朝の挨拶の緊張もとけて、俺は自分のチームの部室に向かうために歩いている。
ウマ娘になってすぐは、周りをみる余裕もなかったが、いま見てみると身長も随分と変わったせいか、いつものトレセン学園が違って見える。
まだ集会が終わったばかりで、静かな校内。
あと十数分もすると、生徒たちの声で埋め尽くされるのだろう。
あまりそういうのは得意ではないので、俺は足早に自分の職場に戻ろうとしていたのだが。
「セレストレーナー!」
後方から聞こえる声に俺は振り向く。
俺のはや足についてきたのだろう、少しだけ肩を上下に揺らして息をしながら、こちらを見ている。
名前も知らない若い男性トレーナー。
そもそも、俺は交友関係をあまり持っていなかったせいか、知ってるトレーナーの方が少ない。
とりあえず挨拶をしておくか。
「はい、なんでしょうか……?」
俺の声に、男性トレーナーはパーっと笑顔を見せる。
「えと、その! よければ俺が学園の案内を! 」
「え?」
突然の申し出に、返答に困ってしまう。
友人といった関係を、たづなさんぐらいしか持っていなかった弊害だろう。
バッ、と手を差し出して頭を下げる彼の姿は、さながら告白のワンシーンのようだった。
しかし困った、いまさら学園を案内されても時間の無駄だ。しかし、この申し出を断っても不自然だろうか……?
「やめろ。お前には荷が重すぎる。是非私と」
そしてまた一人。男性トレーナーが現れる。この人は確か歴が長いベテラントレーナーだったか。
しかし、この姿になった途端、人気が上がるというのもやるせない話だ。
「いや! 俺と」
「俺が! 俺が案内します!」
「ふざけるな俺が先に……」
対応に困っているうちに、大量の男性トレーナーに囲まれてしまう。
正直、大声で「お前たちそんなに暇じゃないだろう」と叫びたい気分になってしまう。俺なんかにかまって、なんのつもりなんだろうか。
もはや、言い合いの喧嘩にすら発展したその場所で、俺は途方に暮れる。
ただ苦笑いをあげるしかなかったのだが。
「あぁもう! 俺がセレストレーナーと一緒に行くんですっ!」
「っ!」
一番最初に話しかけてきた若いトレーナーが、俺の手を無理やり掴む。
思わずその手を払おうとした瞬間だった。
「何をしてるんですか貴方達は!!」
凛とした声には、怒りの感情が乗っていたように聞こえる。
その声に、囲んできた男性トレーナーの輪が割れて道を作る。
その道の先に立っていたのは『葵先輩』だった。
「セレストレーナーが困ってるじゃないですか! 大勢で取り囲んで……なんのつもりです!」
「あっ、いや」
「俺たちはただ親切で」
その声に、ようやく俺が困っていることに気づいたのか、男性トレーナー達はその輪を解いていく。
助かったと思うと、ハァと思わずため息をついてしまう。
自分より身長の高い人たちに囲まれ、手を掴まれたときには、同性であるはずなのに思わず恐怖心が出てしまった。
ウマ娘の敏感な耳には、言い争いの声が強く響いて、逃げてしまいたいほどだった。少し慣れたつもりでいたが、まだまだらしい。
「セレストレーナー。いきましょう」
そんな男性トレーナーたちに怯むことなく、葵先輩は俺の手を優しく握ると
「大丈夫ですよ」
と小さく囁いて微笑み、俺をその輪から連れ出してくれた。輪の中心であった俺の存在がなくなると、トレーナー達はその場から解散して行った。
「怖くありませんでしたか?」
「いえ……というと嘘になりますかね……。あんなこと今までなかったので……」
その場から離れるように、廊下を歩いていく。
少し歩いて、階段の近くまで来ると葵先輩は俺の手を離す。
「やっぱりみなさん物珍しいんだと思います」
「ウマ娘トレーナーがですか?」
「この学園には数えるほどしかいませんから。それに」
葵先輩は少し言葉にするのか悩んだのか、少しだけ考えるそぶりをして言葉を止める。
「それに?」
言い淀んだ言葉が気になって聞き返す。
「えっと、セレストレーナーはその。綺麗ですから」
綺麗。ここ数日言われ続けた言葉だ。
彼女の言う通り、いろいろなウマ娘を見てきた俺が見ても、俺の尾花栗毛の髪は、神々しいほどに美しい。
しかし、言い寄られるほどの容姿だとは思わなかった。周りの評価は、自分の評価とは随分と違うらしい。
「ふふっ、素直に褒め言葉として受け取っておきますね?」
言われ続けた言葉でも慣れることはない。彼女の言葉に微笑み、言葉を返した。
「あっ、いやその! はい……!」
葵先輩は顔を赤くしながら返してくれる。
とにかくだ。彼女があの場から、上手く連れ出してくれた事には感謝しなくてはいけない。
「助かりました。あの場合どうすればいいか分からなかったので……」
「お邪魔かなとは思ったんですが、困っていたようだったので」
「そんなことはないですよ! 本当に助かりました!」
この機に、俺は人付き合いも覚えた方がいいのかもしれない。ウマ娘としてのあの場の切り抜け方も……。
「あの、セレストレーナー」
「ん、なんでしょうか?」
「あのっ! あの時は名のあるトレーナーとは知らずに無礼な振る舞いを!」
「いやいや! 頭をあげてください!」
思いっきり深々と頭を下げられて、謝罪されるとは思わなかった。そのまま地面に埋まってしまいそうな勢いだ。
「アジェナの後任と言うことは、相当な実力者のはず……考えればわかるはずなのに、先輩風を吹かせてしまって……!」
頭を上げて。といっても葵先輩は深々と頭を下げたままだ。このままマントルを突き破られても困るので、俺は彼女の頬を両手優しく包み、頭を上げさせる。
「セレストレーナー……?」
「いくらチームを担当したとしても、私が葵先輩の後輩だと言うことは変わりないです」
「いえ、でも……」
葵先輩は納得していないように、視線をそらす。納得させるためには……。
「……ではこうしましょう。先輩後輩はやめましょう。今日からは一緒に
葵先輩はキョトンと首を傾げる。
「私は先輩を『葵さん』と呼ぶ事にします。これで上下関係はなしです」
「セレストレーナー……」
「これからは先輩後輩じゃなくて、友達として、ライバルとして……」
俺は手を差し出して握手を迫る。
「一緒に頑張っていきたいんです……だめ……ですか?」
「そんなっ! ダメなわけないです!」
俺の言葉に、葵さんは首を思いっきり横に振って、俺の手をぎゅっと掴んできた。
俺たちは握手を交わして、互いに恥ずかしげに微笑み合う。
あんな場面を助けてくれる人なんて、そうそう出会えないだろう。それに、女性関係の友達も作っておかないと不自然だし、この機に仲良くなるのも悪くない。
「よろしくお願いしますね? 葵さん」
「っ……!」
「葵さん?」
「はっ、はい! えっと、よろしくお願いします! セレストレーナー!」
気づけば、葵さんは顔を真っ赤にさせていた。そろそろ暑くなる季節だし、ずっと手を握ってるのも迷惑だろうと手を離す。
「えっと、葵さんも私を『セレス』って呼んでくれませんか?」
葵さんが呼ぶ俺の名前が気になったので、その事についてきりだす。
自分だけが『葵さん』と呼んで、彼女がトレーナーつけで呼んでくる事に違和感を覚えたからだ。
友達であるならば、そんな肩書き必要ないだろう。
「あっ、そ、そうですよね! えっとその。セレス……さん……!」
その反応を見るに、俺と葵さんは、友達いない仲間としてよく似ているのかもしれない。
「ふふっ、はい。これでお友達ですね」
互いの初々しい反応に思わず笑ってしまう。
「……はぁ、その笑顔反則です」
小さく呟く葵さん。
何を言ったかまでは聞き取れなかったが、なんとか打ち解けられたみたいだ。
「あ、そうだ。葵さん? もしよければ学園の案内をお願いできますか?」
さっきも、その案内の権利で揉めたわけだ。ここで案内されとけば、他の人の案内を断る口実にもなるし、葵さんが見てるから、案内されたと言う事実も作ることができる。
「もちろんいいですよ! 元からそのつもりでしたから!」
胸を張って答える彼女は、随分と頼もしく見える。
「ついてきてください。まずは……」
俺は彼女に案内されるがまま、ついていく事にするのだった。
………………
…………
……
あの後、葵さんにみっちりとトレセン学園中を案内されたのだが……。
人の身で、この学園を隅々まで案内するとなると、相当な労力を必要としたのだろう。最後の方は葵さんも疲れた様子を見せていた。
彼女のおかげか、他の人に声をかけられることはあまりなかったが、悪いことをしてしまっただろうか……?
その後、書類の整理をすると言った葵さんと別れ、俺は一人、部室に戻ろうと思ったのだが……スマホの時計を見ると、もう12時を示していた。
「……お腹すいたな」
燃費の悪い体は、「朝ぐらいの食事では全然足りない」と言うように腹の虫が鳴る。
この空腹を抑えるためには、売店やカフェテリアに行くしかないだろうが……。
(また囲まれるか……?)
朝あれだけ囲まれたのだ。
今、ウマ娘がウジャウジャいるあんな場所に行けば、確実に囲まれてしまうだろう。
俺はいわば『注目の転校生』みたいな状態なのだから。
しかし、わざわざ学園の外に食事しに行くのも骨が折れるわけだ。さてどうしたものか。
「トレーナーさん。ここにいらしたのですね!」
「トレーナーさん! こんにちは!」
悩んでる俺にかけられる声。振り向くとマックイーンとダイヤの姿があった。
「こんにちは二人とも。もしかして探してた?」
誰に見られてるかも分からないので、口調を崩さず俺は言葉を掛ける。
「えぇ、トレーナーさん。もしよければ、わたくし達と昼食をとりませんか?」
「朝に囲まれたと聞いて心配してたんです!」
本当に情報が早い。朝の出来事はとっくに伝わっているようだった。
彼女達の申し出は本当にありがたい。まさに渡りに船だ。
「今まさに困っていたところなの。喜んでご一緒させてもらうわね」
「えへへ、やった!」
ダイヤは俺の隣に立って、腕にぎゅっと抱きついてくる。
おそらくガードしてくれているつもりなのだろう。
「だ、ダイヤさん!? わ、わたくしも!」
逆サイドに立って、マックイーンは俺の腕をぎゅっと抱きしめる。
完全防備……ではあるが、なんと動きにくいことか……。
「二人とも……離れてもいいのよ……?」
そんなに近づく必要はないと思うが、二人が離れる様子はなかった。
………………
…………
……
トレセン学園のカフェテリアは、24時間営業。とはかないものの、10時から20時ぐらいまでは開いており、この学園の食事事情を一挙に担っている。
基本的にはビュッフェスタイルで、学園の生徒と関係者は無料で利用することができる。これも地方にない中央の特権といったところだ。
バランスの取れたメニューや、オリジナリティを持ったメニューも存在するため、飽きることはまずないと思われる。
2000人近い数の生徒の、しかもウマ娘の胃袋を満たすために、昼間は修羅場となっている。本当にここの調理師の方々には頭が上がらない。
「今日も大盛況ね……」
俺は何気なくカフェテリアへと入り込んだのだが、その瞬間、周りの視線がこちらに集まる。
視線が刺さる。
それが悪意じゃないにしても、これだけ大量に向けられれば、いい気持ちではない。
ざわざわと聞こえる声は、おそらく俺を噂している声だろう。
そんなに気になるものなのだろうか?
「セレストレーナーも昼食ですか! どうですか俺と一緒に!」
そんな中、若くチャラそうな男性トレーナーが俺に声をかけてくる。
こんな雰囲気のなか声をかけられるあたり、相当なKYか自信家と見える。
両サイドの番犬——
いや、猛馬が見えないのだろうか?
ウマ娘というのは所有物に対しての執着が強い事ぐらい、トレーナーであればよく知っているはずだろう。
「いえ、私は……」
「いいじゃないっすか! ほらほら」
「少しよろしいでしょうか?」
マックイーンが俺とその男性トレーナーの間に割って入る。いつものように凛とした態度で対応しているが、鞭のように激しく揺れる尻尾は、まるでハエを払っているかのようだった。
「セレストレーナーに用事があるなら、メジロ家を通していただかないと困ります」
「あ、もちろんサトノ家も通してくださいね?」
「はぁ? なんだそれ……?」
二人の気迫に、男性トレーナーは少し押され気味に困惑している。
あまり興奮して、二人のコンディションに影響が出ても困る。
「二人とも、そのあたりで」
「トレーナーさん?」
「私はこの二人と食べると決めてるんです。ごめんなさいね?」
マックイーンとダイヤを抑制して、申し訳なさそうにトレーナーに断りを入れる。
「あー、そうっすか。じゃあまたの機会に……」
マックイーン達の不快そうな表情に気づいたのか、男性トレーナーは残念そうに去っていった。
「もう、あんな人には、ちゃんと言い聞かせないといけないんですよ?」
「そうですわトレーナーさん。トレーナーさんに寄り付く虫はわたくしが……」
「はーい、そこまで。あまり怖いこと言っちゃダメよ?」
俺は二人の頭を軽く撫でる。これ以上先は怖くて聞きたくなかった。
「それより早くお昼ご飯を食べましょう? お昼休みが終わってしまうわ」
二人を引き連れ、俺はビュッフェスタイルの大量に供給されている料理を選んでいく。
巨大な人参ハンバーグに、ロールパンを六個ほど……それにサラダに人参ジュース。
人の頃は、こんなに食べれない。と思っていたが、このくらいなら間違いなく食べれてしまう。ウマ娘の胃袋恐ろしやだ。
「私もトレーナーさんと同じのを」
ダイヤは俺と全く同じものをトレーに乗せていく。
「好きなものを食べていいのよ?」
「トレーナーさんが好きなものが、私の好きなものなんです!」
ダイヤは昔からそんな感じだ。俺が食べてるものを欲しがったり、苦いコーヒーを無理して飲んでみたり。そういうところは背伸びしたい年頃なのかもしれない。
ふと横を見ると、マックイーンは何を選ぶか唸っている。
マックイーンはどちらかというと太りやすい体質だ。
いわゆるバ体調整が難しいということ。特にレース前なんて気性が悪くなる時もあるぐらい、頑張って体重を理想に近づけている。
ウマ娘のレースは『1kg1バ身』と言われるほどにシビアだ。だから、マックイーンには食事制限を言い聞かせているのだが……。
その結果がこの唸りなのである。
まぁ、吟味するマックイーンをおいといて、置かれている料理に目を戻す。
本当に様々な料理が置かれている。主食、主菜、副菜にデザートまで。いろいろなものに目移りしてしまう。
……しかし、マックイーンに制限を科している手前、これ以上はやめておかなければ。
(あ、でもデザートにあのモンブラン……)
手を伸ばそうとすると、その手をマックイーンに掴まれた。隣を見ると、涙目でマックイーンは俺に訴えている。
「鬼!悪魔!」
「わかったから離してくれないかしら」
マックイーンを宥めながら、俺たちは席を探す。あいにく、この時間は生徒達で埋め尽くされているが。
「トレーナーさん」
「お姉さまー!」
俺を呼ぶ声に、その方向を見るとカフェとライスを見つけた。
「席を取っておくようにお願いしてましたの」
ふふんと、褒めてと言わんばかりにマックイーンは言う。マックイーンは本当にこう言うところの手際がいい。
「助かったわマックイーン」
俺たちは呼ばれるがまま、円形のカフェテリアのテーブルにつく。
「待ってなくてもよかったのよ?」
どうやらライス達も食事を待ってくれていたようだった。
「えへへ、どうせならお姉さまといっしょがいいなぁって」
「はい、一緒がいいです……」
「たまには悪くないかもしれないわね」
忙しい時は適当な食事で済ませていたが、この体になってからはそうもいかないらしい。
明らかに人よりも消費カロリーが多いのだ。
たまにではなく、このカフェテリアを毎日使うことになりそうだ。
ともかく、今は腹が減っている。
目の前の食べ物を、いち早く胃の中に流し込みたい気分だ。そう思った瞬間、くぅーとお腹が鳴る。
「あらあら……」
ニヤニヤと俺を見るマックイーン。
「ふふっ、お姉さまかわいい!」
そんなお腹の音にすら瞳を輝かせるライス。
「トレーナーさんったら……」
あまり表情に出さないが、軽く笑むカフェ。
「可愛いですっ!」
スマホで写真を撮ろうとするダイヤ。
「あー、あー、聞こえない。とにかく食べましょう!」
穴があったら入りたい。今までお腹がなっただけで、ここまで赤面したことがあっただろうか。
恥ずかし紛れに声を出して流れを変える。
「それじゃ、いただきます」
俺の号令に続いて、みんな同じように「いただきます」と言うと食事を始める。
こうやって大勢と食事を囲むのはいつ以来になるだろうか。互いの食事を見ると本当に個性が出ている。
ライスは小さい割にはかなり食べるし、マックイーンはなんとかカロリーを抑えて、お腹いっぱいになる選び方をしている。ダイヤは育ち盛りなのか俺の倍ぐらい持ってきてるし、カフェは俺と同じぐらいだろうか。
トレーナーとウマ娘としての距離感を保っていたから、食事を邪魔しないようにしていたが……これからは一緒に食べるのも悪くないかもしれない。
カロリーの計算方法こそ教えていたが、実際、見てる方がアドバイスできるかもしれない。
三年もやってるのに、今更気づかされることもあると痛感する。もちろん彼女達が嫌じゃなければなのだが。
「あ、そういえばゴールドシップは……?」
そして今気づいたのだが、ゴルシの姿が見えない。
朝のメッセージ以降、全くと言っていいほど音沙汰がないのだ。
「たぶんナカヤマフェスタさんあたりと勝負でもしているかと……」
「マックイーンにも連絡がないのね。あなた達は?」
席に座っているチームメンバーにも聞くが、みな首を横に振るばかりだった。
夕方のトレーニングのこともあるから、少し話し合っておきたかったのだが……。
「……まぁいいわ。今日のトレーニングのことなのだけれど」
食事を行いながら、今日の予定について話し始める。
皆、俺の話を集中して聞いてくれる。本当にいい子達だ。
「マックイーンはライスとのトレーニング。ライスの菊花賞に向けての体づくりを基本に。マックイーンは補佐について頂戴? 資料は今日中にまとめるから、その通りに」
「わかりましたわ」
「うんっ、ライス頑張るよ」
マックイーンは天皇賞・春以降、年内は休養の予定だ。
あまりにもハードなスケジュールを続けていたため、メジロ家の意向でそういう方針になった。
マックイーンは功績を立てすぎてるのだ。今年の宝塚記念にも推されていたが、回避の運びになっている。
ちょうどいい機会だから、ライスの補佐という形で協力して貰うことにした。こう言ったところはチームの利点だろう。
「カフェは来年に向けての走行フォームのチェックと、基礎トレーニング。私が補佐するわね」
「はい、わかりました」
カフェは小さくコクっと肯く。
本格化こそ迎えていないが、カフェは現役G1級のウマ娘と競ることができるほどに仕上がってきている。このままいけば、来年には問題なくデビューできるだろう。
「ダイヤは……基礎トレーニング以外はチームの補佐。あなたは体を作る時期だからね」
「はい、トレーナーさん」
ダイヤはまだまだ本格化とは程遠い。
同期で入ってきたキタサンブラックの方が、早く成長している感じもある。
彼女はその『キタちゃん』と走りたがっているが……どうなるか。
しかし、今は焦る時期じゃない。怪我さえなければ闘う機会はあるのだから。
「ゴルシについては……。考えておくわね。今後のことも含めて」
小さくため息をついて、ここにいないゴルシについて思う。
素晴らしい足は持ってるのだが、楽しいこと優先でやってしまう性格である。
もちろん、走ることも嫌いではないだろうが、集中力にムラがあると言ったところ。
まぁ、それも彼女のいいところかもしれな……い……のか?
「とにかく、授業が終わったら各自アップは済ませておくように。お昼のついでにミーティングになっちゃったわね」
「かまいませんわ。こう言ったところで済ませられれば、その分トレーニングに回せますもの」
マックイーンの言葉に肯くメンバー達。
本当に、素直でいい子達が集まってくれたものだ。あとは俺の指導力にかかっている。
「アジェナの再始動ね。まずは菊花賞」
俺はライスを見つめる。
「うん、お姉さま!」
「菊花賞は勝つわよ」
「うん!」
俺の言葉に、ライスは表情に鋭さを見せる。
ライスはダービーを経て、精神的にも成長を見せている。
これが続いてくれれば菊花賞はきっと……。
俺たちは決意を新たに、チームを再始動させるのだった。