秒読みの契約 ~あなたに三つの冠を~   作:雲ノ丸

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第6話 対抗意識

 セイウンスカイは、堪えきれない笑みを堂々と表に出して、パドックに上がった。青空と白い雲、夏の清涼な風を思わせる、ふわふわとした勝負服を身につけて、その上に羽織っていたジャージを脱ぎ捨てて、自身の仕上がりをお披露目してみせた。

 

「これは……」

「バランスが良い。これなら、来年のG1にも期待できるな」

「ただ、差しウマ娘にしては……少し物足りないな」

「しかしあの表情、間違いなく絶好調だ」

 

 ウマ娘の耳は非常に良い。そんな評判が聞こえてきて、彼女がますます笑みを深くすれば、おぉ、と歓声を上げる者が現れるほどに、その佇まいは堂々としていた。

 

(うーん、流石に筋肉までは誤魔化せないかー)

 

 そんな飄々とした内心を強気な笑顔の仮面に隠して、彼女は次の子に譲るように、パドックの舞台から降りた。ジャージを回収することも忘れていない。

 

 壇上から降り切る前に、彼女は最前列に陣取った、折り畳みの椅子に座ったトレーナーと視線を合わせる。しかし、交差したのは一瞬のことで、彼はすぐにお披露目されるウマ娘の肉体の方に視線を移した。

 

「ありゃ、振られちゃいましたっと」

 

 おふざけ気味に声を上げながら、セイウンスカイもまた、パドックの方に視線を向ける。ふむふむ、と訳知り顔で頷いてはみせるものの、彼女は生粋のレースウマ娘である。ウマ娘の肉体を見ただけで、正確な強みやら、成長やらがわかるわけではない。

 

 それでも、見ないよりはマシだとジッと見ていれば。

 

『キングヘイロー』

 

 とうとう、ライバルが登場した。

 深い緑の勝負服に身を包み、彼女はジャージを脱ぎ捨てると、優雅にカーテシーを披露してみせた。ひゅう、とセイウンスカイは口笛を吹きながら、ジッと彼女のことを見つめた。

 

(いや、これは素人目でもわかっちゃうなぁ)

 

 やれやれ、と首を振っていると、聞こえてくるのは。

 

「本当にジュニアの仕上がりか?」

「これは、来年の皐月賞ウマ娘は彼女かもしれないな」

「これだけ力強く、それでいて均整の取れた肉体とは……素晴らしいな」

 

 評価は一瞬にして塗り替えられた。他の全ての参加ウマ娘を差し置いて、彼女こそが王者だと言わんばかりの空気が形成されていく。

 

(ホント、神様は理不尽だよね。セイちゃん、結構頑張ったのになー)

 

 才能の差というのは、かくも残酷なものなのか。セイウンスカイとキングヘイローの肉体の完成度は、ジュニア期12月とクラシック3月ほどの差が存在する。

 それを、セイウンスカイは具体的には理解していない。それでも、隔絶した肉体の完成度であることは、否が応でも理解が出来た。レースウマ娘としての本能か、それとも勘か。圧倒的な差を、突風を受けるように感じ取った。

 

 ちらりと、もう一度トレーナーの方を見てみれば。

 

「……」

 

 彼は真剣に、キングヘイローのことを見ている。見透かすように、あるいは睨みつけるように。

 

(あー、おっかないなぁ……)

 

 普段の怠けたような瞳でも、猫を被って笑った瞳でもない。

 剣の切っ先を喉元に突きつけるような、あまりにも鋭利な瞳が、王者の姿を射抜いている。

 

「……あら」

 

 そんな瞳に、キングヘイローは気づいたのか。それともただの挨拶なのか。

 どこか意味深長な笑みを浮かべると、彼女ははじめと同じように、しかし先ほどよりもほんの少しだけ彼の方に向いて、カーテシーを披露して、ジャージを拾ってから壇上を降りていく。

 

 キングヘイローが壇上から降りた後しばらく、彼の視線はキングに向いていたが。

 

『――』

 

 次の子のお披露目になった時には、カチリと音を鳴らすように切り替わり、パドックに視線を戻した。

 どこか気だるげで、つまらなさそうな瞳が表に出たのも一瞬で。

 

 瞬きの後には、外向きの笑顔に戻っていた。

 

(ま、トレーナーさんには悪いけど)

 

 パドックのお披露目が終われば、選手入場口となっている地下道に、彼女はさっさと足を進める。

 後頭部で両手を組み、如何にもリラックスしてますよ、といった体を見せつける。

 

「セイちゃんは、今日も平常運転だよ」

 

 そして事実、彼女に気負うところは何もない。

 尻尾は気ままに横に揺れ、その唇は勝者の歌をハミングしながら。

 

 セイウンスカイは、レース場に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 ゲートに入る前。その時間がどうにも、セイウンスカイは好きになれない。

 柔軟運動をすることが苦なわけではない。怪我をしないためにも必要なことだ。運動をする前の仕込みだと考えれば、それはそれとして楽しむことが出来た。

 

『3番人気は――』

 

 ただ、これからゲートに入るんだ、ということを意識するとどうにも、気分が落ち込み気味になるのは避けられない。

 だから、柔軟運動をしっかりしているように見せて、彼女はゲートに最後に入る。

 

(……あ、結局、キングは絡んでこなかったなー)

 

 セイウンスカイもキングヘイローも、お互いにライバルであるという認識に齟齬はない筈だ。

 キングヘイローの性格上、ライバルに向けて宣戦布告だとか、開戦前に挨拶一つでもしてくると思っていたが、どうやら当てが外れたらしい。

 

『2番人気はこのウマ娘。セイウンスカイ! 今日も最初に抜きん出るのは彼女なのか!』

 

 それでも、セイウンスカイがやることは変わらない。

 

(だからって、私はムキになったりしないよ?)

 

 まぁそんなこと考えてないだろうけど、と胸の内で呟きながら。

 近づいてきた係員から逃げるように、彼女もまたゲートに入る。

 

『そして1番人気はこのウマ娘! キングヘイロー! 王者に相応しい貫禄、その魅力をこのレースで刻み付けることはできるのか!?』

 

「おー、煽りますなー」

 

 そう言いながら、彼女は時間を持て余し、ゲートの中でも柔軟運動に励んだ。目をつむって、軟体動物でも真似するように、道化の如き動きで体をほぐす。

 

(うん、よし)

 

『ゲートイン完了。出走の準備が整いました』

 

 彼女が頷くと同時に、出走前最後のアナウンス。

 二度、余裕をもってその場で跳ねてから、息を吐く。

 

 スタート姿勢に移り、瞑目は一瞬のこと。

 彼女は前を見つめて。

 

 目の前に光が差し込んだと同時に。

 

「ふっ――」

 

 一陣の風となって、いつも通り、誰よりも前に抜きん出た。

 

 

 

『スタート! やはり最初に飛び抜けたのはセイウンスカイ! 今日はどの位置まで下がるのか!?』

 

(それは、居心地がいい場所まで、ってね)

 

 ペースはわざと抑え気味。

 セイウンスカイは拳を握り締めて、息を吐くと共に親指を曲げる。その頃には、もう先行組の先頭にまで順位が落ちる。

 

 もう一度、親指を曲げれば先行組の後方にまで下がり。

 さらにもう一回それを経ると、差し組の先頭の位置まで流れることが出来た。

 

 その様はまるで一塊の雲が風に運ばれるように、どこまでもマイペースな流れであった。

 

(っとと、これ以上は、ね)

 

 握りこぶしを解き、指をピンと伸ばして彼女は走る。ペースを上げて、現状を維持できるだけの最低限の力で、脚を温存し始める。

 そして、その位置にまで来て初めて、捉える音があった。

 

(――おっと?)

 

 ドン、と大地を抉り飛ばす鈍い音が聞こえたかと思うと。

 セイウンスカイの横を、風が吹き抜ける。深緑の影は、彼女のやや前方に躍り出た。

 

(それは、早くないかなー?)

 

 先行組の最後方。そこまで位置取りを上げたのは、キングヘイローだ。

 ちらりとセイウンスカイが後ろを見てみるも、団子になっているような様子は何処にもない。

 

(うーん……?)

 

 内心で首をひねりながら前に視線を戻すと、キングヘイローは差し組先頭、先行組最後方の2バ身ほど空いたスペースに陣取っていた。それ以上前に行く様子はなく、掛かっている、とは言い難い状況だ。

 

 キングヘイローは、仕掛けてきたわけではなさそうだ。

 

(――なるほど、ね)

 

 

 

 意識されている。

 キングヘイローの位置はちょうど、先行組と差し組にできた狭間であり、彼女は今、どちらのタイミングでも仕掛けられる状況を作り出している。

 

 リードを許さない、と。

 堂々たる走りを見せながら、彼女はセイウンスカイを常に間合いに収めている。

 

 セイウンスカイが上がってこなければ、自分のタイミングでスパートを切るつもりだろう。

 セイウンスカイが上がってきたなら、それに合わせて足を進めて、手遅れになるような状況を作らないつもりなのだろう。

 

(やってくれたね、キング)

 

 冷静さに、思わず舌を巻く。

 

 既にレースは後半に差し掛かっているが、残り1000で仕掛けるのは、今のセイウンスカイでは早すぎる。かといって、手をこまねいていては地力をもってねじ伏せられるのは時間の問題だ。

 

 

 

 前を見る。

 先行集団は5人。コース内に寄っているウマ娘が3人と、その隣で並走するような形をとるウマ娘が2人。競い合えば、いずれは先行集団と団子になる。

 つまり、内側には壁があるような状況だ。駆け上がりながら競うなら、圧倒的に外側が有利なのは間違いない。

 

 即ち、キングヘイローより前に行くためには、他のウマ娘の壁に彼女をつっかえさせるのがベストであり。

 

(仕掛けるなら、今――ッ!)

 

 拳を握り締め、親指をわずかに曲げる。

 ほんの少し内に寄り、足を前に押し出し、呼吸を合わせる。

 

 そして、ちょうど第三コーナーに差し掛かったところで、セイウンスカイは前を目指した。

 

 

 

『セイウンスカイ! ここで上がってきた! もうエンジンが掛かってしまったのか!?』

 

 セイウンスカイはキングヘイローに並び立つ。お互いに一定の距離を保っているものの、セイウンスカイは外側、キングヘイローは内側と、競い合う形でペースは徐々に上がっていく。

 

『キングヘイロー、並走! セイウンスカイと並んで離れない!』

『良いライバル関係です。どちらが先に前に抜き出るか、勝負の決め手はそこになるでしょう』

 

 突風を切り裂き、前に、前にと並んで進む。

 外を進む彼女は、空に向かって飛んでいく鳥のように大らかに。

 内を進む彼女は、一歩一歩を喝采の如く響かせるように力強く。

 

 そんな二人の視線が、示し合わせたかのように交差する。

 

(逃がさないわ)

(主導権は譲らないよ)

 

 にやり、とお互いに不敵な笑みが顔に浮かぶ。闘争心を煽る競り合いに、腹の奥底から腕に、脚に、熱い血潮のように力が漲ってくる。

 

 セイウンスカイは、親指を曲げると同時に、キングヘイローよりも前に抜きん出る。

 これを、並走する形でキングヘイローが追いかけようとしたその瞬間。

 

 前を見たキングヘイローの顔が、確かに強張った。

 

『キングヘイロー! 正面に先行集団が迫っている! これでは団子状態――』

 

(掛かったッ!)

 

 第四コーナーに差し掛かる手前で、彼女は風を切る。一息に、外側から先行集団をごぼう抜きにしていき、残すは逃げの4人だけ。その一人も、先行集団先頭のすぐ前まで垂れていて、難なく追い抜いた。

 

 あと3人。それを追い抜くだけで一着に。キングヘイローは、もはやあの集団からは抜け出せない。よしんば抜け出せたとして、相当なロスと体力の消耗を強要される。

 

 そうなれば、もはや肉体の仕上がり具合など水泡と帰す。

 

 第四コーナーの遠心力に身を任せ、外に膨らみながらもその勢いのままに先頭集団を追い抜いていく。

 最終直線に出るより少し前。あと一人追い抜けば先頭だと、いよいよ、スパート体勢に入り加速する。最後の逃げウマ娘を捉え、横並びに――なる間もなく抜いた! と思ったその瞬間。

 

『第四コーナー終盤! ここで先頭は――』

 

(――えっ)

 

 ウソ……、とセイウンスカイは全力で足を進めながらも、思考の空白が出来てしまう。

 確かに埋めた筈だ。どうしようもないバ群に突っ込ませて、詰みの状況にしたはずだ、と。

 

 それが、どうだ。

 

『キングヘイローだ!』

 

 内側から、深緑の王者が飛び抜けた。

 キングヘイローは、その壁をまるでなかったかのように、先頭に躍り出てきたではないか。

 

(ッ、でも、ここまで来たなら消耗してるはず!)

 

 どうやってあの状態から抜け出したか、前に居たセイウンスカイにはわからない。

 それを考えるのは、レースが終わってからでいい。

 

 

 

 だから、ただ前に行け、と。

 最終直線に、二人の影が並走する。

 

 しかし、並走はほんの少しのこと。

 ジリ、ジリ、と。半歩の差が、一歩の差が、一歩半の差が。

 

 同じく走っている筈なのに、生じ始める。

 

(どうして!?)

 

 位置取りに間違いはなかったはずだ。

 『差し』として、そして『先行』としても、嫌な位置に追い込んだはずだ。まともなスパートを切れないような場所に、埋めたはずだ。

 

 突破されたのは、まだ理解できる。

 だが、それでもより鋭い末脚が残っている事実だけは、受け入れたくなかった。

 

(――ッ!)

 

 もう、最後の勝負は高低差2.4mの急坂だけだ。それ以外には、ここまで残した末脚と、地力の差が物を言う。

 

 がむしゃらに、前を目指すしかなかった。

 大きく口を開けて、腕を振るって、足をずっと前に押し出して。

 

 どれだけやっても埋まらない差を見ながらも、彼女は走るしかない。

 急坂を上るところで、足が鉛のように重たくなっても、止まらない。

 

 ――差は、縮まらない。

 

『キングヘイロー! 差し切って今、ゴールインッ! 集団を堂々と突き抜け、王者の風格を魅せつけた! 年末の中山で希望の星に輝いた!』

 

 セイウンスカイは数歩、王者には及ばなかった。

 

 

 

 

 

 

(でも、わかったよ。キング)

 

 悔しさを顔に滲ませながら、その裏でセイウンスカイはほくそ笑む。

 『差し』では敗北を喫してしまった。全力で、レース展開に合わせた策を弄したとしても、二人の差は埋まらなかった。

 

 しかしこの敗北には、値千金の価値がある。

 キングヘイローの身体能力、諦めない底なしの根性は、あまりにも驚異的だ。

 

 しかし、対抗意識が過剰過ぎるその性格は、何も変わっていない。

 

(やっぱり、映像見るのと実際に走るのじゃ、全然違うね。百聞は一見に如かず、ってね)

 

 呼吸が整ってきたところで、顔を上げる。

 会場は大きな歓声が響いており、キングヘイローを讃える声ばかりだ。それがより、勝者と敗者の溝を実感させる。

 

 電光掲示板を見ても、結果は変わらない。

 セイウンスカイは二着。キングヘイローとの差は、2バ身。

 

 その現実を見て、瞑目すること数秒。

 カチリ、と意識を切り替える。いつもの調子に自分をリセットしてから、彼女はキングヘイローに手を振りながら近づいた。

 

「いやー。キング、やっぱり速いねー。一足早いG1勝利、おめでとー」

「ありがとう。……でも、満足できる結果じゃなかったわね」

「えぇ! ちょっとー、セイちゃんに勝ってそれはないんじゃないのー?」

「勝ってしまったからこそ、ね。あの壁に阻まれたとき、前の子が運よく崩れてよれたのよ。そのおかげで、突破できた」

 

(……そっかー)

 

 そう言うこともあるのか、とセイウンスカイは一瞬驚いたものの、ストンと納得がいった。

 レースだからこそ、何が起きるかわからない。目の前に壁があったとしても、一人が崩れたくらいで突破されるのでは、余裕で食い破られる。

 

「アナタの思惑にまんまとハマったわ。それを、私は運だけで解決してしまった。そんなの、キングの走りじゃないわ」

 

(運だけ、じゃないかな)

 

 キングヘイローの走りは、まるで後ろから喝采が近づいてくるかのように、凄まじい圧迫感がある。それがジワリ、ジワリと見えないところから近づいてくるのだ。

 前のウマ娘が、それに怖気づいて崩れてしまうのもまた、仕方のないことだった。

 

「またまたー。私はキングの実力だと思ってるよ。ま、次当たった時は、お手柔らかにね」

「えぇ。次こそは、完全勝利をアナタに突きつけてあげるわ」

 

 そう言って髪を靡かせると、キングヘイローは観客の方に。

 セイウンスカイは、地下道の方に。

 

 それぞれが背を向けて、歩きはじめた。

 

 

 

 

 

 

 拳を強く、強く握りしめて。

 嫌に足音の響く地下道を彼女は進む。

 

 俯いて、それでも足取りはしっかりと、前に進む。

 

「お疲れ」

 

 地下道を抜ける前に、声を掛けられた。ちらりと、顔を上げずに視線だけ向けてみれば、彼女のトレーナーが壁に背を預けていた。

 

「うん。負けちゃいました」

「負け?」

「そう、負けです。セイちゃんの、敗北です」

「冗談」

 

 思ったより滑らかで、柔らかい手がくしゃりとセイウンスカイの頭に置かれた。

 わっ、と驚きに声が上がる。突然のことに、セイウンスカイは非難するように彼の方に視線を向けると。

 

「よく耐えた」

 

 恐ろしく真剣に、力を入れた囁きが耳を打つ。

 鋭く、前だけを見た瞳を、セイウンスカイは見た。

 

「君の勝ちだ、セイウンスカイ」

 

 その言葉が、セイウンスカイの心の傷によく沁みた。

 拳からは力が抜けて、逆立ち張っていた尻尾が、力を失い下に垂れる。

 

「そっか」

「あぁ、そうだ」

 

 意味があったんだと、セイウンスカイは強く実感する。

 なら、俯いているなんてらしくない、と。

 

 彼女は顔を上げて、トレーナーに向けてにやりと笑う。

 

「セイちゃんの頭、無断で撫でるとは、良い度胸をしてますねー?」

「おう」

 

 悪びれた様子もなく、彼は両腕を上げて降参だ、というポーズをとった。

 潔くて大変結構、とセイウンスカイはひとつ頷くと、彼女は地下道の先に向けて足を進める。

 

「ウイニングライブ、ちゃんと見てください。それでチャラにします」

「はいよ。ミスがないか監視してるからな」

「えぇー? そこは、セイちゃんの可愛い姿を見る場面では?」

「そりゃあ、後のお楽しみだろ」

「そうですか。……そうですね」

 

 でも、とセイウンスカイは振り向いて、不敵な笑みを浮かべて口にする。

 

「それはセイちゃんの勇姿ですから。可愛いセイちゃんは、今日だけですよー」

「そうか?」

「はい。期間限定ですから、見逃すと損ですよ?」

「じゃあ、そこも見とく」

「良い返事です。じゃ、行ってきまーす」

「はいよ」

 

 お互いに手を振った後、セイウンスカイは一歩を踏みしめる。

 地下道を抜けて、夕日に照らされながら。

 

「よし」

 

 彼女はひとつ頷いて。

 微笑みをたずさえながら、いつもの調子で前に進むのであった。

 

 

 


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