トレーナーはウマ娘に……。   作:あさのひかり

18 / 25
決闘

「カフェ、少しストライドが短いわ、後10cmで良いから先に足を下ろす様に意識してみて」

 

「はい、トレーナーさん」

 

 いつもより順調にトレーニングが進んでいる。

 いつもなら、ゴール付近から双眼鏡で走行フォームを確認していたのだが、今日はカフェと並走しながら確認をしている。

 近くでフォームを見れるから、繊細な筋肉の動きがわかるし注意点を見つけやすい。

 その場で指摘できるしレスポンスも早い。間違いなく、この体の利点と言ったところだろう。

 

 そして何より、並走することで俺の欲求も満たされる。

 この体になってから、ターフを走りたくて仕方がないのだ。

 これはウマ娘の本能なので、仕方がないことだろうけど。

 

 カフェは意識したのだろう。

 ぐんっ、と速度が一瞬だけ上がる。

 デビューしていないのに、もうすでに自分の走法をモノにしている。こう言ったセンスは類稀なるものだ。

 

「さて、今日はここまでにしましょうか」

 

 カフェと一緒にゴール版へと戻ってくると、速度を緩めて止まり、ふぅ。と息をつく。

 

「つかれましたか……?」

 

「私は大丈夫。貴女は? あまり無理をしてはいけないし、ちゃんとクールダウンするのよ?」

 

「はい、もちろんです」

 

「カフェは先に上がって良いわ。トレーニング内容は追ってメッセージに送るわ」

 

「わかりました。トレーナーさんは……?」

 

「私はライスたちの様子を見に行くわね」

 

「そうですか……ではまた明日……」

 

 カフェは少し残念そうな表情を見せたが、大人しく練習場を去っていく。

 俺は彼女を見送ると練習場を見渡した。

 マックイーンとライスの姿を見つけ、その練習風景を見つめる。

 渡したトレーニング表通りにトレーニングを進めている様だった。さすがはマックイーンと言ったところだ。

 イベント用の観客席の近くに設けられている、選手用の控えのベンチに置いておいた書類に目を通す。

 これにはメンバーのトレーニング要項をまとめている。

 全員分……。

 破天荒すぎて、ゴルシのトレーニング内容はまとめ切れていないが、とにかく一番重要な書類だ。

 俺の三年間のノウハウが詰まっている。

 

「順調みたいだな」

 

 ターフを見ると、ちょうどライスとマックイーンがゴール板へと戻ってきたところだった。

 俺はタオルとスポーツドリンクのボトルを持って、彼女たちに駆け寄る。

 

「二人ともお疲れ様」

 

 それを差し出すと、二人に笑顔を向ける。

 

「お姉さま!」

 

「トレーナーさん。言われていたトレーニングは終わりましたわ」

 

「ありがとう。マックイーンは将来は良いトレーナーになれるかもしれないわね」

 

 彼女はもはや、俺のサブトレーナーと言っても過言ではないほどに練習を手伝ってくれている。

 彼女がその気なら、引退した後にこちらの道に引き込んでも良いかもしれない……。

 気が早いか。

 

「ふふっ、あなたには敵いませんわトレーナーさん」

 

「そんなことないわ。貴女がいるから、順調にトレーニングが進んでるんですもの……っと。とりあえず、今日のトレーニングは終わりね」

 

 一緒に抱えて持ってきた書類を確認しながら、二人に一枚ずつ紙を渡す。

 

「これ、次のトレーニング内容の詳細よ。確認しておいてね? わからない時は、明日のブリーフィングまでに質問をまとめておいて頂戴」

 

「わかりました」

 

「うんっ、お姉さま!」

 

「ちゃんとケアを忘れない様にね?」

 

「トレーナーさんは、この後はどうするんですの……?」

 

「ジムのほうに行って、ダイヤの基礎トレの確認をしようと思ってるわ。その後は記者のインタビュー……やること山積みね……」

 

 いつもハードなスケジュールだったが、今日は別格に忙しい。

 その後は部室に戻って、残っている書類の整理を行わないといけない。

 

「ライスもついて行っていい……?」

 

「ううん大丈夫。それより、しっかり休んで欲しいの」

 

 夏の強化合宿も近い。

 今は調子を保ちつつ、いかにトレーニングをできるか。

 バランスをとるのが大切な時期だ。少しでも休める時に休んで欲しい。

 

「ライスさんは先に上がってください。わたくしはレースの予定もありませんし、トレーナーさんの補佐をする事にしますわね」

 

「マックイーンも休憩を」

 

「良いですわよね?」

 

 マックイーンは、ぐーっと近づいてニコニコと主張してくる。

 

「……そこまで言うなら。わかったわ」

 

 思わず同意してしまった。

 まぁ、マックイーンは年内はレースに出ないわけだし……いいか。

 そんなやりとりに、ライスはクスッと笑っていた。

 

「じゃあライス。気をつけて帰るのよ?」

 

「うんっ……! また明日ね? お姉さま、マックイーンさん」

 

 ライスを見送り、俺たちはジムへと向かうのだった。

 

………………

…………

……

 

 ダイヤはまだ本格化に至っていない。

 なので基礎的なトレーニングを行っているところだ。

 筋トレを中心に、レースに耐えれる体を作れるトレーニングを提案している。

 本当はつきっきりで、手取り足取り指導できればいいのだが、担当が多いとそこまで手が回らないこともある。

 今はライスとカフェに専念したい。ということは伝えてあり、ダイヤもそれに同意してくれている。本当にいい子だ。

 

 ありがたい事に、デビュー前のトレーニングの一部は教官に委託することができる。

 今のところは、トレーニング計画を渡せばなんとかなる。

 しかし、デビューしたあとのことも考えなくては……そろそろサブトレーナーでも雇うべきだろうか。

 いつまでもマックイーンに頼むわけにもいかないし。

 

「また考え事してるんですの?」

 

「ん、いやまぁ、してないって言うと嘘になるわね」

 

「ダイヤさんの事ですの?」

 

「えぇ、彼女のデビュー時期を考えてたのだけれど……。この話はここでしないほうがいいわね」

 

 俺はちらりと後ろを見る。

 記者たちは俺たちに質問こそしないが、邪魔しない程度についてきていた。

 若干、鬱陶しくもあるが、変な印象も与えたくないため無視を続ける。

 

「そうですわね。とりあえずダイヤさんのところにいきましょう」

 

 そんなやりとりをしているうちに、俺たちはジムへと到着した。何人かのウマ娘が自主トレを行っている。

 俺たちが入ってくると、彼女たちはトレーニングを止めてこちらを見つめてきた。

 

「セレストレーナー……!」

「うそっ、こんなところにっ!?」

 

 慌てて身嗜みを整えるウマ娘たち。

 別に王族やお偉いさんが来たわけじゃないのだから、トレーニングを止める必要はないのに……。

 

 さてダイヤはというと、部屋の奥の方で他のものに目もくれず、バーベルスクワットを続けていた。

 重量は言いつけ通り50kgで、しっかりと約束を守ったトレーニングをしている。

 ウマ娘的には少し軽い重量だが、故障を起こすわけには行かないので、これぐらいがちょうどいいだろう。

 彼女は最後の一回を上げ終わると、ずしんっと地面にバーベルを落とす。

 

「ダイヤちゃん。お疲れ様」

 

「あっ! トレーナーさん! マックイーンさんも!」

 

「今日も励んでいる様ですわね」

 

 ダイヤは俺を見つけるなり、真剣な表情が笑みに変わる。マックイーンもいるから嬉しさ倍増といった表情だ。

 まるで子犬の様に駆け寄ってくると、忙しなく尻尾を揺らしている。

 

「今終わったところなんです。えへへ」

 

「今日もお疲れ様。余裕があるみたいだし、明日からはもう少し負荷を高めてみようかしらね」

 

「はい! 私はまだまだやれますよ! デビューだってすぐに!」

 

 俺は、ぽふっと彼女の頭を撫でる。

 

「んっ……」

 

「焦らないの。貴女は本格化を迎えればきっと輝ける。そして私が導いてみせるわ」

 

 焦りがちな彼女を抑える様に優しく言い聞かせる。

 

「トレーナーさん……」

 

 焦る気持ちはわかる。

 ダイヤはウマ娘のいなかったサトノ家の待望のウマ娘なのだ。

 

 望まれたウマ娘——

 

 そう呼ぶ声も少なくない。

 家の名を背負ってるところは、マックイーンと似たところがあるだろう。

 焦る彼女は、まるで最初期のマックイーンを見ている様だった。

 

「信用できない?」

 

「いえ! そんなことは……ただ私は『キタちゃん』と……」

 

 そして、ダイヤが焦る理由はもう一つ……。

 間違いなく、同期に入ってきたキタサンブラックにもあるだろう。

 入学する前から親交のある『キタちゃん』と一緒の舞台に立ちたい。それが彼女の願い。

 

 実を言うと、キタちゃんの方が成長が早い……。

 このままいけば、デビューはキタちゃんの一年後になるだろう。おそらくクラシック戦線で戦うという夢は叶わない。

 トレーナーとしては彼女の夢を叶えたいが、勝てない戦いに出すほど愚かでもない。万全に体が出来上がってないのなら、故障の原因にもなる。それだけは絶対に避けたい。

 

「わかってるわ。期待に添える様に、私も考えてみるわね」

 

「大丈夫ですわダイヤさん。私もできる限りサポートしますので」

 

「トレーナーさん……。マックイーンさん……」

 

 キタサンブラックの担当は『トウカイテイオー』のトレーナーだったか。

 今度、一度話してみてもいいかもしれない。

 

「とにかく今日は……」

 

「おー? なんだ新しいトレーナーは馴れ合いが好きなんだな?」

 

 トレーニングの終わりを告げようとしていたところ、突然、部屋に響き渡った声。

 その方向を見ると、ニヤニヤを薄ら笑み浮かべる男性トレーナーの姿があった。

 

「何かご用でしょうか」

 

 明らかに第一声が好ましいものではなかったので、俺は警戒する。

 男は俺に近づくと、見下ろしながら嘲笑する。

 

「気にいらないんだよ。いきなり入ってきて、ベテランのトレーナー面しやがって」

 

 なるほど。

 一人ぐらい出てくると思ったが、そういった妬みを俺に向けてきたわけか。

 

「あなた! なんのつもりですの!」

 

「そうですよ! トレーナーさんにひどいこと言わないでください!」

 

 二人は俺とトレーナーの間に立ち、耳を絞る様に後ろに倒している。

 今にも噛みつきそうな勢いだ。

 

「本当のことを言ったまでだ。なぁメジロマックイーン、サトノダイヤモンド。俺のチームにこい! そんな実績のないトレーナーより、俺みたいに重賞を取ったことのあるトレーナーの方が、お前たちを勝たせることができる。悪くない話だろう?」

 

 相当に自信があるのだろう。まぁ、トレーナーは自信過剰なぐらいの人も多いのだが……。

 ウマ娘に過度なストレスをかけて、掛からせて怪我でもしたらどうするつもりなのだろうか。

 まだマックイーンもダイヤも、そこまで至っていないので事を見守る。

 

「貴方が?」

 

「爆笑ものですね」

 

 嘲笑う口調で男性トレーナーに返す二人。

 

「お断りですわ。貴方のもとで走るぐらいなら、ここで自刃を選びますもの」

 

「同じく。無礼な殿方とは関われませんので」

 

 その言葉に男性トレーナーは顔に怒りを浮かべる。バ鹿にされたことが相当に嫌だったのだろう。

 

「くそっ、言わせておけば……! おい、お前!」

 

 その怒りは、俺に向けられる様だ。

 年下に完全に言い負かされている姿は、なんとも滑稽だったが……。

 

「なんでしょうか?」

 

「澄ました顔しやがって……俺と勝負しろ! 勝負して負けたら、アジェナを俺に渡せ!」

 

「はぁ……」

 

 チーム全員の特別移籍希望とは、相当に強欲なやつだ。まぁ、それがこの男の真意ではないだろうが……。

 押し込めることができなくて、ため息を出してしまう。

 猫をかぶっていたのかもしれないが、よくもまあ中央の面接試験を通ったものだと呆れる。

 

「お断りします」

 

「くっ、ウマ娘もウマ娘なら、トレーナーもトレーナーかよ」

 

 こんなやつに構ってる時間が惜しい。話すだけ無駄だからだ。

 この後、記者たちのインタビューにも答えなくてはいけないのに。

 

「マックイーン、ダイヤ。もういくわよ」

 

 話はきっと平行線だ。早々にキリをつけて、去ろうとした瞬間だった。

 

「くそ、所詮ヘボウマトレーナーかよ」

 

 男性トレーナーの捨て台詞。

 

 俺の耳にもしっかりと聞き取れた言葉、それは俺にとって響くものではなかったが。

 

「このっ!」

 

 スプリンターよりも速く反応したのはマックイーンだった。

 葦毛を翻し、男性トレーナーに詰め寄ると、その胸ぐらを掴む。

 

「やめなさいマックイーンっ!」

 

 俺は叫ぶ様にマックイーンを抑制する。しかし、俺の声は届かない様だった。

 

「トレーナーさんへの侮辱。それはメジロへの侮辱! 到底許せるものではありませんわ!」

 

 ぎりぎり、と胸ぐらを締め上げるマックイーン。

 

「くっ、はっ、うっ、勝負に負けることが……怖くて逃げるトレーナーのことを、ヘボって言って何が悪いんだ」

 

 男性トレーナーは悪びれる様子もなく、謝罪の仕草すら見せない。

 掛かっているウマ娘に掴まれているのに、悪態をつけるのは相当な根性だ。

 

「マックイーン! やめろ!」

 

 俺は思わず、いつもの口調で叫ぶ。

 

「っ……! すー……はー……。いいでしょう……」

 

 マックイーンは、背後の俺をちらりと見る。鋭い表情に俺は息を飲んだ。

 最後の理性が働いたのか、彼女はどうにか気持ちを落ち着ける様に、深呼吸をした。

 そして男を雑に投げ捨てる様に解放すると、マックイーンは自らの胸に手を当て。

 

「貴方が提示した決闘、受けて立ちましょう。チームアジェナの名にかけて……!」

 

 まるで決闘を受ける騎士の様に、怒りを隠し凛とした表情で、男が提案した勝負に乗ると宣言する。

 その言葉に男性トレーナーはニヤリと笑う。

 やはりこの男の真意は、マックイーンの移籍とか、アジェナが欲しいとかではない。

 『この勝負』にあるのだろう。

 ならば、なおさら受けるべきではない。

 

「マックイーン! その勝負は……!」

 

「トレーナーさん、少しお静かに願います」

 

「っ……」

 

 マックイーンの鋭い視線に、その威圧感のある言葉に、俺は言葉をつまらせた。

 これが現役最強馬の本気の怒り……。

 静かな言葉で話す彼女だが、部屋が震える様な怒りだ。

 

「へへっ、言質は取ったからな!」

 

 男は懐からレコーダーを見せると、マックイーンの言葉を再生する。

 

「おいおい、すげぇ展開になったな」

「決闘か。トレーナーの威信をかけた戦い。いい記事になりそうだ」

「レースの公開はあるのかしら」

 

 一部始終を見ていた記者たちが騒ぎ出す。

 あぁ、そうか……。

 男がなぜ今のタイミングで話しかけてきたか、その理由がよくわかった。

 記者たちを、この決闘の見届け人にするつもりだったのだ。

 

「勝負内容は追って伝えるからな!」

 

 男はそう言い残すと、走ってその場を去っていった。

 これは……まずいことになった。

 

「マックイーン……」

 

「問題ありませんわ。私が負ける理由がありませんもの」

 

「そうですよ! デビューしてない私でも、あんなトレーナーには負けません」

 

 そう。

 そうだろう。

 もちろん真面目に戦えば、ダイヤはともかく、マックイーンには勝てるわけはない。

 

「そうじゃないのよ。あのトレーナーは勝負内容を伝えなかった」

 

「それの何か問題なんですの……?」

 

「おそらく彼が挑んでくる勝負は……短距離」

 

「っ……!」

 

 マックイーンは青ざめる様に言葉をつまらせる。

 そう、適正外の距離で、かつ重賞級のウマ娘を担当しているのであれば、あのトレーナーでも勝機は十分にある。

 アジェナは中、長距離のチームなのだ。

 俺もスプリンターを教育したことがない。もちろんアジェナには、短距離の適性を持ったウマ娘はいない。

 

「卑怯ですわ!」

 

「そうです! 卑怯です!」

 

「えぇ、とっても卑怯だと思うわ。でも……」

 

「でも……?」

 

 言葉を止めた俺に、マックイーンは恐る恐る聞き返す。

 

「それも真意じゃない。彼の真意は話題を作ることよ」

 

 だから男性トレーナーは口汚く、俺たちが挑発に乗るように攻めてきたのだ。

 そして、まんまとマックイーンはその挑発に乗ってしまった。

 

「彼は、現役最強馬を不得意な短距離で叩きのめして『悪役(ヒール)』としての地位を確立したかったのよ。相当な目立ちたがりね……」

 

「っ、わたくし、今から勝負を撤回してきます!」

 

「待ちなさい!」

 

 俺はマックイーンの手を掴むと、落ち着く様に言い聞かせる。

 

「断っても彼はこう言うと思うわ『勝てないとわかって、尻尾を巻いて逃げた負けウマチーム』ってね」

 

「っ……!」

 

 そう、八方塞がり。

 ようは勝負を受けた時点で俺たちは負けなのだ。

 アジェナの名を貶めて、さらには悪役として確立し、メディアへの露出増も考えているのだろう。

 俺たちを話題作りの出しに使うとは、よくもまぁ小賢しいことを考える。

 

「理事長に報告すれば」

 

「そうですよ!」

 

「えぇ、でもね? それをしたら、私は完全な七光りトレーナーと認識されてしまうわ」

 

 これも実にうまい。

 メディアがあれだけ盛り上がってしまったのだ。理事長も勝負を止めることはしないだろう。

 もし止めてしまえば『私情を挟む理事長』になってしまうからだ。

 俺が理事長の娘と言う立場であることを、最大限に利用して見せたのだから、上手い以外に表現が思いつかない。

 

「でもまぁ、対応策がないわけじゃないわ」

 

「トレーナーさん……わたくし……」

 

 マックイーンはしゅんと耳を倒して、落ち込んでいる姿を見せる。

 

「いいのよマックイーン」

 

 今にも泣いてしまいそうな表情を見せるマックイーン。

 俺は彼女の肩に手を置いて、落ち着かせるように摩る。

 

「あなたは『アジェナの名にかけて』と言ったわね」

 

「えぇ、確かにそう言ったはずですわ……でもそれが……?」

 

「『メジロの名にかけて』とは言ってない。つまりは、出走者はアジェナのウマ娘であれば誰でもいい」

 

「!」

 

 マックイーンは気づいた様に、耳をピンと立てる。

 トンチみたいな話だが、証拠はあのレコーダーに残っている。誰でもいいなら、スプリンターを見つけてくればいいのだ……。

 だが……。

 

「スプリンターを見つけてくれば、勝てるかもってことですね!」

 

 マックイーンよりも先に、ダイヤが言い放つ。

 

「そう、でも……」

 

「何か問題が……?」

 

 ダイヤは首を傾げる。

 そう、気持ち的な問題があるのだ。

 

「アジェナの名を出せば、所属してくれるウマ娘もいるはずよ。でもね、個人的な決闘のために、ウマ娘をスカウトしたくないのよね……」

 

 みんなトゥインクルシリーズで走るために、トレーナーのスカウトを受ける。

 決闘のためのスカウトなんて、ウマ娘を物として見ているみたいで、理に反する行為の様な気がする。

 所属させたところで、俺に短距離の教育経験がないため、その後を勝たせられるかもわからない……。

 

「……まぁ、このことはあとで考えましょう。レース内容を見てからでもいいのだし」

 

「トレーナーさん……申し訳ありません……私としたことが……!」

 

「いいのよ。マックイーンは私のことを思って怒ってくれたんだもの。ありがとう」

 

「それでも……っ!」

 

「マックイーン」

 

 後悔に押しつぶされそうなマックイーンを、俺は思いっきり抱きしめた。彼女の顔を胸に埋めさせてあげて、優しく頭を撫でる。

 

「トレーナー……さん……?」

 

 男の頃だったら、公衆の面前でこんな事しなかっただろうな。と思いながら、彼女が落ち着くまでそれを続ける。

 周りからは黄色い歓声が聞こえる。しかし今は無視だ。

 マックイーンは最初こそ驚いたが、次第に耳を垂らして落ち着いた様子だった。

 

「まずは出来ることをしましょう?」

 

 マックイーンを抱きしめたまま、待っている記者たちを見つめる。

 記者たちは、先ほどの内容も含め、何かを聞き出したくて今か今かと待ちわびている。彼らの質問に答えるのが、今できることだろう。

 

「マックイーン? インタビュー手伝ってくれる?」

 

 まだ小刻みに震えるマックイーンの手をぎゅっと握って、彼女の気持ちを落ち着かせる。

 

「トレーナーさん……はい……」

 

 マックイーンはまだ納得いかない感情を隠せずにいたが、気丈に振舞う。

 

「私も!」

 

「ふふっ、はいはい」

 

 隣でぴょんぴょんと跳ねるダイヤ。彼女の手も繋いで記者陣へと向き直る。

 そして、降りかかるであろう質問の嵐に、気を重く身を投じるのだった。

 




話題性を作るためには、迷惑も省みない。そういう人いますよね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。