騎士王の影武者 (外伝・仮)   作:sabu

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 かわいい主人公を出す前に、カッコいい主人公を出す事で水着ルーナをよりかわいく見せていく手法。それにこういう主人公も見たかったでしょう………?
 だから感想評価とか待ってますーー!!
 


第6節 偽・無限の残骸(イミテーション・レイズ・デッド)

 

 

 

「はぁぁぁああッッ!!」

 

 

 

 夏服だった衣装から紺色の鎧を身に纏い、マシュは黒い人型の群れに突撃する。

 小柄な身体からでは想像も出来ない、身の丈ほどもある盾での豪快な薙ぎ払いは、僅かな狂いもなく敵にぶつかった。

 

 

 

3333z!uyw@!uyw@!s@4dwbyuf@d9w@5!

 

 

 

 不気味な人型でありながらしかし所詮は低級霊なのか、多少の手応えと共に容易く霧散していく。理解し難い悲鳴のような叫び声は、その姿も相まってあまり気持ちの良いものではない。 

 

 

 

「………く、次です!」

 

 

 

 さほど脅威とは思えない敵性エネミー。サーヴァントではないカルデアのオペレーターの人でも、一体だけならガンドといった魔術で倒せそうである。

 しかし、あまりにも数が多い。今こうして一体を倒す間にも、数体が森の茂みから湧き出て来る。

 

 

 

「——痛哭の幻奏(フェイルノート)

 

 

 

 マシュの動きをカバーするように、トリスタン卿が真空の弓を解放した。

 黒い影は死霊や悪霊の類いであるのか、城内に現れた強大な死霊を一撃で射抜いた逸話を持つ痛哭の幻奏(フェイルノート)によって、一撃で消失していく。

 毎秒十数発の射撃数を誇る、彼の必中の弓の装填速度もあり、凄まじい速度で黒い人影は殲滅させられていった。

 

 

 

「マシュ、どうかお下がりください」

 

「ですが!」

 

「いいえ、貴方の盾は信念を貫く為の物。決して敵を屠る為の物ではないでしょう?

 ですから……彼女を頼みました」

 

 

 

 そう告げて、トリスタンは一歩前へ出た。

 最前列をガウェイン、ランスロット。そしてアーサー王に任せ、中距離の位置にトリスタンは陣取り弓を引く。

 その背中は、もはやこの場は全て此方側に任せろという意思の表れのように見えてならない。

 

 そして、それは事実そうだった。

 彼は戦うのではなく守れと言葉なく告げている。

 故にマシュは振り返った。マシュが見たのは、片膝をついて荒い息を吐いている——ルーナの姿だった。

 

 

 

「——え?」

 

 

 

 ノイズが走る。

 まるで古びたビデオを無理に再生しているように、瞳に映る視界が眩む。

 

 城を囲む森。その茂みの中、途端に胸を抑え苦しみ出した少女の姿。

 ようやく黒いバイザーを外してくれるようになった少女が見せた、初めての表情。ずっと無表情か眉を顰めた表情しか見せない少女が表した最初の素顔は——苦しみだったのだ。

 

 

 

「先輩ッ!」

 

 

 

 いつの日かのその姿に被さる幻影は、一体いつで——誰のモノだったのか。

 途端に、マシュは走り出していた。

 

 

 

「え……いや、なんで……大丈夫、ですか……?」

 

「…………………」

 

「ルーナ先輩………?」

 

「悪い。今一瞬聞こえなかった。何故自分だけがこういう窮地に陥っているのか、何故私だけが不調なのかに意識を回していると、外界の状況が把握出来ない」

 

 

 

 返される言葉は呂律が整っており、弱々しいという印象はない。

 意識は混濁していなかった。しかし彼女のその様子は酷く、次の瞬間には血を吐いていそうな程でもある。

 

 何かがチグハグだ。弱々しいというよりも、荒々しい。

 ダメージを受けているというよりも、内側にて暴走する何かに食い破られそうになっていて、それを必死になって耐えているという印象だった。

 

 

 

「ルーナさん聞いて。今貴方のステータスを確認したんだけど、対魔力のランクがEXに跳ね上がって、筋力・耐久・俊敏のステータスがA++に変質している。

 つまり、今のルーナさんは平時の三倍近い出力が出せる。多分、霊基の器が広がっていないその状態で」

 

「…………………」

 

「ごめんなさい。今の貴方のステータスを見ていると私のトラウマが呼び起こされて不安になる。だから一つ聞かなくちゃならない。味方と敵の区別はつく? 周りの何もかもを敵と判断してない?」

 

「まさか。今の私は、頭だけはとことん冷え切っている。肉体は暑くて仕方がないが。もし不安なら誰かに今すぐ私を殺せる準備をしていれば良い、マスター」

 

「分かりました。でもうぅん。必要ない。信じてるから」

 

 

 

 藤丸立香はそう言い終わると、右手を掲げて瞳を瞑った。

 呼び起こす魔術礼装の術式。浮かべて放つ、今の自分が出来る支援。

 

 

 

「——瞬間強化(ブーステッド)!」

 

「これは………」

 

「トリスタン卿! この場では貴方が鍵だ! だから任せた!!」

 

「——それでは、全力であやしましょう」

 

 

 

 礼装の支援より、トリスタンを包む魔力の渦。

 その力を余す事なく使い、彼は弓を引く力を加速させた。

 

 毎秒十数発と放つ速度はさらに加速し、さらに一射毎に複数の黒い人型を貫き霧散させる。

 今も尚、津波にも等しく溢れでる群れの波を、トリスタンは一方的に斬り刻み続ける。この瞬間、彼は聖剣で焼き払い続けているが如く、海を押し除けていた。

 

 

 

3333………8.pue 8.pueez!d93hkby:@yiss@tueee!!

 

 

 

 劈く黒い影の悲鳴。もしくは雄叫び。

 しかしその雑音すらも痛哭の幻奏(フェイルノート)が調律していく。真名解放による強大な一瞬など必要ない。撫でるような一撃で、黒い影は消滅していくのだから。

 

 

 

「流石だトリスタン卿! では私達も続くぞ!」

 

「「ハッ!」」

 

 

 

 アルトリアの叫ぶ声に、ガウェインとランスロットが続く。

 ランスロットが敵の猛攻を防ぎ、溢れる黒い影を両断し、ガウェインが聖者の数字の加護を受けた太陽の聖剣を以って敵を焼き払う。そして二人の動きを阻害せず、トリスタンが真空の弓で敵を消失させていく。

 

 

 

「——来い! ドゥン・スタリオンッ!」

 

 

 

 アルトリアの叫びに呼応して、天より光の柱が落ちた。

 直射する太陽の光すら眩む程に神々しい光の柱。そこより現れるは、小さな少女が夢見る理想の白馬。王だけが乗る事を許されている王馬——ドゥン・スタリオンが光の燐光を足場に天を駆け抜け、騎士の王の下へと馳せ参じる。

 

 

 

「良い子だ、ドゥン・スタリオン……さぁ行くぞ! ここが正念場だ……目覚めろ我が槍ッ!」

 

 

 

 並走するドゥン・スタリオンに飛び乗り、アルトリアは光の馬と共に天をかける。右手に握るのは——光の楔、星の聖槍ロンゴミニアド。

 槍を前方に構え、光の壁を螺旋状に展開しながら黒い影へと突撃する。

 

 削岩機でも使用しているかのように触れた瞬間粉々となり、次の瞬間には霧散する黒い影。烏合の衆にも等しい黒い群れ達とはいえ、軍は軍。アルトリアの突撃によって周囲の森ごと吹き飛び、陣形は容易く破壊され続ける。

 

 円卓の騎士達の猛攻は凄まじかった。

 一人一人が歴戦の猛者。百戦錬磨、一騎当千のサーヴァント。ただでさえ敵性エネミーの一体一体が弱い事もあってか、この戦いはすぐに済む筈だろう。その筈なのだ。

 しかし——

 

 

 

「…………減らない……!」

 

 

 

 戦闘の後方より、彼らの戦果を見守る藤丸立香は思わず叫んだ。

 アーサー王と、ガウェイン、ランスロット、トリスタン。4人の円卓の騎士によって、毎秒に100体以上の効率で殲滅されながらも、減らない敵の軍勢。

 

 一体幾らの数が潜んでいるのか。

 もはや数千では収まらない。もしや——無限に湧き出るとでも言うのか。

 

 

 

「…………くッ……すまない一歩引く!」

 

「——緊急回避(バック・ブリンク)!」

 

「感謝するマスター!」

 

 

 

 先程から減らない黒の波。無理矢理にでも押し通り、一撃でも加えてやると言わんばかりの死兵のような攻撃。

 それを見て、ドゥン・スタリオンと共に敵陣を荒らし続けるアルトリアが、馬の手綱を引いて一時上空へと離脱する。

 

 これは本当に津波だ。

 光の槍で海を穿とうと、次の瞬間にはまた元に戻り、あまつさえその衝撃を以って対象を呑み込もうとする濁流。

 そして、相手は何かタチの悪い死霊だ。こういう類いに対しては、猛毒を仕込んだ剣を相手にしている想定で挑まねばならないと知っている。たった一撃とて油断は出来ない。

 

 

 

「「「…………ッ!」」」

 

 

 

 騎士王の一時離脱を見て、円卓の騎士達の反応は早かった。

 振るう剣戟を重くし、斬撃を弾き飛ばして複数を巻き込み始めたランスロット。

 防御を【精霊の加護】の幸運上昇と【ベルシラックの帯】に任せ、攻撃に全ての重きを置いたガウェイン。

 目を見開き、最大限の集中を以って敵を射抜き続けながら、瞬間強化 (ブーステッド)の増幅が切れ始め、僅かに焦り始めるトリスタン。

 

 敵は倒せている。攻撃が通用しない訳ではない。むしろ火力としては過剰だ。

 しかし殲滅が追いつかない。対軍兵器の数々を以ってしても——追い付かない。

 

 

 

「………………」

 

 

 

 前方を睨みながら、藤丸立香は一歩を引いた。

 ——押され始めている。先程は瞬間強化(ブーステッド)を受けたトリスタン卿によって津波すらバラバラに引き裂けていたが、その加護が失われた今、波は徐々に進行を始めている。

 あり得ない程の大軍。聖剣の全力解放に頼るか、一時離脱か。

 

 

 ルーナさんが不調を来たしているこの状況、藤丸立香の頭によぎったのは離脱だった。

 

 

 アーサー王の白馬。令呪解放による転移。マシュのシールドエフェクトによる、大軍の波の一時遮断。これらを組み合わせれば、離脱は充分出来る。敵の情報も幾らか得た。なら今は、離脱して戦況を元に戻すべきか。

 

 

 

「——ルーナ。一つ君に聞きたい。私が君に相応しい剣を投影したら、君はそれを扱えるか?」

 

 

 

 藤丸立香の思案を引き戻したのは、弓による射撃をやめ、前方の戦場を睨み続けていたエミヤの真剣な声だった。

 

 

 

「な………先輩に戦えと言うのですか……!」

 

「ルーナ、君なら分かるだろう。

 ……あぁ、空を駆けるアーサー王も分かったようだ。あの群れが何故減らないのか」

 

 

 

 マシュの言葉も意に介さずエミヤは告げる。

 鷹の目を以って戦場を俯瞰しているからこそ気付いた異変。

 

 

 

「蘇っている………」

 

 

 

 ドゥン・スタリオンによって空を飛んでいるアルトリアの声が響いた。

 そして遂に全員が気付く。アルトリアが突撃し、(ひら)けた森の端で、霧散した黒い粒子が集まって人の形を象り復元している事を。

 ただでさえ数も多く、今尚黒い人影は増えていっているというのに、倒した敵は復活する。キリがないとは正にこの事だろう。

 

 

 

「そんな……トリスタン卿の痛哭の幻奏 (フェイルノート)でも……?」

 

「いいや、トリスタン卿の一撃は確かに届いている。それでも復活するのだ。

 いや……この言い方では良くない。本来ならあの黒い人影は何か組み合わさった武器でないと復活するか、もしくは十数回程消滅させないといけない類いのモノなのだろう。

 しかし、伝承で死霊を一撃で射抜いた卿の弓で消滅させた黒い人影は、復活までが遅く、動きが非常に鈍い。そして、もう一度消失した際にはもう復活しなくなっていた」

 

「じゃあ……非常に有効ではある。でも………完璧ではない」

 

「そうだな。カルデアでは完全再現出来ない十二の試練(ゴッド・ハンド)を持つヘラクレスを相手に対神宝具で攻撃する………そんな相性なのだろう」

 

 

 

 エミヤの言葉を聞きながら、立香は戦場を見る。

 相性の良い痛哭の幻奏(フェイルノート)ですら押し負ける敵の軍勢。もし一撃で倒すなら、威力を収束させた痛哭の幻奏(フェイルノート)の一撃か、円卓の騎士達の聖剣、聖槍の真名解放。

 

 

 しかし——それで終わるのか?

 

 

 敵は無限なのではと思える程に多い。海を一部消失させたとて、次の瞬間には元通りになる。いや、正確には海ではないのだろう。海程に膨れ上がる可能性のある湖だ。だから痛哭の幻奏(フェイルノート)の特効が上手く入り続けば……と言ったところか。

 ならばやるべき事は——

 

 

 

「……ッ瞬間強(ブーステッ)——」

 

「ダメだマスター。スキルの無理な乱用は君の肉体が拒否反応を起こす。カルデアから礼装へのバックアップがない中、特に同種のスキルを使うという行為はな。

 それで以前血を吐き、数時間に渡って目が見えなくなったのを忘れたか?」

 

「でも……二回目ならまだ大丈夫だからッ!」

 

「いいや待て。

 ……ただ前に飛び出るという、場も見えていないただの無鉄砲な行為ではない事は尊重するが、たとえそれをしたところで事態は好転しない。やらないよりマシだとしてもだ」

 

 

 何かを思い出し、ルーナがやる様な瞳を細めた冷笑を浮かべ、自嘲しながらエミヤは藤丸立香を制する。有無は言わせないという雰囲気。

 そのまま彼は振り返った。

 視線を合わせるのは、黒い聖剣を杖代わりにし、膝をついて苦しむ一騎の英霊。

 不調などなければ間違いなくこの場に於いて最強の剣士。

 いいやそれどころか、彼女に相応しい存在が隣にいるなら——全英霊最強の頂点に君臨してみせた存在。

 

 

 

「もう一度問う。

 ルーナ。相応しい剣を君に与えれば、あの黒い群れを全て消失出来るか?」

 

「………何を投影するつもりだエミヤ」

 

「ストームブリンガーなんてどうだ? あぁ、二刀使いの君に合わせて姉妹剣のモーンブレイドも作り出そう。

 悪妙高き魂吸いの魔剣。殺傷した相手の魂を吸い取り、同時に所有者を狂わせていく呪いの剣。魂そのものと言えるあのような存在に対しては極めて有効だ。それに、君なら何の問題もなく扱えるだろう?」

 

「………空想の魔剣を投影するつもりか、お前は」

 

「フ……まさかその言葉を君が言うのか?

 空想の産物とはつまり、元となった"原典"となる宝具が存在するという事。私が、この世のあらゆる財を収めた黄金の宝物庫を覗いた事があるのを忘れたか?」

 

「…………ハ、そうだったな。お前はお前で相変わらずだったな」

 

 

 

 似た者同士だからなのか、互いに澄ました笑みで交わされる言葉の応酬。

 もはや互いが互いに出来るという事を何一つ疑っていなかった。しかしその言葉の応酬は、力が霧散するように呼吸を繰り返すルーナの姿で中断された。

 

 

 

「悪い………少し、集中が出来ない。

 お前の剣を握れても、そこで終わる。私は私の投影が出来ない」

 

「そうか——それは良かった」

 

 

 

 力になれない事を惜しむ、ルーナの謝罪の言葉を、エミヤはニヒルに笑いながら返した。

 

 

 

「は………?」

 

「何、そこで君が出来ると私に断言しては、私の出る幕が無くなるだろう? ただでさえ消耗している君に剣を振るわせるなど許せないからな」

 

「………………」

 

「そこで見ていると良い。私が終わらせよう。勝ち目はある」

 

 

 

 そう告げて、エミヤは一歩前に出る。

 覚悟など一々決める必要すら無い。彼は常に全力で疾走をし続けているのだから。

 

 

 

「剣以外の投影は無作法だが、やれない事もない」

 

 

 

 彼はその言葉を最後に——"魔力殺し(マルティーン)の聖骸布を脱ぎ捨てた"。

 自らが着ていた赤い衣服と一体化して目立たなくさせた"右手"を包んでいた赤い聖骸布。それを外して現れるは"己"の腕。

 しかし、普段は潜めていなければならない右腕に走る魔術回路は、有事の際以外は解放してはならない程に危険な産物。

 

 

 

「——投影、開始(トレース・オン)

 

 

 

 慣れ親しんだ言葉を兆し、右手に浮かぶ青い回路。そして指先から瞳にまで走る、一本の紫色の回路。周囲に溢れ出る魔力の残滓を尻目に、エミヤは脳裏にイメージする。

 浮かべるは、眼前の敵を最も端的かつ最適に殺傷出来る武器。つまりは最強の武装。

 

 

 

「——投影、装填(トリガー・オフ)

 

 

 

 順序は全て、正しく。

 一つも間違いが有ってはならない。

 何か一つでも欠ければ、己のイメージは霧散する。

 

 

 

「——全工程投影完了(セット)……!」

 

 

 

 創造の理念を鑑定。

 基本となる骨子を想定。

 構成された材質を複製。

 制作に及ぶ技術を模倣。

 成長に至る経験に共感。

 蓄積された年月を再現。

 

 その全て。あらゆる工程を凌駕し、それを現世に復元する。

 

 ならば、後は誉れ高く告げるだけ。

 その名。その呼び名。世界に刻んだ宝具の真名。

 無理な投影だとは理解している。剣ではなく弓。しかも精霊の加護を受けた弓を投影するなど。しかし、それがだからなんだと言うのか………何故なら、星の聖剣を投影するよりは容易いのだから——!

 

 

 

「——是・痛哭の幻奏(フェイルノート)ッッ!」

 

 

 

 大気が震える。音が放たれる。

 弾かれた弦は精霊の加護によって清められた神秘は、何一つ(たが)わず、まるでトリスタン卿が扱っているかの如き精度で黒い人影を射抜き、そして消滅させた。

 

 

 

「フ………何とも雑な投影だ。

 格だけは完璧だというのに、基本となる骨子は穴だらけで材質は乱雑。経験と技術を模倣する事は出来ていない。これでは百射程度で壊れてしまうな」

 

「——ほう……? 私の弓を複製しておきながらその弱音は許せませんね。ついて来れないのですか?」

 

 

 

 今も尚、敵を射抜き霧散させ続けながら、トリスタン卿はエミヤの皮肉めいた言葉を煽る。

 彼も彼で魔力の消費が激しいというのに、笑いながらのその姿はいっそ清々しい。

 

 

 

「まさか、冗談はよしてくれトリスタン卿。

 壊れたなら——また投影すれば良い。技量を模倣出来ないのなら——私の腕前そのままで射抜けば良い。生憎、私は彼女と同じ弓の腕前の持ち主なのでね」

 

「成る程、良く吠えました。

 右腕から血を流しながら弓を射るその姿に免じて、貴方の贋作と見栄を張る事を許しましょう。私の域にまでついて来なさい。殲滅します」

 

「あぁ……!!」

 

 

 

 互いに澄ました笑みで交わし、二人は痛哭の幻奏(フェイルノート)で敵を穿ち続ける。

 押され始めていた戦況が元に戻り始めた。

 アーサー王。そしてガウェインとランスロットを盾とし、トリスタンとエミヤが敵を消滅させていく。

 

 

 押し寄せる波が止まった。

 

 

 押されもいない。引いてもいない。相手も此方も互いに。

 つまりは、ここから持久戦。トリスタン卿とエミヤがこのまま弓で射抜き続けられるなら、この無限にも思える敵の軍勢にも勝てる……!

 そう立香が思案した時だった。立香は隣から、誰かが立ち上がる音を聞いた。

 

 

 

「あぁ、ハハハ。全くその後ろ姿はムカつくなぁ。私への当て付けか——シロウ?」

 

 

 

 そう言って、ルーナは無理矢理立ち上がった。

 不機嫌を告げるような言葉とは裏腹に、彼女には何処にもイライラしていると言った雰囲気はない。むしろ、彼女は清々しく笑いながら立ち上がっていた。

 

 

 

「埒が明かないですね………マスター! 宝具を解放します!」

 

 

 

 戦場に動きがあった。

 トリスタンとエミヤによって好転した戦況。このまま持久戦に持ち込んで二人が耐えれば勝てるのだろうが、しかしこのまま耐えられるとは思えない。既に負担しているトリスタン卿を考えば、いずれエミヤが一人で捌き切らねばならなくなる。

 なら、聖者の数字が発動している自分が一瞬の隙を突き太陽の聖剣(ガラティーン)を解放し、眼前の集団を焼き払う事が出来れば、勝利への道筋は見えてくるだろうとガウェインは考えた。

 

 

 

「やめろガウェイン暑苦しい。この灼熱の中、太陽をもう一つ顕現させるなどとは呆れる。貴様の剣を森に放てば、そのまま炎が燃え広がって島の全てが焼けるぞ」

 

「ル、ルーナ……!? いや……というか何をふざけているのです!」

 

「いいや、ふざけていないさ。それに卿の太陽の聖剣(ガラティーン)では一撃で倒せない」

 

「な、何を根拠に」

 

「直感。こういう生者を呪うタチの悪い死者みたいな存在は——災厄の数字の回数だけ生き返るような気がして来るだろう?」

 

 

 

 それはつまり、十三回。

 災厄の席に座る彼女だからこそ告げる、呪いの数字。

 

 

 

「故に——」

 

 

 

 剣を振りかぶった。

 腰だめに構え、頭身を後ろに流すその構え。逆袈裟によって剣を切り上げる、必殺の構え。

 

 

 

「——私の聖剣なら一撃で殺せる」

 

 

 

 その言葉を兆し、堕ちたる姿の星の聖剣があらゆる光を呑み込み始める。

 纏わせるは一寸の先も見えない程の暗闇。黒い霧が収束し、泥にも等しい形の魔力となって剣を包み、あまりにも強大な魔力の渦が剣から溢れ、巨大な十字架を握っているが如き魔力の波動を周囲に撒き散らす。

 

 

 

「な……!? 不安定な体でその宝具を解放するつもりか!?」

 

「不安定? 私のステータスを見ろ。今この場で最も強大なのは私だ。ただ力が滾っているだけでしかない。それに悪いなシロウ。生憎だがお前の剣はいらない。魔力を集めさえすれば、この聖剣に(かな)う剣など存在しない。

 しかも、この剣は正にこの場には相応しいだろう? これは、夏の暑さすら冷える呪詛と怨念の塊だ……!」

 

 

 

 

 言葉を告げながら、同時に剣に集まる圧力がさらに増していく。

 その剣は光を束ねる物。その剣は人々の祈りを束ね上げた物。故に、あらゆる光を呑み込む闇を纏いながら、星の聖剣には光が集まる。

 空。海。大地。(あまね)くモノより呼び起こされるは、黒い光の粒子。

 

 

 

「……………」

 

「見ていろと言ったな。

 ——いいや逆だ。お前が私を見ていろ! だから……さぁ退け! 竜の息吹。星の怒り。ここに顕現させる。この場に於ける勝利の鍵は私だ!」

 

 

 

 担い手たる存在が暴走した圧力を放っているのもあってか、星の聖剣は竜が雄叫びを上げるが如く吠え上がっていた。

 もはや、剣も所有者も暴走しているような状態。長くは収めていられないだろう。だから、それを見ていた——藤丸立香は叫んだ。

 

 

 

「令呪装填……ッ! 魔術礼装ごと回路を接続する!」

 

 

 

 令呪による宝具解放ではない。

 そこに藤丸立香の意志はなく、ただ令呪を魔力源とするだけの行為。だがそれで構わない。霊基が軋みながら全力の宝具を放とうとしている英雄の背中を、立香は押すのだ。

 何の心配は要らない。消費される魔力も、宝具を解放した後の反動も、全て此方が肩代わりしてやるという意志を以って。

 

 

 

「…………良く言った藤丸立香ッ!」

 

「あぁ! もう良いからなり振り構わず放て! 全てのバックアップは私が受け持つ! だから——行けぇぇえ! セイバーぁぁああッッ!!」

 

 

 

 それが最後の枷を壊した。

 戦い抗う二人の少女。二人の妨げになるな。二人の杞憂を排除しろ。その背中を押せ。と、その姿を見た騎士達は動く。

 少女達への憂いと罪悪感は余分な感情だ。少なくとも、今ばかりはそんな事は些事でしかない。

 人類最後のマスター。そして円卓の中で最も歳下の少女。その二人の為に何をすれば良いのかは、もう彼らは分かっているのだから。

 

 

 

「宝具、解放——」

 

 

 

 太陽の下、日輪の光すら呑み込む黒が剣を覆う。

 より強く、より黒く、光を呑み込んで束ね上げる。

 しかし、故に彼女は無防備だ。不調も相まって、まともな防御は期待出来まい。だからこそ——彼女に隣合う者は盾が相応しい。

 

 

 

「シールドエフェクト展開します!」

 

「感謝するキリエライト! さぁ皆もドゥン・スタリオンに飛び乗れ!」

 

 

 

 マシュが【時に煙る白亜の壁】のスキルを応用し、雪崩込もうとしている軍勢を一瞬だけ顕現させた白亜の壁で抑える。その隙に、アルトリアは空を駆け抜けながら円卓の騎士達を引き上げた。逃げるは上空。堕ちたる星の聖剣の一撃を放とうとしている少女の邪魔にならないように。

 

 

 

「え……エミヤさん!?」

 

 

 

 その中、エミヤだけがまだ地上に残っていた。

 弓も持たず、剣も持たず、極光を携えたルーナに背中を向けていた。

 

 

 

「——回路、点火(サーキット・イグニッション)

 

 

 

 空の星に向かって手を伸ばすように、エミヤは天高く右手を掲げる。

 最初に告げなければならない詠唱は、慣れ親しんだ変革の言葉ではなく、己を死の一歩手前まで近づける禁忌の詠唱。

 

 

 

「——投影、開始(トレース・オン)……ッッ!」

 

 

 

 浮かぶ回路は幾十の青。そして一筋だけの紫。右手から溢れ出る紫色の残滓を具現化し、彼は投影を開始する。

 技術と経験と年月は全て乱雑。しかし、理念と骨子と材質だけは真に迫るモノを具現化する為、彼は故に叫ぶ——その神造兵器の銘の名。

 

 

 

是・千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)ッッ!!」

是・万海灼き祓う暁の水平(シャルシャガナ)ッッ!!」

 

 

 

 その名は、メソポタミア神話の戦神が扱った、二振りの神造兵器。

 天より落ちたるは百メートルは有ろうかと言う超巨大な剣。もはや剣の形をした大岩と呼んでいいそれが、敵陣の最右翼と最左翼に落ちて、黒い人影達を囲んだ。

 

 

 

「限界の限り、真に迫るモノを作り出した。

 だから——後は任せたセイバー」

 

 

 

 視界の端、最後の役目は終えたと跳躍するエミヤからの声に、ルーナは言葉を返さなかった。

 そんな事をする必要はない。ただニヤリと笑みを以って応え、彼と同じように黒い聖剣の呼び名を叫ぶ事で返せば良いのだから。

 

 

 

「——この一振り、我が魔女へと捧ぐ」

 

 

 

 限界を超え、溢れ出した黒の極光が大地を削る。

 剣は圧倒的な暴威を前にカタカタと震え、下げた刀身を抑えている事すらもが難しい剣の暴威。

 

 

 

gxjq@:f8.dw7oyc@t:@kgdeezz!!

 

 

 

 眼前には、マシュの盾が解除された瞬間に雪崩込む黒い影の群れ。

 何かの感情に支配され、機械的に襲う事しか出来ない呪詛の集合。故にそれらは気付かない。右も左も、超巨大な剣によって塞がれ、星の聖剣によって放たれる剣光から逃れる術はないという事に。

 

 

 

約束された(エクスカリバー)——」

 

 

 

 もはや手加減などは必要ない。抑える必要などもない。だから彼女は告げた。

 生涯の中で、間違いなく己が本来の担い手よりも一歩先へと至ったと確信する、その名前。その宝具。偽物から真物へと辿り着いた、己を象徴する愛しき家族の名前。

 誰にも譲る気はなく、自分だけがこの剣に相応しいと世界にすら刻ませた極光の呼び名。

 

 だから——彼女は高らかに叫ぶ。

 叫んで、その剣を振り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

「————勝利の剣(モルガ)ァァァァァンッッッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 黒い極光が大地を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すっ、ご……………」

 

 

 

 荒い呼吸を繰り返し、無理矢理息を整えて藤丸立香は呟いた。

 礼装のスキルに、令呪によるバックアップ。単純に自身と繋がっているサーヴァント達の宝具解放を引き受けたのも相まって、頭がふらふらして仕方がない。

 彼女の為、魔力消費は全て令呪が請け負ったが、単純に令呪を消費しなかったら自分は駆け抜ける魔力の渦で倒れていただろう。

 

 

 しかし、目の前の光景はそんな事が気にならない程、心に響くモノがあった。

 

 

 怨霊の集合体にも思える黒い人影達は、もはや一体もいない。

 蠢く黒いナニかもなく、復活もなく完全に消え去り、無限にいるのではないかと思っていたのが嘘のようだ。

 

 射線上の森は彼方まで消失し、大地は抉れている。

 しかし、被害は薄い。太陽の聖剣のように炎で延焼しなかったのもあるが、何よりエミヤが投影した二振りの巨大な剣が、星の聖剣の極光を周囲にまで広げなかったのも大きかった。

 その代償としてか、エミヤが投影した神造兵器……に迫った物はボロボロに砕け、崩れ、土砂崩れが起きた山の肌のような惨状を晒している。

 

 

 

「——————…………」

 

 

 

 極光が地形を変え、大気を引き裂いた事によって吹き荒れる風。

 その音に紛れて、ガタンと音がした。それは剣が無造作に地面に落ちた音。力無く手放された剣が、所有者から溢れ落ちた音。

 

 

 

「ぁ———」

 

 

 

 一番最初に気付いたのはマシュだった。

 ノイズが走る。しかし今回ばかりは、それは誰かの記憶ではない。ただその光景を受け入れたくばかりに走った、視線の逃避

 

 

 あぁ、その光景がどれだけ幻影であればと願っただろう。

 

 

 誰かは確かに回避させて見せた筈のその光景。

 それが今現実のモノとなって具現化した。

 戦って、戦って、戦い抜いて、最後のその瞬間に力を込められなくなって、膝から倒れ落ちる少女の姿。

 いずれきっと、最期の瞬間ガラスが砕けるように倒れて、そのまま亡くなってしまうのだろうと確信したからこそ、誰かは守り続けた少女の後ろ姿。

 

 跳ねるように駆け寄るマシュが少女の元に辿り着くよりも早く、少女は膝を突いた。

 先程まではあんなに荒々しく乱れた呼吸をしていたのに、今は弱々しく胸が上下しているだけの少女。僅かに口から漏れる呼吸の音が、自ら発する声と同義になっている少女。

 

 

 膝を突いて、次に少女は前へと倒れた。

 

 

 先程まで身につけていた鎧は、維持する事も出来なくなったのか光の粒子となって霧散し、普段着となった少女が浜辺の砂浜に倒れ込む。

 

 

 

「——先輩ッ!!」

 

 

 

 倒れて動かなくなった少女の姿が、少女以外の全員は無傷で勝利したという戦果の代償だった。

 

 

 

 




 
【現在公開出来る情報】

 アルトリアはカルデアにてランサーとして現界。
 ただし身長・体重は154cm 42kg 性格にも変化なし。

 エミヤは常に魔力殺し(マルティーン)の聖骸布を"右腕"に巻いている。通称、腕士郎のアレ。
 英霊化による格の上昇、また右腕に封じているモノに拮抗出来る程の魔術師に成長している為、平時なら安全。ただし乱用すると魔術回路が暴走した後消失する。


[詠唱&武装解説]

 回路、点火(サーキット・イグニッション)

 詳細

 Fate/EXTRA CCCより、無銘の戦闘ボイスより。
 ルビ振りはされていないが、直訳で回路点火なのでそのまま採用。



 千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)
 万海灼き祓う暁の水平(シャルシャガナ)

 詳細

 Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤより。
 神造兵器なので厳密な投影は出来ていないが、真に迫るモノを投影した。美遊兄とは違い、ただのハリボテではない。英霊エミヤの場合なんと再現率70%程。普通にやばい。
 


 Q えぇ……!? ここから水着着るんですか……!?

 A 着ます!!

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