そうして夜は明ける   作:moco(もこ)

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「ったく、なんなんだよ」

 

 小さく悪態をつきながら、呉の埠頭を足早に駆ける。今日はこれから南方資源航路へと向かう船団の護衛任務だ。基本的に最前線へと送り込まれる呉鎮守府の艦娘ではあるけれど、ここ最近は戦線が落ち着き、前線基地構築を中心に攻勢作戦が鳴りを潜めていることもあって自身もこういった護衛任務によく参加していた。

 

『ちょっと先に行ってるね!』

 

 そう声を弾ませ、止める間もなく飛び出したあいつを反射的に追ってはきたものの、結局見失ってしまった。

 やれやれと嘆息しながらきょろきょろと辺りを見回し、ゆっくりと歩く。ちょうど到着したらしい船団の周りには大勢の船員と、それを護衛してきたのであろう艦娘達がちらほらといた。喧騒の中を練り歩き──探し人の後ろ姿を見かけ、声をかけながら肩に手をかけた。

 

「こんなところにいたのかよ、勝手に飛び出すなよな」

 

 呆れながらそう言うと、件の探し人──野分は、驚いたようにこちらに振り返った。

 そうして、違和感。

 

「……野分」

 

 さらり、と癖のない銀の髪が揺れる。艦娘になると髪や瞳の色が変わるのは周知の事実ではあるが、それにしてもこいつの姿を初めて見たときはずるいなぁなんてちょっぴり思ったものだ。それくらいには、野分のその髪や瞳の色は、かっこいいほどに似合っていた。

 いつもはころころと人懐っこい犬のように笑いながら、戦場へと赴けば涼やかな顔で敵を屠る。なんか、ずるいよなぁって。ちょびっとだけ妬ましく思ってしまうくらいには、野分という艦娘は人を惹きつける何かをもっていた。それは、認めるんだけど。

 

「お前、この数分で老けた?」

「は?」

 

 思わずぽろりと溢れ落ちた言葉に野分の眉根が寄る。それに微かな違和感を覚えながらも、内心俺は焦っていた。

 ああ、いや違う、もっと言葉があっただろ俺。

 いやだってびっくりしちまったんだ。そう、野分ってやつはかっこいい、それは認める。新人の俺なんかよりずっと艦歴は長く、いわゆる歴戦と言われる呉の駆逐艦メンツに平気で入り込む。ひとたび海を駆ければ力強く、頼もしい、そういうやつだ。同じ陽炎型のよしみか、よく世話を焼いてくれるんだけれども、その面倒見の良さといい、ついでにいうとヴァイオリンの演奏の腕もピカイチという、なんというかこの世には隙がなくかっこいいやつがいるんだなぁって思ってしまうくらいには、俺は野分のことをこっそりと尊敬していた。

 だがしかし。一瞬でも、あれ、こいつってこんなに綺麗だったっけ、って見惚れてしまったのは初めてで、そんな自分に動揺してついついそんな言葉が口をついた。

 きっと今日の俺はどうかしていたのだと思う。いつも気兼ねなくじゃれ合う仲であるはずの野分に対して、なんとなく気恥ずかしさを覚えてぱ、と肩から手を放した。

 ……いや、いやいや。どうした嵐。よくわからぬ自身の心の動きに動揺していると、野分は一歩こちらから身を引きながら不審げに口を開いた。

 

「……ていうか、誰ですか」

 

 いやな、俺が悪かった。さすがに気心が知れた仲とはいえ、老けた? はないよな。萩にもよく嵐はデリカシーが足りないって怒られるんだ、反省してる。

 ……俺が、悪かった。けど、その返しはなくないか。俺の言葉にカチンときたからってそりゃないだろう、俺のガラスハートは傷ついたぜ……。

 両手で顔を覆ってさめざめと泣いてやった。

 

「悪かった……悪かったから冗談でもそういうの、やめてくれよ」

「いや、だから、本当に」

「のわ────っち!!!」

「わぁ!?!?」

「おわぁ!?」

 

 がばり、と野分の背後から小さな人影が飛びつき、野分が悲鳴を上げる。そうしてそれにビビった俺も釣られて悲鳴をあげた。

 

「ま、舞風」

「また一人でふらふらしてる!」

「し、してないよ」

 

 頬を膨らませ野分に文句を言う彼女は、見覚えがなかった。横須賀のやつだろうか。野分は艦歴が長い分、あっちこっちに友達がいる。じゃれついている小柄な少女は、きっとそのうちの一人なのだろう。

 

「舞風、重いってば」

「なにおう」

「ちょっと、体重かけ、ない、で」

「のわっちにはデリカシーが足りない。お仕置きです」

 

 艤装つきだからそら重かろう、と思いつつ、目の前の俺そっちのけで戯れる二人に軽い疎外感を覚える。どうしよ、俺も抱きつけばいいんだろうか。いつもなら躊躇いなくやってのけられるはずの行為が、なぜかできなかった。それをしたらなにか致命的なことになる、と本能が警鐘を鳴らす。

 一体俺はどうしちまったんだろう。わけもわからず固まっている俺そっちのけで、目の前の舞風と呼ばれた少女と野分のじゃれ合いは続いた。

 

「ちょっと、ギブ、ギブアップ!」

「じゃ、間宮おごりね」

「えぇ……」

「あ、ていうかね」

 

 ひょいっと野分から飛び退いて続きを言おうとした舞風は、はたとこちらに気づいて言葉をきった。そうしてなんとなく二人がじゃれる様子をはからずも眺めてしまい少々気まずかった俺は、ぺこりと会釈をした。すると舞風はにこ、と屈託のない笑顔でもってこちらに手を振ってくれた。天真爛漫なその様にどことなくホッとする。

 そうしてその隙にやれやれ、といった形で押しつぶされかけていた野分が上体を起こそうとした、その時。

 

「みーつけた!!」

「きゃっ!?」

 

 先程の舞風よりも激しく背後から飛びかかる人影。そうしてバランスを崩した野分は、そいつに押し潰されるように地へと伏すのであった。

 

「元気してた? ちゃんとご飯食べてる?」

「ね、姉、さ」

「あ! ちょっと痩せたんじゃない!? 駄目だよ、ちゃんと食べ……いや、これ筋肉かな」

「ちょ、っと! どこ触って……!!」

 

 もみくちゃともつれ合う二人を、どうどう、と舞風が引き剥がす。そうして、犬だったら絶対にぶんぶんと尻尾を振っているだろうな、ってぐらいには嬉しそうにじゃれているそいつと、そいつに下敷きにされ、もうどうにでもしてくれと言わんばかりに諦めた様子で地面に伸びているそいつに、口をあんぐりと開ける。

 

「……の」

「あれ? 嵐もう来てたんだ? まだ集合時間まであるよ?」

 

 いつもの見知った、人懐っこい笑顔で無邪気に俺に話しかける野分。そうして、その野分の下でもって、むっつりとしかめっ面をしているのも。

 

「野分が、分裂、した」

 

 まごうことなき、"野分"であった。

 

 

「……っく、ぶ、分裂って」

「……」

「姉さん、あんまり笑わない方が」

「ご、ごめ、ふ、ふふ……」

「訴訟も辞さない」

「悪かったってば」

 

 ぶっすーっと不貞腐れていると、ごめんごめんと俺のよく知る野分が謝った。

 

「そっか、嵐まだ同一艦艇の娘って見たことなかったっけ」

 

 ぱんぱん、と服についた汚れを払いながら立ち上がったもう一人の野分の隣に並びながら、楽しそうに野分が話しかける。

 なるほど、よくよく見てみれば別人だ。どこかあどけなさの残る、言ってしまえば少し童顔な野分に対し、もう一人は大人びた顔立ちをしていた。

 いやでも紛らわしい。髪色や神衣もそうだけど、まとう雰囲気がどことなく似通っている。なんつーの、スマートっていうかエレガントっていうか。ない語彙力をひねり出しながら二人の共通点を探し、最終的にやっぱ同一艦艇だからかなぁ、と結論づけてまじまじと見比べていると、野分が口を開いた。

 

「えっとね、妹ののわっちです」

「いも、うと……?」

「うん、わかってたけど傷つく」

「ていうか、それで広めないでよ」

「えー、だって野分って呼んだら紛らわしいじゃない」

 

 やいのやいのと口論しているけれど、野分はどこか嬉しそうだ。そうか、同型艦は同じ場所には配属されないもんな。久々に会えてよほど嬉しいのだろう。仲のいい姉妹なんだなぁとそのやり取りを眺めていると、ふと視線を感じてそちらに目をやる。すると、じっと舞風がこちらを見つめていた。

 

「な、なに?」

「もしかして、嵐?」

「え? お、おぅ」

 

 どっかで会ったっけ、とたじろぎながら返事をすると、舞風はどこか嬉しそうに笑った。

 

「そっかぁ。あたし、舞風です、よろしくね」

「……ああ、うん」

 

 自然に両手をとられ、ぶんぶんと大きく振られる。それのなすがままにされながら、野分とはまた違った人懐っこさだなぁ、この子、と思う。それが不思議と嫌じゃないのは多分この子の人となりがなせる技なのだろう。

 

「そう言えば萩風は?」

「あ、あー。わり、置いてきちまった」

「萩風もいるの?」

「うん」

 

 噂をすればなんとやら。舞風の言葉に微かな違和感を覚えていると、息をきらせながら萩がこちらに駆け寄ってきた。

 

「ちょっと、嵐。置いて、いかないでよ……」

「ご、ごめん」

「戦闘食、忘れて、るし」

「え? あれ?」

「嵐、抜けてるなぁ」

「誰のせいだよ!!」

 

 萩からおにぎりを受け取ってしまい込む。なんていうか、出港前にえらく疲れた。やれやれだぜ、と和やかに会話を始めた野分、萩、そして舞風を見て──少し離れたところで俺同様にその様子を見つめていたのわっちに気づく。

 

「さっきはごめんな」

「……あ、え?」

「俺の知ってる野分だと思ってたからさ。馴れ馴れしくしてごめん」

「あ、いや……」

 

 話しかけられると思っていなかったのか、のわっちは居心地悪そうに右腕につけている丈の長い黒いリストバンドを左手でいじりつつ、さりげなく視線を俺から逸した。ちょっとシャイなのかなぁ、なるほど、こうやって言葉を交わせば確かに全くの別人だ。

 

「別に、気にして……いや、老けた? は傷ついた」

「わ、わりぃ、気が動転して……あ」

「?」

 

 ふいに、点と点が線でつながるように、とある記憶が意味をもって脳裏に浮かんだ。

 

『おい、野分姉』

『はい?』

『あたしとすれ違うときにはそのツラ見せるな』

『あいたたた暴力反対です!!』

 

 軽巡洋艦は駆逐艦のボス。新人である俺は呉鎮守府のエースである川内さんに対してはもはや畏怖の念に近いものを持っており、おいそれと話しかけようとすら思わないのだけれど、艦歴が長いからかなんなのか、野分はよく川内さんとじゃれ合っていた。

 

『チッ』

『川内さん、私のこと嫌いですよね?』

『うん』

『わぁ』

『ていうかあんたの妹がね。顔ちょっと似てるからさぁ……なんか見ててムカつくんだよね』

『その発言はあの子の姉として看過できないだだだ縮んじゃう! やめてください!!』

『ハハ、縮め縮め、駆逐の癖に頭が高いんだよ』

 

 ぐいぐいと野分の頭を押さえつけながら楽しそうにしている川内さんと、それに猛抗議をする野分。なんていうか、あの時はすげぇな……とその会話の意味も分からず呆然とその様を見送っていたのだけれど。

 

「あ、あー、野分姉って、そういう」

「野分、姉?」

「川内さんが野分呼ぶときいっつもそう呼ぶからさぁ。そっか、のわっちとも面識があるんだな」

 

 うんうんと一つ謎が解けて一人頷いていると、のわっちの眉がぴくり、と動いた。

 

「……あの人、姉さんによく絡んでるの?」

「え? ああ、なんか、仲良さそうだぜ」

 

 それを聞いてのわっちが露骨に嫌な顔をする。

 

「後で姉さんにつき合う人間はよく考えなさいって言わなきゃ」

「お母さんかよ」

「妹だけど……」

 

 違う、そうじゃない。なんだろう、もしかしたらのわっちは少し天然が入っているのかもしれない。

 野分に比べると大人びた顔立ち。少し人見知りがあるのか、綺麗な顔立ちをしている分、緊張した顔はちょっと近寄りがたい。だけれども、もしかしたら結構面白いやつなのかもしれないな、なんてなんとなく一方的に親近感を覚えていると、話が盛り上がりでもしたのだろう、向こうの輪から笑い声が届いた。なに話してんのかな、と思いつつ、その様子を離れたところでじっと見つめているだけののわっちが気になって声をかける。

 

「混ざんねぇの?」

「え?」

 

 うん、なんでそんな思ってもみなかった、みたいな顔してんだ? 

 

「……久しぶりの再会だし、水入らずがいいかなって」

「へ?」

 

 彼女の発言がよく理解できず、思わず間抜けな声をあげる。すると、遠慮気味にのわっちが言葉を続けた。

 

「ほら、第四駆逐隊の」

 

 そうしてさらに謎は深まった。

 第四駆逐隊。同じ陽炎型である野分、嵐、萩風、舞風の四隻でもって構成された駆逐隊。なるほど、こうして見れば確かに過去一緒の駆逐隊に配属されていた艦艇の艦娘がそろい踏みだ。

 

「それだったらのわっちも野分だろ」

「私は丙適性だから。艦の機微は、よくわからないし」

 

 安心しろ、俺はのわっちがなにを言っているのかわからない。

 そりゃあまぁ、艦艇の夢とかでなんとなく第四駆逐隊の四隻は仲が良かったんだろうなぁとかぼんやりと思いはするけれど。確かに最初に萩とか野分とかと会ったときにどことなく懐かしさを感じもしたけれど、それはそれっていうか。そもそも俺は、嵐という名前をもらっているけどただの一人の人間だ。

 

「よくわかんね。いーじゃん、混ざろうぜ」

「え? あ、ちょっと」

 

 少なくとも俺にとってはそんなよくわからない理由で遠慮する意味がわからなかった。だから俺は、のわっちの手を引いてその輪に混ざりに行ったのだ。

 

「なー萩ぃ、萩ものわっちとは初対面だろー?」

 

 俺の言葉に、萩が振り返る。視線があったのわっちは、慌ててぺこり、と会釈をする。それに小さく萩が会釈を返したところで、さっきのネタを振ることにした。

 

「こいつ、野分の妹なんだって」

「……そう、なんだ?」

「あ、堪えた」

「さすが萩。デリカシー足りてる」

 

 なー、と同意を求めるようにのわっちに笑いかけると、彼女は少し困ったように、それでもようやく小さく笑い返してくれた。

 

「しょうがないじゃん! 艦娘になると見た目の成長ほぼ止まるんだから!」

「でも野分、一年間成長の余地あったはずだよね?」

「正直数年前から全く見た目変わってな、もご」

「姉さん特権で箝口令を敷きます」

「おーぼーだ……」

「ていうかさー! それだったら舞風なんて私より年上じゃない!!」

「「「え????」」」

 

 野分の発言に、俺、萩、そしてのわっちの声が見事にハモる。そんな俺達を見た舞風はにこ、と笑って両手を広げた。

 

「今、え? って言った人達は、あたしと高速マイムマイムを踊ってもらいます」

 

 なんだそれ、と思う俺のその横でのわっちが青ざめた。あ、これは少なくともいいことではないな、と思った瞬間。がっちりと、俺は舞風に手を掴まれていたのだった。

 

 

 

「三半規管が……」

「もー、のわっち、三回転半回した程度で軟弱じゃない?」

「舞風と一緒にしないで……」

 

 そもそもマイムマイムは高速で相手を回さない。青い顔で口元を押さえつつ何かに耐える萩風とぐるぐると目を回しながらふらついている嵐の背中を苦笑いしながら押して去っていった姉さんにどうにか手を振ったところでさすがの私も膝をついた。

 

「那珂ちゃんさんの訓練の方がもっときついじゃん」

「那珂さんは、私を回さない……」

 

 というか海の上では回転しない。回転軸を安定させて~、視線は一点にして~なんてなにか目を回さないコツのようなものを教えてくれているが知らぬ存ぜぬ。その前に舞風がカチンときたときに回すのをやめてくれればいいだけだ。

 

「……よかったね」

 

 ようやく落ち着いてきたところで、ぽつりと言葉をこぼす。何について言っているのか、舞風も察したのだろう。

 

「うん」

 

 小さく、それでも嬉しそうに舞風は返事をした。

 

「嵐って、もっと意地悪な奴かと思ってた」

「あー、まぁ、ほら、あの嵐はグレ嵐だから……」

「グレ嵐……」

「それに一応、あたし達と艦艇の付喪神って違うし。でも」

 

 そこで言葉を切った舞風を見上げる。その視線の先には、じゃれる三人組がいた。

 

「嵐は、優しいよ。今も、昔も」

 

『──混ざろうぜ』

 

 輪に入るのを躊躇していた私に気付いて、さりげなく、嫌にならない程度の強引さでもって手を引いた彼女。初対面の人と話すのは苦手だ、特に一対一のときは。

 

「……なるほど」

 

 だというのに、決して嫌な気持ちにならなかったのは、恐らく嵐のその強引さというのが人を気にかける優しさから成り立っていたからなのかもしれない。

 どうでもいいけれど、少年と見間違えそうなほど整った容姿といい、あのさり気ない気遣いといいあの子モテそうだな、同性に、などと考えていると、その隣で大きく舞風が伸びをした。

 

「やぁっと、横須賀に帰れるねぇ。早くお風呂入りたい」

「だね」

「あ、そうだ。長月と皐月の評価報告書の提出忘れないでね」

「……あ」

 

 その言葉に思わず固まる。今回はしんがりに配置されたのもあり、新人の動きをきちんと見るようにと仰せつかっていたし、記録も取っていた。それを忘れていたわけではない、固まった理由はまた別にあった。

 

「あれ? もしかして忘れてた?」

「いや、そうじゃないんだけど」

 

 不思議そうにこちらを見下ろす舞風に、苦笑いしながら言葉を返す。

 

「長月と、まだ仲直りできてなかった……」

「えっ!? いつ喧嘩したの!?」

「横須賀出港前」

「そんな前から!?」

 

 一言謝りを入れようと機会は伺っていたものの、なんとなく長月に避けられていたのと他艦隊との業務引継ぎやら荒天によるトラブルやらですっかりと忘れていた。

 あれは、私の配慮が足りなかったんだと思う。でもどう謝ってもまた怒られそうなのがまた。うーん、と頭を悩ませていると、舞風が呆れるような声を出した。

 

「全然気づかなかった……なんで喧嘩したの?」

「ほら、前舞風に体幹トレーニング教えてもらったじゃない」

「うん」

「長月、艤装に振り回されてるって言われてたから教えようかなと思って。そうしたら、えーと、まぁ落ちこぼれの陽炎型のアドバイスなんていらないって、言われ、て……」

 

 舞風の表情に思わず言葉が途切れる。あ、まずい。

 

「それ喧嘩売られてるののわっちの方じゃん!!!」

「いや、今のは私の言い方が悪かっただけで、私にも非があって」

「でもそれ言われたんでしょ!?」

「え、まぁ、うん?」

 

 予想外の強い反応に思わずたじろぐ。そうしてそんな私の反応がさらにもどかしかったのか、舞風は心底わからないという表情でさらに声を荒げた。

 

「なんで喧嘩売られた本人がきょとんとしてるの!?」

「え、いや、だって」

 

 長月になにを言われても特になんとも思わなかったけれど、目の前で激昂している舞風を見て私は内心焦っていた。

 本来、舞風は穏やかな性格をしている。いつもにこにこしていて、滅多に怒ることなんてない。でも最近はこうやって、私の行動に対してひどく怒ることがままあった。そうしてその原因について、私はあまりよくわからないことが多くて。

 

「少なくともそう思われる要素が私にあるってことなんだから。もうちょっと、頑張らないと」

 

 だからというか、なんというか。

 

「そういうとこ!!」

 

 びくり、と彼女の声に思わず肩をすくめる。

 そう、喧嘩とまではいかないのだけれど。数日すれば、それこそ何事もなかったかのように接してくれる彼女ではあるのだけれど。

 

「あたし、のわっちのそういうとこ、嫌い!!」

 

 そんな彼女に対して、こうやって怒られたとき。私は、どうしていいのか、わからなくなってしまうのた。

 

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