トレーナーはウマ娘に……。   作:あさのひかり

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皇帝との再会

 朝日が差し込むトレセン学園通学路。

 まぁ通学路と言っても、寮のある敷地と道を一本だけ隔て、学園に通じているので、駅から歩くとかそう言った類ではない。

 しかし、学園の敷地は広い。校舎までたどり着くのは一苦労だ。

 直線の桜の並木道が校舎まで続いている。

 登校時間だけあって、周りを歩く生徒たちの数は多い。しかし、俺はもう恐れる必要はない。

 今日から正式にここのウマ娘トレーナーとして採用されてるのだから。もう姿を見せつけても問題ないのだ。

 問題はないのだが……。

 

「ご、ごご、ご機嫌よう……! お姉さま……!」

 

「えぇ、ご機嫌よう」

 

「きゃーっ! 挨拶してもらっちゃったー!」

 

 ……俺はいつから、お嬢様学校のお姉さまになってしまったのだろうか。

 さっきから、あり得ないほどの視線と、声かけに晒されているのだが、その全てが創作物にありそうな『お嬢様的挨拶』なのだ。

 きっとみんな、俺のことを、どこかのお嬢様と勘違いしてるんだろう。

 マックイーンに教わったように、尻尾の先まで意識を集中して、お上品を装って歩いていたせいかもしれない。まさか、今更変えるわけにもいかないので、このまま突き通すしかなくなった。

 羨望とか、好奇の目に晒されるとはまさにこの事。平常心を保つしかない。と歩みを進めていく。

 

「お姉さまーっ!」

 

 そんな黄色い声に混ざって聞こえてくる声。

 振り向くと、とてとてと走ってくるライスの姿を見つける。その顔は満面の笑みだ。

 

「あら、ライス。おはようございます」

 

「……?」

 

「ライス……? どうしたの……?」

 

「はわぁ……おひめさまだ……」

 

 ライスはキョトンとした表情をした後に、カーッと顔を赤く染めた。その理由はきっと、俺の口調に慣れていないからだろう。

 

「……あのな、一応外ではこういうキャラで行こうかと思ってさ。その方がバレにくいだろ?」

 

 ライスの大きな耳元で、そっと小さくささやく。彼女は納得したように、うんうんと頷いた。

 

「とっても素敵だよ! お姉さま!」

 

「ふふっ、ありがとう」

 

 ライスの頭を撫でると、なぜか周りから歓声が上がる。舞台の主役になったようで恥ずかしい。

 とりあえず、ここから離脱しないと身が持たない。

 

「行きましょうか。ここに居たら皆さんの登校の邪魔になってしまいますし」

 

「そっ、そうだね……」

 

 ライスも周りの視線に気づいたのか、その耳を垂れさせて警戒しているようだった。

 彼女と一緒に足早にその場所を離れる。

 

「どうやら就任のあいさつをしないといけないみたいなのよね……」

 

 歩きながら、気が重い。といった感じを見せ付けるように言い放つ。

 

「全校集会でだよね……? お姉さま大丈夫? 緊張しない?」

 

 ぴったりと隣にくっついて歩くライス。

 俺の歩幅にあわせていたせいか、歩き辛そうにしていたので歩幅を合わせる。

 

「緊張はするけど、まぁ、みんなやることだものね」

 

「ライスが手伝えたらなぁ……」

 

「気持ちだけもらっておくわ。一生に何回もやることではないし……でも」

 

「でも……?」

 

「さっきみたいに、好奇の目で見られるのは、一生慣れないかも」

 

 どこぞの百年に一度の美ウマ娘(ゴールドシチー)とか、雑誌に載ってるモデルとかはなぜ平気なのだろう。鋼の心臓でも持ってるんだろうか。

 俺はきっと、一生慣れることはないだろう。

 

「ライスが守るから安心して?」

 

「それは頼もしいわ。本当であれば、私がライスの騎士様になるべきなのだけれど」

 

「いや、お姉さまはどう見てもお姫様だよ」

 

 ぼそっ、何かを呟くライス。

 

「ん、何か言ったかしら?」

 

「ううん! なんでもないよ? ほんとだよ?」

 

 他愛ないやりとりをしているうちに、校舎の近くへとついた。

 ライスと一緒にいたおかげか、あまり声をかけられずにすんだので助かった。一人だったら、もっといろんな娘に声をかけられていたかもしれない。

 ライスが騎士様というのも、あながち間違ってないかもしれない。

 

「じゃあライス。私は生徒会室に向かわないといけないから」

 

「うんっ! また後でね? お姉さま!」

 

 ライスはそういうと、尻尾を揺らしてとてとてと駆けていく。なんであんなに一動作一動作が可愛いんだろうか。

 いつまでもその後ろ姿を見守っていたいが、そういうわけにもいかない。

 

「さてと、行きますか……」 

 

 俺は足早に職員用出入り口へと向かうと、なるべく声をかけられないルートを選択して、生徒会室へと向かう。

 わざと主要部から一番遠く、人が通りにくい階段を上がり、人がいたら避けながら生徒会室の扉の前へと着く。

 ここ数年、会いに来れずにいた『この部屋の主』に、一体どんな言葉をかければいいか考え、小さく深呼吸して、扉を軽くノックする。

 

「どうぞ」

 

 凛々しい声が、しっかりと聞こえた。俺は部屋へと入っていく。

 前に来た時と一寸たりとも変わらない生徒会室。あの女帝様が整理しているから当たり前か。と思いつつ、椅子に座って笑みを浮かべているウマ娘と目があった。

 

「随分と可憐なお客様だね」

 

 周りを見回すと、彼女以外はいないらしい。

 

「エアグルーヴは集会の調整を。ブライアンも今日は珍しく手伝っている」

 

 俺の視線の意味を感じ取ったのか、彼女は聞いたわけでもないのに答える。

 ゆっくりと立ち上がり、こちらへと距離を詰めてくる。

 

「それで可憐な尾花栗毛のウマ娘さん。私に何かご用かな?」

 

 あまり変わらない身長になってしまったせいか、彼女の視線をダイレクトにうける。

 

「やめろよルドルフ。話は聞いてるんだろ?」

 

 俺はそんなやりとりに、腕を組んでジト目で彼女を見つめた。

 彼女の名前はシンボリルドルフ。

 もはや説明不要なほどの名バだろう。

 彼女の功績は『無敗三冠』

 そして前代未聞の『7冠』までを達成している。

 10人に聞けば10人が名バと言うであろうウマ娘が彼女なのだ。

 

「ふふ、姿は変わっても、相変わらずだねトレーナー君」

 

 いつもの凛々しい姿からとは思えないほどに、可愛い笑みを見せるルドルフ。

 

「ルドルフも相変わら」

 

「ルナ」

 

 言い終わる前に、ルドルフは俺の口に人差し指を立てる。

 

「……ルナも相変わらずで安心したよ」

 

 ルナとは、彼女が信頼している人にだけ呼ばせている名前だ。

 どうやら、彼女が小さい頃に呼ばれていた名前で、その髪の三日月のような流星に由来するらしい。

 この名前を呼ぶことを許されているのは、この学園でも、ハダルの先輩と俺ぐらいらしい。

 

「だいたい2年ぶりぐらいか?」

 

「正確には2年と48日ぶりになるね」

 

 そこまで正確に覚えているとは、少し背筋が寒く感じる。

 

「どうだ? ドリームトロフィーは。やっぱり楽しいか?」

 

「あぁ、みな名バばかりだ。とても心が踊るよ」

 

 彼女は学園にいながら、トゥインクルシリーズからプロリーグに移籍している。

 競争ウマ娘は基本的に、トゥインクルシリーズで成績を残し、衰えが緩やかな場合プロリーグへと進む。

 それがドリームトロフィーリーグなのだ。

 

「しかしだ……」

 

「んっ……」

 

 ルナは俺の顎に手を添えて、クイッと持ち上げて顔を近づける。いわゆる『顎クイ』と言うやつだ。

 まさかこんな事されるとは思っていなかった。

 そして、澄んだその瞳を見てしまえば、かーっと顔が熱くなる。

 ダイレクトに彼女の匂いを感じて、思考が乱される。

 今までは絶対にされなかった行為に、俺は顔を真っ赤にしてしまう。

 

「凄凄切切。ゴールに君がいないレースは実に寂しいよトレーナー君」

 

「ルドルフっ……」

 

「ルナ」

 

「るな……やめろよからかうのは……」

 

 吐息が絡まるほどの距離。

 彼女から視線を逸らそうとするが、離してはくれない。

 恥ずかしさからか、耳を垂らしてしまう。

 

「私はてっきりプロリーグに行っても、君がハダルを引き継いで、私と共に来てくれると思っていたのだが……」

 

 ゆっくりと手を離すルナ。ようやく解放されて、俺は彼女に背を向ける。

 

「俺には勿体ないよ。先輩の威光を借りるのも、皇帝の隣にいるのも」

 

「行き過ぎた謙遜は良くないよトレーナー君。君がいたから私は怪我から立ち直れたし、ハダルのトレーナーも救われた」

 

「あれは……がむしゃらだっただけで」

 

 2年間――

 ハダルで過ごした2年間。俺は最終的にはルナの補佐的立ち位置にいた。

 怪我して焦っていた彼女の治療を補佐して、彼女の成績不振で荒れていた、先輩を殴り飛ばして立ち直させたりと……。

 今では考えられない様な、熱い事をやっていたのだ。

 

「そのがむしゃらに私は惹かれたんだよ」

 

 ルナは後ろから俺を抱きしめる。

 またもや突然のことに、耳がピーンっと立ってしまう。

 背中に感じる温かさ。体の柔らかさに無意識に尻尾が揺れる。

 

「君は私の威光ではなく、自らの力でウマ娘達を育てようとした。結果、ターフの名優や素晴らしいウマ娘達を発掘してきた」

 

 耳元で囁くルナの声はどこまでも優しい。

 

「結果は示せた。もう私の元に戻ってこないかトレーナー……。いや、セレス?」

 

 なんとも甘い誘いだが、俺はルナの手を振り解いて、少し離れた。

 

「まだ」

 

 俺にはやるべきことがあるんだ。

 ルナの誘いは嬉しかったが、俺はそれを受けるわけにはいかない。

 

「やるべき事は終わってないんだ。俺の新しい名前は、レクスセレスティア(星を司る天球の王)

 

 ルナに向き合って、確かな眼差しで見つめ返す。

 

「俺のもとに集ってくれた星たち。彼女たちが輝ける手助けをしなくてはいけないんだ」

 

 あの子達の信頼を裏切ることは絶対できない。

 

「だから……すまないルナ」

 

 俺の言葉に目を見開くも、瞳をとじて満足そうに笑む。

 

「君は今……いや、生まれながらにして王なのだね」

 

「彼女たちが幸せになる手助けをしたいだけのお節介焼きだよ」

 

 ルナは少し考える仕草をすると、俺の頬に手を添えて。

 

「トレーナー君は私の夢を覚えているかい?」

 

「すべてのウマ娘の幸福……だったか?」

 

 ルナの補佐に立ったときに聞かされた言葉だ。皇帝は言う事が大きいなと思ったのを覚えている。

 

「そう。つまるところ、私も相当なお節介焼きと言うことだよ」

 

 優しい笑みを浮かべたまま、頬を軽く撫で回される。その手は温かい。

 

「そして、君はいまウマ娘だ」

 

「なんだ? 俺の幸福も願ってくれるのか?」

 

 冗談ぽく言うが、ルナは真剣な表情で俺を見つめ。

 

「もちろん。君にも幸せになってほしい。それは君が人だった時から思っていたけれどね」

 

「よせよ恥ずかしい……」

 

 そんな事を惜しげもなく言えるから、勘違いされるんだぞ。と言いたくなったが飲み込む。

 しかし、俺が本当にウマ娘だったら、間違いなく靡いていただろう。

 

 そんな話をしているうちに予鈴が鳴った。

 

「ふむ、楽しい時間というのは早く過ぎるものだね。この位にしておこう」

 

 頬から手が離れたとき、少しだけ名残惜しく思ってしまった。これが彼女の魔力だ。

 

「そろそろ集会の準備ができる頃だろう」

 

 ルナは表情をキリッとさせて、いつもの皇帝としての顔を見せる。

 

「では行こうかセレストレーナー。準備はいいかな?」

 

「もちろん。行きましょう皇帝様」

 

 俺も深呼吸をすると、気持ちを切り替えるのだった。

 

………………

…………

……

 

 壇上の脇にある控え場所に行くと、そこには見知った生徒会の残り二人が立っていた。

 エアグルーヴ、ナリタブライアン。この二人は生徒会を構成する重要なメンバーだ。

 特にエアグルーヴの事務処理能力は、俺なんかよりよっぽど高い。もし可能なら秘書にしたいぐらいだ。

 そう思うトレーナーは何人も居るだろう。

 

「会長……にわかに信じがたいが……本当に?」

 

「あぁ、そうだ。彼女がトレーナー君。改めレクスセレスティアだ」

 

「ふむ」

 

 少し眉をひそめて近づくエアグルーヴは、俺の顔をまじまじと見て、突如として耳を触ってくる。

 

「ひゃわぁっ!?」

 

「っ、変な声を出すなたわけっ!」

 

 敏感な部分をいきなり触られてはそうなるだろう。と抗議の視線を送る。

 

「驚いた……本当なのだな……」

 

「ちょぉ……」

 

 コリコリと耳をさわる手つきに、俺は情けない声を上げる。

 

「エアグルーヴ。そろそろやめてやらないか?」

 

「はっ、すみません会長……」

 

「ふぁぁっ……」

 

 背中を駆け抜けたむず痒さに、俺はその場にぺたんと座り込む。なんてことをするんだこの女帝さまは。

 

「大丈夫か?」

 

 意外にも心配してくれたのはブライアンだった。彼女はしゃがみ込んで肩に手を置くと、優しくさすってくる。

 

「す、すまん、やりすぎた……」

 

 エアグルーヴも顔を真っ赤にして、視線をそらす。そんな顔をするぐらいならやらないで欲しかったのだが。

 

「エアグルーヴ。皆を待たせているから、そろそろいいだろうか」

 

「っ……はい、会長っ!」

 

 ルドルフの言葉に、表情をいつものようにキリッと戻して、俺に手を差し伸べて立たせてきた。

 

「準備はできています」

 

「さすがだなエアグルーヴ。では手筈通りに進めるとしよう」

 

「ふぅ……」

 

「トレーナー君も息を整えておいてくれ。私が呼んだら出てきて挨拶を頼む」

 

 何回か深呼吸をして息を整えると、頷いて意思を示す。

 

「それではその段取りで。行ってくるよ」

 

 ルドルフはそう言うと、そのまま壇上の脇から出ていく。

 少し聞こえていたウマ娘達の会話が静まりかえり、ルドルフが流暢に話し始める。

 相変わらず手慣れている。あんな風に話せるのなら苦労はないだろう。俺はその姿を見守りながら、壇上の脇から、こそっと体育館を見つめる。

 この体育館は、ファン感謝祭などのイベントでも使われるほど広く、トレセン学園の全員、約2000人のウマ娘と職員を収容可能だ。

 イベントではコンサートホールにも使えるぐらい、音響にも力が入れられている。なんでも理事長が私財をつぎ込んで改修を行っているとか。

 おかげで、マイクを使っているとはいえ、ルドルフの声もよく通る。

 一番奥にいるテレビ局のようなカメラを構えてる人たちにも……。

 あれ……?

 

「なぁ、エアグルーヴ」

 

「なんだ?」

 

「なんか奥の方に報道陣いない?」

 

 いかにも報道関係者のような人たちが、最後方に陣取って、カメラを壇上へと向けている。

 

「あぁ、それがどうかしたか?」

 

エアグルーヴは、さも当然といった感じに言ってみせる。

 

「なんで……?」

 

「なんでって……はぁー、貴様いい加減自覚したらどうなのだ」

 

「自覚……とは?」

 

 エアグルーヴは、大きくため息をついて俺をキリッと睨む。どうやら余計なことを言ってしまったらしい。

 

「お前はあの名優(メジロマックイーン)を育て上げた有名トレーナーだろうが」

 

「それが……?」

 

「はぁーー。たわけが……」

 

 さらに大きいため息をついて、呆れ顔でこちらを見つめる。

 

「お前はインタビューなどから逃れてきただろうが、そんなマックイーンの所属しているチームのトレーナーが変わるのだ。メディアも、その後のトレーナーが誰なのか、気になるのは当然だろうが」

 

「そんなもんなのか?」

 

「そんなものだ。マックイーンの天皇賞春の連覇以降、アジェナは注目のチームの一つなんだぞ」

 

 言われてみれば、あれ以降インタビューの依頼が殺到していたはず。マックイーンに負担がかからない数は受けていたが、俺へのインタビューは極力控えていた。

 正直、苦手でもあったし……。

 

「理事長曰く、トレーナーの透明性も視野に入れたいらしくてな。学園の方針に従いたいなら、今後はメディアの取材もしっかりと受けることだな」

 

「うわぁ……」

 

「なんだその間の抜けた顔は」

 

 めんどくさい。と言葉を続けようと思ったが、エアグルーヴの喝に飲み込む。

 しかしまいった。適当に挨拶を乗り越えようと思っていたが、理事長(お母さん)の顔もある。

 これだけメディアが来てるのだから、下手なことはできない。

 実にめんどくさいが、頬を軽くポンポンとたたいて気合を入れる。

 

「では、登場してもらおう」

 

 前挨拶が終わったのか、ルドルフはこっちを見て軽く微笑む。

 

「ほら、行ってこい」

 

「……気張るなよ」

 

 黙っていたブライアンも俺の背中を押してくれる。少しよろけるように壇上に出ると、俺はゆっくりとルドルフのもとへと向かう。

 ルドルフは俺にマイクを譲る。それを受け取って正面を見ると、大量のウマ娘の視線を一点に受ける。

 様々な反応を見せるウマ娘達。

 

 「はー」と感嘆の声をあげるだけのもの。

 顔を真っ赤に染めるもの。

 なぜかわからないが、羨望のような視線をくれるもの。

 

 俺はルドルフの方を見ると、小さく頷いて見せる。

 

「……私っ」

 

 キーン――

 

 緊張していきなり声を出すと、マイクがハウリングしてしまう。

 一発目から失敗してしまったことに、顔がカーッと熱くなり、真っ赤に染めてしまう。

 

「えへへ……。えっと、失礼しました……」

 

 えへへ。と声を上げ苦笑を浮かべ、いつもの癖で頭を軽くかく。

 

「はうぅぅっ」

 

 それを見て、最前列の生徒が顔を真っ赤にして倒れてしまった。

 両サイドの生徒がしっかりと支えて、その場から引きずられていく。

 ……集会で倒れる子いるよね。うん。

 

「初めましてみなさん。今日からトレーナーとして、このトレセン学園に採用された、レクスセレスティアと申します」

 

 つかみは大事だ。テンプレート通り、丁寧な言葉で続ける。

 

「日本最高峰の走者養成機関で、みなさんと共に頑張れることをとても嬉しく思います。私は前任のトレーナーから引き継いで、チームアジェナを担当することになります」

 

 そう言った瞬間、記者席から大量のシャッター音が聞こえてくる。

 

「……でも、もし相談があるのなら、チームに関係なく頼ってもらっても構いません」

 

 とりあえずいい子ちゃんを演じるように、言葉を続けた。

 

「私はウマ娘でありながら走者ではなく、トレーナーとしての道を選びました。でも、心はいつも、走者である皆さんと同じようにターフの上にあります。共に切磋琢磨していきたいと思っています」

 

 言葉としてはこんなものか。と一度、体育館の全体を見回して。

 

「まだまだ未熟ですが、よろしくお願いします」

 

 そしてマックイーンに習ったように、完璧なお辞儀をして見せる。

 1テンポ遅れて、トレーナーの席から拍手が起こり、それが伝播して体育館を包み込んだ。とりあえず挨拶は成功といった感じか。

 

「皆、静粛に頼む!」

 

 ルドルフの声で拍手は徐々に減っていく。

 

「セレストレーナーありがとう。今回の全校集会の内容は以上になる。記者席が退出した後、皆、個別の指示に従ってくれ」

 

 手慣れた様子でルドルフは俺の退出を促し、あとの挨拶を実行していく。

 控えに戻った俺は、深くため息をついて、二人に迎えられた。

 

「ふん、なんだできるではないか。いつもそうあれば言うことはないのだがな」

 

「だいじょうぶか」

 

 エアグルーヴ、ブライアンが、二人なりにねぎらいの言葉をくれる。1日分ぐらい疲れたが、まだ朝も始まったばかりだ。

 

「ふふ、実に凛としていたな。まさに音吐朗朗。素晴らしい挨拶だった」

 

 俺に遅れてルドルフが戻ってくると、ぽんと頭を撫でられる。子供扱いされて恥ずかしいが、言い返す気分にもなれなった。

 これからはメディアの取材も受け入れなくてはいけないのか。そう思うと気分もさらに重くなる。

 

「あとは頼んだよエアグルーヴ、ブライアン」

 

「わかりました」

 

「あぁ」

 

 そう言われると、彼女達二人は撤収作業の手伝いへと向かって行った。

 

「さて、トレーナー君。とりあえず君は以降は職務についてほしいのだが……」

 

「あぁ、何か問題でもあるのか?」

 

 何か含みのある言い方に質問すると、ルドルフは少し考えて。

 

「何かあったら生徒会室に逃げ込むといい。サポートできるのは、君のチームメンバーと生徒会だけだからね」

 

「まぁ、考えすぎだと思うが。ありがとうなルナ」

 

 お返しに。と少しだけ背伸びしてルナの頭を優しく撫でる。彼女は少し恥ずかしそうに苦笑して見せた。こう言う表情は年相応なのにな。

 

 こうして俺のお披露目会は、滞りなく終わったわけだ。

 これからが大変なことになることも知らずに……。




るなぴょいるなぴょい
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