彼女を作りたい 作:入力速度を考慮して
「金田くん」
試験が始まってから5日が経過しました。私たちBクラスは慎ましいながらも平穏な日々を過ごしています。
リーダーに選ばれた白波さんは、自分を変えるため、クラスの皆のために一生懸命活動してきました。
私が言うことではありませんが、小さな子が健気に頑張ってる姿は微笑ましいですね。
「これは椎名氏」
「お怪我の方は大丈夫ですか?」
「はい、Bクラスの皆さんのおかげです。痛みも腫れも引きました」
「それは良かった」
普段の学校生活と違うのは、1人だけ違うクラスの方がいるくらいでしょうか。
「Cクラスは皆さんリタイアしちゃったみたいですね」
「だから反論したのですが、龍園氏の横暴にも困ったものですよ」
「おや、てっきり数人を残して『リーダー当て』に全力を注いでいるのかな、なんて思っていました」
「まさか!それならば殴られ損ですよ」
「冗談です」
クスリと笑って返しましたが反応はよくありません。
Cクラス在籍の金田くん。クラスを追い出され怪我をしていたのもあって保護しましたが、もう行動するのに支障はきたさないでしょう。
動くなら今日か、明日の未明か。
「そろそろ点呼の時間ですね。またお暇であればお話しましょう」
「その時は是非」
石の上から腰を上げ、お尻をサッと払ってから立ち去った。
先程の会話では不自然に声を張り上げていました、やはりスパイの可能性が高いようです。
私たちBクラスはリーダーを当てることについては考えていません。ですが当てられる可能性があるなら避けるのが当然です。もし何かあれば帆波ちゃんに進言してみましょうか。
そういえば、こんなにも長い間ハルくんと会わなかったのは覚えがありません。記憶を辿ってみましたが、物心ついた時には既に隣を陣取ってました。
神崎くんの話によれば、Aクラスはスポットの入口を封鎖していて中の状態が分からないのだとか。
本も持ち込めませんでしたし、ハルくんとも会話が出来ない。この試験が早く終わることを待ち望んでいます。
◆◇◆◇◆◇
試験6日目、下着泥棒から端を発する騒動の犯人が動いた。
伊吹澪。
団結していたDクラスに不和を持たらし錯乱させた人物。
いつ動くかと考えていれば、堀北からカードを盗み小火騒ぎを起こして逃走した。
本来であればキーカードの写真を撮るだけで良かったのだろうが、それを撮るためのカメラが故障している。偶然だとは思うが山内の功績に感謝だ。おかげでこんなにも分かりやすく行動してくれている。
堀北を追いかけ伊吹との決闘を観察していたが、間もなく決着が着いた。
しかし、弱っているとは言え堀北を撃退する身のこなしには驚いた。恐らく何かしらの格闘技を習っていたのだろう。
暴力の王に仕えるに相応しいな。
その後目印を付けていた木の下からトランスレシーバーを取り出し交信し始めた。誰かと連絡を取っているがどのクラスかは判別つかない。
普通に考えればCクラスだが、残りのクラスのどちらかという線もありえる。
まあ、そんな事考える必要もないな。今からリーダーを他クラスに知られたという事実を覆せばいいのだから。
そのためにまずは堀北をリタイアさせに移動した。
茶柱先生からは胡乱な目線を頂いたが疑わしい事は何も無い。そうやって愛する教え子を疑っていると後で痛い目を見るぞ。
リーダーも更新し後はクラスに戻るだけの段階になって、出会いたくない奴に見つかってしまった。
「天笠……」
「一連の流れは見させてもらった」
よりにもよってAクラスとはな。運が良いのか悪いのか。
俺はAクラスのリーダーを知っている。天笠も俺がリーダーであることを見た。ならばここで相手を倒した方が勝利に近づくな。
こいつには俺の実力が知られているんだ、隠す必要はない。
「待て綾小路、俺には争う気はないぞ」
「俺がそれに従う必要はない」
「いや、そうだけど……」
話が途切れた間を狙い接近する。試しに足払いをかけるが少し下がり避けられた。しかしバランスを失った瞬間を逃さずジャージを掴みにいくが、即座に体制を立て直して逆にこっちの腕を掴まれそうになった為何かされる前に後退した。
堀北兄しかり天笠しかり、どうやらこの学校には荒事に向いている生徒が少なくないらしい。
「よく捌いたな」
「話を聞いてくれ……」
一応友人の顔を立てて話を聞いてやる。頭の中で天笠のボディコントロールの優秀さをチェックするのも忘れない。
「お前はAクラスのリーダーを知っているな?」
「ああ」
「……可能性はあると思って聞いたが、案の定か」
「初日に知る機会があった」
俺の話を聞いて「あー」と声を出している天笠は何か心当たりがありそうだ。
「まあいい。俺たちは互いにリーダーを知っている。ということで取引だ」
「ボーナスポイントを減らされたくないからな、お互いに不干渉でいこう」
「分かってるなら襲って来るなよ……」
それとこれとは話が別だ。大きく勝てる可能性があるならそっちを獲るし、純粋にどこまでやれるか気になったのもある。
「とりあえずそういう事だ。残り少ない時間だがお互い頑張ろう」
「そっちもな」
そう言って天笠は去っていった。何やら疲れてる様子だったがクラスの為に動き回っていたのだろうか。
Aクラスにこれ以上離されたくはないが、逆に天笠が動かなくてはならない事態になっている可能性もある。この試験が終わった後にでも聞いてみるか。
◆◇◆◇◆◇
全クラスがリーダーを変えるならこの時間帯だと判断し、待ち伏せしていた甲斐があった。最悪の事態はこれで回避出来るはずだ。
欲を言えばBクラスも確認したかったが、点呼の時に変えるかもしれない。
惜しいが、橋本に確認したい事もあるんだ。急いで拠点に帰るか。
それにしてもアイツ、普通に襲って来やがった。中学時代に見た格闘技動画がなければどうなってたことやら。
本当はくんふーが足りないなって言ってやりたかったのに、無理じゃん。今度があるか分からないが、もっと体の動かし方を学ぶ必要があるな。
……こんな風に、無理にでも明るくしなければ自分の脳裏に過ぎる結末に押しつぶされそうになる。
Aクラスが拠点としている洞窟に着いた俺は橋本に話しかけた。
どうか違っていてくれ。そんな想いとは裏腹に、本当は理解している冷静な自分もいる。
「橋本、今日は寝ないのか?」
「そーだよ」
「葛城を監視するためだな」
「御明答」
その解答に、全てが詰められていた。
「……龍園にはリーダーを教えたのか?」
「答えなくても分かってるんじゃない?」
そうだ、理解しているさ。だから戸塚をリタイアさせなかった。避けえないのであれば余分なペナルティを受けるべきではないから。
それでもだ。
「今回は天笠が悪い訳じゃないよ。試験の立地も広かったし、それを独りでカバー出来るはずがないんだから」
こうやって自分の愚かさを突きつけられる事は、何よりも耐え難い。
わかっていた。
この試験は初日に全て終わってしまったことを。
その原因が自分にあることも。
全てわかっていた。
葛城ならば失敗しない。変に攻勢に回って空回りするはずがない。
生活における消費を100から150ポイントに収め、スポットのボーナスポイントを堅実に集め、最後にリーダーを変える。
ほら、簡単だ。慎重で防衛面に重きを置く葛城ならばこうするに違いない。
そんな事、口に出さないと分かるはずがない。1人として同じ人間はいないのだから。そんな当たり前が理解出来ていなかった。
時間を惜しんでいたからと言って、たかが1分もかからない作業を省略した結果がこれだ。
ただ、方針を共有するだけで良かったのに。
「それではこれより試験の結果を発表する」
試験終了を受けて浜辺には全クラスが集合していた。
龍園の登場にはDクラスのみが驚いている。Bクラスは想定内だったらしいな。
「最下位はCクラス、0ポイント」
「なにっ!?」
「2位は同率でBクラスとDクラス、175ポイント。1位はAクラス、220ポイント」
その結果に多くの生徒が喜んでいた。
Dクラスは最下位ではなく2位であった事を。
Bクラスは無事に試験を終えられた事を。
Aクラスは1位であった事を。
「当初の計算とは違うが、とりあえずは首位を守れたな」
「……そう、だな」
違う。勝った訳がない。
本当の順位は、Aクラスが最下位なんだよ。
「天笠、坂柳からの伝言だ」
「……橋本」
船に帰る際に橋本が声をかけてきたが、今はあまり喋りたくない。
他人に当たってしまいそうになる。自分の慢心が招いた結果を、拒否したくなる。
「『外にばかり目を向けていた気分はどうですか?』だってさ」
「最悪の気分だよ……本当に」
今までだって負けたことはある。
しかしそれは自分の力を最大限に発揮しての結果だった。だから素直に敗北を受け入れられたし、相手を惜しみなく賞賛した。
反して今回はどうだ。
最善を尽くしたか?否だ。
尽くせる人事はあった。それを端から捨てさっていた。
愚かにもほどがあるのは、果たして誰であったか。
あぁ、自分が嫌いになりそうだ。本当に、嫌になる。
初めての特別試験は、初めて感じる苦味を伴って終了した。
次は坂柳回です