騎士王の影武者 (外伝・仮)   作:sabu

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 2021/7/18-追記-

 夏ですね。暑いですね。なんだか鬱憤になりますね。ますよね?

 そして花水樹様より、超可愛い水着ルーナのイラストを頂きました。そのお礼を兼ねてオリジナルシナリオを書き下ろしました始めました。
 ……普通にそれなりの長さになりそう。まだ水着イラストを公開出来ない。でもちゃんとやる予定だから褒めて。

 尚ごめんなさい、【本編の続きではありません】

 俗に言う番外編です。
 第65話のアンデルセンの語りと同じく、話の方向性がある程度分かり、ん? となる場面が多少ありますが、具体的な事は何も分からない仕様になっています。本編完結後はこういう感じになるという事だけは分かると思います。

 また、本編と違ってシリアス要素が若干薄れ、僅かにギャグ要素が出て来ます。メタ要素はありません。重い鬱要素もありません。つまりただただ、ルーナと円卓達が平穏に過ごしている話です。

 基本的にネタバレをせず、本編のシナリオ感と世界観を壊さないようにしていますが「本編がまだ完結していないのに平穏に過ごしているルーナ達をみたくない!」、「まだおまけは見たくない!」という人はお気を付けください。
 


 でも前作主人公が、新作の主人公と相対して味方になるみたいな関係性良くない?


いずれ辿り着く幻想(フィニス・カルデア)
プロローグ


 

 

 

 

 その日は何の変哲もない日だった。

 さしたる用事もなく、何か新たな特異点が観測されている訳でもない、非日常と非日常の間。世界の歴史を跨ぐ神話の中の、ありふれた幕間の話。

 

 

 

「今は暦で言う八月。真夏ですね。暑さに負けず頑張りましょう、先輩」

 

「そうだねー」

 

 

 

 カルデアの回廊を歩きながら二人の少女——人類最後のマスターとデミ・サーヴァントの少女がたわいない会話をしていた。

 幾つもの特異点を超えながら、ずっと変わらない二人の柔らかな関係。

 故に人類最後のマスターたる少女——藤丸立香は、後輩のマシュの言葉を受け、カルデアの回廊の窓辺に視線を向ける。

 

 

 

「真冬………」

 

「こ、暦の上では夏ですから!」

 

 

 

 窓から覗く全ての視界に映るは、極寒の風景。降り止まない雪。夏らしさなど皆無だ。

 しかしそれも仕方がない。ここ人理継続保障機関カルデアは標高6000mの雪山に建てられた超極秘施設。もはや季節感などはなかった。一年中ずっと冬だ。

 

 

 

「でも夏と言えば……」

 

「水着ですね!」

 

 

 

 鼻息荒く興奮しながらそう告げた後輩に、立香は笑って返した。

 

 

 

「いいね、水着。私もマシュの水着姿見たい!」

 

「そうですね、夏といえば海水浴……! どこかの浜辺にレイシフトをして泳いでみたいです」

 

 

 

 と、彼女らは楽しげに語るが、本来レイシフトは魔術協会と国連が綿密な決議を行ってようやく可能となる超大魔術の一端。しかし、世界レベルの非常事態である今ばかりは、そんな面倒な法定など彼女達は関係がない。

 それに、元はただの一般人の藤丸立香の為。そして特殊な環境故にカルデア外の事に詳しくないマシュの為、レイシフトする必要性が薄い微小特異点にレイシフトさせて貰った事は何度もあった。

 

 

 そして………勿論、真夏の特異点にレイシフトした事もある。

 

 

 別にそこは大きな特異点ではなかった。

 名前もなく、大きな異常もなく、ハチャメチャなどもない偶然出来た歴史の歪み。リソースや資源回収を名目に、管制室の皆から許可を貰って、英霊の皆と夏を楽しんだ思い出は懐かしい。

 

 

 

「皆さんの水着姿も見てみたいです!」

 

「フフ、そうだねー!」

 

 

 

 クスクスと年相応の笑みを浮かべ、二人はカルデアに集まったサーヴァント達の水着姿を思い出す。

 一部気難しい英霊や特殊な制約のある人を除き、多くの人が夏というモノを楽しんだ。ベオウルフやアステリオスといったサーヴァントは水着にならず、ただ上半身を脱いだだけという姿だったりするが、激動の人生を歩んだ者達も夏という俗世を満喫したと言えよう。

 一種の清涼剤。目の保養だ。一部女性サーヴァントに不埒な視線を向ければ容赦なく叩き潰されかねないが。

 

 

 

「円卓の皆さんも夏というモノを楽しんで欲しいです。

 ……いえ、私が円卓の皆さんと楽しみたいです!」

 

 

 

 何げない会話。途端に捻じ込まれる特級の爆弾。

 ——円卓。そのたった二文字にして、特異点級の起爆剤。

 

 

 

「——ん?」

 

「だから円卓の皆さんですって! 今年は彼らも誘いましょう先輩!」

 

 

 

 今年は誘う。夏。夏といえば水着。つまり円卓の騎士達の、水着。

 あの——あの"超真面目"で言い方はアレだが"冗談が全く通じなさそうな堅物集団"の円卓の騎士達の……水着?

 

 

 

「きっと円卓の皆さんも夏を楽しんでくれると思うんです!」

 

 

 

 後輩の言葉とは裏腹に、そうかなぁ…………と心の中で立香は不安になる。

 不夜のガウェイン。冷静沈着のベディヴィエール。残響のトリスタン。不退転のランスロット。焔のガレス。貫徹のモードレッド。鉄仮面のアグラヴェイン。無感動のケイ。

 

 誰も彼もが、円卓の名に恥じない一騎当千の猛者達。

 そして大抵、歴戦の猛者達は性格に中々の癖があるという事を立香は知っている。

 いや別に円卓の騎士達の性格は悪い訳ではない。そこまで癖がある訳ではなかった。逆に癖が無さすぎだ。全円卓の騎士が、カルデアの全員と一歩引いた態度を取る。正に主に仕える騎士と評していい。

 彼ら以上にサーヴァントとマスターというのを重んじる者はいないだろう。それがちょっと、此方としては重いのだが。

 

 しかし………時折溢す円卓の騎士達同士の普段の会話から、もしかしたら意外とフレンドリーなのかも? とは思っているのも事実。だが、暫定・第六特異点での印象が強すぎて、僅かに不安に思うのもまた事実。

 

 

 

「あ! そうですアーサー王も誘いましょう! 円卓の皆さんと海辺でバカンスです!」

 

「———うぅーん」

 

 

 

 そう、マシュの発言で勝手に彼らの事ばかり考えていたが、アーサー王も当然円卓の騎士なのだ。アーサー王の水着姿………伝説通りの清廉潔白な王でありながら、実は可憐にして永遠の少女騎士だったアーサー王の水着姿………真名はアルトリア。

 勿論、彼女の水着姿を見たいか見たくないかと言われたら——見たい。写真に撮って額縁に飾りたいくらいである。

 

 しかしだが…………え、大丈夫かなぁ………もしかしなくても不敬の極みなのでは? 円卓の騎士達の琴線を断ち切るレベルの所業だったりしない? というか、私の後輩ちょっと無敵過ぎない? カルデア内でも高潔の化身たるアーサー王に対し、中々の度胸である。

 いやまぁ、カルデアの食堂でご飯食べている時のアルトリアさん、凄く柔らかに微笑んで、しかもそれがめっちゃ可愛いから分かるのだが。

 

 

 

「それと……あのーー……了承してくれるかは分からないんですけど」

 

 

 

 僅かに俯き、悩みながらマシュは告げる。

 何やら先程から、己だけが不穏な空気を感じているのを把握して硬直している立香に、マシュは再び爆弾を投下した。

 

 

 

「——ルーナ先輩と一緒に夏を楽しみたいです……」

 

 

 

 あぁ、やっぱりかぁ………と、その言葉に藤丸立香は一瞬停止する。

 ついでに、偶然その話を聞いていた円卓ファンのオペレーターの一人も硬直する。

 

 

 

「マシュ……え? マシュ? それは流石にちょっと………。

 いや、貴方の事を否定する訳じゃないのだけれど、あのサー・ルークにそれは」

 

「ム。皆さんはルーナ先輩を怖がりますが、実際はそんな事ありません。むしろルーナ先輩はこういうのをちゃんと尊重するタイプだと思います」

 

「いやそうかもしれないけれど………それは輪の中に入るというより、輪の外から見守るタイプというか………」

 

 

 

 職員の女性とマシュの会話を、立香は苦笑いしながら見守っていた。どっちも間違えてなさそうだなぁと考えていたからだ。

 

 マシュが先輩と呼ぶ、もう一人の人物。

 暫定・第六特異点より縁を結び、カルデアで召喚する事の出来た間違いなくサーヴァント最強格の一騎。星の聖剣エクスカリバーの、もう一人の担い手。

 その名は円卓最後のサー・ルーク。神話に名高く、流伝には一切の誇張がなし……というか記載漏れが激しいくらいに流伝通りであった伝説の人物。真名をルーナ。

 特異点内で、彼女だけがただ一人の唯一の娘だとカルデアに宣言した、モルガンの養子。魔女の娘。そして……絶対的な決定打を持たない英霊なら、数十を敵に回しても勝利するだろう、不敗の化身。

 

 勿論、今まで彼女がカルデア内で何か大きな事件を起こした事はない。

 むしろ事件を鎮圧する側だ。ただし一切の容赦はない。

 

 

 

「先輩はどう思いますか!?」

 

「——うーん………」

 

 

 

 二人の言い分は分かる。というか暫定・第六特異点で再び彼女と出会って、その在り方を目の当たりにしてから更に理解が進んだと言っていい。

 だからこそ分からない。他の円卓の騎士と同じく、彼女も第六特異点での印象が強い。

 

 いやホント………特にルーナさんは。

 今でも、あのルーナさんを俗世に塗れさせてしまって本当に大丈夫なの? シェイクスピアとアンデルセンに怒られない? これ、何か昔の超重要文化遺産を現代の人が勝手に落書きしちゃってるみたいな感じじゃない? みたいな、ちょっと拗らせた感情を持っている。

 まさか、黒髭の感情を魂の真髄から理解出来る日が来ようとは、思ってもみなかった。

 

 

 ……ルーナさんは水着をすんなり着るタイプだろうか?

 

 

 元より彼女は男装の麗人。

 女性らしい印象はないし、彼女本人も性別は女性だったという意識しかない事は分かっている。それに同情した事はない。

 ルーナさんに失礼だと言うのもあるが、もっと単純に彼女の生き方は凄いなぁという純粋な尊敬に溢れているからだ。

 

 

 ……しかしまぁ、ルーナさんは寛容だけれど、その寛容さを突き抜けた場合は一切の感情が抜け落ちる。

 

 

 絶対に不機嫌にさせてはならない英霊ランキング一位は英雄王ギルガメッシュである。

 しかし、絶対に"怒らせてはならない"英霊ランキング一位はぶっちぎりで円卓の騎士サー・ルークだ。嵐の王ルーナと呼ぶ方が相応しいかもしれない。ギルガメッシュ王は彼女の事を時折、卑王と呼ぶが。

 まぁ、つまりは本気で怒った彼女はそれ程怖いという事だ。

 

 故に、カルデア内でも彼女に対しては多くの人が一歩だけ引いた姿勢を取る。

 仲が悪い訳ではない。普通に会話はする。ただし彼女の一線には踏み込まないよう気をつけるだけで。

 だがまぁ、気難しい王や歴史の流れを変えた偉人達に対する態度と、そう変わらないだろう。基本的に彼女は寛容なのもあって、気にする英霊は余り居ない。勿論、藤丸立香もその一人だ。

 

 

 しかし、だからといって萎縮しないのも藤丸立香だ。

 

 

 というか、ルーナさんには沢山の恩義がある。

 だから仲良くなりたい。個人的な意見を言うなら、マシュと同じく一緒に夏を楽しみたい。めっちゃルーナさんの水着を見たい。アーサー王の隣に並べたい。

 むしろ、その光景を見たくない人間はいるのだろうか? いやいないだろう。だってめっちゃ美少女だから。

 

 

 

「いつも甲冑鎧のルーナさんの水着…………」

 

 

 

 彼女がカルデアに召喚されてから数週間頃の事を思い出した。彼女との平和な思い出。

 いつも甲冑鎧姿のルーナさんに一緒に私服を選ぼうと誘って、彼女も少し苦笑いしながらだったけど、最終的には微笑みながら現代の私服を着込んでくれた事があったのだ。

 

 だからルーナさんも、今は夏だし水着を———

 

 

 

「着てくれるかなぁ………」

 

 

 

 呟きながら視線を逸らす。

 果たして、彼女とそれくらいの絆を育めているだろうか? 多分、怒りはしないと思う。ちょっとだけ「何を言っているんだ——マスター?」と、夏の暑さが吹き飛ぶ程に凍てついた視線を向けられそうな気がしないでもない。

 

 …………いやいや、そこで怖気付くな藤丸立香。

 そんなんではあの攻略難易度EXのルーナさんの攻略ルートに足を踏み入れた者、と黒髭と刑部姫に謳われたこの身が廃ってしまうぞ。

 それにせめて、「いやいや、私に水着は似合わないだろう」と、ちょっと遠慮して彼女が辞退する、みたいな反応で返すくらいの絆はルーナさんと育めている筈だ………筈だ。

 やっばい不安になって来た。流石に彼女からの信頼を失いたくはない。マシュにも援護射撃をして貰おう。

 

 モルガンさんと円卓の騎士の皆の援護射撃は………敵に回ったら勝ち目ないからやめよう。それに味方に出来ても、それは彼女に対してちょっと卑怯だ。

 これは私とマシュの戦いなんだから。

 

 

 

「一緒に頼み込んでみよっか!」

 

「はい!」

 

 

 

 もう一人の先輩との夏休みを信じきっている後輩の笑みが眩しかった。

 その笑みの為にも、私もルーナ先輩って呼んでみようかなぁと思っている恩人の一人の説得を頑張ろうと藤丸立香は思うのだった。

 

 

 

 

 

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