騎士王の影武者 (外伝・仮)   作:sabu

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 軽口を叩くキリツグを見たくない………?
 軽口を交わし合うのを楽しんでいるルーナも見たくない………?
 


第11節 救いようのない星

 

 

 

「寝静まったか…………」

 

 

 

 コテージの外、窓から皆の姿を確認してルーナはようやく安堵した。

 太陽は既に落ち、辺りは深夜の暗闇の中。起きている者はいない。少なくとも——円卓の騎士達は。だから、メイド家業は一旦の終わりだ。

 

 

 

「じゃあ——動くぞ」

 

「「承知」」

 

 

 

 彼女の言葉に反応して、突如影より現れたのは二人の英霊。

 それは、小太郎と段蔵の二人だった。

 

 

 

「状況は?」

 

「真夜中、謎の黒い影が島中より湧き出て、このコテージを目指している状況です。しかしカルデアより召喚される前にあった記載と比べれば、数は些か」

 

「復活は」

 

「凡そ三。一回で消滅するモノも多数」

 

「成る程…………遂に死に絶え始めたか。数は減り特性は霧散し、夜にしか現れる事は出来ない。いや違うな。夜で増幅し、ようやく飽和して昼に行けるといったところで私が一気に殲滅してしまったのだろう。運が良いのか悪いのか」

 

「昨晩については、ロビンフッド殿の働きにより六割が消失し、残りの四割は単独行動持ちのアーチャー達や、我らアサシン達によって殲滅が完了出来ました。数は約五千程」

 

「そうか。私達が対峙した数と比べるとかなり減ったな。今日はどうだ?」

 

「まだ分かりませぬ。

 この結果を見て、既に固有結界は崩壊の兆しを迎えているとダ・ヴィンチ殿が」

 

「成る程。このまま減って灯火が霧散するように死に絶えるか、最後の攻勢で増えるか。そのどちらかだな」

 

「まずは私達から動きましょう。一つ、ここに通信の端末を置いておきまする。必要とあらば、此方から」

 

「いや良い。今日は私も動く」

 

「………恐らく必要ないかと存じますが、よろしいのですか?」

 

 

 

 小太郎が僅かに疑心と心配を抱いて返す。

 ルーナが霊基損傷状態なのは、既に知れ渡っている。仮のクラスとして彼女は復活してはいるが、本来の霊基と比べればかなり出力は劣るだろう。

 

 それに、彼女は働き過ぎた。

 というか、昼の間はこの浜辺に来たカルデアのほとんどの人が世話になっている。だから小太郎としては、単純に彼女も夜は此方側のサーヴァントに任せて良いのに、という親切心でルーナに返した。

 

 

 

「あぁ、念の為にという事もある。私も動こう。今の私が無駄に高ランクで保有している単独行動スキルの使いどころだ」

 

「いやそれは昼、マスターへの奉仕として………まぁ分かりました」

 

「ありがとう。話が早くて助かる。何かあれば私は貴方達を頼ろう。良いか?」

 

「構いませぬ。元よりそれが役目なれば」

 

「本当にありがとう。カルデアに戻ったら美味しい鮎の塩焼きの作り方を教えよう」

 

「…………ルーナ殿」

 

「あぁうん。悪い。昼の感覚が抜けていないようだ」

 

 

 

 返される発言に、ルーナは苦笑いで返す。

 本当に楽しくて仕方がなかったのだ。それでは自分が楽しめていないじゃないかと言う声もあったが、彼女にとって昼のバカンスは楽しくて楽しくて、普段の自分を忘れる程に幸せだったのだ。

 

 

 

「しかし、だからこそ僅かな憂いは気になる。

 藤丸立香も言っていたからな。夏休みは宿題を終わらせてからだと」

 

「……はい?」

 

「何でもない。

 早速動こう。それと——百貌、呪腕、静謐」

 

 

 

 その言葉に反応して、同じく現れる三つの人影。

 昼の間から彼女の周りで霊体化して控え、時にメイド活動をする彼女に協力していた三人の山の翁。

 

 

 

「今からは夜の時間だ。マスターに一々不要な憂いを抱かせる必要もない。さっさと終わらせよう。その為にまた力を貸して欲しい。いいか?」

 

「「承知」」

 

「……あなた自身は……良いのですか?」

 

 

 

 頷く呪腕と百貌に反して、静謐のハサンは頷かなかった。

 問われる疑問に、ルーナは簡素に返す。

 

 

 

「あぁ良い。構わない。もしかしたら腕が鈍っているかもしれないから、その時は貴方達に迷惑をかけるかも知れないのは許して欲しい。最低限、火力だけはある」

 

「いえ、そうではなく………」

 

「あぁ——モルガンの方か?」

 

 

 

 その言葉に静謐のハサンはおろか、他二人の呪腕と百貌のハサンも僅かに反応したのを見て、ルーナは確信して返す。

 

 

 

「大方、この特異点に私が必要以上に関与するのを止めろと言われていた、というところで合っているか?」

 

「…………はい」

 

「そうか、成る程。モルガンは過保護だからなぁ」

 

 

 

 表情を緩ませて、ルーナは少し嬉しそうになって告げる。

 しかし次の瞬間にはまたいつもと同じ表情へと戻った。その急変、バイザーなど着けていないにも拘わらず、彼女の心情に追い付ける者は少ない。

 故に、ハサン達は黙ったままだった。

 

 目の前にいる騎士は、騎士でありながら暗殺者でもあった者。

 バイザーで素顔を隠し、感情をいとも簡単に切り替え、殺人の究極点の一つへと至った彼女の逸話は600年近い時を経て一種の信仰となり、未だにその信仰の名残りが現代に残っている。

 たとえば行き過ぎた悪の処断。その罰。魔女狩り。たとえばキリスト教闇の側面。異教徒の一方的な排除。異端者審判。たとえば………——山の翁という暗殺者集団の源流。その一つ。

 

 真偽はもう定かではない。

 しかしそれでも、今は鳴りが潜めているとしても……目の前の人物は人類を最も殺戮した人間である事は絶対に変わらない。

 その事を、少なくともハサン達は魂の真髄から理解している。理解させられたのだ。カルデアに召喚されるその前に。

 

 

 

「だが良く考えるといい。モルガンは私に不必要な事はして欲しくはないようだが、私としてもモルガンに不必要な事はして欲しくはないんだ」

 

「……………」

 

「そして、貴方達は私とモルガン、どちらの意見を尊重する? 勿論マスターの事も勘定に入れても良い」

 

 

 

 彼女からの発言に、ハサン達は無言で頷いた。

 即ち、モルガンを出し抜き、ルーナの方に加担するという事。

 崇拝している訳ではない。過去の偉人への尊敬……と言われれば少し違うだろう。彼女とハサン達の関係は意外と気安い。しかし気安い仲にも立場があり、親しき仲にも礼儀というモノがある。ただそれだけだ。

 

 

 

「そして最後に——良いか? キリツグ」

 

「…………………」

 

 

 

 ニヤリと澄ました笑みでそう告げる。

 すると、反応してコテージに背中を預けた状態で霊体化を解き、実体化する赤い外套。掠れたように白い白髪。表情は無愛想の極みだった。だが、僅かに呆れたような表情を含んでいるように見えるのは勘違いなのか、そうじゃないのか。

 

 

 

「何で分かったんだい。気配遮断をしているというのに」

 

「直感」

 

「……………」

 

「この固有結界内部のナニかは円卓の騎士達を狙っている。

 だから私が囮になろう。そこを他のアサシンに護衛、もしくは誘われて出て来た存在を殺しきって欲しい。後発に召喚された組はマスターのパスが薄い故にステータスに恵まれていないだろう? これが端的で楽だ」

 

 

 

 彼に必要以上の交わし合いは要らないだろうと、ルーナは一気に告げた。

 

 

 

「一々僕に頼るのかい? 君なら要らないだろう?」

 

「かもしれない。

 しかし、首謀者がいるのかただ私達に怨みがある存在の集合なのかは知らないが、ここは固有結界内。故に魔術師がいた場合を想定するべきだ」

 

「そうか、成る程ね。昼のアレを見て意外と君は愉快な奴だと思っていたんだが、結局君は油断がなくて僕のようにつまらない奴だったようだ」

 

「なんだ? 急に褒め言葉とは気持ちが悪い。

 私の言動、佇まい、態度。その全てを演技で擬装しているとでも勘違いしているのか?」

 

「違うのかい? フェイカー」

 

「一体何を言っているのか。サーヴァントのクラス霊基を間違えてるのか? 普段の私はセイバーだぞ?」

 

「ほらこれだ」

 

 

 

 無愛想に放たれた言葉だが、それは何処か気安い。

 そもそも彼がここまで会話をする事は珍しかった。彼から不必要な会話の応酬を吹っかけて来る事もだ。互いに相手を馬鹿にしている関係のように見えて、その実お互いに手の内を理解し合っているが故の信頼が何処かにある。

 同族嫌悪にはなっていない。ギリギリならなかった。そんな関係が二人だった。

 

 

 

「はぁ……まぁ良い。君に従おう。拒否する必要もないからな」

 

「感謝する」

 

「一つ良いか? その左手の銃はなんだい?」

 

「私が最もイメージしやすく、且つ私が知る中で最も弾幕をばら撒けるのがこれだった」

 

「………………」

 

 

 

 呆れたようにキリツグが視線を向ける先には、誇るようにルーナが持ち上げる短機関銃。キャレコM950。

 あまりにも欠けた安定性と極めて特殊な構造、不安定な弾道により実用性はないと烙印を押された代わり、有り得ない程に優れた技量があるなら、瞬間的な火力を短機関銃に有るまじき弾倉で吐き出すゲテモノ銃。

 

 つまりその武器は、片手で扱え尚且つ——魔術的防御をしなければそのまま魔術師は死んでしまうだろう武器である。

 

 たしかにまぁ、技量は銃の問題ではない。反動も英霊なら容易く制御出来よう。勿論欠けた安定性は改造で補うなり、魔術で補強するなりは出来る。

 それでも、もう片手に必殺となる武装——たとえば魔術的防御をする相手を確実に殺す武器、を持たない彼女が一々これを選ぶ辺り、馬鹿なんじゃないか? と思わずにはいられなかった。

 必要かどうかと言われたら間違いなく必要ではない。しかも何か、水鉄砲っぽい色合いにしていた。やっぱり馬鹿なのかもしれない。酔狂にも度がある。

 

 ふざけているのか、本気なのか。それが分かるのはモルガンだけなのだろう。三面の竜を説伏出来たのは三面の魔女しかいない。

 

 

 

「そうか。君はつまらない馬鹿なんだね」

 

「は……? 流石に今のは辛辣さしか感じられなかった」

 

「当たり前だ。そう言う意図で言ったんだから。

 そもそも僕は君の悪いところしか知らない。だから僕は普段の君の方が楽で良い。まぁ……敵ではないから良しとするよ」

 

「そうか。お前は好きに行動するだろう? なら私側も好きに動くぞ」

 

「分かった。それで良い。君に近付くモノを一つずつ刈り取れば良いだけだ」

 

 

 

 それを最後に、彼は外していたフードを深く被り直し、その場を霊体化して去って行った。

 とある面に於いては、誰もが追随出来ない程の性能を誇る英霊。守護者エミヤが本格的な行動を開始したのだ。彼に対する配慮など、もう要らないだろう。

 

 

 

「よし。では私も行くぞ」

 

 

 

 その場に佇んでいた五人のアサシンとルーナは、円卓の騎士達とマスターに気付かれないよう、静かに行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄まじいな………」

 

 

 

 浜辺を離れ、森の中に踏み入れたルーナは思わず呟いた。

 視界の端で黒い影らしきモノが出た瞬間、次の刹那には消失している。

 もはや殆ど何がなされているか分からない。不意打ちで一突きか、クナイやダークの手投げ武器で瞬殺されているか。

 時折、弾丸の音すらもする辺り、アサシン達は全員が本領を発揮しているのだろう。

 自分は歩くだけで済んでいる。

 

 

 

「………………」

 

 

 

 恐らく自分は囮という存在としてちゃんと機能していると思いながらも、これでは少し気が引けるなとルーナは歩いていた。

 自分に向かうモノが全てではないのと、森の中でサーヴァント級ではない大群を削るという、ロビンフッドが本領を発揮する環境なのもあってか、初日のアレが嘘のようだ。

 

 このまま、特に何も起こらず順当にこの固有結界を制圧し、特異点を修復してしまうかもしれない。それはそれで気になる事はあるが、知らなくても良い事は世の中にはある。

 ならこれでも別に大丈夫ではあるのだろう一応。

 

 

 

「一度下がられよ……不明な個体が此方に」

 

「……分かった」

 

 

 

 森の中より現れた、百貌のハサンの一体の進言にルーナは素直に従った。

 即ち森の奥深くではなく、浜辺の方角への撤退。

 

 

 

「…………大丈夫か?」

 

「いえ。しかし……これは」

 

 

 

 一体何なんだ……?

 その困惑の言葉に比例するように、徐々に慌ただしくなる森の喧騒。

 ざわざわとはためく森の木々と、その音に紛れながら徐々に重さと数を増す投擲の音。

 何かが森の木々を薙ぎ倒しながら進んでいる。そしてそれを段々抑えきれなくなっている。そんな予感がしてならなかった。

 

 

 

「百貌。私は一度大きく下がる。私が防衛ラインである以上、私が下がった方が戦いやすいだろう。戦況の俯瞰は任せた」

 

「感謝を」

 

 

 

 簡素な交わし合いで、森の闇に飛び去っていく百貌のハサンを見送る前にルーナは後方に向かって走り出した。

 

 

 

『キリツグ、何か分かるか』

 

『三回で消滅しない個体が複数。現在五回目………今六を更新した』

 

 

 

 移動と狙撃を繰り返しているのか、銃弾の音と木々の間を駆ける音がインカム越しに響いているキリツグと会話する。

 

 

 

『詳細をさらに詳しく』

 

『アサシン達の猛攻によって消滅と蘇生を繰り返しながら強引に進む個体が、約二十。速度も先程まで相手していたモノより速い。

 例えるなら今さっきまで相手していた奴は湧き出たゾンビ。現在相手にしているのは明確な意思と目的を持ったバイオ生命体。

 アサシン達は宝具を解放するか悩んでいるようだ』

 

『恐らくメリットとデメリットが釣り合ってない。

 宝具で倒しても彼らの宝具では一回分しか削れない筈だ。マスターと契約の繋がりがない状態では魔力消費も激しいだろう。通常攻撃を繰り返す方が良い』

 

『静謐の毒を君の風に乗せて、対象に浴びせて見れば良いんじゃないか? 君のお得意技だろう?』

 

『………いや悪い。今の私は上手く風を圧縮出来ない。良い案なだけにすまない』

 

『そうか。まぁ良い。此方のやる事は変わらない』

 

 

 

 ブチっ、と一方的に切られた通信。

 そして次の瞬間、森の中に響く連鎖的な射撃音。どうやらキリツグは狙撃からキャレコM950による攻撃に切り替えたらしい。

 一体一体は非常に弱い集団だ。この状況下なら、もしかしたらキリツグが最も殲滅力があるかもしれない。

 数千年の時を経て積み上げられた殺人技術の集合を振るう最新の英霊は、間違いなく過去の英雄達では敵わない何かを保有している。

 

 

 

sjzwh;……m43uqdteueyq@

 

「……ッ!」

 

 

 

 後方へと走り抜ける中、突如森の陰から出現する人の形をした闇。

 もはや何を口にしているか分からない程にボロボロの闇は、ルーナに手を伸ばす。

 

 

 

固有時制御(Time alter)——」

 

「必要ないっ!!」

 

 

 

 ナイフを抜き放ち、木々を足場にして蹴り抜き近付くキリツグよりも早くルーナがその黒い影に銃口を向けた。

 身を翻し、前方へと跳躍しながらキャレコM950に改造したカルンウェナンで対象を撃ち抜き霧散させる。

 そのまま彼女は速度を落とさず走り抜いた。

 

 

 

「君って……本当に狂ってるね。頭の方がおかしいのは変わらないけど。本当に敵じゃなくて助かるよ」

 

「私もお前達とは敵対したくない。おぉまさか通じ合っているとは。一心同体じゃないか」

 

「同族嫌悪って知ってるかい?」

 

 

 

 澄ました笑みで軽口を返すルーナと、呆れた表情で同じく軽口を返すキリツグは似て非なるというのに、何かが通じ合っていた。

 たとえば、命のやり取りに対する心構え。もしくは躊躇いなく引き金を引けるという事。さらには——

 

 

 

「戦況は?」

 

「普通だ」

 

 

 

 殺しに関してはすぐに意識を向けられるところが。

 

 

 

「アレから数は増えてない。減ってもいない。何回消滅させれば倒せるんだか」

 

「十三だ」

 

「………何……? また直感かい?」

 

「あぁ。私の直感は外れた事がないだろう?」

 

「そもそも僕は君の直感能力を数回しか見た事がないから、まだ信頼に欠けるな」

 

「円卓の騎士に関係している。そして………マシュには一切関与せず、私には深い関わりがある。こうなると、十三番目の災厄の数字が関係している。そんな感覚がする。

 その災厄を具現化して着名(ギフト)化出来る物は…………いや何でもない。まだ分からないからな」

 

「……………」

 

 

 

 理由は分からないが、まぁ一応は考慮すべき点ではあるし、方針として何か悪い訳でもないから良いか、とキリツグは頷いた。

 

 

 

「成る程ね。なら一体を重点的に排除しよう」

 

「感謝する。それと、私が浜辺に辿り着いたタイミングで敵を纏めてくれないか。アサシン達にも伝えてくれ」

 

「………あぁ良いだろう。その方が確実性が高い」

 

 

 

 ルーナの意図を察して、身を反転させるキリツグ。

 ルーナは振り返らず走り続けた。後ろより響く戦闘の音。

 戦法を変え、押し留める事ではなく一体を重点的に排除する方針に切り替えたからか、敵の進軍が速くなった音がする。

 しかし代わりに、徐々に慌ただしさが薄れても来ていた。なら後は、残り少ない相手を瞬時に葬り去る手段を行使すれば良い。

 

 

 

「………………」

 

 

 

 浜辺まで辿り着いて、即座に振り向く。

 数秒後に現れるは、木々を飛び交いながらクナイを投擲する小太郎と段蔵に、地を駆け抜けながらダークを投擲するハサン達。

 そして放たれた投擲によって身体が崩れ落ちながら、一直線に突き進む黒い影。凡そ十。

 

 

 

「——ロック」

 

 

 

 この僅かな間に十体。凡そ百回近くは殺し切ったのか。

 その驚愕を表さず、ルーナは左手のキャレコを投げ捨て、マテリアルライフルを扱うが如く両手でガンブレードを構える。

 

 撃つは星の極光。その弾丸。

 本来の霊基で放つ聖剣の一振りには届かない。そもそも霊基に多大なる負担がかかる。故に範囲を縮小し代わりに威力を収束させたその宝具。

 

 

 引き金に手をかけた瞬間、敵陣のある一点が赤く輝いた。

 

 キリツグの支援弾。

 そこに向けて撃てば良い。

 標的は捉えた。見誤らない——

 

 

 

「——不撓燃えたつ勝利の剣(セクエンス・モルガン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放たれた極光の魔弾は残りの敵を全て霧散させた。

 元より、数回程はアサシン達が殺していたのだろう。

 若干火力が下がっていたにも拘わらず、残りの敵を一気に霧散させた。

 

 

 

「無事ですか?」

 

「あぁ私は無事だ。皆ありがとう」

 

 

 

 クナイを懐にしまいきった小太郎にルーナは短く返す。

 戦闘は終わった。辺りは静寂に包まれている。しかしこれで全てではない可能性は、まだ一応ある。今日も何処かで人知れず一番の活躍を果たしているロビンフッドに戦況を聞くべきか。多分、一番タチの悪い集団は倒しきったのだろうが。

 

 

 

「では私達はロビンフッド殿に合流を果たそうかと。残りは烏合の衆でしょうから。行くぞ、百貌、静謐」

 

「了解」

 

「承知」

 

 

 

 彼らも彼らで働きモノだなぁと、後ろ姿を見送りながらルーナは感嘆する。

 恐らく一番重要な事は果たした。なら、私もそろそろ休んでも大丈夫だろうか。昼の疲れも少々残っている。昼の自分に疲労を残すようでは本末転倒なのだから。

 

 

 

「しかし……進展はなしか」

 

 

 

 当初から情報量という面に於いては進展がない。

 何せ明確な敵はあれだけ。目的は分からない。私達円卓の騎士に恨みがあるのかもしれない………だから襲っている。その程度だ。

 そして彼らは襲う以外の選択肢がない。だから此方は撃退するしかない。だから情報は増えない。しかもそれで事態は解決出来てしまうから情報を増やす意味がないのだ。まぁ……分かりやすいから良いのだろうか。

 

 

 

「……………ッ、ルーナ殿、お下がりを!」

 

 

 

 不意に走る、段蔵からの警告。

 

 

 

6<t@edjr………m43uqdt……

 

 

 

 即座に振り向けば、黒い影が森から一体湧き出ていた。

 先程の生き残りか、もしくは別個体か。

 

 

 

s@4t………s@4t………pefeiqs@lzew………

 

 

 

 動きは重かった。のそのそと這い蹲るように、ルーナの元に蠢き近づく黒い影。

 先程の生き残りにしては、何かがおかしい。

 不明瞭な違和感。向けられている感情の思念。

 

 

 

「……御免」

 

 

 

 段蔵がクナイを投げた。

 攻撃によって霧散する黒い影。だが次には復活する。

 

 

 

「………………」

 

3uqt@……bk2@lwykxeb@kg-@4………

 

 

 

 小太郎が無言でクナイを投げた。

 先と同じく、容易く霧散し再び影は蘇る。

 

 

 

3uqdtqs@lz:ue………xe7h=f<k:q3uqdtdthfue……

 

 

 

 黒い影はルーナに近付く。

 瞬間、彼方より撃ち込まれる弾丸。

 消えて復活しては、すぐさま脳天だろう部分を正確無慈悲に撃ち抜く狙撃。

 

 

 

『キリツグ、もういい』

 

『何? そいつは恐らく僕が最初に六回殺し、君が逃げる途中に七回目を殺した奴だ。

 そこから君の隣のアサシン二人を合わせて九。そして今、僕は三回殺した。だから後一回。あぁ君がトドメを刺すのかい?』

 

『……あぁそうだな。だからいらない』

 

『……………そうかい。ならどうぞ。ここまで堕ちてしまった者に情けなど無駄だと思うけどね』

 

 

 

 インカム越しのキリツグには見抜かれたか、と溜息を吐きながらルーナは黒い影に近付いた。

 隣の小太郎と段蔵を手で制止しながら。

 

 

 

「それで……?」

 

 

 

 ルーナが後一歩という距離まで近付きそう問えば、黒い影はその場に跪き、まるで何かを捧げるような姿勢を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

s@4t……b;=………

 

      どうかこれを

 

bk2@lwyxeb@kg-@4k3uq9………

 

      このブリテン最後の希望の貴方よ

 

0qdqakekl=………

 

      私達の祈りを

 

bkxtr@gi…………

 

      ——この杯に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聖杯………?」

 

 

 

 思わず今の光景を見ていた小太郎は呟いた。

 何かの言葉らしきモノをルーナに発した黒い影。その影はルーナに捧げるような体勢で、聖杯と同じ形の物を持っていた。

 

 

 しかしその聖杯は薄汚れていた。

 

 

 まるで泥の中に落として何百年も落としたようにボロボロで錆び付いている。

 聖杯という形をしているだけの何かと言われた方が納得出来るに違いない。強大な力も感じられなかった。

 

 

 

「そうか………」

 

 

 

 瞳を瞑り、ルーナは黒い影に呟く。

 

 

 

「ありがとう。苦しかっただろう」

 

33……

 

「安心して眠ると良い。もう、貴方は何かに囚われる事はない」

 

 

 

 偽物の聖杯を受け取ってルーナは告げる。

 それは、次の瞬間には崩れ果てて消えるだろう存在への手向けの言葉だった。

 意識が消える瞬間、己の終わりを後悔で塗り潰してしまわないようにする言葉。

 

 だから、きっとこれで良かった。これしか無かった。

 杯を捧げ手放し、霧散する最後の瞬間、呪縛から解き放たれたような表情を影は浮かべたような気がしたのだから。

 

 

 

「……………」

 

「悪い、一人にしてくれ」

 

 

 

 錆び付いた聖杯を握ったルーナは、隣の二人にそう告げる。

 無言でその場を立ち去る二人。

 

 

 

『僕は戻るが良いかい?』

 

「あぁ」

 

 

 

 何かを察したのか、同じくキリツグも簡素に言葉を残し、その場を去る。

 残されたルーナは静かに右手の聖杯に目を向けた。

 

 

 

「…………私に一体何を。私は理想の体現者なんて者じゃない。

 私はただの、死んでいった誰かの代弁者、誰かの代わりだった。だから私は人を導けても、人を救う事は出来なかった。

 そんな事……本当は誰もが分かっていただろう」

 

 

 

 その時代、その島は地獄だった。

 故に人々は正しく在れなかった。そうで在ろうと努力しても、ダメだった。

 だから人々は正しい者よりも相応しい者を選んだ。

 祈りは、嘆きの願いに。希望は、絶望の慟哭に。

 そんな世界に、一体どうして奇跡など起きよう。何故神の威光が満ち溢れよう。

 希望より何かを求めるではなく、絶望より今の何かを否定し始めた世界に救いはない。

 

 

 

「災厄を跳ね除ける程に私は正しかった? 違うさ。私は災厄の席すら届かない程の、呪詛と怨念……破滅を象ったナニかを胸に宿した化け物なんだ」

 

 

 

 だから——そんな存在が聖杯を手にしたら……溢れるのはおぞましい泥に決まっているだろう?

 

 

 空を見上げて、彼女は呟く。

 

 

 聖杯は血を注ぐ物じゃない。

 本来は形として観測出来ない奇跡。人々の祈り、願いを溜める物。それが満たされた時、聖杯は降臨するのだ。

 じゃあ、その聖杯に人々の嘆きと慟哭、呪詛……絶望しか詰め込めなかったらどうなるのだろう。

 

 

 

「本当に意味が分からないな………今でもそう思うよ。願いを叶える聖杯なのに、願いが溜まらないと聖杯は降臨しないなんて」

 

 

 

 なんて矛盾か。なんて反対なのか。

 だから、奇跡など起きない。

 聖杯は無情だ。偽物だろうが本物だろうが、聖杯は結局杯でしかない。万能の願望機にするには、まずは杯を満たさなければならない。

 そして、詰め込んで詰め込んで、何かを犠牲にしてでも詰め込んで、ようやく聖杯から溢れたモノが奇跡である事を願うしかない。

 所詮、奇跡なんてそんなものだ。簡単で都合の良い奇跡なんてものは奇跡と呼ばれないのだから。

 

 

 

「なぁ、お前はどう思う?

 私は相応しいだけで、聖杯に触れる正しさなんてない。なかった。触れば災厄が撒き散らされる事が決まっていた。だからお前は止めたんだろう?」

 

 

 

 空を見上げる。

 偽物の聖杯を握って、空に呟く。

 きっと、夥しい数の慟哭によって作られただろう、この固有結界内では無限に等しい数の一つでしかない偽物の聖杯を握りしめて、彼方に思う。

 

 

 

「なぁ………お前はどう思う………?」

 

 

 

 聖杯なんて奇跡に縋るしかなかった島を。

 聖杯なんて言う、人々の悪性を晒す奇跡を。

 

 

 

「お前はあの時、何を思っていた? お前は最期、何を願ったんだ……?」

 

 

 

 笑いながら、人はこう言う風に笑えるんだと諭しながら、私欲とは何なのかを私に説いてくれた——

 

 

 

「——ギャラハッド………」

 

 

 

 空に浮かぶ月は欠けていた。

 

 

 

 

 

 




 
【宝具】

 セクエンス・モルガン
 不撓燃えたつ勝利の剣(Quick)

 ランク B

 種別  対人宝具


 敵単体に超強力な攻撃&クリティカル発生率をダウン(3ターン)<オーバーチャージで効果アップ>+自身のNPを少しリチャージ(10%)




【プロフィール5】絆レベル5で解放


 不撓燃えたつ勝利の剣

 ランク B

 種別  対人宝具


 セクエンス・モルガン

 彼女の基本武装。セクエンスとエクスカリバーの合体宝具。
 二つを合体させた事により特殊な狙撃銃………にせず、彼女はガンブレードにした。
 二つの剣を合体させたガンブレードより超強力な魔弾を撃ち出す。そのさまは、星の聖剣のそれの様であり、側から見れば波動砲である。

 本来ならAランクだが、ガンブレードより放っている為ランクは低下。出力は本来より小さい。しかし結果的に消費魔力を抑える事になり、また消音になったので、仕える主を驚かせる事はない。

 左手に持つ、エミヤ(殺)が愛用する軽機関銃キャレコM950に改造したカルンウェナンで敵を牽制、磔にし、右手に持つガンブレードに改造したセクエンスとエクスカリバーで敵を斬り裂き、時に真後ろからこの宝具を以って一撃で敵を粉砕する。


【プロフィール6】絆レベル5で解放

 気配遮断(影)A

 気配遮断のスキルが彼女の特性に引っ張られたモノ。
 通常の気配遮断が"気配を断つ"技術なのに対してこちらは"気配を変質、同化させる"技術である。
 気配を完璧に断つわけではないので相手の意識に知覚されやすいが「それが誰なのかを明確にさせない」のがこのスキルとの利点である。
 Aランクにもなるとこれを利用して「自分自身を別の誰かに誤認させること」もできる。またその逆も可能。
 特に、相手に自身をアルトリア・ペンドラゴン、またはアーサー・ペンドラゴンとして認識させる際はEXランクとして扱われる。
 因みに主(ご主人様)を慕うもの同士ということでこのスキルの習得の為に、小太郎と段蔵の忍び技術を彼女が勝手に真似た。
 二人からの評判は悪くない。


 単独行動EX

 マスターからの繋がりや魔力供給が絶たれても、しばらくの間自立できる能力。
 魔力運用などの効率の良さにも繋がる。
 
 もはや今の彼女はマスターが居なくても現界可能な程のランクを誇っている。尚ステータスの低下はこのスキルが原因ではない。
 霊基の損傷が完全に回復した後に、その空いた霊基容量を使用すれば今のステータスそのままで本スキルを正式に取得する事も可能。
 メリットとデメリットはあまり釣り合ってはいない。


 
 

【プロフィール7】(エピローグ&幕間の物語 ■■■■■■■・■■■・■■■■をクリアで解放)
 
 
 
 
 
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