騎士王の影武者 (外伝・仮)   作:sabu

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 二部六章読み終わりました。
 これだけは言いたい。
 全員小説番Garden of Avalonを読もう。後ドラマCD番Garden of Avalonも聞こう。ヴォーティガーンの声とセリフに、うぉ………ぉ、ん?……んん? ってなるから。

 ちなみにですがそろそろ真夏の一夢が終わります。
 この回が幸せのピークです。次話からギャグが一気に死滅します。
 でもまあしょうがないのです。この幸せに至るまでの過程、この幸せの下にあるのは、主人公とこの作品の根底にあるアレなのですから。
 
 


第10節 観念してください、奉仕の時間です

 

 

 

 

 混沌に包まれたコテージ。ほぼ全員の思考が停止している。

 その後、ようやく復帰した彼らに一様に浮かぶのは………メイド……? という言葉だった。

 

 出来るのか出来ないのか。いや彼女は出来るだろう。

 それこそ完璧な程に彼女は誰かに仕えてみせるに違いない。なら機嫌が良さそうだからこのままでも良いのか。いやしかし……流石にこれは。

 

 

 

「違う……違うわ」

 

 

 

 これは一体どうすれば良いんだ………と硬直していた中、一番最初に復帰したのは偶然その場に居たメディアだった。

 

 

 

「違う? 一体何が違うというのです。流石の私でもメイド姿の侮辱行為は許し難いモノがある。発言には気を付けてください。今の私は容赦しません」

 

「違う………違うじゃない! というか性格から違ってるじゃない!」

 

「はぁ? 何を一体馬鹿げた事を。

 別に私は普段の私で、別段性格が変わったわけではありません。ふざけた言葉はやめにして貰いましょうか」

 

 

 

 眉を顰め、呆れるように彼女は告げる。

 普段の彼女も時々するその表情だと言うのに、今の彼女のその表情はまるで全くの別のものに見えて仕方がない。

 

 

 

「私は……私はもっと、実は意外と大人しい貴方をイメージしていたのに………」

 

「はぁ?」

 

「俯いて下唇を噛み締めながら嫌々服を着て、でも段々乗って来て私も貴方も幸せになれる未来を想像していたというのに………何なのですかそれは……しかもふざけたメイド姿………私が貴方に求めていたのはそんなのではないのですよ!!」

 

「——ほぉ…………?」

 

「モルガンも私と同じ事を言っていましたわよね!?」

 

 

 

 憤慨するメディアからの視線に、モルガンは思い切り目を逸らした。

 一部、そう言う欲求がある事は否定出来ない。しかしそれ以上に大事な事があるので、全面には押し出していなかった。何なら今まで隠し通していた。

 

 

 

「なのに………なのに今の貴方は———ッ!?」

 

「少し——今のは許せませんね?」

 

 

 

 興奮していたからか、メディアはそれを防げなかった。

 音もなく急に近寄るルーナ。壁に押し当て逃げ場を無くし、彼女はメディアに詰め寄る。

 それは俗に言う——壁ドンの姿勢。

 

 

 

「え………ぁ、え———」

 

「どうしたんですか? さっきまではあんなに強気だったのに」

 

「ひ———」

 

 

 

 上目遣いで下からメディアを覗き込みながら、ルーナは至近距離で囁く。

 その雰囲気。仕草。普段からはあり得ない程に妖艶なそれ。魔女がやるような、飛びっ切り甘くて、脳髄を痺れさせて蕩けさせていくだろう猛毒の囁き。

 ルーナの醸し出す様子に呑まれて、メディアは壁に背中を預けたまま、ズルズルとへたれて腰を抜かす。

 

 

 

「あぁ、それともそうやって貴方は弱気な自分を隠して来たんですか?」

 

「ま、待って——」

 

「随分と大人しくなりましたね。もしかして怖いんですか?

 大丈夫ですよ。怖いのは最初だけ。すぐに私以外何も考えられなくなりますから」

 

「や、やめて………」

 

「やめる? へぇ、本当にやめて良いんですか?」

 

 

 

 メディアは逃げられない。

 後ろはコテージの壁。正面は妖しく瞳を細めるルーナ。左右は彼女の両腕で塞がれている。

 腰が抜けてズルズルと尻餅をついていくメディアに、ルーナはしなだれかかる様に、馬乗りになるように近付いていく。

 

 

 

「そうやって——私を誘っているんですか?」

 

「え……ま、待って——!」

 

「案外かわいい反応をするんですね。そうやって私を誘っているんでしょう?」

 

 

 

 もう目と鼻の先となった二人の顔。

 少女から魔女となった、怪しい微笑みを浮かべるルーナ。魔女から少女へとなった、怯えた表情のメディア。

 ルーナはメディアのフードを剥ぎ、彼女の耳元ゼロ距離でトドメの言葉を囁いた。

 

 

 

「抱き潰しますよ——メディア?」

 

 

 

 それが完璧なるトドメとなった。

 途端に顔を真っ赤にして、ルーナから囁かれた左耳をメディアは震えるように手で抑える。

 

 

 

「——ひゃあぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

 

 

 もはや獣が暴れるようにルーナを無理矢理振り解いて、メディアは顔を真っ赤にしながらコテージから飛び出していった。

 普段の魔女のような妖しい印象などはない。耳元を抑え、フードも乱雑のまま半泣きになって走り去る姿は少女そのものだ。

 しかしメディアの狂乱に対し、ルーナはその後ろ姿を、対象に興味を失った悪女の如き冷ややかな目で見送る。

 この場に於いては、ルーナが飛びっきりタチの悪い魔女そのものだった。

 

 

 

「——は、はわわわ…………」

 

 

 

 反応は様々だった。

 今の光景を見て全力で目を逸らす者。顔を赤くする者。硬直する者。両手で目を塞ぎながら、しかし指の隙間からルーナの様子を確認する者。

 特にアルトリアは酷かった。

 顔から下までが真っ赤っかになっており、プルプルと震えて、両手で表情を隠していた。しかも腰が引けている。

 

 周囲に居る者、全て等しく彼女の様子に呑み込まれていた。

 今、彼女は場を無秩序に荒らす魔女そのもので、誰もが彼女を無視出来なくなっていた。

 

 

 

「とまぁこのように、今の私は無敵ですのでご安心下さいご主人様」

 

「——え、あ……え? あ………はいっ!」

 

「何を驚いているのですか?

 別に自分が対象でもあるまいに。しかも、これくらいの事見た事がお有りでしょう? 特に清姫とかで」

 

「えぇ………!? 本当に………本当に今のは………」

 

「何をまさか。私にそのような趣味などありません。

 メディアは私の事を根本的な部分で舐めていたようなので、分からせてやっただけです。勘違いしないでください」

 

「……………………」

 

「あぁ、何故こんな事がと?

 フ……知らないのですか? 私は一時期ランスロット卿よりもモテていた。

 故に、女性の落とし方など知っています。特にメディアのような花も恥じらう姫を落とすなど息を吸うように出来る」

 

 

 

 未だにドクンドクンと心臓が鳴り止まない中、藤丸立香に彼女は当然の事ですよ、と告げる。

 普段が普段だから気にしないが、そう。彼女は男装の麗人。しかも飛び切り美しく、中性的な容姿なのだ。

 もはや今の彼女は、性別による差異など関係無しに、己の美貌に叩き落としてくる妖艶な魔女と化している。

 

 あぁ……正気度を削られる程に美しいって言う概念は、きっとこう言う事を言うんだなぁと立香は現実逃避していた。

 まだ、モルガンさんの親指で唇をなぞられていた時の方が平静でいられたなぁとも思っていた。

 

 

 

「まさか、もしかしてご主人様も私に囁かれたいのですか?」

 

「や……やめてください! やめてください!!? もう本当にシャレにならないからやめてください!!!」

 

「……………————」

 

 

 

 すると、彼女は優しく微笑んでいた。そう答えてくれて良かったと言わんばかりに。先程のはちょっとしたイタズラだから本気にしてくれなくて嬉しいと表すばかりに。

 本当にずるい。生前彼女がバイザーで表情を隠していたとあるが、正にそれで周囲は助かっていただろう。もう心臓が鳴り止まない。

 

 

 

「そうですか。それは良かった。

 もしお願いします、なんて調子に乗って来たら私は失望していました。私でいやしい事を想像したら躊躇いなくぶっ飛ばしますからね。私はそう言うメイドではありません」

 

 

 

 今のを見せつけていながら………?

 まさかさっきのは演技でも何でもなく素なのか………?

 もう藤丸立香は分からなくなっていた。

 

 

 

「ですが、貴方は違ったようです。それでこそ私のご主人様ですね」

 

「ま、待ってください……ご主人様呼びはやめて……」

 

「ではマイマスター」

 

「あぁ………うん」

 

 

 

 あまりにも押しが強すぎて、立香は項垂れながら段々と諦め始める。

 もう彼女が楽しげだから良いかな……とも思い始めていた。

 

 

 

「ふむ、ではそろそろ………」

 

「——————」

 

 

 

 ルーナが後ろを振り向いた瞬間、アグラヴェインが再起動して走りだした。

 鎧を顕現して、自分の騎士のマントを剥ぎ取って、そのマントでルーナを瞬時に包む。

 

 

 

「む…………アグラヴェイン卿は気に入りませんでしたか……?」

 

「…………………」

 

「普遍的な物にしたつもりなのですが」

 

 

 

 アグラヴェインのマントを手繰り寄せ、僅かばかりにルーナは自信を無くす。

 振り返る横顔。身長差故に下から覗き込む表情。

 普遍的……? 仮にその衣装が普遍的でも仕草と佇まいは普遍的ではない。何ならモルガンと重なるくらいには極まっていた飛び切りの魔女。だが………彼女には自覚がない。しかし……いや、これは——

 

 

 

「……………その姿は…………肌を冷やす」

 

 

 

 ギリギリの均衡で耐え切ったアグラヴェインは、険しい表情をしながら告げた。

 

 

 

「そうでしたか。ありがとうございます。暫く羽織っていますね」

 

「………………」

 

「実はちょっとメイド姿が怖かったので」

 

 

 

 はにかみながら、彼女はアグラヴェインに告げた。

 一体何が彼女をそんなに楽しそうにさせているのか。誰にも分からなかった。

 

 

 

「よし、ではそろそろ良い時間ですね。

 じゃあ少し遅いですが、皆でお昼ご飯にしましょうか」

 

 

 

 満面の笑みを浮かべるルーナに、彼らは首を縦に振るしかなかった、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太陽が傾き始めて来た夕焼け頃、円卓の騎士達は浜辺で円を囲うように座っていた。勿論マシュもいる。藤丸立香もご主人様としている。

 ついでに、少し遠くの浜辺でマーリンとモルガンが一対一で相対している。

 

 

 

「あー………えっと、暫定・円卓会議を始める」

 

 

 

 太陽の真下、アルトリアが深刻そうな表情でそう告げて、円卓の騎士達は皆同じく深刻そうな表情になった。議題は決まっている。ルーナの事だ。

 

 

 

「これからどうすれば良いでしょうか……」

 

 

 

 結局のところはそれだった。

 何か具体的な事が思い浮かぶかと言ったら思い浮かばない。全員が暗く沈んだ表情をしている。

 

 昨日の惨状、つまりルーナがメイドになってから一日経った。

 その時間、円卓の騎士は全員心此処に在らずだった。それ程にルーナが衝撃的だったのだ。

 そう言えば私達は、昨日あれから何をしていたのだろうか。そんな事すらあやふやだった。

 どう思い出しても、あれからメイドとして奉仕するルーナ以外の記憶がない。

 

 

 

 "さぁ昼食の時間です。夏バテはいけませんからね。スタミナがつく料理にしました。ですがさっぱりと食べられるよう、豚しゃぶサラダです"

 "あまり体調が優れない方や胃もたれを気にする人は此方を。冷やし茶漬けです。薄味、濃い味は各自でお願いします"

 "コラっ! 一体何をしているんですか! おかわりは順番に。ちゃんと列に並んでください。それでも人類史に名前を刻んだ英雄なんですかっ!!"

 "はいよろしい。次からは気を付けてください。私も次からは量を増やす事で気を付けましょう。これで大丈夫な筈です"

 "これから皆様はバカンスですよね。では此方を。レジャー道具を忘れてはなりませんよ"

 "私の指揮の下、マーリンも扱き使っていますがコテージの数が足りません。誰か協力をお願いします"

 "どうしました円卓の皆様? 貴方達の協力は不要です。と言うか私の奉仕が無駄になります。浜辺で泳いだり釣りに勤しんだりしましょうか?"

 "マイマスター。虫刺されには気をつけてくださいね。最悪腫れ上がってバカンスが中止になってしまいます"

 "マシュ。これを。肌荒れ防止の為にオイルを転送して貰った。浜辺でバカンスを楽しむマスターの肌荒れはマシュが防いで欲しい"

 "すみません私の些事なのですが、ギルガメッシュが今の私を見た時の反応が予測出来ません。取り敢えず碌な目に遭わない事は分かります。少し協力してください。む、ディルムッドとクー・フーリンが協力してくれる? ありがとう。感謝する"

 "日が沈んで来ましたね。夕暮れからは冷え込みます。まずはタオルで体を拭きましょう。風邪の原因になります"

 "濡れた使用済みのタオルや衣類は私に。明日までに洗っておきます。え……要らない? 流石にそれは自分がやる? …………そうですか分かりました………ですが順番待ち等があるので気を付けてください。何かあったら私が強制的に奪い取るので良いですね"

 "疲れた方はいらっしゃいますか? マッサージをご希望の方は此方に。不埒な事をしたら眉間に風穴を空けるのでご注意ください"

 "夜ご飯の時間です。クー・フーリンが釣って来てくれた魚料理を中心にしました。ありがとうクー・フーリン。非常に助かる。カルデアに戻ったら久しぶりに全力で相手しても良い。勿論私が持ち得る全ての手段で叩き潰しに行こう"

 "通信用のベルは此方に置いておきますね。では私は今から他のコテージに行きます。他のカルデアの皆様の為にやらねばならない事があるので。何かあれば此方から。遠慮は必要ありません。一番の優先事項はご主人様ですから"

 "む、食べ終わるのが早いですね。食べ盛りなのは良い事です。大丈夫ですか? 足りてますか? 新たに何か作りますか?"

 "え………要らない? ………そうですか………天ぷら蕎麦を作ろうかなと思っていたのですが…………"

 "あ、やっぱり食べますか? ——では早速作ります。えぇ。それはもうすぐに。飛び切り美味しいのを。それに実は蕎麦自体は以前私がカルデアで仕込んでいた物があります。少しだけ待っていてくださいね"

 "就寝の時間です。明日も楽しくお過ごしになりたいのなら、規則正しく生活をするべきです。ベッドメイキングは済ませてあります。枕の高さも私の感覚で調整済みです。違和感が有ればすぐにお申し付けを"

 "何をしているのですか円卓の皆様。貴方達の役目は、既にカルデアから召喚された人達が継いでいます。今から夜の捜索など必要ありません。既に私がハサン達に頼んでいます。私達はバカンスに来たのですよ? 分かってますか?"

 "はぁ? 私? 逆に問いますが私がメイドをやめたら貴方達の世話は誰がすれば良いのですか? どうせカルデアの誰かが私の代わりをしてもそれとなく拒否するでしょう。貴方達は黙って私の言う事為す事を甘んじて受け入れれば良い。分かりました? 分かったなら首を縦に振りなさい"

 "はい。分かりましたね。異論は許しません。では良い夢を。今は儚き夏の一幕。いずれは空白へと戻る、戦と戦の幕間の物語。だから今は楽しむのが義務です。不安などはお忘れください。月は貴方達を照らしているのですから"

 "マイマスター、起きていますか? 扉を開けますよ? ……どうやら起きていたようですね。実は眠れないのでしょう? そうではないかと思っていました"

 "え、何故分かるかって? だって楽しいバカンスの日は興奮で寝付けないと相場が決まっているでしょう。だから分かります"

 "夜食にしましょうかマスター。本当はいけない事ですが、マスターは頑張り屋さんですからね。それに規則ばかりを気にしてマスターのストレスを無視してはいけない。だからご褒美です。……エミヤにはナイショですよ?"

 "はい、ご褒美のアイスです。棒アイス。味は揃えられるだけ揃えて来ました。明日に響かないですし、胃に負荷をかけないでしょう?"

 "大丈夫です。私も食べます。というか私も食べたいです。フフフ……これで共犯ですね?"

 "子守唄はいりますか? 私、声には自信がありますから。…………要らない? …………そうですか"

 "ではまた明日。夜の警護はお任せをください。良い夢を、マイマスター"

 "む……どうしましたマイマスター。……眠る前に話し合いたい事がある? 良いですよ。貴方が眠たくなるまでお話しに付き合いましょう"

 "何故私がメイド、ですか。元より私は騎士。さらには従者でした。だから今はメイドとして貴方に仕えているというだけです。マスターとサーヴァント。その関係が真夏で少しだけ変化したに過ぎません。……そうですよね?"

 "口調? 私は元々此方が素の口調でした。他人を敬い、自分は一歩後ろに控える。だって私の周りには優しい人しか居なかったから。だから、これがある意味本当の私なんです。…………えぇ、本当は……私はこう言う人間だったのです。遠くに置き去りにして、取り返しが付かなくなった私の幻想。だから、今くらいは良いではありませんか。少しくらい、昔の自分に成りきってみても"

 "私が優し過ぎる? 何をまさか。私は厳しい。予断は許しません。怠惰は抹殺します。不埒な真似をしたらブッ殺します。貴方が優しいと感じているのは、ただ単に私がこれ以上マイマスターに厳しくする必要がないからです。貴方はもうこれ以上にない程頑張っているでしょう?"

 "長くお話をしていましたね。そろそろお休みになられた方が良いかと。私も明日の仕込みがありますし……"

 "はい、お休みなさい。今日はきっと良い夢が見られますよ。素朴だけれどずっと大切にされている花畑で一人佇む、何処にいたかもしれない少女の夢を"

 "おはようございます、マイマスター。良く眠っていらっしゃいましたね。良い夢は見られましたか?"

 "いつからそこに居た? 大丈夫ですよ、ご安心ください。今さっき扉を開けたばかりです。貴方の寝顔を堪能するなんて、はしたない真似はしていませんから"

 "それでは、私はマシュ達を起こして来ます。顔をちゃんと洗ってくださいね。それとも、私のお世話が必要ですか?"

 "必要ない………? …………そうですか………昨日の夜にイメージトレーニングは済ませていたのですが"

 "は? 揶揄っている? 何をふざけた事を。私は本気です。私の奉仕をバカにしないでください。怒りますよ"

 "はい。よろしい。なら私は許します。説教は手早く済ませる方が良い。それに貴方はちゃんと反省してますからね"

 "顔を洗ったら広間に来てください。朝食の時間です。少し張り切りました"

 "朝食は軽めにサンドウィッチ。しっかり食べたい方には、お米とお味噌汁。卵焼きに昨日の魚の残りを使って味噌煮にしました。お好きなのを食べてください。どれも美味しいですよ"

 "マスター、マスター。見てくださいマイマスター。これどうですか? 蜂蜜レモン。夏バテ風邪予防に最適です。しかも会心の出来です。一口食べてみてくれませんか?"

 "美味しい? それは良かった。嬉しいです。塩分補給も大切にしてくださいね。昼食用のお弁当にも入れておきましたからね"

 "今日も暑いですね。バカンスに熱中しすぎて自分の体調を疎かにしないように。でも、仮に倒れたとしても私がいるのでご安心ください。今度は私が助けます。命もかけます。………少し重いですかね"

 "はい。今日は大きな浮き輪を用意してみました。これで皆とバカンスを楽しんで来てください。十人乗りもいけるパーティ用の浮き輪です"

 "円卓の皆様には水鉄砲も用意しました。私の自信作です。ちなみにアーサー王への水鉄砲は特別な物です。大切にしてくださいね?"

 "はい。それでは行ってらっしゃいませ——"

 

 

 

 

「やばいかも……………たった一日だけなのに、もうルーナさん無しでは生きていけない体にされてるかもしれない」

 

「マスター!? そんな……耐えてください! 私達だって、今思い返しながら耐えているんですよ!?」

 

「やばいよアレ、やばいよ……………もうグズグズに溶かしに来てるよ…………なのに悪意とか一切なくて、好意極振りで、健気で、儚くて、優しくて、時々楽しげで………もう意味分からないよ…………しかもこれしてくれると助かるなってモノ先読みして来るのやばいよ……………」

 

「マスター……!? 気をしっかりしてください!! マスター!!」

 

「あぁ、アルトリアさんごめん…………今ちょっとアルトリアさんの顔を直視出来ない……」

 

 

 

 立香の発言に、呼び止めていたアルトリアが露骨に停止する。

 

 

 

「アルトリアさんの声も聞けない…………あぁ……またルーナさんのマイマスター呼びが頭の中でリフレインしてる」

 

 

 

 さらにアルトリアは顔も赤くしていった。

 もう……もう私と同じ顔でそんな事しないで下さい……! そう考えたのは一度や二度では利かない。

 ルーナと自分を入れ替えて、自分が今までのアレやコレをやって見る想像をして、かなり身が悶える。

 何なら最初のメディアとのアレの時点で、アルトリアはかなり限界が来ている。アレはヤバかった。兎に角ヤバかった。あの妖艶な口調はヤバかった。

 まさかこれは無理矢理彼女を水着に誘ったその仕返しなのかもしれない。彼女が受けていた羞恥心とはこれくらいのモノなのか。成る程、死にそうだ。

 

 

 

「オイ………どうすんだ。死屍累々だぞ」

 

「ケ、ケイ卿…………」

 

「いやもう………円卓会議に意味なくないか?」

 

 

 

 たった一人の人物で円卓が機能不全を起こしていた。しかもマスターも。

 藤丸立香は昨日からのぼせたみたいにぽーってしているし、マシュはその逆に噴火しているみたいに顔が赤いし、ベディヴィエール、トリスタン、ランスロットは何か複雑な感情が混沌となって泣きそうになっているし、ガウェインとガレスは何か震えてる。

 

 特に酷いのは、モードレッドとアグラヴェインだ。

 モードレッドはずっと、アレはルーナじゃない……ルーナはあんな事しない………いやでもアレが、アレがルーナが望んでいた事なのか……あんな些細な事が?

 本当にあんな……あんな自分が得をしない事が望みだったのか…………いやでも、アレは………オレは……………、と何かを呟いている。

 

 それに対比するように、アグラヴェインはずっと黙り込んだままだった。

 眉間に皺を寄せ、ずっと喋らない。彼の胸中に渦巻くモノは何か。

 彼女のああいうはっちゃけた姿を見たくないという思いと、遂に彼女はそれを自らに許すようになったのだ、という思いでせめぎ合っているのかもしれない。

 嫁いで欲しくないけど、誰かと幸せになって欲しいと願っている父親みたいな感情か? とケイは当たりをつけた。

 

 

 

「マーリンとモルガンは終始アレだしよ」

 

 

 

 ケイが指で指し示す先にいるのは、無表情でブチギレているモルガンに詰め寄られ、青い顔をしているマーリンがいた。

 あれには関わらない程が良さそうだ。此方まで飛び火しかねない。

 

 

 

「………………」

 

「どうすれば良いんですかね…………」

 

「はぁ………」

 

 

 

 溜息を吐いた後、ケイ卿は告げた。

 

 

 

「オイお前ら。いいか良く聞け。これは無理だ。今のアイツはマジで無敵だ。諦めろ」

 

 

 

 それがケイ卿の全てだった。

 ルーナと一緒に浜辺でバカンスをしたいと願う者もいるが、まず無理だろう。その願いを抱いている者は、そもそも彼女を幸せにしたいなぁ、という欲求が大半を占めている。つまり、何かあり得ない程にはしゃいでる今のルーナの姿で納得しろという話なのだ。

 

 

 

「良く考えろ。まずアーサー王だが、コイツは根の部分が少年なんだ。草むらで走り回って泥だらけになって、後はぐっすり眠るような奴」

 

「ちょ、ちょっと……!?」

 

 

 

 アルトリアの抗議の視線をガン無視して、ケイは更に続ける。

 

 

 

「で、ルーナの方だが、アイツは根が少女なんだよ。不意に何でもないような部分ではしゃぎ、でも普段は花々と静かに戯れているような奴」

 

 

 

 合点が行くモノが有ったのか、円卓の騎士達は一様に黙り込んでしまった。

 女性の扱いには長けている彼らだが、少女の扱いに長けているかと言われると少し反応に困る。しかも立場的には同僚。さらにはかなり複雑な因縁、事情、繋がりのある友人。もしくは家族同然の人。

 

 

 

「だから……分かるだろ?

 女のハイテンションはやばいって。マジで無敵だって。しかもアイツだ。今まで溜め込んでモノがああ言う形で爆発しているんだよ」

 

「………………」

 

「ベディヴィエール。お前なら少しは分かるんじゃないか? ハイテンションになってる時に従者をする気分」

 

「え……いや私は……どうなのでしょう…………嬉しい反応をしてくれるのが楽しいというのはありますが」

 

「そうそれだ。今のアイツはあらゆる反応が愛しいモノに見えてるんだ。だから諦めろ。無理だ」

 

 

 

 もはや言いたい事は終わったのか、ケイ卿は立ち上がってその場を去ろうとする。

 

 

 

「ど、どこに行くんですか!」

 

「帰るんだよ。コテージに。

 もう夕暮れだ。これ以上時間をかけたら、アイツが心配して出て来るぞ」

 

 

 

 だからもう良いだろ。と言うようにケイ卿は急かす。

 それに円卓の騎士は取り敢えずと続いた。混沌とはしているが、不安な訳ではない。ただ単に、ルーナの反応が予想外で困惑しているだけなのだ。

 

 

 

「——エミヤ。ちょっと良いか?

 今日はピザにしたい。皆で同じ生地から一つずつ食べたい。円卓みたいに皆で囲いたい。だから大きくて、でもちゃんと火が通るようにしっかりした窯炉が欲しい。手伝ってくれないか?」

 

「あぁ……………」

 

 

 

 テンションが上がっている彼女に振り回されていたのか、少しぐったりしたエミヤと、相も変わらず楽しそうなルーナがコテージに居た。

 

 

 

「む…………これはお帰りなさいませ皆様方。夕食までもう少しお待ち下さい。直に出来ますので」

 

「………今、貴方は楽しい?」

 

 

 

 いつの間にか戻っていたのか、モルガンが円卓の騎士達を遮ってルーナに聞いた。一瞬の間の後、彼女は答える。

 

 

 

「えぇ、勿論。皆様もそうでしょう? こんなに楽しいバカンスは最高ですから」

 

 

 

 澄ました笑みで、でも満足そうに答える彼女の言葉に、やっぱり彼らは静かに頷くしかなかった。

 

 

 


 

 

 

【プロフィール2】絆レベル2で解放

 

 円卓の騎士、アーサー・ペンドラゴンの影武者として活躍したルーナが夏のために用意した水着に自信を喪失した後、開き直って選んだのは——メイドさんでした。

 

 やはり似た者同士、行き着く先は同じなのかと侮るなかれ。

 掃除、洗濯はもちろんのこと、現代で習得した料理をも完璧にこなす完璧メイド。

 しかもその性格から素で優しさが出てしまう上に、騎士であるが故に元来の主に遣える、という意識からひたすらに奉仕していく。

 故にご主人様は何もしなくともよい…………………否、一人ではなにもできなくなる。

 

 外敵要因すらもそのエプロンの下に隠れた黒鍵でもって全て解決してくれる。必要と有れば重火器で対象を撃ち抜く。

 正に万能、完璧メイド。

 恐らくご主人様をどんどん彼女へ依存させて堕落させていってしまうような………………そんな甘くてこわ~いメイドさん。

 

 

【プロフィール3】絆レベル3で解放

 

 メイドとしてノリノリになっている彼女は無敵である。

 たとえどんな時どんな状況でも、大切なのはご主人様でありマスター。

 今ばかりは騎士王を二番目に扱い、円卓の騎士達は三番目となる。だって騎士王達も水着だし。

 

 しかし、周りの空気に当てられたせいか彼女は若干暴走気味。

 一言で言えば気遣い上手だけどお節介なお姉さん。しかもその方向性はひたすらに他人に尽くす減私奉公の心構え。優しく奉仕してくれて、更にそこには全くと言っていいほど悪意がないため奉仕される側は余計に断り辛い。正に混沌。

 

 

 

【プロフィール4】絆レベル4で解放。

 

 

 陣地作成 C+

 

 メイドとして仕える主の生活環境を整える為のもの。

 魔術的な補佐はないので、その点に於いては誰かの力を借りねばならない。

 

 

 

 ビーチフラワー C+++

 

 

 海辺でどれだけ衆目を集められるか。

 彼女はボディの破壊力で他サーヴァントに劣り、また彼女の他者を意に介さない冷たい佇まいにより、ランクは基本的にCだが、彼女の真髄は——ギャップ萌えである。

 

 普段クールな人が見せる可愛らしい一面然り。

 普段笑わない人が、不意に見せる笑み然り。

 

 普段の超然とした様子の彼女や、戦闘時の次の瞬間には叩き伏せられていそうな気迫を知る者程、異性同性問わず真夏の彼女の虜となってしまうだろう。

 

 特に円卓の関係者には凄い効き方をする。

 アルトリアやモルガン、ベディヴィエール、トリスタン、ランスロット辺りだと、結構泣きそうになるかもしれない。

 そして幸せそうな彼女を見て泣いた後、彼女の作る料理を食べてまた泣くかもしれない。

 

 

 しかし、それはそれとして、弓のエミヤと一緒にルーナが料理を作っているのを見るとなんだかモヤモヤして来る。しかも彼女はメイド姿。しかもかなり際どいメイド姿。

 

 

 "まだ彼女に、そういうのは早いのでは?"

 "なに時々表情を緩めているですかエミヤ?"

 "……どこを見ているんですかエミヤ?"

 "——今明らかにルーナの腰回りをチラチラ見てましたよねエミヤシロウ?"

 

 

 とはアルトリアの談である。

 チラチラとルーナに視線が吸い寄せられてしまっている弓のエミヤを見るアルトリアの目はとても厳しかった。

 

 

 

 サマー・テンション! EX (彼女はBランクだと思い混んでいる)

 

 夏の空気。病み上がりのテンション。マーリンからの助言(親切心)によって色々とオーバーヒートして生まれたカリスマスキルの亜種。ルーナが暴走気味なのは(だいたい)このせいだったりする。

 いざ戦闘になれば前線で発破をかけ(ご主人様の魅力を語り)士気を上げるというアサシンにあるまじきことをする。

 が、実際の狙いは戦闘の渦中に紛れて闇討ちを必ず成功させるというアサシンの様な事をやってのける為の布石。

 集団戦闘において本領を発揮するスキルでもあるが自身のステータス上昇効果もあるため非常に使い勝手がいい。

 

 尚、本スキルはランクが高い程テンションが高い……つまり普段の彼女からは遠ざかっているという訳である。

 本来ならEXだが、「いや、私は普段の私で別段性格が変わったわけではないので違います」と否定的な為Bランクまで落ちている。(様な気がしている)

 

 

 

 リローデッド ——

 

 本来なら持っているべきスキル。

 ただし、彼女はこのスキルを保有していない。

 何故ならリロードなんてせず、銃の中に直接弾丸を投影すれば良いのだから。

 

 エミヤのように宝具を複製するという、世界の理から逸脱出来る程の投影魔術使いではないが、その生涯の中で極められた速度と正確性。そして無尽蔵な魔力に裏打ちされた、また一つの極地。

 

 

 

 コーチング ——

 

 海辺の彼女は心機一転、冷血のガヴァネス(女性家庭教師)となった。

 その厳しい教育と指導により、誤ったバトルスタイルを矯正する

 

 

 「……成る程。そういう動き方もあるのですね………」

 

 

 ……筈だったのだが、当の本人は周囲の英霊達の多彩な技術や武練を見て、真面目な顔しながら目を輝かせ、それが自分にも出来たりしないか模倣を試みる。

 明らかに不完全なモノがあったりしても、それはそれでアリだと彼女は考えている為、他者をコーチングする気は一切ない。

 というかそう言う役割は他にいるだろうから別に要らなくない? だから甘やかそう。

 

 

 




 
 
 プロフィール等はFGO編だからやりたかっただけ。

 花水樹様より、水着ルーナ(第二再臨)をいただきました。
 
【挿絵表示】

 ヤバイね………本当にヤバイね…………アルトリア・オルタの微笑みとモルガンの微笑みが重なった感じなのヤバイね…………
 
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