お久しぶりです。
続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
爆煙が晴れていく。
ロボットの残骸が転がる中、龍騎は右拳を軽く握った。
「よし! これで通れるな!」
進路を塞いでいた仮想ヴィランの姿は、もうない。
後ろから走ってきた生徒達も、最初こそ目の前の光景に足を緩めたが、すぐに我に返って駆け抜けていった。
「助かった!」
「ありがとう、ヒーロー科!」
「おう! 頑張れよ!」
龍騎が手を上げて応える。
その肩を、小さくなったドラグレッダーが尻尾で叩いた。
「ガォ!」
「……ん?」
相棒の顔を見る。
それから、脇を通り過ぎていく生徒達を見た。
「あっ! 俺も走らなきゃじゃん!」
慌てて駆け出した龍騎を見て、実況席から盛大な笑い声が響いた。
『おおっと城戸! 障害物を全部ぶっ壊して満足してたのかぁ!? これはレースだぜ、レース!!』
『……あいつらしいな』
相澤が、疲れたように息を吐く。
『だが、あれだけ壊しても余力はある。ここからどう追い上げるかだ』
龍騎の足が地面を蹴る。
加速した赤い身体は、先ほど自分を追い越した生徒達へ瞬く間に追いついた。
「悪い! 通るぞ!」
人と人との隙間を抜け、残骸を跳び越える。
そのすぐ横を、ドラグレッダーが並んで飛んだ。
「轟達、随分先に行っちゃったな」
「ガォォ」
「分かってるって! こっから追いつく!」
助けたことを後悔する気はない。
けれど、このまま負けていいと思っているわけでもなかった。
せっかくの体育祭だ。
緑谷とも、全力で競おうと約束した。
ならば、最後までやるだけだ。
◆◆◆
出久の呼吸が、少しずつ荒くなっていた。
全身に力を巡らせる。
どこか一か所に集中させず、一定の出力を保つ。
特訓で繰り返してきたことだ。
それでも、次々と障害物が現れる状況で続けるのは、単に走るのとは違っていた。
(肩に力が入ってる。落ち着け……!)
出久は拳をわずかに緩めた。
前方には轟の背中が見える。
さらに爆豪が、爆破の勢いを使って距離を詰めていた。
右腕には、ロボットの装甲板を抱えている。
自分が砕いた仮想ヴィランから外れたものだった。後続のロボットへの盾にするつもりで拾ったが、結局、真司が道を開いてくれたため、まだ手元に残っていた。
捨てれば身軽になる。
だが、先に何が待っているか分からない。
(もう少し、持っていこう)
走り続ける出久の前で、地面が途切れた。
深い峡谷。
その中にいくつもの足場が立ち、細いロープで繋がっている。
『落ちたらそこで大きくタイムロス! 渡り方はお前ら次第だぜ!!』
「これ……結構、高いな……!」
思わず足元を見た。
すぐに視線を上げる。
轟は既に、氷を使って先へ進んでいた。
爆豪もロープに頼らず、空中で爆破を繰り返している。
出久は装甲板を脇に挟み直した。
(僕も、今なら……!)
緑の光が脚を走る。
足場の縁を踏み切り、次の岩柱へ跳んだ。
着地。
膝を曲げて衝撃を逃がし、すぐに次の足場を確認する。
届く距離。
踏み込める場所。
跳んだ先にいる生徒。
速く動けるからこそ、見落としてはいけない。
組手の最中、真司に何度も言われたことを思い出す。
出久は顔を上げたまま、次の足場へ跳んだ。
◆◆◆
「うわ。今度は崖か」
龍騎が峡谷の手前へ到着した頃、先頭集団は既に向こう岸へ近づいていた。
ロープの上では、何人もの生徒が慎重に足を運んでいる。
そこへ無理に割り込めば、誰かの足場を揺らしかねない。
龍騎は、隣の相棒へ顔を向けた。
「ドラグレッダー。頼めるか?」
「ガォォ!」
小さな龍が空中へ躍り出た。
その身体が伸び、真紅の装甲を持つ巨大な龍へ戻っていく。
龍騎は跳躍した。
下を通り抜けたドラグレッダーの背へ着地し、身体を低くする。
「よし、行くぞ!」
雄叫びと共に、真紅の龍が加速した。
ロープを渡っていた生徒が、頭上を見上げる。
「はあ!? そんなんありかよ!?」
「龍に乗るとか、ずるくね!?」
叫び声が、後ろへ遠ざかっていく。
龍騎は進行方向を見据えた。
先ほどまで小さかった向こう岸が、みるみる近づく。
『ここで城戸が一気に来たぁ! 相棒に乗って峡谷を突破! こいつは速ぇぞ!!』
『竜も城戸の個性の一部だ。あの連携まで含めて、あいつの強みだな』
向こう岸の上で、龍騎が背から跳び下りる。
着地からそのまま走り出すと、ドラグレッダーも再び身体を小さくし、横に並んだ。
前方に見慣れた体操服が見える。
「見えた!」
真司の声が弾んだ。
まだ距離はある。
だが、もう背中を捉えた。
◆◆◆
最後の関門で、先頭の速度が落ちた。
轟が地面を見ている。
爆豪も、着地する場所を選んでいた。
地雷原。
出久の前方で爆発が起こり、土煙が上がった。
踏んだ生徒が悲鳴を上げて転がる。
競技用に調整されたものだ。
それでも、まともに巻き込まれれば足は止まる。
(最後に、これ……!)
フルカウルの出力を抑え、出久は足を止めた。
脚が重い。
呼吸を整える間にも、轟と爆豪は進んでいく。
ここで一度力を抜けば、身体は少し楽になる。
だが、その間に二人との差が広がる。
後ろからも、足音が近づいていた。
振り返る。
赤い鎧が見えた。
(城戸君……!)
もう、ここまで来ている。
ロボットを倒し、他の生徒を助け、それでも追いついてきた。
強い。
このまま同じように走ったら、追い越されるかもしれない。
出久は、腕の中の装甲板へ目を落とした。
目の前では、地雷が爆発している。
爆風で舞い上がった土が、こちらへ降ってきた。
装甲板。
爆発。
空中なら、地雷を踏まずに進める。
(……使える?)
出久はしゃがみ込んだ。
地面に薄く被せられた土を払い、埋まっている地雷の位置を確かめる。
ひとつでは足りない。
必要なのは、前へ飛び出すための勢いだ。
装甲板の縁で土を寄せ、露出させた数個の地雷を狭い範囲へ集める。
周囲の生徒の位置も確認した。
誰も、すぐ近くにはいない。
(乗る角度を間違えたら、上に飛ぶだけだ。身体を支えて、前へ……!)
板を構える。
脚へ、再び力を巡らせた。
◆◆◆
「緑谷?」
龍騎は、先でしゃがみ込んでいる出久を見つけた。
一瞬、脚を痛めたのかと思った。
だが、出久の視線は地面と前方を行き来している。
手には、ロボットの装甲板。
何かをしようとしている。
龍騎が地雷原へ踏み込んだ。
足元の土が盛り上がり、爆発する。
「うおっ!」
衝撃で身体が浮いた。
すぐに足を着き直し、前へ進む。
鎧があるから、競技用の爆発では大きな傷は負わない。
ただし、足場を崩されれば加速は止まる。
「ドラグレッダー、もう一回――」
その言葉を、轟音が遮った。
出久のいた場所で、土煙が膨れ上がる。
そこから、緑の光を纏った少年が飛び出した。
「うわっ!?」
龍騎が顔を上げた。
出久は装甲板を足元へ押しつけるようにして、空中を突き進んでいた。
爆風を受け止めた板ごと、前へ押し出されている。
その身体が、轟と爆豪の頭上へ迫った。
『緑谷、跳んだぁああ!! 地雷を使って自分を打ち上げやがった!!』
「デク……!?」
爆豪が見上げる。
轟も、空中の出久を目で追った。
龍騎は一瞬、呆気に取られた。
それから、笑った。
「お前、そんなこと考えてたのか!」
自分に教わった動きだけで勝負するのではない。
出久は、目の前にあるものから、自分の進み方を見つけたのだ。
嬉しかった。
けれど、感心している場合ではない。
「俺達も行くぞ、ドラグレッダー!」
龍が大きくなる。
龍騎はその背へ跳び乗った。
「追いつくぞ!」
低く身を伏せる。
真紅の龍が、地雷原の上を駆け抜けた。
◆◆◆
(このままじゃ、途中で落ちる!)
出久は前方を見た。
ゴールへ続く入口まで、まだ距離がある。
地面が近づいてきた。
後方では爆豪の爆発音が続き、さらに龍騎とドラグレッダーが迫っている。
誰も、諦めていない。
当然だ。
皆、本気で一位を狙っている。
出久は身体を捻った。
装甲板を両手で持ち直し、下へ向ける。
近づく地面。
土の下に見える、地雷の輪郭。
板を振り下ろす。
接触した、その瞬間。
脚を引き上げ、フルカウルで身体を支えた。
爆発。
強烈な衝撃が両腕を伝わる。
歯を食いしばった。
板を離す。
もう一度押し出された身体が、地雷原の外へ飛び込んだ。
「っ……!」
地面を転がる。
手を着く。
痛い。
けれど、動く。
出久は立ち上がった。
通路の先に、スタジアムの光が見える。
(あと少し……!)
走る。
後ろで、重い着地音がした。
「緑谷ぃ! 待てー!」
「待たないよっ!」
思わず答えた。
真司が笑った気配がする。
振り返らない。
そんな余裕はなかった。
脚へ力を巡らせる。
腕を振る。
特訓で何度も走った。
息が切れても、足が重くなっても、真司は隣にいた。
今は、その真司が後ろから迫っている。
勝ちたい。
教えてくれた相手だからこそ、ここで勝ちたかった。
◆◆◆
『さあ、先頭が戻ってくるぜ!!』
スタジアム中の視線が、入口へ集まった。
最初に飛び出してきたのは、緑谷出久。
そのすぐ後ろに、仮面ライダー龍騎。
観客席から歓声が上がる。
「緑谷少年ま!」
オールマイトが、思わず身を乗り出した。
緑の光を纏う身体は、最後まで走り続けている。
後ろから迫る龍騎にも、譲らない。
龍騎が腕を振った。
差が縮まる。
出久も、歯を食いしばって踏み込む。
ゴールラインへ、二人が飛び込んだ。
『一着、緑谷出久ぅうう!! 二着は城戸真司!! 最後は僅かな差だったぜ!!』
出久の足が、数歩先で止まった。
両膝に手を着き、肩で息をする。
聞こえていた。
確かに、自分の名前が呼ばれた。
「……一位」
声に出してみる。
まだ実感が湧かなかった。
その横で、龍騎が頭を仰いだ。
「くっそー! あとちょっとだったのに!」
「ガォォ」
「いや、お前は頑張ってくれたよ。俺が最初、のんびりしすぎた!」
ぼやく真司の後ろで、轟と爆豪もゴールする。
『続いて轟焦凍、三着! 爆豪勝己、四着!!』
「クソが……!」
爆豪が、出久を睨む。
途中まで自分達の後ろにいたはずの相手が、一位を取った。
しかも、ただのまぐれではない。
走る力も、跳ぶ力も、明らかに以前とは違っていた。
爆豪の掌から、小さな爆発が漏れる。
轟は呼吸を整えながら、出久と龍騎を見ていた。
城戸に気を取られていた。
だが、競うべき相手は一人ではなかった。
轟の視線を受けても、出久はまだ顔を上げられない。
全力で走り切った脚が、震えている。
その背中を、ぽん、と手が叩いた。
「やったな、緑谷!」
顔を上げる。
変身を解いた真司が、隣に立っていた。
「城戸君……」
「あの最後のやつ、びっくりしたぞ! 地雷で飛ぶなんて、よく思いついたな!」
「途中で、このまま走ってたら追いつかれるって思って……それで、あの板が使えそうだったから……」
息の合間に、出久が答える。
真司は頷いた。
「そっか。ちゃんと自分で考えたんだな」
その言葉に、出久の胸が熱くなった。
真司のおかげで、力を使えるようになった。
しかし、今日の最後の一歩を選んだのは、自分だった。
「……うん!」
「でも、次は負けないからな!」
真司が拳を差し出す。
出久は、一度その拳を見た。
それから顔を上げ、自分の拳を軽く合わせた。
「僕も、負けないよ」
真司が、嬉しそうに笑った。
観客席のオールマイトも、静かに口元を緩めた。
相手の背中を追いかけるだけだった少年が、今日は先にゴールへ辿り着いた。
その勝利を、隣にいる友人が喜んでいる。
「……よく頑張ったね、緑谷少年」
呟きは、観客の歓声に紛れた。
◆◆◆
続々と生徒達が帰ってくる。
飯田が走り込み、常闇が続く。
それぞれの個性を生かして関門を突破してきた者達が、順位を確かめて息を吐いた。
真司の傍らでは、小さくなったドラグレッダーが胸を張っている。
「ガォ!」
「分かってる。肉だろ? ちゃんと約束は守るって」
その声を聞いて、出久が笑った。
やがて、予選通過者が出揃う。
上位四十二名。
モニターの一番上には、緑谷出久の名前があった。
その下に、城戸真司。
出久は、もう一度その表示を見上げた。
嬉しい。
嬉しいけれど、これで体育祭が終わったわけではない。
ミッドナイトが、前へ進み出た。
「それじゃあ、予選を突破した皆には、次の種目に挑んでもらうわ!」
モニターが切り替わる。
表示されたのは、騎馬戦。
「騎馬戦か。今度はチーム組むんだな」
真司が言う。
出久も頷きかけた、そのときだった。
順位に応じて与えられるポイントが、説明される。
そして、一位の得点が映し出された。
一千万。
「……え?」
出久の笑顔が止まった。
周囲の空気が変わる。
次々と、視線がこちらへ向いた。
爆豪も。
轟も。
他のクラスの生徒達も。
先ほどまで勝利を祝ってくれていた歓声とは違う。
自分が、狙うべき相手になったのだ。
「い、一千万……!?」
「うわ。緑谷、凄い点数だな」
真司が、モニターと出久を交互に見る。
ドラグレッダーまで、興味深そうに出久の顔を覗き込んだ。
出久は、引きつった笑みを浮かべるしかなかった。
ようやく掴んだ一位。
その重さを知るのは、これからだった。
一年も放置してすみません。
またチマチマ投稿していきます。
では、また∠( ゚д゚)