明日ってなんだろう。
必ずくるものではないらしい。
でも大抵はくるのだとか。
何かの次にくるらしい。
でもこないこともあるのだとか。
一つしかないらしい。
でも無限にあるのだとか。
時間を区切った期間の名前らしい。
でも期間の名前は変わるのだとか。
明日ってなんだろう?
玉虫色な明日は玉虫色に綺麗なのかな。
でも明日に貌は、ないのだとか。
明日がくる。
こなくてもいいのに。
目が覚めた。不思議な夢を見ていた気がする。
明日って概念が分からないのだとか。
明日が分からないなら月日のことを教えてやればいいんじゃないかと思ったけど、どうやらそれは知っているらしい。
馬鹿だな。
行ってきます。
いつからか言わなくなっていた。
言う必要がないことに気づいたからだ。
おはようございます。
道行く人に声をかけていた時代。
私は周囲の人によく挨拶する子供だったらしい。
自分のことながら、滑稽極まりない。
どうせ返されないのだろう、よく泣いて困らせていたんじゃないかと問い掛ければ、母は悲しそうな顔をして手に持っていたアルバムをクローゼットに片付けた。
なんで?
さあ?知らない。
ならいいか。
教室に入ると今日もうるさい。
自分の席の近くには人がいないのが不幸中の幸いか。
まあそれも私が言ったから退いただけなんだろうし、私が居ない時はきっと机に座ったりしているのだろう。
無駄に綺麗な机の上には花瓶は置かれていない。
嫌うならもっとちゃんと嫌えばいいのに。
悪口を言うなら教師の目も憚らずに何かすればいいのに。
「あ、おはよう」
いつも通り面倒臭い。
中学校が同じだった…って、だからなに?
私とそんなに仲良くなかったのに話しかけないでよ、うざったいな。
「そっか。ごめんね」
……気持ち悪い。
可哀想な人を見る目が最高にイラつく。
友達を騙る口が最低にムカつく。
「大丈夫か?無理するなよ」
恩着せがましい教師が何ほざいてんの。
信頼してくれ、いじめられたらすぐに言え。
吐き気がするくらいに嫌だ。
全部が欺瞞でできているのに、それを取り繕おうとする性根から気に食わない。
腹立つ。腹立つ。腹立つ。
家に帰る。
玄関周りに人の気配はない。
ほっと息をついて鍵を開けて、部屋へと向かう。
衣装箪笥の上に置いてある数個のトロフィー。
毎朝起きては押し入れの中に隠しているのに、毎日母がそこへと戻す。
壊したい。
壊したいけど、でもそれは取れなかった人への侮辱だ。
今度はもう見つからないように祈りながら教科書の後ろ側に隠した。
勉強はしない。
面倒くさいとか分からないとかじゃなく、やりたくない。
苦じゃないし楽しいけど、絶対にやらない。
携帯からよくわからないゲームを開く。
何が楽しいのかもわからない。
それでも私は続けている。
お金でも注ぎ込めば、そしたら……
日記を開く。
私じゃなくて、あの子の日記。
両親から背負いきれないほどの期待を背負わされて、心を病んでしまった少女。
クラスメイトに執拗にいじめられて、体も心も傷ついてとうとう自分を壊してしまった少女。
かつての友人、それも少し前まで親友と呼んでいた少女に見捨てられた少女。
それでも足掻いて教師に助けを求めて断られ、誰も信じられなくなった少女。
それがあの子の人生だった。
最後には壊した心が汚れ切った記憶を駆除して、仮初の、二つ目の人格としてまた歩むことになった。
それが私。
……思い出も愛着もない母親、クラスメイト、元親友、クズ教師。
私はあとどのくらい生きれるのだろうか。
今度は三人目が現れるのか。
それとも壊れないまま寿命を終えるのか。
勉強を拒否するのが母への反抗なのか。
クラスの態度を改めさせたマスコミは耳聡い。
すぐに広まるだろう。
何も解決しないだろうけど。
あの子は、明日が分からないらしい。
日記を読み返せば、答えを見つけたという記述がなかったから、最後まで分からなかったのだろう。
あの子と同じで、私も明日がわからない。
明日なんて区切りは実際には存在しないし、便宜上の名前だって…なんで、どうして明日なんて名前をつけてしまったのか。
明くる日、なんて……どうして。
次なんてなくていい。
次なんてこなくていい。
次なんて、ただ辛いだけだよ。
明日になっても、きっと何も変わらないよ。
明日なんて、わからないよ。