てな訳でどうぞ。
リオンとの話し合いも終わり、オレは中古の高速船で実家のファーレンガルド領へと帰路に着いていた。
「実家に帰ったら、軽い報告だけ済ませて例の領地に行かないとな。撤収準備を急がないといけないし」
クソ殿下に期待していた貴族はレッドグレイブ家を含め、それなりに多かったからな。王家に対して敵対的な貴族もいるし、貴族間のパワーバランスが大きく崩れる筈だ。
少なくとも、クソ殿下を支援していたレッドグレイブ家はまず間違いなく弱体化するだろう。この事態を招いた、本当に常識知らずなおバカファイブと欲望丸出しのマリエにはウンザリだよ。
いや、学生であるおバカファイブにそこまで求めるのは少々酷かもしれないが、転生者の疑いありのマリエはその辺りも考えろ。マジで。
「そうなるとオリヴィアさんのことも心配だな。これが契機となってイジメが再び起きなきゃいいんだが……」
『自分から退学コースを選んでおいて何を言っている?』
「友人を心配するのは当然だ。ポンコツ」
相変わらずのハーツにいつも通りに返しながら、リオンがもたらした情報を思い返す。
この世界がゲームと瓜二つとか……一体どんな因果なのかと言いたい。
しかもオレの前世で働いていたゲーム会社が作ったゲームだからな。それも設定詰め込み過ぎでクソゲー化したゲームときた。
「……間違いなくトラブルが頻発するよな。それも洒落にならないレベルの」
この王国は本当に敵性国家が多いからな。公国はもちろん、神聖王国なんかも。予備軍では帝国や共和国もいるし……いきなり戦争になっても不思議じゃないぞ。
「……いや、そうでもないか?」
よくよく考えたら、特待生とはいえ平民のオリヴィアさんを巻き込んだトラブルは早々起きないんじゃないか?
トラブルの原因は(リオンの話の限りでは)婚約者がいる相手と乗り換えるレベルで親密になることだし、おバカファイブと接点がなくなった以上は陰湿なイジメくらいしか起きないんじゃないか?
「そのイジメもアンジェリカ孃がいれば手を出しづらくなるだろうし……意外と大丈夫か?」
弱体化してもレッドグレイブ家の力はある程度はある筈だし。どちらにせよ、退学になるオレは祈ることしかできない。
ハァ……こんなこと考えるならもっと上手く動けば良かったよ。もう後の祭りだから、どうしようもないけど。
オレは若干黄昏ながら、空を見つめるのであった。
――――――
「ただい―――」
「死ねぇ馬鹿息子ぉおおおおおおおおおっ!!」
「くたばれ愚弟ぃいいいいいいいいいいっ!!」
実家に帰って早々、憤怒の表情の親父と兄貴から飛び蹴りが炸裂した。
「グボォッ!?」
玄関の扉を開けて早々の飛び蹴りだった為、防御の姿勢をとる暇なく二人の蹴りがオレの腹にダイレクトヒット。そのまま無様にゴロゴロと地面を転がっていく。
「グフッ……帰って来て早々に飛び蹴りはないだろ……」
「エド兄さん。父さんもレオ兄さんも今回の騒動についてかなり頭を抱えたんだから、これくらい甘んじて受けなさい」
妹のアリサも、冷めた眼差しとめっちゃ辛辣な言葉を腹を押さえて立ち上がろうとするオレにぶつけてきた。
「後、母さんは責めもしないけど擁護もしないと言っていたから」
……味方が一人もいないとか、地味に心にクるな。弁明はするけど。
「いや……ちゃんと親父達に飛び火しないように公爵閣下に根回ししたし……あの五人の行動は本当に酷かったし……」
「だからと言ってやり過ぎだ!特に皇太子殿下への暴言は!!」
オレの弁明に対し、ファーレンガルド家の跡取りである兄貴はキレ気味に反論する。
「いやいや。クs……ゴホン、ユリウス殿下の発言はあまりにも最低だったし、色々な意味で現実を舐めてたから徹底的にやらないとマズイと思ったから」
「それで自分の首を絞めてどうするんだ!?それと殿下のことをクソと言おうとしたよな!?」
親父はオレの発言に泡食った表情でオレの襟首を掴んでガクガクと揺さぶる。
そんなに揺さぶらないでくれ。ガクガクして気持ち悪くなるから。
―――十数分後。
「……事情は理解した。理解したが……」
「もっと穏便にできなかったのか?エド」
「それができてりゃこうなってない」
頭を抱えてぐったりしている親父と兄貴の呟きに、オレは半目でそう答える。
なんせ決闘中でさえ権力乱用してきたんだぞ?仮にオレが間を取り持とうとしても―――
『部外者が口を出すな!』
『ザコがしゃしゃり出てんじゃねぇよ』
『これは私達の問題です。余計な事をしないでください』
『全くだよ。僕達のマリエへの愛に口を挟まないでほしいね』
『僕も彼らと同じ気持ちだ』
―――こんな感じで一蹴されただろうからな。自分に酔っているバカほど面倒なものはない。
「悪いがこの話はここまででいいか?早く例の領地に行かないといけないし……」
オレのその言葉に、親父と兄貴は再び頭を抱えた。
「帰って早々に領地の話とは……息子の成長を喜ぶべきか嘆くべきか……」
「弟が優秀なのか馬鹿なのか、時折分からなくなるな……」
全然誉められてる気がしない。当然と言えば当然なんだが。
「エド兄さん。何で帰ってきて早々にあの領地に赴くのよ?二、三日は実家でゆっくりしてもいいんじゃないの?」
「いやいや。本来は自害ものを何とかしてもらおうとしてるんだ。最低でも爵位と領地は取り上げられると考えるのが普通だ」
その領地も即刻立ち退きを指示される可能性も濃厚だし。最低でも新素材の現物と資料、設計図は残さないようにしないとな。
――――――
国に押し付けられた領地にある工房にて。
「……という訳だから撤収の準備を始めてほしい。ほぼ間違いなく通達からそんなに日を空けてこないだろうからな」
オレの撤収に関する説明を受けた職人達は何故か揃って苦笑いしている。苦笑いする要素は一つもない筈なんだけどな。
「もちろんお前達の雇用は続ける方針だ。この領地から撤収した後はファーレンガルド家の領土内で新たな工房を建てる予定だ」
オレ個人の金はまだ余裕があるからな。可能な限り雇った彼らを切り捨てたくない。幸い、耕運機のレンタルは軌道に乗っているからな。
新たな工房も実家の領土内にある空き家同然の建物を利用すればいいしな。
「まあ……殿下達に喧嘩を売ったと知った際は驚いたが……」
「若頭が俺らのような爪弾き者を雇っている時点で今更だしな……」
「むしろ若頭のおかげで毎日充実してたしな。アダマンティアスの加工は勿論、新たな武装や技術、機械や素材の開発もできたし」
「むしろ食と住だけで十分なくらいですし。此処を離れるのは少し寂しいですけど、若頭に雇われてるなら何処でもやっていけますよ」
……もっと不満が出るかと思ったんだけど。仕方ないなー、っといった感じの反応である辺り、大丈夫そうだ。
ちなみに職人のみんなからは“若頭”と呼ばれている理由は、坊っちゃんや閣下呼びをオレ自身が却下したからだ。どっちも違和感が勝つし。
「幸い、新しく作る予定の船もまだ着手してなかったので資材や設備の運搬だけで済みますからね。さすがに工房の設備はそのままにするしかないですが」
細マッチョのイケメンであり、皆のまとめ役であるシオンさんは最後の方だけ申し訳なさそうに言う。
「そこはオレも諦めてるさ。設備の解体までしてたら間に合わないからな」
修繕・改修した工房や寝泊まりの屋敷、港については少し尾を引いてしまうがそこはもう諦めてるしかない。
「大型船の手配や引き継ぎの書類も作るから、現場の撤収準備に関してはシオンさんに任せていいか?」
「分かりました。作業用に改修・調整した鎧等を使って進めておきます。その前に運び出す量の確認をしなければなりませんが」
「それもそうだな。量によっては船を何隻か用意しなければならないし」
今保有してる船だけでは何十往復する必要が出るし、可能な限り船の使用回数はトータルで一桁に抑えたいからな。
その運び出す量の確認も二、三日はかかるだろう。その間に船のレンタル先やら何やらを探しておくか。
―――二日後。
「結構多いな……」
『多くて当然だろう』
屋敷にある執務室みたいな部屋で仕事していたオレはシオンさんが持ってきた書類に目を通して溜め息を吐く。
新素材の開発に様々な鉱石や魔石、飛行船の要である希少な“浮遊石”もそれなりに買っていたからな。ハーツのツッコミは無視だ無視。そんな事に取り合う暇は今はないからな。
「それ以上にこの新しく作った合金がヤバすぎるだろ……」
オレはそう呟いてその書類に改めて目を通す。
この合金は浮遊石とドロドロになるまで溶かした鉱石を数種。それと純度の高い魔石を決められた手順で加え、混ぜ合わせることで造れるのだが……他の鋼材と比べて凄く軽いのだ。それも現時点では強度が変わらずにだ。
加えて、計算上では拳一つ分の浮遊石で鎧が十五機造れる量の合金が出来上がるのだ。次代の飛行船の新たな素材として今後の注目を浴びる可能性が高いだろう。特に欠片同然となった浮遊石が有効利用できる点が大きい。
……その代償として二隻分の浮遊石が犠牲となったが。それも欠片ではなく船に搭載できる物が。
「各種耐久テストに製造法の確立、再利用の可否……まだまだ課題が多いから普及はずっと先になるな」
試作の量も西洋剣が五本造れるくらいだからな。テストは向こうに移ってからで……
「失礼します若頭!」
そんなオレの考えを遮るように、坊主頭の職人であるロッカさんが乱暴に扉を開けて入ってきた。
「どうしたんだロッカさん。そんなに慌てて。何か問題が起きたのか?」
「問題というか……この浮島に若頭の実家のものではない船が向かって来ているんですよ」
「……マジで?」
「マジです」
ロッカさんの言葉にオレは何とも言えない気分になる。
このタイミングで知らない船が来てるということは、その船は公爵家の遣いの可能性が高い。
何故本家ではなくこっちに来たのかの疑問は残るが、出迎えないわけにはいかない。
一先ず、その人を出迎えるか。ろくなおもてなしはできないが。
―――そう思っていた時期がありました。
「改めてお礼を言わせてちょうだい。私の為にジルクとの話し合いの場を設けてくれて」
「別にいいですよ。むしろそのお礼は取り巻きのみなさんに言うべきですよ」
一人の年上の女性―――クラリス先輩のお礼にオレは内心で引き攣りながらそう告げる。
やベーよ。本当にやベーよ。まさか伯爵家の令嬢が来るなんて予想外もいいところだよ。この島にある食料だって質より量重視の、ランクが低いものばかりだし。
「それで本日はどのようなご用件で?もしかして、クラリス先輩がオレの処遇を伝えに来たのでしょうか?」
「それもあるわ。厳密には予定だけどね」
予定?まだ正式に決まってないってことだよな?
そんなオレの疑問を他所に、クラリス先輩は処遇について話し始めた。
「一応貴方の処遇は……お父様と公爵閣下の働きで咎められることはないわ。この領地も基本的には現状維持になるそうよ」
……へ?お咎めなし?領地の取り上げもなしって……マジで?
さすがに予定とはいえ、何のお咎めもなしはあり得ないと思い詳しく聞くことにする。
「えっと……なんでお咎めなしなんです?幾ら宮廷工作したとはいえ、罰則なしは周りも黙っていないんじゃ……」
「お父様の話では、殿下達全員が家から廃嫡された事も一因みたいね。将来の優秀な人材が実質的に五人も消えたようなものだから、敵対派閥はそこまで積極的ではなかったそうよ」
クラリス先輩の説明に、オレはなるほどと納得する。
今回の騒動で将来の王族寄りの中核が実質退場したから、敵対派閥は無理に追及しなかったということか。レッドグレイブ家の派閥が弱体化したからそれで十分だったと。
後、やっぱりおバカファイブは勘当されたのか。同情は一切しないが。
「それを抜きにしても黙りなのは疑問なんですが……」
「お父様と公爵閣下が君達の擁護に動いているのが最大の要因ね。家として一番被害を受けた重鎮が責めるどころか逆に擁護しているからね。王家も二人の処罰に積極的ではないみたいだから中立派も日和に徹しているそうよ」
なるほど。面子を潰された公爵閣下と伯爵閣下が断罪を求めるどころか擁護しているから他の貴族達は拳を上げづらくなっていたということか。それに工作資金もあるから収めるには十分という訳か。
「それでも領地の取り上げも無しは周りの貴族が納得しないのでは?この領地は今は金の成る木ですし」
「その辺りは王家の判断もあったみたいね。エドワード君以外でこの領地を発展できるか怪しいから」
あー、そう言われれば確かに。この領地は今は金の成る木だけど、育て方次第では逆戻りだからな。例の新素材の製造法は残す気もないし。
それなら下手に取り上げるより、このまま開発してもらった方が国の得だと。
……ん?そうなると……
「ひょっとして国に納める税は……」
「お察しの通りよ。卒業後という条件が付くけど、この領地に関する税は一つ上の扱いになるわ」
マジかー。領地の大きさは準男爵規模なのに払う税金は男爵規模になるとか。
完全にこれが罰じゃん。飼い殺しじゃん。他の貴族もそれが予想できたから取り上げなかったのか。
もうこの件に関しては諦めよう。もうどうしようもないから。
「あ。それとこの夏休み中は、視察も兼ねてこちらで過ごすからよろしくお願いするわね」
その瞬間、オレは魂が抜けたように真っ白となった。
――――――
―――翌日。
「昨日船の中から見ても思ったけど、この浮島は他と比べて緑が圧倒的に少ないわね」
「土地全体が痩せこけてるんですよ。雑草すら生えない程に。現在は決められた区画に藁や排泄物を土に混ぜ混んで寝かせているところです」
文字通りこの浮島を視察しているクラリス先輩に、オレはそう説明する。
何せ押し付けられた当初は木はもちろん、雑草の一つも生えてなかったからな。加えて土もかなり固かったし、植物にとってはかなり劣悪な状態だった。
「これほどの土地にそれらを混ぜこませるのは重労働だったでしょう?」
「そこは大丈夫ですよ。耕すのに適した道具がありますので」
オレはそう言って耕運機の置場所を指差す。置場所は屋根を付けただけの簡易のものだが。
「あれが昨日説明した耕運機?というものかしら?見た目ではとても耕せそうに見えないけど」
クラリス先輩は疑問符を露にそう口にする。見た目は横に幾つものスクリューパーツがついた、エアバイクという空飛ぶ水上バイク擬きなのだ。疑問に感じるのも当然だろう。
なのでオレは実証の為に異世界版の耕運機を使用。クラリス先輩の目の前で近くの地面を耕した。
「本当に耕せるのね……確かにこれを使えば簡単に終わりそうね」
「あくまで耕すことだけですがね。それ以外は人の手で行わないと行けませんし、レンタルしてるとはいえまだまだ試作段階でデータも不足してます。ですから、本格的な普及はまだ先ですよ」
幾ら土を耕そうと、作物の育成と収穫は人の手で行わなければならないのだ。稲刈り機があれば穀物の生産力を上げられるだろうが、稲刈り機の構造なんて詳しく知らないからな。
そう考えると本当にすごいよな。農作業の負担を減らす機械を造り出したんだから。耕運と稲刈りだけでなく、いも堀、田植えに灌水チューブ……知識でしか知らなかったそれらが、鍬や桶を使う、昔の手法で農作業するとそれらのありがたさが身に染みて理解できたのだから。
「苗を自動で植え付けする仕組み……こういう構造にすればいけるんじゃないか?」
「麦の刈り入れする機械……エアバイクをベースにするにしても、どうやって巻き上げる?」
「効率を考えるなら、刈り入れと脱穀を同時に行えるようにした方がいいんじゃないか?」
「「「「よし!さっそく試作機を作ってみよう!!」」」」
……それを造ろうとしているウチの職人達も大概だけど。お咎めなしとなる可能性が高いと分かった瞬間、撤収作業を放棄して中止していた開発を即再開したくらいに。
「……本当にクセの強い人達みたいね」
「腕は確かで意欲も高いですよ。結構好き勝手してますけど」
その好き勝手の結果がゼクトールと耕運機だし。中古で買い取った鎧も作業用に改修して作業効率を上げたしな。
「若頭ー。実験で作った多関節型の鎧の検証が終わりました。やはり跳躍と機動力が従来の鎧より高いですね。代わりに関節の負荷が大きく、長期運用とメンテに難ありですが」
……ちゃんと撤収準備は続けているよな?あくまで予定だから、実際はどうなるか分からないんだからな?
そんな考えがオレの顔に出ていたのか、顎髭が凄いクロムさんは苦笑いの表情を浮かべた。
「心配しなくても大丈夫ですよ。ちゃんと撤収準備は交代で進めてますんで」
「それ、本当に大丈夫なのか?」
交代で撤収準備を進めるとか、穴があって不安しかないんだが。いや、ずっと撤収準備させてたらフラストレーションが爆発する可能性は高いんだけど。
「若頭。また船が一隻、こちらに近づいてきています。船の形状からして、ロストアイテムの類いの船かと……」
シオンさんからの報告に、そのロストアイテムの船が誰のものなのか一気に予想が付いた。だって、そんな船で此処に来る相手は一人しか浮かばないのだから。
オレはどこかうんざりしたような気分でシオンさんを連れ、クラリス先輩と一緒に港の方へと向かうのであった。
「本当に緑がないな。確かに匙を投げたくなるわ」
『鉱山としての価値もない、本当に土地だけの浮島ですね。無駄に大きいので浮遊石の回収にも出れなかったのでしょう』
「なあ、ルクシオン。あの船って……」
『アトリー家の船のようですね。これでは島ごとあの忌々しい腕輪を葬ることが出来ませんね』
「船の有無に関わらずアウトだからな!?」
『冗談です。非常に不本意ですが』