騎士王の影武者 (外伝・仮)   作:sabu

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 もしかしてルーナってかわいいのでは?
 


第9節 観念しろ。奉仕の時間だ

 

 

 

 

「それでは、今日の探索は?」

 

「今日の探索も、一応は変わらず行います」

 

 

 

 次の日、立香と円卓の騎士達はコテージで作戦会議をしていた。

 モルガンはこの特異点で重要な事はもうやらなくてはいけない事はない。恐らく夜に襲って来るだろう黒い人影を撃退するのを繰り返せば良い。それを数日繰り返すだけで終わる。と告げていたが、そう簡単に終わるのかという不安がある。

 

 既にもう敵はボロボロ。

 昼と夜のルールは砕け、夜にて一方的に増え続けた闇も、そのほとんどをルーナが消失させたから大した事はないと告げてはいるのだが………一応だ。

 

 

 

「マスター。実は先日の内に、島を駆け抜け先住民族の住人達に話を伺う事が出来ました。付与された単独行動もありましたから」

 

 

 

 会話の中、トリスタン卿が告げる。

 

 

 

「おぉ、それで何と言っていましたか?」

 

「端的にいえば進展はありません。

 とある以前より、いきなり昼の温度が上昇した事。夜は謎の黒い影を浜辺に見かけて、夜は海に近寄らないようにした事。

 思っていた通りですが、些か……彼らは何かを無差別に襲わないという収穫はありましたね」

 

「成る程………」

 

 

 

 後は、かなり早期の段階からこの固有結界はガタが来ていたという事か。

 もしや、固有結界に定められたルールは副次的なものなのかもしれない。そうすれば固有結界なのに、普通の世界法則とあまり変わらない事にも理由がつく。

 

 

 

「じゃあ、うん………」

 

「そうですね………」

 

「今日からどうしましょう」

 

 

 

 本当にモルガンさんが言う通りだった。

 もうアレは夜にしか出て来れないという。だから夜まで待って、アレを撃退すれば良い。じゃあ昼はどうするかと言われれば、何か此方から起こせるアクションはない。

 もしかしたらあるのかもしれないが、あったとしても意味はないからモルガンさんは言わないのだろう。

 

 

 

「………………」

 

「………………」

 

「…………資源調達から始めよっか」

 

 

 

 それが取り敢えずの方針となった。

 それに、今日は召喚サークルからカルデアの皆を召喚するのだ。全員に魔力を行き渡らせるのは不可能だが、それでも彼らは普通に強い。

 つまり……あの黒い軍勢に数の多さを利用した力押しが出来る。一石二鳥だ。

 

 

 

「ここも大きくしないといけませんね。後は数もでしょうか」

 

「そうだね。じゃあ拠点側は……………ルーナさんに任せても良い?」

 

「…………………」

 

 

 

 視線の先、テーブルの端で座っているのは、凄い微妙そうな表情のルーナだった。

 羞恥心の中に、絶対に見返してやるという感情と、何でだよおかしいだろ、という不服感を混ぜ込んだ表情で不貞腐れている。

 

 事の発端は……端的に言えば悩み抜いて選んだ水着なのに周りの反応が悪かったのだ。

 いや、決して似合っていない訳ではない。

 単純に見惚れて、一瞬言葉が出なかっただけなのだ。

 

 それと後は、水着というより海の家を営むお姉さんだったと言うのも影響してしまった。それで浜辺で泳ぐんですか……? と聞いてしまったのは絶対に間違いだった。

 だからか、ようやく水着のお披露目だというのに思っていた程祝福されなかった為か、それはもう彼女は拗ねている。

 昨日の騒動の末、再びようやく自らの羞恥心に打ち勝ち、さぁどうだ……! とやけになったというのにも合わせてだ。彼女は今かなり不機嫌である。

 かわいい。似合っていると誰かが告げても、もう彼女はちゃんと反応を返さなくなる程。

 

 

 

「分かった…………良いだろう。元より私は今、力仕事がつらい。

 霊基がまだ完全に戻った訳じゃないからな。戦闘でもあまり役に立たないだろう」

 

「うん。じゃあお願いします。

 良し。なら皆さん行きましょう!」

 

 

 

 そう立香は告げて、ルーナ以外の全員を急かしてコテージを出る事にした。

 きっと、彼女は少し一人にした方が良い。ただでさえ彼女は今日不機嫌なのだ。折角水着を着てくれたというのに、これ以上刺激しては水着を脱ぐと言い出すかもしれない。

 

 それを他の人も悟ったのか、彼らは同じく同調して素早くコテージを出ていった。

 

 

 

「はぁ………もう何なんだ……くそ。

 揃いも揃って私が不機嫌だと理解したら皆いきなりかわいい似合っていると連呼とか………そんな事はもう分かってるんだ私は…………」

 

 

 

 全員が出て行ったのを確認して、ルーナは一人溜息を吐く。

 そのまま、自分の自室に戻って鏡を確認した。

 

 

 

「水着。どう見ても水着だ。

 なのに……くっそ…………私だって頑張ったんだからな………頑張って選んだんだからな………」

 

 

 

 もう良い。味方はいない。後で召喚されるだろうアグラヴェイン卿とかガレスちゃんとかに褒め称えて貰えば良い。

 モルガンもモルガンだ。私の意見を尊重するスタンスだったのに、私の水着を見て一瞬、ニヤニヤしていたの見逃してないからな。

 こっちの方が良いんじゃないと、押し始めたの忘れてないからな。

 

 

 

「はぁ…………もうダメだ。鬱だ。兎に角動こう。頭をスッキリさせよう」

 

 

 

 もう、こう思考がダメな方向になると嫌に加速してしまう。

 私が頑張って選んだ折角の水着なのに皆の反応が微妙だから、さっぱり良い雰囲気にならない。楽しい事を考えられるなら良いが、今の私はちょっと厳しい。

 

 

 

「暑い…………」

 

 

 

 取り敢えず改築でも始めようとかと外に出て、太陽の光が凄く眩しく感じる。

 あぁ…………ちょっとだけ海に入ろうか。昨日はあれだったが、今日は良いだろう。だって水着だから。これは水着だから。

 

 

 

「ルーナ?」

 

「あぁ……何だモルガン」

 

 

 

 陽射しが熱いなぁと項垂れていると、背後からモルガンに話しかけられた。

 昨日の騒動もあってか普通に顔を合わせ辛い。

 

 

 

「あぁその………昨日の約束を守らなかったのは悪かった。

 けど、これで良いよな。私の水着はこれで良いよな………? 良いって言ってくれ………」

 

「待って…………貴方、太陽の下にいると……何か苦しい?」

 

「え……? まぁ…………少し」

 

 

 

 再び太陽を見上げて見てみるが、昨日と同じく太陽の下にいると何だか息苦しい。後かなり熱い。夜や木陰とかで直射日光を遮るとかなり楽にはなる。

 

 

 

「それがどうしたんだ?」

 

「…………………」

 

「な、何……?」

 

 

 

 振り向くと、モルガンは険しい表情をしていた。

 私の何かを見定めるような、私に胸の中を何かを確かめるような、そんな表情だった。

 

 

 

「太陽の………」

 

 

 

 そう呟いた後、彼女は何かを堪え、決心するように表情を俯かせた。

 何なんだ。一体どうしたんだと私が困惑していると——いきなりモルガンに引き寄せられて抱き締められた。

 

 

 

「——は………は……!? え、な……な、何!?」

 

「………………」

 

 

 

 太陽の陽射しを遮るように。太陽の直射から逃れるように、コテージの中に引き寄せてギュッと抱き締められる。

 いきなりの事で動揺して言葉を返しても、彼女は黙ったまま強く抱き締め返すだけだった。

 

 

 

「………ほ、ほんとに何………」

 

「ごめんなさい……」

 

「な、何が………」

 

「いいえ、良いの。貴方は知らなくて」

 

 

 

 すると、彼女は私の事を抱き締めながら頭を撫でた。

 そうして頭を撫でるたびに、何かが軽くなっていく。

 

 

 

「あの………モルガン? その……どうしたの……?」

 

「何でもない。でもこれで安心なさい。貴方はこれで太陽の下にいても苦しくはない。私が守っているのですから」

 

 

 

 私から手を離した後、彼女は儚げな笑みで告げた。

 何を意味しているか分からない私には、ただモルガンの様子に困惑するしかない。

 

 

 

「ごめんなさい。私はもう行きますので」

 

「………………」

 

「ここは任せたから、貴方はゆっくり休んでいて」

 

 

 

 そう言って彼女は穏やかに微笑んで、その場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルーナに謝るべきでしょうか…………」

 

 

 

 浜辺を歩く水着姿のアルトリアがふと呟いた。

 当初は円卓の騎士達を中心に資材集めや島の探索等を行っていたが、召喚サークルが繋がった今は、カルデアのサーヴァントが円卓の騎士の代役となって島を探索している。

 とどのつまり、円卓の騎士達は今、暇を持て余していた。

 

 

 

「あぁ……最初の一言が頑張りましたね、は少しどうかと思ったぞ」

 

「ち、違うんです! その、彼女が水着を着るまで色々葛藤があったでしょうから、それを踏まえて………」

 

「……………」

 

「いや、その………はい」

 

 

 

 隣のエミヤに問いかけて、結局それもそうだと唸る。

 それにその後の反応も良くなかった。夜の騒動及び混乱の後、朝日を迎えたとともに現れた水着姿のルーナ。かなり下唇を噛み締めながら現れたルーナ。

 それで海に入るんですか……? と問いかけてしまったのはあまりの間違いだったと言えただろう。もう彼女は拗ねている。

 ストレスを解消するように、バッグに詰め込んだアイスをムスッとした表情で、無言のままずっと食べ続ける姿は中々来るものがあった。

 

 

 

「うぅぅぅ………折角ルーナと一緒のバカンスなのに………こんないきなり躓いてしまうなんて…………」

 

「……………」

 

 

 

 カルデアとの通信が繋がり、何なら特異点突入メンバー以外にも召喚され始めた現状からか、アルトリアの精神が緩んでいる事を、エミヤを突っ込まない事にした。

 

 

 

「良し……このまま悩んでいてはいけません。ルーナの元に突撃します。うじうじしてはダメです。体を動かしていれば嫌な気分は払拭出来ます」

 

「…………私もか?」

 

「当たり前でしょう!」

 

 

 

 はぁ……と溜息をついて、エミヤはアルトリアについていく。

 これは面倒になりそうだと考えながら、コテージに到着するまでの時間に何か上手い言葉を思い着けるよう頑張りながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正直言うと、あの後の記憶はあんまりない。

 モルガンに急に抱き締められた事と、儚げな微笑みを向けられた事で、ずっと心此処に在らずでコテージを改築したり、料理を作っていた気がする。

 あぁなんか、サークルから召喚されたカルデアメンバーに話しかけられたり、何か料理を注文された記憶があったり無かったりする。

 後ケイ卿とアグラヴェイン卿に水着の事を褒められた気がする。

 

 

 

「…………………」

 

 

 

 そして今、このコテージには私しか居ない。タイミングの問題だろう。

 私はただぼーっとしてるだけ。あぁ……次何をしようかな——

 

 

 

「——おやおや、どうやらお悩みのようだね?」

 

「…………マーリン」

 

「ホントにどうしたんだい? キミらしくもない。ボクはもっとはしゃいだり、ドヤ顔をしているんだと思っていたよ?」

 

 

 

 いつの間にか、隣にはマーリンが居た。

 召喚サークルが動いた気配はない。どうやって来た………あぁそうだ。目の前のマーリンはモルガン並みの魔術師である。というか何なら、マーリンはレイシフトなんてせず、妖精郷を利用すればそのまま徒歩で来れる。

 しかも必要であれば"顕現"出来る。……もしかしてマーリンってモルガンよりもヤバいんじゃないか?

 

 

 

「私らしくないか…………」

 

「何を悩んでいるだい? 良ければ私が話し相手になろう。キミは一人で溜め込むからね。私に何か打ち撒けるなりしたら気分が楽になるかもしれないよ?」

 

「…………………」

 

 

 

 私の向かい側の席に座り、肘を机に立てながら彼は私の顔を覗き込むように告げる。

 なんだ………メチャクチャ優しいなマーリン………もう今の私には優しいマーリンの姿が唯一の味方に見えて来た。マーリンの胸元に抱き着きそうだ。

 マーリンになら………まぁ話しても良いかな。円卓の騎士達やモルガンと違って話し易いから。

 

 

 

「まぁ……私らしくないのは自覚している。私が水着を着るなどおかしいだろう」

 

「いやいやそうじゃない。キミの自己嫌悪の話ではない。

 最初に言ったけど、ボクはキミがもっとはしゃぐものだと思っていた。

 だってほら、カルデアで厨房にいるのを楽しむキミとか、オルタのジャンヌに誘われてシミュレーションルームで近代ゲームを遊んだりとか、刑部姫と一緒に楽しく本を読んだりとか、生前では考えられない事を楽しんでいるじゃないか」

 

「………………」

 

 

 

 一理あるなと頷く。

 個人的にオルタのジャンヌとは結構仲が良い自信がある。最初は同族嫌悪故に極めて血みどろとした関係だったが、それは昔の話だ。

 多分今は、普通のジャンヌよりも私達は仲が良い。頑張れば姉という立場になれるかもしれない。表面化させたら間違いなく地獄になるので言わないが。

 

 

 

「だからボクとしてはね、最初は渋るけど最終的にはそれもそれでありだ。

 とキミは受け入れて、短い時間を効率良く使う為に張り切るタイプだと思っていた」

 

「うん…………」

 

「でもどうやらボクの予想は外れてしまったようだ。

 しかし、これは単純にボクが見誤ったという感じはしない。だからキミらしくない。何があったんだい? その水着が気に入られなかったかい?」

 

「…………うん」

 

「成る程そうか。では私に水着は似合わないんだ、と考えてしまったのかい?

 何をまさか。キミの水着は似合っている。可愛らしい一輪の花のようだ。泥に塗れた花が美しいなんて言う人もいるけど、ボクはそうは思わないからね」

 

「……………」

 

「纏っていた泥が洗い流された先には、果ての理想卿ですら拝めない、力強く気高く、しかし柔らかな一輪の花があった。ここまで清純らしい花をボクは見た事がない。この目を以ってしてもだ」

 

 

 

 あぁ………本当になんだよマーリン。メチャクチャ良い奴じゃないか。

 もうたったこれだけで泣きそうだ。何ならときめきそうだ。

 成る程これは惚れる。きっとこうやって彼はブリテンの女性達を口説き落としていたのだろう。そりゃあこうやって、穏やかな表情でこんな事言われたら落ちる。生前から悪名高いのにモテ続ける訳だ。

 

 

 

「そうか………うん、そうだよな…………私の水着は似合っているよな」

 

「勿論だとも! というかキミは特級の美少女という自覚がないのかい?」

 

「いいや、そんな事は知っている。私はかわいい。この体なんだぞ」

 

「——ん?」

 

 

 

 先程までの穏やかな雰囲気に入るヒビ。

 一瞬の硬直の後、マーリンは私に言葉を返す。

 

 

 

「あー………待ってくれ……? キミは自分がかわいいという自覚はあるのかい?」

 

「うん」

 

「あぁーこれは………そういう事か。キミって面倒臭いなぁ………」

 

「……………………」

 

「いや待って睨まないで。だからそういうお前も皆と同じなのかみたいな視線はやめて」

 

「…………なんだよ」

 

「いや、何でもないよ。キミもキミで相変わらずだなと思っただけさ。

 キミの思考回路……というか判断基準が超越者じみてるから。だからキミ、ギルガメッシュにちょっかいかけられるんだよ? 生前からそうだけど、キミは千里眼を持ってないのに自分と他人、あらゆるモノを客観的、俯瞰的に見てる。

 だというのに、時折君の主観が混じる。三つの側面が複雑に絡み合っているんだ」

 

「…………説教はもういい。気分じゃない。というか飽きた」

 

「あぁうんそうだね。ボクの癖だ。

 では本題に入るが、キミはアルトリアと同じ姿だからかわいいと判断しているんだろう? つまり、君は自分がかわいいと思う一個前に、何かを挟んでる。だから自分で納得出来ないととことん自信がなくなる。違うかい?」

 

「まぁ………多分そうだ。だから、何というか………ちょっと水着の気分になれない」

 

 

 

 マーリンの言う通りだ。

 私はかわいい。私は水着が似合う。何なら胸元が開いた、ちょっと妖艶な水着も似合う。絶対に似合うに決まっている。だって私はアルトリア・オルタだから。

 もうメイド姿をしていて、何ならそこにパーカーとエプロンという姿でもドヤ顔を決めていけるくらいには似合う。

 

 でも、私としては恥ずかしい。

 だから別の水着を選んだ。それで反応が微妙だったから、もう私を支える自尊心は粉々だ。マーリンに口説き文句を言われてちょっとは立て直したが。

 

 

 

「フフフ、ならキミに魔法の言葉をかけて上げよう。

 水着を着てもさっぱり恥ずかしくなくなるおまじないだ」

 

 

 

 ふふん、と彼は楽しげに語った。

 何だよお前………いつもそういう風に優しげな雰囲気で話していれば、ムードメーカーで頼れる、お花のお兄さんという立場を確立出来るというのに。

 それとも何だ? 私にはこういう風に接するのか?

 

 

 

「…………なんなんだよ」

 

「昔はいつもやっていたじゃないか——キミはアルトリアを演じれば良い」

 

「………は」

 

「だってそうだろ? そうしたら、キミは戸惑いもなく人の上に立てたじゃないか。周りの視線に萎縮する事もなく、周囲の意見に振り回される事もなく。

 そうすればキミは自信がつく。楽しげなキミを見て、皆も雰囲気が良くなる。そこからキミ自身の雰囲気が良くなる。だから納得出来る。一石二鳥。良い循環だ」

 

「——————」

 

 

 

 どうだい? と締めたマーリンの言葉に、これ程感動した事はない。

 あぁやはりマーリンは賢者であり人類の導き手だ。今ならマーリンを抱き締めて好きだ!と叫べる。何ならなんでも言う事を聞いて上げても良いとすら思える。過激な事だけは聞かないが。

 

 

 

「アルトリアを演じる———」

 

「自信がついた?」

 

「アルトリアを演じていた………昔の自分を演じる——」

 

「おぉ成る程。そちらの方が良いかもしれないね。もしかしたらその方が楽かもしれない」

 

 

 

 ガバッと立ち上がって、すぐに行動を開始しようとする。

 彼女を演じる……いつもやっていた事だ。そう、私は今からアルトリアになれば良い。その姿を頭に浮かべる。その在り方を想像し、映し出し、自分に重ね合わせる。

 

 

 だが、そのままやっては行けない。

 

 

 私はやはり、私という人格を持った個人だ。

 だから借りるだけ。彼女のような立ち振る舞いを真似て、自分に自信をつけるという事。故に、私は昔の自分を演じれば良い。そしてそれらを合わせる。

 とどのつまり——

 

 

 

「従者」

 

「うん」

 

「——故にメイドか」

 

「……………うん?」

 

 

 

 メイド………———いける。

 というか何なら、私は彼女より完璧にメイドになれる。

 メイドとは完璧なモノ。一点のミスもない。つまりメイドとなった私は完璧だ。だれが何と言おうと完璧だ。

 

 掃除、洗濯も出来る。力仕事も頑張れば出来る。生活管理も出来る。体調管理も出来る。そして——私は料理が出来る。即ち栄養管理も出来る。

 いやこれは本当に完璧なのでは? それに自分で言うのも何だが、私は結構話が分かるタイプだと思う。しかも私は元より王ではなく一介の騎士。しかも従者。仕える者として心構えは出来てる。

 あぁもうやばい。イメージの姿よりも更に一歩先に行ける気がしてならない。私がメイドになればすっごい事出来る。

 

 

 

「ありがとうマーリン。もう大丈夫だ。私はいける。完璧に」

 

「待って………メイドって何? いや名前は知っているけど…………何でメイド………?」

 

「マーリン。お前にも協力して貰うぞ。

 それに——メイドとしての正装に着替えなくてはな」

 

 

 

 何だかすっごい気分が良くなって来て、もう今ならメイド姿の自分が全然恥ずかしくない……何ならメイド姿の自分を見てみたいとすら思えて来た。

 あ………ちょっとやばいかもと呟いていたマーリンの言葉は聞こえていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む、ケイ卿。それにアグラヴェイン卿」

 

「ん。何か大変だったみたいだな。あまり詳しくは聞けていないが」

 

「…………お似合いでございます、王」

 

「ふふ、ありがとう」

 

 

 

 浜辺を歩き、コテージに向かっていたアルトリアはその二人と出会った。

 交わされる言葉に気難しい二人も意外と大丈夫だったとアルトリアは安堵する。特にアグラヴェイン卿に関しては。

 

 

 

「すみません、一つ良いですか?

 その………ルーナの様子はどうでしたか?」

 

「あ……? いいや召喚された時は普通だった。短い言葉だけだったが、相変わらずアイツは厨房で料理をしていたぞ。集中してたのかあまり喋んなかったが」

 

「…………む?」

 

 

 

 なら、案外大丈夫なのだろうか………いや心、此処に在らずという感じなのか。

 水着に関しても二人は特に何言わない辺り、二人は彼女の水着はアレで良いと思っているのだろう。二人とも、あまり過激なのは着て欲しくはないのだ。それに、コテージの中でいるなら、あの姿はとても相応しい。

 しかしアルトリアが望んでいるのは、浜辺でバカンスなのだ。

 

 

 

「何だ。何をやらかした」

 

「いえその…………ちょっと彼女を拗ねさせて………」

 

「はぁ………成る程。じゃあ行くぞ」

 

「………はい」

 

 

 

 短い言葉で、ケイは全てを察する。

 アグラヴェインも、そのまま無言でついていった。

 

 

 

「あ、王! 私達も到着しました。水着姿素敵です!」

 

「ふふふ、そうだろう会心の姿だ。ありがとうガレス」

 

 

 

 少し進むと、ガレスとモードレッドの姿があった。

 ガレスとアルトリアの交わす言葉を尻目に、モードレッドは辺りを見回した後、エミヤに話しかける。

 

 

 

「ん? なぁルーナはこっちには居ないのか?」

 

「いや此方には居ない。召喚時コテージでは出会わなかったのか?」

 

「あぁいや………何というかな、オレ達が召喚されたコテージにはいなかった」

 

「何……それはつまりどういう事だ?」

 

「あぁ……見た方が早い」

 

 

 

 合点がいかなかったエミヤに、モードレッドはそう告げる。

 そのまま彼らは歩き出した。

 

 

 

「ねぇ………それ楽しい訳?」

 

「ちょっと待って…………今ちょっと降りて来てる。ヤバイの。あのルーナさん、ヤバイの」

 

「ふーん…………まぁそうね。あれはヤバイわね。多重人格かっての。あぁ……多重人格だったわね。アイツは否定するけど」

 

 

 

 さらに進むと、浜辺で一心不乱に何かを描きこんでいる刑部姫と、その隣に座って刑部姫のイラストを覗き込んでいるジャンヌ・オルタが居た。

 

 

 

「あぁ、アイツのところに行くの?

 なら気を付けた方が良いわよ。今のアイツ、夏の魔力に当てられてるから」

 

 

 

 その忠告を受けて、彼らは何かよく分からない不気味な予感を感じて浜辺を進む。

 

 

 

「…………何してるんですか姉上」

 

「…………別に。お前には一切の関係は無いでしょう。今少し、ルーナと顔を合わせ辛いだけです」

 

「自己嫌悪ですか?」

 

「……………………」

 

「……………………」

 

「…………一緒に行きますか…………?」

 

「…………えぇ」

 

 

 

 浜辺で、寂しそうに思い詰めているモルガンが居た。

 今ばかりはしょうがないと、彼女達は進む。

 

 

 

「何だ……これは」

 

 

 

 コテージにまで着いて、エミヤが言葉を溢した。

 浜辺の先、森を一部刈り取って作られている数棟のコテージ達。明らかに数がおかしい。今朝から数倍の数になっていた。何なら大きさも増幅していた。

 

 

 

「あぁうん………ちょっとだね? 今はやめた方が良いと思うなぁ私は」

 

 

 

 その声の在りどころに、彼らは視線を向ける。

 飛び切り大きなコテージの前。多分位置的に最初に作ったコテージの場所。その扉の前で、マーリンが慌てていた。

 

 何やら、色んな人物から詰め寄られている。

 そこには、ガウェイン。トリスタン。ランスロット、ベディヴィエールといった騎士達もいた。藤丸立香やマシュもいた。

 

 

「あの……ルーナ先輩に何が?」

 

「マーリン。そこを退いてください」

 

「そうよ、退きなさい」

 

 

 

 マシュが不安そうに尋ね、立香が真面目に何があったのかを解決する為に告げ、先程召喚されたばかりなのにマーリンからいきなりコテージから追い出されたメディアが、不機嫌に告げる。

 

 

 

「すみませんマーリン。押し通ります」

 

「あ、ちょっと待ってアルトリア——!」

 

 

 

 流石の事態に、アルトリアがマーリンを押し退けて無理矢理コテージの中に押し入る。

 そうして、扉を開けた。

 故に彼らは見た。その光景が真っ先に飛び込んで来た。

 

 

 

「——フフフ………これは皆が驚くぞ」

 

 

 

 モップを持って気分良さげにコテージを掃除している——メイド姿のルーナが。

 

 

 

「————————」

 

 

 

 まさかマーリンに嫌々着せられたのか——?

 と一瞬逸れた思考と憤怒も、明らかに楽しげな彼女の様子で覆る。どこをどう見てもメイド。しかも、水着姿のメイド。

 かなり……ルーナがまず恥ずかしがって着ないだろう衣服だった。

 腰に巻いているエプロンは短めで、はためく絶対領域は艶かしく、太腿の腰周りは水着の紐しか見えてない。エプロンに隠れた水着が、着ているのか着ていないのかを想像させる。

 つまり………かなり攻めた姿である。

 

 そして胸を隠す水着は清楚だが、あまりにも攻めた足元の衣装のせいで背徳感が凄まじい。頭に着けたカチューシャと、足に履いた黒のストッキングがそれを助長している。

 即ち、かなり背徳感溢れるメイド姿だった。

 

 

 

「む…………ようやく戻ったかマスター。待ちくたびれて張り切り過ぎてしまった」

 

「——え、ル………ルーナさん?」

 

「あぁそうだ。今の私はメイド。水着のメイド。海のお姉さん改めて海のお手伝いさんだ。どうだ似合うだろう?」

 

「——————」

 

 

 

 マスター藤丸立香と、他全員の硬直をよそに、ルーナは続ける。

 

 

 

「知らないか?

 元より私は従者。つまり私はメイドの才能が…………———いや、これでは良くないな。よし変えよう。今の私は仕える者としてあちらの方が良い」

 

「え——」

 

「———知りませんでしたか?

 元より私は従者。つまり私にはメイドの才能があるのですよ」

 

 

 

 ドサっ! とケイ卿が崩れ落ちる音がした。

 カタカタと、アルトリアが震え始めた。

 マシュが、は、はわわわ……と呼吸を荒くし始めた。

 

 

 

「ようやく私の真の水着姿が御披露目となりましたね。えぇ、ですから、今の私はこれが相応しい。正に完璧。故に今の私は無敵。一点のミスもありません。

 それにご心配なく。マーリンの助けを得て、私は新たな霊基を獲得しました。つまり今の私のクラスはメイド。霊基変革を受け、私は再び戦えるようになったのです」

 

 

 

 そう言って、彼女は虚空から武器を取り出した。

 右手には——エクスカリバーとセクエンスに似た霊基反応を放つ"ガンブレード"。

 そして左手には——カルンウェナンと思わしき霊基反応を放つ"キャレコM950"。

 

 まさかの二丁拳銃。

 しかも片方はガンブレードという異質な装備スタイル。

 左手のキャレコM950は、愛想が悪くてアサシンで別人のエミヤが愛用している短機関銃そのままだ。色が僅かに水鉄砲っぽい色をしているだけで。

 

 

 

「ですがまぁ、マーリンの補佐ありでも本来なら持ち込めない宝具すら今の私は所持している為、通常よりもかなりステータスが低下してしまいました。元より霊基が損傷していたのも影響しているでしょう。

 しかしご安心を。今の私は近接戦闘になる前——主の領域に踏み入れるその瞬間には射殺出来ます。故に接近戦など不要。私が外敵を撃ち抜きますので」

 

 

 

 澄ました笑みで、彼女は再び告げる。

 何がそんなに楽しいのか。今朝の恥ずかしがっていた姿からはあまりにも遠い、ノリノリの姿で。

 

 

 

「では改めて。私はルーナ。メイドとして貴方に仕える者。

 私がいる以上、理想の生活を覚悟して貰います。二度寝も運動不足も許しません。掃除洗濯は徹底的に——料理すらも完璧にこなして見せましょう。えぇ、私は完璧ですので。勿論、ご褒美の為のアイスの補充も万端です」

 

「——————」

 

「ですので、よろしくお願いしますね——ご主人様」

 

 

 

 気分が良さそうに、まるでそれが至上の定めであるかのように。

 今朝の雰囲気などなく、不機嫌でも拗ねた様子でもなく、自信満々で、彼女はそう告げた。

 円卓の騎士達の引き攣った表情をガン無視して。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 


 

 

 

【CLASS】アサシン

 

 メイドだと言い張っているが、今の彼女はアサシンである。

 

 

【保有スキル】戦闘中、任意で使用可能なスキル。

 

 

 ビーチフラワー C+++ LV.10 チャージタイム5

 

 味方全体の攻撃力をアップ[30%](3ターン)&味方全体のスター発生率をアップ[50%](3ターン)&自身にターゲット集中を付与(3ターン)&自身のスター集中度をアップ[500%](3ターン)+《自身を除く円卓関係者》の防御力をダウン【30%】(3ターン)【デメリット】

 

 

 サマー・スイーパー! EX LV.10 チャージタイム6

 

 自身の攻撃力をアップ[30%](3ターン)&味方全体のQuickカード性能をアップ [20%](3ターン)&スターを獲得[15個]&《自身を除く円卓関係者》のクリティカル威力をダウン【50%】(3ターン)【デメリット】

 

 

 サマー・テンション! EX LV.10 チャージタイム5

 

 味方全体のQuickカード性能をアップ[20%](3ターン)& 味方全体のArtsカード性能をアップ[20%](3ターン)& 味方全体のBusterカード性能をアップ[20%](3ターン)&自身を除く味方全体にターゲット集中を付与(1ターン)& 《自身を除く円卓関係者》の攻撃力をダウン【30%】(3ターン)【デメリット】

 

 

 

【クラススキル】戦闘中、自動で効果が発動するスキル。

 

 

 対魔力 B

 自身の弱体耐性をアップ(17.5%)

 

 陣地作成 C+

 自身のArts性能アップ(7%)

 

 単独行動 EX

 自身のクリティカル威力をアップ(15%)

 

 気配遮断(影)A

 自身のクリティカル威力をアップ(10%)&自身のスター発生率をダウン(10%)【デメリット】

 

 リローデッド ——

 自身のQuickカード性能をアップ(10%)

 

 

【パラメーター】

 

 筋力⬛️⬛️⬛️⬛️⬜️B  魔力⬛️⬛️⬛️⬛️⬜️B

 耐久⬛️⬛️⬜️⬜️⬜️D  幸運⬛️⬛️⬛️⬜️⬜️C

 俊敏⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️A  宝具⬛️⬛️⬛️⬛️⬜️B

 

 

【プロフィール1】絆レベル1で解放

 

【出典】アーサー王伝説等

【地域】イギリス (ブリテン)

【身長・体重】154 cm 42 kg

【属性】混沌・善 【性別】女性

 

 

 メイドさんとなった彼女は、メイドとして身の回りを監督するが故に、自分自身が善であるようにする事を心がけるようになった。

 厳しい事に代わりはないが、その厳しさは自分や身の回りの大切な人の生活を良くしたいが故………と彼女は表している。

 しかし、結局彼女はだだ甘だった。つまり自他共に平常時と比べてかなり性格が甘い。

 それは、余裕があればご褒美として甘いアイスを食べさせて来て、そして自分も一緒になってアイスを頬張るという事が証明しているだろう。

 

 しかし油断してはならない。

 今の彼女は——混沌である。

 

 

 




 
 花水樹様より水着ルーナ(第二再臨)をいただきました。
 
【挿絵表示】

 やばいね………本当にやばいね……
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