騎士王の影武者 (外伝・仮)   作:sabu

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 時に、全てを知る必要はないという事もある。
 
 
 


第12節 エピローグ

 

 

 

 "良いのかい? 君はもう過去の呪縛から解き放たれた。そしてこの特異点……いや固有結界は直に壊れる。だから、君は何もする必要はない。ないんだよ"

 

 

 

 そうかもしれない。

 いや、事実そうなのだろう。何もしなくても変わらない。何かしても変わらない。最後の結果はいつだって同じだ。じゃあ、やめるのかと言われたら——やめる事はないだろう。

 最後の結果が同じように、いつだって最初の感情は同じだ。

 許せないから。

 だから私はやめないのだ。天秤は疾うに壊れていようと。

 

 

 

 "そうか……そうだね。意味は無いなんてボクが言う資格はない。いや、ボク達か。モルガンは先立ってこの固有結界が何なのか理解して、キミからそれを遠ざけようとしたんだから"

 

 

 

 そうか……じゃあ私の今からの行いはモルガンの心配を裏切る事になるのか。

 それは、少し心苦しいな。

 

 

 

 "でもキミは対峙する道を選ぶんだろう?"

 

 

 

 あぁ。でも、じゃあお前は何なんだ。

 止めたいのか止めたくないのか。一体どちらを尊重してるのか。

 

 

 

 "止めたいか止めたくないかと言われたら……まぁ止めたい。だってボクとしては必要ないでしょって思っているからね。そんな事よりこっちで馬鹿騒ぎしないかい! ってね"

 

 

 

 そうか、他には?

 まさか私が今更過去の呪縛に囚われると?

 

 

 

 "ハハハ……こう言う時のキミはズバズバ言うなぁ。でもうん。合ってる。見なくても良いモノを見て、キミは過去のキミに戻るんじゃないかって少し思ってる。そうじゃないとしても、キミが関わる必要はないと思ってる"

 

 

 

 だから目を眩ませたのか?

 見なくていいモノは見なくなれるよう。

 

 

 

 "まぁうん。最初はキミの目を眩ませる事にした。物理的な話じゃなくて、思考回路的な話でね。だってキミは色々見過ぎだっただろう? 嫌な事をいっぱい。不要なモノもいっぱい。だから少しくらい夏の光に盲目になっても良いんじゃないか。ボクはそう思ったんだ。まぁ………流石にメイドは予想外過ぎたけど"

 

 

 

 ……そう言われると私としては反応に困る。

 でもまぁ、ありがとう。それだけお前の助言は私にとってドンピシャだったんだ。それに楽しかったよ。バカみたいになってはしゃぐのは。

 

 

 

 "そうか! それは良かった良かった。キミは本質的に大人しい子だったから、今回くらいは一方的に円卓の騎士達を振り回しても良いと個人的には思っていたんだよ。ボクとしても良いモノが見れた。すっごい楽しかったよ"

 

 

 

 それは良かった。

 結局お前は誰かを振り回すのが好きなんだな。しかしまぁ、その方向性が改善されたから私は良しとしよう。私としても楽しいひとときだったんだから。

 

 

 

 "うん………うんそうだね。じゃあさ、もう少しこれを続けようって気はないのかい?"

 

 

 

 …………………

 

 

 

 "悪い夢より良い夢の方がいい。良い夢なら長い方がいい。そうじゃないか"

 

 

 

 そうだな。でも夢は儚いモノだ。

 そして夢とは悉く覚めるモノだ。"冷める"……そう称してもいい。

 

 

 

 "………………………"

 

 

 

 私は少し夜風を浴び過ぎてしまった。もう私は夏の夢を見ていない。

 でも、まだ楽しく夏の夢を見ている者達がいるだろう? なら夢からさめた私は、まだ夢を見ている者達の為に仕えるべきだ。

 

 

 

 "それはボク達の役割じゃないかい?"

 

 

 

 私もその役割の者になった。

 ……と言っても納得しないか。

 まぁ、私なりのケジメだよ。好奇心と言われたら少し違う。私は知らなければならない。ただそれだけ。

 たとえ意味が無かろうと——アイツが関わっているかもしれないこの特異点を無視出来ない。

 

 

 

 "キミの責任じゃないよ。キミが居たから起きたこの特異点も、キミという存在が起こした波紋の波を全て追うなんて出来ない。責任を取る必要もない。そもそも現実的じゃない"

 

 

 

 そうか。分かった。

 でもありがとう。少し気が楽になったよ。

 

 

 

 "そう言う意味で言った訳じゃないのに全く……キミってとことん非人間とか超越者とかの一癖ある存在のタラシだよね? 正直人タラシよりも性質悪いんじゃない? 魔女だよ魔女"

 

 

 

 いきなり褒めるな。照れる。

 それに私は魔女の娘なんだぞ。褒め言葉以外にはならないんだが?

 

 

 

 "はぁ……全くもう………でもその様子なら多分大丈夫かな、とは思う。でもそれはそれとして、今の楽しげなキミが終わってしまいそうだから少し引け目がする"

 

 

 

 ………………成る程。この事態を引き起こしたモノは、私が私を見失う程に許せないモノなのか。そうなんだろう?

 

 

 

 "うん。キミが本当に許せないモノだ。あの黒い影の集合が、キミが生前無辜の人々に向けていた嫌悪感、己の運命を他者に預けたモノだとするなら、この事態を引き起こした首謀者はキミがキミだけの本気の殺意と怒りを晒せる個人だ"

 

 

 

 そうか………

 

 

 

 "だから気を付けてね。キミの怒りはずっと不変。故に、幾千の人々からたった一人の個人に怒りが向いた瞬間、キミはキミ自身の怒りに呑み込まれるかもしれない"

 

 

 

 分かった。気をつける。

 もっとも私はこの事態に合点が行っている訳じゃないから、まだ実感は薄いしそこまで感情の滾りを余らせている訳じゃないんだが。

 

 

 

 "なら、今から折り合いをつけられるように、少しだけ教えよう。モルガンには言わないでね。凄い怒られるから"

 

 

 

 分かった言わない。

 でもモルガンが自力で察知する場合は関与出来ない。

 

 

 

 "そうしたらボクは逃げよう。

 まぁ良い。話を戻すけれど、この特異点は誰かの心象風景ではない。聖杯という概念で組み上げ、聖杯に付随する二つの逸話で切り分けた祝福と呪いの結界だ。

 昼は聖杯の奇跡。暗雲などはなく暗闇もない、人々が願った世界。しかしそこに不浄は許されない。故に光が焼き尽くし、行き過ぎた祝福は人間を内側から滅ぼす。罪に耐えきれなくなって自死するように。太陽に近付き過ぎたイカロスのように"

 

 

 

 ………………

 

 

 

 "そして夜。聖杯に何かを願い捧げ、そのまま死んでいった者達の呪詛の結界。終わらない暗闇。蠢く黒い影。聖杯という物に嘆きを抱いたまま死んだ人々という概念が、怨嗟と嘆きを以って死霊として顕現している。それを増やし転輪させ続け、無限にも等しい数にまで増幅させて燃料にしようとしている"

 

 

 

 そうか。だからあの影は恨めしいのか。

 聖杯を求めた円卓の騎士達が。聖杯無くしては国を救えないと決定付けた国の最高機関達が。

 そして、その聖杯を取り零した私が。

 

 

 

 "うん。でも全部が全部そうじゃない。中には未だに聖杯の救いを信じて願い続ける者もいる。己が救済される事を君に祈り続ける者もいる"

 

 

 

 ………………

 

 

 

 "もう一度言うが、キミが気にする事じゃない。ここの黒い影は既に過去で終わった誰か達。もう生命として終わりを迎えている。死んだ後も囚われて感情が暴走しているんだ。だからもう何も出来ないよ。この固有結界も直に壊れるからね。そのまま彼らは強制的に霧散する"

 

 

 

 そうか。大体分かった。

 だがそれはつまり、人々の執念や嘆きを利用し燃料とし、この固有結界を成立させている首謀者がいるんだな?

 自らの心象ではなく、幾千幾万と数え切れない人類の呪詛を具現化し、その裏に奇跡を表す世界を作り、人々の想念を汲み上げ聖杯の奇跡を降臨させようとする、個人がいるんだな?

 

 

 

 "……あぁいる。その存在も既に終わった者ではあるんだけれどね。黒い影達の代表になれる力と魂があったばかりにそうなってしまった者。しかし結局その存在の願いは叶わない。その存在ではどうやろうと聖杯は偽物にしかならないし、万能の願望機にはなり得ない。単純な魔力源にすら届かない。仮に出来ても、この固有結界内部でしか成立しない贋作だ"

 

 

 

 そうか。それはそれで悲しいな。

 叶わない夢を見続け、突然何の意味もなかったと決定付けられる。

 その首謀者も被害者の一人なのだろう。

 

 

 

 "………いや、それも違う。召し上げられてなった訳じゃない。その存在もそれを受け入れたんだ。己の意思で。……うん、だから対峙すれば分かるけど、アレはキミにとっての特級の地雷だ。理由があろうとそれは他者を食い物にした。尊厳を踏み躙った。

 そして……キミにとって大事なモノにも土足で足を踏み入れている。いずれは強制的に世界の修正力が無慈悲に終わらせてしまうが。でも、それでもキミは行くんだろう? なら、覚悟した方が良い。本当に知らなくても構わないモノを知ろうとする、己に"

 

 

 

 分かった……忠告は受け取った。

 これから私がどうしようと、もうお前には責任は至らない。

 

 

 

 "そうかい? まぁそうしよう。

 それと最後に一つ。その存在に会おうと願ってキミが歩けば、自然とキミの星がそこに導くだろう。でも対峙するなら夜にした方が良い"

 

 

 

 理由は?

 

 

 

 "それはごめん。ボクには言えない。ただボクが言えるのは、その存在は聖杯という概念でキミを呪っているという事だけだ。この固有結界の基盤となるその概念でね"

 

 

 

 成る程………なら私のスキルも対魔力も貫通出来るだろう。

 しかしギャラハッド………マシュは何も呪われない。アイツを聖杯で呪うなんて不可能だ。私は容易く呪えるが。

 

 

 

 "うん。そう言う事だ。でも分かっただろう? 円卓の騎士の中でも、キミとマシュがこの固有結界内部で特別だった理由が。聖杯を求め、その果てにそう言う役割を担った二人なんだから。災厄の席にキミが座れたのと同じく、キミが何と言おうと世界はそう認識しているようにね"

 

 

 

 逆だ。世界が何と言おうと私達はそう認識しているんだ。

 それに、だからこそ尚更引けなくなった。

 ケジメをつける。私の為か、この事態を引き起こした存在の為か、聖杯に囚われた無辜の人々の為かは分からない。でもきっと、最後はどれでもなくなるのだろう。私欲で以って言うなら——私はアイツの為にケジメをつけてくる。

 

 

 

 "後は任せてくれて良いよ"

 

 

 

 ありがとう。

 今日ばかりはメイド家業の中断だ。

 それにマスターも言っていたからな。夏休みは宿題を終えてからだって。だからその宿題を終わらせてくる。

 

 

 

 "うん。なら行きなさい。そして何事もなく帰って来るんだ。誰かの為ではなく、キミ自身の為に"

 

 

 

 分かった。

 行ってくるよマーリン。

 それまでは頼んだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………アレ、朝か」

 

 

 

 藤丸立香は窓から差し込む朝日で目が醒めた。

 僅かに聞こえる波の音と風の音。遠くではカルデアの誰かの活動音と思わしき物音がする。

 

 

 

「……………寝よ」

 

 

 

 ルーナさんが起こしに来ている訳じゃない。

 多分早く起きてしまったのだろう。時間になればルーナさんが起こしに来てくれる。それまで寝てようと、藤丸立香は再び瞳を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——輩……先輩…………」

 

 

 

 ゆさゆさと揺さぶられる体。

 淡い思考が明確になっていく。目の前にあるのはマシュの顔。清涼な雰囲気に包まれながら甘い雰囲気のメイドではない。

 

 

 

「マシュ……? アレ、ルーナさんは?」

 

「どうやら今日は起床の時間には来なかったようで。

 私としてはその……起こされるのは心臓に悪いので事前に起きていたのですが、来なかったので。それで先輩のもとに」

 

「………………」

 

「先輩?」

 

 

 

 もしやこれはルーナさんからの期待とかそう言うモノなのではないか。

 普段は頑張っているから優しくしてくれていたが、もし自分に甘えて堕落するようなら厳しく行くと言う宣言。その為の試験。

 そして今自分は、思いっきり寝過ごしている。一週間にも満たない間で完全に甘えきっている事が証明されてしまった。つまりヤバイ。

 

 

 

「ヤバイヤバイ——完全にぐうたらしてたっ!」

 

 

 

 飛び起きて、すぐに身支度して厨房まで走り出す。

 いつも七時くらいに起きていたが、多分今は八時を過ぎている。マシュが起こしてくれなかったらさらに過ぎていただろう。

 もう彼女はカンカンなのではないか。なんなら失望しているのではないか。

 

 

 

「ルーナさんごめん——!」

 

 

 

 厨房に辿り着いた瞬間に叫ぶ。

 だが当の本人は居なかった。

 コテージの広間にいるのは………何かエプロンをして厨房に立っているマーリンの姿。

 

 

 

「やっばいな……どうしようこれ。料理って魔術みたいなモノだと思っていたのに」

 

「……何してるんですかマーリン」

 

「あぁこれ? ボクの気紛れ。

 取り敢えずそこの置き手紙を確認すると良いよ。あんまり信用してくれなかったけど」

 

「あ、あれ………何これ」

 

 

 

 マーリンに言われて、藤丸立香は辺りを見回しテーブルの上に載っていたメモ用紙を発見する。

 そこに書かれているのは、『今日はメイド家業をお休みします』と書かれ、次に『何かあったらマーリンに頼ってください』『でも多分無理な気がするので、夕食と身の回りの事はマーリンではなくエミヤに頼ってください』『朝食はごめんなさい、果物と言った簡素なもので済ませて下さい』『お弁当は作ってあるので昼食はそれを食べてください』『足りなかったらエミヤに言ってください』と続いていた。

 

 

 

「………やっぱり優しすぎるって」

 

 

 

 今日はかなり怒られるかも知れない、と覚悟を決めていたらこれだ。

 何だか少し泣きそうになって、でも同時に笑みが溢れそうになって来る。

 

 

 

「えーと………はいこれ。リンゴとブドウと、パイナップル? これを食べてだって。で、あぁ……次は………」

 

 

 

 マーリンから果物の入った籠を受け取って立香は口に運ぶ。

 手元のメモを見ながら慌ただしくしているマーリンの姿は中々新鮮で面白い。いつものローブじゃなくてエプロン姿だったり、多分ルーナさんからのメモを見てムムムと百面相している姿なんて、もしかしたら超貴重なのではないか。

 

 

 

「む…………これは……どう言う事だ?」

 

「あ、エミヤさん。今日ルーナさんはメイド家業をお休みするって。でそれでマーリンが代わりに働くらしい」

 

「エミヤ君ごめーん! ボク味見出来ないからこれ成功してるのか失敗しているのか分からないぃ!!」

 

「はぁ……全く」

 

 

 

 起きて広間に来たエミヤとマーリンの会話で、普段のカルデアのお節介なエミヤに戻り始めたのが何となく藤丸立香は分かった。

 ここでもまぁまぁ世話焼きだったが、色々吹っ切れたルーナさんと比べるとやはり彼は普通だ。

 

 

 

「………そういえば彼女は? 何故マーリンが」

 

「乙女に秘密は付き物だろう?」

 

「………………」

 

「まぁ、彼女は今日やりたい事があるから、少し離れるというだけさ。明日には戻るらしいから気にしなくて良いよ。何かあればボクの千里眼で見つけるさ」

 

「……なら大丈夫か」

 

 

 

 短い会話で、エミヤはマーリンへの追及をやめた。

 特にする必要を感じられなかった。

 

 

 

「よーし! 今日一日、特別にボクが皆のお世話をしよう! 夢見だけは最高に良くなるぞ!」

 

 

 

 えっへん、と胸を張りドヤ顔で語るマーリンの姿に自然と笑みが溢れる。

 後に、次第に起きて来る円卓の騎士達を交え、マーリンと彼らはその日一日を過ごした。

 メイド家業を一日お休みしたルーナに、何があったのだと各々が僅かに戦慄しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………朝だ」

 

 

 次の日、藤丸立香は再び差し込む朝日で目が覚めた。

 ほとんど昨日と同じ。唯一の違いは、何だか美味しい匂いがするという事くらいか。

 

 

 

「…………ヤバイ今日は起きなきゃ!」

 

 

 

 流石に二日連続でぐうたらしてはいけない。

 と言うかカルデアでは元々自分の事は自分でなんとかしていたのだ。確かに彼女のお世話や献身が有り難いモノであるとはいえ、それにかまけてはダメだ。

 ちょっとだけメイドさんが自分に仕えているというシチュエーションに憧れはあったのだとしても。

 

 

 

「おはようございま…………す………?」

 

 

 

 立香は朝の挨拶と共にコテージの広間への扉を開ける。

 すると、真っ先に視界に飛び込んで来たのは、椅子に座り、テーブルにうつ伏せの姿勢でスヤスヤと寝ているルーナの姿だった。

 

 メイドとしてのカチューシャとエプロンは外れ、下に着けているちょっと大人な水着が露になっている。アグラヴェイン卿のマントを羽織って眠る姿は、もうただの疲れて眠る少女だ。

 

 

 

「…………………む」

 

 

 

 ルーナさんがそう言う風に寝てるの初めて見た………と少し驚きながら、立香はテーブルに置かれたメモを発見する。

 

『少し疲れているので眠っています』『出来れば起こさないでくれると助かります』『朝ご飯は時間が経っても美味しく食べられるよう、肉じゃがにしました』『カルデアからレンジを転送して貰ったので、自由に温めて食べてください』『マーリンの魔術でちゃんとレンジは動きます』『お米はごめんなさい。冷凍で許してください。同じくレンジで温めてください』『代わりにお昼ご飯は好きなのを作って上げます』『要望がないなら、お昼は皆と一緒に浜辺で焼肉パーティーに私はしたいです』

 

 

 

「もう………結局優しいんだから」

 

 

 

 メモに書かれていた内容を見て、結局彼女は色々とだだ甘なんだなぁと少し嬉しくなって、立香は残されたメモ通り厨房を漁る。

 

 

 

「……………ん」

 

「あ………ごめん起こしちゃいました」

 

「…………………」

 

 

 

 あまり物音を立てないようにと気を付けたのに、どうやらほんの少しの物音で彼女を起してしまったらしい。

 まだ意識がちゃんと覚醒していないのか、のそのそと彼女は体を起こし、普段の様子からかけ離れた油断だらけの眠たげな表情で視線を此方に向ける。

 

 

 

「…………………」

 

「あ、えっと…………その…………な、なんですか………?」

 

 

 

 ルーナは立香にぼーっとして視線を向けたままだった。

 普段の引き締まった表情ではない、何処か疲れている表情に立香は少し動揺しながら返す。

 そんな表情初めてだったのだ。

 

 

 

「………フ。いや何でもない。立香はずっと立香なんだなって、少し安心しただけだ」

 

「え………あー……え?」

 

「今から朝食だろう? 頑張ったんだが疲れていてな。それだけ作って寝てしまった。副菜が足りないから今から作るよ。簡単なモノだけれど塩キャベツでいいか?」

 

「い、いや………大丈夫です。ルーナさんは休んでても。というかその………口調が…………」

 

「ん……あぁ、これは…………まぁちょっと落ち着いただけだ。

 別に気にする必要はない。普段の私に戻っただけでしかない。ちょっとハイテンションになっていたアレも普通の私ではあるが」

 

「はぁ…………その、昨日はルーナさん何してたんですか?」

 

 

 

 すると、彼女は少し目を逸らした後、まぁ良いかと言って自分の手を少しテーブルから浮かせる。

 次の瞬間、僅かに可視化する光。淡い輝き。

 何げない動作で机に置かれたのは——聖杯だった。

 

 

 

「——はい?」

 

「昨日私が見つけて来た。

 どうだ? 私は完璧なメイドだろう? 是非褒め称えろ。マスターの負担を私が減らし切った」

 

「いや………いやいやいや!!」

 

「まぁ、これは魔力のない空だったんだがな。リソースにもならないだろう。もしかしたら魔力を溜め込むバッテリーとしては使えるかもしれない。あぁそれと、この固有結界は今日の夜に魔力切れで霧散する。つまり特異点修復完了だ」

 

 

 

 何げない事のように語る彼女に追い付けず、藤丸立香は口を開けて放心するばかりだった。もう色々と頼り切り過ぎてしまっている感覚が凄まじい。しかもマスターとしての面目丸潰れである。

 自分が厳しいと言って置きながら他人の役割肩代わりしてくれるとはもう何なのか。もしや彼女に自覚はないのか。彼女に甘えるとダメになってしまうと確信した瞬間だった。

 

 

 

「あぁ、もし私にちょっと憂いか罪悪感を感じているなら、願いがあるんだがいいか?」

 

「え、な……何ですか……!」

 

「——遊びたい」

 

 

 

 そのまま噛み締めるように彼女は続ける。

 

 

 

「言ったろう? この夏は今日の昼で終わってしまう。だから私は遊びたい。

 海で泳いで、浜辺でビーチバレーとかして、そして最後は浜辺でバーベキューをして目一杯楽しんでカルデアに帰りたい」

 

「お——おぉ!」

 

「勿論ちゃんと水着も着る。というか着ている。最後はちゃんと夏を楽しんで、皆で楽しく終わりだ」

 

「や、やった! そうですそうです! 私達はこれを望んでいたんですよ!」

 

「なら良かった。私としては浜辺でビーチバレーが楽しみだから、線を引くのとポールを建てるのを手伝ってくれないか」

 

「えぇ勿論! 今すぐやりましょう!!」

 

 

 

 そう言って、立香はコテージから外へ走り出した。

 ルーナの優しい嘘と、夏の夢を終わらせないように話を逸らした誤魔化しによって、魔力源としては使用出来ない聖杯の事を忘れて。

 

 

 

「コラ。まだ朝ご飯を食べ終えてないだろ。ちゃんと食べなさい」

 

「あ………今すぐ食べ切ります!」

 

 

 

 机に置いた聖杯を仕舞い、ルーナは立香に告げる。

 慌ただしく動く活発な少女に、柔らかで小さな笑みを浮かべながら。

 

 

 

「美味しいか?」

 

「はい! いつだってルーナさんの料理は美味しいですから!」

 

「そうか。それは良かった」

 

 

 

 先程のルーナからの、一緒に浜辺で遊ぼうという待ち望んでいた言葉に浮かれて、立香は気付かなかった。

 ルーナが飛びっきりに優しい表情をしていた事を。本当に美しいモノを見ている、穢れない幸せな光景を見ている。そんな表情をしている事を。

 

 

 

「よし………じゃあ早く行きましょう! 今すぐ行きましょう!

 そしてマシュと円卓の皆さんと楽しみましょう!」

 

「あぁ良いよマスター。でも興奮しすぎて転んで怪我をしないようにな?」

 

 

 

 食べ終えて、すぐに走り出す立香の背を追って、ルーナもコテージから浜辺へと出る。

 楽しげな表情の立香に釣られ、ルーナも自然な笑みを溢していた。

 

 夏は始まったばかりではないけれど、彼女は充分に幸せだった。

 だから、これからはただのボーナスタイム。ただ好きに過ごすだけで得をするご褒美の時間。

 皆と競い合うように泳いで、浜辺でビーチバレーをして、皆とパーティーをして、カルデアに帰る夕暮れの最後、モルガンと静かに浜辺を散歩して、周囲の人を振り回し続けて。

 何にも縛られず、過去に囚われず、彼女はカルデアのマスターと生前からの仲間達と一夏を楽しみきった。

 

 

 

 


 

 

 

【スキル変更】

 

 

 サマー・テンション! EX LV.10 チャージタイム5

 

 味方全体のQuickカード性能をアップ[20%](3ターン)& 味方全体のArtsカード性能をアップ[20%](3ターン)& 味方全体のBusterカード性能をアップ[20%](3ターン)&自身を除く味方全体にターゲット集中を付与(1ターン)& 《円卓関係者》の攻撃力をダウン【30%】(3ターン)【デメリット】

 

    ↓

 

 サマー・テンション! E- LV.10 チャージタイム5

 

 自身のQuickカード性能をアップ[50%](1ターン)& 自身のArtsカード性能をアップ[50%](1ターン)& 自身のBusterカード性能をアップ[50%](1ターン)& 自らの宝具カードを【■・■■■■■(■■■■■■■・■■■■■■■)】に変更(1ターン)

 

 

 

【宝具】霊基第三段階時のみ使用可能。

 

 

 ■・■■■■■(■■■■■■■・■■■■■■■)(Arts)

 

 ランク ——

 

 種別  ■■■■

 

 

 自身に無敵貫通を付与(1ターン)&敵単体に超強力な〈無敵〉特効防御無視攻撃<オーバーチャージで効果アップ>&超高確率で即死させる&確率でチャージを減少。

 

 

 

 

 

 

 

【プロフィール7】(エピローグ&幕間の物語 イミテーション・ロスト・バレットをクリアで解放)

 

 

 

 

 

 

 

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