第五試合。リオン対ユリウス殿下の闘いが始まろうとしていた。
『まさか俺まで順番が回ってくるとは思わなかった。お前達の奮闘には敬意を表しよう』
あの口振りからして、ユリウス殿下は自分に順番が回るまでにオレ達が負けると本気で思っていたようだ。
「あのセリフ、状況を全然理解してないよな」
『声色からしても危機感ゼロ。自身の敗北は微塵も想定していないな』
だよなー。状況理解してたらあんなセリフは出ないし。
他の四人は一方的に負けているんだ。しかもジルクに至っては反則までして負けたんだから。
「王子がんばってぇえええ!」
「その田舎者どもを倒してくれ!」
「やっちまえぇえええええ!」
観客達はこの状況でもまだ殿下側の勝利を願っているのか。いや、願わないとまずいからか。
「借金までしてギャンブルに興じるのは破滅のお約束だってのに……」
『加えて全財産を賭けている輩もいるからな。借金生活が本当に嫌なのだろう』
ギャンブルは本来は“遊び”だからな。“本気”でやったら損をするのがギャンブルの
にしてもリオンのアロガンツは本当に性能高いよな。ハーツを全開で使用して、且つランスのようなメイスを使ってもワンチャンあるかどうかだな。
『殿下。一つ質問いいですか?』
『答えられることならば』
『……特待生のオリヴィアさんをどう思ってます?』
?何でオリヴィアさんのことを聞くんだリオン?普通は婚約者であるアンジェリカ嬢ではないのか?
『特待生の女子はオリヴィアと言うのか?頑張っていると聞いているが、それがどうした?』
ユリウス殿下もリオンの質問の意図が分からずに、答えながらも疑問を返している。
リオンは時折妙なことを口走ることがよくあるが、今回は意味が本当に分からない。
『…………そうですか』
リオンは殿下の質問に答えず、それだけしか言わない。
そんな疑問を残しながらも、リオンとユリウス殿下の決闘は開始された。
『あの鎧は他の鎧と比べたら優秀だが、旧人類の遺産とゼクトールと比べれば取るに足らんな』
「アロガンツは同意だがゼクトールは微妙だろ」
ユリウス殿下の鎧は安定した最高技術で作られたのに対し、ゼクトールは挑戦的な技術で作った鎧だからな。
素で挑めばたぶん不利だぞ。
お。ユリウス殿下、結構善戦してるな。単にリオンが手を抜いてるだけだろうけど。
「頑張れ殿下~~!!」
「勝ってくれぇえええ!!」
「お願いだから勝ってぇえええ!!」
そんな闘いぶりを見てか、観客達は必死にユリウス殿下を応援している。
負ければ大損だから当然なんだろうけど。
『俺は負けられない……勝利を願ってくれている彼女のためにも……負けられないんだぁあああ!!』
おおー、気合が籠った雄叫びと共に背中のバックパックから翼のエフェクトが出たよ。こけおどしにしかなりそうにないけど。
『殿下、流石ですね。気迫が他の二人と違いますね。やっぱエドワードが相手した二人も含めた四人は、誰かが消えればマリエちゃんとの時間が増えるって思ってたんですかね?』
おーおー、煽るなリオン。あり得そうだから頷くけど。
『戯言を!お前に……お前達に俺達の何がわかる!』
わかりませんよ。五股を容認する殿下達の気持ちなんて。そもそも分かりたくもないし。
『確かに俺は何も分かりませんけどね……このままがいいとは思えないんですよ』
……確かにリオンの言う通り、このままがいいとは思えないな。観客席にいるアンジェリカ嬢の表情は優れないし。
『殿下。他者を本気で愛するってどういう気持ちです?俺、そういうの良くわかんないんですよね』
それはオレも分からん。前世は連絡を取り合っていた学生時代の後輩がいたけど、恋愛感情は全然なかったし。
加えて彼女いない歴イコール年齢だし。
『だろうな!だから他人の邪魔ができる!本当に愛しているのなら潔く身を引けばいい!』
それって浮気を容認して諦めろってこと?完全に浮気がバレた時の言い訳じゃん。いや、最初から堂々と浮気してたか。
あの四人も含めて本当に酷すぎだろ。
いや、ジルク以外の三人はまだ理解できるか?噂じゃ三人は婚約者と数える程度しか顔合わせしてないようだし。
『それってアンジェリカさんの事言ってます?アンジェリカさんは殿下を愛してると思いますよ』
『違う!あいつの気持ちが愛であるはずがない!あいつは俺の気持ちなど察しなかった!』
リオンの言葉をユリウス殿下は真っ向から否定するけどそのセリフ、自分に刺さってることを理解してます?
いや、理解してないからあんなセリフが平然と出てるんだったな。
『あいつも王宮の女達と同じだ!俺に王族の生き方を強要する!誰も俺自身を見ない……王族になど、生まれたくは無かったのに!』
だったら譲ればいいじゃん。たしか殿下には弟君がいたよね?王族の知識に疎いけど、やろうと思えばできるよね?
単に自分の取り巻く環境にグチグチ文句言ってるだけだろ。
『そんな中でマリエだけが、俺の気持ちに気づいてくれたんだ!偉そうに薄っぺらいセリフを言うお前達には分からないだろうがな!』
オレから言わせたら殿下達のセリフも薄っぺらいですけどね。だって自分に酔ってるセリフなんて、まったく心に響かないんですから。
『お前はただ大きな力を手に入れて傲慢になっているだけ、ファーレンガルドに至っては頭に乗って場を引っ掻き回しているだけだ!楽しいか!?それだけの力で他を圧倒し上から目線で説教する気分はどんな気持ちだ!』
どんな気持ち……ね。本当は決闘中に口出すのはアウトなんだが、聞かれたからには答えないとな。
「薄っぺらいセリフに辟易してます」
『なっ……』
オレが言葉を返した途端、殿下は絶句。リオンも気を利かせてか動きを止めてるし。
それじゃあこの状況に甘えて言わせてもらおうか。
「正直言ってアンジェリカ嬢が本当に不憫ですよ。婚約者に散々ないがしろにされた挙げ句、その気持ちが愛でないと罵倒されたんですから。殿下は自分の気持ちを察しなかったと言いますが、殿下もアンジェリカ嬢の気持ちを全く察してないですよね?少しでも察してたらこんな状況になってませんからね。正直に申しますと……ユリウス殿下はオレとリオンよりずっと最低ですよ」
改めて言うと殿下は本当に最低だな。今後は心の中でクソ殿下と呼ぶことにするか。
『俺もエドワードに便乗するけど……もう最高だよ!あれだけ威張り散らしてたお前らを圧倒的な力でねじ伏せられるからな!俺は確かに傲慢だが、お前らはそんな俺に負けてるんだからな!!』
『き……キサマらぁあああああ!!』
そんなオレの指摘と参加したリオンの罵倒を受けたクソ殿下は反論せずに逆上。その時点で浅はかさが知れると言うものだ。
大方、痛いところを突いて怯ませて勝利をもぎ取ろうという魂胆だったんだろうけど残念だったな。そんなペラペラで重みもないセリフはまったく心に響かないんだよ。
『史上最低の言い争いだな』
「そこはスルーしろ」
確かに最低な言い争いだが、オレとリオンは自覚があるからいいんだよ。クソ殿下は無自覚なんだし。
『第一、お前の気持ちなんか知るか!な~にが王族に生まれたくなかっただ?お前は五十過ぎの変態ババアに売られそうになった事があるかよ……?』
そういえばリオンは金を稼がないとそうなる運命だって初日の集まりで言ってたな。オレは準男爵で騎士家だったからその辺りは大丈夫だったが……
『女子にペコペコ頭下げて嫁に来てくださいと頼んだ経験は?田舎は嫌だとか、愛人も養えと言われたことは!?愛は愛人と育むと言われた気持ちがわかるかよぉおおおお!?』
うう……そうだよな。最初のお茶会の招待状なんて準男爵はお呼びじゃないとか、将来が期待できないとか言われたし……
『こんなことで泣くな、キャプテン』
泣くわボケぇ!結婚に夢も希望もないと突き付けられたんだぞ!!結婚は本来、夢と希望があるものなんだぞ!?
『そ……それがどうしたというのだ!お前達は自由じゃないか!』
自由……?これが自由だって?
「『ふざけんな!どこが自由に見えるんだ!!』」
リオンと見事にハモったが、クソ殿下のセリフは本当に無神経、無思慮だからな!
『むしろお前の方が自由だろ!美人の婚約者がいる上に他の女と遊ぶのも許されてるんだ!俺達じゃ速攻で切り捨てられるぞ!王族の権利でエンジョイしまくってるくせに何が王族に生まれたくなかっただ!?マジで出直してこい!』
「そうだそうだ!自分が恵まれているのをもっと自覚しろ!」
オレもわりと恵まれてるけど、生まれによる利権や特権の恩恵はクソ殿下の方が遥かに大きいんだ。
そこを理解せずに文句ばかり言うとか、本当に人生舐めてんだろ。
『遊びではない!本気だ!』
『なお悪いわ!』
マジでリオンの言う通りだわ!どこまで婚約者をないがしろにすれば気が済むんだ!?
そもそもマリエは一応子爵家の娘だろ!それなら自分の妾とかにできるだろ!王族だから跡取りを生むという理由で重婚もできるし!
そうしている間にもリオンのスコップ殴打がどんどん決まり、クソ殿下の剣と盾が砕け散った。
『はあ……もういいだろ?遊びは終わり!お前の相手はあっち。分かった?』
リオンがそう言って指差す先には涙を流しているアンジェリカ嬢がいる。
あれだけ酷く言われたの真っ直ぐクソ殿下に視線を向けているんだから、彼女は本当にクソ殿下を愛しているんだろうな。
『まだだ!マリエを奪われるくらいなら死んだ方がマシだ!俺は絶対に負けを認めない!』
いや、潔く認めろよクソ殿下。鎧は全身ボロボロで武器もなし。しかも仮にリオンを奇跡的に倒せてもまだオレがいるんだぞ?どう足掻いても勝ち目ないだろ。
そう考えていると、クソ殿下はとんでもない事を宣い始めた。
『これは決闘だ!俺かお前が死ぬまでこの決闘をやめることを禁ずる!』
「ええー……」
『最低だな』
全くもってその通りだよハーツ。王族に生まれたくなかったとか言いながら王族の権利をおもクソ乱用してるし。
行動が親に文句を言う子供そのものだ。
この分だとオレとの決闘でも同じことをやってきそうだな。
「アンジェリカさんだって殿下を愛してます!だって、ずっとずっと苦しそうにこの闘いを見守っているんですよ!」
そう考えていると、観客席にいるオリヴィアさんが声を上げていた。
あれー?なんで闘技場全体に聞こえてるの?魔法を使っている気配全然ないのに。
「見ているのも辛いのに……目を背けないで悲しそうに見ているんです!だから、愛じゃないなんて言わないでください!」
……オリヴィアさんって本当に何者なの?希少な魔法の使い手の上に頭も良いし、魔法もなしで大声上げた訳じゃないのに闘技場全体に聞こえるなんて。
ちなみに愛に関してはノーコメントで。
『……言いたいことはそれだけか、女。一方的に押し付けるのが愛?俺を王太子としか見ない女の気持ちが愛だと!?』
やっぱ反発するか。予想できてたけど。
『俺は、俺個人を見てくれる女性を見つけた!そして、これが愛だと理解した!アンジェリカ、お前は俺を理解しようとしたか!?しなかっただろ!だからお前の気持ちは愛でなく押し付けだ!!』
……確かに一方的な愛は迷惑なものだろうな。けど、今回はそれ以前の問題だろクソ殿下。
クソ殿下は婚約者であるアンジェリカ嬢を理解しようとしたか?してないだろ。してたらマリエへのイジメは取り巻き達の暴走だって気づいた筈だからな。自分が出来てないのに相手には求めるとか……本当にふざけている。
『分かったら二度と俺に近づくな!さあ、バルトファルト!続きを始めようか!どっちかが死ぬまでこの決闘は終わらない!俺は覚悟を決めたぞ!バルトファルト、それにファーレンガルド!お前達はどうだ!』
覚悟……ね。
「本当に最低極まりないですね、殿下。やってることが癇癪起こしている子供そのものですよ」
『…………!?』
侮蔑と軽蔑心たっぷりの声で言ってやったら、クソ殿下は言葉に詰まって絶句したよ。
「その反応……まさか、感銘を受けて降参する流れでも期待してたんですか?だとしたら、頭の中がお花畑にも程がありますよ」
『そうだね。俺も一ミリも心が動かなかったですし、もう相手を馬鹿にしてるのかと思いましたよ』
リオンも本当にゲンナリしてるな。オレもクソ殿下の酷さにもう疲れたし。
『それでも自分の命を盾にする執念は認めますよ。こう言えば引くという淡い期待が見え見えなのはドン引きですけどね。王子に生まれたくなかったって言いながら、自身の立場を最大限に利用するその強かさは称賛に値しますよ。エドワードの言う通り、最低極まりないけどね!』
ウンウン。全くもってその通りだ!
『ほら、負けてくださいって俺達に言えよ。大好きなマリエちゃんと離れたくないから負けてくださいって。それとも王太子殿下として命令しちゃう?』
『で、できるわけがないだろう!?これは神聖な決闘だ!互いに全力を尽くすのが礼儀だ!』
えー?クソ殿下がそれを言います?
「その神聖な決闘を真っ先に汚した殿下が何言ってるんです?判定による決着を王太子としての命令で取り上げておいて、よくそんな厚かましいことが言えますね?いや、ジルクの時点で汚れてたから今さらか」
『しかもそれ、気を利かせてわざと負けろってことでしょ?ジルクの件といい、本当に酷すぎますわ~』
『ジ、ジルクを悪く言うな!アイツは俺とマリエの為に汚れ役を自ら……!』
「あれぇ?その言い草、もしかして気づいていながら止めなかったってことですか?だとしたら益々酷いですね。どこまでご自身の仰る神聖な決闘とやらに、泥を塗れば気が済むんです?」
オレの侮蔑心たっぷりのセリフにクソ殿下再び絶句。本当にクソ殿下は頭の中お花畑の上に自分本位だな。自身の言葉に全然責任持ってないし、行動と言動が矛盾だらけだし。
もうやってることが支離滅裂だよ。マジで人生やり直してこい。
「何なのあいつら……許せない!」
「最ッ低!」
「そうだ!最低なのは殿下じゃなくてお前らだ!!」
「殿下!そんな奴らに負けるなああああ!!」
「くたばれクソやろうども!!」
「死んじまえ田舎ヤロォオオオオ!!」
観客達は一斉にオレとリオンを非難してるが痛くも痒くもないな。単に賭けで大損したくないだけだろ。本当に現金な連中だよ。
『……本当によくあそこまで罵倒したものだ。これでは怨みの矛先はキャプテンとバルトファルトに向かうぞ』
「確かにな。けど、それを抜きにしても本当に酷かったからな。少しは自分達の酷さを自覚してもらわないと」
名門や有力貴族の跡取りが世間知らずのまま進めば、間違いなく大きな失敗を起こす。オレやリオンのような田舎貴族ならともかく、国に近い連中では国に致命的な損害を出しかねない。
『憎まれ役になったと言うのか?取り巻き共への復讐で関わったのにか?』
「あそこまで喧嘩売ったんだ。どうせやるなら最後までってな」
『……本当に面倒くさいキャプテンだ』
面倒くさくて悪かったな、ポンコツ腕輪。
あ、リオンとクソ殿下の決着がついたな。鎧が衝撃で完全破壊されて中にいたクソ殿下は無傷だけど。
「凄いなアレ。旧人類の遺物は本当にぶっ飛んだ性能だな」
『今の攻撃……もしや……』
ハーツが何故か唸ってるが、勝敗はもう決まっただろ。
『しょ……勝者……バルトファルトォオオオオ!!』
審判が判定を下し、勝利したリオンはスコップを掲げる。ちなみに観客達は頭を抱えて阿鼻叫喚だ。
「嘘だ!嘘だと言ってくれぇえええええええ!!」
「インチキよ!インチキに決まってるわ!!」
「借金までして賭けたのに!!」
「俺の全財産がぁあああああああ!?」
「返して!私のお金を返してよ!」
そんな一気に借金確定となった観客達にはこの言葉を贈ろう。
「怨むなら……後先考えずに大金賭けた自分自身を怨めよ?」
『みんな……賭け事はほどほどにね!』
「「「「ふざけんなぁあああああああああ!!」」」」
観客達は色んな物をオレとリオンに投げてくるが、鎧にぶつかるだけだから痛くも痒くもないぞ。
『キャプテン!今すぐあの旧人類の遺物を殲滅するぞ!!』
「お前もしつこい」
本当に相変わらずの旧人類絶対滅ぼすマンな腕輪を、コクピットにガンガン打ち付けて黙らせるのであった。