トレーナーはウマ娘に……。   作:あさのひかり

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お忍び?

「……」

 

 ダイヤとお風呂に入った後に、髪を乾かされて、髪のケアや尻尾のケア。肌のケアまで教え込まれた。これを毎朝行わないといけないと思うと、気が滅入ってきた。

 

 そうしてるうちに、机の上には三人分の朝食が用意されていた。

 伝統的な和食。いつも紅茶を飲んでるマックイーンだが、こういうのもできたのか。と感心してしまった。

 

「……」

 

 そしてマックイーンの機嫌が悪い……。

 ダイヤとのお風呂からこっち、すごく機嫌が悪いと言った感情が目に見えてわかる。絶不調とまではいかないが、不調といった感じだ。

 そんなに一緒にお風呂に入りたかったものか……ウマ娘になった俺の体にそんなに興味があるんだろうか。

 

「いやぁ……マックイーンは料理の腕も良いんだな……」

 

 恐る恐る声をかけるが、マックイーンはツーンと顔を逸らす。これはなかなか厄介なほど機嫌が悪い。

 

「マックイーンの夫になる人は幸せだろうなぁ……」

 

「そ、そうですね! 私は料理もさっぱりなので……」

 

 流石のダイヤも空気に押しつぶされそうになったのか、焦りながら言葉を発する。

 

「それはどうも」

 

 若干耳が反応したようだが、マックイーンの機嫌は褒める程度では直らないらしい。

 作戦を変える必要がある。マックイーンが機嫌良くなるようなことあったか……。このままでは、目の前に置かれた味噌汁すら喉を通らない。

 そういえば確か……。

 

「なぁマックイーン」

 

「なんですの?」

 

 キッとした視線で俺を見つめるマックイーン。

 

「駅前にスイーツバイキングの新しい店ができたらしいんだ。この事態が落ち着いたら、一緒に行かないか?」

 

「っ……!」

 

 耳と尻尾が反応する。表情も想像で若干笑みが抑えられないと言った感じ。

 

「誰とですの?」

 

「え? マックイーンと……」

 

 チラリと横のダイヤを見つめると、何かを察したように首を横に振っている。

 

「俺の二人で……?」

 

「なんで疑問形なんですの? まぁ、合格点ですわね……。ふふっ……」

 

 どうやら機嫌は持ち直したらしい。

 

「初めからそんなに怒ってません。ただ、トレーナーさんの困り顔を見たかっただけです」

 

 俺はそんなに面白い顔をしていただろうか? 確かに焦ってはいたが、自分の頬を触りながら少し恥ずかしくなって顔を隠してしまう。

 

「心臓が止まるかと思ったぞ……」

 

「わたくしとここまで駆け抜けてきた割には、弱い心臓ですわね?」

 

 レースでハラハラする場面は確かにあったが、ここまでの緊張感は久しぶりだった。

 

「トレーナーさんの困った顔って可愛いですよね? もちろん人の時から」

 

 ダイヤお前もなのか。いや、君も今さっき、恐怖しながら首をブンブンと横に振ってたじゃないか。

 

「トレーナーさん? スイーツバイキング楽しみにしていますわね?」

 

「あぁ、落ち着いてからな」

 

 とにかく今後どうなるかも分かってないわけで、この問題がクリアできるまでは、外に出ることもままならない。そんなことを考えていると、ぐぅっとお腹が鳴る。

 

「あら、可愛らしい音ですわね?」

 

「ふふっ、トレーナーさんったら」

 

「いやっ、これは……」

 

 おかしい。いつもだったら朝食を抜いてもなんてことなかったのに。腹の音を聞くと、空腹感が加速した気がした。ウマ娘の体っていうのは、なんて燃費が悪いんだ。

 

「ささ、トレーナーさん? 冷めないうちにどうぞ? ダイヤさんも」

 

「あぁ、何から何まで悪いな」

 

 こんなにちゃんとした朝食はいつぶりだろうか?

 ご飯と味噌汁。焼鮭に小鉢がいくつか。旅館で出るぐらいの朝食が用意されている。お世辞抜きに完成度の高い朝食が用意されていた。

 

「じゃあ、みんなで食べるか」

 

「はいっ」

 

 二人に顔を交互に見ると、手を合わせて。

 

「「「いただきます」」」

 

 まず俺は味噌汁を手にとって吸ってみる。

 

「うまい……」

 

 思わず声が出てしまう。ちゃんと出汁がとられているし、味加減もちょうど良い。

 俺に実家と呼べる家はないが、お袋の味ってこんな感じなんだろうか。落ち着く味にため息までついてしまう。

 

「それは何よりです」

 

 微笑むマックイーン。

 うん、本当にマックイーンの夫になれる人は幸せだろうな。容姿端麗、料理もできる。何よりレースの彼女は最高に美しい。

 しかしこの味噌汁の容器も、焼鮭の乗ってる皿もうちには置いていないものだ。

 

「お皿まで用意したのか?」

 

「料理の講師の方は、お皿も重要な要素だとおっしゃられてましたの」

 

 確かに視覚でも楽しめるのは良いことだと思う。きれいなものは料理であれなんであれ良いものだ。少し話して俺はまた夢中で料理を平らげていく。

 

「しかしあれだな、ウマ娘ってほんと身嗜みは大変だよな……」

 

 しばらく夢中で食べ続け、空腹が落ち着いてきた頃に、さっきのことを振り返るように言葉に出す。

 

「マックイーンたちは、毎朝こんなことしてるのか?」

 

「えぇ、メジロのウマ娘たるもの、どんな時も完璧じゃないといけませんもの」

 

「私も、でもお家では使用人の方がやってくれていたので……少し大変ですけど」

 

 マックイーンは胸を張って若干のドヤ顔を見せるが、ダイヤは苦笑いを見せる。お嬢様にもいろいろあるんだなぁ。

 

「スキンケアとかはともかく、長い髪は難儀だよなぁ……暑いし、いっそ切るか」

 

「「!?」」

 

 俺の言葉に空気が凍る。

 あれ? 今の発言にそんな地雷はなかったはずなのだが……。マックイーンなんて握っていた箸を落としている。

 

「だ、だめですわ!」

 

「トレーナーさん!何を考えてるんですか!!」

 

 二人は俺に詰め寄って、肩をつかんでガクガクと揺らす。

 

「そんなにきれいな髪を切るなんて、なんでもったいないことをっ!」

 

「髪は女の命なんですよっ?!」

 

「だっ、だってさ、手入れも大変だし……何より首筋が暑いっていうか……」

 

 今の俺は、腰まで届くほどのウェーブのかかった金髪ロングだ。これを毎朝手入れしようと思うと、今日ぐらいの時間に起きないと間に合わない。

 自慢じゃないがレースの日以外の朝は得意じゃない。できることなら切りたいものだったが、鬼気迫る二人の表情を見ると、切ることは罪なのか? とすら思えてしまう。

 

「邪魔なら結えば良いじゃありませんの!」

 

「そうですよ! 私たちがしてあげますから……!」

 

「でも手入れは……」

 

「「私たちがします(わ)!」」

 

「あ、え、はい……」

 

 あまりの勢いに受け入れてしまった。まさか明日から毎朝押しかけてこないよな……。

 そんなことを考えてしまったせいで、それからの朝食の残りの味はよく覚えていなかった。

 

………………

…………

……

 

「ふんふーん、ふーん♪」

 

 マックイーンはルンルン気分で俺の髪をいじっている。とりあえず、髪を切ることはやめたのだが、邪魔にはならないように結ってくれるらしい。

 後頭部に感じる軽く髪を引っ張られる感覚は、なんともいえないくすぐったさを感じる。マックイーンはどこから取り出したのか、リボンで俺の髪を止めて。

 

「完成ですわ」

 

 俺からは後頭部が見えないが完成したらしい。マックイーンは俺の肩に結った髪を回して見せる。三つ編みで、先の方が青いリボンで止められている。

 一本の大きな三つ編みおさげ。確かにこれなら動きやすいが、自分でするとなれば難儀だ。

 

「ありがとうな。暑さは少しはマシかな」

 

 首に当たる、ふわふわの髪の感覚がなくなっただけでもありがたい。マックイーンは満足そうに笑みを浮かべている。

 

「どうかな? おかしくない?」

 

 立ち上がってくるりと回って見せる。外面を気にする質ではなかったが、一応おかしくはないか聞く。

 

「もちろんとても似合ってます♪」

 

「はいっ、お姫様みたいです!」

 

 二人とも肯定的な意見。お姫様か……悪い気はしないが、これからも慣れることはないだろう。

 

「そういえばお連れするって言ってたよな」

 

「はい、理事長室に連れてくるようにと」

 

「トレーナーさんとの今後についてお話ししたいそうです」

 

 今後。

 どうやってトレーナーを続けるか。とかそう言ったことは早めに話し合っておきたい。理事長も即対応してくれるなんてありがたい。それはありがたいのだが……。

 

「どうやって俺を理事長室まで連れていくんだ? 外見では完全部外者だし、不明なウマ娘なんて流石に問題だろ? 学生以外がこのジャージ着てたら変だし……」

 

 あいにく、女物の服を着る趣味はないので、他の服は持ってない。しかし、俺の不安をよそに、二人は満面の笑みを浮かべて。

 

「ちゃんと用意していますわ! 変装すれば問題ないじゃないですの」

 

「そうですよ! セレブのお忍びと言ったら、学園で私たちに敵う者はいないはずです!」

 

 俺の今の心境を二文字で表すなら『不安』だ。

 そもそも俺はセレブじゃないし、変装なんてしたらそれはそれで不審者だ。でもやる気の二人を止めるのも一苦労だし、どっちにしろ学園には赴かないといけないわけだ。

 理事長をこんなところに足労いただくわけにもいかないし。

 

「時間もありませんし、着替えましょうトレーナーさん」

 

「はいっ、脱ぎ脱ぎしましょうねー?」

 

「いや自分でできるから」

 

 にこやかに迫ってくる二人。俺は諦めつつも後ずさる。

 

「いえいえ〜おまかせください〜♪」

 

「そうですわ。優しくしてあげますので♪」

 

「やめっ」

 

………………

…………

……

 

 いつの間にか用意されていた姿見を見ると、それはそれは高貴なお嬢様が映っていた。

 しっぽを隠せるロングスカートに、至るところにフリルがあしらわれた白いブラウス。大きな鍔の白い帽子。これは耳を隠す用途だろうけど。それにサングラスって。もう完全にハワイ帰りの芸能人か何かじゃないですか。

 

「お綺麗です……トレーナーさん……」

 

「まさかここまで似合うとは……。私も驚きですわ……」

 

「さいですか……」

 

 もはや何も言うまい。正直な話をすれば、ジャージの方がマシだったんじゃないだろうか。

 

「ここまで完璧に変装できるなんて……」

 

「はい、私たちの才能が恐ろしいです……」

 

 この二人はもはやブレーキがぶっ壊れているようで。満足そうに頷きながら、ふんすと鼻を鳴らすマックイーンとダイヤ。姉妹かと思うぐらいに息が合っている。

 

「これじゃどう見ても違和感バリバリなわけだが……。ジャージでいいよもう。脱ぐからな」

 

「「えぇー!」」

 

 二人して声を合わせて残念そうな視線を俺に送る。

 

「せっかく……用意しましたのに……」

 

「そうです! 私たちがんばったのにっ!」

 

「うぐっ……」

 

 二人とも顔を見合ってうるうると瞳を潤ませる。それを見てしまえば、謎の罪悪感が俺を襲ってくる。

 

「脱いでしまうんですか……?」

 

 裾をちょこっと引っ張って、ダイヤは昔と変わらない視線を見せる。

 

「その姿とっても素敵ですのに……」

 

 上目遣いにマックイーンは俺に問いかける。

 

「だぁぁぁーーーー! もう! 分かった! 着て行けばいいんでしょ!」

 

 俺はこの流されやすい性格を直したい……。これはいつの間にか、扱いやすいと思われてるのではないだろうか。やはりもう少し担当ウマ娘とは距離を置くべきだったか。

 

「「トレーナーさんっ!」」

 

 その言葉に二人は両方から抱きついてくる。そして俺を見つめる顔は満面の笑み。守りたいこの笑顔……。

 

「……」

 

 距離は置けそうにもない。

 

………………

…………

……

 

 暖かくなってきた風が駆け抜けるトレセン学園。

 登校時間ということもあり、ウマ娘たちの黄色い声が聞こえてくる。なんとも微笑ましいことか。

 

「あの人ってもしかして超お金持ちとか……?」

「もしかしたら女優さんかもよ?」

 

 葉っぱは深い緑に色づき、もう直ぐ暑い季節がやってくるんだろうなと思うこの頃。

 

「やっぱり? だってマックイーンさんとダイヤさんと一緒にいるもんね!」

「はぅ……綺麗な髪……。スカートの中で尻尾動いてるけど……なんで隠してるんだろ?」

「きっと王族のお忍びなんだよ……!!」

 

 ……ウマ娘の耳は良すぎか?

 俺の耳には、帽子を被っているにもかかわらず、全部聞こえてくるんだが? 平常心でいようとしても、無意識に尻尾は揺れるし。全部バレバレじゃないか……。

 しかも目の前は、俺たちに道を作るように皆んな道の横に控えてるし。海を割ったモーゼか俺は……。

 道の中心を歩いてるのが、俺とマックイーンとダイヤ。まぁ、確かにこれでは貴族のお散歩にしか見えないだろう。おかげで誰も近寄ってこない。

 

「うーん、おかしいですわ……。こんなはずでは……」

 

「そうですねぇ……。なんでこんなに避けられるんだろう……」

 

 素性を聞かれないって点では成功してるだろうけど、なんというか、別な意味で目立ってしまった。

 

「とりあえず早く理事長室に行こう。これ以上目立ちたくない」

 

 基本裏方でいた俺が、こんなに注目されることなかった。だからか知らないが、顔が熱くなって直ぐにでも穴に隠れたいぐらいだ。

 

「そうですわね。登校の邪魔にもなりますし」

 

「えぇ、早くいきましょう!」

 

「マックイーンさーん! ダイヤさーん」

 

 早足でそこを去っていこうとしたところ、後方から聞こえる声。

 

「この声は……」

 

 後ろを見ると、そこには駆け寄ってくるライスシャワーの姿があった。

 

「ライスさんっ!?」

 

「まずいですよマックイーンさん! ライスさんにはまだ……」

 

 チームのメンバーにはまだ話していない事になっている。二人は間違いなく、ここで接触させればややこしくなると感じたのだろう。

 あぁ、ライスのこと話しておけばよかった。

 

「おはよう。マックイーンさん、ダイヤさん」

 

「お、おはようございますライスさん……」

 

「今日はお日柄もよく……」

 

 二人の挙動が明らかにおかしい。なんとなくその言葉づかいにくすっと笑ってしまう。

 

「ん……もしかして……お姉さま……?」

 

 ライスは俺の顔を見上げて、首を傾げた。

 

「おはようライス。昨日はちゃんと眠れたか?」

 

「わぁーっ、やっぱりお姉さまだ……!」

 

 サングラスをとって微笑みかけると、ライスは満面の笑みで返す。驚愕するマックイーンとダイヤを尻目に、そんなやりとりに癒される。

 

「ど、どういう事ですの……?」

 

「説明してくださいっ!」

 

「いやそれがさ……。歩きながら話そうか」

 

 ライスが俺の現状を知っている経緯について、歩きながら二人に説明した。

 

………………

…………

……

 

「まぁそういう事なんだけど」

 

「そんなことが……またもや初めてを奪われるとは……」

 

「そんな……初めての併走をとられるなんて……」

 

「えへへ……」

 

 なぜかマックイーンとダイヤは絶望の顔を見せていた。ライスはライスでもじもじと恥ずかしそうに頬を染めている。

 

「それにしてもお姉さま綺麗……。やっぱりお姫様だね」

 

「そりゃありがとうな……?」

 

 キレイキレイと今日は何度言われただろうか。ライスも加わって賑やか? な登校は今日の学園でのウマ娘たちの話題になるのだった。

 

 それから俺たちは、足早に理事長用の裏口から校舎内に入り、ライスは用事があるからと別れ、マックイーンとダイヤとともに理事長室の扉を叩いた。

 

「歓迎! 入りたまえ!」

 

 中からは声の高いロリボイスが聞こえてくる。その言葉に答えるように、俺は扉を開いて中に入った。

 部屋の中には、微笑むたづなさんと、歓迎! の文字の書いてある扇子を持ったちびっ子。

 もとい、理事長が立っていた。

 

「感謝! 二人ともよく護衛してくれたな!」

 

 閉じて開けば扇子の文字が変わっている。毎回思うが、これの仕組みはどうなってるのだろうか。

 

「いえ、私たちはできる限りのことをやったまでです」

 

「理事長のお願いですから」

 

「おはようございますトレーナーさん」

 

「たづなさん。おはようございます」

 

 互いに挨拶を交わし、理事長も云々とそれに肯く。

 

「うむ! 体調に問題はないようだな!」

 

「はい、ご迷惑をおかけしてしまって」

 

「無用! トレーナーを守るのも学園の義務! この度は本当に申し訳なかった!」

 

 理事長が正しい姿勢で頭を下げる。

 

「いやいや! 事故は誰も予想できませんから! 頭あげてくださいって!」

 

 流石に頭を下げさせるわけにはいかないと、慌ててしまう。理事長は少なくとも悪くはないのだし。

 

「申し訳ない……アグネスタキオン君と話したのだが、君を戻す薬がいつできるかもわからない。そして何より、彼女も生徒だ。研究だけというわけにはいかない……」

 

「……覚悟はしてましたけど」

 

 とうとう聞いてしまった。覚悟はしていたが、実際言われるとなんとも絶望感がある。いつ治るかもわからない。元に戻れる確証もない。少し諦め気味に、ははは……と笑ってしまう。

 

「無念……しかし、研究の資金提供は惜しまない考えだ! 希望を捨てずに待ってほしい!」

 

 励ましてくれてるのだろう。ぴょんぴょんと主張する理事長はなんとも可愛らしいが。その言葉は虚しく響く。

 

「そして提案! 君の成績は優秀であるため、トレーナー業務は続けてほしい!」

 

「と言っても俺は、住所不定、戸籍すらないウマ娘ですよ? そんなの学園に置いて置くわけにはいかないんじゃないですか?」

 

「はははっ!」

 

 理事長は小さい胸を張って笑い声をあげた。

 

「用意! すでに戸籍や経歴の用意はできている!」

 

「は?」

 

 思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。無理もない。昨日の今日だったのだから。

 いくら理事長がURAの運営までやってるとはいえ、そこまでの権力があるとは思えなかった。

 

「協力! 私の力と、メジロ、サトノ家の力があれば不可能はないのだ!」

 

「えぇ、私も頑張りましたの。トレーナーさんはメジロ家からも高く評価されてますので」

 

「サトノ家もですよ! トレーナーさん以外ありえないって思ってます!」

 

 驚いて開いた口が塞がらない。いやまさか、この三人が合わされば日本に敵はいないのか……。そんな家のご令嬢を二人も担当してるなんて、すこし背筋がぞくっとした。

 

「こほん、トレーナーさん? そこでお願いなんですが……」

 

 興奮した場を正すように、たづなさんは咳払いをする。

 

「トレーナーさんにはこれからウマ娘としての『名前』を考えてもらいたいんです」

 

「名前……ですか?」

 

 それは流石に考えていなかったが、確かにウマ娘は随分と特異な名前を持って生まれてくる。文字通り生まれた時からなぜか名前を持っているのだ。

 これは今でも解明されていない古来からの謎なのだが……一説には神秘的な何かが作用しているとも言われている。

 

「決まりはわかってますよね?」

 

「えぇ、確か9文字以内でしたよね」

 

 そして不思議な事に、皆9字以内なのだ。メジロマックイーンもサトノダイヤモンドも9文字。これを超えた文字数のウマ娘はいまだに会ったことがない。

 では海外はどうか。アルファベット18文字以内の名前を持っている。

 ほんと面白い話だが、これはどこの国もたいていそうであるから驚きだ。日本のウマ娘はこれに倣って、海外で出走する場合は18文字以内の名前で登録する。

 

「俺が決めていいんですよね?」

 

「熟考! 変更はできないからじっくりと決めてくれ!」

 

 確かに変な名前にするわけにはいかない。俺を示す言葉。第二の名前。

 

「トレーナーさん…! メジロをつけてもいいんですのよ!?」

 

「サトノ! サトノもいい響きですよね!」

 

 興奮気味に尻尾を振る二人。これは完全に掛かってるじゃないですか……。

 

「期限! 明日までに提出してほしい! トレーナー業を疎かにもできないからな!」

 

「あ、期限あるんですね……」

 

 しかも明日って相当に短い期限だ。下手したら一生……は困るが。とにかく名乗らないといけない名前なのだから、しっかり考えなければいけない。

 

「メジロメジロメジロメジロメジロメジロメジロメジロメジロメジロメジロメジロメジロメジロメジロメジロメジロメジロメジロメジロメジロメジロメジロメジロメジロメジロメジロメジロ」

 

「サトノサトノサトノサトノサトノサトノサトノサトノサトノサトノサトノサトノサトノサトノサトノサトノサトノサトノサトノサトノサトノサトノサトノサトノサトノサトノサトノサトノ」

 

 耳元で洗脳してくる二人は間違いなく役に立たないだろう。そう思ってたづなさんを見るが。

 

「パーフェクトとかどうですか?」

 

 ……なんかダメな感じがするので、協力は諦めた。語彙力少ない俺が、必死で考えるしかないようだ。

 

「とりあえず今日1日考えてみます」

 

「賛成! それがいいだろう!」

 

 ばっ、と扇子を開くとまた文字が変わっている。いつかその不思議扇子については聞く事にしよう。

 

「トレーナーさん。今の状態を話すのは早いほうがいいと思いまして、チームアジェナのメンバーを会議室に集めてあります」

 

「いや、ほんとに手際がいいですね……」

 

 ホントにこの人の手際の良さには驚かされる。物事がポンポンと進みすぎて怖い気もするけど。

 

「そうですよね……これ以上不安にさせるわけにはいきませんし」

 

 風邪をひいたと言っただけで、これだけ掛かってしまう子もいるのだ。俺はマックイーンを見て小さくため息をつく。チームの子たちは悪い子じゃないが、ウマ一倍共感力が高いというか……。

 誰かを心配になって掛かりやすいところがある。

 

「準備はいいですね? 私は書類の整理があるので同行できませんが……」

 

「準備ができてるかと言われると、どんな反応されるか分からないんで不安ですけど。たぶん……」

 

「たぶん……?」

 

「あの子たちを信頼してるんで大丈夫ですよ」

 

 と言っても三人にはバレてしまったし、知らないのは後二人。マンハッタンカフェとゴールドシップぐらいなのだが。

 ゴルシに至っては、ちゃんと今日集まっているかも不安になる。昨日深夜に届いていたメッセージには

 

「ちょっと七大陸最高峰制覇してくるわ!」

 

 という文字しか書かれてなかったし。しかし、俺が愉快な状態になってる時は必ずいるし、今日も集まっていると願いたい。

 

「マックイーンさん。ダイヤさん。くれぐれもトレーナーさんをよろしくお願いしますね?」

 

「もちろんですわ! メジロ家の名にかけてお守りします!」

 

「私も任せてください!」

 

 ふんすふんすと鼻息荒めに主張する二人。まぁ、大ごとにならなければいいけど……。俺たちはチームへの説明のために、会議室へと向かうのだった。

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