彼女を作りたい 作:入力速度を考慮して
「すまない葛城、どうやら耳の調子が良くなかったようだ。もう一度言ってくれるか?」
「俺たちAクラスは龍園率いるCクラスと手を組んだ。契約書もあるから安心してくれ」
さっき飲んだ川の水が汚染されていたか。どうやら幻覚、幻聴作用があるらしい。みんなに知らせなくては。
「これがその契約書になる」
一縷の望みをかけて読み込んでみるが……お前、これクーリングオフした方がいいよ。
200ポイント分やるから毎月200ポイント分払ってね?
愚かにも程があるぞ、葛城。
なぜこれから変動し得るものと確定しきったものが同じ価値だと判断した。
この試験は、どんなにポイントを残していても0になり得る事を理解していないのか?
信頼出来る情報は、最終点呼直前のものだけだ。それを用意出来ると思っているのか?
この契約のせいでCクラスが最も有利な状況になってしまった。
これは、Cクラスの200ポイントを試験外に安全に輸送した事に他ならない。しかも、学校側が減点出来ない不可侵のものにしている。クラスポイントに直接依存しないことが唯一の救いではあるが……。
Aクラスが勝つには少なくとも400ポイントを超えなくてはならない。
つまり、リーダー当ては必ず成功させる必要がある。ハイリスク極まりない。
「葛城、後悔しても知らないからな」
「不安に思うことは理解している。だが俺もこの試験には並々ならぬ想いで参加しているのだ」
ならこんな詐欺に引っかかるなよ。
葛城も坂柳を失脚させる為に必死なのはわかる。わかるが、これは違うだろ。
とりあえず戸塚だ。自分の派閥から選ぶのはいいが、あいつをリーダーにしたのも間違いだ。不用心すぎる。
「戸塚、お前は具合が悪い。そうだな?」
「え、いや、元気です」
「お前は具合が悪くなる。俺にはわかる。だから最終日にリタイアしろ」
「ちょっと何言ってるのかわからないんですが……」
いざとなったら殴ってでも棄権させてやる。これは決定事項だ。
「橋本たちは納得したのか?」
「まあね、渋々ながら」
「それは坂柳の指示か?」
「さあ、どっちでしょうか?」
なんでこの状況で紛らわしい返答をするんだ。足の引っ張り合いに巻き込まれた俺の身にもなってくれ。
とりあえず裏切りはするなよ。それだけでいい。
あー、綾小路がこの試験に勝つ気があるかを聞いてなかったな。
今更聞いても不自然だし、最終日にリーダーを変えるのか否かでお互い読み合いが発生しそうだ。しかもCクラスからスパイが入り込むことで余計にめんどくさい。
AとCに当てられてしまうため、普通ならばDクラスはリーダーを変えるしかない。誰だって-100は御免こうむる。
しかし、こっちがそれを読んでリーダーを当てにいかない。それをDクラスが読んでリーダーを変えない場合、マイナスポイントが発生しない状況が生まれる。これは絶対にしてはいけない。
いや、龍園は自分を信じているはずだ。今回の事もあって評価は上げたが、あいつは自信過剰過ぎる面がある。自分の策が失敗するとは考えないだろうし、必ずリーダーを当てに行く。
これをDクラスが知ればリーダーを変える方を選ぶ。どうやってそれを知らせるかが問題になってくるが、案外龍園が自爆しそうだ。様子を見て判断しよう。
一旦整理しよう。
Bクラスはお人好し集団だ。ひよりが何もしなければ龍園の作戦が成功する。リーダー当ても確証がない限りして来ないと考えていい。危険度は一番下だ。
Cクラスはこちらのリーダーを当ててくる可能性がある。そしてこの試験の結果に関わらず+200ポイント相当の恩恵。
Dクラスは自分たちのリーダーを変える可能性が高い。そしてAクラスのリーダーを当てに来るのか否か。俺がいない間に戸塚が余計な事をしてなければいいんだがな。
……やはりCクラスが圧倒的に有利だ。
葛城、こんな負債を作ってくれたんだ。代償は高くつくぞ。
◆◇◆◇◆◇
無人島試験が開始してから2日。
俺たちDクラスはかつてないほどに団結している。クラスの3馬鹿が思いのほか使えるのもあるし、それに女子が呼応し今のところは順調に進んでいる。
普段からそのやる気を出してくれればBクラスのようになれたかもしれないのだが……それはこれからの課題だ。
懸念があるとすれば山内が保護した伊吹だ。
彼女が本当にCクラスを追放されたのであれば構わない。だが須藤に絡んだ件もある。楽観視するべきではない。
それに、鞄の中にカメラを忍ばせていた事は黒に近い。
Cクラスの方針がわかればいいのだが、Cクラスに乗り込むのは時期尚早だ。何か切っ掛けが欲しい。
その時、クラスがにわかにザワついた。
「随分と質素な生活してるんだな。さすが落ちこぼれ集団」
「何だお前ら!」
あれはCクラスの連中か?手の中のスナック菓子はこの試験中には手に入らぬはずだ。まさかと思うが、ポイントを散財しているんじゃないだろうな。
「ストップだよ須藤くん。他クラスに危害を加えたら僕たちがマイナスを受けてしまう」
「クソっ」
「暴力を振るわないだけ文明的になったな。あー殴られるかと思ってドキドキしたー」
「この野郎!」
「須藤くん!」
須藤を煽り冷静さを失わせることも忘れない。Cクラスはある意味で統率が取れているな。クラスが一致団結していないのはAとDだけだがその差は大きい。能力格差もあるだろうがAクラスは流石だな。
「龍園さんからの伝言だ。この試験を存分に楽しみたかったら浜辺に来い。お前らのような不良品にも、夢の時間を与えてやるってさ」
今の発言と奴らの姿から、Cクラスはポイントを使い切っているのは確定した。
あとは龍園とやらの人となりがわかればいい。
ちょうど歓迎されている様だし、堀北を連れて行くか。
「平田、ちょっといいか?」
「どうしたの?」
「俺はCクラスを見てこようと思う。この試験では何の役にも立たない俺が適任だ」
「そんな事はないよ。綾小路くんが居ることで助かってることもあるし。でもそうだな、偵察はお願いしたいけど1人は危険だね」
「堀北と一緒に行ってくる」
「それなら大丈夫だよ。気をつけてね」
許可も取った、後は堀北を説得すれば終わりだ。
「綾小路くん、なぜ私なのかしら」
「Aクラスを目指しているんだろ。ならこの試験に勝つためにそれ相応の行動をしろ」
「命令口調なのが気に食わないけど、私も気になっていたし今回は許してあげるわ」
やはり今の堀北からは普段の力強さが感じない。人道的に考えれば即刻リタイアさせるべきだが、俺には関係ない。最終日までは持ってもらうぞ。
浜辺に来たはいいが、これは想像以上だな。
バーベキューを楽しんでいる者もいれば、海で遊び回っている者もいる。浜辺にはビーチパラソルやら何やらが多く設置してある。
そこかしこで贅を尽くした光景が見られた。
「この人たちは、試験に勝つことを考えていないのかしら?」
「それは違うな、鈴音」
「……気安く下の名前で呼ばないで」
Cクラスの1人に連れられ案内された先には自信に満ちた男がいた。
これがCクラスの王、龍園翔か。
「こんな無能が率いているなんて、Cクラスは随分と苦労しそうね」
「無能はどっちだかわかってるか?鈴音、お前はこの試験を理解していないんだよ」
そう、この試験のテーマは『自由』だ。この男がしている事もその範疇に収まる。
堀北が龍園の意図に気づいていないのは拙いな。本気でAクラスを目指す、即ち天笠を打倒するならばこんな所で躓いている場合じゃない。
「行きましょう綾小路くん」
「ククっ、自分が正しいと思い精々足掻くことだ」
まあ、龍園の性格がわかっただけ良しとする。堀北の矯正は今後の試験で行えばいいな。
道中にずっと感じていた視線は、今回は無視するとしよう。
◆◇◆◇◆◇
「ついてるな」
こっちが何もせずに綾小路が龍園と接触した。これで奴の本性がわかったはずだ。最終日にリーダーを変えることは確定したと見ていい。
残るはBクラスだけだが、正直言うと気にする必要はない。
ひよりには葛城が指揮を執ると伝えているし、今のAクラスが保守的行動と思われれば満点だ。
一応確認しに行くが、俺が居ない間に橋本たちが何かする可能性もある。早めに戻るとしよう。
——試験終了まで4日
葛城くんプロの運び屋説