こちらもよろしければ
相澤一葉の誕生日2022(https://syosetu.org/novel/266024/2.html)
今にも降り出しそうな空の下、わたしは少し急ぎ気味に歩みを進める。
行き先は通いなれた藤沢駅近くの喫茶店。
猫が隠れてしまう今日みたいな天気の時はよく行ってる。
百合ヶ丘以外でわたしが落ち着ける数少ない場所、なのかな?
口数の少ないマスターは好感が持てるしコーヒーを淹れるのが上手い。
今日はゆっくり読書でも――
「いらっしゃいませ♪」
「何でお姉さんがいるの!?」
わたしの安住の地はあっさりと失われた。
「失礼します、お冷とおしぼりです。ご注文はお決まりでしょうか?」
「ありがとう……オリジナルブレンドと季節のケーキで」
「かしこまりました」
白シャツに黒ベストと黒の蝶ネクタイのバーテンダー風のお姉さん、学食で働いているだけあって動きに無駄がない。
それに学外での接客だからか言葉遣いも丁寧。
この店にはわたし以上に夜お酒を飲みに通っていて、急に店を空けることになったけど予約が入っていて休業にできないマスターの代わりに今日働いているらしい。
バータイムに来たことは無かったからここで会うのは初めて……ここの豆を学食でも使ったことがあったから予想できなくは無かったか。
百合ヶ丘の職員の副業とか休みの日にも働いて大丈夫なのかとか色々思うところはあるけどそれより問題なのは――
「……にゃ」
「大人しくしててね」
いつもは店内を散歩したり昼寝したりする看板猫が今日は屋根付きケージの中。
命の恩人だからかお姉さんがとても懐かれてて仕事中じゃれ付かれると危ないからとか……自慢なの?
わたしなんか何回も通ってようやく撫でることができたというのに。
……持ってきた本でも読んで少し落ち着こう。
確か雨嘉が新作の漫画を描いたので感想が欲しいと言ってたな。
『あのヒュージ野郎海中に逃げやがったぜ、聖恋ちゃん!』
『任せろ来夢、チェンジアイアンセイレーン! オレのシュガールで三枚にブチおろしてやらぁ!』
『二人とも自由で華麗に殲滅(ミナゴロシ)よ!』
……いや誰よ。
何でルド女のリリィが凶悪な見た目のロボットに乗って、いやそれよりも言動がおかしい。
少女漫画風の絵柄なのに殺る気満々の来夢とか怖すぎる。
神琳は夜以外もしっかり雨嘉を抑えてくれよ。
これが出回ったら各所からクレームが来るんじゃ……。
この漫画は後回しにして「猫と仲良くなる方法」の本でも――
カランカラン
「いらっしゃいませ♪」
「あら?」「え、お姉さん!?」
ドアベルから少し遅れて聞きなれた声がしたのでそちらを盗み見ると今叶星様と相澤一葉、少し意外。
レギオンの隊長同士だから打ち合わせとかで一緒にいるのはおかしくないけど、今日の服装はわたしから見ても気合が入ってる。
叶星様はよりフェミニンに、一葉はいつもの印象とは逆にガーリッシュ。
どう見てもデートじゃ。
「うちの一年生達がお世話になっているみたいでありがとうございます」
「いえいえ」
「もし百合ヶ丘をお辞めになられたのなら神庭に口利きしますよ?」
「光栄ですけど今日はお手伝いなので。まだ百合ヶ丘で働いています」
「まぁ、それは失礼しました」
「叶星様ったら早とちりなんですから」
「一葉の前だから良い所を見せたくてつい、ね?」
「も~!」
お姉さんを出しにしていちゃついてない?
一葉なんてうっかりミスをした後の照れ隠し以上に赤面してるし。
二人の関係って……やめておこう、好奇心で猫は殺されたくない。
幸いわたしの席は店の奥だから入り口付近の席に案内された二人からは見えない筈。
さて本の続きでも――
カランカラン
「いらっしゃいませ♪」
「まあ、お姉様!?」「あら素敵な店員さんね」
またしても聞き覚えのある声!
今度は芹沢千香瑠様と宮川高嶺様……いやどういう組み合わせ!?
最初の二人以上に想像できないんだけど。
「お姉様、勤め先にお困りでしたら私が養いますから!」
「いや百合ヶ丘をクビになったわけじゃないからね?」
「残念……いえ何でもありません」
「ふふっ、千香瑠さんったらお姉さんのことが大好きなのね」
「一緒にいると癒されますよ?」
仲の良い友人、なのかな?
「あら、叶星がいるなんて偶然ね」
「まぁ、一葉ちゃんがいるなんて偶然だわ」
いや違う、もっと別方向にやばいやつだ。
「素敵な偶然ね。高嶺ちゃん達と相席しましょう、一葉?」
「あ、はい、叶星様がそうおっしゃるなら……」
あくまで自然体の叶星様と動揺が顔に出ている一葉。
これがくぐってきた修羅場の数の違いか、主に恋愛的意味で。
「奥の四人掛けの席に変えますね」
「ありがとうございます。ほら一葉も荷物持って」
「はっ、はい!」
……この不穏な空気の中平然と振舞うお姉さんも大したものだ。
まあこの人はこの人で人生経験豊富そうだし、後ろから刺された経験もありそう。
って、四人掛けの奥の席ってもしかしてわたしの隣じゃ!?
「まあ鶴紗さんもいたのね?」
「……ごきげんよう、叶星様」
まるで今初めて気づいたように本から顔を上げ立ち上がり挨拶をする。
こういう時感情表現が苦手だと相手に気取られ――
「面白い本を読んでるのね。私も好きよ、好奇心旺盛なネコチャン♪」
「んっ!」
意味あり気に微笑んでわたしのうなじを撫でる叶星様。
十中八九聞き耳を立てていたのがバレてる。
それでも聞こえてなかった振りで読書を続けるしか。
ええっと「猫と目を合わせてはいけません」か難しいね。
目を逸らしたら直ぐにいなくなっちゃうし。
「お待たせしました」
「ありがと」
注文したコーヒーとケーキが届いたので隣の修羅場のことは一旦忘れて食べ始める。
ケーキは朝出掛ける前にマスターが作ったらしくいつも通り美味しい。
コーヒーはまあまあかな。
飲みなれてる感があるので落ち着くけど。
「ご予約のアルトラ級フルーツパフェです」
「ありがとうございます」
「か、叶星様、流石に大きすぎませんか!?」
横の席にも……って何だあの大きさ!?
媽祖聖札サイズのバケツの様なガラス容器にフルーツやら洋菓子やらをふんだんに使ったパフェ。
表面がフルーツで完全に覆われていて中々次の層に辿り着かなそう。
確かに予約必須だね、というかどう考えても二人では食べきれないような……あっ!
「一葉お口開けて」
「か、叶星様!?」
千香瑠様と高嶺様の視線がある中、巨大なフルーツパフェから一葉の口元にイチゴを運ぶ叶星様。
一葉は……おっ、観念して口を開けて受け入れた。
流石は序列一位の決断力といったところか。
「私も食べさせてほしいな♪」
「ううっ、では失礼して」
パフェを崩壊させないように気を付けながらオレンジをスプーンですくい叶星様の口元へ運ぶ一葉。
盗み見ているわたしまでハラハラする。
奇麗な髪をかき上げて口を近付ける叶星様は何というか……煽情的。
「美味しい♪」
「それは良かったですね」
満面の笑みを浮かべる叶星様と横からの視線に居心地の悪そうな一葉。
いやそんな捨てられた大型犬みたいな顔でわたしの方を見ないで。
強化リリィだって怖いものは怖い。
「みんなも食べてね♪」
「じゃあ千香瑠さんにはサクランボを」
「では高嶺さんにはメロンを」
張り合うかのように食べさせ合う高嶺様と千香瑠様。
なにこの状況、早く帰りたい。
そう思って何となく窓の外を見るといつの間にか大粒の雨が降り出していた。
折り畳み傘だと防げないか……雨嘉の本は濡らしたくないのでこのまま耐え忍ぶしかない。
カランカラン
「いらっしゃいま――」
「全く楪の話が長いせいで降られてしまいましたわ!」
「純だって質問多かっただろ?」
あれは御台場女学校の船田純様と川村楪様?
何で百合ヶ丘の近くに……そういえばLGローエングリンが今日戦術サロンを開催するから色々なリリィを堪能できるって二水が興奮してた。
「先ずはタオルでもどうぞ」
「あら気が利きますわね、ってお姉さん!? ……まさかまた懲戒解雇?」
「おい純事実だとしても失礼だよ。治から聞いてるよ、良かったら御台場に――」
また勧誘されてる……どれだけクビになりそうだと思われてるの?
でも他のガーデンに行かれたら、ちょっと嫌だな。
本当にちょっとだけ。
「純も楪も一緒にどう?」
「あら、叶星に高嶺、それに――」
「お久しぶりです、純様!」
一葉が礼儀正しく立ち上がって挨拶をしたので私も続く。
何度も一柳隊を助けれくれたので礼儀正しくしないと。
言葉はきついのに面倒見は良いとか難儀な性格。
「全く揃いも揃って呑気なものね」
「あ、マンゴーいただき!」
「ちょっと楪! ……わたくしはブドウにしようかしら」
口調とは裏腹に何という仲の良さ。
そういえば叶星様、高嶺様、純様、楪様は元船田予備隊だったね。
色々あって解散したみたいだけど最初から仲が悪かったらそもそも結成してないか。
「モモは梨璃にあげますわ」
「ちょっと亜羅椰さん……んぐっ!?」
「わたしはパイナップルを♪」
「おい何で梨璃と亜羅椰までいるんだ?」
突然現れてフルーツを食べる遠藤亜羅椰、そして我らが隊長の梨璃。
ある意味楓以上に危険な存在が梨璃と一緒にいると心がざわつく。
「勿論梨璃とデートに決まっているわ」
「ち、違うよ! 亜羅椰さんにプレゼントを選びたいから一緒に来てほしいって……」
「どう考えても亜羅椰の方が選び慣れてるだろ?」
私の質問に人差し指を立ててチッチッチと舌打ち、ちょっとイラっとする。
「今回のプレゼント選びは梨璃が適任なの」
「……梨璃にちょっかいを出したらわたし、いや一柳隊が黙ってないから」
「あらあら可愛い子を黙らすのは得意よ、特にベッドの上とか」
挑発的な言動を続ける問題児、生憎とわたしは去勢された猫のように従順じゃない。
これ以上ふざけた態度を取るなら――
「へー、お姉さんのお薦めはコーヒーフロートなんですね♪」
「マスター手作りのアイスがコーヒーにピッタリですよ」
「じゃあそれをお願いします! 亜羅椰さんは?」
「「…………」」
一触即発の状態を無視するかのように注文をする梨璃に毒気を抜かれたわたしと亜羅椰。
これには二人とも苦笑いを浮かべるしかない。
梨璃の少しホッとした表情に自分の短気さを恥じる。
流石は年の功、本人にその気は無いと思うけど楓や梨璃のルームメイトの伊東閑以上に侮れない相手なのかも。
「…………では同じ物を」
「ご注文承りました。コーヒーフロート二つ入ります♪」
早いうちに梨璃には防犯ブザーかスタンガンでも持たせておこう。
カランカラン
「いらっしゃ――」
「あー、かなほせんぱい見ーつけた!」
店内に響き渡るまたしても聞き覚えのある声……今度は丹羽灯莉、後ろには少し雨に濡れ疲れ切った表情の定盛姫歌と土岐紅巴もいる。
なんで東京でもないのにグラン・エプレが勢揃いしてるんだ?
「見つかっちゃったわね、おめでとう。ご褒美はこのフルーツパフェ、たくさん食べて頂戴」
「わーい♪」
灯莉はお姉さんにタオルで拭かれつつもアンズをフォークで突き刺し――
「さーだもり!」
「ひめひめ――うぐっ!?」
姫歌の口にねじ込んだ。
ワイルドだな。
「げほっ、げほっ……何するのよ!」
「ぼくはユズにしようっと」
「スターリリィだらけで鼻血が……キウイを食べて貧血予防します」
鼻血流しながら食べても予防にはならないと思うが。
それにしてこの店がこんなに混みあってるのは初めて見た。
看板猫のストレスにならないといいけど。
「叶星様これは一体?」
「一年生の娘たちにこれを渡したのよ、一葉」
「これは歌詞、ではなくて暗号文ですか?」
「そうよ、サプライズ謎解きゲームで最後に見つかる暗号文。文の頭を縦読みすると?」
「……あっ、このお店の名前ですね!!」
一葉の声が一番大きい。
小動物なら即行で逃げそう。
それにしても叶星様は凄いな。
一年生の為にここまで手の込んだサプライズをするなんて。
それに引き換えうちの梅様は……真面目にしてれば格好良いのに。
わたしたちへの信頼なのかただの怠惰なのか区別がつかない。
もっと関係が深くなったらあるいは、なんてね。
「遅くなりました♪」
この店の制服を着た少女が店の奥から出てきた……何故かチャーミィのお面をして。
どこかで聞いたことのある声だけど微妙に思い出せない。
少なくとも私が今まで会った店員とは違う。
身のこなしもどことなく一般人ではない気がする。
「ひーちゃんどうしたの?」
「ちょ、ちょっと前髪を切りすぎてしまって、あはは」
「それなら仕方ないね。視界が狭そうだから転ばないように気を付けて」
「了解です!」
腰に手を当てて胸を張るとぷるんと。
小玉スイカでも入っているのか?
何となく自分の胸に手を……くっ!
大きくても動き辛くなるとは分かっているけどそれとは別の話。
やっぱり梨璃も夢結様くらい大きい方が――
「鶴紗さん、お口を開けてください!」
「えっ……はむ」
突然口の中に広がったミカンの甘味と酸味に目を細めてしまう。
そういえば静岡にいた頃は冬になるといつもミカンが段ボールで置いてあったな。
あの頃は食べ過ぎてよく手のひらが黄色くなって両親に心配されたっけ。
……懐かしいね。
「良かった。何だか鶴紗さん寂しそうな顔をしてたから」
「何でもないよ、梨璃。でもありがとう」
外の雨もそのうち上がる。
帰りに一柳隊の仲間に何か買って帰るのもいいかな。
わたしは言葉よりも行動だから。
今日はリリィがひしめき想いが交差した喫茶店。
たまにはこんなのもいいけど、次はのんびりと猫を膝の上に乗せながらコーヒーを堪能したい。
相手をしなくても良いなら横にいてもいいけど、ね。
感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。
<備考>
相澤一葉:いちご(尊重と愛情)
今叶星:おれんじ(愛らしさ)
芹沢千香瑠:さくらんぼ(あなたに真実の心を捧げる)
宮川高嶺:めろん(潤沢)
川村楪:まんごー(甘い囁き)
船田純:ぶどう(思いやり)
一柳梨璃:もも(チャーミング)
遠藤亜羅椰:ぱいなっぷる(完全無欠)
定盛姫歌:あんず(不屈の精神)
丹羽灯莉:ゆず(穢れなき人)
土岐紅巴:きうい(生命力)
ひーちゃん:すいか(かさばったもの)
安藤鶴紗:みかん(親愛)
好きなレアスキルは?
-
ルナティックトランサー
-
ファンタズム
-
鷹の目
-
天の秤目
-
テスタメント
-
ラプラス
-
縮地
-
Z
-
この世の理
-
ユーバーザイン
-
ブレイブ
-
円環の御手
-
ゼノンパラドキサ
-
レジスタ
-
ヘリオスフィア
-
フェイズトランセンデンス