が着いたのでまだ発狂しているグレッグを無視して壁際まで下がっていく。
「おーおー、観客席の何名かはめっちゃ顔逸らしてるな」
『加えて顔色も真っ青だ。最悪の未来を想像しているのだろう』
この時点でも十分にオレ個人の目的は果たせたな。取り巻き達はオレ達が勝てば地獄へ一直線だ。在学中は周りから白い目で見られるだろうからな。
「そんじゃリオン。第三試合頑張れ」
『……俺、お前のことがめっちゃ恐い』
リオンがオレに恐怖してるけど心配しなくていいぞー。余程な形で喧嘩売らない限り買いに行かないからさ。
ちなみに教員二人によって、両腕を抱えられて生気を失ったようにぐったりしているグレッグの後ろ姿は哀愁が漂っていた。
「エドワードのやつ……この為にわざわざ荒らされた部屋を写真に収めたのかよ」
『実に合理的ですね。相手にダメージを与えつつ怨みの矛先を誘導してますから』
「しかも質が悪いことに全部事実だし。アンジェリカさんも手で顔を覆って項垂れてるし」
『特にあの二人からしたら耳が痛い話でしょう。似たような出来事を糾弾したのですから』
「……俺、エドワードには喧嘩売らないでおこ」
『心配なさらずとも大丈夫です、マスター。敵対した時点で腕輪ごと塵にしますので』