リオンより後に学院に到着したオレは、リオンかジルクのどちらかと合流して教室に行こうとして……酷い怪我を負ったジャンを肩に担いだリオンと鉢合わせした。
「……一体何があった?」
「実はな……」
オレが説明を求めると、リオンは保健室に向かいながらことの次第を教えてくれた。ルクシオン関連はジャンがいるから伏せた状態で。
学院に来てすぐ、騒然としている場所に向かうと蔦で木に磔にされたジャンを見つけたとのこと。実際はルクシオンの報告を受けて急いで現場に駆けつけたんだろうけど。
そのジャンを痛めつけて磔にした人物が、六大貴族の子息【ピエール・イオ・フェーヴェル】。例の乙女ゲームとやらの重要人物が見せしめとしてやったとのこと。
ピエールは典型的な共和国至上主義で、周りの取り巻き達と一緒に露骨に挑発してきていたとのこと。
そして、リオンは嫌味の一つも言わずにピエールを見逃してジャンの介抱の為に保健室に向かっていたことも。ゲームシナリオの重要人物だからというのもありそうだけど。
「しかし、俺も最低だよな。ジャンがこんな目に合ったのに、何一つせずに見逃したんだからさ」
「そう卑下しなくていいだろ。反撃はやられてすぐにするより、相手に圧倒的に非がある時に何百倍にしてやり返す方が、時として効果的になる場合もある」
リオンの自虐にオレはそう返す。
この分だと、リオンの船であるアインホルクにまで手を出してきそうだな。一応、マリエたちにも向こうの挑発に乗らないように改めて釘を差しておくが……十中八九、無意味に終わるだろうな。単にマリエたちが浅ましいからじゃなく、ピエール達が卑劣な手を使って我慢の限界を迎えさせる意味で。
何せ《紋章》とやらであっちが圧倒的に優位に立てるからだ。《紋章》の力の子細も分からないし、何が出来て何が出来ないのか、中身が不透明のままだしな。
それでもあっちが外交問題になるレベルで仕掛けてきたら……フェーヴェル家には地獄を見てもらうとしよう。息子の横暴を止めない、逆に焚き付ける輩に与える慈悲は微塵の欠片もないからな。勿論、仕掛けた張本人には死んだ方がマシと思えるくらいの絶望のある地獄をプレゼントするけど。
「……お前、やっぱり相当腹黒いよな。かなりスカッとしそうだから乗るけど」
リオンはオレの顔を見て軽く引いていたが、乗っかる気は満々のようだ。リオンもやられっぱなしは性に合わないし、泣き寝入りは論外だろうし。
さーて、学院が終わって屋敷に帰ったら、向こうがどう動くか、こちらはどう動くか、根回しはどうするかの、楽しい楽しい悪巧みの会議に没頭だ。破滅のスイッチ作りの下地は、事前に作ってあるからな。ミレーヌ様に公爵閣下、バーナードさんにも、もし外交問題レベルで向こうがやらかしたら、戦争に発展しない程度には反撃していいと許可を貰っているし。
『本当にキャプテンは平常運転だな』
『エドワードの腹黒さは、上方へと修正しておきましょう』
ハハハ。君たちだって、一方的にやられるのは嫌だろう?どうせ、ノリノリで報復に参加するだろうしいいじゃないか。
ピエールとフェーヴェル家への報復を決めつつ、ジャンを保健室に寝かせて教室に入ると……クラスの生徒たちはオレ達に気付いた瞬間、蜘蛛の子が飛び散るかのように離れていった。
「一気に腫れ物扱いだな……」
「慣れてるから別にいいだろ」
実際、王国の学園でも腫れ物扱いで恐れられていたし。それにオレは、前世でも腫れ物扱いされていたし。
こうなると、ノエルとティアにも此方から話し掛けない方がいいか……二人がピエールの見せしめのターゲットにされない為にも、その方が安全だろうし。
その肝心の二人はというと……
「ジャン……大丈夫かな?」
「治療にもお金が掛かるみたいっすし……ワンちゃんのノエルの世話だって、私達じゃ厳しいっすし……」
「そうだよね。ウチはペット禁止だし……ティアの暮らしている孤児院も、金銭的にペットの面倒を見れる余裕もないし……」
ジャンの心配と、ジャンが飼っているらしい犬の心配をしていた。ワンちゃんって言ってたし。
てか、犬の名前が【ノエル】なのか……同じ名前って偶然なのか意図的なのか分からないけど。
「……なあ、エド」
「そんな目でオレの方を見るな。後、そこまでオレは非情じゃない」
リオンが物凄くオレを見てきたので、オレは呆れ混じりで言葉を返す。せめてもの罪滅ぼし―――ピエールへの報復が実現できない場合を考えてからか、ジャンのペットの面倒を見たいと暗に伝えてきた。屋敷にはヘルトラウダもいるし、面倒を見る点で言えば最善とも言える。
それに、このまま見て見ぬふりは気分も悪くなるしな。
「なあ、二人とも。そのジャンのペット……俺達で預かろうか?滞在先の屋敷には使用人もいるし、世話には困らないと思うんだけど」
「え?本当にいいの?リオン」
「私達には願ったり叶ったりっすけど……本当にいいんすか?」
「いいんだよ。被害を被ったジャンに、せめてもの償いもしたいし」
リオンが話を着け、放課後にジャンのペットのノエル……ワンコのノエルでいいか。ワンコのノエルを引き取りに、二人の案内でジャンの住まいに行くことになったのだが……
「遅いな、二人とも……」
待ち合わせの場所に、ノエルとティアはまだ来ていなかった。何かトラブルでも起きたのか?
――――――
……さ、最悪っす。
「何でアイツが彼処にいるのよ……彼処を通らないと、リオンたちがいる待ち合わせ場所にいけないのに……」
「話を盗み聞きされてたみたいっすね……」
いつもなら別のルートや遠回りをして躱していたっすのに、今日に限ってはジャンっちのワンちゃんのことがあるからそれも出来ないっす。ピエールの件もあって人気を避けた場所で落ち合おうとしたのが、完全に裏目に出たっす。
『待ち合わせ場所は不適切だと進言したのに、それを聞かなかったマスターの自業自得だ』
本当にその通りっす。でも、あの流れじゃ他の場所なんて提案できないっすよ!ピエールに目を付けられないようにしないといけなかったっすし!
「こうなったら仕方ないっす……窓から飛び降りるっすよ、ノエっち」
「そうだね……もうそれしか……」
スカートとか、高さとか、色々と問題があるっすけど、仕方ないと割り切るっす。アイツ―――ロイクからノエっちを守るには、それしかないっすから。
そうと決まれば、善は急げっす。窓を音を立てずに開けて……
「―――そこにいたか。ノエル」
その声が聞こえた同時に振り返ると、ノエっちがロイクに肩を掴まれていたっす。そのままロイクは、ノエっちを突き飛ばして廊下に倒したっす。
ま、まずいっす。これじゃ、逃げられないっすよ。立ち上がって窓に向かうより先に、ロイクに再び捕まる方が早いっす。
「くっ……!何のつもりよ、ロイク!?」
「何のつもり、だと?それは俺の台詞だ。お前、そこの女と一緒に男の家に行くそうだな。それも留学生と一緒に」
ロイクは言葉に圧を載せながら、まだ倒れてるノエっちに詰め寄っているっす。
やっぱりあの時の会話を聞かれてたっす……!ラプっちのおかげでロイクの居場所を常に把握して、先手を打って避けていたっすのに……待ち伏せで捕まるなんて、情けないっす。
「お前も動くなよ?散々俺とノエルの邪魔をしたんだ。ピエールが嬲った、あの男と同じ目に合わせてもいいんだぞ?」
「……ッ」
ロイクはそう言って、本気だと言わんばかりに右手の《紋章》を見せてくるっす。私は没落貴族だからか、《紋章》なんてないっすし……仮にあってたしても、六大貴族の《紋章》には敵わないっす。
「ティアにまで手を出さないでよ!ティアは関係ないでしょ!?」
「勝手な行動をしているお前がどの口で言っているんだ?お前は俺の女なのに、あの女と一緒に逃げ回るのが悪いんだからな」
でも……やっぱり、ノエっちを見捨てたくないっす。ノエっちと話して、この世界はゲームじゃなくて、現実だって思ってるんすから。
私は意を決して飛び込もうとして―――強い衝撃が身体を叩き付けたっす。
「ティア!」
「本当に馬鹿な女だ。俺が脅しで言ってるとでも思ったか?」
ぜ、全身が痛いっす……!でも、こんな痛み、前世での虐めで蹴られ続けたあの時より、ずっとマシっすよ……!
『私がロイクに高圧電流を流して気絶させましょうか?それならこの場は逃げられますよ』
それは駄目っす。それをしたらラプっちの存在がバレてしまうっす。そうなったら、逆に悪化しかねないっす。最悪、院長とチビたちにも迷惑が被るっすから。
「まだ俺に逆らうのか?どうやら、まだ立場が理解出来ていないようだな?」
「止めてロイク!これ以上、ティアに手を出さないで!」
「だったら、素直に俺の女になれ。ノエル。そうしたら、ピエールの件も含めて俺がお前を守ってやるよ」
「……本当に最低ね!」
ノエっちが軽蔑した言葉をぶつけたっすけど、その当の本人は嫌悪感しか感じない笑い声を上げるだけで全然響いてないっす。
本当に最低な男っすけど、早く逃げてほしいっす。私は、こういうのには慣れて―――
「―――ハゴォッ!?」
突然、ラプっちと同じ端末の球体がロイクの顔面にぶつかり、碧い水晶みたいな石がロイクのアソコに命中したっす。
あ、アレは凄い痛そうっすね……ロイクもソコを押さえて悶絶してるっすし。
それで、ロイクに攻撃した下手人は誰かと言うと―――
「ストラーイク……」
「ジャストヒーット……」
王国からの留学生であり、私と同じ転生者のリオンさんとエドワードさんだったす。
――――――
ルクシオンの報告で駆けつけたけど、本当に酷かったな。二人が男子生徒……十中八九ロイクに絡まれていたのだから。
ロイクのストーカー化はラプラスの情報通りに末期だったし、あれじゃ監禁エンド一直線なのも確かに納得だわ。どう見ても何かしらのドラマで見た、部屋に閉じ込めて支配しようとする典型的なDV野郎にしか見えないし。
それに、王国の騎士道は女性を守るのが当たり前だしな。だから、ティアとノエルを守るために攻撃させてもらった。いざとなれば、二人を抱えて逃げればいいし。
『キャプテン。何故自分をアヤツ同様に投げ飛ばした?』
「魔法を使うよりそっちが早かったし、一番効果的だからだけど?」
股間へと投げつけられて怒り心頭で声に怒気が籠っているハーツに、オレは悪びれることなくそう返す。
魔装を制服の下に一部展開して、身体強化してからの投擲の方が魔法のドンパチより誤魔化せるしな。魔法よりも平和的アピールもできるし。魔法と物理的な投擲なら、投擲の方がまだ安全と取られるしな。
『自分の扱いが雑になっていないか?』
「丁寧な扱いした覚えはないんだけど?」
『本当に腹立たしいキャプテンだな!少しは自分に敬意を払え!』
外したら爆発するのに何言ってんの?頼りにもしてるし、信頼もしているけど。ルクシオンもリオンからの扱いに文句を言ってるけど、そっちの方が手っ取り早かったから仕方ないだろ。
「!二人とも、早く逃げるっす!」
「そいつは六大貴族―――《紋章》の力を使う気よ!!」
ティアとノエルの警告と同時に、片膝をついて起き上がっていたロイクが右腕を弓形に引き絞った体勢で何かしらの法陣を展開している。
魔法障壁の展開は……普段よりやりづらい?少し集中しないと不発に終わりそうだ。
「くたばれ!王国風情共!!」
ロイクが右腕に溜まった力を放とうとし、オレが防御障壁を強引に展開―――しようとした瞬間、リオンでもノエルでも、ティアでもない第三者がオレより早く、防御障壁らしき法陣を展開してロイクの攻撃を防いだ。
「ル……ルイーゼ!?」
驚愕するリオンの言葉通り、ロイクの攻撃を受け止めたのはルイーゼさんだ。どうして彼女が此処に……?オレもルイーゼさんの介入に驚く中、そのルイーゼさんはロイクに真正面から対峙していた。
「退きなさいロイク!私を怒らせるつもり!?」
「ルイーゼ……何故俺の女に手を出したクズ共を庇う!?」
「俺の女って、そこにいる尻のデカイ女のこと?だとしたら、妄想と現実の区別もつかないのかしら?」
尻のデカイ女って……ノエルのことを言っているのか?あの時の嫌味で返す辺り、ノエルへの印象は変わらずマイナス方面か。
だとしたら……どうして彼女はノエルを庇うような真似を?彼女はノエルが実家が滅ぼした家の娘であることを知らないのか?いや、それ抜きでも嫌味をぶつける相手を庇うような言動はしない筈。さっさと引き取れとでも言いそうなんだが……何か、事情があるのか?
「それともこのまま続けて、問題を大きくする?家同士の話なら、不利になるのは貴方の方よ」
「くっ……」
ルイーゼさんの脅しに、ロイクはこれ以上は自身が不利と悟ってか、攻撃を止めると忌々しそうにオレ達を一睨みする。
「……ノエル、忘れるなよ。お前は俺を選ぶしか、選択肢はない」
最後にそれだけ告げると、ロイクはその場から立ち去った。
……一応は何とかなったか。また面倒なことになったけど。いや、それも承知の上で介入したんだけど。
「厄介な相手を敵に回したわね、リオンくん。それにエドワードくんも」
「ご心配頂きありがとうございます。ですが、もう今更ですよ」
「ええ。アイツ……ピエールの奴が既に俺らを目の敵にしてますし、一人二人増えたところで本当に今更ですよ」
ルイーゼさんがオレら……特にリオンを心配しているが、本当に今更だしな。それに、あのまま見なかったフリをするなんて出来なかったし。
「それでも、よ。さっきの私達の力を見たでしょ?《聖樹の加護》……この力がある限り、敵対するのは無謀としか言えないわ」
「じゃあ、なんで私達を助けたのよ?」
「別に貴女と子馬を助けたわけじゃないわ。リオンくんのためよ。ついでにエドワードくんも」
……う~ん。本当にルイーゼさんは何でリオンを気にかけているんだ?リオンに共和国のツテなんてなかった筈だし、仮にあったらとっくの昔に共和国に亡命しているだろうし。
オレがオマケ扱いなのは、敢えてスルーするけど。
「……どういうこと?リオン」
「いや……俺にもちょっと……」
ノエルがムッスリと不機嫌そうにリオンに問い掛けたが、リオン本人でさえ全然分からないからな。強いて可能性を上げるなら……一目惚れか?聞いていいか、本当に悩むぞ。
取り敢えず、まだ倒れているティアに手を貸すか。
「お前も大丈夫か?」
「だ、大丈夫っすよ……これくらい、一日経てば治るっす」
「それ、治らない常套句だろ」
ティアの言葉に、オレはそうツッコミを入れてしまう。あの後輩も全身痣だらけなのに、一日したら大丈夫とか言ってたし。
何か最近、前世絡みの記憶が掘り起こされるな。平民も通っている学院の空気のせいなのか?王国の学園じゃ、そう振り返らなかったのに。
「そ、それより……何で手を出したんすか?揉め事を起こしたら、大変になるのはそちらっすのに……」
「まあ、そこは……王国の騎士道精神ってやつ?女性が困っていたら助けるのが、王国の常識なんで」
ちょーっと前までは悪用されまくっていたけど。典型的な女性ファーストで、男子の尊厳はゴミ以下の扱いだったけどね。
『その騎士道精神とやらとキャプテンは無縁だろう。女性相手でも、躊躇なく地獄に落とすのだからな』
うっさいぞ、ハーツ。人を嵌めて落とそうとした相手なんだから別にいいだろ。
「ちょっと!?何考えているのよルイーゼ!!あんた、ラウルト家のお嬢様でしょ!?」
ん?ちょっと目を離した隙に、リオンがノエルとルイーゼさんの二人に挟まれてるな。しかも、腕にしがみつかれた状態で。端から見たら、男の取り合いじゃないか。
「そそそ、それに両親に合わせるって……」
「ば……馬鹿!勘違いしてんじゃないわよ!」
え?ルイーゼさん、リオンをご両親に合わせようとしているの?勘違いって言ってるけど、色々とおかしくないか?ルイーゼさんの思惑が全然分からん。王国との関係強化なら、リオンよりユリウスの方がいい筈だし。中身はともかく、外面だけなら優良物件と変わらないし。実際は白蟻同然の不良物件だけどな。
というか、この光景。アンジェ嬢が見たら烈火の如くキレるんじゃないか?一度、浮気で裏切られているから特に。知られたら本当に一大事だぞ。冗談でもなく、マジで。
「ちょっと用事があるだけよ!」
「用事なら、私もリオンにあるんだけど!?」
ルイーゼさんとノエルがリオンの取り合いを本当にしているなー。当の本人は凄く困惑しているけど。
ラッキースケベに取り合い……完全にギャルゲの主人公になってないか、リオン?自称モブなのに、置かれている環境が主人公のそれになってるぞ。再起不能のダメージになりそうだから、絶対に言わないけど。
「おい!助けろルクシオン!」
『#浮気中なう#修羅場』
「確かに……これは修羅場っすね……」
リオンの助けを求める声にルクシオンは無視。さっきの野球ボール扱いを根に持っているな、こりゃ。
というか、ルクシオンとハーツに対してのツッコミが一切ないな。ティアはまだしも、ノエルとルイーゼさんがガン無視レベルで一向に気にしていないし。
『見て見ぬフリ。異性と良好』
「お前も何呟いてんの?」
とにかく……ジャンの犬を早く迎えに行きたいんだけど?あんまり待たせると、ワンコのノエルにも悪いし。
「あのー……すいませんが、そろそろジャンの家に向かいたいのですが……ワンコのノエルも待っていると思うし……」
「そ、そうそう!ジャンの犬を早く迎えに行かないといけないし!」
「あ、ああ!アイツの犬を早く引き取りに行かないと!」
「そ、そうなの……それなら、仕方ないわね」
本当に用事があったので、ルイーゼさんは仕方ないと引き下がってくれた。そうしてノエルとティアの案内でジャンの家に行き、ワンコのノエルを連れて屋敷へと戻ってきた。
「お帰りなさいませ、リオン様。エドワード様。随分と遅いお帰りでしたね。それで、そちらの方々は?」
「学院の知り合い。それと、入院する事になった男子の飼い犬の面倒を見ることになった」
「ふーん……そうなのですか……」
オレがそう答えると、ヘルトラウダの視線が冷たくなった気がした。割合としてはリオンの方が大きい気がするけど。
「アハハ……本当にゴメンね。私もティアも、ウチでこの子の面倒を見れないから……」
「お気になさらず大丈夫です。それと、自己紹介が遅れましたね。私はこの屋敷で使用人として過ごしている、ラーダと申します」
ヘルトラウダはそう言って、ノエルとティアに頭を下げる。うーん、少し前まで使用人に世話をされていた人物とは思えない程、使用人としての態度が自然だな。この学習能力の高さ、少しでもいいからおバカファイブに分けられないかな?
「ラーダちゃんね。私はノエルで、こっちはティア。よろしくね」
「よ、よろしくっすー……ちなみにっすけど、そのワンちゃんの名前はノエっちと同じノエルっす」
「同じ名前ですか……それでしたら凄い偶然ですね」
ノエルは気さくに、ティアは少し堅めでヘルトラウダと話しているな。まぁ、ラプラスのマスター疑惑のあるティアなら、ヘルトラウダのことも知っていても不思議じゃないけど。
それでも露骨に態度に出さない辺り、事前に知っていたかもしれないな。おかげで余計なトラブルにならなくて済んだけど。
(本当にヘルトラウダがいたっすよ!見た目は私が知るより幼いっすけど、何で髪を切って眼鏡も掛けてるんすか!?後、ラーダって偽名も安直っすよ!!)
ヘルトラウダと初対面したティアの心の叫び。