『仮面ライダーセイバー』完結という事で、この機にと思い執筆しました。私が執筆しているクロスオーバー小説にも繋がるちょっとした物語です。
是非とも気楽にお読み下さいませーー
この世界には、数多の物語が存在する。その種類は多岐に及び、小説やら漫画やらアニメやら色々。最近ではインターネット内でも物語が描かれている。
探してみれば、様々な物語が発掘できるほどに物語は充実しており、世界でも名の知れた物語から、知る人ぞ知る隠れた物語まで様々だ。
そんな有名所の物語の陰にあるのは、誰にも知られる事なく捨て置かれた数多の物語。既に忘れ去られた物語もまた、この世にはたくさんある。そしてそんな物語の中に籠った『心』『魂』『想い』を誰かが発掘して分かりやすく紡ぎ出す事で、今私達は数多の物語を手に取る事ができるのだ。
だからこそ、私達は忘れてはならない。今私達が物語を読む事ができるのは、ひとえにこの数多の捨て置かれた物語という礎があったからこそなのだ、という事を。
それを心に留め置きつつ、私はまた新たな物語を紡ごうと思う。それは、私が完結させたとある物語から連なる、もう一人の青年の物語であるーー。
「モウ少シダヨ」
ここは、数多の物語を繋ぐ次元の狭間。幾重にも枝分かれしたその通り道を颯爽と走り抜ける、二人の男女の姿がそこにあった。
「本当にこっちで合ってるの、ヘイグ?」
「ウン、間違イナイヨ。アノ世界ニ行ク時、アタシハアンタノ世界ヲ経由シテ通ッテ来タカラネ」
漆黒のフードに顔を包み、ロングコートで全身をも隠したその女性ーー青年にヘイグと呼ばれたーーは背中に背負った青年の問いににこやかな笑顔で答える。それが逆に怪しく感じたのか、背負われた青年はなんとも微妙な表情を浮かべた。
「ソンナ顔シナイデヨ、牙也。約束通リ、アンタヲ元ノ世界ニ送リ届ケルカラサァ、ネ?」
「……その笑顔が余計怪しく感じるんですよ」
ヘイグの言葉に余計に微妙な表情が出てきたこの青年。名を『雷牙也』と言った。
「アハハ、疑イ深イナァアンタハ。マ、アタシノ自業自得ナンダケドネ」
「分かってるならきちんとお願いしますよ?」
「ハ~イ」
暢気な返事を返しながら、ヘイグはその道を行く。
「だいたい僕に疑われるのが嫌なら、門矢さんに最後までついて来てもらったら良かったじゃないですか」
「仕方ナイジャン、アノ人コノ道ヲ途中マデシカ通ッテ来レナカッタンダシ……アタシニ文句言ワナイデヨ」
「そりゃそうでしょうけど……」
「……大丈夫、約束ハ必ズ果タスワヨ。彼トノ約束デモアルカラネ」
止まる事なくヘイグは話を続けながら、次元の狭間を走り抜ける。と、急にヘイグが足を止めた。
「ヘイグ?」
「……敵ダ。シッカリ捕マッテテ、一気ニ突破スルカラ」
「敵!?なんで俺達を……!」
「分カラナイ。トニカク、今ハコノ場ヲ切リ抜ケルワヨ」
その時、二人の目の前に次元の壁を破って巨大なスライム型の怪物が現れた。スライムは体の一部を伸縮させて槍のように降らせて二人に攻撃してくる。ヘイグは牙也を背負った状態のまま、スライムの攻撃を縫うように回避していく。
「ひええ!」
「マダ来ルヨ!怖ガッテナイデシッカリ捕マッテテ!」
恐怖のあまり頭を抱えて縮こまる牙也。そんな彼にヘイグが檄を入れる。スライムの度重なる攻撃を悉く回避しながら、ヘイグは少しずつ先へ先へと進んでいく。
「ヘイグ、まだなの!?」
「モウ少シダカラ落チ着イテ……アッタ、アソコダヨ!」
ヘイグが指差した先には、ちょうど二人が通れるだけの大きさの穴があった。
「アレガアンタノ世界ヘ続ク出口!飛ビ込ムヨ!」
「はい!うわっ!?」
しかしヘイグがその穴へ飛び込もうとした時、スライムの伸ばした体の一部が背負っていた牙也の体を捕らえてヘイグから引き離してしまった。
「シマッタ、牙也!!」
「ヘイグ、助けて!!」
ヘイグに助けを求めて牙也は必死に手を伸ばす。ヘイグもまた必死に手を伸ばすが、それもむなしく牙也はスライムに取り込まれてしまった。そのままスライムは自らが出てきた次元の穴へと一瞬で潜り込んでいった。ヘイグがそれを追って飛び込もうとしたが、一足遅く穴は閉じてしまった。ヘイグはそのまま次元の壁にぶつかり倒れ込む。
「牙也……!早ク追イ掛ケナイト……デモ一体何処ニ……一体誰ガ……!?」
助け出そうにも、先程のスライムに関しては何の情報もなく、自分達が狙われる理由もない。ましてやあのスライムが何処から来たのかも分からない。ヘイグは手も足も出ず、右往左往するしかなかった。
ワンダーワールド。それは、本をめくるように展開していく広大で不思議な異空間。そこは果てしない自然が広がり、様々な怪人・怪物が住んでいる。
そんな異空間の辺境ーー誰一人として訪れないであろう異空間の端の方にある洞穴に、一人の男の姿があった。ボロボロになったスーツに身を纏い、髪はすっかりボサボサになったその男は、洞穴の奥深くにある祭壇の前に立って何かを待っていた。その祭壇には一振りの剣が刺さっており、何やら怪しい輝きを見せている。そこへ何処からともなくあの巨大なスライムが男の後ろに現れた。スライムの体内には、牙也が気を失った状態でいる。
「ご苦労。よく連れて来てくれたな」
男がスライムに声を掛けると、スライムは体内に取り込んでいた牙也を吐き出すと、体の一部を伸ばして祭壇の前の石床に寝かせ、そのまま何処かへ行ってしまった。
「さぁ……魔剣を解放する儀式を始めようか」
男は石床に寝かされた牙也の手足を頑丈な錠で固定すると、懐から一冊の本と手のひらサイズの小さな真っ黒い本を取り出した。そしてその小さな本を牙也の胸部に乗せ、手に持った本に書かれた何語かも分からぬ文字を詠唱し始めた。
「う……」
と、寝かされていた牙也が目を覚ました。虚ろな目で辺りを見回し、自分が何処とも分からぬ場所にいると理解した途端に飛び起きようとしたが、錠で繋がれた状態の牙也は起き上がる事すら出来ない。
「な、なんだよここ……それにこれは一体……?」
牙也が必死に首を動かして辺りを見回すと、手に本を持った男が何やら詠唱している光景がそこにあった。
「おい、お前!何をやってる!?俺に何をするつもりだ!?」
牙也は声を張り上げて男に問い掛けるが、男は聞く耳をもたず、ひたすら詠唱を続けている。
「人の話を聞けよ!おい!」
必死になって男に問い掛ける牙也だが、男は話を聞く素振りも見せない。ずっと詠唱を続けている。やがて男が詠唱を終えたのか、手に持った本を閉じる。と、洞穴全体が大きく揺れ動き始めた。
「な、なんだ!?」
「フフフ……禁呪の詠唱は済んだ。後は生け贄を捧げて、あの剣を抜くだけだ……!」
「生け贄……まさか生け贄って俺の事か!?」
「今さら気づいたのか?まぁもう遅い、貴様はあの魔剣を甦らせる為の生け贄となるのだ!」
そう叫び、男は持っていた本を投げ捨てる。すると投げ捨てた本が漆黒の輝きを放ったかと思うと、祭壇に刺さっていた剣に吸収されていった。それと同時にドクン、ドクン……と心臓の鼓動がその剣から聞こえだした。
「なんだよこの輝きは……!」
「フフフ……この地に眠りし偉大なる暴龍よ。貴方に上等の生け贄を捧げる。そして目覚めたまえ……禁断の力を、我が手に!!」
男が叫んだその時、祭壇に刺さっていた剣が本と同じ漆黒の輝きを放ったかと思うと、ゆっくりと祭壇から抜けていった。そしてその剣はゆっくりと牙也の頭上まで浮遊してくると、あの小さな本が置かれた牙也の胸部に降りてきて、同じように牙也の胸部に乗った。
「な、何が……っ、ぐぁぁぁぁぁぁぁ!?」
その時、胸部の剣と本が漆黒の輝きを放ち、それは牙也の全身を覆っていった。それにより起こる激痛に、牙也はもがき苦しむ。そして段々と牙也の体は粒子となって剣と本に吸収され始めた。
「や、止めろ!俺はまだーーぐぁぁぁぁぁぁぁ!?」
必死の抵抗も空しく、牙也の体はそのまま剣と本に吸収され尽くしてしまった。やがて輝きが収まると、その場にはスーツの男と一振りの剣、そして一冊の小さな本が残された。その剣は圧倒的な禍々しさを常に放っており、本の表紙には無限大を意味する∞の形をした龍が描かれていた。
「フフフ……ハーッハハハ!遂に……遂に完成したぞ!私のーー私だけの剣が!これさえあれば、私はこの世界を救う英雄となれる……!」
狂った笑い声をあげながら、男はその剣と本を手に取ろうと近寄っていく。そしてそれに手を伸ばしたーー
「……汝ごときに、我が力を貸すとでも?」
「!?」
突如洞穴に響いた声。その声は、男の目の前に浮かぶ本から響いていた。その本はゆっくりと男に近づくと、、本に描かれていた龍の目がギラリと輝いた。その途端に、男はその輝きによって洞穴の外へ弾き飛ばされた。
「ぐはっ!?な、何故だ!?私は手順通りに封印を解いた!こんな事は起こらぬ筈だ!」
男はふらつきながらもなんとか立ち上がりそう叫ぶ。と、男を追い掛けて剣と本が洞穴から浮遊して出てきた。
「……汝の心を見た。汝の心は、確かに我が力を行使するに相応しいものだ」
「ならば何故!?」
「……汝は、生け贄を間違った。汝が生け贄にせんとした者。その者の心は、目映く光り輝いておった。我が力が霞むほどにな……そこにあるは、希望。信頼。そして、強き御霊。我はこの魂が、実に気に入った。故に、汝に力を貸す事はせぬ」
「ふざけるな!貴様を封印から解き放ったのは私だ!私に貴様を使う権利があるのだ!」
「笑止。その権利を決めるのは汝にあらず……それつまり、我だ!!」
その本は再び輝きを男に向けて放った。その目映さに、男は顔を背ける。やがてその輝きが晴れると、
「な……なんだこれは……!?なんだこの私の姿は!?」
男の全身は、猿を模した怪物の姿となっていた。、
「その姿が汝にはよく似合っておる。さて……かの青年を呼び戻すとしよう」
その声に導かれ、今度は剣が輝きを放つ。すると剣と本が浮かぶ場所のちょうど真下の地面に粒子が集合し始めた。集まった粒子はやがて人の形となり、それは牙也の姿となった。
「あ、あれ?俺、確か体が剣と本に吸収されて……」
「目覚めたか、我が新たな主よ」
その声に牙也が頭上を見ると、剣と本がゆっくりと牙也の目の前に降りてきた。
「あの時の、剣と本……!」
「フフフ……そう身構えるな。我は汝に力を貸そうと言うのだ。見やれ、あれを」
「あれ?」
牙也が前方を見ると、男が変貌した猿の怪物が恨みの籠った目でこちらを見ていた。
「何だよあれ!?」
「あれはメギド。この世に数多ある物語より生まれし怪物よ。汝はあれを倒さぬ限り、この世界からは出られぬ」
「嘘だろ!?どうすれば……!」
「案ずるな、青年よ。我が力を貸す。我を手に取ってみよ」
本にそう言われ、牙也は剣と本を手に取る。すると頭の中に膨大な情報が一瞬にして流れ込んできた。情報量が情報量故か、牙也は激しい頭痛に襲われる。かそれも一瞬の事で、頭痛はすぐに治まった。
「……理解したか?」
「……あぁ、バッチリだ」
「ウキーッ!!」
その時猿の怪物ーー猿メギドが牙也に襲い掛かって来た。今まで蚊帳の外だったので、遂にキレたのだろう。鋭い爪で引っ掻き攻撃をしてくる猿メギドに対し、牙也はなんとか攻撃を回避して距離を取る。
「あれ倒さなきゃ、俺は元の世界に戻れないのか……」
「然り。が、倒したとて汝の元いた世界に戻れるとは限らぬぞ?」
「……何もしないよりはマシさ。だから……俺にその手を貸してくれ」
「良かろう。では、存分に戦うと良い」
牙也は決意に満ちた表情を見せる。そしてその右手に持った小さな本を開いた。
《エンドレスウロボロス》
《かつて世界に数多広がる物語は、たった一体の神獣によって永遠の輝きを放っていた……》
音声が響き渡ると、その本を一端閉じ、牙也は左手に持った剣にリードさせた。
《エンドレスリード!》
リードさせた本を腰に巻かれたドライバーのバックルスロットに装填し、牙也は左手の剣を両手で持ち顔の正面に構える。そして剣の柄の部分でバックル天面のスイッチを押した。
《幻惑剣夢幻!》
「……変身」
《Never Ending Story,Human,and World!Want Blood and Illusion!エンドレスウロボロス!!》
牙也がその剣を十字に振るうと、漆黒の斬撃と共に∞を模した龍が現れて牙也の全身を覆い、その姿を変えた。漆黒のスーツとその上に展開した錆色の軽装の装甲。最初に飛ばした十字の斬撃は顔の複眼を形成した。
《夢幻翻訳!狂い咲く数多の幻が、永遠を司る龍と成りて全てを従える!!》
「仮面ライダーダイン……それが汝の名だ。ちなみにドライバーは『魔剣スレイフドライバー』と言う」
「そして剣は『幻惑剣夢幻』か……これからよろしくな」
「ウキーッ!!」
その時、猿メギドが再び爪攻撃をしてきた。牙也はそれを幻惑剣で防ぎ、逆に斬りつける。更に素早く背後を取り、斬撃と突きで的確に猿メギドを攻撃していく。その動きは初めてとは思えない程に洗練されたものであった。
「ウキキ……ウキャッ!!」
斬撃を立て続けに食らった猿メギドは、今度は尻尾を長く伸ばして牙也を拘束しようとして来た。それを牙也はメギドに接近しながら次々と斬り裂いていった。哀れ猿メギドの尻尾はすっかり短くなり、見る影も無くなった。
「よし、止めだ!」
《エンドレス必殺読破!エンドレス必殺撃!》
ベルトのバックルに装填された本を閉じ、もう一度魔剣の柄でバックル天面のスイッチを押し、牙也は必殺技を発動した。牙也は大きく跳躍し、猿メギドに向けてライダーキックを放つ。猿メギドは尻尾を伸ばして防ごうとするが、伸ばした尻尾は全て蹴り飛ばされていく。そして胸部にキックがヒットすると、
「ウキァァァァァーッ!?」
猿メギドは意味不明な叫び声をあげながら段々と体が収縮していく。そして、
《You Aren't Over》
の音声と共に、その体は一冊の小さな紅い本となって地面に転がった。牙也がそれを拾い上げると、その本の表紙には『クレイジーモンキー』と書かれていた。
「倒したメギドが本になった?」
「『幻惑剣夢幻』は、倒したメギドを『ワンダーライドブック』にして保存する力を持つ。それ故に我は危険視され、この地に封印されたのだ……この世界に存在した、我という『魔剣』の伝承と共に」
「なるほど、そんな力があるのか」
牙也はバックルから『エンドレスウロボロスワンダーライドブック』を外して変身解除した。
「で?倒したは良いが、どうやってここを出るんだ?」
「まぁ待て」
その声に導かれたのか、牙也の目の前に突如次元の穴が現れた。
「ここを通れば、いずれは汝の元いた世界に戻れよう」
「いずれは、か……いつになるやら」
「我にも分からぬ。さて、我の役目はここまでだ。後は汝の力のみで頑張るのだぞ」
それを最後に、声は聞こえなくなった。牙也は腰に挿した『幻惑剣夢幻』を改めて見る。その禍々しさは牙也の意思を今にも呑み込まんとしているようにも感じさせた。
「……行くか。出来れば一発で帰れると良いが……まぁそんな都合良く事が回る訳もないしな。気楽に行こうかね」
剣から目を反らし、飄々とした態度で牙也は目の前の次元の穴に入っていく。そして穴は閉じ、その場にはだれもいなくなったーー。
かの鎧武者の物語がまだ続いていくように、彼の物語もまた、これからも続いていこうとしていたーー。