「カフェ、少しストライドが短いわ、後10cmで良いから先に足を下ろす様に意識してみて」
「はい、トレーナーさん」
いつもより順調にトレーニングが進んでいる。
いつもなら、ゴール付近から双眼鏡で走行フォームを確認していたのだが、今日はカフェと並走しながら確認をしている。
近くでフォームを見れるから、繊細な筋肉の動きがわかるし注意点を見つけやすい。
その場で指摘できるしレスポンスも早い。間違いなく、この体の利点と言ったところだろう。
そして何より、並走することで俺の欲求も満たされる。
この体になってから、ターフを走りたくて仕方がないのだ。
これはウマ娘の本能なので、仕方がないことだろうけど。
カフェは意識したのだろう。
ぐんっ、と速度が一瞬だけ上がる。
デビューしていないのに、もうすでに自分の走法をモノにしている。こう言ったセンスは類稀なるものだ。
「さて、今日はここまでにしましょうか」
カフェと一緒にゴール版へと戻ってくると、速度を緩めて止まり、ふぅ。と息をつく。
「つかれましたか……?」
「私は大丈夫。貴女は? あまり無理をしてはいけないし、ちゃんとクールダウンするのよ?」
「はい、もちろんです」
「カフェは先に上がって良いわ。トレーニング内容は追ってメッセージに送るわ」
「わかりました。トレーナーさんは……?」
「私はライスたちの様子を見に行くわね」
「そうですか……ではまた明日……」
カフェは少し残念そうな表情を見せたが、大人しく練習場を去っていく。
俺は彼女を見送ると練習場を見渡した。
マックイーンとライスの姿を見つけ、その練習風景を見つめる。
渡したトレーニング表通りにトレーニングを進めている様だった。さすがはマックイーンと言ったところだ。
イベント用の観客席の近くに設けられている、選手用の控えのベンチに置いておいた書類に目を通す。
これにはメンバーのトレーニング要項をまとめている。
全員分……。
破天荒すぎて、ゴルシのトレーニング内容はまとめ切れていないが、とにかく一番重要な書類だ。
俺の三年間のノウハウが詰まっている。
「順調みたいだな」
ターフを見ると、ちょうどライスとマックイーンがゴール板へと戻ってきたところだった。
俺はタオルとスポーツドリンクのボトルを持って、彼女たちに駆け寄る。
「二人ともお疲れ様」
それを差し出すと、二人に笑顔を向ける。
「お姉さま!」
「トレーナーさん。言われていたトレーニングは終わりましたわ」
「ありがとう。マックイーンは将来は良いトレーナーになれるかもしれないわね」
彼女はもはや、俺のサブトレーナーと言っても過言ではないほどに練習を手伝ってくれている。
彼女がその気なら、引退した後にこちらの道に引き込んでも良いかもしれない……。
気が早いか。
「ふふっ、あなたには敵いませんわトレーナーさん」
「そんなことないわ。貴女がいるから、順調にトレーニングが進んでるんですもの……っと。とりあえず、今日のトレーニングは終わりね」
一緒に抱えて持ってきた書類を確認しながら、二人に一枚ずつ紙を渡す。
「これ、次のトレーニング内容の詳細よ。確認しておいてね? わからない時は、明日のブリーフィングまでに質問をまとめておいて頂戴」
「わかりました」
「うんっ、お姉さま!」
「ちゃんとケアを忘れない様にね?」
「トレーナーさんは、この後はどうするんですの……?」
「ジムのほうに行って、ダイヤの基礎トレの確認をしようと思ってるわ。その後は記者のインタビュー……やること山積みね……」
いつもハードなスケジュールだったが、今日は別格に忙しい。
その後は部室に戻って、残っている書類の整理を行わないといけない。
「ライスもついて行っていい……?」
「ううん大丈夫。それより、しっかり休んで欲しいの」
夏の強化合宿も近い。
今は調子を保ちつつ、いかにトレーニングをできるか。
バランスをとるのが大切な時期だ。少しでも休める時に休んで欲しい。
「ライスさんは先に上がってください。わたくしはレースの予定もありませんし、トレーナーさんの補佐をする事にしますわね」
「マックイーンも休憩を」
「良いですわよね?」
マックイーンは、ぐーっと近づいてニコニコと主張してくる。
「……そこまで言うなら。わかったわ」
思わず同意してしまった。
まぁ、マックイーンは年内はレースに出ないわけだし……いいか。
そんなやりとりに、ライスはクスッと笑っていた。
「じゃあライス。気をつけて帰るのよ?」
「うんっ……! また明日ね? お姉さま、マックイーンさん」
ライスを見送り、俺たちはジムへと向かうのだった。
………………
…………
……
ダイヤはまだ本格化に至っていない。
なので基礎的なトレーニングを行っているところだ。
筋トレを中心に、レースに耐えれる体を作れるトレーニングを提案している。
本当はつきっきりで、手取り足取り指導できればいいのだが、担当が多いとそこまで手が回らないこともある。
今はライスとカフェに専念したい。ということは伝えてあり、ダイヤもそれに同意してくれている。本当にいい子だ。
ありがたい事に、デビュー前のトレーニングの一部は教官に委託することができる。
今のところは、トレーニング計画を渡せばなんとかなる。
しかし、デビューしたあとのことも考えなくては……そろそろサブトレーナーでも雇うべきだろうか。
いつまでもマックイーンに頼むわけにもいかないし。
「また考え事してるんですの?」
「ん、いやまぁ、してないって言うと嘘になるわね」
「ダイヤさんの事ですの?」
「えぇ、彼女のデビュー時期を考えてたのだけれど……。この話はここでしないほうがいいわね」
俺はちらりと後ろを見る。
記者たちは俺たちに質問こそしないが、邪魔しない程度についてきていた。
若干、鬱陶しくもあるが、変な印象も与えたくないため無視を続ける。
「そうですわね。とりあえずダイヤさんのところにいきましょう」
そんなやりとりをしているうちに、俺たちはジムへと到着した。何人かのウマ娘が自主トレを行っている。
俺たちが入ってくると、彼女たちはトレーニングを止めてこちらを見つめてきた。
「セレストレーナー……!」
「うそっ、こんなところにっ!?」
慌てて身嗜みを整えるウマ娘たち。
別に王族やお偉いさんが来たわけじゃないのだから、トレーニングを止める必要はないのに……。
さてダイヤはというと、部屋の奥の方で他のものに目もくれず、バーベルスクワットを続けていた。
重量は言いつけ通り50kgで、しっかりと約束を守ったトレーニングをしている。
ウマ娘的には少し軽い重量だが、故障を起こすわけには行かないので、これぐらいがちょうどいいだろう。
彼女は最後の一回を上げ終わると、ずしんっと地面にバーベルを落とす。
「ダイヤちゃん。お疲れ様」
「あっ! トレーナーさん! マックイーンさんも!」
「今日も励んでいる様ですわね」
ダイヤは俺を見つけるなり、真剣な表情が笑みに変わる。マックイーンもいるから嬉しさ倍増といった表情だ。
まるで子犬の様に駆け寄ってくると、忙しなく尻尾を揺らしている。
「今終わったところなんです。えへへ」
「今日もお疲れ様。余裕があるみたいだし、明日からはもう少し負荷を高めてみようかしらね」
「はい! 私はまだまだやれますよ! デビューだってすぐに!」
俺は、ぽふっと彼女の頭を撫でる。
「んっ……」
「焦らないの。貴女は本格化を迎えればきっと輝ける。そして私が導いてみせるわ」
焦りがちな彼女を抑える様に優しく言い聞かせる。
「トレーナーさん……」
焦る気持ちはわかる。
ダイヤはウマ娘のいなかったサトノ家の待望のウマ娘なのだ。
望まれたウマ娘——
そう呼ぶ声も少なくない。
家の名を背負ってるところは、マックイーンと似たところがあるだろう。
焦る彼女は、まるで最初期のマックイーンを見ている様だった。
「信用できない?」
「いえ! そんなことは……ただ私は『キタちゃん』と……」
そして、ダイヤが焦る理由はもう一つ……。
間違いなく、同期に入ってきたキタサンブラックにもあるだろう。
入学する前から親交のある『キタちゃん』と一緒の舞台に立ちたい。それが彼女の願い。
実を言うと、キタちゃんの方が成長が早い……。
このままいけば、デビューはキタちゃんの一年後になるだろう。おそらくクラシック戦線で戦うという夢は叶わない。
トレーナーとしては彼女の夢を叶えたいが、勝てない戦いに出すほど愚かでもない。万全に体が出来上がってないのなら、故障の原因にもなる。それだけは絶対に避けたい。
「わかってるわ。期待に添える様に、私も考えてみるわね」
「大丈夫ですわダイヤさん。私もできる限りサポートしますので」
「トレーナーさん……。マックイーンさん……」
キタサンブラックの担当は『トウカイテイオー』のトレーナーだったか。
今度、一度話してみてもいいかもしれない。
「とにかく今日は……」
「おー? なんだ新しいトレーナーは馴れ合いが好きなんだな?」
トレーニングの終わりを告げようとしていたところ、突然、部屋に響き渡った声。
その方向を見ると、ニヤニヤを薄ら笑み浮かべる男性トレーナーの姿があった。
「何かご用でしょうか」
明らかに第一声が好ましいものではなかったので、俺は警戒する。
男は俺に近づくと、見下ろしながら嘲笑する。
「気にいらないんだよ。いきなり入ってきて、ベテランのトレーナー面しやがって」
なるほど。
一人ぐらい出てくると思ったが、そういった妬みを俺に向けてきたわけか。
「あなた! なんのつもりですの!」
「そうですよ! トレーナーさんにひどいこと言わないでください!」
二人は俺とトレーナーの間に立ち、耳を絞る様に後ろに倒している。
今にも噛みつきそうな勢いだ。
「本当のことを言ったまでだ。なぁメジロマックイーン、サトノダイヤモンド。俺のチームにこい! そんな実績のないトレーナーより、俺みたいに重賞を取ったことのあるトレーナーの方が、お前たちを勝たせることができる。悪くない話だろう?」
相当に自信があるのだろう。まぁ、トレーナーは自信過剰なぐらいの人も多いのだが……。
ウマ娘に過度なストレスをかけて、掛からせて怪我でもしたらどうするつもりなのだろうか。
まだマックイーンもダイヤも、そこまで至っていないので事を見守る。
「貴方が?」
「爆笑ものですね」
嘲笑う口調で男性トレーナーに返す二人。
「お断りですわ。貴方のもとで走るぐらいなら、ここで自刃を選びますもの」
「同じく。無礼な殿方とは関われませんので」
その言葉に男性トレーナーは顔に怒りを浮かべる。バ鹿にされたことが相当に嫌だったのだろう。
「くそっ、言わせておけば……! おい、お前!」
その怒りは、俺に向けられる様だ。
年下に完全に言い負かされている姿は、なんとも滑稽だったが……。
「なんでしょうか?」
「澄ました顔しやがって……俺と勝負しろ! 勝負して負けたら、アジェナを俺に渡せ!」
「はぁ……」
チーム全員の特別移籍希望とは、相当に強欲なやつだ。まぁ、それがこの男の真意ではないだろうが……。
押し込めることができなくて、ため息を出してしまう。
猫をかぶっていたのかもしれないが、よくもまあ中央の面接試験を通ったものだと呆れる。
「お断りします」
「くっ、ウマ娘もウマ娘なら、トレーナーもトレーナーかよ」
こんなやつに構ってる時間が惜しい。話すだけ無駄だからだ。
この後、記者たちのインタビューにも答えなくてはいけないのに。
「マックイーン、ダイヤ。もういくわよ」
話はきっと平行線だ。早々にキリをつけて、去ろうとした瞬間だった。
「くそ、所詮ヘボウマトレーナーかよ」
男性トレーナーの捨て台詞。
俺の耳にもしっかりと聞き取れた言葉、それは俺にとって響くものではなかったが。
「このっ!」
スプリンターよりも速く反応したのはマックイーンだった。
葦毛を翻し、男性トレーナーに詰め寄ると、その胸ぐらを掴む。
「やめなさいマックイーンっ!」
俺は叫ぶ様にマックイーンを抑制する。しかし、俺の声は届かない様だった。
「トレーナーさんへの侮辱。それはメジロへの侮辱! 到底許せるものではありませんわ!」
ぎりぎり、と胸ぐらを締め上げるマックイーン。
「くっ、はっ、うっ、勝負に負けることが……怖くて逃げるトレーナーのことを、ヘボって言って何が悪いんだ」
男性トレーナーは悪びれる様子もなく、謝罪の仕草すら見せない。
掛かっているウマ娘に掴まれているのに、悪態をつけるのは相当な根性だ。
「マックイーン! やめろ!」
俺は思わず、いつもの口調で叫ぶ。
「っ……! すー……はー……。いいでしょう……」
マックイーンは、背後の俺をちらりと見る。鋭い表情に俺は息を飲んだ。
最後の理性が働いたのか、彼女はどうにか気持ちを落ち着ける様に、深呼吸をした。
そして男を雑に投げ捨てる様に解放すると、マックイーンは自らの胸に手を当て。
「貴方が提示した決闘、受けて立ちましょう。チームアジェナの名にかけて……!」
まるで決闘を受ける騎士の様に、怒りを隠し凛とした表情で、男が提案した勝負に乗ると宣言する。
その言葉に男性トレーナーはニヤリと笑う。
やはりこの男の真意は、マックイーンの移籍とか、アジェナが欲しいとかではない。
『この勝負』にあるのだろう。
ならば、なおさら受けるべきではない。
「マックイーン! その勝負は……!」
「トレーナーさん、少しお静かに願います」
「っ……」
マックイーンの鋭い視線に、その威圧感のある言葉に、俺は言葉をつまらせた。
これが現役最強馬の本気の怒り……。
静かな言葉で話す彼女だが、部屋が震える様な怒りだ。
「へへっ、言質は取ったからな!」
男は懐からレコーダーを見せると、マックイーンの言葉を再生する。
「おいおい、すげぇ展開になったな」
「決闘か。トレーナーの威信をかけた戦い。いい記事になりそうだ」
「レースの公開はあるのかしら」
一部始終を見ていた記者たちが騒ぎ出す。
あぁ、そうか……。
男がなぜ今のタイミングで話しかけてきたか、その理由がよくわかった。
記者たちを、この決闘の見届け人にするつもりだったのだ。
「勝負内容は追って伝えるからな!」
男はそう言い残すと、走ってその場を去っていった。
これは……まずいことになった。
「マックイーン……」
「問題ありませんわ。私が負ける理由がありませんもの」
「そうですよ! デビューしてない私でも、あんなトレーナーには負けません」
そう。
そうだろう。
もちろん真面目に戦えば、ダイヤはともかく、マックイーンには勝てるわけはない。
「そうじゃないのよ。あのトレーナーは勝負内容を伝えなかった」
「それの何か問題なんですの……?」
「おそらく彼が挑んでくる勝負は……短距離」
「っ……!」
マックイーンは青ざめる様に言葉をつまらせる。
そう、適正外の距離で、かつ重賞級のウマ娘を担当しているのであれば、あのトレーナーでも勝機は十分にある。
アジェナは中、長距離のチームなのだ。
俺もスプリンターを教育したことがない。もちろんアジェナには、短距離の適性を持ったウマ娘はいない。
「卑怯ですわ!」
「そうです! 卑怯です!」
「えぇ、とっても卑怯だと思うわ。でも……」
「でも……?」
言葉を止めた俺に、マックイーンは恐る恐る聞き返す。
「それも真意じゃない。彼の真意は話題を作ることよ」
だから男性トレーナーは口汚く、俺たちが挑発に乗るように攻めてきたのだ。
そして、まんまとマックイーンはその挑発に乗ってしまった。
「彼は、現役最強馬を不得意な短距離で叩きのめして『
「っ、わたくし、今から勝負を撤回してきます!」
「待ちなさい!」
俺はマックイーンの手を掴むと、落ち着く様に言い聞かせる。
「断っても彼はこう言うと思うわ『勝てないとわかって、尻尾を巻いて逃げた負けウマチーム』ってね」
「っ……!」
そう、八方塞がり。
ようは勝負を受けた時点で俺たちは負けなのだ。
アジェナの名を貶めて、さらには悪役として確立し、メディアへの露出増も考えているのだろう。
俺たちを話題作りの出しに使うとは、よくもまぁ小賢しいことを考える。
「理事長に報告すれば」
「そうですよ!」
「えぇ、でもね? それをしたら、私は完全な七光りトレーナーと認識されてしまうわ」
これも実にうまい。
メディアがあれだけ盛り上がってしまったのだ。理事長も勝負を止めることはしないだろう。
もし止めてしまえば『私情を挟む理事長』になってしまうからだ。
俺が理事長の娘と言う立場であることを、最大限に利用して見せたのだから、上手い以外に表現が思いつかない。
「でもまぁ、対応策がないわけじゃないわ」
「トレーナーさん……わたくし……」
マックイーンはしゅんと耳を倒して、落ち込んでいる姿を見せる。
「いいのよマックイーン」
今にも泣いてしまいそうな表情を見せるマックイーン。
俺は彼女の肩に手を置いて、落ち着かせるように摩る。
「あなたは『アジェナの名にかけて』と言ったわね」
「えぇ、確かにそう言ったはずですわ……でもそれが……?」
「『メジロの名にかけて』とは言ってない。つまりは、出走者はアジェナのウマ娘であれば誰でもいい」
「!」
マックイーンは気づいた様に、耳をピンと立てる。
トンチみたいな話だが、証拠はあのレコーダーに残っている。誰でもいいなら、スプリンターを見つけてくればいいのだ……。
だが……。
「スプリンターを見つけてくれば、勝てるかもってことですね!」
マックイーンよりも先に、ダイヤが言い放つ。
「そう、でも……」
「何か問題が……?」
ダイヤは首を傾げる。
そう、気持ち的な問題があるのだ。
「アジェナの名を出せば、所属してくれるウマ娘もいるはずよ。でもね、個人的な決闘のために、ウマ娘をスカウトしたくないのよね……」
みんなトゥインクルシリーズで走るために、トレーナーのスカウトを受ける。
決闘のためのスカウトなんて、ウマ娘を物として見ているみたいで、理に反する行為の様な気がする。
所属させたところで、俺に短距離の教育経験がないため、その後を勝たせられるかもわからない……。
「……まぁ、このことはあとで考えましょう。レース内容を見てからでもいいのだし」
「トレーナーさん……申し訳ありません……私としたことが……!」
「いいのよ。マックイーンは私のことを思って怒ってくれたんだもの。ありがとう」
「それでも……っ!」
「マックイーン」
後悔に押しつぶされそうなマックイーンを、俺は思いっきり抱きしめた。彼女の顔を胸に埋めさせてあげて、優しく頭を撫でる。
「トレーナー……さん……?」
男の頃だったら、公衆の面前でこんな事しなかっただろうな。と思いながら、彼女が落ち着くまでそれを続ける。
周りからは黄色い歓声が聞こえる。しかし今は無視だ。
マックイーンは最初こそ驚いたが、次第に耳を垂らして落ち着いた様子だった。
「まずは出来ることをしましょう?」
マックイーンを抱きしめたまま、待っている記者たちを見つめる。
記者たちは、先ほどの内容も含め、何かを聞き出したくて今か今かと待ちわびている。彼らの質問に答えるのが、今できることだろう。
「マックイーン? インタビュー手伝ってくれる?」
まだ小刻みに震えるマックイーンの手をぎゅっと握って、彼女の気持ちを落ち着かせる。
「トレーナーさん……はい……」
マックイーンはまだ納得いかない感情を隠せずにいたが、気丈に振舞う。
「私も!」
「ふふっ、はいはい」
隣でぴょんぴょんと跳ねるダイヤ。彼女の手も繋いで記者陣へと向き直る。
そして、降りかかるであろう質問の嵐に、気を重く身を投じるのだった。
話題性を作るためには、迷惑も省みない。そういう人いますよね。