てな訳でどうぞ。
リオンがラウルト家との食事へと赴き……ノエルの機嫌が悪くなっていた。
いや、ラウルト家に好印象なんてないから当然なんだけど。嫌悪というより拗ねてる感じだけど。
「の、ノエっちー……今回は仕方ないっすよ。国のトップのお誘いを蹴るのは、マズイと思うっすし……」
「言わなくても分かってるわよ、ティア」
ツーンとした態度でティアの宥めにも素っ気ない態度をノエルは取っている。これ、どう対応したらいいんだ?
「せ……エドっちからもお願いするっす。婚約者がいるっすから、ご機嫌取りもできるっすよね?」
「婚約者がいるだけで出来ると思うな」
そもそも、オレは自他共に認めるヘタレなんだぞ?後、リオンへのリオっち呼びもそうだが、エドっちって何なんだよ?語呂が無駄に良いのが少し複雑だけど。
『全くだぞ、小娘。このヘタレなキャプテンが気の利いた台詞が言えると思うのか?』
『乙女心は万事において、最も難解なものであると記録されています。同性でも最適解を見出だせないのに、異性に最適解を求めるのは愚の骨頂です』
相変わらず貶める時だけは足並み揃えるよな。ハーツもラプラスも、不倶戴天の敵でいがみ合っているのにな。
「え?エドワードって婚約者がいるの?」
「ああ、いるよ。オレにはもったいない素敵な女性だよ」
実際、リビアはオレにはもったいない女性だし。ヤンデレの疑惑はあるけど。
「そうなんだ……あ、あのさ。もしかして―――」
ノエルが何かを言おうとしたタイミングで、屋敷の玄関にある鐘の音が鳴る。
このタイミングで誰なんだ?おバカファイブ……はマリエが帰っていったからまずないし、連絡役となったディアトリー先輩が来るのは明日だし、本当に誰なんだ?
「誰なのでしょうか?すぐに確認―――」
ヘルトラウダが確認に行こうとした直後、玄関の扉の開く音が聞こえてくる。
え?鍵はちゃんと掛けていたよな?リオンが忘れ物をして帰ってきたのか?いや、それなら鐘は鳴らさない筈―――
「え?不法侵入っすか?」
『みたいですね。玄関の鍵は《紋章》の力とピッキング技術の合わせ技で外したようです』
完全に不審者だろ!てか、堂々と正面から不法侵入するか普通!?つーか、《紋章》持ちなら貴族だよな!?何で貴族が泥棒のような真似をしているんだよ!?
「侵入者は何名っすか!?」
『一人……いえ、ナルシスも加えれば二人ですね。彼の場合はかなり慌てているようですが』
……え?ナルシス先生?何でナルシス先生が屋敷に来てるの?確か、実家の関係で大忙しだった筈だよな?いや、エミールように時間を何とか作ったのか?
「え?あの先生?まさか、ティアにまた粘着してるの?」
『その可能性もあり得ますね。マスター、これを機にナルシスを排除―――』
「さすがに違うんじゃないっすか?話を聞いた限り、そのもう一人を止めに来たみたいな感じっすし」
『相変わらず無駄に悟いな。六大貴族に喧嘩を売って返り討ちで崖に落とす、私の娼婦化計画が台無しだ』
「今までで一番酷いっす!」
本当にラプラスのティアの排除計画がエグいな。あっさり白状しているけど。
「失礼するわ」
そんな声と共に、部屋の扉が開かれる。そこに立っていたのは灰色の髪をツインテールに纏めた少女で、そのすぐ後ろからナルシス先生が現れる。先生の顔は冷や汗いっぱいだった。
「ほ、本当にすまない!リアリス、君も何で勝手に屋敷に上がるんだ!?」
「別にこの程度なら問題ないのではなくて?貴重な国同士を繋ぐ接点を、こんな下らないことで消そうとしないでしょうし」
「普通に礼節を欠いた行動なんだけど!?」
すまし顔のツインテールの少女の言い分に、ノエルが最もなツッコミを入れる。それを聞いても、ツインテールの少女は微塵も怯んだ気配はなかった。
「それを加味しても目を瞑るのではなくて?六大貴族との縁……国の重鎮の一つとの良好な関係の維持には、多少の無礼は問題にしないでしょ?」
「……縁を言うなら、リオンとラウルト家だけでもお釣が来るんじゃないのか?」
「窓口が一つだけで十分とは思わないでしょ?良好な縁は多くあった方が良いと判断するのではなくて?」
「おおう……凄い打算的っす」
これは……ピエールとはまた違った、典型的な共和国の貴族なのか?無駄に口が立っていそうだけど。
一応、理由を確認しておくか。
「……それで?何しに此処に来たんだ?不法侵入紛いの真似をしてまで」
「会ってみたかったからよ。エドワード・フォウ・ファーレンガルド―――貴方にね」
「オレに?」
オレがそう聞くと、ツインテールの少女は頷く。そのまま、自己紹介為か軽く一礼する。
「申し遅れましたね。私はリアリス・カルセ・グランジュ。ナルシス兄様の腹違いの妹よ」
腹違い……つまり、側室か妾の子なのか?それを堂々と口にするって、神経が図太くないか?いや、不法侵入の時点で図太かったか。
そんな彼女はオレの顔を探るようにじっくりと見つめている。ティアの時もそうだったけど、今日はよく顔を見つめられるな。
「……本当に似ているわね」
「似ている?誰に?」
「グランジュ家に執事見習いとして一緒だった彼によ。名前だけでなく、顔立ちもそっくりよ」
え?オレ、そんなに似ているの?その執事見習いの人物とやらに。
念のためにナルシス先生に視線で問い掛けると、ナルシス先生は苦笑するだけだ。これ、どっちなの?
「まあ……確かに似ているのは事実、かな。私自身も生き写しを疑う程だからね。もし彼が今も生きていたら、こんな風に成長していたかと思えるくらいに、ね」
「そ、そんなにですか……世界には良く似た人物は三人いると言いますし……そんな偶然もありますよね」
話を聞いた限りだけど、どうもその執事見習いとオレは歳も近いみたいだし。生まれ変わりの線はまずないよな。
何にせよ、ナルシス先生とリアリス嬢にお茶くらいは出しておくか。この前の件……ピエール関連での不利益に目を瞑ってくれた礼もあるし。
二人を応接間へと案内して……オレは改めてナルシス先生に向かって頭を下げた。
「ナルシス先生。今回のご助力、改めて感謝します。不利益に目を瞑って頂いた件も含めて」
「アハハ……あれほどやっておきながら頭を下げるなんて、同一人物かと疑いたくなるよ」
「そこは、生半可な対応では効果がないと判断してです。同じ事を繰り返されるのは、こちらも御免ですし」
実際、ピエールがやろうとしていた事を考えれば、相応の痛い目を見ないと抑止にはならなそうだったし。リオンもアンジェ嬢に手を出そうとしてたのを後から知って、《加護無し》にして良かったと呟いたくらいだし。
「まるで彼を罠に嵌めたみたいに聞こえますわね」
「罠に嵌めてはいないよ。対応策がピタリと当て嵌まっただけさ」
正直、罠云々は微妙な所だけど。《聖樹の誓い》の拘束力はあくまでマリエ達に対して有効だっただけで、制御を司っているルクシオンの行動を妨げるものじゃなかったし。それにルクシオンの本体はアインホルンじゃないから、アインホルンとアロガンツを押さえても全くの無意味だからな。それを知らない事を利用して探りに入ったから、騙し討ちしたのも間違いではないし。
「でも、家としては都合が良かったのは事実ね。これでフェーヴェル家は、裏切り行為は出来なくなったからね」
「そこはリアリスと同じ意見だね。彼らの聖樹の力の悪用はグランジュ家だけではなく、他の家でも困っていたことだからね。フェーヴェル家当主……ランベールが生きている間、今までのような真似が出来なくなったのはありがたいとは思ったよ」
「でも、聖樹もよくあの理不尽な誓いを認めましたわね。聖樹に害を成す誓いは、成立しませんのに」
リアリス嬢の疑問は当然のものだ。聖樹は自身を守ってもらう為に《紋章》や宝玉を与えているんだし。だからこそ、聖樹の不利益にならないように調整したんだし。
「内容を知っているなら、二の内容もご存知ですよね?その最後の一文が重要になってくるんですよ」
「……成程。二の誓いが“優先”されるから、聖樹はあの条件を認めたんだね」
「聖樹に害を成す存在からの防衛……それが貴方達との敵対を避けることより
そう。ランベールに聖樹を介して誓わせた誓い―――聖樹の力を防衛のみに使い、敵対しない誓いより優先されると明確にした誓いが、聖樹にとってのメリットなのだ。それがなければ、護り手として機能しなくなる誓いは蹴られる可能性が高く、下手をすればランベールも《加護無し》に落ちていた可能性だってある。そうなったら、ますます事態の収拾が付かなかっただろうし。
ああ、今頃陛下に手紙と宝玉が届いている頃かな?ルクシオンを経由したら早く届くし。
――――――
『王国の威信に懸けて、フェーヴェル家にはしっかり制裁しておきました。ユリウス殿下に危害を加えた件も含めた今回の御詫びとして、宝玉も一つ頂きました。なので有能な国王陛下には、国同士での話し合いは対話による平和的な解決となるよう、各方面への働きかけをお願いします。
by陛下には非常にもったいない、とても有能な臣下達より』
「本当に何をしてくれたんだあの小僧共ぉおおおおおおおおおっ!?」
ローランドは共和国の貴重な品物である宝玉が納められた箱の前で、一緒に送付された手紙の内容を見てそう叫んでいた。
つい先日、リオンとエドワードが共和国の喧嘩を買って緊急会議を開き、その対応に自身がてんやわんやしていた。にも関わらず、その苦労を嘲笑うかのように解決したと手紙で伝えられたのだ。端から見ればぶちギレ案件である。
「アイツらを処刑したい」
ローランドは二人を始末したいと怨嗟の声を洩らすが、事の子細を書かれている手紙を確認していたミレーヌに咎められる。
「駄目です。王国の意地と厳正な対応をした騎士達を裁くとは何事ですか!」
「アイツらの監督不行き届きだろうが!自らの不始末を片付けただけに過ぎん!」
「それは暴論です」
ローランドの言い分をミレーヌはバッサリと切り捨てる。同時に、二人の今回の手腕を評価していた。
リオンが貸してくれたパルトナーの威光があるとはいえ、王国では未だに反乱分子が燻っている。元公国との戦争で非協力的だった貴族が軒並み排除され、国家としての地盤も揺らいでいる。
その状況で共和国との揉め事は、本来であればローランドの言う通り避けるべき案件だ。多少であれば目を瞑るしかない。事前にエドワードから根回しを受けていたミレーヌも、余程でなければ宥める側だっただろう。
だが、その共和国のやらかしがアインホルンとアロガンツの奪取、その過程でユリウスに殺害寸前の危害だ。多少の範囲を余裕で越えてしまっている。ここで泣き寝入りすれば、共和国側が益々付け上がっていたのは目に見えている。
かといって、本格的に事を構える余力は今の王国にはない。相応の落とし所でないと周りの国家からも舐められる。先勝国が理不尽な条件を突き付けるのも、周りへの“抑止力”も兼ねているのだ。
しかし、リオンとエドワードは
故に、ローランドの恨み節は全くの無意味であり、同時にローランドによって最悪な形で悪用されてしまうのであった。
――――――
……本当にこんな偶然もあるんだな。
「まさか、リオンに亡き弟を重ねていたとは……だからあんなに肩入れしてたんだな」
「それは俺も同じだよ。使用人とはいえ、親しい奴と見た目がそっくりって何?」
そりゃそうだよな。オレだってリオンと同じ気持ちだし。
ルイーゼさんがリオンを気に掛けていた理由……それはラウルト家の亡き嫡男でルイーゼさんの実の弟【リオン・サラ・ラウルト】に瓜二つだったからだ。それも外見だけじゃなく、雰囲気や食事の好みまでそっくりというミラクルで。
「正直、ちょっと申し訳なく感じるよな。何かこう、利用したらいけない部分を利用してしまったみたいで」
「それは、まぁ……確かに」
だって、知らない内に身内の情を利用した形だからな。シンプルなメリットとデメリットだけでやり取りしたつもりだっただけに。ナルシス先生とリアリス嬢が帰った後で気付いたけど。
そこでふと、オレは疑問に思った。
「なあ、リオン。そのラウルト家のリオンって……例の乙女ゲームに登場した人物と思うか?」
「え?急にどうしたの?」
リオンがオレの質問の意図が分からず、首を傾げている。なので、オレは率直な疑問をそのまま口にする。
「いや、攻略対象のセルジュは養子だろ?それなら、亡き実の息子の存在が仄めかされても不思議じゃないのにティア達の反応が全くなかったのが気になってな」
マリエとレリアを上げなかったのは、中途半端な知識持ちだからだ。フルコンプ知識持ちのティアの方がその二人よりもずっと参考になるからな。
「ゲームなら、そこまで深堀されないんじゃ……いや、ルイーゼさんの態度を考えたら、実の弟の存在くらいは匂わせそうだよな……」
「こうなったら、後輩に―――」
「失礼するっすよー、先輩っ!」
あの三人の中で一番参考に出来て、ワンコのノエルの件から泊まり込をしているティアに話を聞こうと思ったら、その本人が狙ったようなタイミングで部屋に入ってきた。
「凄くタイミングがいいよね。もしかして狙ってた?」
「へ?何のことっすか?リオっち」
『このマスターにそんな計算高い行動は出来ません。基本的に行き当たりばったりですので』
そりゃそうだよな。ラプラスの言う通り、ティアはそんな器用な生き方なんてできないし。昔虐めの被害を受けてた時も、自分が我慢すればいいと思っていたんだし。
「ちょっとお前に例のゲーム知識関連で聞きたいことが出来たんだ。そのタイミングで丁度よく、お前が来たんだよ」
「マジっすか!私と先輩は以心伝心っすね!」
本当に嬉しそうにするよな。リビアの時もそうだったけど、何でこの腹黒なオレに惚れるんだよ?
閑話休題。
ティアにラウルト家の亡き嫡男、【リオン・サラ・ラウルト】について聞いてみたが、ティアの反応は芳しくなかった。
「ラウルト家の実子の方のリオっちっすかー……確か、セルジュのルートでも存在は仄めかされていなかった筈っす」
「そうなの?」
「はいっす。セルジュとラウルト家との間にある溝も、ルイーゼ先輩がラウルト家の人間に相応しくないと毛嫌いしていたのが理由だった筈っすし……」
「ちなみに今日来たリアリス嬢は?」
「名前すら出ていなかったっす。シナリオには無関係みたいっすから、本当はいたかもしれないっすね」
リアリス嬢はまだしも、ラウルトのリオンが会話の中にすら出てきていないのが本当に謎だな。一目見て亡き弟とリオンを重ねるくらい大事に思っているのに、セルジュのルートにさえ出てこないなんて。
「そのリオンも実は転生者……?いや、流石に穿ち過ぎか……?」
「いくら何でも疑い過ぎじゃね?」
「そうっすよ、先輩。さすがに死人を疑うのは失礼っすよ」
リオンとティアにさすがに咎められたか。オレ自身もさすがにどうかと思っていたし。
『本当にマスターとティアは呑気ですね。ポンコツを使うエドワードが一番頭を使っていますのに』
『ルクシオンの言う通りですね。この状況自体、私にとっては不快の極みですが』
『不快はこっちの台詞だ。悪逆非道の外道兵器二つと一緒だからな』
『マスター。今すぐこの世界の毒を消毒しましょう。滅却の許可を私に』
『私からも進言しましょう。この危険要素は今すぐ消し去るべきだ』
『キャプテン。自分を纏って端末を握り潰せ。そのまま本体も潰しに行くぞ』
そっちは本当に平常運転だな。ラプラスも加わって、過激さが数割くらい増した気がするし。
「どっちにしろ、その乙女ゲームのシナリオ通りに進めるなんて不可能だな。本来はない要素と不確定要素が多すぎるし」
レスピナス家の跡取りが双子、今は亡きラウルト家の嫡男、それに伴う家庭環境の変化……後、オレ達という他国の留学生もあるか。異物がこんなに混ざっていて、ゲーム通りに進めるなんて不可能に近いだろ。
リオンの《守護者》認定?敢えてカウントに加えていない。
「なあ……もし仮に、仮にだよ?ノエルが苗木ちゃんの《巫女》に選ばれちゃったらどうなると思う?」
「……完全に政争に巻き込まれるな。下手をすればラウルト家から命を狙われるかもしれないし」
リオンの疑問にオレはそう答える。
ルクシオン調査で六大貴族が聖樹の苗木を欲していたのは、互いの裏切り対策のためみたいだし。しかもノエルは滅ぼされた貴族の遺児だ。ラウルト家は元凶だから始末しないとマズイだろうし、他の五家は出し抜く為に政略結婚目的で確保しようと動くだろうし。
「ノエっちばかりが不幸を被っているっす……先輩達で保護とかできないっすか?」
「ゲーム展開をガン無視するなら、不可能じゃないな。利益面で考えれば、王国も保護に動くだろうし」
そうなったら共和国と本格的に敵対する羽目になるだろうし、あまり取りたい手でもないんだよな。かなり難しい交渉になりそうだし。
それにリオンは苗木の《守護者》になってしまっているしな。共和国の理屈も交えれば、安易に動けないように牽制することも出来る。それをしたら、かなり面倒になるけど。
本当に、思った通りの人生を歩めないな。
「念のために聞くけど、二作目のチートアイテムって他にもあるの?」
「ラプっちとイデアル以外っすと……鎧っすね。【ギーク】と【レイジング】……レイジングの性能はずば抜けて高いっすけど、稀に混乱状態になって味方を攻撃するリスクのある課金アイテムっすね」
「状態異常付与の課金アイテムはアウトだろ。普通にクレームものだぞ」
「ちなみに値段はイデアルとセットで千円っす。ラプっちとギークは個別で六百円っす」
「嫌なセットだな」